魔法少女リリカルなのはties 作:ハルハルharuharu
「……な、」
……俺は、目の前で起きていることが理解できなかった。
『ア、 アアアアア……!!』
姿を現した敵の親玉。……泥騎士とでも言うか。
そいつに、はやてが突貫していったと思ったら……そいつは、味方であるはずの雑魚騎士に、ヘドロ状になって絡みついた。
『アアアア……!!』
呑まれかけている雑魚騎士は、明らかに苦悶の声を上げている。
……脳裏に、クロノの言葉が再生される。
『大本を断てば、救助が可能』。確か、そう言っていた。
……ボケッと見てる場合か!!
「やめろおおおおおおおおおおおおっ!!」
インパクト、バレット、ディバインバスター……!! ありったけ……!!
「はやて、どけええええええええええええっ!!」
「……! チッ!」
はやての離脱を確認し……途中で加わったクロノ達も、ありったけの攻撃魔法をぶっ放す!!
――――バガアアアアアァァンッ!!!!
……直撃!!
「……」
もうもうと立ち込める砂埃が晴れる。
……そこには。
「……………………………………………………」
『ヒァハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!』
…………切り落とされた右腕も、何もかも元通りに復元された泥騎士だけが、佇んでいた。雑魚騎士は……いない。
「敵、小型戦力…………反応、ロスト……」
ユーノが、消え入るような声で、事実を告げた。
「…………!」
ガツッ、と、クロノが地面を殴った。
「…………」
助けられるはずだった。一度は闇の書の主に殺された被害者を。だけど……
「…………」
『クッテヤッタ! ホネマデトカシテ、ホネマデノコサズ! クッテヤッタアアア!! ウマカッタアアアアアアアアア!!! チカラガミナギルウウウウウウウウウウウッッ!!!!』
目の前でギャアギャア喚きたてる、この醜い物体に。
――――今度こそ本当に、殺された。
「………………」
「秀人さん!?」
すたすたと、自分の意識と乖離した動作で、ヘドロ色の泥騎士の足元まで移動する。
『ヒァハハハハハハハハ!! ヒァハハハハァー!!』
…………汚らしいヘドロに、触れる。
『アア……? ナンダ、オマエ……?』
俺を見下ろす泥騎士。鎧に反射して見えた俺の体に……凍てついたように透き通る……蒼が、立ち上っていた。
「お前」
『ヒァハハハハハハハハ!! オマエモ、クッテヤルウウウウウウウウウ!!!』
ヘドロの触手が、伸ばされる。スローモーションのように遅い。スローモーションのまま…………俺の体に、突き刺さった。
なのはが、フェイトが、叫ぶより早く。獣騎士が笑うより早く。……触手が、皮膚を突き破り肉を抉る痛みが、脳へ届くより速く。
「消えろよ」
――――………………………………ブゴォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!
……蒼炎が、燃え上がる!!!
――ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』
蒼炎は傷を瞬時に修復し、伸ばされた触手を、至近距離にいた泥騎士の装甲を、その中身を……怒りのままに、炎上させる!
『アアアアアアア……!!』
巨体で無様にのた打ち回る泥騎士。
『テメエエエエエエエエエエエエエッ!!!』
――ブゥンッ!!!
巨木のようだった腕。……不思議と、脅威を感じない。
――ドシンッ!!!
手を添えてみたら、あっさりと捕まえられた。
――ゴオオオオッ……!
『ギイィッッ!!』
掴んだ箇所に蒼炎を集中させ…………
――――バゴオォンッ!!!
……爆破。
「…………」
蒼炎を、更に開放する。球状に凝縮された蒼炎は……真の姿を現す。
――――バサァッ!!
闇の帳を、蒼く蒼く照らし出す………………一対の翼。
――…………?
どうする……って? そんなこと、決まりきっている。
「骨まで溶かして、骨も残さず焼き尽くし――――裁きを下せ」
――――クリメイション・フェニックス。
――――ッジュゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
『……………………!!』
泥騎士は……悲鳴さえ焼き尽くされ、蒼炎の向こうに消えた。
◆ ◆ ◆ ◆
…………なのはを始めとする面々は、その光景を前に、一歩として動くことができなかった。
壮絶かつ一方的な勝負だった。
十体近い雑魚騎士を捕食した泥騎士は、単純な魔力にしてSランク。そこに戦闘能力を加味すれば、S+ランクにすら届く強者だった。
……それが、燃えていた。
汚らしいヘドロを塵に変え、醜い悲鳴を火炎で包み、浅ましい抵抗を爆風で吹き散らす。
災害の猛威が顕現したかのような、圧倒的な業火。
その、あまりの破壊力に、慄いていた。
……いや、正確にはもう一つ。
「…………」
怒りが振り切れ、醒めた顔のまま、淡々と泥騎士を『焼却』していく秀人が……恐ろしかった。
「……終わった、のか?」
クロノの頬を、汗が一滴、伝った。
――ビュウウウウウウウウウウウウウウッ!!
「!!」
一時は消えかけていた泥騎士の魔力反応が、突如として膨張した。
「…………」
ビデオの逆再生を見ているように、泥騎士の身体が再構成されていく。
『アアア……アガアアアアア……!!』
「……再生した? あの状態から?」
「……チッ。たぶん、アイツの主ね。外部から魔力を再入力して、バックアップを起動させたのよ」
さらさらと説明するはやてに、クロノが僅かな違和感を抱く。
『アツイ、アツイヨオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
だが、復活した泥騎士は、未だ狂乱の渦中にあった。
巨体をくねらせながら、既に残り火となっている蒼炎に怯えている。
「……………………」
――すっ。
と、秀人が、右手を泥騎士に差し向ける。
……誰も、それを止める暇など、ありはしなかった。
――ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァーーッッ!!!!!』
……再燃した蒼炎が、再び死の翼を開いた不死鳥が、泥騎士に引火した。
「……………………」
『ヒイ!! ヒィイイイイイイイイイイイイ!!』
ゴロゴロと転がって、蒼炎を消そうと足掻く泥騎士。だが、当然のことながら消えず、その身を焦がし続ける。
「…………」
くいっ、と……右手で、何かを握りつぶすような動作をする秀人。
『ギュイイイイイッ!!』
不死鳥が、暴れる泥騎士をその鉤爪で地面に拘束する。
『アアアアアーーーーーー…………!!!』
……僅かな抵抗さえも、許さない。
『ギャアアアア……………………!!』
再び、燃え尽きて塵になる。
――ビュウウウウウウウウウウウウッ!!!
……またしても、再生。
『ハァ、ハァ……!!』
巨体を揺すり、荒い息をつく泥騎士。
『ア、アアアアア……!! イ、イヤダ……!』
眼下に立つ秀人を目にした瞬間、逃走を図った。
「……………………しぶといな」
無感情にボソッと口にし、右手を差し向ける。
『ギュアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
不死鳥が、舞う。
『イヤダアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』
――……ズガァンッ!!
頭上から急降下した不死鳥が、泥騎士を叩き潰した。
――ビュウウウウウウウウウウッ!!
……また、再生。
『ガハッ……!! モ、モウ……!!』
……やろうと思えば、一息でやれる。
それをわざわざ、再生できるギリギリで寸止めしているということは……
「……12回」
『? …………!!』
泥騎士が、その言葉の意味を察し……戦慄した。
「…………お前が喰った12人分……お前を焼き尽くす」
『アアアアアアアアアアアアア!!』
もはやなりふり構わず、がむしゃらに暴れる泥騎士。
「……邪魔な手だな」
――――ザンッ!!
蒼炎を纏った魔力刃で、腕を切り落とす。はやてに切り落とされた時と同じく、その箇所を修復しようとする。
……が、今回は蒼炎が付随している。
――ボウッ……!!
傷口が炎上し……そのまま、ジリジリと延焼を広げていく。
「……逃げる足は、いらないな」
――ザシュッ!!
延長された魔力刃が、その足を膝から切り落とす。
『…………!!』
四肢の先端から延焼した蒼炎が臓腑にまで達し……四度目の死を迎えた。
――ビュウウウウウウウウウウウッ!!
再生。だが……もはやそれは、次の執行までのカウントダウンだ。
『イヤダ……イヤダ……! モウ、シニタクナイ……!!』
「……そうか、死にたくないか」
ズッ……と、不死鳥が滞空する。
『ア……』
唐突に止んだ猛攻に、泥騎士が呆ける。
「チャンスをくれてやる」
秀人は、両手を広げ……こう、言い放った。
「…………俺を殺してみろ」
『…………ア?』
ぽかん、と口をあける。
「物理攻撃でも魔法攻撃でも……どちらでもいい。お前が出せる限りの全力で、俺の命を奪ってみろ」
「何を、言っている!!」
硬直から我に返ったクロノが、口を挟んだ。
「秀人、馬鹿な真似はもうやめ…………………………ぁぐっ!!」
クロノは……いや、そこにいた秀人と泥騎士以外、全ての者は、唐突に頭上に発生した重量に、膝を突いた。
…………重力操作。周辺重力を、纏めてクロノたちと結合させたのだ。
身動き一つ取れないその超重力は、秀人の蛮行に拍車をかける。
「さぁ…………どうした。遠慮するなよ」
酷薄な……およそ、普段の秀人とはかけ離れた笑みを浮かべる。
『ヒ…………ヒァハハハ……!!』
――チュイイイイイイイ…………ン!!
『タスカル……タスカルンダ……!! コイツヲコロセバ……!』
口内に、恐怖を覚えるほどの魔力がチャージされていく。
一気に膨れ上がり……!
『タスカルンダアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』
――ゴバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!
……吐き出される、ヘドロ色の魔力の激流。
それは、人一人を飲み込むには過剰すぎる程の範囲をもって、秀人を直撃する。
『ウォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
全身の力を……他者の生命までもを取り込んだ、泥騎士の全力の攻撃。
『ヒァハハハ……ヒァハハハハハハハハハハハハハハハァー!!』
――勝った。
泥騎士は、そう思い込んだ。
――――――ぱんっ。
……そんな、軽い音を立てて……濁流が消える瞬間までは。
『……ア、ア?』
何がおきたのかわからない。そんな顔をする泥騎士に、知らしめる。
――ビシャアッ!!!
……無人の校舎の壁一面に、ヘドロの残滓が飛散する。
秀人の右手には、蒼炎の残滓。
……魔力を込めた掌打で、激流を弾き飛ばしたのだろう。
「どうした? …………全力でやれよ」
『ア……アアアアア……!!』
ガタガタと震える泥騎士。
「ああ……今のが全力だったのか。だとしたら、悪いことを言ったな」
服こそボロボロになってはいるものの……その下地は、ほぼ無傷。かろうじて負っていた火傷も、瞬時に修復される。
「じゃあ、もういいな?」
――バチイインッ!!
『ゴアアアアアッ……!!』
魔力を放出し尽くした泥騎士に、もう抵抗する手段は…………残っていなかった。
四肢を切り飛ばされ、全ての関節をへし折られ、どてっ腹をブチ抜かれ……
……ここにきて、ようやく重力増加による金縛りが緩む。
「……」
未だ消えぬ怒りのまま、不死鳥を手繰る秀人。
『ヒィー……ヒィー……!!』
四肢を拘束し、重力操作によって徐々に圧壊させていく。
「秀人、さん…………!」
なのはが、秀人の背にたどり着く。
「もう、いいでしょ……!? もう、」
「まだだ」
「!?」
振り返らず、秀人が言う。
「まだ、八度目だ」
――グシャッ!!
……圧壊し、八度目の死を迎える。
――ビュウウウウウウウウウウウッ!!
「もう、いい……! もう、十分だよ!! 秀人さん!!」
「……九度目」
『ピイイイイイイイイイイイイイイッ!!』
『ヒギャアアアアアアアアアアアアアアッッ……!』
頭を咥え、胴体を鉤爪で掴み……頭部を引きちぎりにかかる不死鳥。
メリ、メリ……と、聞くのもおぞましい音が、嫌でも聞こえる。
「秀人さん……やめて……もうやめて……!!」
ボロボロと涙を流し、幼児のように秀人の背を引くなのは。
様子がおかしい。
確かに、今までも秀人が激怒することはあった。しかし、どんな時でも……なのはの言葉を無視するようなことは、無かった筈だ。
それが今は、異常なほどの魔力を放ち、泥騎士を死に至らしめる行為に没頭している。
…………瞳に、狂気の蒼を宿しながら。
『オマエト、ナンノカンケイガアルッテンダヨォオオオオオオオオオオオ!!』
……ぴたりと、秀人の手が止まる。
「……そうだな。殺されたのは俺じゃない。だから、直接は関係ない」
『ナ、ナラ……』
「だったら……直接、本人達に、聞いてみようか」
『……ハ?』
出来る。可能だ。俺には。
「……分かるんだ。お前に殺された者たちの、無念が」
『ナ、ナニヲ……』
――――ボウッ……
……青い鬼火が、灯る。一つ、二つ……増え続けていく。その鬼火たちは……人の顔を、象っていく。
「死者を…………炎で呪ってな」
『痛い……苦しい……』『どうして、どうして……』『まだ、生きていたかった……』『帰りたいよぉ……おかあさぁん……』
死者の怨念を触媒に、鬼火が一層激しく燃え盛る。
「――――無念を晴らせ」
――――『 『 『 『 お前の所為だぁあああああああああああ!! 』 』 』 』
『ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーー!!!!!』
泥騎士の身体に、鬼火が引火し……熱し、溶かし……滅ぼしてゆく。
「――はは……はははははは。そうだ……もっとだ……お前たちの憎しみは、まだまだ燃え盛ることができるぞ……!!」
「ひでと、やりすぎだ!!」
正気ではないと見るや否や、フェイトが、クロノが、ユーノが、ヴィータが、アルフが……それぞれ、秀人を止めに掛かる。
だが……異常な力で右手を手繰り……
「…………ヒデ坊、そこまでじゃ」
……大家が、秀人の右手を掴む。
そして、その異常な色彩に染まった瞳を、真正面から睨む。
「その外道を罰するのも、気が済んだじゃろ。
これ以上、なのはちゃん達の言葉を聞かずに、そやつを嬲るというのであれば……」
――ゴウッ……!!
気迫……いや、殺気が迸る。
「ワシが、お主を叩きのめすぞ」
秀人のソレと遜色無いどころか、上回る殺気。
それに中てられ……
「……………………………………………………あ」
夢から覚めたように、正気を取り戻した。
『ピイイイイイ…………』
しゅるしゅると萎み、カラスほどの大きさになった不死鳥が、秀人の腕に止まった。
「…………戻るがええ。役目は終わった」
静かに、しかし厳しく言われ、不死鳥が秀人の体内に渋々戻る。
「え…………あ……?」
ぱちぱち、と目を瞬かせ、きょろきょろと周囲を見渡す秀人。
「…………。……!」
その、凄惨な破壊の惨状に……そして、それを成したのが自分だという事実に、あからさまに狼狽した。
「ち、ちがう…………! 俺は、こんなこと……!!」「ひでと、だいじょうぶ、だいじょうぶだから……おちついて、」
フェイトの言葉も耳に入らないようで、ふらふらと後ずさり……とんっ、と、何かにぶつかった。
振り返った、秀人が見たのは……
「……う……ひっく……ひっく……」
未だに涙をこぼす、なのはの姿だった。
「う」
――なのはを、傷つけた。
その事実を突きつけられ……秀人は。
「……ぅああ!!」
……その場から、逃げ出した。
「秀人! …………くそ!」
すぐに追おうとするクロノたちだったが、重圧の後遺症なのか、足腰がっふらついてしまい、追いつけなかった。
「………………あの、ぼけなす」
大家に背負われたアイが、ぽつりと毒づいた。
そして、秀人に気を取られるあまり…………
『…………』
巨大な甲冑の中から、泥騎士の本体であるヘドロが滲み出したことに、気づくことができなかった。
「主! ご無事ですか!」
「リーゼ!?」
はやてが、驚いた顔でリーゼを見た。
「何をやっている! 美香についてろって言っただろ!!」
叱咤するはやてに、リーゼは、本気で意味がわからなさそうな顔をした。
「は……? いえ、ですが今、念話で……」
「ンなもん、繋げてねェよ!」
……どうにも、話がかみ合わない。
「リーゼ……きみは、どんな念話を受けてきた?」
クロノの問いに、リーゼが答える。
「……『はやてが捕まった。至急、援軍に来てくれ』、と……」
さあっ……と、クロノの顔が青ざめ……
「…………体育館だ! 急げ!!」
引きつるような怒鳴り声を、上げた。
◆ ◆ ◆ ◆
…………走って、逃げて……俺は一体、何をしているんだろう。
「……」
なのはを、泣かせてしまった。
「…………」
俺だけは泣かせまいと誓っていた、大事な子を。
ずきずきと、胸が痛む。
気づけば、体育館の近くにまで、足を運んでしまっていた。
「……そうだ、石田先生が……」
確か、美香やリーゼと共に、体育館に避難しているはずだ。念話で、状況終了を伝えるか……
「……あれ?」
念話でリーゼに話そうとしたのだが、繋がらない。
何度か試しても、通じなかった。
「……仕方ない、」
直に伝えるか……と、歩を進めた直後。
――パキィンッ……!!
「!!」
体育館を覆っていた防御結界に、明らかな亀裂が入った。
いまさらになって感じるのは…………あの、泥騎士の反応!
「……くそ、何で気づけなかった!!」
俺はまだ、奴に止めをさしていない!!
体育館の壁を蹴り怖し、突入した。そこで、俺が見たのは……
「きゃあああっ!!」「……!」
しりもちをついた格好の美香。そして、それを庇う、石田先生の姿だった。
『アアア…………イタ、ミツケタ…………クルマイスのオンナアアアアアアアアアアアアアア!!』
あの甲冑を脱ぎ捨て、ほぼ素体になった泥騎士。その手には、未だ鋭い鉤爪が備わっていて……!
『ナニモカモ……オマエノセイダアアアアアアアアアアアアアア!!!』
「……!」
「先生に……触るんじゃねえええええええええええええええええッ!!」
拳に、ありったけの魔力を練りこんで……!
――――ドズゥッ!!
…………貫手を、泥騎士の腹部に叩き込んだ。
『ギ、ヒィ…………!』
「……おおおおおっ!!」
そして、体内で蒼炎を炸裂させる!
――……バァンッ!!
『ギャアアアアア…… あああああああああ、あ、あ!」
……命は奪わず。その身に纏った闇の書の魔力だけを、浄化する。
ごとん、と床に落ちる、薄汚い格好をした中年の男。
「はぁ、はぁ……!」
何とか、間に合った……!
「先生、大丈夫か!?」
へたり込んだ先生に歩み寄って、手を………………
「ひっ!」
――――――――――ぱしんっ。
…………………………………………手が、ひりひりと痛んだ。
「…………」
俺の手は、差し伸べた先から、反れていた。
「……………………」
感情が、浮かんでこなかった。
痛かった。
ただ、ひたすらに……叩かれた手が、ずきずきと痛かった。
拒絶された手が……痛かった。
「……あ、……ちが、ちがう……! ちがう、の……!」
先生が、何か言っている。
フィルター越しに聞いているような声で、何かを言っている。
その声とは別の……つい数時間前に聞いた言葉が、リフレインする。
『時間がたっても変わらないものって……』
「秀人くん、違う……違うの……!」
…………遠ざかっていく。
いや、これは……俺が、逃げているのか。
『時間がたっても変わらないものって……先生は、あると思うな』
「秀人くん……!!」
……そう言った女性に、俺は…………心に浮かんだたった一言を、呟いた。
「――――――うそつき」
「…………あ、」
俺は、逃げた。
走って、逃げ出した。
「…………ああああああああああああああああああああああ!!!!」
女性の慟哭を耳に届かせないように、遠くへ、遠くへ…………
…………頬に伝う冷たい雫を、拭うことも忘れて。