魔法少女リリカルなのはties 作:ハルハルharuharu
……薄暗い執務室。
唯一の光源は、デスクトップのモニター。
「……おやおや、これは」
その光が、一人の人物の顔を、暗闇に浮かび上がらせる。
「……いかんなぁ」
……ギル・グレアム提督。
彼は、モニターに写る映像を見て……困ったように、眉根を寄せていた。
――ビーッ。
入室許可を求めるコールが鳴る。
「……」
無言で、解錠する。
開いた二重のドアから、かつかつ、とヒールを鳴らす音が近づいて来る。
女性だ。
「グレアム提督」
「うむ……君か」
「はっ」
規律正しく、礼をする気配。
照明を落とされた部屋では、顔は見えない。
「中間報告です」
レポートを提出する。
その際、モニターが目に入った。
グレアムは、特に隠すそぶりは見えない。
「これは……」
映像の中では……件の調査・監視対象が、大勢の子供達に囲まれていた。
「彼らは、何を……?」
怪訝な顔をする彼女に、グレアムが苦笑する。
「どうやら……スポーツ大会のようだよ?」
「スポーツ、大会……?」
理解不能、といった風に、首を傾げた。
「今回の主は、何をトチ狂ったのか、教育機関などに堂々と籍を置いていてねぇ……」
パキッ……と、乾いた音がする。
「殺人鬼の……分際で……!!」
冷静に見えた彼女が、手にしたレポートのケースを、握り潰そうとしていた。
「排除……排除するべきです。もし、行動を起こしたら……犠牲になるのは、子供達です。
即刻の排除を……!」
「まぁ、落ち着きなさい」
それを、穏便を装って諌めるグレアム。
「今はまだ、その時ではない」
「では、いつ……!?
力を欠いた今こそ、排除する絶好の機会ではありませんか!」
「……厄介なことに、彼女は私的に、管理局員とのパイプを持ってしまった。部隊を動かそうものなら、その局員に阻止される恐れがある」
「一局員ごとき、提督ならばいくらでも……!」
「吾妻秀人、なのだよ」
「……!」
忌まわしそうに、言葉に詰まる。
――吾妻秀人。
その名は、その力は……本人が思っている以上に、重要視されている。
それに……
「嘱託魔導師である彼には、管理局はさほど拘束力を持ち得ていない」
たとえ、グレアムが管理局上層部にいようとも……異世界の民間人を、権力を用いて拘束することは出来ない。
管理局の権力構造から外れている秀人には……権力が及ばないのだ。
「ですが……ですがっ!」
納得がいかない、と憤る。
「……愛する母親を奪われた君の気持ちは、よく分かる」
ぽん……と、彼女の肩に手を置いた。
「私とて……息子同然に思っていた部下を、十年前に奪われたのだ」
「……」
「だが、だからこそ……慎重に慎重を、幾重にも重ねなくてはならない。 ……一時の怒りでどうこうなるほど、闇の書は安易な代物ではないのだ」
「……了解、しました」
彼女は、ぎゅっ、と、ややくたびれた、サイズが合っていない制服の袖を握りしめる。
「……当然、指をくわえているつもりは全く無いがね」
――キィインッ!!
と、グレアムの掌に、かなり高密度の魔法陣が展開する。
眩ゆい魔力光が、目を焼く。
光が収まり……グレアムの手には、薄い灰色の……一冊の『本』が、握られていた。
「……それはッ!?」
「あぁ、つい先日に完成した……」
――――闇の書の、鏡像だよ。
パラパラと、ひとりでにページがめくれて……
◆ ◆ ◆ ◆
……表彰台の上に、はやてと、なのはが立っていた。
クラス優勝の、表彰だ。
「ほんと、よく頑張ったわ、なのは……ぐすっ」
俺の隣で、桃子が涙ぐんでいた。
愛娘の晴れ舞台。
母親として、嬉しくない筈が無いだろう。
アルフなんかは、フェイトがゴールテープを切ったあたりから号泣していて、少し笑ってしまう程だった。
……俺だって、胸に来ない筈が無い。
この優勝はある意味必然で……だが、その必然を手繰り寄せるために、二人がどれだけ努力を重ねてきたのかを知っている。
『クラス優勝、三年二組』
校長が、賞状を読み上げる。
「……八神さん、もう大丈夫なのね」
石田先生が、嬉しそうに、寂しそうに呟く。
はやてが懸命に、自分の足で走っていた。
それはきっと、石田先生が最も見たかった光景に違いない。
『クラス優勝、おめでとう』
なのはとはやては、目を配り合い……結局、二人で一緒に受け取ることにしたようだ。
夕日が逆光になり、よく見えないが……きっと、なのはは笑顔で、はやては仏頂面をしていることだろう。
――ザザッ。
……マイクの、スピーカーのノイズか?
「……」
二人も、勝利の栄冠を手にする前に、気が付いた。
――ザザザッ。
……まただ。
ノイズだが……辺りには、気付いている奴と、全く気付いていない両極端な反応。
気付いているのは、俺の家の面子と、石田先生と、美香と、健太、望……ごく一部。
……表彰台の上の二人も、きょろきょろと辺りを見回している。
……嫌な予感が。
今まで、必ず的中してきた、嫌な予感がする……!
――――ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッッ!!!!
「まさか…………これは!?」
リーゼが、驚愕の声を上げた。
――ビキィイインッ!!
……闇の帳が、辺り一面を閉ざした。
瞬時に思考を切り替え、戦闘体勢に移行する。
『ユーノ、この結界の性質と効果を探査しろ。アルフは、可能なら破壊を』
クローズドチャンネルの念話で、指示を飛ばす。
周囲には、状況もわからず取り残された民間人がちらほら。
『……魔力資質持ち、か』
健太、望がいる時点で、大体想像がついた。
魔力持ちだけを隔離する結界。
俺は、これに覚えがあった。
『……闇の書!!』
もう、見境無しか。
質より量で、欠けた力を取り戻そうってハラだろう。
「秀人くん、これは一体……」
……さて、困った。
俺達だけなら良かったが……ここは、魔法のマの字も知らない民間人だらけだ。
……派手に戦ったら、巻き込む危険がある。
「先生、何も聞かずに、俺の言う通りにしてください」
不幸中の幸いか、まだ守護騎士や雑魚騎士は現れていない。
「生徒達を連れて、体育館に避難を」
「え、えぇ。それはいいんだけど、秀人くんは……?」
「校庭以外に、人がいないか見てきます」
敵が出るなんて知らないだろうから、これでいいはずだ。
途中、はやてとも合流した。
先生が、子供達を引率して体育館に向かうのを見届けて……
「なのは、レイジングハートから、クロノに連絡を」
「うん。もう完了してるよ。すぐ出撃するって」
……似たような結界に閉じ込められた時の教訓を基に、通信機能も強化してある。
――ドババババババババババババババババッ!!
「……来たぞ!」
校庭一杯に、暗黒のベルカ式魔法陣が多数出現した!!
◆ ◆ ◆ ◆
「……嘘」
私は、その術式の結界を見て……そうとしか言えなかった。
だって、これは……この結界は……
『リーゼ、どういうことだ!!』
闇の書の、独自術式だ。
『不明、です!! ですが主の御身には、確かに闇の書が存在しています!』
『遠隔操作の形跡は!?』
『ありません!』
……ってことは、信じられないけど。
『……複製?』
『……恐らくは』
ページ単位か……最悪、そのものか。
石田先生が、魔力持ちの民間人を誘導していく。
が、そんなものは意図的に視界から排除する。
『許さねぇ……!』
秀人達の手前、おおっぴらには出せない怒りを、静かに、激しく燃やす。
王たる私の所有物に勝手に触れ、浅ましく記述を漁り、複製する盗っ人。
必ず尻尾掴んで、引きずり出して……ブチ殺してやる!
「チッ……! おい、美香!」
「はいっ、姐さん!」
カラカラと車椅子に乗りながら、美香がやってくる。
戦闘に狩り出すのは、まだ早い。
「体育館にいった連中を、防御の陣で囲い込め。そんで、不審な奴が出てきたら、ソッコーで知らせろ! いざとなれば、防戦も許可する!」
「はいっ!」
闇の書の性質を知っている奴だとしたら、間違いなく民間人を襲う。
リンカーコアの質としては、そりゃ魔導師の方が高い。が、その分、抵抗が厄介だ。魔力持ちの民間人なら、質こそ落ちるが、楽に奪える。
「それと……リーゼ!」
「はい、主」
「私達……秀人達も含めて全員に、認識阻害をかけろ。終わったら、美香に付いて行け」
「了解しました、主」
「……何だ、認識阻害って?」
秀人が、アホ面で聞いてきた。
めんどいから、リーゼに説明させる。
「そのままの意味ですよ。魔力で身体を覆い、人相・発声など、パーソナリティを隠蔽する魔法です。……ある程度、付き合いが長い者には通じませんが、民間人には十分な効果を発揮します」
「つまり、バレることは無いからやっちまえ、ってことだ」
「その通りです」
私の魔力は……封印前の、約八割。
闇の書のブーストは、使用できない。
管理局も出て来るだろうし、単純に、外付けハードディスクとしての使用が望ましい。
「……来るぞっ!」
秀人が声を張り上げ……校庭に、わらわらと魔法陣が浮かび上がる。
せり上がってきたのは……見慣れた、雑魚騎士だ。
ただ、違うのは……手にしているのが、同じ意匠の西洋剣であるということ。
……複製の所有者によるものだろう。
恐らくは、『剣』の劣化コピー。焔の魔剣から、カートリッジシステムを廃したような片刃剣だ。
「……グレードアップしてやがる」
秀人が、呆れ半分に呟いた。
……まぁ私は、そのまま生前持っていた得物……ナイフとか、拳銃とか、釘バットとかをそのまま使わせていたからな。
使い捨ての戦力に、手間隙を掛けてカスタマイズしても高が知れているし。
――ジャキンッ!
魔剣を現出させ、握る。
……体育着のままじゃ、格好つかないな。
『甲冑』は……オートガードと、流動魔法をカットすれば、戦闘服として使えそうだ。
「……」
リーゼが、目で許可を出した。
なるべく、バレないように。
「――セットアップ」
起動音声も、あいつら流にしてみた。
――ゴォオオオオッ!!
魔力の旋風が巻き起こり、私の身体に装備されていく。
ほんの数秒ほどで、武装は完了した。
ノースリーブの上着に、ミニスカート。オープンフィンガーグローブ。魔剣のホルスターを備えた、太い皮ベルト。
うん、実に動きやすそうだ。
『オ、オオオォォ……』『アアアアア……』『グゥウウウ……』
ノロノロした幽鬼のような歩みで、こちらへ進軍する雑魚騎士ども。
……馬鹿な奴隷どもに、教えてやらなければ。
誰が真の王なのか。
今一度、闇の底に沈ませてやる――!
◆ ◆ ◆ ◆
「……許さない」
自然と、口に出ていた。
何の関係も無い一般人を……しかも、子供を狙うなんて。
私と、八神……それに、沢山の生徒達が楽しみにしていた運動会を、ぶち壊しにするような真似をして。
「……八神。これが、闇の書の主のやり方だよ」
「……」
八神は、神妙に聞き入っていた。
「最悪のタイミングを狙ったとしか思えない空気の読めない卑劣な奴で、自分は高みから雑魚騎士を動かして滅多に出てこない臆病者で、ダッサダサな服で格好付けてる勘違い女……」
「お前ちょっと黙れ」
――げしっ。
「いったぁ!?」
蹴られた。何で!?
「何するのよ!!」
「戦闘前にぎゃあぎゃあうるせぇよ。集中できないだろ」
……何故か、青筋が浮いていた。
「……レイジングハート、行けるよね」
『最大魔力値、78%。収束砲撃、使用不能。誘導弾、最大追尾数、6。砲撃最大放出値、65%』
……今まで通りの戦い方は、期待できそうに無いけど。私だって、無為に三ヶ月を過ごしてきたわけじゃない!
『Standby lady』
「……セットアップ!」
――ゴゥッ……!!
舞い上がる、桜色。私の魔力光。
……久々に纏ったバリアジャケットは、よく見れば、かなり意匠を変えていた。
肩や袖口の膨らみはオミットされ、防御力を多少犠牲に、より運動性能を高めている。
そして腰には、鞘に収まった回天桜花。
『close combat mode 』
白兵戦特化。
両手で回天桜花を握るため、レイジングハートは胸元に据え付けられている。
――ヒュンッ!!
試しに、回天桜花を一振り。
……うん、いい感じ。
「おー、かっこいーじゃん!」
フェイトは、まだ武装していなかった。
「フェイト、早いところ武装しておかなきゃ……」
「ふっふっふ……ボクのバルディッシュだって、マリーにたのんで、ちょーかっこよくしてもらったんだもんね!!」「ねぇ、聞いてる?」
すちゃっ、と懐からバルディッシュを取り出す。確かに、形状がいくらか変化している。
「……なんか手裏剣みたいね」
「それじゃ……いくよ、バルディッシュ!」
『Get set』
「セットアップ!!」
フェイトは、期待いっぱいに、武装する。
――バチバチバチバチバチッ……!!
稲妻の魔力が吹き荒れる。
「熱っ、あっつー!?」「ぎゃー!!」
……それに呑まれ、地味にHPを消耗するアルフとユーノくん。
「場所を考えなさい!」
……いっそ、敵陣ど真ん中で武装させればよかった。
「あ、あれ? あれ!? あっれえええええええええええ!?」
ばちばちと、稲妻の中から現れたフェイトに言う。が、フェイトは自分のバリアジャケットを見下ろして、愕然としていたせいで聞いていなかった。
「はむっ」『…………Sir.』「もごもご……(ちょっとまってて……)」
バルディッシュを口にくわえて、マントを広げたり、ボディスーツを引っ張ったり、スカートをばっさばさ扇いだり………………ああ、みっともない。これで女の子と言えるのだろうか。
(…………プレシアさん、ごめんなさい……私が、責任を持ってなんとかします……)
「…………かわってないーーーーーーーーーーーー!!!」
…………叫んだ拍子に、咥えていたバルディッシュが落下した。