魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第三十一話

『グルルルル……!』

 

 大火竜は、秀人たちを吹き飛ばしたはいいものの、見失ってしまったらしい。

 荒野の上空をぐるぐると旋回し、ふいっと去って行った。

 

――ゴソッ……

 

 と、地面が隆起し……

「……行ったか?」

「……さぁね」

 頭から土だらけになった二人が、這い出してきた。

「……」

 とにかく、抜き足差し足忍び足。

 魔力もゼロにし、竜の巨体が入り込めないような、峡谷に退避した。

 

「まだついて来る気かよ」

「つれないこと言うなって」

「チッ……」

 はやても、さすがに二度も大火竜をおびき寄せる愚行は犯さない。

『ギュアア!』

 途中、岩場から飛び出して来る亀のような猛獣は……

「……うぜぇ死ね」

『ガ、ガガガ……!』

 魔剣を脳天に突き刺し、絶命する。

「おい……!」

 反射的に、殺生を咎める秀人。

 が、はやては淡々とした表情と口調で、言った。

「馬鹿かお前は。ここは日本じゃ無いんだ。スーパー行けば食べ物が買えるわけでも、蛇口捻りゃ飲料水が出てくるわけでも無い」

「あ……そういや、そうだった。すまん」

 突飛な事態に忘れかけていたが……これは、サバイバルだった。

「……食えるの、それ?」

「骨と甲羅以外は。結構イケるよ……よいしょっと」

 ずるずると、最小限の身体強化魔法のみを使い、獲物を引きずっていく。

「……」

 何となく着いて行った先は、またしても、同様の絵馬モドキが仕掛けられた洞窟だった。

「……」

 

 おもむろに魔剣を取り出し、巨大亀の甲羅の継ぎ目に捩込み……

「よっ……と!」

 

――バカンッ!

 

 甲羅の一角を、テコの原理で割り開く。

「えらく硬い剣だな……」

 呆れながら、そう呟く。

「おい、お前」

「あ、ああ……何だ?」

「手伝え。捌いてる間に腐っちまう」

「……」

 

 一瞬、躊躇する秀人だったが、腐らせるくらいなら、食べてやったほうが供養になるよな……と、手伝いはじめた。

 

 ベリベリと甲羅を剥ぎ取り、内臓と肉とを分ける。そして、運び込める大きさになった食料を、洞窟に運び込んだ。

 中は、思いの外涼しい……というか、寒いくらいだった。

 肉を、岩塩を砕いた塩の山に放り込む。

「肉は保存が利くから後回しで」

 てきぱきと指示を出すはやて。

 

――く~……

 

 その腹が、可愛らしく鳴った。

「……飯にするか」

「……うん」

 はやては、僅かに赤面し、頷いた。

 

 がつがつと、割と品の無い食べ方で、煮込んだモツにかぶりつく。

「んじゃあ、お前……はやても、この世界に飛ばされてきたのか」

「まーね……じゅるるっ」

 零れそうになった肉汁を、これまた下品に音を立てて啜る。

「……」

 

 焦りも極限になれば、一回転して平静になるらしい。

 はやては堂々と、素顔と本名を晒し、事情を説明した。

 

『不慮の事態で、魔法の訓練中、この世界に飛ばされた』

 

 と。

 ある意味、嘘は言っていない。

「今日で丁度、二週間くらいかなぁ……?」

「二週間……」

 初日にして、逃げ回ることしかできなかった秀人には、信じ難い事実だった。

「意外と何とかなる物だよ……ペッ」

 ……べちゃっ、と、足元に苦みがあったらしき一部を吐き捨てる。

「……」

 ぴくぴくと、何かを言いたそうに秀人のこめかみがヒクつくのに、はやては気付かなかった。

「ってなわけで、どーせ長居するなら、目標でも作ろうか……ってことで、あの大火竜を狙ってるんだよ。……げっぷ。もう食べられないや」

 そして、食べ残したモツの残りを、無造作に鍋の中に投げ込み……

 

「……っだああああああぁぁぁ! もう我慢できん!」

 

 秀人の我慢が、限界を迎えた。

「な……何?」

「何だ、お前のその行儀の悪さは!?」

「……はい?」

「食べ物に対する敬意は無いのか!?」

 きょとん……としていたはやてだったが、次第に苛立ちが出始めた。

「私が獲物をどう扱おうが、あんたには関係無いじゃん!」

「お前、言ったよな?『食べるために狩った』……って。

 狩ったなら、食え! それが、狩られた命に対する礼儀だ!」

「う、ぐぐぐ……!」

 ……ここで『はい、そうですか』と言える程の素直さがあるのなら、闇の書の主などやってはいないわけで。

「うるっせえぇぇぇ!!」

 結局、ブチ切れて飛び掛かって行った。

 ごろごれごろ……と床を転がり、取っ組み合いに発展した。

「むぎゃー!!」

 噛み付き、引っ掻き……

「いてててて!! やめんか!」

 バチーン!という快音響かせ、はやての尻を叩く。

「みぎゃあああぁぁ!! やめろこのロリペド野郎おぉ!」

 ぶぅん、と振り上げた足が、秀人の顎を正確に蹴り抜いた。

「げぐっ……! おらああぁぁぁっ!!」

 ばちーん!

「ひぎゃあああぁぁ! 尻はやめろっつってんだろおぉぉ!!」

 

……魔剣を使わないだけ、まだマシかもしれない。

 

「ぜー、ぜー……!」

「はぁ、はぁ……!」

 

 二人は消耗し尽くし、地面に転がっていた。

 なんと無意味な闘争だろうか。

「食い物、粗末に、すんな……!」

 尚も言う秀人に、はやては……

「……あーもう!わかったわよ!食えばいいんでしょ!食えば!」

 

 鍋に残ったモツ煮込みを、ヤケクソのように掻き込んだ。

 

「げっぷ……ど、どうだ……」

 青ざめた顔で、勝ち誇った顔を見せる。

「いや……うん、えぇと……一人で全部食え、って言いたかったわけじゃ、無いんだけど……」

「……は?」

「粗末にしなければ、残りは俺が食ったんだけど……」

「……」

 ばたーん……と、全ての力を使い果たし、はやては倒れた。

(やっぱり私、こいつ嫌い……)

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「っだあああぁ!」

 

――ガシィッ!

 

 なのはが振り下ろした木刀は、恭也の竹刀に受け止められた。

「こ、の……!」

「腕力に頼り切りになるな!」

 対して、恭也の竹刀はぴくりともしない。

 

――カァンッ!

 

「あっ!?」

 竹刀が回転、木刀が巻き取られ、跳ね上げられてしまう。

 反射的に、木刀を目で追うなのは。

 

――バシンッ!

 

 その額に、竹刀がヒットした。

「あうっ……!」

「何のための二本の得物だ。手から離れた時点で、捨てたものだと思え」

「はい……」

 ひりひりする額をさすり、聴き入るなのは。

「もう一本!」

「はいっ!」

 木刀を拾い、再び恭也へ挑みかかった。

 

「今日はここまで」

「……あ、りがとう、ござい、ました……」

 へろへろになりながらも、しっかりと礼をする。

 

「ううぅ……オデコが痛い……」

「よしよし、よく頑張ったぞ」

 練習後、美由紀がなのはを膝枕し、額に氷枕を乗せた。

「でもさー、いいの? ユーノに頼めば、パパッと魔法で……」

「それは駄目」

「え……」

「怪我がすぐ治るなんて気持ちで修業してたら、絶対に強くなれない」

「……」

「だから、駄目」

「……そっか―」

 特に何も言わず、なのはの髪を撫でる。

「全く、こんな可愛い我が妹に……恭ちゃん!」

「……修業に怪我はつきものだ」

 恭也は、バツが悪そうな顔で、反対側に座っていた。

「そりゃ、足くじいたりはするだろうけどさ! アレなら寸止めできたでしょ、恭ちゃんなら!」

「姉さん、いいから……」

 

「……痛むか?」

 今更のように、なのはを心配する。

「超痛い。秀人さんに言いつけてやる」

「やめてくれ……」

 ゲンナリする恭也。

「だめ。絶対言ってやる……」

 くすくす、と、楽しげに笑う。

 

 思えば、三兄妹だけで過ごすなど、いつ以来だろうか。

 さらさらと、夏の夜の生暖かい風が、草を鳴らす。

「な~んか、いいねぇ。こういうの」

 仲良し三兄妹みたいでさ……と、少し茶化して言う美由紀。

 恭也となのはは、顔を見合わせて笑い……

 

「おーい! ももこがスイカきるってさー!」

 

 フェイトの元気いっぱいな声が、その時間を終わらせた。

 

「……ところで、スイカってなにー!? ボク、たべたことなーい!」

 

 歩いてくればいいものを、縁側から大声を張り上げる。

 大声を出すことが楽しいらしい。

「流石に、近所迷惑だな」

「そうだね、いこっか」

「ひゃっほー! スイカだー!」

 美由紀が、目を輝かせて飛んで行った。

 

「……姉さん」

「フェイトと仲が良いわけだ」

 

 二人も苦笑しつつ、ヴィータや桃子が待つリビングへ歩いて行った。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 秀人がサバイバルを始めて、一週間が過ぎた。

 

『グガアアァァァア!』

 

 はやての手助けもあったおかげか、一番の心配事だった、飲料水や寝床の問題はクリアした。

 

『ギャギャギャ!キキー!』

 

 最初はあたふた、はやての後を着いていくのも手一杯だった秀人だが、今では、すっかり……

 

『ギュイイィィィ!』

『ギャアアアアア!』

『キキイィィィィ!』

『グガアアァァア!』

 

「うおおおぉ!! ヤバいヤバい流石に死ぬコレは死ぬうぅぅぅ!」

 

 すっかり、獲物として野獣たちに匂いを覚えられていた。

 

 ダダダダダッ!と荒野を疾走し、数えるのも馬鹿らしくなるくらい大量の野獣たちを引き連れる。

 と、すこし前方に、薄い煙が立ち上る。

 念話が使えない世界での、アナログ極まりない合図手段……狼煙だ。

「あそこかっ!」

 

 そこを目指して、一気にスパートを掛ける。

 そこは、対岸が低いため、地平線からは分かりづらい谷だった。

 後方に引き連れた獣たちは、頭に血が上って、そもそも気付いていないが。

 

「はやてえぇぇぇっ!!」

 

 大声で合図し、急旋回。

 昂ぶる獣たちの股の間をスライディングでくぐり抜けた。

 

 最前列にいた獣は、唐突に目標を見失い、多々良を踏む。

『ギュエフッ……!』

 その背に、後続の獣達が、勢いのままに玉突き事故を起こした。

 

――ボゴォッ!!

 

 と、崖の手前の大地が、不自然に隆起する。

 結果それが、姿勢を崩したところにトドメとなり……

 

『『『『『ギャアアアアァァァァ!!』』』』』

 

 野獣の群れは、谷底へ転落していった。

 

「ぜぇ、ぜぇ……」

 片や、魔力結合を阻害される環境で、体力魔力を絞り尽くした秀人。

「やぁやぁ、ご苦労さん」

 片や、十分な時間を確保し、簡単な物質操作の魔法を一回使ったのみのはやて。

 

 ……『保存食大量ゲット』という結果を得るために支払った労力が、違いすぎである。

 

「おら、いつまでも寝てんな。さっさとずらからないと、また竜が来るぞ」

「少しは、休ませろ……!」

 

 ぜーはー言いながら、谷底まで歩いて下る。

 谷底で獣を解体し、隠れ家の洞窟へ運び込んだ。

 

 野菜の採れないこの世界では、ビタミンが不足しがちだ。

 だから、とれたてで、鮮度が落ちないうちに、生で食べておくのが習慣になっていた。

 ただ、ビタミン豊富とはいっても……

 

「「不味ッ……!!」」

 

 ロクに火を通していないおかげで、味は散々だ。

「つか、寄生虫とか大丈夫なのかコレ……あぐっ」

「言わないでよ。食べられなくなっちゃう……はぐっ」

 固い繊維を無理矢理噛み千切り、腹に詰め込む。

 

 この数週間、口にするのは肉ばかり。

 焼肉、塩漬肉、干し肉、燻製肉、生食……

 

(あーあ、(なのは/リーゼ)の料理が食べたい)

 

 二人して、そんな気持ちを抱いていた。

「げぷっ……」

 

 5キロも食べないで、二人は満腹になった。

「んじゃ、残りは……」

「いつもと同じ、塩漬と燻製」

「あいよー」

 

 肉や内臓を加工すれば、後は自由時間(?)だ。

 ……娯楽も何も無い、非常にストイックな環境で、やることなんて限られている。

 まずは、寝る。

 そして……

 

「……112、113、114、115」

 

 筋トレである。

 薄暗い洞窟の中で、黙々と腹筋を鍛える秀人。

 その横では……

「ご、ごじゅう、ろく……ごじゅう、なな……」

 はやてが、ひーひー言いながら腕立て伏せをしていた。

 リーゼとの修業とも違う、地道な運動にはまだ不慣れのようだった。

「120、121、122、123……はやて、無理するなよ。子供のうちから筋肉付けすぎると、身長伸びなくなるぞ……124、125、126……」

「ろく、じゅう……!はぁ、はぁ……うっさい……集中できないでしょ……!」

「あぁ、悪い。……140、141、142、143、144、145、146、147、148………………あー、駄目だ。ちっとも鍛えた気にならん」

 

もともと、桁外れな筋力を誇る秀人だ。

通常のトレーニングなど、今更、食後の運動程度にしか意味が無い。

「やっぱり、身体よりこっちかな」

見様見真似の座禅を組み、意識を精神の内部に向ける。

「すぅー……はぁー……」

 

――リンカーコア、起動。

 

薄らと、秀人の身体に、空色の魔力光が膜のように纏わり付く。

やはり、平常に比べると、その輝きは曖昧で、弱い。

「……」

すぐにギアを繋ぐのではなく……アイドリング状態のまま、体内に留める。

このまま外部へ出力しても、すぐに散ってしまう。

体内を循環させ、純度と密度を上げていく。

意識するのは、あるキーワード。

(俺の、魔力資質……『結合』)

 

この世界は、常時AMFが展開しているような環境だ。

だが本来なら、秀人の魔力資質の前には、意味を成さない筈。

いつかの日、AMF環境下で、300万という桁外れの数値を記録した時のように。

 

今、秀人は満足に魔法が使えていない。

それはつまり、魔力資質を引き出せていないということだ。

 

あの力を完全に引き出すことができれば、飛躍的な戦力向上ができる。

 

「……!」

 

手を突き出し、魔法を行使する。

近接攻撃魔法・ブレイド。

普段なら、特に意識せずとも発動できる、ごく初歩の魔法。

「ぅくっ……!」

それが、まともに行使できない。

魔力刃の基となる魔力のフレームが、構築できない。

 

いつも、どれだけ杜撰に魔法を行使していたのかを痛感する。

 

……秀人、なのは。

二人に共通するのは、高い魔力、優れた才能……そして、それに見合わぬ魔導師歴の浅さだ。

 

なにせ、初めてリンカーコアを起動させたのが、命懸けの実戦。

その後も、訓練より実戦の中で才能を開花させるような、言ってしまえば異常な環境が続いた。

 

直感で、手探りで、魔法の腕を磨いてきた。

 

そして支払わされたツケが……レイジングハートの大破。

 

……それを、繰り返さないためにも。

「ぐぐ……!」

徹底的に、鍛え上げる。

 

「……はァッ!」

 

そして、気が遠くなるほど……実際には、もっと短いだろうが……とにかく、なんとかフレームの 構築には成功した。

あとは、それをとにかく維持するのだが……

 

「うあ!?」

 

――パキィン……!

 

フレームは、呆気なく砕け散った。

「くそっ……」

悔しげに舌打ちする。

だが、すぐに……

 

「……もう一回!!」

 

また、一から始めた。

 

 

「……」

それを、無言で眺めるはやて。

(……なんでこいつ、こんなに頑張ってるの?)

あんなやり方、効率が悪い。

疲労と、成果の釣り合いが取れていない。

 

なのに、それを止めることなく愚直に、反復している。

 

それを維持できる……いや、こんな世界に飛ばされて、自分を鍛えようなどと思える意思は、どこから生じているのだろうか。

(私は、こいつらを殺して、『鉄槌』の敵を取って……)

はやてを支えているのは、負のモチベーション。

復讐という、わかりやすいものだ。

最初、秀人もまた、自分への復讐のために鍛えているのかと思った。

だが、秀人の態度からは、それが感じられない。

 

ならば、何故……?

 

「…………」

考えて、考えて……気付けば、秀人はぐったりと気絶し、無防備に寝転がっていた。

 

「……チャンスか、これ?」

疲労困憊。

しかも、全く警戒していない。

またと無いチャンス。

 

――シュッ……

 

鞘から、魔剣を引き抜く。

 

――カキン……

 

秘蔵のカートリッジを、装填。

まだ、秀人には明かしていない。

 

今なら、殺せる。

 

もともと、秀人と一週間暮らしていたのは、成り行きと、気まぐれだ。

そして今、チャンスがやってきたことで、気まぐれは終わった。

 

魔剣を、振り上げ……

「…………」

振り……下ろさない。

「……」

すとん、と腰を下ろし、秀人の顔を覗き込む。

「お前は、どうして……」

 

『鉄槌』の視界を、通じて見た光景。

ボロボロになって、それなのに……もう一人いた、白い衣服の少女を、身体を盾に守っていた。

 

「……守るための、力?」

 

一応の解答に、たどり着いた。

そして、そのあまりの価値観の違いに愕然とした。

「ば……馬鹿じゃないの? 力は、敵を排除するための……」

だが事実、秀人は『そう』してきた。

その力は、その怒りは……誰かのために。

 

「……自分より大切なものなんて、あるわけ無い!」

 

 苛立ちの末に激昂し、魔剣を秀人の頭、数センチのところに突き立てる。

「他人のための力なんて、まやかしだ!」

 認めるわけには、いかなかった。 

 

「どっちが、真に強くなるのか……!」

誰かのために強くなる秀人。

自分のために強くなるはやて。

 

どちらが、より強いのか。

 

「見極めてやる!」

 

……不意打ちではなく、真っ正面からの打倒を、誓った。

 

 

 

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