魔法少女リリカルなのはties 作:ハルハルharuharu
「はぁっ、はぁっ、」
息を切らしながら、住宅街を駆け抜ける。
「な、なんで、ボクまで……!」
なぜか隣に、フェイトと並走しながら。一体何から逃げているのかと言うと……
「待ちなさい! さっきの爆発は何だ! 説明しなさい!」
紺色の制服。同色の帽子。そして、腰に収まる拳銃。どこから見ても、おまわりさん。
どうやら、さっきの現場に偶然居合わせていたらしい。
「あ、あなた、結界、張れないの!?」
人が見ている前で、飛行魔法なんて使えない。
「いつもアルフがやってくれるんだもん! キミが張れよ!」
「ユーノくんがいないから無理!」
戦闘用の魔法以外なんて、覚えてる暇が無かった。
「このネズミ以下!」
「うるさい犬以下!」
ぎゃんぎゃんと言い争いながら、ひた走る。
どうやらフェイトも、魔法無しではその辺の子供と同レベルか、それを少し上回る程度らしい。このままじゃ、追いつかれる!
前方にT字路! ここでお別れだ!
右に曲がる。が。
「な、何でついて来てるの!?」
ここで二手に分かれれば、半々の確立でおまわりさんを撒けたのに!
「ボクの台詞だ!! どっか行け!」
こ、こいつううううぅぅ……!!
「止まりなさい! 今なら事情を聞くから!」
太ってるのに、無駄にタフなおまわりさんが追る!
「それが一番困るんですーーー!」
「もうヤダああああ! アルフー! アルフー!」
フェイトの目が、見る見るうちに正気を失っていく。擬音で表現するなら、『ぐるぐる』してる!
「こ、こうなったら……!」
バチバチとフェイトの手元が帯電している……って、まさか!
「黒焦げにして……!」
「やめろ馬鹿!」
――ごちんっ
「いったぁ!?」
あ、思わず手が出てしまった……ま、いいや。
「な、何すんだよ! キミから先に焦がすぞ!?」
涙目で頭をさすりながら、私を睨む。
「そんなことしたら、まともに出歩けなくなるよ!」
国家権力を敵に回して、今後、まともな生活ができるとは思えない。
「ボクは別に構わないんだけど……」
「私には、この町での生活があるの! 今度やろうとしたら、頭じゃなくて腎臓を殴るからね!?」
背骨の横から、抉りこむように!
「怖!? じゃあ、どうしろっていうんだよ~!」
「黙って走れ!」
『一応聞くけど……何やってんの?』
す、救いの神現る!
「おまわりさんに追われてるの! 隔離結界張って! 早く!」
『わかったわかった……』
――ヴンッ……
そんな音と共に、周囲の景色が色褪せ、人の気配が消えた。その場に崩れ落ち、肺に酸素を取り込むことに集中する。
「ぜぇー、ぜぇー……」
「ひゅー、ひゅー……」
フェイトも、ワンピース姿だというのに大の字に寝転んでいる。
つ、疲れた……しばらく、起きられそうに、無い、かも……
◆ ◆ ◆ ◆
「んじゃカントク、お先でっす」
シャワーを浴びた後、作業服を鞄に詰め込み、ヘルメットを手に事務所のプレハブを後にする。さて、帰るか。
『秀人、ちょっといいかい?』
ん? ユーノか。
「どうしかしたのか?」
ジュエルシードの反応があったにしては、随分と落ち着いた口調だけど……
『ああ、それがね……』
「へぇ、そんなことが」
事情を聞き終えた頃には、俺はバイクを走らせ現地へ……臨海公園へと到着していた。
お、いたいた。二人してへばってる。
「なのは、起きられるか?」
地面に突っ伏すなのはの頭を、ぽんぽん、と軽く叩く。
「まだ、無理……」
「そうか」
よい、しょっと。
「ふぇっ!?」
膝の裏と、背中に手をやり、抱え上げる。
「…………あぅ」
なのは、よっぽど疲れたんだな。こんなに顔を真っ赤にして。
「ちょっと休んどけ」
ベンチに寝かせてやり……さてと。
パンツ丸出しで寝転んでるフェイト。あいつは……どうしようか。抱え上げた途端に電気ショックなんて、勘弁してほしい。
――パリン……
と、結界に穴が開いた。あー、これは、アイツだな。
「ガウッ」
鮮やかな茜色の毛並み。額に輝く宝石。
「アルフー……ちょっと遅いよー……」
アルフが、フェイトのそばに駆け寄る。
「フェイト、どうしたんだい!?」
喋った。ハスキーな女性の声で。まぁ、ユーノも喋るし、驚くことでもないだろう。
「……んっ!」
力むような素振りを見せるのと同時、その体が茜色の魔力光に包まれ……
「……えええええっ!?」
今度ばかりは、驚いた……
光が収まったそこには、長身の女性が立っていた。狼との共通点なんて、茜色の髪の毛と、額の宝石くらいしか無い。
「さ、帰るよ」
妙に、不自然なくらいこちらを見ようとしない。
「あ……れ? あのときの、お姉さん?」
なのはが、顔だけをそちらに向け、そう言った。アルフはその言葉に、思いっきりビクッとして固まった。
え……知り合い?
「温泉宿で……」
そっか、あの時。妙に元気になっていたけど、そういう理由か。礼を言うべきか? でも、敵だしなぁ……
――ドクンッ……
おなじみの、あの感覚。どうやら、この公園内で発動したらしい。タイミングが悪いことこの上ない……
アルフがフェイトと目配せしている。
「そんな状態じゃ、ジュエルシードの封印は無理だ。ここにいろ」
なのはの砲撃の直撃を喰らって、ここまで全力で走ってきて、万全とは思えない。今も肩が上下している。
「ンなこと、アンタに指図される筋合いは無い! あれは、アタシたちが貰う……!」
やはりというか、意見を聞いてくれるような雰囲気じゃない。
俺は……
――ズンッ!
アルフの腹部に、インパクトを付加した打撃を叩き込んだ。
「か……はっ」
「……寝てろ」
不意打ちだったとはいえ、アルフの反射神経なら、これくらいは回避なり防御ができる。二度も戦った俺が判断したんだから、間違いない。
ドサっと倒れこんでくるアルフを受け止める。腕の中で、アルフは狼の姿になっていた。
多分、こっちの姿が本性なんだろう。
「お、お前……! アルフに何を!」
体力が回復したらしいフェイトが起き上がり、詰め寄ってきた。手には、しっかりと斧
が握られている。
「仕方ないだろ……こんな状態で暴走体と戦うのは自殺行為だ」
フェイトに、アルフを渡す。
「んじゃ、行ってくる」「あ、私も!」
なのはが付いてこようとするのを止める。
「いい機会だし、ちゃんと話しとけ」
なのはは、俺を見て、フェイトを見て。
「……………………うん」
こくりと、頷いた。
「よし」
さて、行くか!
◆ ◆ ◆ ◆
そこは、吹き抜けのホールのような場所だった。
雰囲気としては、証券取引所に近い。
一人の女性が、最も高い位置にある仰々しいシートに腰を掛け、モニターを眺めていた。
そこには、何らかのグラフがリアルタイムで更新され続けている。そして、その中の一つが、極端に跳ね上がった。
――ビーッ! ビーッ!
途端に鳴り響く警報。
「魔力反応! ランク、ニアAAランク! こちらはジュエルシードと思われます!」
「隔離結界が張られています! 現地への被害、まだありません!」
「ですが、魔力パターンが局のデータベースにありません!」
「他にも、AAAランク、AAランクの反応が多数!」
「と、AAAランクが多数!?」
「AAAランク級の反応、ジュエルシードと思しきものと戦闘に入りました!」
「艦長! 指示を!」
「現地には、クロノを向かわせます」
指示は、一言。だが、それを耳にした局員達は、指示通りに行動を始める。
「現地への転送魔法使用許可、下りました!」
「転送ポートの準備、OKです!」
「艦長」
彼女の隣に控えていた一人の少年が、彼女に声を掛けた。十代中ごろの、黒髪の少年だ。目には、確固とした自信と、使命感が見える。
「出ます」
「ええ、頼みます」
会話は、最低限。だが、そこにあるのは、絶対の信頼。
彼は目礼し、その喧騒に包まれるブリッジを後にした。
◆ ◆ ◆ ◆
『グゴゴゴ……!!』
「今日は亀か!」
そう、今回の暴走体は、亀だった。いつもながら巨大で、全長10メートルはあるだろう。
「ウミガメでもいたのか……っと!」
――ヒュンッ!
全体的には亀そのものといった風体だが、特徴的なのはその尾だ。幾重にも枝分かれした鞭状になっていて、先端には鋭い刃が付いている。
これの回避にばかり気を取られていると……!
『グゴオオオォォ……!!』
その巨体を揺らし、突進を仕掛けてくる!
「フローター!」
飛行魔法を行使。とりあえず、上空に逃げる。移動する敵としては、質量がこれまでの中でも桁違いだ。まともに正面からぶつかったら、押し切られる。
――ヒュンヒュンヒュンッ!
「って、うおおおおお!? あっぶねぇ!」
鞭が伸び、上空にいた俺に連続して襲い掛かってきた!
――ガキィン!!
「痛って!」
うち一本が、腕を掠めた。魔力で補強し、擬似的なバリアジャケットとして機能してはいるとはいえ、衝撃までは完全に殺せない。
「バレット!」
射撃魔法を撃っては見るものの、そこは亀の面目約如。手足と頭を引っ込め、強靭な甲羅に篭ってしまう。だが、上空に居れば、脅威はあの尻尾だけだ。……そう思っていたのだが。
――シュゴオオオオオオッ!
そんな、『ジェット噴射のような』音を立て始め、ふわりと地面から離れ……
「って、マジかよおおおぉ!?」
亀が、円盤のように回転しながら飛んできた!
「ガメラかっつーの!」
方向転換して、回避! ギュゴオオッ!と凄まじい音を立て、ギリギリを飛んでいく!
小回りはこちらの方が上だが、トップスピードでは暴走体の方が早い!
「防壁!」
とにかく、逃げているだけじゃ埒が明かない。目の前にプロテクションを展開し、突進に備える。そして……
――ガゴオオオオオオオオオオオオン!!!!
「っぐああああああ!!」
とてつもない衝撃と共に、景色がすっ飛んでいく……!
――ギャリギャリギャリギャリ……!!
ベルトサンダーのように、俺の防御を削り取っていく。びきっ、と腕が嫌な音を立てた。
「ぐうっ!」
多分、折れた。全く、骨折は何度目か自分でも知らないが……すぐに治り、痛みは引くとはいえ、いつまでも慣れない。
亀と距離を開ける。痛かったけど……もう、間合いは掴んだ!
――ギュルルルル……!
空中で方向転換し、再び突進の構えを取る。
「もういっちょ、防壁!」
――ガッギイイイイン!!
再び、衝突。今度は後ろに飛んでいたため、腕は折れなかった。
即興の魔法は、なのはだけの専売特許じゃない!
「……パーテーション!」
プロテクションを上下に分割する。その隙間に、亀の甲羅が入り込む。今だ!
「閉じろ!」
――バクンッ
プロテクションが閉じ、亀の甲羅を上下から押さえ込んだ。
「ホールディングシールド……ってとこか?」
『グゴッ、グゴオオオッ!』
あがく亀だったが、俺の魔法がガッチリと拘束していて、逃げられない。
「うおりゃあああ!!」
――ドムッ
頭を引っ込めたそこに、腕を突っ込む。この距離なら、コントロールが下手でも関係ない!! 喰らえ!
「ディバイン……バスター!!」
――ズドオオオンッ!
頭から抜けた空色の砲撃は、そのまま体内を突き抜けた!
『グゴアアアアアア!!!』
「ジュエルシード、シリアル7! 封印!」
はぁ……思ったよりも手間取った。なのはは……どうしてるかな。
◆ ◆ ◆ ◆
「あなたは、何でジュエルシードを集めているの?」
フェイトは、目の前にいる少女に困惑していた。
あれだけの悪意をぶつけ、あれだけ痛めつけたというのに、なぜ彼女は、自分と『戦い』以外のコミュニケーションを取ろうとしてくるのだろう。
「……そんなの、どうだっていいだろ」
自分は彼女の敵。彼女の敵は自分。それだけでいいのに。
「どうでもよくない。大事な、ことだよ」
「ボクは、キミの敵だよ」
「それは、わかってる……」
なぜ、彼女はそんなに、物悲しい顔をするのだろう。
「じゃあ、さっさと戦えよ!」
バルディッシュがアスファルトを砕く。もういい加減、我慢の限界だった。戦いたいのに。早く、戦ってスッキリしたいのに。
「くだらないおしゃべりはここまでだ! さぁ、構えろ!」
彼女は、ようやくデバイスを起動した。
「別に、戦うのはいいよ」
「はははっ……!!」
そうだ。それでいい。だが。
「でも、何もわからないまま、ただ力をぶつけ合うのは嫌だ。
お願い、理由を教えて」
そして、彼女は……
「フェイト」
フェイトの名を、はっきりと呼んだ。
「う」
その瞬間、フェイトは理由のわからない衝動に襲われ……
「うわああああああぁぁぁ!!」
キレた。
三度目の、勝負が始まる。
◆ ◆ ◆ ◆
「うわああああああぁぁぁ!!」
フェイトが癇癪を起こしたように叫び、斧を振り上げ突っ込んでくる。私は、レイジングハートを構える。
『accel shooter』
アクセルシューター、数は8!
「シューーート!」
フェイトに迫る、6つの誘導弾。
――バシュッ!
フェイトが斧を鎌に変形させた。
「あああああっ!」
――ザンッ、ザンッ!
誘導弾を切り裂き、迫る。
『protection』
目の前にバリアを展開。
――ガギィンッ!
「くっ……」
やはり、鋭い。ユーノくんお墨付きの私のバリアに、鎌が中ほどまで突き刺さっている。でも!
『Barrier Burst』
――ドゴォンッ!
「うわぁッ!」
フェイトを弾き飛ばす。しかも、今回は轟音のオマケ付き。不意打ちは大成功! チャンスだ!
「キャノンモード!」
『Canon mode』
照準よし、チャージよし!
「ディバイン……バスターーーーーーー!!」
(捕らえた!)
完全な、直撃コース!
「……舐めるなあああああ!!」
が、フェイトは咄嗟に防御魔法を、砲撃に対して斜め向きに展開。砲撃の照準がずらさ
れ、見当違いの方へ飛んでいく。
「それも、読んでる!」
ディバインバスターは、私の主砲。直撃しなかったとしても、無傷で済むはずが無い!
「っく……!」
思ったとおり、ふらついている。
アクセルシューター残り二発、行けッ!
「……このっ!」
――ザンッ
一つは切り裂かれ……
――パァンッ!
「がっ!!」
残る一つは、フェイトの後頭部に直撃した! クリーンヒットだ!
「こ……のヤロオオォ!!」
一気に距離を詰め、鎌を振り上げる。多分、もう一度同じことをしても通じない。なら!
「レイジングハート、強化!」
『solid』
レイジングハートの柄を、魔力で強化する。これでもう、前みたいに断ち切られることは無い。
「でえええええい!」「はあああああっ!」
そして、お互いの獲物がぶつかろうとした瞬間。
――ガシィンッ!
「え」「な」
私達は、図らずも同時に驚愕の声を漏らした。
レイジングハートは柄を掴まれ、フェイトの斧はデバイスで受け止められている。
秀人さんではない。ユーノくんでもない。アルフでもない。
「双方、そこまでだ! 武器を収めろ!」
見知らぬ少年が、私達の間に割って入っていた。