魔法少女リリカルなのはties 作:ハルハルharuharu
時間は、少し遡る。
はやてが失神した後、大家によってはやての部屋割が決定された。
……秀人の隣室。
静まり返る。
なのはは目を見開き、反抗した。
「嫌です!!」
……当然だろう。
子供じみた嫉妬ではなく……事実、はやてが秀人に危害を加えている場面を目撃してしまったのだ。
しかも、先程の大家の発言である。
家族を危険に晒すなど、そんな危険な選択をするわけにはいかなかった。
「んっ……」
リーゼが、魔力を使って人間に変身した。
注目が集まる中、リーゼは進み出て、膝を折り……
「……どうか、この通りです」
土下座した。
わざわざ人間の姿になってまで……敢えてそうするのだから、相当なものだ。
「主を、嫌わないでやって下さい」
平身低頭、いや、それ以上の懇願だった。
「……」
はやての罪について、弁明しようと思えばいくらでも出来た。
だが、それでは疑念が残る。
故にリーゼは、懇願したのだ。
今はまだ、聞かないでくれ……疑念を、飲み込んで欲しい、と。
「リーゼ、さん……」
なのはは、困惑していた。
「……ふむ、顔をあげてみぃ」
大家の一言で、また状況が動き出した。
「そんな真似せんでも、無下にはせんよ」
「……はい」
よっこいせ、と、大家は正座するリーゼの前に胡座をかいた。
「さて……おぬしの願いも聞いてやらなくはないが、なのはちゃんの不安も最もじゃ」
皆も、何となく正座する。
「まぁ何も、洗いざらい話せとは言わん。ワシの質問に、一つだけ答えてくれんかのう」
「……はい」
穏やかな声に、リーゼは蚊の鳴くような声で返事をした。
「はやては……好き好んで、他人を傷付ける子かのう?」
……あくまで、婉曲に聞いた。
「……」
リーゼは、答えかねていた。
好き好んで……の範囲が曖昧だ。
街のクズを『練習』という名目で虐殺した……あれは間違いなく、『好き好んで』の部類に入る。だが……
「私と契約してからは、無為な暴力は一度も振るっていないと断言できます」
リーゼを配下に加えてからは、たとえクズが相手であろうとも、一定の制裁を加えるに留めていた。
理由無き者に、手を下したことなど一度も無い。
美香を始めとした親しい者は、言わずもがな。
「……らしいぞ、なのはちゃん」
なのはは、フェイト、ユーノ、アルフと順々にアイコンタクトを取り……
「……わかりました」
渋々だが、頷いた。
「嫌うな、っていうのは、正直、無理ですけど……偏見は、捨てます」
「……ありがとう、ございます。高町さま」
リーゼはなのはの手を取り、深々と頭を下げる。
「え、あの、いや……『様』とかいいです……呼び捨てで」
「では、なのは。ありがとうございます」
「あはは……極端な人だなー……」
こうまで素直に礼を言われると、さすがに気恥ずかしいらしい。
秀人とはやてが眠る横で、大家と茶を飲む。
生真面目な同士だからか、話は弾んでいた。
「へぇ……じゃあ、八神の剣はリーゼさん仕込みだったんですね」
「主の剣の腕は、それは素晴らしいものです。 ……なのは、貴方は?」
「兄から、指導を受けています。まだまだですよ」
「……今度、我が主と手合わせを願えませんか? 私一人が相手だと、どうしても慣れが出てしまうようでして」
「……」
もうガチでヤりかけてしまいました……とは、言えないに違いない。
「あ、あー……そういえば、格闘もリーゼさんが?」
話を逸らした。
「格闘は、秀人との鍛練で磨いた、とおっしゃっていました」
「……へぇ」
ぴきっ……と、微妙に固まる。
異世界で。
二人っきりのマンツーマンで。
さぞ、上達したに違いない。
……いらいらいら。
「ヒデ坊はワシが育てた」
どっかで聞いたタワ言を口に出す大家。
「ヒデ坊は免許皆伝で、暇になっとったのう」
……暇だからといって、数ヶ月に及ぶ旅行に出るものだろうか。
「うむ。はやてには、ワシから稽古でもつけてやるかの。ラジオ体操よか効果的じゃて」
「……お手柔らかに」
その拳の威力を、身を以て味わっているリーゼは青ざめた。
談笑は、その後も続き……
「ふぁ……」
ぱたん、と電池が切れたようにフェイトがアルフの膝に倒れ込んだことで、お開きとなった。
翌朝。
まだ、太陽も昇り切っていない早朝。
「……今日も、ハードだった……」
ふらふらになったヴィータが、帰宅した。
「畜生、マリーの奴。なぁにが『ちょうどいいところに』だ……!」
戦闘装束たる騎士の鎧を、あんなフリフリのドレスに固定され……解除方法をマリーに尋ねに行ったのが二日前。
そうさたら何故か、何かの怪しげな実験に付き合わされ……また徹夜である。
「あー、ねみー……さっさと寝ようそうしよう……」
と、部屋の鍵をポケットから取り出した時、隣室のドアががちゃっと開いた。
(隣……? 誰か住んでたのか)
そして、出てきた人物の顔を見て……完全に、思考をフリーズさせた。
隣室の住人……リーゼは、ヴィータを一瞥し、社交辞令的に一礼した。
「……秀人のご家族の方ですね。ご挨拶が遅れました。
わたくし、隣に越して参りました、リーゼと申します」
「……」
「……?」
反応が返ってこないことを不思議に思いながら、リーゼは大家の部屋へ。
「待て待て待て!」
その手を掴み、リーゼを引き止めるヴィータ。
「? なにか?」
首を傾げるリーゼ。
ヴィータは、そんなリーゼの顔をしばらく凝視して……ふっと力を抜いた。
「わりぃ……人違いだった」
そのまま家に入った。
(馬鹿馬鹿しい……人違いに決まってる)
ベッドに横になり、目を閉じる。
――焼け落ちる都
あえて思い浮かべる、呪わしい情景。
だが……『彼女』を想起するには、それしかなかった。
『彼女』の姿は、その場面にしか無かったのだから。
一体、どれだけ過去なのかは分からない。
何度目かも分からない。
だが……焼け落ちる街と、瓦礫の中、その手に、本を手に立ちすくむ『彼女』の姿だけは、変わらずだった。
「……すぅ」
眠りに落ちていく意識の中、ヴィータは、『彼女』の名を思い出そうとしていた。
「……」
ゆさゆさ、という感覚。
ヴィータは、重い瞼を持ち上げる。
「おはようございます、ヴィータ」
……隣室のリーゼが、何故かいた。
「ぎゃっ!」
飛び起きる。
「な、な、な……なにしてやがるっ人ん家で!」
「失礼しました……なのはから、入室の許可を頂いていたので」
「なのはがぁ……?」
うろんな目つきになるヴィータに、リーゼは頷いた。
「実は、困っているのです。なのは達は学校、我が主は休息中と……手を貸していただけませんか?」
ぴこぴこ、と動くネコミミと尻尾。
「……内容は?」
はぁ……と荒い息をつく。
「主の、日用品を揃えたいのです」
「……」
勝手に行け、と言いたいところだったが……
「……わかった。少し待ってろ」
ヴィータはシャワーを浴びて着替え、リーゼと共に街へ歩きだした。
(……やつぱり、似てる)
隣のリーゼは、ネコミミをぶかっとした帽子に隠し、凛とした表情で歩いている。
「アンタ、誰かの使い魔か」
隠しているということは、リーゼのネコミミが偽物ではないという証だ。
「……使い魔、というか、契約者、です」
ぴょこん、と尻尾が飛び出す。
「無目的に放浪していたところを、今の主に拾われたのです」
ヴィータは立ち止まり、リーゼもつられて立ち止まる。
「どうかされましたか?」「お前、さ」
ヴィータは、核心に踏み込んだ。
「アタシの顔に、見覚えはねーか?」
その問いに、リーゼは……
◆ ◆ ◆ ◆
授業が終わり、下校の時間になった。
「なのは、かえろー」
「うん、そうだね」
フェイトを伴い、ランドセルを背負う。
望は、葉山君の付き添い。
これから、サッカーの練習があるらしい。
「じゃあね、フェイトちゃん」「まったねー」
クラスメイト達が、口々にフェイトに挨拶し、教室を出ていく。
「アサミヤ、カトウ、またね……」
人見知りながら、しっかりと挨拶を返すフェイト。地道に、クラスに溶け込みつつあるようで嬉しい。
誤算だったのは……
「高町さんも、またね」
「ばいばーい」
『フェイトへの仲介役』というポジションに収まった私にも、こうしたコミュニケーションが生まれたことだった。
さーて、帰るか。
「あ、なのはさん、ちょっといい?」
と、先生に呼び止められた。
「どうかしました?」
先生は、申しわけ無さそうにしている。
どうしたんだろう?
「あの……八神さん、なんだけど」
「……」
……まぁ、リーゼさんとの約束の手前、聞いておかないわけにもいかないだろう。
「私の友達」「先生、友達いたんだ」「い、いるわよぅ!」
おっと、話の腰を折ってしまった。
「で、何ですか?」
「……はぁ。その人が、どうしても、八神さんに会ってみたいって……」
? なんだそりゃ。
「その人……石田って言うんだけど、お医者さんでね。八神さんの主治医、だったの」
……過去形?
「治療に来なくなっちゃって、いっちゃん、すごく心配したみたいなの」
へぇ。
「で、昨日の夜、登録されてる住所に行ってみたんだけど……瓦礫の山になってて、会えなくて。なのはさん、八神さんがどこにいるのか、知ってると思って」
「あぁ、知ってますよ」
なにせ、今朝まで一緒だったんだ。
先生に伝えたところ、件の石田さんとやらに電話し、すぐに来るそうだ。
校門前で、三人で待つ。
十五分はした頃だろう。
校門に、白いセダンタイプの自動車が横付けした。
「ごめん咲ちゃん、お待たせ。……あなたたちも、ごめんなさいね」
降りてきたのは、ショートカットの女性。
「はじめまして、石田です」
「高町なのはです」
「…………フェイト」
「高町さん……?あの、失礼だけど、お父様のお名前は、士郎さんって言わない?」
おや……父さんの知り合いだろうか。
「えぇ、間違いないです」
「まぁ……そうだったの」
?
「私、海鳴病院で、神経内科の担当医なの」
だから、父さんを知っていたんだ。
車に乗れば、アパートまではすぐだ。
あっという間に到着。
部屋のドアノブには、鍵が掛かっている。
秀人さん、外出してるのかな……?
携帯電話を確認すると……授業中に、メールの着信が入っていた。
マナーモードにしていたおかげで、気づかなかった。
文面を確認し……
「すみません……今、外出中みたいで」
仕方ないから、私たちの家に上がってもらう。
「粗茶ですが」
お茶を出した。
「……なに、この出来た子供。咲ちゃんよりしっかりしてるじゃない」
「ほっといてよ、もう! いっちゃんの意地悪!」
どうやら、仲が良い二人みたいだ。
ドルルルッ、と、バイクの重低音を鳴らしながら、見慣れないバイクが敷地に止まった。
運転していたのは、大家さん。
側車には、はやて。大家さんの後ろ、タンデムシートには、秀人さんが座っている。
「帰ってきたみたいですね」
さて……お出迎えだ。
「おーっす、たっだいまー……って、客が来てるのか」
秀人さんが帰ってきた。
はやては、大家さんの部屋に行っちゃったか。
「秀人さん、お帰りなさい」
「おかえり、ひでと!」
「ただいま。なのは、フェイト」
その目線が、先生と石田さんに向いた。
「あれ、先生。それに……」
ふいっ、と。
秀人さんと、石田さんの目が合う。
「秀、人……?」
石田さんは、秀人さんの顔をしげしげと見つめ……
「あなた、吾妻秀人くん!?」
驚いたように、教えたはずの無い、秀人さんのフルネームを叫んだ。
秀人さんは、最初は怪訝に……そして。
「…………ッ!?」
苦虫を噛み潰したような顔になった。
秀人さん……?」
どうも、様子がおかしい。
固い表情で、石田さんを睨むようにしている。
「あ、あの……違った、かしら?」
「…………違いません」
……冷たく、凝り固まった声。
あまり聞いたことの無い声色に、畏縮してしまう。
「……なのは、フェイト。はやては、昨日の部屋にいる。先生を案内してやってくれ」
「え、でも」
はやてに会いたがってるのは、石田さんなのに。
「いいからっ……!」
秀人さんは……引き絞るように、言う。
「あ……わ、悪い」
我に帰り、謝る。
「……あ、うん」
つい呆けてしまった。
……これは暗に、石田さんと二人で話があるということだろう。
私たちは二人を残し……大家さんの部屋に向かった。
◆ ◆ ◆ ◆
二人になった部屋。
秀人は、石田と向き合っていた。
「……どういうつもり」
秀人は、石田と目も合わせない。
「八神さんの、主治医だったことがあるから……」
石田もまた、少し接し方をはかり兼ねている。
「……身体は、どうなの?」
「……」
黙秘。
「秀人くんが小さかった頃、病院で会ったの、覚えてる……?」
秀人の幼少期。病院。
それはつまり……
「えぇ、お久しぶりです……石田先生」
――超人病。
秀人の根幹にある、あの病の関係者。
当時は研修という形で、その対症療法に携わっていた。
秀人が、九歳になったばかりの頃だった。
「……大きく、なったわね」
「……」
感慨深く、思いを吐き出す。
「研修が終わって引き上げる時も、気掛かりで……あの後、尋ねたんだけど。 退院して、施設に入ったって聞いて……でも、元気なようで、安心したわ」
――どこまでも残酷な、優しさを。
その手が、秀人の、少し硬い髪に触れ……
「……やめてくれッ!」
その手を、振り払う。
石田は、びくっ、と手を引っ込めた。
「今更、何で俺の前に現れた!」
罪悪感を覆い隠すように、畳み掛ける。
「偶然、なのよ。本当に……私だって、驚いているわ」
「ふざけるなッ!!」
それが、白々しい態度にでも見えたのか、秀人は激昂した。
「俺を施設に売り渡しやがったこと……忘れたとは言わせねぇぞ!」
「違う……!あれは、上が勝手に決めて……!」
どれだけ言葉を重ねようと……病院側が、秀人を施設に放逐したという事実は変わらない。
秀人にとって石田は、病院側の人間であり……敵だった。
「うるさいっ!」
ぐいっ、と、怪力で石田の腕を掴み、立ち上がらせる。
「痛ッ……!」
その力に石田は、秀人が未だ、病と共にあることを理解した。
「かえ、れ……!」
「秀人くん、お願い、話をさせて!」
がしゃん、と、家具にしがみついた石田を秀人が引っぺがす度、何かが壊れる音がする。
「帰ってくれぇッ!!」
石田を叩き出し……秀人は、滅多に使わないチェーンまでを施錠し、閉じこもった。
「はぁ、はぁっ……!」
心臓が激しく収縮する。
額には、じっとりとした脂汗が浮かび上がる。
……凄まじいストレスが、秀人を蝕んでいた。
柱を背に座り込み、膝を抱える。
からっ……と、施錠を忘れていた窓が開いた。
「……!」
ぎろっ、と睨みつける。
だが、覗いてきたのは石田ではない。
「ひでと、ボクだよボク。こわいかおしないでよー」
にへ、と、締まりの無い笑顔を浮かべる、フェイトだった。
驚くべき柔軟性で、窓枠から身体をするりと滑り込ませる。
「どうかしたの?」
ピリピリした雰囲気を漂わせる秀人の隣に、ぴったりと座る。
「……何でもない」
「そんなかおして、なんでもない、なんてわけないじゃん」
そんな雰囲気など、どこ吹く風とばかりだ。
「……」
黙る秀人の横に、ただ座る。
秀人が話し出すまで、根気よく。
「……………………あの人、な」
ぼそっと小さく、話し出す。
「俺の主治医……の、教え子みたいな人だったんだ。漫画とか見せてくれたり、菓子くれたりして……慕ってた」
けど……と、続く。
「……俺の病気には、何の学術的価値が無いって分かって、医療費の補助がなくなって……それっきり、会ってなかった」
「……」
「分かってるんだよ。俺だって、そこまで馬鹿じゃない。優しくしてくれたのは、ただの同情で……構ってくれたのは、あの人の仕事だからだ。施設行きだって、案を出したのはもっと上層部で、最終的に決定したのは……俺の、母親だ」
「……」
フェイトは、黙って……秀人に寄り添う。
「でも……納得できなくて……」
顔を曇らせた。
幼く、まして、母親から見放されるという恐怖に苛まれていた秀人にとって、仕事でも、義理でも、同情でも……その交流は、暖かいものだった。
それを、一方的に断ち切られた秀人は一体、どのような気持ちだったのか……筆舌にしがたい。
「わかってるんだよ」
突然、声を荒げる。
「石田先生は悪くないって
怒るのなんて筋違いだって
でも」
ぐしゃっ、と髪を掻きむしり……搾り出すように、言った。
「俺は、あの人を許せない」
――手放すのなら……何故、手を差し延べた。
「畜生、何で……もう、十年近く経ったのに……!」
忌まわしい過去が、鎌首を擡げてきた。
「ひでと」
フェイトが、秀人の手に手を添える。
「ボクは、ひでとじゃないから……ひでとの気持ちも、石田って人のことも、完全には理解できない」
「……」
いつもの軽さが嘘のような、凛とした声。
「だから……話してみよう? 許せなくても、話をしよう?」
「でも……また、怒るかも、」
不安になる秀人に……フェイトが、明るく笑いかけた。
「大丈夫。ひでとには、ボクが……ボク達が、ついてるんだから」
……そして、再び大家の部屋。
そこには、はやてと、リーゼと、咲と、大家と、石田と……
「ぷっぷくぷー。子供みたいに怒って、子供に慰められる、情けない男の姿を見たの。
なっさけないやつなの!」
……アイが、いた。
「……」
ぴくぴく、と秀人のこめかみが痙攣する。
「ほんっと、精神的にも力量的にも未熟な奴なの。やっぱりおまえには、アイの力が絶対に必要なの」
ぱたぱたと素足を揺らし、小馬鹿にした口調で秀人をつつく。
「さ、わかったら、『ボクが間違ってました。改心してアイさまの言う通りにします』と懺悔するの」
例の、秀人をマスターにふさわしく、なんたらかんたらの話だ。
「そうしたら、まぁ……おまえを正しく導いてやることも吝かでは無いの、ぼけなす」
「……決めたわ。ぜってー言わねぇこのポンコツ」
「……ポンコツ?」
ぴきっ……と、アイもまた頬を引き攣らせた。
「いま、ポンコツと言ったの? このアイを……最新最高スペック、デバイス完成型の一つである、アイを?」
「ふん、過ぎたるは及ばざるが如し……用途に合わない過剰性能なんざ無駄なんだよ。
わかったら、俺に合わせやがれ、駄目デバイスめ」
「使いこなす技量も無い分際で、フォーマットなんて口にするものじゃないの……ま、今のままのお前には、1バイトだって使わせてやらないの!」
「いらねぇっつってんだろ、ポンコツ!」
「いい加減、アイの言う通りにするの!」
アイが床を蹴り、秀人につかみ掛かった!
「おまえが悔い改めれば、使わせてやると言ってるの! こんな破格の条件を蹴るなんて、おまえは馬鹿か大馬鹿、超馬鹿のどれかなの、この馬鹿! 分からず屋!」
「ンだとこのポンコツ!」
「もう我慢の限界なの!」
「こっちの台詞じゃぼけー!」
最早、石田などおいてけぼりで、アイと大喧嘩する秀人。
その喧騒の中……石田は呆然と、だが確かに、口元を綻ばせていた。