魔法少女リリカルなのはties 作:ハルハルharuharu
「はい、それでは、今日はこれで終了です」
先公のクソッタレなホームルームを聞き流していたら、
今日の終了時刻になった。
帰る……前に、アレだ。
「……」
「……」
同じく席を立った高町と目配せし、教室を後にする。
高町は、同じクラスだった八代望にぺこぺこと謝っていた。
一緒に帰る約束、云々……
「チッ……」
そんなもん、後でいいだろ。
私との用件より優先すべき事柄なんて無いんだから。
「よっす、八神!」
……ぽん、と気安く肩を叩かれた。
あぁ……そういえば、あんたも同じクラスだったっけ。
「葉山。何か用か」
今は、お前と遊んでやる時間は無いんだけど。
「用って……用が無いと駄目か?」
「駄目に決まってるだろバーカ……おら、さっさと帰って球遊びしてろ」
「ちぇっ……また明日なー」
しっしっ、と追い払って、ようやく教室を出られた。
……ったく、面倒臭い。気まぐれで人間関係広げるもんじゃないな。
「八神、行くよ」
……チッ。結局、高町に追い越されたよ。
「チッ……」
はいはい……
そして、屋上に続く踊り場で、足を止めた。
当然ながら、アニメみたいに屋上が開放されているわけも無い。
「ちょっと待ってて」
……高町は、ヘアピンをポケットから取り出した。
「うちのユーノくん、遺跡探索とかが好きで……」
――かちゃかちゃかちゃ……
「ピッキングとか、いろいろ教わって……」
――かちゃかちゃかちゃ……
「お、教わって……あれ?」
――かちゃガチッ!
「あ」
変な音がして……高町の手には、ヘアピンの一部だけが空しく残っていた。
「……バカじゃないの」
「う……うるさいな!いつもは、ちゃんと開けられてるよ!」
あーどうしよー……等と、頭を抱えた。
「……」
身体強化魔法を発動し、ドアノブを握る。
――ゴキンッ!!
そのまま、ドアノブを引っこ抜いた。
「開いたぞ」
最初からこうすれば良かったんだよ。
「何してんのよアンタはァアアアァ!!?」
うるさいなぁ……
「行くぞ」
それを無視し、屋上へ足を踏み入れた。
「あっつ……」
よく考えれば、今はまだ夏と言って差し支えない気温だ。
いくら風があったとしても、暑いことに変わりは無い。
貯水タンクの陰にある、僅かな日影に入る。
「……で、話って何?」
「どういうつもり」
「なんのことやら」「真面目に答えて!!」
チッ……うるさいなぁ……
「お前に言う必要は無い」
言ったところで、私には何のメリットも無いし。
「何だったら、力ずくで聞き出してみな」
それはそれで、楽しそうだ。
「……そうしたくないから、こうやって聞いてるんじゃない」
「なぁんだ……無理矢理聞きたいから、こんな所に呼び出したのかと思った」
「違う。何で、そんな考え方しかしないの」
殺すとリーゼが五月蝿そうだな。
「まったく……」
半殺し……いや、三分の二殺しくらいに……
「親の顔を……、
――瞬間。冷えきった殺気が全身を駆け抜けた。
怒りをも置き去りにして、機械的なまでに正確に、その動作を行った。
「……」
壁に、いや、貯水タンクの影に……闇に、手を突き入れる。
ズブッ……と沈んだ手が、ゴツッと硬い物に触れる。掴み出す。
「死ねよ……お前」
引き金を、引いた。
――パァンッ!!!
乾いた破裂音。
発射された弾丸は、真っ直ぐに……高町の額目掛けて、突き進んだ。
◆ ◆ ◆ ◆
まったく、なんて奴なんだろう。
私に意地悪をするためだけに、わざわざ転校までしてくるなんて。
「お前に言う必要は無い」
何か理由でもあるのかと思ったのに、何も言いやしない。
「何だったら、力ずくで聞き出してみな」
やらないってば。
まったく……
「親の顔を……、
見てみたい。
そう言い切るより先に、八神が奇妙なアクションを起こした。
影に手を突っ込んで……拳銃を、その手に握った。
「!?」
――極限の緊張は、また私を『あの世界』……倍速の世界へ、引きずり込んだ。
――…………
銃声が間延びする。
発射された弾丸はおろか、雷管が着火した際の火花も、硝煙も、
全てが視認できた。
が。
「ぐ……!」
身体が、軋みをあげる。
通常の時間の流れに留まろうとする身体を、無理矢理動かしているのだから
当然だ。
音速に近い弾丸は、もう目の前に迫っていた。
「……ああァあ!!」
左の小太刀、桜花の鞘を、弾丸の進路上に構える。
その時点で、私の意識は、『あの世界』から帰還した。
――パギンッ!!
弾丸は鞘の上を滑り、進路を変更。
バチッ、と、私の髪を僅かに掠め、見当違いに飛んでいった。
一瞬の停滞の後……はらり、と、白いものが、落ちた。
「あ、」
それは、帯状の物だった。
「あ、」
白地に、同色の糸で丁寧に刺繍されている。
ぱさり、と、地面に落ちた。
弾丸が掠めた跡だろう。焦げたように茶色くなり、千切れてしまっている。
お気に入りのリボン。
母さん達からの、贈り物。
それが……壊された。
「許さない……」
ぽつりと口をついた言葉。
それを認識した途端……怒りが、燃え上がった。
「絶対に、許さないッ!」
八神は、殺意に満ちた目で、私を見ている。
……どこかで、見たことがある気がする。
けど、今はそんなことどうでもいい!
「お前を殺す」
「やれるもんなら……やってみなよ!」
再び照準を合わせ、第二射!
――パァンッ!!
今度は、最初から予測できた。
来ると分かっていれば、銃口の向きから射線を割り出せる。
「……」
――パァンッ!
無感動に、第三射。
「何度も同じ手を……!」
……喰らうわけがない。そう、浅はかに考えすぎていた。
――ぐいっ
「えっ!?」
右足が、何かに掴まれた。
「バインド!?」
……いや、違う。
足元の影が、三次元的に形を成し、私の足を捕縛していた!
――パァンッ!
「くっ!」
――ガィンッ!
また、鞘で防ぐ。
「放せ、このっ!」
――ザンッ!
回天に魔力を纏わせ、立体の影を切り捨てる。
拘束が消えた一瞬で、影から飛びのく。
切り捨てた筈の影は、何事も無かったように再生した。
夏の太陽は、真上。
自分の影は、足元に小さく存在している。
「レイジングハート、足元の警戒、お願い」
『All light』
久しぶりの実戦だ。
「シュート!」
試しに、アクセルシューターを打ち込んでみる。
――バシュッ!
魔力弾は、影に侵入するやいなや、立体の影に喰われた。
「……」
八神のテリトリーは、あの影の中か。
――パァンッ!
「、当たらないっての!」
目測で弾を避ける。
「……」
八神は、手にした拳銃をじぃっと見つめ……ぽいっと放り出した。
そして再び、影に手を突っ込み……新たな得物を掴み出す。
今度は、二回りほど大振りな……えぇと、なんだっけ!?
『サブマシンガンです』
「そう、ソレ!」
――バララララララララララララッ!!
「きゃああああっ!」
拳銃とは段違いの威力!
屋上のコンクリートが、ガリガリ削られていく!
砲撃が封じられている状態じゃ、ラチがあかないよ!
「レイジングハート、突っ込むよ!」
『All light』
こうなったら、無茶を承知で接近戦だ!
――バラララララッ!
八神も、そこまであのサブマシンガンを使いこなせていないみたいだ。
本当なら、撃ちながら薙ぎ払うように使うんだろうけど、同じ方向にしか撃っていない。
――バラララララララッ!!
「フッ!!」
回避!
掃射を止め、再び私に照準を合わせる。
僅かに……けど、決定的に出来た隙。
(今ッ!!)
踏み込みと同時に、小規模インパクトで加速!
――ガシャンッ!!
フェンスを蹴って、三角跳びで切り込む!
「はぁああああっ!」
立体の影が動くより速く、八神の目の前に!
もらった!
「それを、」
この距離なら、引き金を引くより、剣の方が早い!
「……待っていた」
――ガキィインッ!!
え……?
「……近距離なら、勝てるとでも思った?」
振り下ろした回天桜花は、サブマシンガンを捨てた八神の右手が握る、少し大振りな剣に阻まれ、届いていなかった。
八神のテリトリーに踏み込んでしまった。
「浅はかにも、」
や、ば……!
「……程があるッ!」
八神の左手、闇色の刃が振り抜かれる!
「くっ!?」
咄嗟に桜花を右手にパスし、防御魔法を展開!
――パキィインッ!
破られたけど、なんとか無傷で回避に成功!
『マスター』
「……うん、ごめん」
正直、嘗めていた。
戦力分析も済んでいないのに、格下と戦っているつもりになっていた。
「……」
……もう、油断はしない。
八神も、両手で剣を握り、正眼に構える。
あの余裕から察するに、まだ何か隠し玉があると見た。
でも、私がすべきことは変わらない。
(斬れる距離まで近付いて、斬り伏せる!)
「……」
「……」
睨み合う。
夏の日差しが容赦無く照り付ける。
「……」
「……」
汗が一滴、額から顎を伝い……
――ポタッ……
地面に落ちる。
「「ッ!!」」
お互い同時に、飛び出す!
「はぁああっ!!」
「おぉおおっ!!」
八神の剣と、私の刀がぶつかる……直前。
『Photon Lancer』
雷撃が、私たちの間に割って入った。
――バシュンッ!!
直撃を避けるため、跳びのく。
再び、間合いが開く。
「……誰だッ!ブチ殺されてぇのかッ!?」
八神の、本気の恫喝。
「……なにしてるの」
横槍を入れた人物から、静かに、冷たい声が発せられる。
「……フェイト、これは、」
「……なにをしてるの、二人とも」
「チッ……!」
八神が、再び取り出したサブマシンガンの照準をフェイトに合わせる。
「フェイト!!」
ぎちっ、と、引き金のスプリングが軋む……より速く。
――ガキンッ!!
バルディッシュの魔力刃が、サブマシンガンを両断した。
――ギチッ……
「うぐっ……!」
そのまま、バルディッシュを八神の喉元に突き付ける。
「……キミがどんな動きをしても、ボクが喉笛をかっ切る方が速いよ。……わかるよね。大人しくして」
「……チッ」
八神は渋々、剣を下ろした。
「なのは」
……いつもと違う、爛々と光る紅い瞳で、私を見据える。
「武装を解除して」
「……」
いくら、フェイトの言うことでも……聞けない。
「こいつは、許さない……!!」
つまらない挑発で、私の大事なものを壊した。
「……」
フェイトは、片手で八神を牽制しながら、もう片方の手で、髪を結わえていたリボンを解いた。
「はい」
「え……」
「千切れたリボンが直るまで、貸してあげる」
……
「……で、ヤガミ」
「……」
「ヤガミは、何が気に入らなかったの」
「……ふん」
答える義理はない、とばかりに、鼻を鳴らす。
「どうせ、つまらない挑発……」「なのは」
ぴしゃりと遮られた。
「今は、ヤガミが話す番だよ」
うぐ……
バルディッシュを下ろすフェイト。
「チッ……つまらない邪魔が入った」
だんっ、と跳び、フェンスの上に着地する。
「……」
フェンスの上に器用に立ったはやては、ポケットに手を突っ込んで、高みから私たちを見下ろしている。
「……まぁ、今日のはほんの挨拶だよ」
皮肉な笑みを作り……
「それじゃあ、高町さん、テスタロッサさん……また明日」
ぽんっ……と、身を投げた。
「……!」
フェンスに駆け寄って……見えたのは、漆黒の翼。
『……飛行魔法、及び、隠蔽魔法の発動を確認しました』
「……」
屋上に残されたのは、私とフェイトだけ。
「帰ろうか」
やがて、どちらからともなく、そう口にした。
「なのは」
その、帰り道。
私にリボンを貸したお陰で、ストレートロングな髪型になったフェイトが、振り返らず口にした。
「……あんまり、心配かけないで」
アルフから聞いた話だけど……
初めて守護騎士が来襲した際、手続きの問題で、フェイトは初動が遅れた。
それは、フェイトては無関係な所で、非はない。
けど、フェイトは相当悔やんだらしい。
「……ごめん」
フェイトには、心配ばかり掛けている。
でも……あいつとは、いずれ決着を付けてやる。
内心のみでそう誓い、家路に着いた。