魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第三十話

 秀人が異世界に放り出されて、数秒後。

 

「うおおおぉ!?」

 

 秀人は、落下していた。

 着地地点は、遥か下方。

 雲が掴める程の高空に、投げ出されてしまったらしい。

『秀人か?』

 と、あわてふためく秀人とは対照的に、マリーはいつもの調子だ。

「マリーか!

おい、どーなってんだコレ!? 座標指定やったのはドコのどいつだ!?

」

 矢継ぎ早に質問する秀人。

 

『……今、こっちでも大騒ぎだ。お前の反応が、ロストしている』

 

「…………」

 その一言で、沈黙する。

「……これも、訓練のうちか?」

『いや……直前に、ハッキングを受けている形跡がある。これに乗じて……な……、た……』

 この通信すら、ジャミングされているらしい。

「おい!?」

『……』

 ぷつん、と、とうとう完全に通信は途切れた。

 ……なんとも、不吉である。

「どこのどいつだ畜生!!…………、って、やべぇ!!」

 気付けば、大地が近付いてきていた。

「くそっ……このッ!どーなってやがる!」

 ……どういうわけか、この世界では魔力が練りにくい。

 飛行魔法は、どう考えても間に合わない!

「こうなったら……!」

 魔力を魔法陣ではなく……直接、体内を循環させる。

 地面まで、あと50メートル、40メートル、30、20……!

 

「うおりゃああああああああああぁぁ!!」

 

 炸裂効果だけを強化した、ブレイズキャノンを発射。

 それは、威力が減衰する前に、地面にぶつかり……

 

――ゴバアアァッッッ……、!!

 

 爆風を、撒き散らした。

「ぐぇフッ……!」

 急降下から、突然真下から爆風に跳ね上げられ、そのGに呻く。

 だが、おかげで何とか、地面に激突することだけは避けられた。

 残り10メートルは、自由落下で降り立った。

 

――ドシャッ!!

 

「くうぅ……! いってえぇぇ……!」

 

 足の痺れが治まり、周囲を見渡す。

「……マジで異世界だな」

 空には、月のような衛星が二つ、並んでいた。

「どーすんだ、俺……」

 

 想定されていた世界では無い以上、発見されるまで、どれだけかかるやらわからない。

 その間に、闇の書の主が活動を再開すれば……

「……はぁ。考えててもしゃーないか」

 秀人は、とりあえず歩き回ってみることにした。

 

 気温は20度前後で、湿度もそれほど高くない。

 針葉樹の森林と、乾いた地面。

 先も感じた通り、魔力が結合しにくい点を除けば、快適な気候だ。

「……」

 がさり……と、森林の葉が、不自然に揺れた。

 足を止める。

 

――ザザザザザザッ……!

 

「……いきなりか」

 そして……

『ホキャアアアアァ!』

 猿のような、体長2メートル程の獣が、飛び出してきた!

「ッしゃあ!!」

 

――ドボォッ!

 

 狙い定めたような中段蹴りが、猿の鳩尾に減り込んだ。

『ゲッ……!』

 白目を剥いて昏倒する猿。

 だが、秀人は退却を始めていた。

『『『『『『『『『『キャアアアアアアアアァァァァァァ!』』』』』』』』』』

「うおおぉ! 冗談じゃねえぇぇぇ!!」

 猿は、集団で迫り来るのだから!

 

 走り、跳び……小規模にインパクトを発動し、

追い付く個体には拳をくれてやり、ひたすら走りつづける。

 そして……

「って、崖!?」

 道が、途切れた。

『フシュルルル……!』

 血気盛った猿達は、円陣を組んで秀人の退路を絶つ。

「面倒だけど」

 一体ずつ、無力化していくか……と、思ったその時。

 

――ダッ!

 

 猿達が、いきなり森に走り込んで行った。

「……!」

 そして、上空から近付いて来る、段違いの殺意!

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

 全長50メートルを優に越える、有翼の爬虫類……ドラゴンが、迫ってきていた。

「いきなり突飛すぎんだろおぉ!!!」

『ゴハアアアアァッ……!!』

――ゴオオォォッ!

 

 吐き出される、火炎のブレス。

「あっちいいぃぃぃ!! ……って、うわああああ~……!?」

 それに煽られ……秀人は、崖から足を踏み外した。

 

――ドボオォォン!!

 

「……ぶあぁっ!」

 崖下の川の中から、秀人が顔を出す。

「あー、川で助かった……」

『キシャアアアァッ!!』

「助かってねええぇ!?」

 

――ドゴォン!!

 

 水面から襲い掛かってきた、魚とも蛇とも判別し難い生物に、バレットをぶつけ……

『ブオオオォ!』

「そりゃああぁ!!」

 陸に上がった所を待ち構えていた猪を、川に蹴り落とし……

 

『ギキャアアアァ!!』

「また出たああああぁ!」

 ドラゴンの火炎から身をかわし……

 

「はひー……」

 ほうほうの体で、巨木の根本に開いた穴に身を隠す。

「ぜー……ぜー……! ったく、グルメ界かここは! 暴走体並みの獣が、ゴロゴロしてやがる……!」

 

「……ん?」

 と、奇妙……というか、場違いな物を見つけた。

 草の繊維を寄り合わせた紐に、竹のような板が、いくつも繋がれている。

 明らかに、人工物だ。

 しかも、そんなに古くないどころか、まだ繊維が緑がかっている。

「俺の他に、誰かいるのか……?」

 秀人は、何の気無しに、それに手を触れ……

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「ゆ……行方不明!?」

「ぶフォッ!!」

「ぎゃー!」

 ……上から、なのは、フェイト、ヴィータである。

 なのはがクロノと通信中にいきなり立ち上がり、肘がフェイトの湯呑みをカチ上げ気管に麦茶をダイレクトでぶち込み、噎せた拍子に吹き出された麦茶がヴィータの顔を直撃した。

「テメェ喧嘩売ってんのか!」

「げふっげふっ……し、仕方ないだろー!?」

「クロノ! 説明……いや、今すぐウチに来て説明しなさい!」

「だいたいお前は、考え無しに行動し過ぎなんだよ!動く前に周囲を確認しろ!」

「ヴィータの動きがトロいんだよ、この鈍重騎士!」

「ど、どん……!? ……よーし、ちょっと表出ろコラ。速さだけが取り柄の羽虫に、思い知らせてやらぁ!」

「羽虫だとぅ!?」

「あぁ、もう……!」

 

 じゃきっ……と、なのはの手が、腰に穿かれた回天・桜花に伸びる。

 そして……

「二人とも、うるさいっ!」

 

――ゴ、ゴンッ!

 

「ぎゃあッ!!」

「ぎゃふッ!!」

 二人の脳天目掛け、鞘打ちの二連撃が決まった。

 

「大事な話してるんだから、喧嘩はあとにしなさい!」

 

「「はい……」」

 最近……あの二刀を手にして以来、折檻がますます過激になってきた。

 何と言うか……

「えぇと……オニに、」

 フェイトは、クロノから(嫌々)教わった、地球の諺を思い出す。

 

「……かなぶん?」

 

 惜しい。

「金棒だろ」

「そう、それ!」

 あっはっは……と笑う二人の背後に、まさしく鬼の気配。

 

「だれが……鬼ですって?」

 

「あ、あはははは……?」

 愛想笑いでごまかす。

「ヴィータ、外でくんれんしよーぜ!」

「お……おう。行くか!」

 ざざざざっ!と、左右になのはを撹乱し……

 

「「行ってきまーす!」」

 玄関から、走り出して行った。

「もう……夕ごはんまでには帰るんだよー!」

 少しは、落ち着いたらしい。

「で……どういうこと?」

「……あぁ、今説明する」

 返事は、玄関の向こうからだった。

 

――――

 

 ちゃぶ台を挟んで、クロノと対話する。

「じゃあ、丸っきり想定外の場所に、飛ばされちゃったってこと?」

「……あぁ。だが、直前まで、マリーと通信が通じていた。

少なくとも、人間が生存できる環境では、あるみたいだ」

「……」

「本当に、済まない……」

 ちゃぶ台に額を擦りつけるほど、頭を下げる。

「いいよ、許す」

 が、なのははあっさりした様子だ。

「別に、クロノの責任ってわけじゃないし。それに、ね……」

 コンコン、と、二刀の鞘をノックする。

「……ちょっと、やらなくちゃいけないことも、あるし」

 

 訓練の際、秀人は必ず寸止めにして、怪我が無いように心掛けていた。

 だが今回は、今までと違い、身体を鍛える訓練。しかも、指導するのは恭也。

 当然、怪我もするだろう。

「今なら、あんまり心配かけないで済むから」

 そうか……と呟く。

「既に、捜索隊を出している。見つかり次第、こっちに送り返すから……」

「うん、よろしく」

 そして、席を立つクロノだったが……

「あ、そうだ。夕飯、食べていきなよ」

 なのはに、そう呼び止められた。

「……なに?」

「秀人さん、いきなり行っちゃったでしょ?

 だから、材料が余って困ってるんだ」

 賞味期限が~、と、やたら所帯じみた事を言われ……

「分かった。相伴に預かろう」

 

『あー……ユーノくん、アルフ?』

 早速、念話を繋ぐ。

 数秒後……

『……なのは、かい?』

 一気に五十も老けたような声が、帰ってきた。

『……だいじょぶ?なんか、死にそうだよ』

『無限書庫って……数秒毎にデータベースが更新されるから、マジ無限……闇の書関連の資料、集めるだけで、二日過ぎちゃったよ……ははは』

 ちゃんとした検索システム構築しなきゃ……と言う。

『そんなに根詰めても、効率上がらないよ? 一旦、アルフ連れて帰ってきなよ』

 ところで、アルフの反応が全く無いのだが……

『アルフなら、さっき『落ちた』。しばらく起きないかも……あ……

また、更新された……探さなきゃ、捜さなきゃ……』

 亡霊のように繰り返すユーノに、なのはが焦る。

 

『帰ってきなさい!今すぐ!』

 

かくして……秀人の替わりにクロノが入るという、いつもと違う変則メンバーでの夕食となった。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

――カランカランカラン!!

 

「うおっ!?」

 秀人が触れた途端、絵馬モドキがけたたましい音を鳴らした。

 

 そして……明らかに秀人を標的にしているであろう殺意の塊が、減速することなく迫ってきている。

「……上等!」

 流石に、腹も据わった。

 拳を撃ち合わせ、ファイティングポーズを取る。

 そして……

 

「夕食ゲットォ、お、おぉぉ……?」

 

「うおりゃああぁ……あ、、?あ……?」

 

 

 ぱちくりと目を見開く二人。

 

 襲撃者は見るからに幼い少女である。

 セミロング……というか、切らなかったから伸びた、という風情の不精な髪型。

 整ってはいるものの、全体に纏う退廃的な空気が、全てを台なしにしている。

 何より、手にした片刃の剣。

 ぽたぽたと、真新しい血を滴らせ……

(……うわぁ)

 ドン引きだった。

 

 何故、こんな場所に子供が……と訝しむ秀人。

 それと同じく、襲撃者……

 

 八神はやてもまた、戸惑っていた。

 何故?

(どうしてここに、こいつがいる……!?)

 

「なぁ、君……」

 口を開く秀人。

 はやては、剣を握る手に力を込め……

 

――ズズゥン……!!

 

 巨木が、めきめきと倒れた。

「くそっ、見つかったか!」

 はやてが、この世界での最終標的に設定している、大火竜。

 そいつが、はやての根城であるこの場所を、秀人を足跡に突き止めてしまったらしい。

「くそったれが!」

 秀人を放置し、一目散に逃げ去っていく。

 とりあえず、あの大火竜の狙いは秀人だ。

 余裕で逃げられる。そのはずだったが……

 

「おい、ちょっと待て!聞きたいことがいくつもある!」

 

 驚くほどの健脚で、はやてに追いついてきた。

「おいコラ……!」

 

『グルルルル……!』

 

 果たして、危惧の通り。

 大火竜は、はやてもついでに捕捉した。

「なについてきてンだよテメェ! 竜の歯クソにでもなってろ!」

「無茶言うな!あんなモン、こんな環境で相手にできるか!」

「じゃあ何で着いてきたんだよ! バラけりゃ、どっちかは逃げられたのに!」

「それは! ……あれ、何でだろう? ……何となく?」

 首を傾げる秀人。

「、」

 ぷつん、と、はやての我慢の限界を突破した。

 

「ざっけんなテメェェェ!」

「悪かったああぁぁぁ!」

 

『グルアアアァァァァァァァ!!』

 

「「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!」」

 

――ドッゴオォォォン!

 

 

 二人仲良く、巨大な火炎弾に吹き飛ばされた。

 

 

 ……波瀾万丈な、サバイバル生活が幕を開けた。

 

 

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