魔法少女リリカルなのはties 作:ハルハルharuharu
なのはを家に残し、フェイトを伴い、また家を出た。
裏庭に開いた転送ポートから、地球支部へ。
「ううぅ……」
やはり、あのオッサンに会うのは緊張するのか、強張っていた。
(根はいい人なんだけどなぁ)
アレは間違いなく、態度と口調で損をするタイプだ。
「うぅー……こわいよぅ……」
お気に入りのリボンで一つに纏めた髪が、頼りなく垂れていた。
「……ボク、なにかやらかしちゃった?」
話の中身は、サプライズということで秘密にしてあるけど……
多少は話しておけばよかったか?
「そういう話じゃないから大丈夫だって」
「……ほんとう? うそだったら、アークルかってね?」
「おう、コンプリートセレクションのやつ買ってやるよ」
……帰りに買ってやるかな?
そして、オッサンが待ち受ける小会議室のドアをノックする。
『入れ』
低い声で指示が出る。
「入ります」
フェイトの手を引き、会議室に入った。
「ふん……生きていたか小僧」
どっかりと腰を下ろしたオッサン……レジアス少将が、腕を組んだままじろりと俺を睨んだ。
「悪いかよオッサン。生憎、ピンピンしてるよ」
……クロノあたりが聞いたら、また青ざめて怒りそうな口調だが、俺はあくまで嘱託。
階級も権力も無いけど、必要以上に媚びてやる義務も無い。
「そのしぶとさは評価してやろう。
それで……話とは何だ?」
言い淀んでいても仕方が無い。
俺は、その話を切り出した。
「フェイトをなのはと同じ学校に通わせる。 許可をくれ」
それを聞いたオッサンは、ムスッとした顔のまま黙り込んだ。
「え……え?」
寝耳に水状態のフェイトがの目が、俺と、オッサンの間を行き来する。
「……その必要性は」
「情操教育。社会勉強。何だったら、友達作りでもいい。……子供が学校に通うのに、それ以上の理由があるか」
荒療治かもしれないけど、フェイトの人見知りは非常にまずい。。
三つ子の魂百まで……というわけでは無いが、幼少期の人格形成はその後の人生に大きく影響する。
もしこのまま人見知りをひきずってしまったら、損をすることはあっても、得をすることは無い。
「……」
「……」
何も語らず、無言で視線をぶつけ合う。
「……」
「……」
オッサンは俺の真意を図ろうとしているようだ。
俺は、探られて痛いような腹は無いが……ここで目を逸らしたら、オッサンは退室してしまう
だろう。
じりじりと、プレッシャーがのしかかってくる。
「……フェイト・テスタロッサ」
と、オッサンがフェイトに話を振った。
「は、はいッ!?」
びくっ、と背筋を正す。
「この話について、事前に説明はあったか?」
「ううん」
「……」
じろっ、と見られる。
「い、いいえっ!なかった、デスッ!」
……おぉ、フェイトが敬語使ってるとこ、初めて見た。
「何故、本人に事前に話をしなかった」
「……先に言ったら、逃げると思って」
フェイトの逃げ足は、馬鹿に出来ないのだ。
「馬鹿者が」
心底見下した目と口調だった。
「うぐ……」
このクソオヤジ……!
「……すんません」
けど確かに、話しておかなかった俺に非がある。
「では、フェイト・テスタロッサ。今、この場で聞こう」
最初に言っておく、と前置きする。
「貴様には、この世界の教育機関に通う義務は無い。貴様はまだ事件の重要参考人で、被害者であり……被保護者なのだからな。自分の意思で、自分の意見を答えるがいい」
「……」
フェイトが、揃えた膝の上で、きゅっと拳を握った。
「貴様は……そこの小僧が言うように、教育機関に通いたいか?」
……フェイトの言葉を待つ。
フェイトは、自分の握りこぶしに目を落しながら……言った。
「ボクは……しょうじき、こわい」
「……」
「しらないひとばっかりいるのもこわい。そのなかですごすのもこわい」
……口を出したい衝動をぐっと抑え、見守る。
「でも、」
フェイトが顔を上げ、オッサンの厳つい顔面を見る。
平静を装っているが、本当は怖くてたまらないんだろう。
かち、かち、と、歯が震えてぶつかる音が、わずかに聞こえる。
「それを、ひでとがやってみろ、っていうなら……ちゃんと、いみがあるとおもう、から」
つっかえつっかえながら……
「ボクは、がっこうに、かよいたい……です」
ちゃんと自分の意見を、言いきった。
「いいだろう」
「……はい?」
まさかの、ノータイム即決だった。
おいおいおい……マジかよオッサン。
いや……もしかして、最初からオッサンも準備していたんじゃ……って、それは考えすぎか。
「あ……ありがとうっ!」
ぱぁっ、と顔を輝かせて喜ぶ。
――じろっ。
「……ゴザイマス」
睨まれ、敬語に修正するオチがついた。
「明日、青二才に正式に許可を出してやろう」
「……俺、てっきり断られると思ってたんだけど」
「貴様が勝手に決め、フェイト・テスタロッサの本意でなかったのなら、な」
すっくと立ち上がり、俺の目の前を通過。
……やっぱ、思った通りの人だ。
「あぁそうだ、レジアスのオッサン」
退室間際のオッサンを呼び止める。
「何だ、小僧」
何度もオッサン呼ばわりしたにも関わらず、キレず返事をするあたり、
意外と大人物なのかもな。まぁ、それはさておき。
「捜索隊のメンバー……大部分が、あんた直轄の部隊から出してくれたんだってな」
それこそが、俺がこのオッサンを信用している根拠だ。
「感謝してる」
「……知らん。ゲンヤが勝手にやったことだ」
……大概、素直じゃねーよな。
そのゲンヤさんとやらがどんだけ偉いかは知らんけど……上官であるオッサンの許可無しに、管轄外で隊員を動かせるわけ無いだろ。
「ありがとよ。いつか、借りは返すから」
オッサンは、フン、と鼻を鳴らした。
「精々、こき使わせて貰うとしよう」
捻くれた言葉だけど要は、オーケーだ。
……意外と俺は、このオッサンが好きだったりするのだった。
さてさて……
所変わって、マリーのラボ。
……ところで、ヴィータはいつもここで何をしてるんだろうな。
ドアを潜り更に、小型のポータルを通る。
「おーい、無事かヴィータ」
うわ……前来た時より、更に汚くなってる。
「よっす。久しぶりー」
がちゃがちゃとガラクタの山を掻き分け、部屋の主の元に行く。
「……あれ?」
が、マリーはコンソールから顔を上げない。
「おい、マリー。マリー?」
肩を揺する。
「……」
ゴトンッ、と、頭が卓に落ちた……
「……し、死んでるッ!」
「……勝手に、殺す、な」
あ、生きてた。
「なんだ、寝落ちか?」
「あぁ、うん……ついノッちゃって……」
ふぅん……マリーが寝落ちするなんて、相当なもんだ。
「何の研究だ?」
マリーは、眠そうな目をごしごし擦り、面倒臭そうに言った。
「……グラーフアイゼンの、機能拡張」
グラーフアイゼンの?
「……用語で言っても伝わらないだろうから簡単に説明してやると、対象物を魔力で再現する、エミュレートプログラム……」
……よーわからんな。
「ぶっちゃけ、どんなプログラム?」
「…………ぐー、ぐー」
ありゃりゃ……まーた寝ちまったよ。
しばらく起きないなこれは。
「あ、ヴィータどこだっけ?」
目的を忘れるところだった。
「あ、ひでと、こっちだ」
くいくい、と袖を引かれる。
研究用具に埋もれつつある簡素なベッドの上で、ヴィータが身体を丸めて眠っていた。
トレードマークの三つ編みは解かれ、シーツの上に広がっている。
「……ったく、だらしねーな」
起こすのは……やっぱり止めておこう。
目の下に、マリーに負けず劣らず濃い隈が浮いている。
軽い身体を抱え上げる。
「回収完了。よーし、帰ろうぜ」
「おー!」
廊下を歩いていると、たまに局員とすれ違うんだが……
「ちわー」
「おおお、お疲れ様ですっ!」
手を挙げて挨拶したというのに、なぜか直立不動の敬礼という謎のリアクションが返ってきたり、
「あ、どーも」
談笑している三人組に声を掛けても、
「「「お勤めご苦労様です!」」」
『休め』の姿勢で出迎えられたりする。
「はあぁ……」
やーな噂が独り歩きしてるな、これは。
憂鬱だ……
――ばふっ。
「おっ、と……」
いきなり背中に重量が発生し、バランスを僅かに崩した。
バランスの発生源は、言わずもがな。
「フェイト、どうした?」
「んーん、べつに?」
ニコニコ笑うだけ。気分の問題だろう。
前にヴィータ、背中にフェイトを引っ付けて帰ってきた俺を、なのは、ユーノ、
アルフ……三人の爆笑が出迎えた。
「ふぅん……見たものを魔力で再現、ねぇ」
夕飯のかに玉を白米と一緒に飲み込み、なのはが興味深そうに呟いた。
「あぁ」
メシの匂いに釣られて目を覚ましたヴィータが、得意げに頷く。
「んじゃ、バルディッシュもさいげんできるのかな?……もぐもぐ」
「フェイト、口の中のもの飲み込んでから喋りなさい」
「あうー……」
なのはに注意される。
「あー……できる、とは思うぞ?多分」
多分?
ヴィータは、ついっ、と目を逸らし、ぼそぼそっと言った。
「……実を言うと、使い切りのプログラムなんだわ」
……一見万能なのに、使い辛いことこの上ないな。
「しかも、マリーが徹夜で超アッパー気分な時に書いたプログラムで、本人も記憶が定かでは無いって」
追加増産も無理かよ。
「じゃあ、何に使うの?」
「ふっふっふ……」
不敵な笑いを浮かべ、言った。
「アタシの、騎士甲冑だ!」
「騎士……」
「甲冑……?」
なんだそれ?
「僕たちが言うところの、バリアジャケットのことだよ」
無限書庫から得た知識で、それに答えるユーノ。
「ベルカのアームドデバイスは、頑健な造りと引き換えに容量が少ないんだ。
だから、バリアジャケットは一つの形状のみ、というのが一般的だったらしい」
へぇ……そういう考え方も有りなんだ。
フェイトみたいに、用途ごとに用意はしなかったんだな。
「古代ベルカの王達は、直属の騎士に甲冑を与えるのが通例だったんだって」
ほう……まぁ、王はいないんだし、自分の好きにさせていいだろう。
食後。なのはとアルフが洗い物、俺とフェイトとユーノは雑誌や漫画や古書を広げている傍ら……
「……」
ヴィータが真面目くさった顔で、少年漫画のページをぱらぱらとめくる。
その手には、何故か起動状態のグラーフアイゼンが。
例の、『超カッコイイ甲冑』を、選んでいるらしかった。
「獅子座、天秤座……は、安直過ぎるな……」
……聖闘士〇矢か。
確かにアレはかっこいい。
ウキウキと吟味するヴィータを見て……土産の存在を、すっかり忘れていたことに気が付いた。
「ヴィータ」
「んー、何だー?」
「土産あるぞ。こっち来い」
「どれどれ……」
――この時、気づくべきだったかもしれない。
ヴィータはグラーフアイゼンを起動させていて、かつ、例のプログラムを走らせっ放しだった、ということに。
「ほら、これ」
昼間買った、綺麗なドレスを広げて見せる。
「…………アタシに似合うか?」
予想していた通りの反応だった。
「だーいじょぶ!なのはのお墨付きだ!」
「……へ、へへ。なんか、照れ臭いな……」
ドレスを受け取り、身体に合わせる。
「でも、サンキューな。大事に着るぜ」
『……』
ピカーッと、グラーフアイゼンが輝き……
『……形状記憶、完了しました』
……おい待て。
「あ、アイゼン!! 今、何をした!?」
『主の騎士甲冑を形成致しました』
「はぁッ!?」
『? そちらの衣服が、お気に召したのでは?』
「ちげぇよ!」
『まぁ良いではありませんか。よく似合うかと』
「良くねぇよぉおおおおおお!?」
……変態(マリー)と関わりすぎた影響で、グラーフアイゼンがアホになっていた。
「まさか……!」
……バリアジャケット……じゃなくて、騎士甲冑を展開する。
「う、あ、あ……!」
ワナワナ震え、姿見に目を移す。
そこに写る自身の姿を見て……
「…………ぎゃーーーーーー!」
……可愛らしいドレス姿で、ムンクの叫びを上げた。
ま、いいんじゃね?
◆ ◆ ◆ ◆
――たったったっ。
「、はぁっ、はぁっ……!」
「ふぅっ、はぁっ……!」
九月一日。その早朝。
――たったったっ。
「ぜーっ、ぜーっ……!」
「はひー、はひー……!」
今日は、私……高町なのはが通う、海鳴第二小学校の始業式の日だ。
まだ暑さが残る夏の朝。
背中のランドセルには、各種宿題。
教科書の類が入っていない鞄は、いつもよりも軽く、新学期への足どりをも軽くしてくれる。
さぁ、学校に着いたら、望に会ってお喋りをしよう……等と、気楽に考えていた私は何故か……
……死に物狂いで逃げるフェイトを追って、学校とは逆方向へ走っていた。
「ま……まぁてぇえええ……!フェイ、トぉぉぉ……!」
「い~……や~……だ~……!」
この半年余りで、私とフェイトの体力差は随分と縮まった。
だから、ここまで泥沼な追いかけっこが出来るわけだ。
ぜぇはぁ。
「待てって、言ってる、でしょ……!」
昨日、お偉いさんに意思表明したんじゃなかったの……!?
だばだばと、スタミナ切れ寸前の不樣な走り方で、必死に逃げている。
「べんきょうなんて……まっぴらごめんだ~!!」
……どうやら、『学校』というものを大幅に勘違いしていたらしい。
フェイトにとっての『学校』とは、クラスメイトとコミュニケーションを取り、
対人コミュニケーション能力を身につける場所……だと思っていたみたい。
……それは幼稚園だろう。
回天桜花を投げれば、とりあえず捕獲できるけど……そのために、秀人さんが選んであげた服に穴を空けるのは、心苦しい。
けど、どうにか捕獲して、職員室まで連行しないと!
時刻は、間もなく8時を回る。
始業式が9時から……まぁ、これはサボってもいいとして……フェイトの顔見せだけは、
遅らせるわけにはいかない。
「待ちなさーい!」
「勉強はやだー!」
だっ、と最後っ屁のように加速した。
くそっ、往生際の悪い……!
何か無いか、何か!
住宅、コンビニ、八百屋、金物店……金物!
ざかざかと物色し……
「あった!」
テントとかを固定する、『J』字型の金具!
何本かを引っつかみ……!
「こぉの、怠け者がぁぁぁぁ!!」
投擲!!
――スコーン!!!
うまいこと、金具の曲線部分がフェイトの手首を捉らえた。
ふふふ……兄さんの真似してみたけど、うまくいったぞ。
「うぎゃー!! うぅー……!」
深々と街路樹に突き刺さっている金具を、抜こうと躍起になっている。
「さーて、と……」
時間は、8時20分。ここから学校までだと、歩いて一時間、走っても40分。
「ほら、観念してさっさと行くよ!」
「やだぁ、やだぁああ!」
腕を組み、もう一回方向転換……あ。金具、返しておかなきゃ。
学校に着いたのは、9時ちょっと過ぎ。
「おはようございまーす」
職員室の戸を開ける。
あ、いた。
「富山先生、久しぶりー」
「なのはさん……何で遅刻するのよー……?」
久々の富山先生は、いつも通り半ベソだった。
「……あれ、そういえば、何で職員室に?」
今はまだ、始業式の真っ最中だったはず。
「聞かないで……」
……まーた何かやらかしたな。
説明して、ずっと後ろで小さくなっていたフェイトを引っ張り出す。
「というわけで、転校生です」
「あなたが、テスタロッサ、さん?」
「……」
「……あの?」
「……」
たたたっ、と、また私の背中に隠れ、じぃっ……と、先生を観察する。
「……」じー。
「……初めまして、テスタロッサさん」
「……」じーー。
「……お返事は、してくれないのかな?」
「……」じーーー。
「て、照れ屋さん、なのかなー、なんちゃって……あはは」
「……」じーーーー。
がんばれ先生。がんばれ担任教師。
「……なのはさぁん、」
弱ッ!!
はぁ、仕方ないなぁ……
「フェイト」
「……なに」
「秀人さんと約束したでしょ? 自分から、挨拶しなさい」
手助けはするけどね。
「……わかった」
感情に蓋をしたように、無機質な声で答える。
あぁ……秀人さんの行動も、納得だ。
「……フェイト・テスタロッサ」
ぼそっ、とそれだけ言い、黙り込んでしまう。
……これは、非常にまずい。
下手をしたら、相手によっては反感を買ってしまう。
「あぁ……そういうことね」
先生も、得心いったように頷いた。
「テスタロッサさん、今日からよろしくね」
「……ん」
「じゃあフェイト、教室で待ってるからね」
「え……でも……?」
「教室で、待ってるからね」
「……うん」
心細いかもしれないけど……ここは、厳しくしておかなくちゃ。
後ろ髪を引かれる思いもあるけど、フェイトを職員室に残し、教室にやって来た。
ガラッと扉を開けると、クラスメイト達が一斉に私に視線を向けた。
「あ、なのは!」
その中から、望がぶんぶんと手を振ってきた。
「おはよ、望」
席に座る。
「あんた、始業式からサボるとか……」
「あー……遅れた理由は多分、後で先生から説明があると思うよ?」
「ふぅん……あ、そうだ!」
ぱん、と手を打ち、話題を替える。
「今日、転校生が来るんだって!」
うん、まぁ……知ってる。
「へぇ、どんな子だろうね」
だから、ざわついているのか。
「ほんと、二人も転校してくるなんて珍しいよね!」
「……え?」
二人?
何それ聞いてない……
困惑しているうちに、先生が廊下の向こうからやってきてしまった。
……まぁいいか。別に、私には関係ない人なんだろうし。
「はい、座ってー!ホームルーム始めまーす!」
クラスメイト達は、各々の席に座っていった。
「ふふ……もう皆、知っているみたいね」
にっこりと笑う先生に、クラスメイトの一人が突っ込んだ。
「だって今朝、さっちゃんがバラしちゃったじゃん」
「うっ……」
思い出したかのように、口々にいらん情報をバラしていく。
「普通バラさないよねー」「いくら初めての転校生だからってはしゃぎすぎ」
「俺達よりテンション高かったよね」
「う、ううぅ……そうよ!
口を滑らせて、長谷川先生に怒られて、職員室でお留守番だったわよー!!」
だから職員室にいたんだ……
「それじゃあ、入ってきて下さい」
扉を開ける。
「……」
まず、最初に入ってきたのはフェイトだ。
神妙な表情で、教卓の横にトコトコ歩いてくる。
「うわぁ……!」
初見のクラスメイト達が、思わずため息をついていた。
まぁ……中身を知らなければ、見目麗しい美少女だからね。
続いて入ってきたのは………………………………
「チッ……マジ面倒臭い」
上履きの踵を潰し、ポケットに手を突っ込んだ、
――八神はやて、だった。
あまりの落差に、クラスメイトもドン引きしている。
「うわぁ……」
……同じ言葉で、こうも響きが違う。
「あぁン……?」
ぎろっ、と睨まれ、顔を伏せるクラスメイト達。
「テスタロッサさん、八神さん、自己紹介をお願いします」
「……はいっ」
「チッ……」
裏返りそうな声で返事をするフェイトと、本気で嫌そうに舌打ちをする八神。
「……フェイト・テスタロッサです。よろしく、おねがいシマス」
おぉ……裏返ったけど、ちゃんと言えたじゃないの!
「……八神はやて。別に、ヨロシクしてくれなくていいから話しかけるな」
……これはひどい。
重ね重ね、うわぁ、だ。
静まり返る教室を尻目に……八神は、空いている椅子にドカッと腰を下ろした。
「……」
何で、よりによってコイツが……
「……」
じーっと眺めていると、視線に気づいたのか、頬杖をついたまま、私の方を振り向いた。
そして……
「……はン」
嫌みったらしく、鼻で笑いやがった! むっかつく……!
「はぁ……」
よりにもよって、こんな奴とクラスメイトだなんて……
先行き、激しく不安だよぉ……
◆ ◆ ◆ ◆
(あー、かったりー……)
首を回すと、コキコキと関節が鳴った。
あーあ……何で私が、いまさら小学校なんか……
「……い……ね」「……う」「……か、じゃ……」
途切れ途切れに、私を噂する声がする。
目を向けると、丁度私を不躾に眺めている連中と目が合った。
「「「……」」」
チッ……なら、最初から喋るんじゃねぇよ……
「はぁ~~~~~………………」
昨日、リーゼがあんなこと言い出さなければ……
昨日の朝方、剣の鍛練を終え、仮住まいの廃ビルに戻った私達。
「主」
「んー、何?」
味気ないコンビニのサンドイッチをかじりながら休憩していた私に、リーゼが話し掛けてきた。
「以前、高町なのはの個人情報を入手したこと、覚えていますか?」
あぁ……あの、病院のデータを盗み見た時か。
「うん、覚えてるけど……」
住所とか、いろいろ。
「私の調査の結果、彼女は一日の大半を、『学校』と呼ばれる教育機関で過ごしているようです」
まぁ……小学校だから、当然といえば当然だ。
「それで?」
続きを促す。
「潜入し、彼女らの隙を探ります」
ふぅん……小学校に、ねぇ。
リーゼは変身魔法が使えるから、問題無いっちゃ問題無いな。
「頑張ってね」
と、言ってあげたのに。
何でそんな、不可解そうな顔を……
「主が行くのですよ?」
……え?
「……ごめん、イマイチ聞き取れなかったんだけど……」
「主が、小学校へ行き、高町なのはの隙を、探るのです」
一言一言、くっきりと言った。
私が、学校に……?
「ヤだ」
そんな、面倒臭いこと。
「……主、」
「ヤだ。そんな面倒臭いこと……」
そんな時間あったら、身体でも鍛えているほうが余程有意義だ。
「これは、あなたの計画を成就させる上で、欠かせない作戦なのですよ」
説得にかかる。
「それを面倒臭いなどと言って切り捨てるなど……」
「……」
どうにも、何かをたくらんでいるようにしか感じられない。
けど、リーゼの企みは、いつも何らかの成果を出しているのも、また事実だ。
「……わかったよ」
たまには、リーゼの言うことも聞いてやるか。
「こちらが、学用品一式となります」
とんっ、と、どこからともなくランドセルを取り出し、目の前に置く。
……転校手続きはまだだから、しばらくは無理だけどね。
「ご心配なく。昨日済ませてきました」
「はぁっ!?」
昨日!?
「リーゼあんた……最初から……」
「……」
無言の肯定だった。
なんか、行動が読まれていたっぽい。
……そんなこんなで、ここにいる。
釈だけど……高町の阿呆面が見られただけでも、来た意味はあったかもしれない。
『ちょっと、八神』
ん……?
今の、念話……?
それに多分、声の感じからして……
『八神、聞こえてるんでしょ?』
『……チッ。何の用だよ』
高町だ。
『……話があるの。ホームルームが終わったら、屋上に来て』
……これは、いきなり訪れた好機か?
『……いいぜ。お前こそ、逃げるんじゃねえぞ』
さぁて……ちょっくら、学生ゴッコでも始めてみますか。