魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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第六話

 

「フェイト……フェイトぉっ!」

 アルフが、倒れ伏すフェイトに駆け寄り、抱き上げる。白い肌には、無数の痛々しい傷が刻まれ、今もまだ血を流している。

「あ、あいつ……! またフェイトをいじめやがったな!」

 ぎりっ、と歯を食いしばる。怒りのままにプレシアを追おうとしたアルフだったが、フェイトが手を掴み、止めた。

「アルフ……おかーさんのこと、悪く言ったらだめ」

「でも!」

 ぎゅっと力を込めた瞬間、フェイトが痛みに顔をしかめ、アルフはハッと冷静になった。

 今は怒るより……フェイトの傷を治すことが先だ。

「傷跡一つ、残してやるもんか……」

 アルフの足元に、橙色のミッドチルダ式魔法陣が展開する。暖かな光と共に、魔法が発動された。即効性はあまり無いが、じっくりと、人体の治癒能力を活性化させる治癒魔法だ。外傷ならば、一日ほどで塞がる。

「ほら、帰ろう」

 そして、消耗したフェイトのかわりに転移魔法を行使し、活動拠点へと戻った。

 

「すぅ……すぅ……」

 ベッドで横たわるフェイトを、アルフが膝枕で休ませていた。

「……よく寝てる」

 しばらくは起きないだろう。そして、起きたときには魔力も体力も完全に回復しているはずだ。

 目にかかっていた前髪をのけてやる。

「ん、ん~……」

 ぎゅっ。

 寝ぼけて、その手にじゃれ付いてきた。アルフはさせるがまま、慈愛に満ちた笑みを浮かべる。

「おかーさん……」

――ずきん、と。胸に痛みが走った。

 フェイトが真に求めているのは、アルフではなく、プレシアの愛情。わかってはいても、そう簡単に受け入れることはできない。それでも。たとえ、フェイトにとって自分の優先順位が二番目以下であろうとも。

「フェイトに救われたこの命は……全部、フェイトのために使うよ」

 フェイトが望むなら、暴力も甘んじて受け入れよう。ストレスのはけ口にでもなろう。

 そう考え、アルフは苦笑を漏らした。

「あたしはやっぱり、イヌ科なんだろうねぇ……」

 

 そして、ほぼ半日が過ぎ、太陽が頂上に昇った頃。

「んー…………朝?」

 フェイトが目を覚ました。アルフの治癒魔法がよく効いたのか、鞭の傷は殆ど見えなくなっていた。眠そうに目元を擦り、枕もとの時計を覗き込む。

「お昼だ……」

 そしてまた、ごろんと横になる。寝すぎて、まだ頭がぼんやりとしているようだ。

「フェイト、起きた?」

 キッチンから、アルフが声を掛ける。

「朝……じゃなくて、昼ごはんできたよ」

 ご飯と聞き、フェイトの胃が空腹を訴えた。よくよく思い出してみれば、この24時間、まともな食事を摂っていない。最後に口に入れたのは、スティック状の栄養食だったか。

 

 テーブルの上には、皿に載せられた料理が並んでいた。殆どは出来合いのものを買ってきて、電子レンジで温めたものだ。

豚の角煮。ローストビーフ。ハム。ベーコン。メンチカツ。フライドチキン。ハンバーグ。フランクフルト。

肉料理で埋め尽くされていた。

「いただきます」

 そして、猛然と口に詰め込み始める。 

 取り皿には、半分だけ食いちぎったメンチカツや、まだ肉が付いているフライドチキンが乗っているというのに、ベーコンに手を伸ばし、二つ目のフライドチキンにかぶりつく。

「はぐっ、はぐっ……ん」

 口元はソースや油でべたべたに汚れ、食べかすをぼろぼろと落としている。

食事のマナーというものが、およそ感じられない……まるで、幼児の食事だった。

「ごちそーさま」

そして、取り皿にかなりの量の食べ物を残したまま、食事を終えた。皿を片付けるでもなく、口元を袖で乱暴に拭い、ソファに身を沈める。

 アルフは自分の食事を終えると、フェイトが食い散らかした料理や食べかすを片付ける。

(リニスが見たら、なんて言われるだろうね)

 

 なにも、フェイトは元々こんな食べ方をしていたわけではない。フェイトが一連の行動を取り出したのは、リニスがいなくなってからのことだった。それまでは、きちんと綺麗に食事をして、片付けもしていた。それが、今ではごらんの有様だ。

 最初は、注意もした。だが、フェイトはそうすると決まってヒステリックに怒り、テーブルの上のものを投げつけ、ひっくり返し、部屋に閉じこもってしまうのだ。いつしかアルフは、それを注意しなくなった。

 

「フェイト、歯磨きしよう? 虫歯になったら大変だよ」

「えー……」

 最初は面倒くさそうにしていたフェイトだったが、口の中に残る食べかすが不快なのだろうか、割と素直に身を起こした。

 

うがいをして、水を吐く。そして歯ブラシを……アルフに手渡した。

「あいよ」

 受け取ったアルフは、歯ブラシにイチゴ味の歯磨き粉を適量乗せ、フェイトの口に入れた。かしかしかしかし……と、丁寧に丁寧に歯垢をこそげ落としていく。それが終わると、フェイトはまたうがいをして、泡の混じった水を吐き出す。最後に、アルフは口元をタオルで拭いてやった。

「……寝る」

 感謝するでもなく、すたすたと洗面所を後にし、自室へと戻って行った。

 

「…………」

 ごろんとベッドに寝るフェイトは、ポケットに手を突っ込み、金色をしたアクセサリーを取り出した。

「バルディッシュ、まだ反応は無いよね」

『Yes sir .』

 反応とはもちろん、ジュエルシードのことだ。

「……早く、来ないかなぁ」

 暴走体を叩きのめし、ジュエルシードを奪い取り……

「高町なのは……だったっけ」

 時には、別の敵と奪い合い、それすらも叩き潰し……

「ふふふふっ……楽しいなぁ」

 背筋が、高揚でゾクゾクと震える。

 

 戦いは、いい。ただ、目の前の目標を破壊することだけを考えていればいいのだから。余計なことなど。母親が、本当に自分のことを○してくれているのかなど……

 

――がんっ!

 

 フェイトは、『その思考』を断ち切るように、ベッドのパイプに額を叩き付けた。

「う……うあぁ……」

 顔に生暖かい感触を覚え、ベッドのシーツに突っ伏す。じわじわと、紅い斑点が広がっていく。

「おかーさんは、ボクのこと、ちゃんと好きだもん……」

 音を聞きつけ、アルフが部屋に飛び込んでくる。

「フェイト、今の音は何…………フェイトッ!!」

 顔を血で濡らすフェイトをみて、蒼白になる。頭突きの影響で意識が朦朧としているフェイトは、それをぼんやりと眺めていた。

「何でこんな馬鹿な真似を……!」

 顔を拭い、傷口を抑える。そしてまた、治癒魔法を掛けられる。

 

(ご飯を作ってくれた)

 科学者だった母親。毎日が戦場のように忙しく……それでも、顔を見ない日は、言葉を交わさない日は無かった。

(同じベッドで寝てくれた)

 どんなに研究が切羽詰っていようとも、必ず家に帰り、娘を抱きしめ、一緒に眠り、「おはよう」と、朝を迎えた。

(誕生日には、ピクニックに行った)

 苦言を呈されようとも、丸一日の完全休養を取り、通信端末まで家に置き去りに、娘と

の時間を作った。

 

 シアワセな記憶に、フェイトは、年頃の少女らしい笑みを浮かべた。

(不安になることなんて、何も無いんだ)

 

 プレシア・テスタロッサは間違いなく、心から娘を愛していたのだから。

 

 今は変わってしまった母親。だが、フェイトは信じる。母親の望みを叶えてあげることができれば……いつか必ず、昔の母親に戻ってくれると。

「おかーさん……また、ピクニックに行きたいなぁ……」

一面の花畑。そこにシートを広げ、風を感じ、緩やかな時を過ごす。そこには、自分がいて、母親がいて、アルフがいて、リニスがいて。

「ママ、『私』、ママのこと大好き!」

そう言う娘に、母親は微笑みかけてくれるのだ。そう、あの日のように。

 

「私も……○○○○のことが、大好きよ」

 

 その四文字だけは……思い出せなかった。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 とんとんとん……

 朝の台所に、包丁が規則正しくまな板を叩く音が響く。見る見るうちに一口大に切り分けられていくキャベツ。

「サラダはこれでよし、と」

 それを皿に盛り、プチトマトで彩りを加える。

「お、やばいやばい」

 味噌汁が煮立ってしまう前に、コンロの火を止める。

 その拍子に、肘が包丁が当たり落としてしまう。包丁は、万有引力の法則に従い、切っ先を下に向けたまま落下し……

「ぎゃっ!!」

 ……俺の足に、刺さった。あいにくと、こんな狭い家でスリッパなんぞ履いていられない俺は素足だ。その足の甲に包丁が突き立っている光景は、どことなくシュールだった。  

とにかく、抜こう。柄に手を掛け……よい、しょっと!

「んぐっ!」

 ずるっと抜けた。切っ先は、俺の血でぬらぬらと光っている。今日の昼もこれで料理をするのかと憂鬱になりながら……俺は、包丁をそっと流し台に置いた。

 足の傷は問題ない。見れば、もう既に血が止まり、薄皮が張ってきている。

 

「……前から気になってはいたんだけど、どうなってるの? 秀人の身体は」

 それを見ていたユーノが、一言。

「知らねぇよ。物心付いた時からこうなんだから」

 刺々しい口調に、ユーノが身を竦めた。

「ご、ごめん……」「あ、いや、俺こそ……」

 あー、くそ。何ユーノに当たってるんだよ俺は!

 

「おはよー……って、あああああ!」

 

 びっくりした。なのはが、起きたと思ったら大声を上げ、詰め寄ってくる。

「秀人さん、今日の朝ごはん当番は私だよ!?」

「あ、いや、悪い。気持ちよさそうに寝てたから……」

 もやもやとした気分は、一瞬で吹き飛んだ。

 

 昨日、随分と晴れやかな顔で帰ってきたから、きっと何かに踏ん切りが着いたのだろう。ぐっすりと安眠していたものだから、つい起こすのを躊躇ってしまい……

「もう……それじゃあ、夕食当番は私に交代してね?」

「ああ、わかったよ。……ほら、顔洗ってきな」

 そして、訪れる静寂。

「いつか、話すから」

「え?」

 ユーノが、きょとんと見上げてくる。

「俺の身体のこと、いつかはちゃんと話すから」

 

 俺の方は……まだ、踏ん切りは着いていない。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「……はぁ」

 くるくると手元で鉛筆を回しながら、物思いにふける。今は、国語の授業中。いつかと同じように、作文の授業だ。『将来の夢』という、願ったり叶ったりのタイトル。十分で400文字を埋め、残り時間が過ぎるのを待つだけになっていた。

 かりかりとノートに線を書いていき……ひし形になる。ジュエルシード。

 さらに、かりかり。今度は三角形……何これ?

(三角形、三角形……)

 記憶の中を検索する。最近、見たような…………………………あ!

「思い出した!」

 あの、フェイトの手の甲に付いてたやつだ!

 思い出した途端。

いらいらいらいら……………………

『あはは、何?』

人を小ばかにしたような嘲笑とか。

『叩き潰してやる!』

 身勝手な敵意が篭った目とか。

 

「ああ、ムカつく!」

 

 二回も負けた。一回目は瞬殺。二回目はK.O.。今度は……今度こそは!

「……あれ?」

あの子は……どうして、ジュエルシードを集めているんだろう。

 以前なら気にも留めなかったけど……妙に、気になる。

 ジュエルシードなんて爆弾みたいな物を集めて、何をするつもりなんだろう。

「今度……ちゃんと聞いてみよう」

 また喧嘩腰になって、まともに会話なんて出来ないかもしれないけど……

 

「ええ、私も是非、高町さんに聞いてみたいわね」

……………………げ。

 顔を上げると……富山先生が、すごく怖い笑顔で、私を見下ろしていた。

「……何を『思い出して』、何に『ムカついて』いるのか……ちょっと教えてくれるかしら?」

 ヤバい。これは、放課後居残りコースだ……!

「え、ええと、その」

 しどろもどろに答えに窮する。と、その時。

――キーン、コーン、カーン、コーン……

 いいタイミングでチャイムが鳴った!

「さよなら!」

 鞄の中に筆箱、ノートを放り込み、ドアにダッシュ!

「こらああああああ! 待ちなさい!!」

 あとは帰りのホームルームだけだし……いいよね、別に。

「はっ、はっ、はっ……」

 ふぅ……鈍足を克服しておいてよかった。きゅきゅっと廊下を駆け抜け、階段を二段飛ばしで駆け下りる。

「ま、待~ち~な~さ~い~!!」

 スリッパ履きの足で、ゴム底の上履きに勝てると思ってるの、先生?

 悠々とスニーカーに履き替え、校門を飛び出した。

「さ~よなら~! また明日ねー、先生!」

 私は私なりに……学校生活を楽しんでいるのだった。

 

さてと、夕食の材料でも買い足しに行こうっと。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 フェイトは、街中を一人でぶらついていた。なぜアルフを伴っていないのかと言えば。

「魔力……というか、体力の使いすぎだよ」

 治癒魔法を全力で、しかも立て続けに使い、アルフはすっかりバテてしまっていた。今は、狼モードで休んでいる。

「別に、いいんだけどなぁ。たかが傷跡くらい」

 それは、本音だった。自分がどれだけ整った容姿を持っていようと……それがたとえ、道行く人が幾人も振り返る程のものであろうとも。フェイトには、全く興味の無いことだ。それが別に、母親の役に立つわけではない。

「はぁ……つまんない。帰ろうっかなぁ 」

 と、一軒の店が目に入ってきた。

「確か、『てれび』でやってた」

この大通りで一番人気の喫茶店。ケーキのメニューは、かなり豊富。

「お財布は……よし!」

10000ナントカという額の紙幣を、百枚単位で持ってきてある。多分、足りるだろう。

「ケーキ、ケーキ~♪」

 足取り軽く、その店に歩いていく。

 

「……はぁ?」

 

が、店の前に来て、途端に顔をしかめた。

何と書いてあるのかは不明だが、何やら貼紙がしてあり、店の中には誰もいない。

どうやら、営業していないようだった。

「ちくしょう!」

ガンッ、と扉を蹴り壊す。通行人が、ぎょっとして注目するが、我関せず、面倒事は御免、と歩き去っていく。

ずかずかと店内に押し入ったフェイトは、陳列棚を、バックヤードを物色。そして冷蔵庫を開け、にんまりと笑った。

「みーつけた!」

プリンと、ケーキ。

「へぇ、美味しい。人気なだけあるなぁ……」

ケーキの土台のスポンジをも、ガツガツと食い荒らしていく。全くもって、強盗そのものであった。

 

「お、おい、何をしている!」

この店と契約していた警備会社の一団が数名、乗り込んできた。

だが、侵入者がどう見ても子供であり……顔や服をべたべたに汚しながらケーキを貪る異様な光景に、一瞬だけ立ち尽くした。

 だがフェイトは、彼らをちらりと一瞥し、またガツガツとケーキにがっつき始める。

「おい、キミ……」

 一人が、フェイトの肩を掴む。子供だと分かり、警戒心を緩めてしまった彼らは……不用意であったとしか、言い様が無い。

 

「……五月蝿いなぁッ!」

 

『Thunder』

待機状態のバルディッシュが、主の命に従い、魔法を発動する。稲妻、と。

――バチバチバチバチッ!!

「ぎゃあっ!!」

 身体を痙攣させ、どさっと倒れる。警備員達が、ざわめいた。

「どいつも、こいつも……」

フェイトが、ゆらりと立ち上がる。警備員達は、各々警棒を、盾を構える。

「ボクをイラつかせやがって!!」

 

――五分後。

「はぁ、おなか一杯」

一団を全滅させ、フェイトは満腹になって店を悠々と出てきた。財布の中身の紙幣を全てカウンターにばらまいて……ご丁寧に、紙箱にアルフへの土産を持って。

「アルフ、これ食べて元気になってくれるといいな」

 

そして足取り軽く、郊外の住宅地へと歩き去って行った。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「ふふふ、ラッキー」

腕に下げるスーパーのビニール袋。中には、大量の生肉が入っている。豚や鳥ではなく、国産の牛肉だ。お肉売場を物色していたら、丁度タイムセールが始まり、ダンプカーのように押し寄せる主婦より先に確保できた。

「秀人さんにユーノくん、喜ぶだろうなぁ」

特に、秀人さん。肉体労働の後だから、かなりお腹が空いているはずだ。

すき焼きにしようか、焼肉にしようか。

ふんふ~ん、と、柄にも無く鼻歌なんかを歌いながら、夕暮れの中を歩いていく。

 

「レイジングハート、どう?」

『ディバインシューター。操作も威力も問題ありません』

 いつもの如く、マルチタスクで模擬戦。前回の戦闘での敗因になった、鎌の攻略法を模索しているところだ。バリアの強度を上げるだけでは、ダメだ。もっと、搦め手を覚えないと。

 

新魔法・ディバインシューター。

 

 シューターやバレットのような、射撃魔法の発展型だ。威力にさしたる変化は無いが、『誘導』という特性を持たせてある。それは発射後に、軌道をコントトールできるということ。

「首を洗って待ってろよ……」

 今度こそ、三度目の正直だ!

 

角を曲がって……ばったりと、件の人物に出くわした。

 

「な……」

 

「え……」

 

黒いワンピース(何故か、薄汚れてはいるが)を着て、紙箱を手にしたフェイトが、そこにいた。

 

こち、こち、こち……

状況を理解するのに、数秒を要した。

えーっと……フェイトは敵。敵と遭遇した。お互いに無防備。つまり、これは。

殺られる前に…………見敵必殺!

 

「きゃあああああああ喰らええええええ!!」

『Divine Shooter』

 

「うわあああああああ墜ちろおおおおお!!」

『Photon Lancer』

 

――ドッゴオォン!!

 

夕暮れの住宅街に、爆音が轟いた。

 

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