魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第二十七話

 しぃん……と、沈黙する室内。

 カタギリ達は、理解を越えた状況に、ただ立ち尽くすだけだった。

「……何者だ、テメェ」

 取り巻き兼ボディガードの男達が、拳銃を秀人に向ける。

「脅しじゃねぇ。分かる……ぅごッ!?」

 

――ゴゴンッ!

 

「……」

 正に、問答無用。頭蓋骨が陥没寸前にまで衝撃を受け、意識を失う。

「……」

 向けられるのは、圧倒的な……暴力的な、敵意。

 

「うおぉ!」

 

――殺られる。

 

 本能的に察した男達は、躊躇い無く発砲した。

 

――パンパンパンッ!

 

 乾いた銃声が響く。

 それが、ワンサイドゲーム開始の、ゴングだった。

 

――チュインッ!!

 

 着弾地点に、既に秀人はいなかった。

 

――ドボォッ!

 

 ソバットを叩き込まれ、内臓に損傷を受け、

 

――ガンッ!

 

 脳天に肘打ちを喰らい昏倒する。

「うおおぉっ!」

 

――ヒュンッ!

 

 大振りのナイフが、秀人の皮膚を僅かに削ぎ落とす。

「ははははは……最近、俺達のシマを荒らしてるヤツがいるって話、ありゃお前だったのか!」

「……?」

 内心、首を傾げる秀人だったが……どうでもいい話だった。

「おらあああぁっ!」

 真っ直ぐに突き出されるナイフ。

 

――ベキンッ!!

 

 秀人の右フックが、ナイフ諸とも、顔面にめり込んだ。

「……」

 ひとまず、この部屋にいたゴロツキはいなくなったが……肝心のカタギリは、階段から一目散に逃げ去ってしまっていた。

 この辺の危険察知能力は、さすがドブネズミといったところだろうか。

「……3階か」

 が、秀人がそれを見逃す筈が無かった。

 追跡魔法を辿り、現在地を割り出す。

 どうやら、地下の駐車場を目指しているらしい。

 階段から下りる事も考えたが、ぞろぞろと気配が増えてきた。相手にはならないだろうが、足止めをくらってしまう。

「なら……」

 

――キュイイィ……!

 

 拳に魔力を集中させる。秀人の十八番、インパクト。それを……

 

「ブチ……抜けろッ!」

 

 床に目掛けて、振り下ろした!

 

――ゴバァンッ!!

 

 ビルが激震し、天井が崩落する。

「うわああああぁっ!?」

「な、なんだああぁ!?」

 ガラガラと降り注ぐ瓦礫が、敵を混乱に陥れ、戦意を奪う。

 一つ下のフロアに降り立つや否や、既にチャージ済みの左拳のインパクトを……再び床に、叩き付けた。

「もう一丁……うぉらああぁぁぁっ!!」

 

――バゴンッ!!

 

 二撃。

 

――バゴォンッ!!

 

 三撃。

 

――バゴオオォンッ!!

 

 まさに、災厄だった。

 ビルが、見る見る内にがらんどうの煙突へと代わっていく。

 

――バゴォンッ!

 

 そして、最後の床を突破した。

 今まさに発車しようとしていた下品なベンツの前に、秀人が降り立つ。

 

――ギュギギギギッ!

 

 恐慌に駆られたカタギリがアクセルをベタ踏みし、後輪をスピンさせながら急発進する。

「……」

 ひょいっ、と避け……すれ違い様に、バンパーを鷲掴みにした。持ち前の怪力でリアを持ち上げられ、後輪が空しく空回りをする。

 運転席のカタギリは、数刻前の余裕などとうに無くし、血走った目で、アクセルを踏み続けていた。

「……ふん」

 ゴロンッ! と、ベンツを上下にひっくり返す。

「ヒィ……ヒイィ……!」

 

 ずりずりと、高級スーツを土だらけにして、カタギリがベンツから這い出してきた。

 

――ズシンッ!!

 

「ヒッ……!」

 その目の前に、秀人が立ち塞がった。

 恐る恐る顔を上げ……初めて、秀人の顔を見た。まだ、あどけなさを残すほどの、年若い少年。それを、カタギリは好機と見たのか……

「な、なぁ……? 条件は、何だよ?」

 懐柔に、掛かった。

「か、金か? 金なら、すぐに用意して……」

 

――ザッ。

 

一歩、前へ。

「何だったら、オヤジに口利きして、組に取り立ててやっても……!」

 

――ザッ。

 

 懐柔を歯牙にも掛けず、カタギリへの間合いを詰めていく。

「い、依頼主の倍……いや、三倍の報酬も出すから! た、頼む……!」

 

――ザッ。

 

「あ、あ……」

 ここに来て、カタギリはようやく悟った。

「……」

 

……振り上げられる、右拳。

 

――この男の目的は、金や依頼では無く……

 

……拳が、空色の光を纏う。

 

「いや、だ……! 何でもする! 何でもくれてやるから! た、たすけて……!」

……懇願は、かけらも聞き入れられず。

 

「ならば死ね」

 

――最初から、自分の命が狙いだった。

 

……断頭台のような拳が、振り下ろされた。

「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 断末魔の絶叫を上げ、カタギリは、失禁しながら意識を失った。

 

――バゴンッ!

 

 それは、カタギリの頭蓋が砕かれた音……ではなく。

 頭の数センチ横の床に、秀人の拳がめり込んだ音だった。

「……お前の命なんて、背負う価値も無い」

 そうして、踵を返した秀人の目の前に、

「……クロノ」

 法衣型バリアジャケットに身を固めた、『執務官』が立っていた。

 が、秀人にそれ程、驚いた様子は無い。

「時空管理局嘱託魔導師・吾妻秀人。民間人への、魔法を用いた暴行。建造物の破壊。守秘義務違犯の現行犯で……」

 

――ガキンッ。

 

 無骨な手枷が、秀人に嵌められる。

 

「君を、逮捕する」

 

「……了解。クロノ執務官」

 秀人は、特に抵抗せず、それを受け入れた。

 

 

 

「……さて、」

 アースラ、艦長室。

 そこに、秀人は手枷を嵌めたまま立っていた。

 目の前にいるリンディとクロノは、厳しい表情だ。

「吾妻秀人。自分が行った行動について、釈明はありますか?」

「無いです」

 即答だった。

「……」

 言いたいことは言い終わった、と言わんばかりに、無言になる。

「……」

「……」

「……」

「……処罰は、追って通達します。

それまで、営倉入りを命じます」

「はい」

 呼び出された武装隊に両脇を固められ、秀人は退室していった。

 

「あああぁ、もう……!」

 机に突っ伏し、リンディが頭を抱える。

「……何で、こんな時に限って……!」

 今、管理局は闇の書事件を追っている。

 その重要な手がかりに、『犯罪組織の集団失踪』

 ……闇の書の主である、八神はやてによる『練習』である。

 故に今回の出来事は、下手をしたら秀人の立場を危ういものにしてしまう危険があった。

 ただでさえ、秀人を自身の陣営に引き込みたい輩が増えてきているのだ。

 

「被害者にもあまり同情は出来ないけど……はああぁ……」

 被害者……つまり、カタギリ達が、なのはに怪我を負わせた元凶だということは調査済みだ。

「……気持ちは、分かります」

 クロノにしては、随分と物分かりのいい台詞をはく。

「でも、なのはさん達に、なんて説明すればいいのかしら」

「……有りのまま、伝えるしか無いでしょうね」

 

 リンディは、しばし黙考し……

「明日は、秀人君にも同席してもらいましょう」

 明日フェイトは、リンディの上司二人と、軽い面接を行う。

 一人は、秀人と同じく、地球出身の、とても穏やかな紳士だが……

 もう一人は、陸士から少将にまで上り詰めた、生粋の叩き上げ。

「彼は一度、ビシッと怒られる必要があるわね」

 必ずや、秀人に良い影響があるはずだと、リンディは信じた。

「少将、『あの話』にはかなり怒ってるみたいだし」

 管理局において、秀人・なのは・ユーノの三人は、かなり話題になる人物である。

 二十にも満たない若輩ながら、各能力(秀人の格闘・なのはの砲撃・ユーノの結界)はAAA以上と、目を見張るものがある。

 

 初の魔法戦闘で、暴走したロストロギアを鎮圧した。

 

 模擬戦ではあるが、執務官を撃破した。

 

 砲撃魔法で強装結界が壊れた。

 

 武装隊二十人掛かりで維持する強装結界を、一人で、かつ長時間維持し続けた。

 

 次元震を押さえ込んだ。

 

 最近、無限書庫を開拓し始めた。

 

……これだけなら、まぁわかる。が、問題はその先だった。

 

 独断先行は当たり前。

 

 武装隊を舎弟にした。

 

 執務官にタメ口を利いて許されている。

 

 最凶のマッドサイエンティストと大魔導師に、愛機を製造させている。

 

 施設内をバイクで爆走。 闇の書の主をタイマンで退けた。

 

 ……等など。嘘のようですべて真実なのだが。

 この噂を聞いた新兵の間に、『実力さえあれば、好き勝手が許される』という風潮が生まれてしまっていた。元凶と言うには、いささか理不尽だが。

「では、高町なのは含め、説明は私が」

「頼んだわ、クロノ執務官」

 

 

 なのは達の元に向かうクロノ。その足取りは、当然のように重い。

 医院の受付へ名を告げ、病室へ向かった。

「失礼する」

 病室の中には、見知った面々がいた。

「あ……クロノ」

 なのはは目を覚まし、身体を起こしていた。

 気まずそうに、見舞いの者達に囲まれている。

 その額には、痛々しくガーゼが当てられ、包帯が巻かれていた。

「傷の具合はどうだ?」

「もう……みんなそればっか。かすり傷だってば」

 いくら朴念仁のクロノとはいえ……女の顔に傷が付くということの意味が分からない程、愚かではない。

「秀人のこと、なんだが……」

 そこへ追い撃ちをかけたい訳では無かったが、説明を始めた。

 

 

「…………ふぅ」

 一通りの話を聞き終えたなのはが、ベッドに倒れ込んだ。

「ヤクザを襲撃って…………はぁ、もう……」

 怒る気も失せた様子だ。

「秀人がやらなかったら、俺がやっていたがな」

 恭也が、しれっと言った。

「秀人さん、どうなっちゃうの?」

「今、艦長が手を尽くしているが……減刑するので手一杯だろうな」

「そんな……」

 辛そうな表情をするなのは。ポーカーフェイスを維持しつつも、内心ではクロノも辛かった。

「週に……いや、日に一度は、必ず面会できるように取り計らう。

だから、その、なんだ……」

 もごもごと口ごもり、ようやく口にできたのは、ありきたりな一言だった。

 

「元気を出せ」

 

「……」

「……」

 クロノ・ハラオウンという人物を良く知るなのはとユーノは、ぽかん、とした様子でそれを聞いていた。

「……何だ。僕が励ましの言葉を掛けるのが、そんなに意外か」

 不本意そうにそう聞く。

「うん」

「すっごく、意外」

「……まぁ、それはそれとして」

 流した。

「フェイト」

「え、ボク?」

「明日の面接だが、秀人も参加することになった。そのつもりで」

「フェイトッ!」

 がしっ、と、異様な素早さでフェイトを捕獲。

「うわ! な、何……もがもが!?」

 シーツを被り、周囲をシャットダウン。

(フェイト! 明日、秀人さんの様子をちゃんと見てきて!)

(い、いいけど……)

 ずいっと目の前に迫るなのはに、フェイトは赤面する。

(それと、伝言!『本当にかすり傷だから、心配しないで。あまり無茶ばかりすると、今度は私が怒るから覚悟しておいて』……いい!?)

(な、ながいよ~!?)

(覚えて! 今!)

(うえぇん!)

 

「……何してんのよ、二人して」

 もこもこと動くシーツに、望が呆れた声を出す。

 

 そして、どたばたと足音が近付いてきて……

「なのは!」

「なのはちゃん!」

「高町!」

 アリサ、すずか、健太の三人が、押しかけ……

 

「静かにしなさい!」

 

 看護婦に怒られ、解散の流れとなった。

 

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