魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第五十話

 

 戦闘が始まった結界の中。

 

――……ア、アア……

 

 ドロドロとした、不定形のヘドロのようなものが蠢いていた。

 

――アアア…………

 

 ぶくぶくと、汚らしい気泡を浮かべながら、排水溝をドロドロと流れる。

 通った後は汚染され、腐臭漂う足跡を残して。

 

――シンダ、シンダ……コロ、サレタ……

 

 ……その不定形のヘドロは、声を発していた。形状からは信じがたいことだが、意思を持っているらしい。

 

――ダレニ、コロサレタ……? ダレニ、ダレニ……? アア、アアア……! アシガ、アシガイタイ……!

 

 ……だが、思考までも不定形なのか、排水溝を這い出て、裏庭を這い回りながら、意味不明の言葉を口にする。

 ドポン……と、プールに落下する。

 

――アシガイタイ…………ナンデ、アシガイタイ……?

 

 はた……と、何かに気づいたように、歩み(?)を止める。

 

――アア、アア、ソウダ……アシガイタイノハ、チギラレタカラ……

 

 ゴボッ!! と、ヘドロが激しく泡立った。

 

――ヒァハハハハハハハハハ!!!! ソウダ! シンダ! シンダ! コロサレタ! オレハ、アシヲチギラレ、コロサレタ!

 

 カン高い、耳障りな哄笑。

 ゴゴボゴボッ!! と、泡立ちは更に激しくなり…………ヘドロが、その容積を増していく。バケツ一杯程度だったそれは、いつのまにか、プールの水全てを排出するほどに肥大化し……一気に、凝縮する!

 

 

『――クルマイスノオンナニ、コロサレタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

 

――ズシンッ!!

 

 ……干からびたプールの底に、重厚な騎士が屹立する。

 騎士の鎧……とは言い切れない、異様な形状だ。下半身は雑魚騎士同様、人間らしさを保っているが……上半身は、頭部が埋没するほどに異常に肥大化しており、まるで、出来損ないのゴリラのようだった。

『ウ、ウ……!!』

 丸太のような腕を振りかぶり……

 

 

『ウォアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 

――バゴオオオオオオオオンッ!!

 

 ドブ色の魔力が、撒き散らされた。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「……きた!!」

 戦闘中、ユーノが声を上げた。

「きたって、何が!?」

――メキョッ!

 剣を握った腕を絡め取り、折り砕く。

「援軍!」

――シュバババババッ!!

 チェーンバインドで、複数体を纏めて縛り上げた。

「チッ、何だ乱入かよ……らァッ!!」

 

――バキャッ!!

 

 はやてが毒づきながら、アッパーで一体を沈める。

「うん、…………っていうか、何か敵もいっしょにこっち来てるんだけど!?」

 敵も増援か!

 校門のあたりから、確かに雑魚騎士の集団がこっちに攻めて……!

 

『アアッ、アアアッ……!!』『ノオオオオオオオオオオオオッ!!』『アーッ! アァーッ!』

 

 いや、なんか様子が違う……?

「……逃げてる?」

「……なのはも、そう思うか?」

 俺たちのことが目に入っていない様子で、とにかく『何か』から遠ざかろうとしている印象を受ける。……なぜか、どいつもこいつも股間をガードしているのが、激しく気になる。

 そして、その『何か』は……すぐにやってきた。

 

「待つのー!!」「待てこらあああああああっ!!」

 

 薄っぺらいワンピースの裾をバタバタ揺らしながら駆けてくるのは……アイ、ヴィータ、お前らか。

 

――ドゴッ!!

 

 横を通り過ぎようとしていた雑魚騎士にラリアットを喰らわせ、ユーノの前に放る。

「ふむ……腕を上げたのう、ヒデ坊」

 爺さんが、アイアンクローで二体の雑魚騎士を掴み上げながら言った。

……あー、なるほど。さてはあの雑魚騎士たち、爺さんが恐ろしくて逃げてきたな? まったく、弱いもの虐めするなよ。

「……何か誤解があるようじゃな」

 爺さんが、悲しそうな顔で向こうを指差した。

 ん? どれどれ……?

 

「ほーれほれ、プチトマト、プチトマトー!」『ギャアアアアアアアアアアアア!!!』「真っ赤な中身をぶちまけるのー!」『ヒイイイイイイイイイッ!!』「性転換きーっく!!」『ヒギャアアアアアアアアア!!』

 

 ……阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。

「Oh…」

「…………だ、大丈夫! 殺さなければ、後で治せるから!」

 ユーノが、引きつった顔で後ずさった。

「お、おう…………ちゃんと治してやろう」

 …………男にしか理解できない共感が、そこにあった。

 

 

「ぜえぜえ……」

 ヴィータが、息を切らしていた。

「ひ、秀人……アイが、アイのやつが……! 酷いんだ!!」

「……うん、知ってた」

 一体、向こうで何が起きていたのか……想像するに余りある。

「おい乱入してんじゃねえよ!スコアが伸びなくなるだろ!」

 はやてがイラついた様子で、ドスドス歩いてきた。

「ん……?」

 ヴィータは、何度か目を瞬かせる。

「あれ……なんか、よく見えねーぞ?」

ああ……そうか、あれだ。認識阻害。

効果が及ばなくなるのは、『ある程度の顔見知り』になってから。その、『ある程度』がどのラインかは知らないけど……初対面じゃあ、まず素顔は割れない。

「はやて、こいつが前に話したヴィータ」

 ぐいっと肩をつかんで押し出す。

「…………ハッ、ちんちくりんなガキだな」「ンだとやるかオラァ!」「あァ!? 上等だオラァ!!」

 ごちんっ、と額をぶつけ、至近距離でにらみ合う。

「……仲良くしろよ」

 短気同士だから、相性自体はそこそこ合うはずなんだけどなぁ……

 というか二人とも、言葉遣いが汚いぞ。

 

「こらっ、大人しゅうせんかっ!!」『アアアアアー!?』

 言い合っている間に、爺さんが雑魚騎士を仕留めていた。

……今更だけど、人間じゃねえ。

 

 

 雑魚騎士がほぼ掃討される。脱走を試みる個体もいたが、ユーノとクロノ、二人の厳重なバインドには抗えず、もがくだけに終わる。

 残り、10体程度か。

「うぁっ……!」

 と、ユーノが突然、顔をしかめた。。

「見つけた! 敵の、大本……気をつけて!!」

 

――バゴオオオオオオオオンッ!!

 

「な、」

 突然、プールのあった方角で爆発的に魔力が高まり…………ドブ色の汚らしい魔力が、俺たちの方角めがけて発射された!

「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

――バリバリバリバリバリッッ!!

 

 とにかく全員で、最大出力のプロテクションを展開する。そうしなければ、消し炭にされていた。それほどの威力だった。

「づ、ああああっ!!」

 威力が減衰した所でシールドを斜めにし、砲撃を空に受け流す。

 

 ズシン……と、プールのあった方角から……異様な敵が、ぬうっと姿を現した。

「なんだ、あれ……」

上半身だけが異常に大きく、二足歩行ではなく、腕も使って四足歩行をしている。

「秀人、呑まれるなよ」

 クロノが、S2Uをがっちりと握りなおして、言う。

「……ああ」

 

『ガアアルァアアアアアアアッ!!』

 

 ゴリラのような姿をしたそいつは、一吼えし……ダンッ!! と、巨体を空に舞わせた。

「……! や、ば!」

 ゴリラの着地地点と思しき場所には、まだ雑魚騎士が……!

「どけえええええええええっ!!」

 

――ドパアァァアアアンッ!!!

 

 衝撃波をぶつけ、弾き飛ばす。

『Stinger Snipe!』

『Accel shooter!』

『Photom luncher!』

 各々の攻撃魔法で、雑魚騎士を退避させる。

 

――ズズゥンッ……!!

 

 ……着地の衝撃が、足元の地面をぐらぐらと揺らした。

 近くで見ると、またデカくて威圧感がある。体高、約5メートル。さっきの跳躍を見る限り、でくの坊でも無さそうだ。

『アアア…………ココニハ、イナイ……クルマイスノオンナ……』

 上半身に半ば埋もれた首が、何かを探してぐるぐると動く。

 クルマイス……車椅子? 何だってそんなものを……

『……ドコニイッタ』

 ズシン……と、地面に付けていた右手を振り上げ……!

「ヤバい、退けっ!!」

 全員、その場から飛び退る。

 次の瞬間……

 

『ドコニイッタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

――ゴッバアアアアアアアアアアアンッ!!

 

 地面が爆ぜ、ドブ色の魔力が炸裂する。。

 全員、無事…………

 

「……くたばれええええええええええええっ!!」

 

 はやてが、ゴリラに挑みかかった!

「はやて!?」「な、八神ッ!?」

 驚く俺たちを尻目に、はやては魔力を纏わせた拳を振りかぶる!

「シュヴァルツェ・ヴィルクングッ!!」

 ……大火竜をも屠った、超威力の一撃。

それは、動きの鈍いゴリラの埋没した頭部へ、これ以上無いほどのタイミングで突き刺さる!

 

――グシャアァッ…………!!!

 

『オアアアアアアアアアアッ!?』

 ゴリラは、たまらず吹き飛ばされ……

 

――ズガガガガガガガガッ……ズゥンッ!!

 

 地面を数十メートルも滑走し、無人の校舎へめり込んだ!

 

「「「「「………………………………」」」」」

 

 その威力を知らない俺以外は、呆然と立ち尽くしていた。

「はァー……!!」

 腕を振りぬいた格好のまま、荒い息を吐くはやて。

 ……待て、どこか様子が変だ。

「はやて、どうかしたの、」

 か、と言い終えるより先に、伸ばした手が振り払われる。

「触んなクソがぁ!!」

 そのまま、ゴリラに向かっていってしまう。

「あ、おい! はやて! ……くそっ!」

 一人で突っ込ませるわけにもいかず、その後を追う。

 

 ほんとに一体、どうしたっていうんだよ……

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 ……奴の顔を視認した瞬間、私は飛び出していた。リーゼがいたら、絶対に止めるであろう突撃。

 けど、アイツは……アイツだけは!!

『グウウウウウ…………ダレダアアアア……?』

 ガラガラと、瓦礫となった校舎から、奴が立ち上がる。

「……」

 腰に下げた魔剣を抜き放つ。

『……ググウ……オ、オレノジャマ、スルナ……!』

 ぬうっ、と右腕を振り上げる。鈍い。鈍すぎる。

「カートリッジロード……!!」

 

――ズ、ザンッ!!

 

 ……その腕の半ばまで、切れ込みを入れてやる。

『アアア……』

 あまりにも重過ぎる腕は、自重を支えきれずに分断された。

――ベシャアッ……!

 地面に落ちた腕は、どろどろと汚らしいヘドロになった。

「死ね、死ねっ、死ねッ!!」

『…………』

 ゴリラじみた上半身。そこに埋没した顔は、忘れるはずも無い!!

 

 

「もう一度、死ねええええええっ!!」

 

 

 あの日……私を犯し殺そうとした、クソ野郎だッ!

「おおおおおおおおおおおっ!!」

 

――ザンッ、ザンッ、ザクッ!!

 

 切り裂き、叩き潰し、突き立てる!

『…………ヒ、ヒァハハハハハハハハハハハハハハ!!』

 けど……どうなってやがる! まるで、手ごたえってものが無い!

「ぐゥ……!」

 それに、この疲労は一体……!

『ヒァハハハ…………キカナイイイイイイイイイイイ!!』

 

――バシュルルルルルッ!!

 

 切り刻んでいた身体が変化し、私の四肢に絡みついた。

『オレハモウ、キリキザマレナイイイイイイイイ!! ソノチカラヲ、テニイレタンダアアアアアアアアア!!!』

 

――ギリ、ギリ……!

 

「ぐ、あ……! クソがァ……! 舐めんじゃねえええええええええっ!!」

 魔剣を魔力に還元し……カートリッジの残り魔力分ごと、ブッ放す!!

「スターレンゲホイルッ!!」

 

――ッバゴオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!

 

 炸裂する、轟音と閃光。

『オオッ……!』

 それは、無敵を錯覚していたクソ野郎の感覚器官を直撃した。

「フッ!!」

 拘束が緩んだ一瞬を狙い、離脱。

 

――ヴンッ!

 

 もう一度、魔剣を現出させ……

「はやて、待て! 何やってんだお前は!」

 秀人か…………クソ。こいつらさえいなければ、バレることを気にせず、思う存分やれるのに。

「うっせえ! 敵は潰す……潰すんだよォッ!!」

「無策で突っ込むな! また捕まったら……」

 

『ヒァハハハハハ……! ケド、マダタリナイ! マダマダ、チカラガタリナイイイイイイイイイイ!!』

 

 クソ野郎は、、ドロドロと溶けて……

 

――バシュルルルルルルルルルッ!!

 

 ……そこいらにいら雑魚騎士に、どろどろとまとわり付いた。

 

 

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