魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第四十四話

 

 担任の先公が、いきなりやってきた。

 

 サボるな、とか、そんな話かと思っていたけど、違うみたいだ。

 先公を連れて来た高町とテスタロッサは、どこか落ち着かない。

 話も始まらないまま、時間だけが過ぎていった。

「ジジィ、腹減った」

「夕飯まで待たんか……それと、先生の話をしっかり聞いておけい」

 えー……やだ面倒臭い。

「あの、八神さん……」

「何だよ」

「……学校、そんなにつまらない?」

「……ったりめーだろ」

 そもそも、転校したのだって諜報が目的だ。

 情報を集めて、油断させて……ぶっ倒すためだ。

 誰が、好き好んであんな所に行くものか。

「あのね、八神さん」

「あァ……?」

 尚もしつこく話し掛けてくる先公を睨む。

「……そろそろ、運動会があるの」

 ……忘れがちになるけど、一応私は、年齢一桁代だ。

「ふぅん……だから?」

「それをきっかけに、クラスの皆と、もう少し、お話してくれたらなぁ、って……」

 

「余計なお世話だ」

 人のスタンスに口出しするんじゃねぇよ。

「でも、せっかくの行事だし……きっと、楽しい思い出になるわよ」

「……チッ」

 あーあ、押し付けの善意って嫌だね。

 それが、いかに迷惑なことなのか、全く自覚の無いところが。

 

「主、ただいま戻りました」

 

 お……リーゼだ。

「あのなぁ……出かけるなら、伝言くらい残せっての」

「申し訳ありません、とても良く眠っておられましたので」

 はぁ……なら、メモ書きでもいいだろ。

「あ、ヴィータはどうしてる?」

 高町が聞く。

 ヴィータ、って、秀人んとこの末っ子か。

「眠そうにしていたのですが、秀人の部屋に入れなかったので……勝手ながら、我々の部屋で休んでもらっています」

「そう」

 少しした後。

 がちゃんがちゃん……と、何か物々しい音がした。

『お願い、話をさせて!』

 ……?

 どっかで聞いた声だな。

 

『帰ってくれぇッ!!』

 

 ……今の、秀人か?

 随分と切羽詰まった……あまり聞いたことが無い類の声だ。

「……!」

 高町が、いてもたってもいられなくなって立ち上がる。

「なのは」

 それを、テスタロッサが止める。

「ちょっといってくるね」

 ……止める間も無く、出て行った。

「……お願いね、フェイト」

 

 ……あいつでも、あんなこと言うんだな。

 ドアが開いて……何やら、人数がドカッと増えてきた。

「お邪魔します……なのは、ただいま」

「お邪魔するよー」

 ……高町と、テスタロッサの使い魔。

 それから……

 

「ただいまなの」

 

 ……漆黒の髪に紫紺の瞳。

 秀人のデバイス (仮)、アイだ。

 そして……最後尾に。

 

「……はやてちゃん」

 

 ……実に懐かしい人がいた。

 一年ぶり……くらい。

 

「……石田先生」

 

 気まずい……

「あ、あー……ちょっと、用事が出来たんで…………さいならっ!」

 ドアに向かって、最短距離をダッシュ!

 

――がしっ

 

「待たんか」

 ……回り込まれた。

「は、離せジジィ!! 離せえぇぇえ!!」

 首根っこを鷲掴みに……って、私は猫じゃない!!

「嫌なことから逃げるのは、お前の悪い癖じゃよ」

 ほっとけ!

 

「はやてちゃん……?」

 石田先生は、呆然としている。

 

 ……あ、やべ。

 石田先生は……私の主治医で、半身不随の診断をした当人だ。

 その私が、こうして歩き回っていたら……そりゃ、驚きもするし、不審にも思う。

 

 今の私の足……というか半身は、魔力を擬似神経として動かしている。

 通常の医学ではない、裏技だ。

 まずったなぁ……

「ていうか、先生。なんでこんな所にいるの」

 私は、話を逸らすことにした。

「咲ちゃんが……はやてちゃんを知ってるって言うから」

「咲……?」

 誰だ、それ。

「私! 私の名前! 富山咲ですって、紹介したじゃない!」

「まぁどうでもいいけど」

「……」

 石になった。

「先生、どんまい……」

 そして、高町に慰められていた。

「あんた、秀人と何の話してたの?」

 石田先生が口を開くより先に、質問をぶつけた。

「つーか、秀人とどんな関係よ」

「……う」

 話せないか。

 まぁ、そんな気もしてた。

 あの極楽蜻蛉な秀人が、あんなに声を荒げるんだ。

 

「アイが推測するに~……あのぼけなすの、身体のこと?」

 

 だろうなぁ、と思う。

「……昔、秀人くんを診たことがあって」

 ふっ、と、力無く苦笑した。

「怨まれて当然なのに……今更、『話をさせて』というのも、勝手な話よね……」

「いっちゃん……」

 その肩を、先公が支えた。

「……ごめんなさい、今日は帰ります」

 諦めたように、立ち上がった。

「んー……ちょっと待つの」

 それをアイが引き止める。

「……」

 じっと虚空を見つめて……何かを、聞いている……?

「あんたまさか、下の会話に聞き耳立ててるわけ?」

 人間では無いのだし、それくらいは可能だろう。

「ぷっ……なっさけなーい、なの」

 無表情のまま、そんなことを言った。

「こっちに来るの」

 がちゃっ、とドアが開く音。かん、かん、と階段を上る音。そして……

「ただいまー!」

 アホ面下げたテスタロッサに手を引かれ、

「……」

 気まずそうな顔をした秀人が、部屋に入ってきた。

 

「なっさけない奴なの! ぷっぷくぷー!」

 

 アイが早速秀人を突っつき回し、喧嘩を始めてしまった。

 

 

 

「……うぅ、痛いの」

「……何で俺まで」

 二人は、ジジィの鉄拳制裁を受けた。

「……秀人くん」

「…………なんすか」

 むっつりと、不機嫌丸出しの口調で返事をする。

 

「……ごめんなさい」

 

 ストレートに、謝った。

「……!」

 びっくりして固まる秀人に、謝り続ける。

「中途半端に優しくして、ごめんなさい。

 会いに行かなくなって、ごめんなさい」

 秀人は、まるで拗ねた子供みたいにそっぽを向いている。

「こら、ヒデ坊……」

「ひでと、」

「秀人さん……」

「秀人」

「秀人!」

「ぼけなす」

『秀人!』

 皆、口々に秀人を諌める。

 

「ごめ……な、さ……!!」

 

 うわ泣いちゃったよ!

 

「……あー!!わかったよわかりましたよ!」

 

 根負けした。

 ようやく、石田先生の顔を見た。

「一つ、聞いていいですか」

「……えぇ」

「俺に優しくしてくれたのは、同情ですか?」

「……」

 石田先生は、たっぷり悩み……

「そうじゃない……と言ったら、嘘になるわ」

 と、答えた。

 ふぅん……そういえば私も、あれこれ世話焼いてもらったっけ。

「……」

 

 けど……同情だって、優しさの内だよ。

 

 それを非難することなんて、出来ない。

「……秀人くん」

「……なんすか」

「今日は、帰るわね」

「……はい」

 と、ポケットから小さなケースを取り出し、カードみたいな……名刺を、秀人に手渡した。

「また今度……秀人くんの気が向いたら、連絡してくれたら嬉しいな」

「…………はい」

 秀人はそれを、大事に仕舞った。

「はやてちゃん」

「んぁ……?」

 先生は、二枚目の名刺を取り出して、私にも手渡した。

 なになに……?

 海鳴総合病院・神経内科勤務医……?

 って、美香の入院してる病院じゃないか。

 しかも、神経内科ってことは。

「先生、美香を知ってるの?」

「……?はやてちゃんこそ」

「うん、まぁ……トモダチだし?」

 

「え、お前友達とかいたの?」

 

「ぶっ殺すぞてめぇ!?」

 

 話の腰をブチ折りやがって!

 ジジィがいなかったら、魔剣の餌だ!

「……そっか。はやてちゃんのことだったんだ」

 ……うん?

「……あんまり、いじめちゃ駄目よ」

 ……一体、何を話した美香。今度……いや、今夜、聞き出してやる。

「それじゃ、またね」

 そうして、石田先生は帰って行った。

 

「さて……そろそろ、夕食にするかのう」

 お、やっとだ。

「今夜は何?」

「昨日は魚か……んじゃ、水炊きでも作るかの。リーゼ、手伝っておくれ」

「はい」

「先生、よろしければ、御一緒しませんかな?」

「へっ? いえ、お構いなく……」

「っていうか先生、どうやって帰るつもり?」

 

「……あー! いっちゃん先に帰っちゃったよー!?」

 

 ……石田先生の車に乗ってきたらしい。

「道、覚えてないの?」

 車でも、そのくらいは覚えてるだろうけど。

「あぁ、無理無理」

 それを、高町が否定した。

「先生、寝てたし」

「よだれ、たらしてたよね」

 ……子供かよ。

 石田先生に慌ててメールをする。

 

――ぶぃーん

 

 ……直後、階下から震動音。

「……まさか、な」

 秀人が出て行って、すぐ戻ってきた。

「……これ、もしかするけど、」

 手には、メタリックレッドの携帯電話。

「いっちゃんのだ……」

 がっくりと崩れ落ちた。

「預かるよ」

 秀人からそれを受け取る。

 どうせ今晩、美香に会いに行くつもりだし。

 そのついでに、預けてしまおう。

「夕飯が終わったら、ヒデ坊に送ってもらえばええ。女性の夜歩きは、危ないからのう。最近、なにかと物騒じゃし」

 ……もしかして、私のことか?

 大量失踪事件……とか、世間を騒がせているらしいけど。

 

「悪い、爺さん。ついでなんだけど、俺達もここで食べていい?」

「あー、そっか。ヴィータ……」

「あいつ、一度寝たら起きないタチだし……」

 部屋が、物理的に使えないのか。

「ま、仕方無かろう。手伝うんじゃぞ」

「分かってるって」

 

 

 その晩も……私は、大勢の人間と一緒に食卓を囲んだ。

「げっぷ……」

 つい、食べすぎてしまった。

 夜風が、満腹の身体に心地好い。

「主、集中を乱さずに」

「うん」

 隣を飛行するリーゼが、指示を飛ばす。

「ですが上出来です、主。『スレイプニル』も無しに、そこまで安定するとは」

「まぁ、あっちの方が楽っちゃ楽なんだけどねぇ……」

 嫌ーな思い出が、脳裏をよぎる。

「アレ、弱点を晒しているようなものなんだよ」

 飛行をアレに頼り切っていた結果、切り落とされ、撃墜された。

 

「補助輪は、もう卒業だよ」

 

 そして、美香の病室に着いた。

 コンコン、と窓をノックする。

「姐さん、いらっしゃい!」

 朗らかな笑顔で、私を出迎える。

「よっ。元気そうで何より」

 リーゼと共に、着地。

「リーゼも、いらっしゃい!」

 最初はリーゼを警戒していた美香だけど、何度か顔を合わせていたら打ち解けた。

 

 聞き出してやろうかと思ったけど、楽しそうにお喋りをする美香を見ていたら、その気は無くなった。

「それでね、お兄ちゃん、警備員さん呼ばれちゃって大変だったんだよ」

 美香は、あまり兄とは似ていないらしい。

「だから、お姉ちゃんも『金髪は止めなさい』って言ってたのに」

 けらけらと笑う。

 

 お喋りを終えたら……魔法の練習だ。

 どうやら美香は、中・遠距離型らしい。

 身体にハンデがあるのだから、当然と言えば当然だ。

 防御が鬼のように固い高町とは違うから、ちょこまか飛び回って、チクチク削っていくのが性に合っている。

 ……私に内緒で、リーゼから何かを教わっているのは知ってるけどね。

 

 訓練は、実戦方式。

 リーゼが審判を勤め、私と美香が戦う……というもの。

 

「そりゃー!」

 

――ズバァアアッ!

 

 間の抜けた声とは裏腹に、結構な威力の砲撃が、私の服を掠めた。

 この模擬戦のパターンは……

 私は、いかに近付いて美香を切り伏せるか。

 美香は、いかに遠くから私を撃ち落とすか。

 

「まだまだ行くよー!」

 

――ヒュガガガガガッ!

 

 ブラッディダガーを、雨のように射出して牽制してくる。

「……だあぁっ!」

 その中心部を、強引に突破する!

 これを抜ければ、美香は射程内!

 防御をガリガリ削られるけど、大したダメージは無い!

 

 ……抜けたッ!

「もらった!」

 が、美香は不敵に笑い……

 

「……それは、読んでた!」

 

 私の手足の周辺に、魔力光が集まって……!

 

「檻よ、閉ざせ!」

 

「バインド……!」

 こんな絡め手、覚えていたのか!

「もらった!」

 勝ち誇る美香。

 けど……まだ甘い。

(読んでたよ)

 弾幕の強行突破を、きっと美香は予測している……って。

「……アクセル!」

 両足に螺旋状の魔力を纏わせ、一気に方向転換+加速!

 

 美香の真正面に肉薄し……!

「はぁっ!」

 

――バチィンッ!!

 

 リーゼが装備させた、安全装置を破壊した!

 

「勝負あり!」

 

 リーゼが、高らかに宣言する。

 これで、八戦八勝!

 

「ううぅ~……また負けたぁ」

「けっけっけ……そう簡単には、勝たせないよ」

 ベッドの上で、悔しそうにしている美香。

 練習が終われば、美香が眠くなるまで、またお喋りの時間だ。

 

 美香は、色々と聞いてくる。

 それに釣られて、あれこれ話してしまうあたり……案外、聞き上手なのかもしれない。

「姐さん、そろそろ秋だね」

「寒いの、好きじゃないんだけどなぁ……」

「でも、食べ物は美味しいよ? 食欲の秋、読書の秋……それから、スポーツの秋」

「……」

 美香は、そう言って黙り込んだ。

 ……美香は本来なら、身体を動かすのが好きなんだ。

 

 魔力による擬似神経……これは、肉体改造の部類だ。

 幼い美香には、まだ早い。

「……退院したら、好きなだけ走り回れるさ」

「……うんっ!」

 

 美香に、石田先生の携帯電話を渡し、その日は帰ってきた。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 翌日、俺は欠勤のことをカントク達に詫び……早速、現場作業にあたっていた。

 

 今は昼休み。

 作業員たちは、思い思いの場所に腰掛け、弁当やサンドイッチを食べていた。

「んでよ、左の車輪から妙にカラカラ音がすっから、見てみたんだよ」

 秀人と膝を並べるカントクが、秀人が不在であった時のことを話す。

「したら……ロザリオっつうの?

 なんか、欠けた十字架みたいなモンが引っ掛かってて……警察に届けたんだわ」

「ふぅん……」

「春先のことだから……そろそろ半年だな」

 半年。

 遺失物は、届けられて半年経てば、所有権が拾った者に委譲される。

「確か、来週の頭だったなぁ……」

 律儀にも、受け取りに行くようだ。

「一応、ヒデにも見せてやるよ。気に入ったら、そのまま持って行ってもいい」

「わかりました。来週ですね」

 スケジュール帳に書き込み、ポケットに仕舞う。

「ヒデさん、カントク、何の話ッスか?」

 金髪の若者が、輪に加わった。ヨシヒコだ。

「あ? ……人件費削減案だったら、どうする?」

「ひぃッ! 勘弁ッス!」

「もしくは、副業禁止の話しあいだったり?」

「ヒデさんも止めてくださいよ、もー!」

 お調子者を輪に加え、休憩時間は和やかに過ぎて行った。

 

 その日の仕事を終え、帰宅する秀人。

 段々、陽が落ちるのが早くなってきたと感じながら、足早に家を目指す。

「……」

 と、正面から、帽子を目深に被った女性が走ってきた。

 秀人自身、ぼうっとしていたこともあり……

 

――どんっ

 

 すれ違い様に、ぶつかってしまった。

「あ、済みません」

 謝罪し、手を伸ばす。

「……いえ、こちらこそ」

 女性は、その手を取り立ち上がると、ズレた帽子を再び被り直し、走り去って行った。

 女性の腰から、ベルトの端か……何か、長いものが伸び、ぱたぱた揺れていた。

 

――かさっ

 

 と、懐に違和感。

 まさぐってみると……

「……紙?」

 いやに古臭い……厚ぼったい紙だった。

 表面には、手書きらしき文字と……一つの、装飾品らしい、十字架のイラストが載っていた。

「何だ、これ……?」

 

 不審に思いつつ……秀人はそれを、ジーンズのポケットに仕舞い直した。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 新たな住居の中。

 はやての帰りを待つリーゼは家事を終え、瞑目していた。

「……急がねば」

 ぼそっ、と、無意識の言葉が口をつく。

「闇の書の、闇……今はまだ、不活性だが……綻びが、出始めている」

 その言葉は、緊迫に満ちていた。

「『霞の騎士団』ではない、真の、守護騎士プログラムを……主に、託さねば」

 リーゼは、その思惑を口にする。

 

 

「『七星騎士』を、我が主の手に」

 

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