魔法少女リリカルなのはties 作:ハルハルharuharu
「……で、いつ出撃するんだ?」
自己紹介を終えた後、まったりと食休みに入ってしまった凶鳥部隊。
「あー……? んー、通知が来たら出るよ」
「は?」
通知?
「つまり、観測された敵対勢力に、私たちを投入するに値すると認められた場合のみ、ウチらの独自権限…………独断での現場指揮、戦闘、事後対応が許されるのさ」
「…………」
グレアムさんの話だと、闇の書の反応があった、とのことだが……
それを話すと、オウルはあからさまに驚いた。
「おう……おまえ、ウチらの上司どのに会ったのかい」
「会ったけど……」
「やっぱり、意地の悪そうな奴? 男? 女? 大人? 子供?」
「待て待て待て。一気に聞くな……………………って、ちょっと待て!」
さっきから、オウルは変な質問をしている。内面はともかく……外見なんて、今更聞く必要は無いだろ。
「だって、直接会ったこと無いんだもん」
………………ありえねー。
「いっつも通信越しでさぁ、やれ倒せ、やれ潰せ…………そればっか」
やれやれ、というジェスチャーをするオウル。
「基本、ウチらはずーーーーーーーっと宿舎で待機してんの。寝たり、テレビ見たり、本読んだり…………んで、たまーにある任務の連絡があった場合のみ出撃してればいいってワケ。まあ、この環境も性にあってるし、ラクだし………………」
…………そして、オウルは……いや、アーデ、ラーファ、クライアは……諦観に染まった、歪な笑みを浮かべた。
「この身分が無かったら、とっくに極刑になるくらいのことはしてるし、ねぇ……」
……………………。
「……」
やっぱり、か。言動やら、行動やら……どう考えても、堅気のものじゃなかった。
この宿舎で待機というのも恐らくは、危険人物を隔離するため。
「うふふふふ…………」
アーデ……アーデルハイドが、這いずるような動きで近づいてきた。
――しゅぴん。
取り上げたはずのメスを、手に握りながら。
「……ねぇ、もしかしてもしかするけど、こう考えてない? 『きっと、やむにやまれぬ事情があったに違いない』…………な・ぁ・ん・て!!」
「!」
――ブシュッ!!
メスに、魔力光が灯るのと同時……さっき切られた下瞼の傷が、パクッと開いた。
「うふふふふふふ……!! あなたの前に来た局員は、そう言ったわ! そう言って、そう言って……うふふふふははは!! ねぇ、どうしたと思う!? その局員はねぇ……私たちを、哀れんだのよ!! かわいそうに、って! 紅を引いた薄紅い口で! そう言ったの!! だから、だから……………………ふフアハハハハはひゃあははははははははは!!!!!」
ゴロゴロと、床を転げまわる。そして、ずるぅッ……! と、奇妙に滑らかな動作で、俺に顔をくっつけた。
「内臓を検品して、部品取りにしちゃった!」
至近距離のアーデから、毒々しい香りが漂ってきた。腐臭寸前の、強烈すぎる薔薇の香気が。
「ぐ、う……!!」
脳を溶かすような、トルエンの百倍強烈な香気に、意識がぐらつく。
――ガシッ……!
「あ、!」
髪を乱暴に鷲づかみにされ、直接目を覗き込まれる。
「あなたも…………ヒトゴロシでしょう?」
ザクッ………………と、見えない刃のようなものが、俺に中に突き刺さった。
ヒトゴロシ。
ひとごろし。
――人殺し。
「く、あ!!」
裏拳でアーデを振り払う。ゴッ、という鈍い感触。
「…………! 出鱈目を、言うな!!」
だが、俺に殴り倒されたままの格好で、アーデがくつくつと笑う。
「わかるわぁ……あなたからは、同属の匂いがするもの…………」
「黙れ!!」
これ以上、勝手なことは喋らせない!
「直接……じゃあ無いわねぇ。ということは、間接的……あなたが原因で、誰かが死んだ……? …………大正解みたぁい!! うふ……あははははははははははははははははははは げぅッ!!」
「黙れ……黙れ黙れ黙れ……ッ!! 黙れよッ……!!」
…………アーデの喉元を、服ごと締め上げる。
「ぐぅう……! ア、アハ、アハハハハ……!! 歓迎するわ! 歓迎するわ!!
ようこそ同胞、凶鳥部隊へ! ようこそ狢、同じ穴へ! あははははははははは!!」
アーデは、笑っていた。窒息寸前まで締め上げられ、顔を青ざめさせ……それでもまだ、笑っていた。
「……がぁあ!!」
ぎゅうっ、と更に絞め……意識を飛ばす。
その寸前……アーデの口が、パクパクと動き…………声にならない声で、言った。
――ようこそ、化け物
……と。
「何だよ……!!」
白目を剥いて倒れるアーデ。爆笑するラーファと、号泣するクライア。本から顔も上げ、じっと俺を見るカレン。
「何なんだよぉ!!」
…………わけのわからない激情に駆られる俺に、オウルが言う。
「……ここは、ウチや、アーデルハイドみたいな奴が、最後にたどり着く終点」
……俺より少し上、精々が20代程度に見えるオウル。その彼女が、妙に実感が篭もった……予想を語る。
「さんざん殺して、殺して、殺して……人の道を外れて、鬼畜外道に堕ちて…………最後は、道具として使い潰されて……終わる。もう、マトモな道には戻れない。戻れるはずも無い」
懐から煙草を取り出し、咥える。
「なぜならば、ウチは、ウチらは……楽しんでいるからね。人を殺すことを」
煙が吐き出され、独特の匂いが鼻に届く。
「殺したくて、殺したくて…………食事をするように、睡眠をとるように……呼吸をするように」
殺すために、殺す。
「人の輪の中にいられなくなった、はみ出し者。それが私たちさ」
…………人の輪、か。
「……」
黙りこんだ俺に何を感じたのか、オウルは俺に、煙草を一本差し出した。俺には読めない文字で、何かプリントされている。管理局の官給品だろうか。
受け取るが……どうしたものか。煙草なんて、一度も吸ったこと無いんだが……
「……あーもう、じれったいやつだなキミは」
「むぐっ……」
取り上げられ、口に突っ込まれる。
――じゅっ。
俺の咥えた煙草の先端に、オウルが自分の煙草をくっつけ、火を移す。
「…………げふっ!」
人生初めての煙草。まぁ予想通りというかなんと言うか。盛大にムセた。
カレンは、いつのまにか文庫本から顔を上げ、じっとこちらを見ていた。
「はみ出し者同士……傷を舐め合おう。それがここの、唯一絶対の規則だ」
「……」
スウッ……と、今度はむせずに煙草を吸う。
「……ああ、よろしく」
――ここにいよう。
自然と、そういう思いが浮かんできていた。
戻っても……また、誰かに拒絶されるくらいなら。ここにいながら、闇の書事件の解決に当たればいい。
「カレン、秀人を案内してやれ」
「ん、わかったよオウル姉さん」
カレンは、読んでいた本をブックホルダーに仕舞い、立ち上がった。
「あはははは! おーい、アーデ! おっきろー!!」
「うえええん! 起きてよアーデ! あそぼうよー!」
「ややややめなさい、やめなさいあなた達ぃ……! 中身が出ちゃうううううう……!!」
…………アーデが、双子にのしかかられていた。キャメルクラッチと逆エビ固めをツープラトンで仕掛けられ、顔色が紫色だった。
「……」「……」
うわ……目が合った。
「秀人! こ、この子達を、私の上からどかしてちょうだいいいいいいい……!!」
「……………………」
どうしよう。
「ひぃいいいいいいん……!! 痛い、痛いのよぉ……!!」
……どうにも本気で痛そうだし、数々の変態的所業には目を瞑って、助けてやるか……
「あはははは! お兄ちゃんもやる? ヒトデごっこ! いぶくろを吐き出すまで搾り上げるの!」
「うえええん! プラナリアごっこの方がいいのー! からだをばらばらにして、くっつけるの!」
……ごめん無理。
「ひぃい! 本気だわこの子たち! オウル! 助けて頂戴!! 海産物にはなりたくないぃ!!」
「子供の遊びだ。付き合ってやれ」
オウルは、取り付く島も無い。
「じゃ、行こうかー」「そうだな、案内頼むわ」
……俺たちは、その場を後にした。
「んー、んふふふふー」
前を歩くカレンは、上機嫌だ。
「何か、嬉しそうだな」
「そりゃ、嬉しいに決まってるさー。久しぶりに家族が増えたんだもーん。基本、ここって女所帯でしょー? 弟でもいれば、もっと楽しくなるのになぁ、って、いつも思ってたんだー」
弟……って、見た目殆ど同い年だけど。
「カレン、おまえ何歳?」
雑談のつもりで切り出した。
「……」
カレンは、ぴたりと足を止めた。
「覚えてない」
語尾も伸ばさず、淡々と言った。
「気づいたら人を殺してて、殺すのが当たり前の生活をしてて……それからはずっとここにいたから、覚えてない」
「そうか……」
つい忘れそうになるけど……この部隊にいる連中は、普通の生活なんて……誕生日を祝うなんて習慣、無かったのかもしれない。
また歩き出す。
(俺が17だから……)
「……カレン、お前は18歳ってことにしとけ」
「? ……なんでー?」
「俺の『姉』なんだろ? なら、いっこくらい年上じゃないとさ」
「あは……そっか、私、18歳かー…………」
カレンは、びっくりした顔をして……
「ありがと、ヒデくん」
少し頬を赤らめて、照れくさそうに笑った。
◆ ◆ ◆ ◆
小学校。三年二組の教室。
「…………」
表向きには、ガス漏れか何かによる集団幻覚として処理された、襲撃事件から一週間。学校は、ようやく再開された。
「……」
教室内の空気は、まだ、どこかぎこちない。
うやむやのうちに終わってしまった、不可解な事件。そして……
「…………チッ!」
……あからさまに不機嫌な、はやてのせいだ。
(クソが……あのバカ、どこに行きやがった)
……秀人が行方をくらませて、一週間。
大家が目撃した、秀人の行方。アースラの総力を以ってして、未だに手がかりさえ掴めていなかった。
「…………」
「あ、ああの、あの……八神さん……」
クラスメイトの一人が、おずおずと意を決して話しかけてきた。
「何だ、戌井」
半眼を向ける。
「た、高町さんとフェイトちゃん……まだ、来ないの……?」
更に加えるなら、なのはとフェイトが学校を休んで、一週間である。
「お、同じところに住んでるんだよね……なら、何か、」
「知るか」
「……!」
クラスメイトとの会話を、邪険に突っぱねる。
……きっと、何かがあった。それを、クラスメイトは薄々感じていて……
「……チッ」
はやてはそのまま立ち上がり、教室を出て行ってしまった。
……学校をエスケープしたはやては、自宅跡地の近くにあったコンビニに入った。
「らっしゃーせー……」
例の、金髪のバイトがいる店だ。
はやては、籠に大量のスナック菓子と、アイスクリームと、ジュースを詰め込む。
「……これ」
どかっ、とレジに置いた。
「そこの肉まんとピザまんと角煮まん、フランクフルトとアメリカンドッグとから揚げ串、全部」
……飽き足らず、レジ横のホットスナックまで買い込むようだ。
「……食いすぎじゃね?」
バイトが、もっともなことを言う。
「チッ……黙って売れ」
「栄養偏るんじゃねーか、これ……」
ぴっぴっ、とバーコードが読み込まれ、表示される金額はあっという間に四桁に届いた。
「オレの妹さぁ……」
「あ?」
レジ打ちの傍ら、世間話を始めた。
「入院してんだけど、ずーっと病院食だろ? たまには、こういう身体に悪いくらいのジャンクフードも食いたいだろうに………………さすがに、こんなアホみたいな量じゃ無いにせよ」
「うるせぇよ!」
レジに万札を叩きつけ、両手に抱えるほどのビニール袋を持って、店を飛び出した。
「おい、釣り銭! おーい!!」
後ろから呼び止める声を無視して、目的地を目指す。
目的地…………町はずれの高台に登る。
そこは、はやてのお気に入りの場所だった。車椅子だった時は、坂がキツくて来られなかったのだが……こうして登れるようになってみると、景色は良く、ほどよく静かで、中々に快適だ。
そこのベンチに座って、本でも読めば最高なのだが……
「………………」
今日に限って、先客がいた。
しかも、はやてがよく知る人物だった。
「………………石田先生」
……私服であることから、仕事には行っていないと分かった。
「…………」
はやてを見て、眼を見開く。が、何も言わず、俯いてしまう。
――秀人の失踪の原因は、石田だ。
美香の話から、はやてはそれを知っていた。
「……チッ」
その横に、ドカッと乱暴に座り、ビニール袋を放る。
その量に、あっけに取られる石田。
むしゃむしゃがつがつ……と、手当たり次第に食い散らかしていく。
「……身体に悪いわよ」
ようやく、口を開いた。しゃがれていて、よく見れば、目元も赤い。
「ふん……もう、患者じゃないから関係無いだろ」
「そんなこと………………うん、そうよね」
ただ、町を見下ろす。
「もう、患者じゃないんだもんね……あなたも、秀人くんも」
「…………」
「なのに…………また、間違えちゃった」
ざくざく、とポテトチップスを噛み砕く。
「…………助けてくれたのに、傷つけて……」
さながら、懺悔のように、つらつらと話し続ける。
「石田先生はどうしたいの」
ジュースで一服して、はやてはそれを遮った。
「秀人を傷つけて……それで、先生は今、何をしたいの。どうしたいの」
「…………」
「本当はもう、決まってるんだろ?」
――会って、謝りたい。
それが、石田の心情だった。
「…………」
沈黙は、肯定だ。
「なら、アンタは今……こんなところで、何をしているんだ」
「…………だって、」
小さな子供のように、スカートをぎゅっと握り締める。
「だって……もう絶対、許してくれない……!」
ぼろぼろと涙を零して、弱音を吐いた。
はやては、はぁ……とため息をつく。
「順序が逆だろ」
「……え?」
きょとん、とする石田に、はやてが言う。
「許すも、許さないも…………まずは会って、謝ってから考えることだろ」
「……あ」
今更ながら、それに気づいた。
「……馬鹿ね、私。そんな簡単なことに気付きもしないで、こんな場所で……」
きっ、と、目つきを鋭くする。
「秀人くんを探すわ」
……決然と、言った。
「街を虱潰しにしてでも探し出して…………まずは、謝らないと!」
「まァ、ちょっと待ちなよ」
立ち上がろうとした石田の手を、はやてが掴む。
「ん」
……ビニール袋を一つ、ぶっきらぼうに突き出す。
中には、ジャンクフードの山。
「これは……?」
不思議がる石田に、はやては、悪戯っぽい笑みを見せた。
「…………食べなよ。驚くほど身体に悪いらしいけどな」
「……!」
石田は、意を決したように、猛然とジャンクフードにかぶりつく。
アイスも、菓子も、ホットスナックも、次々に。
――がつがつがつ。
――むしゃむしゃむしゃ。
……女医と小学生が、黙ってジャンクフードにがっつくという、奇妙極まりない光景がしばらく続く。
「「んぐんぐんぐ…………ぷはァっ!!」」
最後に、二人してジュースを一気飲み。
「…………はやてさん、ありがとう」
「ふん……別に、私は何もしてないよ」
「それでも、ありがとう」
「…………」
それだけ言い残して……石田は、坂を駆け下りていった。
「…………ふん」
ごみを片付け終えて……はやては、不敵な笑みを作った。
(そうだとも…………答えなんて、とっくに出ている)
今、自分がすべきことは……!
「秀人! 首根っこ捕まえてでも、叩きのめしてでも…………連れ戻してやる!!」
――バシュッ!!
飛行魔法を発動し、飛び立つ。
「お前は、私のモノだ! 私から、逃げられると思うなよ!!!!」
…………秀人の捜索が、始まった。