魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第三十七話

「それで、向かっている目的地なんだけど……」

 和やかな空気を見計らって、すずかが切り出した。

「うちのグループの、テストコースなの」

「「テストコース?」」

 そんなところに、小学生が何をしに行くというのだろうか。

 怪訝な顔をする面々に、意味深に笑いかけた。

 

「夏休みなんだし、思いっきり運動しようね」

 

「……??」

 ……謎のまま、車は現地へと向かって行った。

 

 

 

「お待たせ」

 移動すること、およそ一時間。

 高級車と、秀人のバイクは、『私有地』と書かれた看板がそそり立つ前で止まった。

「ふー、着いた着いた。……ほらフェイト、顔上げて」

「んー……」

 バイクを降りた秀人が、フェイトのヘルメットの顎紐を解いてやった。

「……っぷは。 あー、たのしかった!」

 にぱっ、と明け透けに笑う。

「でもなんか、あたまがきつかったよ」

 わしゃわしゃ、と自分の髪の毛を掻き回す。

「……なのはの分と合わせて、新調するかなぁ」

 ……ちなみに、ジュニア用ヘルメットはそれなりに高価だったりする。

 

 

「リーゼ、」

 そそくさと集団から逃げてきたはやてが、秀人の目の前にやってきた。

「……リーゼは?」

『ここです。主』

 フェイトのリュックから顔を出す。

 オープンチャンネルの……魔力がある者になら聞こえる設定で、はやてを呼んだ。

『大丈夫だった? 酔ってない?』

『問題ありません』

 アリサ、すずか、望、健太……魔力の素養が無い筈の四人には、聞こえない筈。

 だというのに。

 

「……おい今、その猫……喋らなかったか?」

「う、うん……喋った、よね?」

 

 健太と望には、しっかりと聞こえていた。

「……」「……」

 半笑いで、顔を見合わせる秀人となのは。

「……何が?」

「何も聞こえなかったけど……」

 アリサとすずかには、聞こえていない。

 なら、考えるまでも無く、理由はただ一つ。

「……」

 無言で、健太の傍まで歩いていく秀人。

「な……何ですか?」

「いや……幻聴が聴こえる程、疲れてるのかなー、って」

 少しビビる健太の背後に立ち、両肩を揉むフリをして、魔力の気配を探る。

「ちょ……なのは?」

「ごめん、大事なことだから」

 なのはも、望の背中に触れて……

 

 すると、案の定。

「……マジであるよ」

「……こっちも」

 最低でもB+ランク。

 望に至っては、Aに届こうかというレベルの、高い魔力を秘めていた。……考えてみれば、ジュエルシード暴走体の中で、最も手強かったのは、シリアル10……望だった。

 あれは、ジュエルシードの力に、望の魔力が上乗せされた影響もあったのだろう。

 

 望は魔法の存在を知ってはいるが……なのはは可能な限り、非日常とは関わらせないと決めていた。

 幸にも、二人のリンカーコアはまだ殆ど眠ったままだ。

 ……これが目覚めれば、流石に放置、とは行かないだろうが。

 

「さ、行きましょう」

「あぁ、わかった」

 すずかに続き、うやむやの内に、話を終わらせた。

 

 案内されたのは、想像を超えるスケールの『テストコース』、だった。

「……」

 とにかく、広い。

 しかも、広いだけではない。

 整然と舗装されたサーキットコース。

 ホームストレート、ヘアピンカーブ、シケインと……今すぐGPが開催出来そうなくらい、豪華な設備が整っていた。

 

 その向こうには、サーキットコースとは真逆の、土の地面が剥き出しのダート。

 更に急斜面のヒルクライム・ダウンヒルコース。

 オフロード走行……というよりは、重機の試験も行っているのだろう。

 オマケとばかりに、船舶のスケールモデルを航行させるであろう、市民プールの何倍でもありそうな人口湖など……

「す、」

 一番最初に我に返ったのは、秀人だった。

 

「すっげぇ!!」

 

 目を輝かせ、きょろきょろと見回している。

「走っていいの?」

「えぇ、どうぞ」

 喜ぶ秀人だったが……はた、と気付いた。

「俺以外は……?」

 いくらなんでも、秀人だけが楽しいのでは不公平だ。

「ご心配なさらず」

 裏手から、メイドの一人が運転するトラックがやってきた。

 荷台には、ジュニアサイズのマウンテンバイク等が満載されている。

「おぉ……」

「プロテクターもヘルメットもありますから、ちゃんと全員で楽しめますよ」

 確かに、自転車ならそれなりに安心だ。だが……

 

「「……じてんしゃ」」

 

 引き攣った表情で後ずさる、なのは(基本インドア嗜好)と、はやて(真正ヒッキー)がいた。

 

「うわー、サス付きMTBなんて初めてだよ俺!」

「砂利道……走れるの?」

「ふふん、私は走れるわよ?」

「……や、やれるもん!」

「頑張ろうね」

 ……子供チームは、浮かれ気分ではしゃいでいた。

「……ボクはどうしようか?」

「え?フェイト、自転車は嫌かい?」

「うーん……いやじゃないんだけど、」

 ごにょごにょ、と口ごもり、意を決したように、すずかに話し掛けた。

 

「あの、ボク……キミに、あやまらないといけないことがあるんだ」

 

 ジュエルシード事件の最中、フェイトは、暴走体となったすずかの飼い猫を、手酷く痛め付けた。

まずは、、ケジメを付けてから。

 そういうことらしい。

「……うん、わかった。こっち来て」

 フェイトの手を引き、レストルームに向かっていく。

 

「フェイト、あたしも一緒に……」「アルフはこっち」「あああああ……」

 過保護な使い魔を、ユーノが引きずっていく。

「ひどいよユーノ……フェイトが心配じゃないの?」

「フェイトが自分でやるって言ったんだから、任せよう」

「むうぅ……」

 不満そうだった。

 

「なのは……、はやても、どうしたの?」

「……いや、」

「……なんでも、」

 

「あ、もしかして……あー……」

 望が言い当てようとして、気を使って言うのをやめた。が……

 

「え? 二人とも乗れないのか?」

 

 ……無神経な健太が、ズバッと言い当ててしまった。

 

「健太!」

 

――ごすっ!!

 

「ぎゃあっ!」

 望の鉄拳制裁が、健太の頭を捉えた。

「この馬鹿!あんた、デリカシーってもんが無いの!?」

「知らねぇよ!何だよデリバリーって!?」

 ぎゃあぎゃあと夫婦漫才を始める二人はさておき……

「え……二人とも?」

「……」

「……」

 無言の肯定。

「……しゃーないか。えーと……」

 多数の自転車を物色し……

「あったあった。んじゃ……」

 20インチの小径ホイールを履いた、他より一回り小さな自転車……BMXバイクを三台、取り出した。

 

「練習するか!」

 

 

 

 ……レストルーム内。

 ソファに向かい合うように座った二人。

「それで……話って?」

「あの、ね……? キミ、ねこ、かってるでしょ?」

「うん、それなりに」

 微笑を崩さず、続きを促す。

「はいいろのこねこ……いるでしょ」

「うん、いるよ」

 ふー、と、フェイトが一息つき……

「……おおけが、したよね」

 切り出した。

「それやったの……ボク、なんだ」

「……」

 ぎゅっと、両手を膝の上で固く握り……それでも、一番苦手であるはずの視線だけは真っ直ぐに、

すずかを見つめて。

 

「ごめんなさい……!」

 

 深々と、頭を下げた。

「……」

 家庭環境のせいにも出来た。母のせいにすることもできた。

 けれども、やったことは事実で、それは間違いなく、フェイトの意思で行った行為だ。

「……」

 頭を下げたまま、じっと返事を待つ。

「……」

 かたん、と、すずかが立ち上がり、ソファの脚が鳴る音が、やけに大きく響いた。

 そのまま、足音と共に、レストルームから出て行ってしまった。

「あぅ……だめだったよ……バルディッシュ……」

 がっくりとしょげる。

『……もう一度です』

「……え?」

 

『許しを得られるまで……謝罪を続けましょう』

 

「……うん、わかった!」

 すずかの後を追い、ドアノブに手を掛け……

 

――どばんっ!

 

「ぶへぇっ!!」

 

 いきなり開いたドアに、顔面を強打された。

「え?……え!?」

 開いたドアの向こうに、出て行った筈のすずかが唖然と立っていた。

「ご、ごめんなさい!大丈夫!?」

 うずくまるフェイトを助け起こす。

 

「いだい……ちょーいだいぃ……!」

 涙目で顔を上げた。

「ひぃっ!」

 おののくのも仕方ない。

「……?」

 何やら鉄錆臭い液体……鼻血が、鼻から伝っていた。

「きゃー!ティッシュティッシュ!」

 まとめたティッシュを、フェイトの顔面に押し付けるように止血。

「むがー!!」

「暴れないで!」

 フェイトを押さえ込み、ティッシュを押し付け続けた。

 

「ふぅ、ふぅ……」

「はぁ、はぁ……」

 止血するだけだというのに、なぜこうも消耗しなければならないのだろうか。

「……うぁー」

 フェイトの鼻には……美少女にはあるまじきことに、丸めたティッシュが詰め込まれていた。

「……」

「……」

 何とも言えない空気が流れ……

「ニャー」

 すずかの持ち込んできたケージから、そんな鳴き声が聞こえてきた。

「……おいで、マルス」

 手招きされ、一匹の猫がケージから出てきた。

 その猫は、見覚えのある灰色で……

「あ……」

 びくりと怖じけづく。

「……この子だよ」

 

「……」

 そっと猫を持ち上げ、フェイトの方を向かせた。

「……ニャー」

 てこてこ……と、フェイトの足元まで歩いてきた。

「……」

 ゆっくりと、鼻先に手を伸ばす。

 ……敵と見なされれば、噛まれるか、引っ掻かれるか。

 

――ぺろっ

 

「あ、」

 が、猫は、フェイトの指先を舐め、じゃれついてきた。

「……ふふ、『許す』って言ってるよ」

「……いいの?こんなんで」

「いいの。マルスがいいって言ってるんだから」

 ……釈然としないが、飼い主が言うのだから、許されたということでいいのだろう。

「……ごめんね、まるす。それに、キミも……」

 

「す・ず・か」

 

「え?」

「私の名前。『キミ』、じゃなくて、すずか、って呼んでほしいな」

「……なして?」

 首を傾げるフェイトに、すずかはにっこりと笑う。

「それはね……」

 

「おーい、すずか、まだー?」

 痺れを切らしたアリサが、様子を見に来た。

「彼女は、アリサって言うの」

「……あ、あの……ありさ?」

 呼ばれて振り返り……

「あン?何……って、ぶはーっ!!」

 思いっきり、吹き出した。

「……(がーん)」

 コミュニケーションの出鼻をくじかれた。

「フェイト、あんた……なにその鼻! あっははははは!!」

 いきなり笑われ、ぷるぷると震える。

 

「……わらうなー!!」

 

「ごめ、むり……あははははっ……!」

「くすくすくす……か、可愛いよ……?」

 フォローにもならないフォローを入れるすずかだったが、無責任にこちらも、

目尻に涙を浮かべて笑っていた。

「うぅうう~……!」

 取りたいが、取ったらまた鼻血が流れ出てしまう。

 歯噛みし、地団駄を踏み……吠えた。

 

「ありさ、すずか! わらうなっていってるだろー!」

 

 

 ごく自然に名前を呼べたのだが……そのことに本人が気付くのは、しばらく後になってからだった。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「あ、あわわわわ……!」

 

 がしゃーん。

 

「おっ、おぉぉぉ……!?」

 

 がしゃーん。

 

「「ぎゃー!」」

 

 がっしゃーん。

 

 青空の下に、悲鳴と、衝突音が響いた。

 言わずもがな、なのはとはやての、自転車の練習風景である。

「ほーら、前見ろ前ー。足元見るなー」

 なのはの場合、バランス感覚は良いんだけど……立て直そうとしてパニックになってる。

「そ、そんなこと言ったって……きゃあっ!」

 はやては単純に、バランス感覚が鈍い。

 

「「きゃー!」」

 

 がしゃーん。

 まぁ……こんだけ練習すれば、上手な転び方も身につくだろ。

「よし、んじゃあそろそろ、本番行くか」

「「はいぃ!?」」

 なに驚いてんだ……って、そうだ説明してなかった。

「今のは、『上手に転ぶ練習』で、今から始めるのが、『上手に乗る練習』……」

 

「死ねェッ!!」

 

――ぶんっ!

 

「うぉわっ!!」

 はやての奴……自転車を俺の顔面目掛けて投げつけて来やがった!

「あっぶねーだろ馬鹿!」

「るさいっ!もう知るか私は帰るッ!」

 あーもう、癇癪起こしやがって……

「逃げるのかー?」

 その背中に、挑発を投げ掛けてみた。

「……ッ!」

 すると、案の定……単細胞なはやては振り返り、ギリッと俺を睨みつけた。

「根性の無い奴め……」

「ンだと!」

「やーい運動音痴の根性無しー」

「んがががが……!言わせておけば……!」

 魔法でもぶっ放したいところなんだろうけど、一般人や管理局関係者の前では使えない。

「悔しかったら乗ってみろーヘッポコ単細胞ー」

 こうして、思う存分、からかえるって訳だ。

「……どけっ!」

 ぐいっと俺を押しのけ、自分で放り投げた自転車のもとに、ずんずん歩いていく。

「この私が……こんな原始的な道具、使いこなせないワケ無いだろうがっ!」

 勇ましく跨がった。

「さぁ、次は何だ!」

「秀人さん、次は?」

 二人がほぼ同時に詰め寄って来る。

「むっ……」

「むぐ……」

 睨み合い、火花を散らす。

 競うこともまた、上達への近道だ。

「工具工具……14mmはあったかな、っと」

 トラックの荷台を漁り、レンチを一本取り出す。

 

 二人の自転車から、ペダルを取り払った。

「よし」

 これで、準備完了だ。

 なのはの背中に手を添えて……

「そりゃあっ!」

 

 思いっきり押し出す。

「ひ、秀人さん、ペダルが無いー!」

「まずバランスを取ることだけに集中してみー。ほら、前見て前」

 二輪車は、視線を向けた先に自然に曲がるように出来ている。

 初心者はつい、怖くて足元ばかりを見てしまって、余計にバランスが取りづらくなる悪循環にハマるから……足にぶつかるペダルを取り払って、姿勢制御にだけ集中してもらおう。

「よし、次ははやてだ」

「来いやおらー!」

「おらー!」

 同じく、はやてを渾身の力で押し出す。

 おいおい、はやての奴、なのはが通ったラインをトレースしてねえか?

「おいはやて!前見ろ…………あ」

 

――がしゃーん。

 

 ……ぶつかった。

「……どこ見てんのよヘタクソ!」

「るっせぇノロマ! チンタラお散歩してんじゃねぇ!」

「「うがー!!」」

 ……あいつら、奇跡的なまでに相性悪いな。

 

 

 

「んじゃ、いいな? ペダル付けるぞ」

 あれから転んだり、無駄に器用にハイサイドしたりすること数10分。

 いよいよ、ペダルを漕ぐ段階まで来た。

 下手したら、今日一日は掛かるかと思ったけど……妙にサクサクとカリキュラムが進められた。

 二人の運動神経……というよりは。

「もうぶつからないでよね」

「おまえがトロトロしてなかったらな」

「「ふんっ!」」

「……喧嘩すんなよ」

 ……負けず嫌い同士の、対抗心の為せる技だろうな。

 二人が自転車に跨がる。

 準備完了だ。

「んじゃ……頑張れ!」

「「……!!」」

 とんっ、とんっ……と、自転車に跨がったまま、シーソーのように地面を蹴り、進み出す。

 ……そして、十分にスピードが乗ったところで……

「……よし!今だ!」

 合図。

 

 教えた通り、前を見たまま……ペダルに足を乗せた。

「!」

 スムーズに漕ぎ出し……やがて、ペダルを漕ぐ力のみで、自転車が進み出す!

 

「……ぃよっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 成功だ!

「よーし、よくやったぞ二人とも!」

 二人を、自転車ごと持ち上げる!

「やったー! 乗れたー!」

 なのはは無邪気に喜び、

「お、下ろせ! 下ろせ、ばかー!」

 はやては、顔を引き攣らせて喚いている。

 

 

「あーっ!」

 素っ頓狂な声に振り向くと、フェイトがこっちに走ってきていた。

「なのはばっかりずるい!ボクも、ボクもー!」

 びょこぴょこ飛び跳ねている。

「それじゃあ、次はフェイトの番だな」

 さて、もう一台BMXを……

「ふーん、コレ?」

 あ。フェイトの奴、俺が使ってたMTBを……

 いくら何でも、足が届かないだろうに。

 まぁ、好きにさせてやるか。

 

 

 ……だけど。

「よっ……はっ……!」

 いくらなんでも、その才能は反則だろう。

 

「よいしょー! ……あっははは何コレたのしー!!」

 

 ……ヘッドチューブとダウンチューブの間に足を入れる……所謂、三角乗りで、スタンディングを維持している。

「ひゃっほー!」

 シャカシャカと漕ぎ、フロントをロックさせてのジャックナイフ。

「……よーやるわ」「ホントにね……」「チッ……」

 妬むより先に、感心してしまう。

「あんな金髪アホウドリなんぞに……!」

「負けてたまるか……!」

 はやてとなのはが、ムキになってBMXに跨がった。

 ……まぁ、楽しそうで何よりだ。

「秀人さん」

「おう、すずか。話はもういいのか?」

 フェイトの奴、バイクに乗ってる時から言ってたしな。

「えぇ。三人は私が見ておきますから、秀人さんも楽しんじゃって下さい」

「とーぜん、私もいるから心配無用よ!」

 アリサも、長い髪をアップに纏めて準備完了か。

 それじゃあ、任せようかな。

 

「……」

 実を言うと、ちゃんとしたサーキットを走るのは生まれて初めてだ。

 ……戦場ばっかり走り回ってるからなぁ。

 オフ車ばりに悪路を乗り越えたり、200キロの速度域でスラロームしたり、敵に体当たりしたり、空飛んだり……

「……」

 スレイプニルモードの自己修復機能が無ければ、とうの昔に廃車になっている。

 

「さて……」

 レンタルのレーシングスーツ一式を身につけ、準備完了。

 

――キュルルッ……ボゥンッ!

 

 各部、異常無し。

 

「……行くか!」

 

 ギアを入れ……発進!

 

――バオオォォッ!!

 

 流石に、スレイプニルモードは使えないけど……純粋に、単車の限界性能を引き出せるのは楽しい。

「とりゃあっ!」

 カーブに差し掛かり、シフトダウン。エンジンブレーキで減速した所から、思いっきりバンクさせカーブを滑り抜けていく。

「ほっ、はっ!」

 連続するシケインを抜けた先は……約3キロのストレート!!フルスロットル!!

 

――バゴォオオオオオオオオオオォッッッ!!

 

 

「最ッ高ぉおおおおおおおぉぉ!!」

 

 

 超・爽快!

 一日中でも走っていたいくらいだ!

 

 今だけは……闇の書だとかを忘れてもいいな!

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「……ふぅん、」

 ばたばたと、風が吹きすさぶ。

「アレが、アイの……」

 白衣とワンピースが、風をはらんでバタバタと揺れる。

 だが、それを纏う黒髪紫眼の少女に、ふらつく様子は見られない。

 ……テストコースの管制塔、その頂上のアンテナに立っているというのに、その様子は異常だった。

「……原始的な道具。アイには、あれが何故面白いのかが分からない」

 値踏みするように、サーキットを快走する秀人を見下ろす。

「……そして、そんな原始的な道具に熱を上げているあのひと」

 

 ぺたん、と、サンダル履きの足を鳴らし、一歩踏み出す。

 

「あのひとが、アイの……」

 

 ぺたん、ともう一歩。

 

「……なんかむかつく。でも、アイは何故むかついているのか、わからない。だから……」

 

 ぽんっ……と、アンテナから飛び降りる。

 

「アイは、あのひとに聞きに行く」

 

 ……躊躇いも無く、疾走するバイクの鼻先へ。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

――とん。

 

「……は?」

 思わず、そんな間抜けな声を出してしまった。

 だって、仕方ないだろう。

 サーキットの直線コース。そこを、メーター読み210キロで走っているバイクのスクリーンに……

 

――人間の足が二本、いきなり唐突に脈絡無しに、出現したんだから。

 

「……」

「近くで見た結果、あなたはアイが会うべき人であると確信した」

「……」

 ……いきなり、何を言っている?

「わからないけど、わかったの」

 得心したように鷹揚に頷き……

 

「やっぱりおまえは、むかつくの」

「!!!」

 

――ビュオンッ!!

 

 単車の向きを切り替えて、回避するより早く。

 

 

――ガシャアンッ!!

 

 

 足場を物ともしない痛烈な蹴りが、バイクごと俺を蹴飛ばした!

 

 

――ギャリギャリギャリッ……!!!

 

「あっ、ぐ……!」

 視界が二転、三転する、と、同時に!

「っだぁ!」

 地面を両足で掴んで、立つ!!

「ッッ……!いきなり、何だ!」

 まさか、守護騎士の一人か!?

 それにしては、妙に軽装だが……

「いわゆる……『おまえに名乗る名は無い』……なの」

「……」

 守護……騎士?

「……」

「……」

 ジャージに、白衣に……なんだ、その…………何?

「……」

 ……何故かどちらともなく、睨み合うというより、見つめ合ってしまう。

 

「秀人さん、大丈夫!?」「コケてんじゃないわよバーカ……まさか、怪我なんてしてないわよね?」「ひでと、けがはない!?」「秀人!無茶はするなよ……」「あたしのバイクは無事かい!?」

「いやお前のじゃねーから! 俺のだから! ……とりあえず、大事無いけど……」

 

「……」

 

 全員の視線が……黒髪紫眼の少女に、集中する。

 

『……何を、しているのですか』

 

 レイジングハートが……明らかな努気を宿した声で、口火を切った。

「レイジングハート……知り合いか?」

『何を、しているのか……聞いているのです!! アイ!』

 アイ……?

 それが、この子の名前か?

『逃げ出したと思ったら、こんな所で……しかも、秀人に危害を加えるなど!』

 敵というか、年下を怒る年長者みたいな口調だ。

 どういう関係……?

 と、誰もが思ったその時、沈黙していた少女……アイが、口を開いた。

 

 

 

「だまるがいいの……クソ姉貴」

 

 

 

 ……え?

「え?」

 クソ、姉貴……?

 レイジングハートを。そう呼んだのか?

 

『……こやつの名はアイ。秀人。認めたくありませんが、あなたの機体となる予定だった……インテリジェントデバイス、です』

 

「え?」

 流石に、冗談だよな?

『……』

「……マジで?」

『マジです』

「……」

 

『大マジです』

 

 二回言われちゃったよ。

「……嘘ぉ。人間にしか見えない……」

「でばいすが、にんげん、、? でばいす……え?え?」

 すー、はー……よし、準備OK。

 それでは、声を揃えて……

 

「「「「「ええええええええええええええええええッッ!!?」」」」」

 

 

「そんなに驚かなくてもいいと思うの……」

 

 アイが、少ししょげた様子で呟いた。

 

 

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