魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第三十五話

「……」

 それは、年若い少女だった。

 外見年齢は、15に届くかどうか。

 青色がかった、黒というよりは藍色に近い、不思議な色合いの髪の毛。白い肌。

 そして、好奇心に輝く、紫の瞳。

 それだけなら、ただの美しい異国の少女、という風貌だが、服装がこれまた異様だった。

 明らかに室内用のサンダルをつっかけ、ほつれたジャージを身につけ……その上に、薄汚れた白衣を羽織っていた。

「……ふぅん、」

 道を行く誰もが、そのちぐはぐな姿に振り返る。

「……へぇ、」

 少女に、頓着した様子は無い。

 手元に開いた本に視線を落とし、道のド真ん中を闊歩していた。

 難解な哲学書のように読み進める、その本の表題は……

 

『今日から始める、30days拳法トレーニング』

 

 ……と、あった。

 読み捨てる類の、中身の無い本。

「……ふむふむ」

 それを、大まじめに読み込みながら、ぱたぱたとサンダルを鳴らしている。

 

「……うん。アイは、またひとつ賢くなった」

 

 読み終えた。

 どうやらこの少女は、『アイ』という名前らしい。

 それを白衣のポケットに突っ込み、また何かを取り出す。

「やっぱり、おそとは勉強になる」

 今度の本は、『2ストロークエンジン・チューニングマニュアル』。

「データだけじゃ得られないものが、ダイレクトに感じられる。

『ひゃくぶんはいっけんにしかず』は、真理だった」

 そんな動作を繰り返しながら、歩いていく。

 

「あれは……?」

 と、ふらふら歩いているうちに、大通りを外れていた。

 目の前には、開けたグラウンドと、サッカーに励む少年達。

「……アイは、かれらが何をしているのか、分からない。だから、アイはかれらに聞きに行く」

 土手を越え、グラウンドの前までやってきた。

 そして、そのままフィールドに足を踏み入れようと……

 

「待った待った!ちょっと待ったー!!」

 

 傍らのベンチに座っていた、活動的な雰囲気の少女が慌てて止めた。

「おねーさん、試合してるんだから入っちゃ駄目だよ!」

「……? アイは、かれらに聞きたいことがあるだけ」

「だーかーら、試合中なんですってば!」

 首を傾げるアイを、ずるずるベンチにまで引っ張っていく。

「阻止された……」

 ベンチに座り、平坦な表情で、少女を観察し始めた。

「答えられることだったら、私が答えますから……」

 かくん、と首を傾げ、第一の質問。

「あなたはだれ?」

 あまりに澄んだ瞳。

 その色合いを不思議に思いつつ、自己紹介をする。

「私は、八代望って言います」

「あいしー。のぞみ、覚えた」

 拙いなんちゃって英語で、返事をした。

「おねーさん、外国のひと?」

「ガイコクって、なに?」

「え? えーっと……」

 虚を突かれたが、なんとか分かりやすい言葉を捻り出した。

「日本の出身じゃあ無い……ですよね?」

「いぐざくとりー。アイは……」

 ……と、言いかけたところで、言葉が止まった。

「やめる。はなしたら、姉様におこられる」

「お姉さんがいるんですか?」

 望は、出来るならその人物に連絡を取ってみようと考えた。

 もしかしたら、迷子になった観光客という可能性も……

 

 

「あのいしあたま。いつかたおす」

 

 

 ……無さそうだった。

「おーい、望……って、誰だその人?」

 そこへ、試合を終えた少年達がぞろぞろやってきた。

 得点板には、一点差で逃げきったことが印されていた。

「おつかれ。……なんか、外国の人みたい」

「うぉっ、ガイジン!?」

 にわかに騒がしくなる。

 アイは健太の持つサッカーボールを、じぃっ、と見つめていた。

「なんか、サッカーに興味があるんだってさ」

「へぇ……」

 試合は終わり、グラウンドは自由に使える状態になっていた。

 

「……ねーちゃん、一緒にやる?」

 

 アイは、迷わず頷いた。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 秀人が退室していって、少しして。

「……ふん」

「お邪魔します」

 はやてとリーゼの二人が、艦長室に呼び出されていた。

「お二人とも、体調の方はいかがかしら?」

 にこやかに話しかけるリンディ。

 それに対して……

「良いも悪いも無いわよクソッタレが……」

 不機嫌丸出しで、髪の毛をがりがり掻く。

「主、言葉遣いが汚いですよ」

 それを嗜めるリーゼだったが、

「ふんっ」

 ぷいっ、とそっぽを向かれてしまっていた。

「では、手短に済ませます。八神はやてさん、リーゼさん」

 だが、そこはやはり軍人か。動じる事無く、話しを進める。

「まず、貴女達についてです。あなたは、どのような経緯で、魔法の技術を入手したのですか?」

 

 魔法とは言っても、それが現地の文化に基づいた……例えば、神道、密教、仏門……などであれば、特に追及する理由は無い。

 それはあくまで、現地の文化なのだから。

 ならば、『時空管理局』がそうする理由は……

 

「私たちの世界の魔法を、何故、現地人のあなたたちが保有しているのでしょうか?」

 

 自身らの技術の流出が、認められた場合だ。

 

「お答え頂けますか?」

「……」

 はやては一瞬だけ、『口ごもるフリ』をして……事前にリーゼと打ち合わせ済みの事を、

話しはじめた。

「……私の家の前に、変な猫が転がってたんだ」

 あくまで、平静に。

「……」

 リンディの放つ、無言の圧力を受け流す。

「んで、手当てしてやったら……何でかは知らないけど、この姿になってさぁ」

「……成る程。では、リーゼさん」

「はい」

 はやての脇に控えたリーゼに、話が振られる。

「なぜ、彼女に魔法を供与したのですか?  ……謝礼、ということでしょうか?

もしくは、何らかの意図が?」

「いえ」

 ふるふる、と頭を振る。

「……覚えていないのです。

何故、私が倒れていたのか……

この『リーゼ』という名も、主はやてにより授かったものですから」

 

 嘘を嘘と見抜かれないコツは、幾らかの真実を織り交ぜること、らしい。

 

「ただ、『魔導を伝えよ』と、頭の片隅に残っていたので……」

 はやては、それを特に否定せず欠伸していた。

「……そうですか」

 リンディも、少し勘繰りながらも、一応は納得したようだ。

 が、きゅっと眉を上げ、厳しい顔を作った。

「ですが、いくらなんでもやり過ぎです。こんな小さな子を、あんな危険区域に放置するなど……」

 

「おい、オバさん」

 

 そこで、はやてが不躾に話を遮った。

「憶測でベチャクチャ喋るんじゃねぇよ。

 魔法の修業も、全部私がリーゼに命じたんだ」

 きん……と、脅すように魔剣の鯉口を切る。

「死んでしまったら、どうするのですか?」

 リンディの案ずるような言葉に、はやては鼻を鳴らした。

 

「別に?

 

 死んだなら、私は所詮、その程度ってことでしょ」

 

 本気、とリンディは判断した。

「つーわけで、私の魔法の出所は不明。

……もう戻っていい?眠いんだけど」

「……ええ、ありがとうごさまいます」

 まだ、どこか腑に落ちない様子のリンディを残し、艦長室を後にした。

 

「行くよ、リーゼ」

 リーゼの手を握り、すたすたと通路を歩く。

「はい、主……ですが、どこへ……?」

「あー……」

 ……家が吹き飛んだことを、今頃思い出した。

「どうすっかなぁ……適当に、そのへんでアパートでも借りるか」

 借りる……の辺りに、まだ人間味が感じられる。

 

 ばたばた、と、向こうの通路を走り抜けていく集団があった。

「うおりゃああああ!」

「いやっほー!」

「あわわわわ……!」

 疲れなど何のその、二人の少女を肩に乗せ、猛烈な健脚で走る秀人。

 そして、その後を追う、中性的な少年と、野性的な女性。

 彼等は秀人を中心にするように、楽しげに、笑顔だった。

「チッ……」

 面白くない。

 ……一ヶ月、苦楽を共にしてきて、親近感を抱かない方がおかしい。

 

 だというのに、秀人には待っていてくれる仲間がいた。

 

 ……言ってしまえば、子供じみた独占欲だ。

「……ちぇっ」

 足を止め、恨めしげな目で、秀人を見送った。

 

 リーゼが、はやての手を引く。

「主、空腹ではありませんか?」

「……うん、お腹すいた」

 本人は気づいていないかもしれないが、消沈しているようだ。

 さっきまでとは逆に、リーゼに手を引かれ、俯きながら歩く。

「……ケーキ食べたい。しばらく肉はいらないから」

「そうですね。そのように食事をご用意致します」

 

「おーい、はやて!」

 

「……え?」

 振り向いた先、秀人が、はやての名を呼びながら駆け寄ってきた。

「え……なんで、」

 行った筈では?

 混乱するはやてに、秀人が言う。

「いや、あのさ……俺達、明日あたり遊びに行くんだけど……

 

一緒に来ないか?」

 

「……えっと」

 はやては、今度は本気で思い悩んで……

「……リーゼ、どうしよう?」

 結局、リーゼに聞いた。

「主が、望まれるままに」

 

「……」

 なのはは、少し警戒気味に。

「へー……あいつボクよりちっこいのに、つよいんだ」

 フェイトは、興味深そうにじろじろと見ていた。

 ユーノとアルフも、特に拒否しない。

 

 つまりあとは、はやての返事次第なのだが……

「……ううぅ」

 物怖じしていた。

 

 戦闘や修業には積極的だが、人付き合いには消極的だったらしい。

 そして……

 

「……リーゼと、一緒でいいなら」

 

一応の、オーケーを出した。

「もちろん。リーゼもいいよな?」

「それを主が望むなら」

 

 ……二人増えて、七人の大所帯となった一行は、がやがやと(主にフェイトが)、転送ポートから降り立って行った。

 

 

………………

 

 

 ところ変わって、地球支部。

 その奥まった一角。

『重要参考人留置室』に、クロノは来ていた。

その部屋の中は、ごくオーソドックスな病室だ。

そのベッドの住人に、クロノが話しかける。

「カツラギ・テツヤ。気分はどうだ?」

 カツラギと呼ばれた、がっちりした体型の壮年の男は、首を僅かに動かした。

「……悪くは無い。相変わらず、身体は動かないがな」

 この男はかつて、秀人の蒼炎に焼かれた……『雑魚騎士』の一人だ。

 一度は、『王』の襲撃を受け、闇の書に取り込まれていたが、こうして、自我を取り戻していた。

「申し訳ないが、始めさせてもらう」

他にも生存者がいた中で、何故、このカツラギという男だけが幾度も聴取を受けているのかと言と……

「まずは、その少女の身体的特徴を……」

 そう。

『王』の素顔と、変身後の姿、その両方を、目撃していたからだ。

 

 クロノの聴取により、似顔絵が作成されていく。

 そして、一枚の人物イラストが出来上がった瞬間……

 

「これは……!」

 

 クロノは、バタン!とドアをブチ開け、秀人の元に飛び出して行った。。

「ダメだ、秀人……!お前の隣にいる、そいつは!」

今なら、間に合う。

全力で駆けるクロノ。

だが……

 

 

「……どこへ行く気だ?」

 

 

……その目の前に、一人の男が立ち塞がった。

「なっ……!?」

その男は、いきなり現れた。

この、内部への直接転送が不可能な、管理局内に。

何かの制服のような、無機質な服。そして……顔面を覆う、珍妙なデザインの覆面。

 

「貴様、何者だ……!?」

 

デバイスを構えるクロノ。だが……

「遅い」

 

――ガシィッ!

 

「ぐぁっ……!?」

……いくら焦っていたとはいえ、執務官。

それを、一瞬で間合いを詰め、頭部を鷲掴みにしていた。

「この距離なら、殴った方が早い。鉄則だぞ、クロノ」

「なに……!?」

名前を呼ばれ、驚くクロノ。

「……! 君は!」

ぴん、と、ある人物を思い出す。

 

――近距離戦闘。

 

――通信妨害

 

――変身偽装。

 

そして――

 

「お前が知るには、まだ早い」

 

――催眠暗示。

 

「う……ぐぁああああああっ!?」

頭の中を、直接手で掻き回されるような違和感。

頭の中に組み上がっていったパズルが、ばらばらに分解されていく。

「なぜ、だ……!」

段々と朦朧としていく意識の中、クロノは、仮面の男の真の名を、呼んだ。

 

「……何故だ!アリア!ロッテ!」

 

ぷつん……と、クロノの意識が、闇に沈んだ。

 

 

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