魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第三十六話

「……」

 床に倒れ伏すクロノを見下ろす、仮面の男。

「……」

 

――パァッ……

 

 その姿が、光りに包まれ、カタチを変える。

 長身だった身体は、二十センチ近く縮み、肩幅もいくらか狭まる。

 

 変身魔法。

 

 偽装を主な目的とする、今ではマイナーな技術である。

 

 大柄な男性だった追跡者は、灰色の頭髪に、猫耳、猫尻尾を備えた……

 

 

――二人の、女性の姿を形作った。

 

 

 姿形、装束、顔立ちまでうりふたつだが、片やストレートのセミロング、片やウェーブヘアと、見分けるのは容易い。

「……ロッテ、急ごう」

「……うん、アリア」

 二人は、クロノの手足を持ち上げ、忍び足で移動を開始した。

「……ねぇ、ロッテ」

 ぽつり、と、ウェーブヘアの猫耳……アリアが、口を開いた。

「……なに?」

「本当に、これで良かったのかな?」

 それは、疑問。

「……お父様の、ご命令よ」

 対して、ロッテはそう返した。

 だが、ロッテもまた俯き、顔を逸らしている。

「……本当に、これで……」

 アリアは、ポケットから数枚の紙切れを取り出す。

 それは、乱暴に破り取ったかのように、端が荒れている……本の、ページ。

 そこには、現地の言語と、一人の少女の顔写真が写っていた。

「こんな、小さな子を……どうして」

「アリア」

 ロッテが、その先を窘める。

「……わかってる」

 アリアは、それをポケットに仕舞い直す。

「……わかっているでしょう?

 お父様の、御命令よ。きっと何か、お考えがあるのよ」

「……うん」

 二人は、そこから去って行った。

 

 

「……?」

 数分後、クロノは目を覚ました。

「……仮眠室?

 おかしいな……さっきまで」

 クロノの記憶は、つい先程……重要参考人への聴取を終えたところで、ぱったりと途切れていた。

「……そうだ」

 参考人からの聴取の後……モンタージュを作成して、そして……

「……結局、まともな成果にはならなかったんだった」

 手がかりにもならない……ただの似顔絵が残って、疲れを取るために、仮眠室に『自分の足で』やってきた。クロノの頭の中では、『そういうこと』になっていた。

「……く、」

 重い頭を持ち上げ、身体を起こす。

 現在の時刻から、今後のスケジュールを確認。

「あと少しで、秀人の面談か」

 幸いなことに、空き時間の範囲内で眠っていたらしい。

 さて、秀人は今、どこで何をしているのか……

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 からん、とベルを鳴らし、秀人が翠屋に入った。

「…………秀人くん?」

 ウエイトレスの格好をした美由希が、ぽけーっ……とした顔で、それを出迎えた。

「よう美由希、久しぶり」

 それに対する秀人の態度は、実に軽かった。

 

「おおおおお、お母さん!お母さーん!」

 なのはは、まだ高町家には連絡していなかったらしい。

 あわてふためいて、厨房へ呼び掛ける。

 その様子に、周囲の客がぎょっとして振り返った。

「もう、なぁに美由希。お客様の前、です……よ……?」

 美由希と同じく、固まる桃子。

「えっと……なのは、は?」

「家で出かける準備してるよ。待ってようと思ったんだけど、『顔見せてきたら?』って……」

「ふ……ふうん」

「……」

「何だよ、変な顔して」

「え?……いやぁ」

 二人の視線は、秀人……ではなく。

「…………」

 

 その背後に、付かず離れず、一定の距離をオプションのように寄り添う……はやてに注がれていた。

 

「「……その子、誰?」」

 

 当然の疑問を口にしたその瞬間……

「……!」

 ギロッ……と、殺気立った鋭い目で、睨みつけられた。

「あ、あれ、怒らせちゃった……?」

「……」

 無言で殺気ビームを照射するはやてに、ドン引きして後ずさる美由希。

「……リーゼ」

 ぼそっ……と、聞き取りづらく何かを言う。

「はい、主。なんでしょうか」

 と、今まで、興味深くショーケースを覗き込んでいた帽子の女性が、とことこやってきた。

「……帰る」

 今度は、リーゼの背後に隠れるはやて。

「主……」

 やれやれ、といった様子で、ため息をつく。

 が、やはりそこは、主人の意向を優先するのか、ぺこっと頭を下げ、店のドアノブに手を掛けた。

 

「待って」

 

 それを、桃子が制止する。

「……何だよ」

 苛立ちと共に、吐き捨てるはやて。

「折角来たんだから、ケーキの一つでもいかが?」

「そうだな。折角だ」

 それに、秀人が乗っかった。

「どーせお前、コンビニのケーキくらいしか食ったこと無いだろ?」

 図星だった。

 両親が健在だった頃は、誕生日にはちゃんとしたケーキを食べていたのだが……

「……るっせぇ!」

 Uターンし、秀人のところまで戻ってきて……げしっ、と足蹴にした。

「いってぇ!」

「三食コンビニ弁当で悪かったな畜生!」

「悪かった悪かった……ほら、座ろうぜ」

 ぎゃーぎゃー騒いでいるのも迷惑だと、秀人がはやての手を引き、窓際の席に座った。

「モンブランとサバランとレアチーズケーキ。それと、アイスレモンティーを人数分」

「はい、かしこまりました」

 下がっていく美由希。

 

「……チッ」

 頬杖を付き、テラス席に視線を流すはやて。

 不機嫌……は、最早デフォルトだ。

「お待たせしました」

 そこに、美由希がケーキを運んできた。

「んー…………おぉ」

 何の気無しに目を向け……一瞬、輝いた。

(結構……いや、かなり、)

「美味そうだろ?」

 秀人はそれを見透かし、けらけらと笑った。

「主、どれがよろしいですか?」

「全、」「全部、というのは無しですよ」

「うぐっ……今日くらい、」

「カロリーオーバーです。血糖値が、やや高めでしたからね」

リーゼは、その点で甘やかすことはしないようだ。

「じゃ、モンブラン……」

「どうぞ」

 目の前に出されたモンブランを一口、フォークで切り出し、口に運ぶ。

「!」

 見開かれる目。

 やはり、ランキング一位は伊達ではない。

「あはは……美味いか?」

 自分はサバランを食べながら聞く。、

「ええ。たまになら、甘味も悪くないですね」

 上品にレアチーズケーキを食べながら、リーゼが返答する。

 今風の服装とのギャップが、非常に激しい。

 

「……」

 モンブランを食べながらも、秀人とリーゼが食べるケーキが、気になって仕方ないらしい。

「主、どうぞ」

 リーゼが、はやての口元に切り分けたレアチーズケーキを持っていく。

『いいの?』と目で聞くはやてに、頷くリーゼ。

 喜色を滲ませ、リーゼのレアチーズケーキを口にした。

「いかがですか、主」

「……おいしい」

 実に楽しそうである。

 ……この姿だけを見て、巷を騒がせる連続失踪事件の犯人だとは、誰も思うまい。

「……」

「……?」

 そこで、リーゼが秀人に、謎の目配せをする。

 ケーキを見て……秀人のフォークを、ちらちらと……

「……………………マジかよ」

 意図を察した秀人が、思わず呟いた。

……ここからは、アイコンタクトの内容である。

 

――無理無理、絶対無理だって!怒られる!

 

――いえ、問題ありません。主は単純な方ですから、ケーキさえ食べられれば、過程は気にしません。

 

――お前、結構酷いな……

 

――さぁ、主に『あーん』と。さぁ。さぁ。

 

――いや、無理!恥ずかしいし……っていうかお前、遊んでるだろ!?

 

――我が主には、それをする価値が無いと? 愚弄するつもりですかそうですか……許せませんね。

 

――なんでそうなる!?

 

 結局、リーゼの威圧に負け……

「あぁもう、わかったよ……」

 サバランを一口、フォークに乗せ……

「はやて」

「あぁン……?」

 極めて態度悪く、秀人に振り返るはやてに……

 

「はい、あーん♪」

 

 半ばヤケが入った満面の笑みで、差し出した。

 

 

――シャグッ!!

 

 ……明らかにおかしな効果音と共に、フォークにかじりついた。

「……」

 秀人は、先端が消失し、持ち手の部分だけになったフォークを引き戻し……半笑いしていた。

「……鉄分たっぷりだな」

 はやては、もごもごと口を動かし……

 

「……ペッ!!」

 

 口元から、フォークの三股の先端が射出した。

 

――スコーン!!

 

 ……三股の先端が、秀人の眉間に、クリティカルヒットした。

 

「…………ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああっっ!!」

 

 もんどりうって椅子から転げ落ちる秀人。

「おおお、お客様ー!?」

「何じゃこりゃあああああ!!」

「抜くから大人しくして!……そいやっ!」

「うおおおぉ抜けたぁ!……抜けたけど血があああああ!?俺のトマトジュースがあああああ!?」

 騒然となる店内。

 

 一方、はやてはと言うと、秀人のサバランの残りをちゃっかりと胃に納めて、

 

「……ご馳走様」

 

 とびっきりの笑顔で、そう締めたのだった。

 

「全く、お前は……!」

 秀人は、額を摩りながら、家路を歩く。

「あっはっは……あー、面白かった!」

 対してはやては、ケラケラ笑いながら、その隣を歩いていた。

 

「んで……どこ行くの?」

 なのは達の準備が出来次第、遊びに行くという話だった。

「んー……とりあえず、なのはが行きたい所に行こうかなって」

 

――またか。

 

 はやては内心、辟易としながら、秀人をじっとりと眺める。

「なのは、なのはって……あんた、主体性無さ過ぎじゃね?」

 ……かくいうはやても、二言目にはリーゼに意見を求めるのだが、棚に上げていた。

「え……そうか?」

 驚き、聞き返す。

 はぁ~……とため息をつく。

「もし、あんたの愛しのなのはちゃんが、『秀人さんの行きたい所に~……』とか考えてたらどーするワケ?」

「うっ……」

 その可能性も、大いに有り得る。

 そして秀人は、ぼそぼそと、バツが悪そうに呟いた。

 

「……どうやって遊んだら良いのか、分からないんだよ」

 

「……は?」

 今度は、はやてが聞き返す番だった。

「……」

 それ以上は語らず、無言になってしまった。

 

 秀人の休日といえば、なのはと本を読んだり、フェイトと仮面ライダーのDVDを見たり、ヴィータの買い出しを手伝ったり、模擬戦で身体を動かしたり……良く言えばインドア、悪く言えば出無精な過ごし方しか、していなかった。

「……夏休みだから、どっか遠出すればいいんだろうけど……大人数でしたことって無いし」

 なのはを温泉に連れていったことはあったが……

「仕事以外で集団行動したこと無いんだよ、俺……」

「寂しい奴……」

 はやてが、哀れむような上から目線で、秀人の心をえぐった。

 

「うっ……うるさいわ!!」

 ムキになって言い返す。

どうにも秀人は、はやてが相手だと子供っぽい部分が垣間見えてしまう。

「お前だって似たようなもん……いや、俺よりひどいわ!

 

このヒッキー!」

 

「はぁうっ……!?」

 痛いところを突かれた。

 はやてははやてで、一日中を家で無目的に過ごし、魔法に覚醒した後は、ひたすら殺戮や訓練に明け暮れていた。

 更に言えば、極度のコミュニケーション障害。

 自宅とコンビニ(たまに図書館)の往復が限度……リーゼを従えてからは、その外出さえ億劫になっていた、根っからのヒッキーである。

「うぐぐ……」

 唇を噛み締め、悔しそうに黙り込むはやてに、秀人が勝ち誇って言った。

 

「ハッ、幼卒ニートめ!」

 

 幼(稚園)卒。

 小卒を下回る、凄まじいレッテルである。

「ンだとゴルァ! あんただって年齢的に中卒だろ!」

「高卒資格までは持っとるわい!」

 目を逸らし、付け加えた。

「……通ったことねーけど」

「駄目じゃんかよ!通えよ!」

「いや、それお前が言うなし……」

「わ、私は……!」

 そこで、秀人は真顔になった。

 

「通っておけよ。

『世の中には、通いたくても通えない子供だっている』……みたいな偽善じゃなくてさ。無駄に思えるような時間も、後になれば、貴重な思い出になるんだから」

 

 ……不利な流れになってきた。このままでは、なし崩しに復学させられてしまう。

 やだやだやだ学校とか超やだ面倒臭い……と、拒否感全開だった。

「リーゼ、学校なんか通わなくて良いでしょ?」

 やはり、リーゼに助けを求めた。

「そんな時間があるなら、剣か、魔法か、格闘の訓練を……」

 

「私は、秀人に賛成です」

 

「……え?」

 意外にも、リーゼが裏切った。

「主は以前、美香に言っていましたね?

『さっさと治して、学校に行って美穂さんを安心させてやれ』……と」

「言ったケド……」

「言った本人が不登校では、示しがつかないでしょう」

「……そうかも、しれないけど……」

「師として、姉貴分として、もっと自覚を持って……」

 リーゼが、説教モードに入った。

「けど……」

「「けど?」」

 秀人とリーゼが、ぴったりとハモった。

 

「…………人に会いたくない」

 

 ……この期に及んで、この有様である。

「「ふうぅ~~~~…………」」

 二人に、盛大なため息をつかれた。

 呆れた目線も、もれなくセットで。

「あぁもう!分かったわよ!」

 

――げしっ!

 

「いてっ!何で俺!?」

 秀人を蹴飛ばし……腕を組み踏ん反り返った。

 

「復学でも何でもしてやるわよ!」

 

 ……言ったな、と、二人は確かに言質を取った。

 

 

「あ、来た来た。秀人さーん!」

 と、ようやく秀人のアパートに到着した。

 なのは、フェイト、アルフ、ユーノ。

 いつもの面子が、揃っていた。ヴィータは、マリエルに呼び出されて不在である。

 運が良いのか、悪いのか……

 

「お待たせ。……んで、どこ行きたい?」

「うん、実は……」

 

――すぅっ……

 

 見慣れた黒塗りの車が、相変わらず不気味なまでに静かに、アパートの前に横付けした。

「折角だから、アリサとすずかと望にも、声掛けてみたんだ」

「あーよかった」

「え?」

 話の流れが読めず、キョトンとする。

「いや、こっちの話」

 がちゃっ、とドアを開け、馴染みの四人が降り立った。

「なのは、久しぶりね!」

「秀人さん、こんにちは」

 大体いつも一緒の、アリサとすずか。

「いやー、ガイシャって乗り心地良いんだね。驚いちゃった」

 なのはにとって……実は、初のクラスメイトの友達、望。

 そして……

 

「こ……こんちわ」

 

 なのはには微妙に気まずい気持ちを抱く……健太だった。

「あ、葉山君も来たんだ」

 なのはは知ってか知らずか、普通に挨拶をした。

「うん、部屋でダラダラしてたから引きずってきた」

「……迷惑だったか?」

「んーん、全然」

 恐る恐る聞く健太に、軽く笑って否定した。

「……」

 フェイトは、さりげなく一歩下がり、初対面のアリサ達から距離を置いていて……さらにその影で、コソコソとその場から離れようとするはやての姿があった。

「どこへ行くおつもりですか、主?」

「わっ、バカ、しーっ!」

 リーゼに呼び止められ、その口を慌てて閉ざす。

 が、バッチリと見つかってしまったらしく……

 

――がしっ

 

「今更、帰るなんて言わないよな?」

 笑顔の秀人に、捕獲されてしまった

「ナイスだリーゼ」

 ぐっ、とサムズアップする秀人。

 

「は、はなせえぇぇ!!知らない人には、着いて行ったらダメなんだよ!!」

 じたばた往生際悪く暴れるが、素の力が秀人に及ぶ筈も無く、その場に縫い止められていた。

「安心しろ。俺の知り合い、つまり『知り合いの知り合い』だからセーフだ」

「思いっきりアウトじゃんかよ! はなせえぇぇ!私は帰る!帰ってダラダラのんびり時間を潰すぅううううう!」

……その自宅が、瓦礫の山になっていることも忘れてしまっているようだ。

「主、正直言って、あなたは社会性に欠けます。いずれ万人の上に立つ者として……」

「なぁにが社会性だクソ喰らえだ! 一人で生きていけない弱者の妄言じゃねーか!」

 ふぅ……と、本日二度目のため息をつく。

 

「押し込んでしまいなさい」

「了解」「ノエル」「どうぞこちらへ。ファリン、お相手して差し上げなさい」「はい、おねーさま」

 

 すずかの指示でメイドがドアを開け、秀人がそこに詰め込み、車内にいたもう一人のメイドが、はやてを引きずり込んだ。

 

「いやあぁ   ――バタンッ、ガチャッ。

 

 ドアを、しっかりと閉めた。

「……よし、行くわよ」

 アリサの指示の元、素早く乗車していった。

「なぁ、望……」

「何、健太?」

「……この人たち、なんか変じゃね?」

「……かも」

 どこかおかしい……と、頭を捻る二人の肩を、この中では数少ない常識人であるユーノがポンポン、と叩いた。

「……君達も、いずれ馴れるさ」

 フッ……と、半笑いを浮かべる……さらにその肩を、涙目のアルフがそっと支えていた。

 

 秀人、フェイト、リーゼを残し、全員が車内に収まった。

「あ……そうだ」

 アリサが窓を開け、ポン、と秀人に何かを手渡した。

「ちょっとばかし、人数オーバーなのよ。

 乗れるのはあと一人だから秀人、」

「ん?」

「どっちか連れて、バイクで着いてきて」

 ……渡されたのは、ポータブルナビと、その台座だった。

「……オッケー。そんな気してた」

 幸いにも、バイクは手元にある。残る問題は、リーゼとフェイト、どちらが乗るか、なのだが……

 

「はいはい!ボクがのるよ!」

 当然、キラキラと目を輝かせて立候補した。

 秀人の運転するバイクに乗れて、緊張からも解放される、一石二鳥のチャンスだった。

 一方リーゼは、顎に手を当てて考え込む。

「ふむ、妥当でしょう……ですが主には、他者との交流を持って頂きたいところ。私が車内にいては、主のためになりません」

「……でも、バイクは二人乗りだぞ。どうするつもりだ?」

「あぁ、心配無用です」

 

――ざわっ……と、リーゼの身体から、魔力の気配が立ち上る。

 

「ちょ……!」

 ……少なくとも、アリサ、すずか、二人のメイド、健太の五人は、魔法には無関係な一般人だ。

 もしもバレたら、相当面倒なこと……具体的には、堅物執務官のお説教タイムが待ち受けていることは、想像に難くない。

 

「健太、向こうにマスターピース・シールドライガーが!!」

「何ィッ!?」

 ……単純な健太の注意を望が逸らし、なのはが素早くパワーウインドウを閉じた。

「出してください」

「え、でも、まだ一人……」

「大丈夫だから、早く」

「……わかったわ」

 バレる寸前で、車はするすると発進した。

 

 ……同時、リーゼは変身を終えていた。

「……あぁ、もしや、彼らは魔法と無関係で?」

「……後になって考えるなよ」

 胃が縮み上がるほど焦った秀人。

「失礼、勘違いしていました」

 クールに見えて、意外とボケていた。

 

「わー……キミ、つかいまだったんだ?」

 二人が見下ろすそこには……艶やかな毛並みの、黒猫が鎮座していた。

「はい。主はやての使い魔で、名をリーゼと言います。お見知り置きを」

「うん、よろしくー!」

 ……相手が猫だとわかった途端、楽に話しはじめた。

「……お前の人見知りも、なんとかしないとなぁ」

「ん、なんかいった?」

「いや、後で話すよ。メットとキー持ってくる」

 秀人は家に入り、自分のと、いつもはなのはが使ってるヘルメット、バイクの鍵。そして、リュックサックを手に裏手へ回った。

「……」

 その合間に、かちかちとメールを打つ。

「……ご検討を願います、っと。これでよし」

 

「まだー?」

 表の方から、フェイトが呼んだ。

「はいはい、今行くよ」

 秀人は、携帯電話をポケットに仕舞った。

 

 フェイトのヘルメットを調整してやり、リュックサックを背負わせる。

 このリュックサックに、リーゼを入れていくようだ。

 

「八部屋あるというのに、秀人の部屋以外、表札が出ているのは三部屋だけ、ですね」

 リーゼが、アパートを観察しながら言った。

「あぁ、それ一つは大家さん。家賃収入で遊んで暮らせるはずなのに、何故かこのアパートに住んでるんだよ」

「……残り二つは?」

「職業不明の信吉じいさんと、美人なのに貞子ヘアの朧ねーちゃん」

「他は空き部屋、と?」

「らしいよ?」

「……」

 リーゼは、猫の姿のまま考えている。

 

「ほら、行くぞ」

「あ……」

 リーゼをリュックサックに入れ、自身もバイクに跨がる。

 

――キュルッ……バォッ!!

 

 セル一発だった。

「……何か調子良いな?」

 一月放置してた割には、バッテリーもガソリンも満タンだ。

「あれ? 距離が伸びてる……」

「あー、それね……」

 フェイトが、思い出して教えてくれた。

「アルフがのりまわしてたよ」

「……そうか」

 無免許運転……と、突っ込みたい気持ちをぐっと飲み込み、ナビの示す目的地へ、

バイクを発進させた。

 

「……」

 恐ろしく静かな高級車の車内、はやては、緊張でガチガチに固まっていた。閉鎖された環境で、初対面の、しかも知らないグループの中に放り込まれたのだ。アウェー極まりすぎて、異次元にでも迷い込んだ気分になるのも無理は無い。

「……」

 固まるだけならまだしも、やたらと険しい……眉根を寄せ犬歯を覗かせ、ぎりっと足元を睨みつける表情を見せていた。

「……」

 微妙に緊迫する車内。

 当の本人は、心臓をバクバク言わせながら、ただ固まっているだけなのだが。

 

「ねぇ、はやてちゃん」

 

 いきなり唐突に、すずかがはやての名を呼んだ。

「ぁえっ!?」

 教えた覚えも無いのに呼ばれ、動揺して変な声が出てしまった。

「さっき、秀人さんが呼んでたから…………間違ってた?」

「……違わない」

 ぼそっと、とりあえず返事は返ってくる。それを皮切りに、次々に質問される。

「年はいくつ?」

「……」

「学校はどこなの?」

「……か、」

 はやては、負のオーラを全面に出したまま……

 

「関係、無いだろ……誰だよ、お前…………」

 

 …………殻に閉じこもるのではなく、攻撃を以て排除する方向へと移った。

 しかし、すずかは物怖じせずに、自己紹介をする。

「私は、月村すずか。秀人さんの知り合いだよ」

 ここは、なのはの名より、秀人の名を出した方が有効だと踏んでのことだ。

「…………そう、秀人の……」

 共通の話題で、会話の輪の中に引っ張り込むという手段で、はやては、気付かぬうちに取り込まれていた。……現段階では、すずかの方が何枚も上手である。

 

 やいのやいの賑やかになっていく車内。

「ねぇ、ユーノくん、アルフ」

「ん、何?」

「何だい?」

「……あいつのこと、どう思う?」

 およそ一月、秀人と共にあった少女。

 人がいるはずが無い辺境世界に……しかも、ピンポイントで、秀人の近くに。

 ……偶然にしては、出来過ぎている。

 現在進行中の、闇の書事件。

 それとの関連はまだ不明だが、とにかく、疑って掛かった方が賢明だ。

「……なんかむかつくし」

 ……それに、少なからず嫉妬も混じっているらしい。

 なのはは聞き役に徹することに……

 

「なのはちゃんとはやてちゃんって、何となく似てるよね」

 

 完璧なタイミングで、すずかが爆弾を投下した。

 

「「はァッ!!?」」

 

 当然、それをスルーできる訳は無く、なのはも強制的に会話に参加するハメになった。

 

「「似てないっ!」」

 

 図らずも、ハモった。

 ぎろっ、と、およそ小学三年生がするには険悪すぎる目つきで、二人が睨み合う。

 

「「真似するなぁっ!」」

 

 ……そっくりである。

「ったく、秀人の知り合いってこんなのしかいないわけ!?」

「『こんなの』とは何よ!」

「「むぐぐぐぐ……」」

 額を突き合わせ、威嚇し合う。

 ……確かに、色々と似通った部分もあるかもしれない。

 

「……あれ……?」

 と、何かを思い出したように、

「……お前、どっかで会ったこと無かったっけ?」

 ぽろっ、と、はやてを見て、そんなことを口走った。

「「え?」」

 車内の視線が、健太に集中する。

「会ったって……いつ?」

 怪訝な顔で聞く望。

「三ヶ月くらい前……んー……いや、やっぱ人違い、かな? もっと髪長かったし……車椅子、乗ってたし」

 

 ……確かに、会っている。

 ジュエルシード事件の終わり、海鳴公園で。はやてからすれば、すれ違う程度。

 だが健太からすれば、訳もわからず罵声を浴びせられたという理不尽かつ強烈な経験だった。

「葉山君……よく覚えてたね」

 本気で感心して、健太を褒める。

「え?そうかな……へへ」

 ……裏返せば、『葉山君は物覚えが悪い』ということの裏返しなのだが。

「……知るか」

 ぷいっ、と窓の外を見る。

「愛想の無い奴ねー……」

 アリサが、やれやれと首を振った。

 気にせず、健太ははやてに話し掛けていく。

「じゃあ、足治ったのか。よかったじゃん」

「……」

「俺も前、足首ポキッと逝っちゃってさー……」

「……」

「歩き回れないと退屈なんだよなー」

 はやては、視線も寄越さず黙り込んでいるのだが、健太は気にせず話しつづける。

「ゲームしかすること無くてさぁ。どうせなら、腕が折れれば良かったのに。そしたら、サッカーだけは出来たじゃん……って、駄目だ、今度はゲームが出来なくなる!」

 

「宿題やれっ!」

 

 スパーン!と、望が平手で健太にツッコミを入れた。

「……ぷっ」

 それまで仏頂面だったはやてが……笑った。くすくすと、堪えきれず笑いを漏らす。

「あ、やっと笑った」

 すずかに指摘され、ハッと真顔に戻った。

「……」

 恥じらい、またしてもそっぽを向こうとする。

「……ていや」

 なのはが、その両頬を挟み込み阻止。

 

……凄まじくマヌケな顔になった。

 

「「「「「「ぶはっ!」」」」」」

 

 車内全員が一斉に吹き出し、大爆笑する。

「て、てめぇ……!」

 恥をかかされ、怒りとも羞恥とも分からない赤面でなのはを睨みつける。

「くくく……」

 にやにやと不敵に笑い、それを受け流すなのは。

「あははははは!はやて、変な顔ー!」

「可愛い顔が台無し!」

 人目がある手前、物理的に反撃することも出来ない。

「うぐぐ……!覚えてろテメェ……!」

 憎々しく睨みつけるが、なのははどこ吹く風。

 抵抗感が取り払われたらしく、一気に輪の中に取り込まれて行った。

 

 

「……」

 あまり話さず、シートに身を預けるなのはに、ユーノが話しかける。

「なのは」

「なに?」

「あれ、狙った?」

 あれ……とは、はやてのことか。

 さっきまでの仏頂面は鳴りを潜め、ちゃんと返事をし、時に笑い、怒り、突っ込み……まるで、年相応の少女のようだ。

 きっかけは、すずか、望、健太かもしれない。だが、それを上手く持って行ったのは、なのはだ。

 

「……秀人さんも、そうして欲しいって思ってるだろうから」

 秀人達が、わざわざこっちの車に押し込んだ意図は、ちゃんと理解しているらしい。

「……そっか」

 

「え!?じゃあじゃあ、一ヶ月くらい、秀人と二人っきりで!?」

「……まぁね。組み手したり、筋トレしたり……」

「食事はどうしてた?」

「……適当に調達して、交代交代で用意」

「寝るときは?」

「……同じ部屋」

「「「「きゃー!!」」」」

 

 黄色い歓声。

 ユーノとアルフは、戦々恐々だった。

「な……なのは、あくまで、非常事態だから……」

「そ、そうだよ……別に、後ろめたいことはしてないんだしさ……」

 ぴきぴきと、なのはの額に青筋が浮いた。

 

「……やめとけばよかったかな」

 

 今度は、なのはがブスッと黙り込んでしまった。

 

 

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