魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第二十五話

 七月末日。

 私は、屋上の給水タンクの日陰に腰掛け、ぼうっと空を眺めていた。

「あー……本日も、晴天なりー……終業式、いまだ終わらずー……」

 ふわぁ……と、大きな欠伸が出た。

 

 そう。今日は、一学期の終業式だった。

 だった、というのは、私は絶賛サボタージュ中だからだ。ロクに換気もされていない体育館で、無駄に長い校長の話を聞いていられるほど、私は気が長くない。

 

 屋上の鍵は、ちょこっと魔法を応用した念動力でシリンダーを回転させて開けた。

 しっかりと施錠もしたから、バレる心配は殆ど無い。

「あーあ……」

 やはり、レイジングハートがいないと寂しい。

 ……修理、いつ終わるのかなぁ。

 

 少し顔を出して覗くと、体育館の渡り廊下から、ぞろぞろと生徒たちが溢れ出てきていた。

 ようやく終わったらしい。さーて、教室に戻るか。

 

 

 

「……高町さん」「はい」

 教卓まで歩き、じっとりと恨みがましい目つきで私を見る富山先生から、成績表を受けとった。

 

「なーのはっ。成績どーだった?」

 望が、ひらひらと成績表を片手にやってきた。

「望は?」

「あー……算数と理科が2で、3が殆ど。4は家庭科だけで、5は無し」

 良いのか悪いのか、分かりづらい成績だった。

 さて、私はどうかなーっと。

「あ、オール2だ」

 なんだか、ちょっと得した気分。

「へぇ、オール2かー……って、ええええぇっ!?」

 望が素っ頓狂な奇声を発した。

「な……何、いきなり?」

 びっくりしたなぁ、もう。

「オール2って……え、うっそ、マジで!?」

「うん。ほら」

 机の上に置いた成績表を、二人で覗き込む。

「うわ……マジだ! マジでオール2だ!」

 学科の点数面はAなのに、意欲・関心・態度がF……まぁ、こんなものか。

「……な、なぁ」

 あ、葉山君だ。

「あん? 何よ健太」

 ぎろっ……と、葉山君を思いっきり邪魔物扱いする望。

「その……よかったら、夏休みの宿題、一緒にやらねー?」

「え?」

 夏休みの宿題?

「……そんなのあったっけ?」

 正直、覚えてない。

「なのは……あんたねぇ」

 呆れた視線を向けられた。

 貰ったプリントを確認すると、休み中の課題一覧が記載されていた。

「ちゃんとやってきてくださいね!」

 檀上の先生が、主に私にむけて言った。

「提出率が悪いと、私が長谷川先生に怒られます!だからお願い!ちゃんとやってきて!」

「ははは……さっちゃん先生、相変わらずだよね」

「そうだね……」

「まぁ、心配はしてないけど。なのはなら半日あれば終わっちゃうでしょ?」

「多分ね」

 読書感想文なら空で書けるし、他も同じく。

「そ、そうか……」

 葉山君は少ししょんぼりして、席に戻った。

 ちょっと、悪かったかな?

 望に目で尋ねると、気楽な笑いが返ってきた。

「いーのいーの。ったくあのアホ、性懲りも無く……」

 

 

「はぁ……」

「ハヤマ、どんまい!」「よくやった!」「俺達に希望が無いってことが、よく分かった!」「ナイス人柱!」「ナイス玉砕!」

「う、うっせーよ!? ほっとけ!」

 それを友達らしき男子たちが、口々に慰める。

 

――キーンコーンカーンコーン……

 

 お、時間だ。

「はい、それじゃあ皆さん。有意義な夏休みを過ごしてくださいね。解散!」

 

 さよーならー!

 

 大合唱が、響き渡った。

「なのは、このあと暇?」

 ……うーん。暇と言えば暇なんだけど。

 明日、フェイトについて、リンディさんの上官に会う以外、何も予定が無いし。

「うん、付き合うよ」

「やった! 実は、前から気になってたお店があったんだ」

「へぇ……」

「前に行ったら閉まってて、店の前に置いてあった割引チケット貰ったんだよ」

 ぴらっ、と、鞄からそのチラシ兼チケットを取り出した。

 

「この、翠屋って店!」

 

 …………………………マジかよ。

 

 

「いらっしゃいま……せ……?」

 眼鏡に三つ編みの店員……姉さんが、私たちを出迎えた。

「ま、窓際の御席へ、ドウゾ……?」

 なかなか混乱しているらしく、接客がぎこちない。

 でも、私も、あまり人のことを言えたほどでもない。

「ドウモ……」

 一昔前のロボットのように、ガチガチの動作で席に移動する。

「わー……やっぱり、雰囲気がいい店だね」

 隣で呑気にはしゃぐ望が少し憎らしい。

 

 ……久しぶりに来たな、この店も。

 記憶の彼方に消えかけた風景だけど、どこか懐かしい。

 

 姉さんが厨房に引っ込み、わたわたと身振り手振りで何かを伝えていた。

「ご注文は?」

 数分後、オーダーを取りに来たのは兄さんだった。

 さすがに、姉さんよりは落ち着いている。

「……ミックスサンドと、デザートにシフォンケーキを」

「かしこまりました」

 一礼し、去っていく。

 肉親に恭しい態度を見せられ、照れ臭いやら、恥ずかしいやら……とにかく、調子が狂う。

 

「ごゆっくりどうぞ」

 サンドイッチは、すぐに出てきた。

「ね、ね!今の店員さん、かっこよくない!?」

「ど」こが? 

あ、あっぶな……思いっきり言うところだった。

……世間一般の評価というのは、あまり当てにならないものだ。

「はぁ……健太も、せめてあれの半分、いや、三分の一でも落ち着きがあればなぁ……」

 サンドイッチをつまみながら、望がぼやく。

「でもさ……落ち着きのある葉山君なんて、葉山君じゃないよ」

 彼はもっと……こう、アホじゃないと。

「あはははは……言えてるかも!」

 爆笑する。

 

「お待たせしました」

 と、話をしているところに、デザートのシフォンケーキが来た。

「あ、ども……ゴフッ!」

 びっくりして、噎せてしまった。

「ちょ、大丈夫!?」

「ゲフッ……な、何で……!?」

 テーブルの脇に立っていたのは、ウエイトレスではなく、パティシエが着ていそうな服を着た(事実パティシエが着ている)店員……というか。

 

 母さんだった。

 

「……え? ……え!?」

 望が、私と、母さんの顔を見比べる。

 あまり自覚は無いけど、私達って似てるらしいから。

 ……はぁ、もう。

「母さん、何してるの……」

「あら、せっかく娘が友達を連れて来たのよ。挨拶くらい、いいじゃない……ねぇ?」

 母さんが望と目を合わせた。

「は、初めまして。なのはの友達で、八代望って言います」

「初めまして。高町桃子です。なのはと仲良くしてあげてね」

「あ……ハイ!」

「この子、目つきと態度と言葉遣いと人付き合いは悪いけど、根は優しい子だから……」

「はい、それは知ってるから大丈夫です!」

「私達のせいなんだけど、人付き合いが苦手で、なかなか友達も出来ないみたいで……」

 

「もう!いいから仕事に戻ってよ!」

 恥ずかしいなぁ、もう!

「はぁい。それじゃあ、楽しんでいってね」

 そう言って、厨房に戻った。

「ったく、もう……!」

 ケーキを一口、大きめに切り分けて口に運ぶ。

 兄さんと姉さんは、明らかに父さんに似ている。

 さっきの二人との血縁に気付かれなかったのも、そういうことだろう。

「やっぱり、美人な人だったねー。さすが、なのはのお母さんだ」

 ……え?

 

「『さすが』って、何が?」

 

「え……? だから、なのははお母さん似だから、可愛いんだね……って」

 変なこと言うなぁ、望は。

「何で、母さんが美人だと、私が可愛いことになるの?」

 可愛いっていうのは、フェイトとか、望の方がしっくり来ると思うんだけど。

「……………………、、」

 がしっ……と、両肩を掴まれる。

「……?」

「嫌味かコラー!!」

 がっくんがっくんと、前後に揺さぶられた。

「あああああ……?」

 店内にいた他の客の目が、一斉に集まる。

「あんたが可愛く無いなら、私はブスか!? 見るに堪えない醜女かー!?」

「あうあうあう……」

 何で怒ってるのか、よく分からない……

 

「はぁはぁはぁ……」

 バイトの店員に注意される頃には、望はすっかりバテていた。

 追加注文したアイスティーを飲み、一息ついた望は、今度は言い聞かせるように話し出した。

 

「少しは、自信持ちなさいよ。謙虚と、卑屈は違うんだからね」

 

「……」

 自信……か。

「…………考えとく」

 多分、無理だけど。

 

 店を出た所のすぐ近くに、大型の貨物車が路上駐車していた。

 ……秀人さんも、お仕事してるのかな。

「なのは、どーしたの? 置いて行っちゃうぞ」

「うん、」

 

――ミチッ……

 

 ……今の音、何?。

 きょろきょろと辺りを見渡すが、発生源は分からない。

 気のせいならいいんだけど……何だろう。

 

――プチプチッ……!

 

 やっぱり、気のせいじゃない!

 

――バツンッッ!!

 

 次の瞬間、私の目に飛び込んできたのは……

「、の」

 貨物車の荷紐が中途から千切れ、

 

――ガランガランガランッ!!!

 

 全周が一抱えはありそうな鉄骨が、望に雪崩れ落ちようとしている光景だった。

 

 

「……のぞみぃッッ!!!」

 

 

 刹那の……そして、極限の集中。

 それは、一つの感覚を励起させる。

 フェイトとの戦闘で、何度も感じたソレ。

 ……辺り一帯が、モノクロ写真のように色彩を失うのと同時。

 

 

――時間が、凍結する。

 

 

 身体をすくませた望。

 呆気に取られる通行人。

 その全てが、止まって見える。

 

――……。

 

 テラス席から、兄さんが飛び出して来る。

 、まずい……徐々に、時間が動き出しつつある。

 集中が途切れたのでは無く単純に……身体が、耐久の限界を迎え始めている。

「――あ、!」

 あと、少し……!

「……アあああああッ!!」

 届けええぇぇぇぇッ!

 

 

――――ガシャアアァァァンッ……!

 

 

 なりふり構わずに、望に飛びついて……地面に転がった。

「ぜー……ぜー……!」

 望は……!?

「……あれ?」

 きょとん……と、私の腕の中にいた。

「よかった、望……!」

 ぎゅうっと、望を抱きしめる。

「なのは、頭、、!?」「え?」

 どろっ……と、汗とは違う、錆臭く、生温い何かが、額を伝い、視界を朱く染め……

「あ……」

 

 ブツンッ……と、意識が強制シャットダウンされた。

 

 

 警察が通報を受けて駆け付け、事後処理にあたっている。

 桃子達は営業時間を切り上げ、なのはが担ぎ込まれた病院に急行していた。

「……なのは」

 望は、辛そうに俯いている。

 事実、辛いに違いない。

「……大丈夫よ、望ちゃん」

 その肩を抱く桃子は、気丈に振る舞っていた。

 転がる時に額を割ったものの、傷跡は残らないそうだ。

 意識を失ったのも、単にショックによるもの、と診断された。

 

 …………いの一番に駆け付けた秀人ら……特にフェイトは、それを聞いた瞬間に、崩れ落ちた。

 護衛とは言え、フェイトは保護を受ける少女に過ぎない。

 今日、なのはと共にいなかったのも、明日の下準備のためであった。

 それでも泣いて、泣き疲れて、ソファで眠ってしまった。

 

 恭也と美由希は、心配する傍ら、なのはが見せた現象について、話し合っていた。

「……美由希、見たか」

「うん。さっきのって……」

 二人は、畏怖を込めて、その名を口にした。

 

――神速。

 

 と。

 美由希はおろか、恭也ですら、使いこなすことが難しいそれを、なのはが使った。

 わずか9歳の、女の子が。

 しかも、肉体が限界を迎えただけで、『神速』が破綻したわけでは、無かったのだ。

 練度で言えば、恭也をも凌ぎ、全盛期の父親にも匹敵するだろう。

「……『あれ』を、使えるかもしれないな」

 恭也と美由希は、そのまま黙り込んだ。

 

「……秀人は?」

 

 ユーノの一声に、全員がハッとする。

 

 いない。

 

 つい先程までそこにいた秀人が、忽然と姿を消していた。

 

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