魔法少女リリカルなのはties 作:ハルハルharuharu
――ヒュンッ!!
「うわっ!?」
薙ぎ払われる西洋剣を、フェイトは慌てて回避する。
「ひゃー、びっくりしたー……」
初戦の時と比べ、格段に動きが良くなってきている。
「ねーアルフ! こいつらのうごき……!」
その剣捌きに、フェイトは覚えがあった。
「ああ! あの、守護騎士ってやつにソックリだ!」
剣を持たせただけではなく、守護騎士のデータをフィードバックすることで、戦力を増したのだろう。
「うーん……どうしよう……?」
フェイトは、悩んでいた。
以前は、気にもせずにバルディッシュを剣に叩きつけていた。だが、ヴィータとの訓練では、それによって破損していたことも明らかとなっていた。
「うーーーーーーーーん…………」
――ひょいひょいひょいっ。
悩みながらも全て回避しているのは、さすがだが。
『問題ありません』
それに、当の本人が答えた。
「でも……」
『内部機構に加え、外装素材を一新しました。強度・柔軟性共に、以前の比ではありません。どうぞお気になさらず、全力を』
「……うんっ!!」
笑みで返すフェイト。
『ガアアアアアッ!!』
その向かいから、雑魚騎士が迫る。
「でやああああっ!!」
西洋剣に、バルディッシュをぶつけて迎撃。
フェイトの頭の中は、この後、拮抗した鍔迫り合いからいかにして戦うか、という思考になっていた。
だが……予想外すぎる事態が起きた。
西洋剣とバルディッシュがぶつかった、次の瞬間……
――バキィンッ!!
敵の西洋剣が。劣化しているにせよ、守護騎士のアームドデバイスが。
「へっ……?」
――真っ二つに、折れ飛んだ。
『グッ……』
「…………………………はっ!? ちゃーんすっ!!」
最初、ほけー、っとしていたフェイトだったが、その隙を見逃すことは無かった。
『Photon Lancher』
――バガアァァンッッ!!
一点集中型の雷撃の槍が、雑魚騎士を直撃した!
「うおお、なんじゃこりゃー!!」
喜色満面に、バルディッシュを振り回す。
――バゴッ!!
……一体、何をどう作ったのだろうか。打ち合う……などという段階にさえならない。敵の武装は、衝突した瞬間、一方的に当たり負けしてしまうのだ。
しかも。
『Thunder Rage!!』
――バリバリバリバチイイイイイイインッ!!
元から得意だったとはいえ、高等魔法に位置する天候操作魔法に、殆どモーションが掛からない!
「うわー、しょりもはやーい!!!」
武装としての強度。魔法の杖としての処理能力。どちらをとっても、常識の範疇を飛び越える。
…………管理局随一の技術屋と、ミッドチルダ随一の大魔導師の合作なのだから、そうなるのは必然なのかもしれない。
「よーし、どんどんこーい!!」
全く、負ける気がしなかった。
それを見ながら、クロノは術式を詠唱する。
『グアァッ!!』
迫る西洋剣。
自分より魔力に秀でた、自分より小さな女の子……フェイトは、それを難なく跳ね返して見せた。自分も負けじと、それに合わせようとして……
「……」
一瞬浮かんだ考えを、クロノは苦笑いと共に捨て去る。
――ガスッ!!
飛び退った足元に、西洋剣が突き刺さる。
同時、S2Uは詠唱を認識し、発動の準備を終えていた。
『Stinger Snipe !』
連発された射撃魔法が、雑魚騎士の腕を直撃。装甲と、握力を奪う。
「はァッ!!」
『Blaze Saber!』
展開した魔力刃で、その腕を叩き斬る!
『ガアアア……!!』
(これが、僕の戦い方だっ!)
誰かに勝る、劣る……そんな瑣末なことには気をとられない。
最小限の動作で、最大限の成果を。
それが、資質に乏しい、クロノ・ハラオウン執務官の戦いだった。
◆ ◆ ◆ ◆
学校は、一時騒然となっていた。
生徒・来場者の大部分が、眩暈などの体調不良を訴えたのだ。
ガス漏れ。食中毒。ありとあらゆる憶測が飛び交い、ついには警察・救急隊・消防隊までもが出動する騒ぎとなってしまった。
とりあえず、確認できた人間は敷地外へと避難させられ、特に症状が酷い者は病院へ搬送される。
「待って下さい! まだ、うちの子が中に!!」
……恐らく、隔離結界に閉ざされてしまった児童の保護者だろう。制止する警官隊を押しのけようと、暴れていた。
「市民の皆さん、敷地内は現在、立ち入り禁止となっています! 敷地内に残った児童・来場者を、現在確認中です!」
メガホンで声を張り上げる、制服姿の男性。
人のバリケード。警官隊の誰も、そこを通した様子は無い。無いのだが……
「おじいちゃん、ここなの、ここ」
黒髪の少女と。
「じーちゃん、ここだ!」
紅髪の幼女と。
「…………ふむ、ここだのう」
……作務衣姿の老人が、全く気配を悟られること無く、敷地内に潜入していた。
喧騒を背後に、三人同時に、何も無い空間…………に見える、結界と現実世界の境目を指差す。
デバイスであるアイ、騎士であるヴィータならまだしも。
……大家が、何食わぬ顔でそれを探り当てていることには、誰も疑問を抱かない。
「ふん、雑な造りじゃのう…………」
やれやれ……と頭を振り、結界の粗を指摘する。
「いっせーのせ、でやるの」
「おっしゃ! いくぞアイゼン!」『jawohl!!』
――ジャキンッ!!
グラーフアイゼンを起動し、騎士甲冑……という名の、フリフリのドレスを身に纏う。
「…………いつ見ても戦闘服には見えないの。とっても可憐なの」
半笑いで感想を漏らすアイ。
「るっせ。いいんだよ別に機能には問題ないんだし」
これはこれ、と割り切っていた。
「カートリッジ、ロード!」
――ガシャコンッ!!
薬莢が排出され、グラーフアイゼンに破壊力が漲る。
「すー……はぁー……!!」
大家は、独自の呼吸法で体に力を漲らせる。
「コぁッ!!」
――バツンッ!!
…………作務衣の縫い目が、膨れ上がった筋肉で破れた。
「じゃ、いくの。いっ、」「せー、」「の、」
「 「 「 せっ!! 」 」 」
――パキイイイイインッ!!
アイの無造作な蹴りとヴィータの鉄鎚が結界に罅を入れ……大家の鉄拳が、結界を叩き砕いた。
……重ね重ねになるが、大家はただの民間人である。
『オアアアアアアアッ!!!』『ガアアアアアアアアアッ!!』
結界に突入するや否や、雑魚騎士が襲い掛かってくる。
「ほっほ……懐かしい空気じゃ」
振るわれる西洋剣。それを前にして、大家はまるで、散歩道に咲いた花でも見るように、微笑んでいた。
「ただ……」
――すぱんっ。 …………ゴガンッ!!
「100年ばかし、鍛錬が足りんのう」
流れるような足払いからの、かち上げるようなアッパー。
雑魚騎士は、甲冑の欠片を撒き散らしながら3メートルも打ち上げられ……落ちた。
「…………死んでないよな?」
ヴィータが、怪訝に聞く。
「うむ、安心せい。死んではおらんよ…………………………死んでは、のう」
……コロコロと、足元に白い物体が転がってきた。
…………折れた歯(×複数)だった。
「…………そっか」
ヴィータは、考えることを止めた。
「ま、まぁ……心臓マッサージでも、アバラ折ったりするもんな! 不可抗力だ不可抗力!!」
――ベキンッ!!
近寄ってきた雑魚騎士に、頭蓋が潰れそうなスタンプを叩き込む。
「命拾えるなら、ちょっと(全治半年レベル)の怪我なんて、安い安い!!」
「うむ。大バーゲンじゃ」
――ゴパッ!!
吹っ切れたように雑魚騎士をボコり始めた。
「……ひっどい奴らなの」
暢気に観戦するアイの背後で、雑魚騎士が剣を振りかぶる。
――ビュンッ!!
「おっと、あぶないの」
その小柄な体躯を活かし、雑魚騎士の股座を潜り抜けた。
『ア!?』
いきなり目標を見失い混乱する。
アイは、何歩か助走を取り、
「とーう」
そんな、気の抜けるような掛け声を発し……
――――――――チーン★
……………………男性にとって割とガチで生命に関わるデリケートなトコロを、人外の力で蹴り上げた。
『ア、アッー……ー!! ……ホアァ……!! アーッ……!! ヘアァ……!!』
……蹲り、男性にとって割とガチで生命に関わるデリケートなトコロを押さえ、バッタンバッタンと悶絶する。
「…………うっ」
大家が、目を背けた。
『 『 『 『 …………………… 』 』 』 』
……雑魚騎士にも、伝播したのだろう。
男性にとって割とガチで生命に関わるデリケートなトコロを、ガードしながら、後ずさった。
……哀れな第一号は、動かなくなっていた。
「む、むごいことを……!」
自分のことを棚に上げてまで、アイの行為に慄く。
じりじりと後ずさる雑魚騎士達に、アイは傲然と言い放つ。
「……おまえたちのも、潰してやろうかー、なの!」
『も』!?
「潰れ……っ!?」
ヴィータも、理解したのだろう。敵であるはずの雑魚騎士に、深い哀れみの視線を向けた。
「…………」「…………」
大家とヴィータは顔を見合わせ、こくんっ、と同時に頷いた。
「安心せい、お主ら…………ワシがこの手で、引導を渡してくれる……!!」
「ああ、そんな真似される前に、アタシがキッチリ沈めてやるからな……!!」
『 『 『 …………!!!! 』 』 』(ぶんぶんぶんぶんっ!!)
いやいやそれはおかしい……と、ぶんぶん頭を振りながら下がる。
「…………プチトマト」
『 『 『 …………!!? 』 』 』
……極めて不吉な単語を呟くアイの声に、ビクッ! と停止する。
前門の虎。後門の狼。
……おかしい。自分たちは、狩る側ではなかったのか。
雑魚騎士たちは、知らず知らずの間に、立場を逆転されていた。
――叩き潰されるか……蹴り潰されるか。
今、究極の二択が提示されていた。
『…………!! アアアアアッ!!』
……突貫する雑魚騎士。その兜の奥で、何かがキラリと光っていた。