魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第三十四話

「う、ううぅ……?」

 

 なんとか、防御が間に合った。

 はやては、土砂の中からのそのそと立ち上がり、頭にこびりついた砂を払う。

「……くっ」

 その最中、不自然に体勢を崩し、膝を突いた。

 

 熱波や爆風は防げたとはいえ、洞窟内という狭所で増幅された爆音は、はやての鼓膜を破壊し、

三半器官に甚大なダメージを与えていた。

「……」

 ふらふらと覚束ない足取りで、周囲を歩く。

「や、べぇ……!」

 今まで、はやて達の身を隠していた渓谷は、原型を留めない程に崩れてしまっていた。

「……私達のいた洞窟が、渓谷全体のウィークポイントだった……ってこと?

ったく、どんだけツイてないのよ……!」

 私『達』。そう、自分のほかにもう一人……

「秀人……!?」

 自分は防げたが……爆心地にいた秀人は、どうなったのだろうか。

「……うげッ!?」

 見覚えのあるスニーカーが、土砂から突き出していた。

「……」

 ためしに、軽く引っ張ってみる。

 ぐい、ぐい……と、確かに手応えが返ってきた。

 ……どうやら、足だけがもげて転がっているわけでは無さそうだ。

 両手でその足を掴み……

「よっこい……しょっ!!」

 

――ズボッ!!

 

 ……と、どこかの童話のカブの如く、秀人を引っこ抜いた。

「……」

 秀人は、辛うじて息をしていたが……

「……黒焼き?」

 と、思わずボケてしまうほど、見事な黒焦げだった。

「うわぁ……生きてるかな、コレ。とにかく、治さないと……って、あれ?」

 そこで、はやては首を傾げた。

 

 ……先程まで、炭化したような真っ黒だった秀人の皮膚が、パリパリと剥がれ落ちていく。

「……!?」

 その下から見えたのは、血色の良い、やや濃い肌色。

 ……新しい、皮膚だった。

「……治癒魔法? でも、意識も無いのに……」

 

 更に、異常なことが起こった。

「……!!」

 はやての耳が、『風が吹く音』を、確かに捉えた。

 つい先刻、破れたばかりの鼓膜に。

「治っ……た? 嘘……?」

 信じられない、と。

 だが、確かな事実として、傷は治癒している。

「……どういうこと?」

 治ったにせよ、理由も無いのでは気味が悪いだけだ。

 

「……死ぬかと思った…………死なないけど」

 秀人が、目を覚ました。

 やはりというか、何と言うか……傷は、既に治癒していた。

 意識無意識の関係無い、秀人の特異体質。

「今のは、おまえの力?」

「……あー、いや、単なる、治癒魔法」

「ホラ吹いてんじゃねぇ」

「……いや、まじで」

 ほぼ知られた……にも関わらず、頑なに体質のタブーを隠す。

 いつもなら、それで良かった。

 どうせ、それ以外では説明が着かないのだから。

 だが……次にはやてが口走った言葉に、すべての動きを止めた。

「大体、もしそうだとして……何で、私の傷まで治る」

 

 

「…………………………なに?」

 

 

 ……険しい顔。

 はやては、初めて見る秀人の顔に動揺した。

「え……」

 その、豹変とも言える如実な変化に、腰が引けてしまった。

 だが秀人は、はやての両肩を握り、ぐいっと身体を近付ける。

「ち、近いっての……!」

「どういうことだ?

 お前の傷が、治ったって……お前の方こそ、何か魔法でも使ったんじゃないのか?」

「いや……気付いたら、治ってたけど……」

「…………」

 口に手を当て、ふらふらと後ずさる。

「嘘だ」「ありえない」「そんな馬鹿な」……口からこぼれるのは全て、事実からの逃避であり、同時に……その真実を肯定する言葉だった。

「おい……何だか知らないけど、とにかく落ち着けっての」

 はやてもまた、混乱していた。

 何が起ころうと、妙に肝が据わっている秀人がこんなに取り乱すなど……この一ヶ月の間、殆ど無かったのだから。

 

 

『ギャオォォォオオン!!』

 

 

「「!!」」

 

 その、原始的な恐怖を呼び起こす咆哮に、目を覚ました。

「チッ……!話は後で、ちゃんと聞くからな!」

「……わかったよ。 で、どうする、また安全地帯探して逃げるか?」

「……」

 一瞬の思考。

 

――彼我の戦力差。

 

――AMF環境下での経験値。

 

――地対空戦闘。

 

 様々な要素を加味し、判断した結果。

 

「……叩く!」

 

 いよいよ、この世界における最終目標へ、手を出すことに決めた。

 

 地平線の向こう、小さな黒点だったソレは、あっという間に、全体像を見せた。

「うわ……やっぱデカいな。 で……勝てそうか?」

 不敵な笑みで、はやてを挑発する。

 

「勝つ!」

 

 勝てる、では無く、勝つ。

 それがはやての決意であり、判断だった。

「はやてが指示を出せ。俺は、それに従う」

 秀人は、はやての作戦に乗ることにしたようだ。

 

『ゴフゥ……!』

 大火竜の口元から、口内に蓄えたブレスが僅かに溢れる。

「ブレスを回避!その後、接近戦を仕掛ける!

「了解!」

 はやては魔剣を構え、秀人は魔力スフィアを出現させ、圧縮を開始する。

 そして……

 

 

『ゴハァアアアァァァァァアアッ!』

 

 

 地上目掛けて、ブレスが発射された!

 

――キュゴォオオオン!

 

 ブレスは、辺りに目茶苦茶に破壊を撒き散らし、粉塵を巻き上げる。

 

――ボッ!!

 

 粉塵の中から二つ、飛び出してくる影があった。

「「うぉりゃあああああっ!!」」

 当然、はやてと、秀人である。

 瓦礫を足場に、大火竜の前後から、攻撃を仕掛ける。

 

『ガァッ!』

 大火竜が羽ばたく。

――ビュオォオッ!!

 それによって、突風が発生。

「うわっ!?」

「きゃあっ!」

 煽られ、再び地面へと逆戻りしてしまった。

「何だよアレ! 近付けないじゃん!」

「私に聞くな! こんなの、想定外よ!」

「……勝つって言ったじゃねぇかこのヘッポコ指揮官!」

「へ、へっぽこ言うなぁ!」

 

『ゴァアアアアァァァ!』

 

 そしてまた、ブレスが発射される。

 

――ドゴォオン!!

 

「あークソ! ブレスを避けて近付くにしても、あの風が……」

「少しの間だけでも、あいつを地上に落とせれば……!おりゃあっ!」

「あっ、馬鹿!」

 再びジャンプし、大火竜に剣を突き立てようとする。

 が、当然、そんな考え無しの攻撃が通じるはずもなく……?

『ガァッ!』

 

――バヒュウゥゥゥッ!

 

「きゃあぁっ!」

 やはり、突風に飛ばされた。

 錐揉み回転してしまい、体勢を立て直すことが困難になる。

「っ、とォ!」

 秀人もまた、空中に身を躍らせ、はやてをキャッチした。

 

――ゴォオオオ!!

 

 隙を見逃さず、猛烈な火炎を吐き出す大火竜。

 不自由な空中で、小規模なインパクトで射線上から逃れ、我が身を盾に、はやてを庇う。

「……くそっ!」

 だが、やはり小規模。

 待避は十分でなく……秀人の背中を、火炎が蹂躙した。

 

「うがぁあああぁっ!」

 

 神経を焼く激痛に悶え、地面に墜落する。

「うぐ……!」

 流石に、脊髄にまでダメージが及ぶとなると、回復には時間が掛かる。

「おい、しっかりしろ!」

 はやてがその腕から抜け出し、秀人の肩を支える。

 体格差もあって、引きずるような形だ。

『ガアアァッ!!』

 攻撃が来ないと分かった途端、大火竜は急降下。

 地表を、大火竜の爪がえぐり取る。

「……っ!」

 躊躇い無く、瓦礫の山を転げ降りる。

「いッ、てぇ……!」

 そのまま、秀人を背負って駆け出す。

「おい、俺は、いいから……!」

 揺られながら回復しつつ、秀人が言った。

 ほんの数十秒。

 回復を待つ間、大火竜を引き付けておけばいい。

「俺を囮にして、アイツを攻撃……!」

……なのは辺りが聞けば、大激怒するような台詞。

 

「ふっざけんなッ!!」

 

 当然、はやても怒った。

 

「おまえは、アイツに勝つための、私の手駒だ! まだ、使い捨てるタイミングじゃないんだよ!

 

そういう台詞は、手足と目ン玉と歯ァ全部無くなってから言いやがれ!!」

 

 なかなか、外道な理由だった。

「……鬼畜め」

 苦笑いし、

「……んじゃあ、悪いけどこのまま逃げ続けろ。もう少し……すりゃ……完、治……」

 かくん、と秀人が脱力する。

 

(やべ、死んだ!?)

 

 ……死んでない。

「くぅ……くぅ……」

 秀人は回復するため、意識をシャットダウン。

 戦闘中に睡眠を取るという、荒業を敢行した。

「えぇい、首に息が当たってこそばゆい……!」

 身体強化魔法を使っているとはいえ、男性一人というのは重い。

「重いのよ、この野郎……! ハラワタぶちまけて、軽量化してやろうか、、!」

 憎まれ口を叩きながらも、律儀に秀人を背負い直す。

 

――ドゴォン!ドゴォン!

 

「ひィッ!!」

 ブレスを避け、跳ぶ。

「きゃあぁっ!」

 爪を避け、転がる。

「はひー、はひー……!!」

 逃げても逃げても、上空を飛ぶ大火竜との距離は開かない。

「不公平よ! あいつばっか、重力を無視しやがって!! 万有引力どこ行った!?」

「………………………………おい、今なんつった?」

「あ、生きてたんだ」

……

「いま、不公平って……その後、」

「あいつばっか重力を無視して、万有引力……」

 

「それだ!」

 

 がばっ、と、はやての背から飛び降りる。

「え……おい……ウェルダン状態だった背中はどうした?」

「寝たから治った!」

「……RPGじゃねぇんだぞ」

「まぁいいから。とにかく……!」

 

 そして、はやては秀人の案を聞き、検討し、時に補足し……

「……よし、それで行くわよ!!」

 作戦が、決定した。

 

 はやてと秀人は、一定の距離を、つかず離れず駆け出す。

 ブレスでは、どちらか片方しか攻撃できない。

『グァアッ!!』

 火炎のブレスを、自らの突風で拡散させ、広範囲へと撒き散らす。

 やはりこの大火竜、相当な知能を持ち合わせている。

 とはいえ、威力は弱まる。

 秀人とはやては、バリアジャケットの防御力のみで、炎に耐え、走りつづける。

 

『ゴアアアァァァッ!』

 

 同様の攻撃を、二度、三度と繰り返し、二人にダメージを蓄積させていく。

 だが、二人に焦りは見えない。

 むしろ……勝利を確信した、笑みさえ浮かべている。

「……もう少し!」

「……あと少し!」

 

 そして、何度目かの熱波。それに揺さぶられ……

 

――ゴガガガガガガガガガガガガン!!

 

 崩れかけていた渓谷が、完全に崩壊した。

 瓦礫は山になり……新たな、足場を作り出す。

 

 だが、制空権という優位は崩れない。

 大火竜は、上空を旋回し、粉塵が止むのを待つ。

 晴れればまた、ブレスを上からぶつけるのみ。

 

『グァッ!?』

 

 ……と、唐突に、見えないワイヤーで引っ張られたように、大火竜のからだが、ガクンと空中でバランスを崩す。

 

「無駄だ……もう、浮かぶことはできねぇよ」

 一跳びで、ふわり、と、秀人の身体が軽々と浮かぶ。

 まるで、重力から解き放たれたように。

 

「このへんの重力、お前の身体に『結合』させてやったんだからなぁ!」

 

 ……超高密度の魔力による、魔法の行使。

 それは、単純な攻撃とも防御とも、補助とも違う……全く新しいジャンルを、開拓した。

 

――重力操作。

 

 普遍的に存在する、ある種の『概念』を操る……まさに、『魔法』の力だった。。

 

『グォオオオ!』

 

 悪あがき。

 長い首を、今や自身を上空から見下す秀人に向け、最大威力のブレスを放とうとする。

 

――ボッ!

 

 と、粉塵の向こうから、飛来するものが一つ。

「使用権限、一時譲渡!

 

 ……秀人、やれえええぇぇぇ!」

 

 はやての号令と共に……秀人の手に、投擲された魔剣が握られる。

「おおおおおおおぉぉっ!」

『グガァアアアアアアッ!』

 

――ギュゴォオオッ!!

 

 迫り来る、灼熱の炎。

 秀人のリンカーコアは、大火竜を縛り付けるので手一杯。

 持続時間は、残り一分も無いだろう。

 残り一分で、大火竜にトドメを刺す。

 秀人自身のキャパシティは、既に満杯。

 

――ならば、

 

 

「ロード、カートリッジ!!」

 

 

――ガキィンッッ!!

 

 外部の魔力を、使うまで!

「だぁああああああああああああっ!」

 一振りで、灼熱の炎を切り払う。

 そして……魔剣に炎の残滓を残したまま、第二撃!

 

「はぁあああっ!!」

 

――斬ッ!!

 

 秀人の一撃は、大火竜の両翼を、根本から切断した!

『グ……ギァアアア!』

 いよいよ、増幅された重力のままに落下する大火竜。

 墜落死させるには高度が足りない。

 だから……

 

「はやて!今だああああああああっ!」

 

 大火竜の背中から、飛び降りて退避する。

「!」

 

 粉塵の中からはやてが突撃する。

 バリアジャケットを残し、全ての魔力が、一点……右拳に、一局集中している!

 

「ブッ潰れろおぉぉぉぉぉ!」

 

――ドズゥンッ!!

 

 落下速度をも破壊力として加算した……全身全霊の一撃が、大火竜の胴体を、真芯から捉えた!!

 

『グォ……ガァァ…………』

 

 立ち込めていた粉塵が晴れる。

 その向こうに浮かぶシルエットは……

『ガァ……!』

 大火竜……?

 いや、違う。

 

――ズズゥ……ン……

 

 大火竜は崩れ落ち、

 

「はぁ……」

 

 右腕を振り抜き、残心のを取る……はやての姿があった。

 

 秀人は、はやてに歩みより、右腕を高く上げる。

 はやても、無言のまま右手を上げ……

 

――パァンッ!!

 

 軽やかな、ハイタッチを交わした。

 

「ぃよっしゃあああぁぁ!!」

 

 はやては、がばーっ!と両手を振り上げ、全身で喜びを表現する。

 

 それを、端から秀人が見ていることに気が付いたはやては……

「な……何ニヤニヤしてんだよテメェ!」

 げしっ、と、赤面したまま秀人に蹴りを入れた。

「いって! ……でも、よく頑張った」

「ふん。本当なら、私一人でやるべきだったんだろうけど……」

 かしかしと、ごまかすように頭を掻き……

 

「ま、三割はおまえの手柄にしといてやるよ」

 

 どこまでも不遜に、秀人に感謝した。

 

「厳しいなぁ……あ、そうだ。返しておく」

 手に持ったままだった魔剣を返却する。

「そういやおまえ、何で、カートリッジのこと……」

(ギクッ)

 

――寝ている隙に、こっそりいじってました。

 

 等と、言えるはずも無く……

「さ、さぁて、獲物、さっさとバラそうかなっ!?」

 下手くそなごまかしを、始めた。

「……後で、じっくり聞かせてもらうからな」

 今は、その体力が惜しい。

 

 と、秀人とはやてが、大火竜に近付いた時だった。

 

 ……大火竜の身体が、淡く、黒色の光を発する。

 これは……

「「……魔力光?」」

 

 その魔力光は、大火竜の身体を包み込み、徐々に小さくなっていく。

 そして光は……人型に収束し、収まった。

「……嘘」

 はやては驚愕のあまり、感情をせき止められる。

「おい、どういうことだ……!?」

 秀人も、困惑している。

 

 何故なら。

 

 その人型は、漆黒の頭髪に、目立つ猫耳、尻尾を持つ……

 

 

 

――はやての使い魔、リーゼだったのだから。

 

 

 

 じわ……と、リーゼの下の岩場に、ドス黒い液体が染み出す。

「……! リーゼ!!」

 はやてが、その身体を助け起こす。

「なんで……なんで……!リーゼ!」

 言葉らしい言葉にならない。

「う……」

 リーゼが、意識を取り戻す。

「あ、るじ……」

「! リーゼ、気が付いたの!?」

 

 リーゼは、こんな状態になって尚、冷静な言葉を紡いだ。

「主が、最後に使われたのは……古代ベルカ拳技、最大奥義……『シュヴァルツェ・ヴィルクング』…………お、お見事な、一撃、でした……」

「そんなこと、聞いてない!なんで、リーゼが竜に……!」

 

「『修練の門』……結界魔法に、対象を閉じ込め……試練を与え、成長を促す、古代ベルカの、禁呪です……ゲホッ!」

 びちゃっ、と、咳と共に血を吐き出す。

「発動条件は……魔力ラインが、繋がっていることと……己を、理性無き暴竜と化し、最終試練と、すること……」

 それ故の、禁呪。

「おまえ、そんなこと一言も……!」

 泣きそうな目で、リーゼを問い詰める。

「ご命令、でしたから……『修業に、一切の手心を加えるな』、と」

「……私の、せい?」

 いいえ、と、リーゼは首を横に振る。

「あなたが、強くなられること……それが、私の望み、私の使命……」

「馬鹿……この大馬鹿!!」

「ご心配、なさらず……私の命が尽きれば、じきに、この世界から出られます……」

 

 じわ……と、リーゼの下の岩場に、赤黒い液体が染み出す。

「……! リーゼ!!」

 はやてが、その身体を助け起こす。

「なんで……なんで……!リーゼ!」

 言葉らしい言葉にならない。

 その色は、見慣れたものだ。

 だがそれが、近しい者が流すものとなると、意味合いが違ってくる。

 

 ……大火竜として、その命を担保に維持してきた結界は……死を以て、解除される。

 AMFの影響も、消えるだろう。

「……やだ、やだよ、そんなの……!」

「……」

 とうとう、リーゼが意識を失った。

「はやて、代われ」

 秀人もイマイチ理由は分からなかったが、とにかく……目の前のリーゼが死にかけている、ということは、確かなようだった。

「治癒魔法、試したんだけど……うまくいかなくて……」

 泣きベソをかき、ぐしぐしと目を擦る。

「どうしよう……リーゼが、死んじゃうよぉ……!」

 

 秀人はリーゼを抱え、傷を確認する。

(背中に裂傷……それに、肋骨、内臓がいくつかやられてる)

 背中は秀人の斬撃、内臓は、はやての拳による傷だろう。

 出血は派手だが、背中の傷は大して深くない。

 むしろ、問題は内臓の方だった。

「……まだ、使えなさそうだな」

 圧縮魔力スフィアを使えば、使えなくも無いだろうが……ユーノには遠く及ばない。

「……よし、やるか」

「え……? でも、おまえだって、魔力殆ど……」

「裏技」

 ……例の、リンカーコア結合。

 あれを使えば……あるいは。

「……一時的に、俺の身体と、こいつの身体を、リンクさせてみる」

「え……でも、そんなこと」

「俺には、出来るんだよ」

 いつもは、リンカーコアの結合のみだが、秀人には確証があった。

 

 ……先程の、はやての治癒。

 

 あれはどう見ても、秀人のソレとしか思えない。

 恐らく、『どこか』で……この世界で出会う前後、関係無しに、魔力のラインがリンクしてしまったのだろう。

 それが、はやてにも小さいながら、自己修復をもたらした……

 それが、秀人の見立てである。

 

 魔力残量、一割以下。

 失敗は許されない。

「……」

 一割の魔力をかき集め、圧縮を開始。

 失敗すれば、リーゼを救う手立ては無くなる。

「……」

 はやては固唾を呑んで見守る。

 リーゼの手を、しっかりと握りしめながら。

「……この人が、お前の師匠?」

 秀人はもっと、こう……フンドシ一丁の、ガチムチな老人を想像していた。

 まさか、ネコミミ尻尾が似合う、可憐な女性とは予想と違った。

「うん……」

 ぐすっ、と、また鼻を啜りながら、頷いた。

 とにかく、よほど大事な存在だということだけはわかった。

 

「……よし」

 魔力残量が少ないことが幸した。

 圧縮は滞り無く完了し、次の工程に移る。

 

――キィンッ!

 

 魔法陣を展開。

 そのまま、ラインをリーゼに伸ばす。

「接続、成功……!」

 同時、秀人の中に、見聞きした覚えの無い術式が流れ込んで来る。

 それは以前、ヴィータの魔力を解析した時のものと、酷似していた。

 

――古代ベルカの魔法。

 

 中には、ミッド式の魔法もあったが、大部分はベルカのものだった。

(さて……ここからが、正念場か)

 ここまでは、いつもと同じ。

 

 いつもなら、魔力のラインに意識を向けるところを、今回は、対象の肉体に。

 だが……

「……う」

 リンカーコアと肉体では、勝手が全く違っていた。

 それ以上の接続は、遅々として進まない。

 

 駄目なのか……秀人が思った、その時だった。

 

――――ドクン

 

 ……と、心臓の最奥が、脈動した。

「……今のは?」

 接続を維持しながら、その音に耳を傾ける。

「……」

 

――――ドクン

 

 その脈動の正体は……

「……俺の、リンカーコア?」

 秀人の治癒能力を司る、大きな要素。

 それが、秀人の意志を離れ、跳ね回っている。

「お、おわっ……何だ!?」

 意識した瞬間、さらに激しく……

 

――まるで、自らを使えと……鈍い主に、訴えているかのように。

 

「抑え……らんねぇ!!」

 一か八か。

「うぉおおおぉおおおおぉおおおおおっ!!」

 秀人はその衝動を……思うままに解放した。

 

――……ゴォオオオオッ!!

 

 そしてソレは……まるで、殻を破る雛鳥のように……顕元した。

 

 

『――キュァアアアアアァァァアアアアッッ!!』

 

 

――蒼炎の不死鳥。

 

「……!」

 それを目にした瞬間、はやての脳裏に、『鉄槌』の最後が想起された。

 

――ジャキッ!

 

 衝動的に切り掛かりそうになる寸前、なんとか意志の力でフルブレーキをかける。

 まだ、リーゼに危害が及ぶとは決まっていない。

 動向を、固唾を呑んで見守る。

「うおッ……!? こ、コイツは……!!」

 秀人は秀人で、驚いていた。

 サイズこそ翼長2メートル程度と、鉄槌の騎士を滅した時より小さいが、内に秘める力の『質』は、全く同一のものだった。

『フシュルルル……!』

 不死鳥は、秀人の目の前に滞空する。

「えぇっと……?」

 戸惑い、首を傾げていたら……

 

『ピギィッ!!』

 

――ゴスッ!

 

「痛ッたぁ!?」

 嘴が、秀人の頭頂部を突っついた。

 自分のリンカーコアにドツかれる……という、極めて意味不明の事態が起こっていた。

「何しやがる!」

 怒る秀人だったが……

『ピギー!』

 むしろ、怒っているのは不死鳥の方だった。

「あァ……?」

 徐々にだが、何を言わんとしているのかが、伝わってきた。

「『とっとと目的を言え、ぼけなす』……?

 

って、誰がボケナスだ、この焼き鳥!」

 

『ピギー!?』

 

――ごすっ、がすがすがすっ!!

 

 啄むような連続攻撃。

「痛ッ、痛ッたぁ!? ……分かった!分かったから止めろ!」

『フシュウゥ……!』

 ……

「あー……そいつの傷を治したいんだ。手伝ってもらえるか?」

『ピィッ!』

 ばさっ、と、『任せろ』と言わんばかりに両翼を広げ……その鼻先を、リーゼに向けた。

 

――キィイイイイ……!

 

 すると、どうしたことだろう。

 先程まで行き詰まっていた肉体への接続が、呆気ないほど完了してしまった。

 

 そして、治癒が始まった。

「……」

 無言になり手をかざし……

『ピュイィィ……』

 不死鳥は、翼をリーゼに被せる。

 

 ……流石に、秀人ほどの速度ではないが、あれほどの重傷……いや、致命傷が、確実に塞がりつつあった。

「……うん、大丈夫……助かるよ」

「……よ」

 はやては、べしゃっ、と、膝が砕けたように座り込み……

「よかったぁ……!!」

 安堵から、泣き笑いのような表情を浮かべた。

(なーんだ、この子……)

 接続を続けつつ、心の中で呟く。

 

(ちゃんと、誰かのために泣けるんだ)

 

 破綻者ではなかった。

 

 その事実が、何故か無性に、嬉しかった。

 

 

…………

 

 

「あぅ……?」

 程なくして、リーゼが目を覚ました。

「リーゼ!!」

 はやてが、その傍に駆け寄る。

 

「……はァー、疲れた」

 どっかりと座り込む秀人。

『ピギー……』

 全くだぜ……とでも言いそうな調子で、トコトコと秀人の所まで歩いていった。

「……お疲れ」

 すっ、と手を出す。

 その上に乗った不死鳥は、まるで雀のようなサイズにまで縮んでいた。

『ピィ……』

 フッ……と、再び秀人の内に還元される。

「うーん……マジで、何なんだろう、コレ」

 こんな土壇場でまさか、あの不死鳥を呼び出す術を、身につけられるとは思っていなかった。

「はぁ……」

 が、秀人はどこか、憂鬱そうだった。

「……」

 ふるふる、と頭を振り、思考を切り替える。

 

「……何故?」

「あいつが、助けてくれたんだよ」

「……」

 くるっ、と秀人の方を向く。

「……あなたは?」

「吾妻秀人。通りすがりの、魔導師だ」

「……あぁ、そうでした。主の、協力者、ですね」

「手駒よ」

「……さて、それで、なんだが」

 秀人のスルー能力も、向上したらしい。

「何よ」

「何でしょうか」

「……どうやって、ここから出る?」

 

「「 あ 」」

 

 ……この世界を覆っている、AMF結界。

 それは、リーゼの展開した『修練の門』によるものだ。

 理性を失い竜と化したリーゼを打倒……殺害することで、結界を解除。

 元の世界に、強制送還される。

 ……対象者が術者を越える力を得、術者を殺すか……対象者を、竜が食い殺すか。

 そのどちらかしか、解除されない。

 

 だが、今は……中途半端な状態で、『修練の門』が解けかけ、術者が生存している。

 明らかな致命傷から、完全に回復することなど、想定されていなかったのだろう。

 秀人というジョーカーがいたからこそ、このような事態が引き起こされた。

「『修練の門』を越えられる程、強力な転移魔法は、持ち合わせていません……」

「……私も、攻撃魔法くらいしか知らない」

「……同じく」

 三人が三人、帰る手段を持ち合わせていなかった。

 

「……救助信号は?」

「転移のような、大きな力ならともかく……信号のような微弱なものは、遮断されてしまいます」

「……収束砲撃で、結界を破壊する……ってのは?」

「我々の全魔力、大気中の魔素、全てを収束しても、破壊には届きません」

 更に、魔力が希薄であることが追い撃ちだった。

「……どうするよ」

「……いっそ、この世界で暮らしますか?」

 食うに困ることはありませんし……と、しれっ、と言い放つ。

 冷静に見えるが、単にテンパッて思考停止しているだけのようだ。

 

「……秀人」

 

 と、それまで黙っていたはやてが、口を開いた。

「おまえ、洞窟が崩れた時のこと、覚えてる?」

「……ああ」

 覚えてるも何も、ほんの数時間前のことだ。

「あの時、どんな状況だった?」

「俺が、圧縮魔法の練習をしてて……」

「私がそこに、石を投げ込んで……」

「石が光って、なんか、ドーンって」

 こく、と秀人が頷く。

「圧縮……そして、爆発?」

 リーゼが、何かに気付いたらしい。

「……」

「……」

 顔を見合わせ……

 

 

「縮退」

 

「あぁ、それだ!」

 ぽん、と手を打つ秀人。

「…………って、縮退!?」

 ノリツッコミで、あたふたと慌てていた。

「知らないでやってたのかよ……」

 はぁ……とため息。

「まぁとにかく、あのエネルギーに指向性を与えて、『砲撃魔法』に転化させちゃえば……」

「ふむ……破壊は、可能でしょうね」

 着々と準備に向けた話し合いを続ける二人の横では、

 

「縮退かー……ははははは」

 秀人が、現実逃避していた。

「ていっ!」

 

――ゴンッ!

 

「ギャッ!」

 秀人の頭に、峰打ちをして現実に引き戻す。

「……でもさ、ただ押し潰すだけで、縮退なんて起きる?」

 プレス工場なんて、毎日ビックバンが起きてるわ……と、極めてもっともな疑問を口にした。

「勿論、ただ潰せば良い、というわけではありません。分子の逃げ場を、無くす必要があります。ですが、そんな真似、いかに魔導師であっても…………」

 

魔法とて、『可能』と『不可能』の境界は、しっかりと存在している。だが、これは……明らかに、その境界を越え、『不可能』の領域へ踏み込んでしまっている。

 

「「いやいやいや、でも実際……」」

 ピッタリとハモり、手を振る動作まで同じタイミングだった。

「とにかく!」

 秀人に蹴りを入れつつ……

「実際、そいつはそれをやっちゃったのよ!」

「……不可解です」

 

 普通の魔導師には出来ない。

 ならば、秀人と、『普通の魔導師』との違いとは……

「……あー、俺の、魔力資質だと思う」

 もう、隠していても仕方ない。

 そう考えて、情報を提供することにした。

「プレシアが言うには、『結合』、とか言うらしい」

「……なるほど。それならば、合点がいきます」

 普通の圧縮では、分子同士が結合するほどの密度は作り出せない。

 だが秀人なら、分子同士を、魔力資質により、無理矢理『結合』させることができる。

 だからこそ、可能だったのだ。

「つまり、その破壊力をもって、物理的に結界を破壊してしまおう……ということですね?」

「そ。これなら、魔力は殆どいらないでしょ?」

 破壊力に指向性を与えて打ち出すというのが、砲撃魔法。

 その破壊力というものが、魔力だろうと、反応プラズマだろうと、変わりは無い……かもしれない。

 

 ひとまず一晩休憩し、体力魔力を回復させた後、脱出を決行することにした。

 

 その夜……

「……リーゼ、起きてるよね」

 同じ毛皮に包まる、はやてとリーゼ。

 秀人が寝落ちした後、はやては切り出した。

「はい、主」

「あのさ……私たちの契約……」

「はい」

 契約とは、リーゼが、はやてを鍛えるという内容のことだ。

「アレ、一文だけ追加しとくね。覚えておいて」

 そして、リーゼの血色の瞳を見据え……

 

「『自身の生命を、可能な限り、維持すること』」

 

 ……かみ砕いて言えば、『勝手に死ぬな』。

 

 ……ということだ。

 

――ぎゅうぅっ……!

 

 リーゼの身体を、力いっぱい抱きしめる。

 身長差から、しがみつくような形だ。

「主……?」

 

「……おまえまで、私を置いていったら許さない」

 

「……」

「許さないからね……!」

 その肩が、震えていた。リーゼは、はやての背中に腕を回す。

「……了解しました、主」

 

 

 ……秀人は背を向けながら、そのやりとりを聞いていた。

(『おまえまで』……か)

 確かに、それらしい雰囲気はあった。

 年齢に見合わない、厭世観。

 それは、かつての自分……その日暮らしで、ただ余生を消費していた頃の自分と、似通っていて、

 

(お父さん、お母さん……俺は……いつになったら……)

 

 そのまま、眠りに落ちて行った。

 

 

 

 翌朝。

「そっちの準備はいいか?」

 天気は快晴。

「いいよー」

「問題ありません」

 三人は、脱出の用意を終えていた。

 秀人の目の前には、直径1メートル程度の岩石。

 それを、丸ごとエネルギーに換えてしまおうという算段である。

 

「んじゃ……始めるぞ!」

 

――ギィンッ!!

 

 岩石の表面が、秀人の魔力……空色に発光する。

「ぬぐぐ……!!」

 流石に、今回は的が大きい。

 小石のように、すぐ圧縮……とはいかない。

 だが、それでも……

 

――ゴリッ……

 

 僅かながら、圧縮が始まった。

「ふんぬうぅぅ……!」

 

――ゴリッ、ゴギッ……!

 

 潰れていく。

 押し潰されていく。

 やがて、巨大だった岩石は、バレーボール大に、ハンドボール大に、野球ボール大に……徐々に圧縮され……

 

――ゴウン、ゴウン……!

 

 ただ巨大なエネルギーが、岩石の周りを取り巻いていた。

「ここらが、限界だ……!

 はやて、リーゼ!!」

「よっし……やるよ、リーゼ!」

「了解しました、主」

 

――キィンッ!

 

 二人の足元に、古代ベルカ式魔法陣が展開。

 濃淡二色の闇色の魔力が、『筒』の形状を成していく。

 その『筒』の内部に、エネルギーを移し替えていく。

『筒』を維持するのは、一番器用なリーゼが担当。

「充填率、24%、38%、56、64、72、82、96、97、98、99…… 100%です、主!」

「よっし!」

 そして……引き金を引くのは、はやての役だ。魔剣を引き抜き……

「ロードカートリッジ!! 行くよ!」

 破裂寸前のエネルギーに、とどめの一撃!

「紫電……一閃!!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――!!!!

 

 

 音をも突破し、破壊の一撃は、天空へ突き進む。

 

 

 

――――バギィイイインッッッ!!

 

 

 

 その一撃は、『修練の門』を、一撃の下に破壊し……閉塞されていた世界に、風穴を開けた。

 

「……今だァッ!!」

 

 秀人の号令の下、リーゼは秀人、はやての二人を抱え、転移魔法を発動。

 

「行きますッ!」

 

 その風穴から三人は、ついにこの世界から、脱出を果たした。

 

 

――ビーッ、ビーッ!

 とある小型戦艇のコンソールが、けたたましく鳴った。

 それに気付いた乗組員達は、すぐさまデータを参照する。

「この反応……まさか!」

 すぐさま、上官へと通信を繋ぐ。

 

「クロノ執務官! 漂流中の嘱託魔導師を発見しました!」

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「ぐわああああああああああああああああっ!」

 

「ひゃああああああああああああああっ!」

 

 落ちていた。とにかく、あの場所からの脱出を第一に飛び出したものだから、座標の指定こそ出来たものの……うかつなことに、『高度』の入力を、すっかり忘れており…………

 

――――高度1200mからの自由落下をする羽目になっていた。

 

「ひ、飛行魔法、飛行魔法……!」

 はっと思い出したかのように、それを行使するのだが…………もともと、発動をレイジングハートに任せていた節のあるそれは、思うようには展開できず……

「ぬおぉおおおお勢いがぁあああああああ!」

 自由落下の加速度とGが凄まじく、効果的な減速は果たせていなかった。

 

 そして、もう一方も。

(スレイプニル出したらバレるぅううううううう!)

 ……秀人への身バレを防ぐために、最も得意な汎用魔法の使用が躊躇われていた。

「り、リーゼ! どうすんのコレぇええええええ!?」

「と、とにかく、何でもいいから減速を……地表へ向け、砲撃なりを……反発作用で、加速度を相殺しましょう……!」

「わかった! おい、秀人! 聞こえたなこのバカ!!」

「お、おう! 聞こえた……って誰がバカだこの単細胞!!」

 言い争っている暇は無い。秀人は、空中ではやてとリーゼをキャッチし、一塊になる。

 そして、二人で地表へ向け……

「インパクトォオオオオッ!!」「ナイトメアーーーーーーーー!!」

 衝撃波と砲撃を発射。数拍を置き……

 

――――――――………………ズッドォオオオオオオオオオオオオンッ!!

 

 地上で爆裂した余波が、三人へ吹き上げる。

「ぐふぉっ……!!」

 咄嗟にはやてとリーゼを抱き込むことで、一身にそれを浴びた秀人が呻く。

「ちょ……おい!?」

「へ、へーきへーき…………」

 肋骨が何本か損傷しているのだが、気にせず、着地の態勢に入る。

「よし、この高さなら…………。はやて、剣貸せ」

「え、ええ……? いいけど…………」

 はやての背中から、魔剣を引き抜くと、宙へ放り……

「せいっ!!」

 結合。自身らに影響する重力の対象を、魔剣へと『結合』させる。

 

――――ビキ、ビシッ……!!

 

 秀人たちの落下速度が緩やかになるのと同時、魔剣が、エネルギーに負け、崩壊を始める。完全に崩壊するより先に……

「今度こそ……、インパクトッ!!」

 

――――ドパァアアアアアンッ!!

 

 再びの、衝撃波。これにより、秀人たちの落下速度は、せいぜい五階建てのビルから飛び降りた程度にまで減速されていた。

「――――ふンッ!!」

 

――――ドガシャアアアアアアアアアアンッ!!

 

 二人を抱えたまま、足からの着地に成功する。どうやら、足元には何らかの残骸が散乱していたらしく、直接大地に叩きつけられるよりは、まぁマシな衝撃だった。

「いっててててて…………!! おい、大丈夫か?」

 がらがら、と頭の上に覆いかぶさっていた何かの残骸を除けつつ立ち上がる。

「まぁ、生きてるよ……」「無事です」

 二人も無事な様子だ。

 

――――ガコンッ。

 

 ……役目を終えた魔剣が、地面に突き刺さり……バキン、と折れた。

「あー……んで、どこだ、ここ」

「座標は、高度以外は合ってたけど…………おいリーゼ。ここどこだ」

「………………」

 と、リーゼは青い顔で沈黙していた。そう、敢えて言い表すなら………………

 

『……………………やっべぇ』

 

 …………で、あった。

 その表情から何かを察したはやてが、周囲を見回す。

「ふむ…………うむ………………なるほど。

 

――――――私ん家だ」

 

 

 ………………衝撃波と砲撃と、おまけにもう一つ衝撃波を喰らい崩壊したのは、はやての自宅だったらしい。

「あ、あるじ…………もうしわけ、もうしわけありません………………!!」

「いや、気にすんな。命あっての物種だ」

 愛着の無い家だっただけに、特に感じる物は無いようだった。

 

「おっ、念話が使える。ってことは…………」

 と、目の前に魔法陣が開き…………

 

「――秀人、無事か!?」

 

 現れたクロノは、無事に秀人と…………その同行者であった、はやてとリーゼを保護。アースラへと帰還するのだった。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 むくっ、と、なのはは目覚まし時計よりも先に起き出した。

『おはようございます、マスター』

「おはよ……あと二日、か」

 カレンダーを見ると、日付は八月三十日。

 夏休みが終わるまで、残り僅かだった。

「くかー……」

 タオルケットを蹴飛ばし、パジャマが腹までめくれ上がっているフェイトに、それを足蹴にして眠るヴィータ。

 ユーノとアルフは、またしても缶詰だ。

「……ランニング、行こうっと」

『お付き合いします』

 レイジングハートを首にかけ、支度を整えて家を出た。

 

 

 早朝の土手を、マイペースに走る。

『ですが、驚きました』

 胸元で揺れるレイジングハートが、話し出す。

『まさか、マスターが剣術を修めるとは』

「うん、いろいろあってさ……黙っててごめんね?」

『いえ、構いません。戦闘の幅が拡がるのは、歓迎すべきことです』

「うん。とりあえずの目標は、ヴィータとフェイトに、剣術オンリーで勝つこと」

 元々、砲撃魔導師として力を伸ばしていたなのはと、近接型オールラウンダーのフェイト、白兵戦のスペシャリストであるヴィータでは、大きく差がついている。

「レイジングハート、私の魔力はどう?」

『現在、全快時の28%です』

 全快時の、約三割。

 砲撃も射撃も、一応は使えるまでに回復したが、射程も威力も心許ない。

 今までと同じ戦い方は出来ない。

 だからといって、俄か仕込みの剣術では、逆に不利になる。

 それゆえに、剣の腕だけでも、彼女らと対等にならなくてはならない。

「……まぁ、地道に基礎トレーニングだね」

『はい、マスター』

 それにしても、と前置きし、深く深く、ため息をついた。

 

「秀人さん、遅いなぁ……」

 

 既に、失踪から一ヶ月が過ぎていた。

『……』

 同じような思いで、沈黙するレイジングハート。

「あーあ、夏休みくらい、一緒に過ごしたかったなぁ……」

 

――……ピリリリリッ

 

 と、ポケットに突っ込んでいた携帯電話が鳴った。

 待受画面には……クロノからの着信が告げられていた。

「……なんだろ?」

 足を止め、土手に腰掛けつつ、携帯電話を耳に当てた。

「よっ、クロノ。どうかした?」

 

『高町なのは!

見つかった!見つかったんだ!』

 

 クロノにしては珍しく、慌てふためいた、ハイテンションな口調でまくし立てる。

「……何が?」

 

『秀人だよ!

……ははっ、あの馬鹿、やっぱり無事だったんだ!』

 

……なのはは、電話を切ることも忘れて、自宅に向かって猛然とダッシュした。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「ふぃー……生き返るわぁ」

無事に保護された俺らは、何は無くともシャワーを浴びたかった。リーゼも、一度は致命傷を負ったのがウソのように万全で、検査は不要……らしかった。

(ま、調べられたらまずい事情でもあるんだろ)

 じゃりじゃりとした砂やら、こびりついた血糊を洗い流していく。

「お」「あ」

 サッパリしてシャワー室を出たところで、同じくシャワーを浴びていたはやてと出くわした。

「よっ。調子はどうだ?」

「…………………………」

 はやては、無言……というか、口を開いては閉じて、を繰り返している。顔色も赤くなったり青くなったり…………大丈夫かコイツ。

 

「おい、秀人。艦長との面談まで時間が……」

 クロノが、痺れを切らしたのか俺を呼びに来た。今回の事は、完全に管理局側の過失だったらしく、その件についての話がある、とのことだ。まぁ、順当にいけば謝罪、そして示談交渉かな。別に、得る物こそあったが、何かを失ったわけでもないし……別にいいんだがなぁ。

「んだよ。久々のシャワーくらいゆっくり入らせろよ」

 むしろ湯船に一時間くらい浸かっていたい気分だ。

 

「んじゃな、はやて」

 コイツも日本在住だし、これからもちょくちょく会えるだろう。

「………………、あ、……が、と」

 ん? 何か言ったか?

 振り返ると、はやてが、真っ赤になって、怒っているような顔をしていた。

「あ、……、」

 ど、どうした。体調悪いのか。

「あ、あ……!

 

――――ありがとう、って言ってんのよ!」

 

 

 …………それだけ言うと、曲がり角の向こうへすっ飛んで行ってしまった。

「……ありがとう、か」

 何だかんだ言うけど、アイツ、割と義理堅いやつだよな。

 

 

 艦長室では、リンディさんがいつになく真剣な眼差しだった。対面に座るや、深々と頭を下げた。

「この度の事故の件、完全にこちらの不手際によるものです。誠に、申し訳ありませんでした」

「ん、いえ、別に気にしてませんので……」

「いえ。信賞必罰です。此度の失態、いち部隊を預かる身として、わたしは責任を取らなくてはなりません」

 責任て。別に、そんな大事にしなくても…………うーん、でも、このままだと「申し訳ありません」「いえいえ、お気になさらず」の無限ループになりそうだ。もしくは、リンディさんが妙な提案をしてくる前に……

「んじゃ、条件いいですか」

「何なりと。力の及ぶ範囲において、最大限の協力を致します」

 んじゃ、えーっと……

 

「FCR33と月木アレーテヴォルテックスとゲイルスピードとオーリンズを」

 

「…………え? あの、何を仰っているのかが……」

「いや、だから、俺のバイクに着けられるFCRキャブレターと、集合マフラーと、軽量ホイールと、高性能サスペンションをですね。あ、400のじゃないですよ。600cc用じゃないと着けられないんで」

「え? えぇ……?」

 なんかめっちゃ困惑してるけど……何かおかしいこと言ってるか? 正直、無ければ無いでどうにでもなる、言ってしまえば無駄遣いになる趣味の用品を寄越せって言ってるようなもので、これはこれで十分な謝礼になると思うんだけど……

「あ、あなたって人は……………………はぁ……」

 リンディさんが、ガスが抜けた風船のように萎びてしまった。

『艦長、失礼します』

 と、通信が入る。

『なのはさんから、こちらへ来たいとの連絡が』

「構わないわ。お通しして」

 

「……やっぱ、心配掛けちゃった感じですか」

 期日としては、ほとんど予定通りだけど……その間の連絡が、全く取れていなかったんじゃ大変だよなぁ……

 

 そして、ほんの数分後。

 

――ばんっ!

 

「――――秀人さんっ!!」「ひでとー!」

 なのはとフェイトが、ドアを蹴破るようにして飛び込んできて……おぉっと。飛び込んできた。

「おー、久しぶりー」

 部屋の入口あたりでは、ユーノとアルフも、苦笑いしながら立っていた。

「久しぶり……って、いつも通りみたいだね」

「もう……あんまり心配かけさせるんじゃないよ」

 ヴィータの姿は見えないけど……多分、またマリーのところだな。

「心配したんだからね!?」

「すまん、すまん……って、何だそれ……」

 ……なのはの腰に、明らかにそれっぽい……匕首、いや、脇差……小太刀? が二振り、佩かれている。恭也にでも貰ったのか?

 まぁいいか。

 

「んで、……悪い、今日って八月の何日?」

 

 日時の感覚が、完全に狂っている。

「今日が29日で、明日が30日」

 うーん……そっかぁ……

「悪かったなぁ。あちこち連れて行ってやる予定だったのに…………」

「……ううん、無事なことが一番大事だよ」

 

「フェイトも。心配かけたな」

「できれば、ボクもついて行きたかったんだけどねー。ひでとはさびしくなかった?」

「いや、寂しいとか以前に必死でなぁ……ああ、そうそう。めっちゃ強い子も一緒だったぞ」

「……へ?」「……え?」

 まだ言って無かったっけ。

「たまたま出くわしたんだけど、一緒に訓練とかしながら過ごして……って、どうした二人とも。変な顔して」

 なんか、釈然としなさそうだ。

「単細胞だけど悪いヤツじゃないから、今度会ってみろよ」

 アイツにも、悪いことばかりじゃないだろうし。

「う、うん……」

「そういや、明日はまだ夏休みなんだよな?」

「! うん!」

 なのはは、期待するように強く頷いた。

「んじゃ……明日くらいは、パーっと出かけるか!」

「うん! 行く!!」

 

 おお、ここまで喜んでくれるとこっちも嬉しいぞ。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 はしゃぐ二人と、一緒にわいわいと騒ぎながらも……フェイトは一人、疑念を抱いていた。

(滅多に人がいない世界で、近いエリア内で、言語の通じる相手と遭遇する確率って……どんな偶然なんだろうね)

 ふと、去り際にリンディと目が合う。

「…………」

「…………」

 フェイトは、その数瞬で、己の役目を自覚した。

「ねぇ、ひでと」

「おう、何だ?」

 

「ボク、その子に会ってみたいなぁ」

 

 

 

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