魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第五十四話

 

「……で、いつ出撃するんだ?」

 自己紹介を終えた後、まったりと食休みに入ってしまった凶鳥部隊。

「あー……? んー、通知が来たら出るよ」

「は?」

 通知?

「つまり、観測された敵対勢力に、私たちを投入するに値すると認められた場合のみ、ウチらの独自権限…………独断での現場指揮、戦闘、事後対応が許されるのさ」

「…………」

 グレアムさんの話だと、闇の書の反応があった、とのことだが……

 それを話すと、オウルはあからさまに驚いた。

「おう……おまえ、ウチらの上司どのに会ったのかい」

「会ったけど……」

「やっぱり、意地の悪そうな奴? 男? 女? 大人? 子供?」

「待て待て待て。一気に聞くな……………………って、ちょっと待て!」

 さっきから、オウルは変な質問をしている。内面はともかく……外見なんて、今更聞く必要は無いだろ。

 

「だって、直接会ったこと無いんだもん」

 

………………ありえねー。

「いっつも通信越しでさぁ、やれ倒せ、やれ潰せ…………そればっか」

 やれやれ、というジェスチャーをするオウル。

「基本、ウチらはずーーーーーーーっと宿舎で待機してんの。寝たり、テレビ見たり、本読んだり…………んで、たまーにある任務の連絡があった場合のみ出撃してればいいってワケ。まあ、この環境も性にあってるし、ラクだし………………」

 …………そして、オウルは……いや、アーデ、ラーファ、クライアは……諦観に染まった、歪な笑みを浮かべた。

 

「この身分が無かったら、とっくに極刑になるくらいのことはしてるし、ねぇ……」

 

 ……………………。

「……」

 やっぱり、か。言動やら、行動やら……どう考えても、堅気のものじゃなかった。

 この宿舎で待機というのも恐らくは、危険人物を隔離するため。

「うふふふふ…………」

 アーデ……アーデルハイドが、這いずるような動きで近づいてきた。

 

――しゅぴん。

 

 取り上げたはずのメスを、手に握りながら。

「……ねぇ、もしかしてもしかするけど、こう考えてない? 『きっと、やむにやまれぬ事情があったに違いない』…………な・ぁ・ん・て!!」

「!」

 

――ブシュッ!!

 

 メスに、魔力光が灯るのと同時……さっき切られた下瞼の傷が、パクッと開いた。

「うふふふふふふ……!! あなたの前に来た局員は、そう言ったわ! そう言って、そう言って……うふふふふははは!! ねぇ、どうしたと思う!? その局員はねぇ……私たちを、哀れんだのよ!! かわいそうに、って! 紅を引いた薄紅い口で! そう言ったの!! だから、だから……………………ふフアハハハハはひゃあははははははははは!!!!!」

 ゴロゴロと、床を転げまわる。そして、ずるぅッ……! と、奇妙に滑らかな動作で、俺に顔をくっつけた。

 

 

「内臓を検品して、部品取りにしちゃった!」

 

 

 至近距離のアーデから、毒々しい香りが漂ってきた。腐臭寸前の、強烈すぎる薔薇の香気が。

「ぐ、う……!!」

 脳を溶かすような、トルエンの百倍強烈な香気に、意識がぐらつく。

 

――ガシッ……!

 

「あ、!」

 髪を乱暴に鷲づかみにされ、直接目を覗き込まれる。

 

「あなたも…………ヒトゴロシでしょう?」

 

 ザクッ………………と、見えない刃のようなものが、俺に中に突き刺さった。

 ヒトゴロシ。

ひとごろし。

 

――人殺し。

 

「く、あ!!」

 裏拳でアーデを振り払う。ゴッ、という鈍い感触。

「…………! 出鱈目を、言うな!!」

 だが、俺に殴り倒されたままの格好で、アーデがくつくつと笑う。

「わかるわぁ……あなたからは、同属の匂いがするもの…………」

「黙れ!!」

 これ以上、勝手なことは喋らせない!

「直接……じゃあ無いわねぇ。ということは、間接的……あなたが原因で、誰かが死んだ……? …………大正解みたぁい!! うふ……あははははははははははははははははははは げぅッ!!」

「黙れ……黙れ黙れ黙れ……ッ!! 黙れよッ……!!」

 …………アーデの喉元を、服ごと締め上げる。

「ぐぅう……! ア、アハ、アハハハハ……!! 歓迎するわ! 歓迎するわ!! 

 

ようこそ同胞、凶鳥部隊へ! ようこそ狢、同じ穴へ! あははははははははは!!」

 

 アーデは、笑っていた。窒息寸前まで締め上げられ、顔を青ざめさせ……それでもまだ、笑っていた。

「……がぁあ!!」

 ぎゅうっ、と更に絞め……意識を飛ばす。

 その寸前……アーデの口が、パクパクと動き…………声にならない声で、言った。

 

――ようこそ、化け物

 

 ……と。

「何だよ……!!」

 白目を剥いて倒れるアーデ。爆笑するラーファと、号泣するクライア。本から顔も上げ、じっと俺を見るカレン。

「何なんだよぉ!!」

 …………わけのわからない激情に駆られる俺に、オウルが言う。

 

「……ここは、ウチや、アーデルハイドみたいな奴が、最後にたどり着く終点」

 ……俺より少し上、精々が20代程度に見えるオウル。その彼女が、妙に実感が篭もった……予想を語る。

「さんざん殺して、殺して、殺して……人の道を外れて、鬼畜外道に堕ちて…………最後は、道具として使い潰されて……終わる。もう、マトモな道には戻れない。戻れるはずも無い」

 懐から煙草を取り出し、咥える。

「なぜならば、ウチは、ウチらは……楽しんでいるからね。人を殺すことを」

 煙が吐き出され、独特の匂いが鼻に届く。

「殺したくて、殺したくて…………食事をするように、睡眠をとるように……呼吸をするように」

 殺すために、殺す。

 

「人の輪の中にいられなくなった、はみ出し者。それが私たちさ」

 

 …………人の輪、か。

「……」

 黙りこんだ俺に何を感じたのか、オウルは俺に、煙草を一本差し出した。俺には読めない文字で、何かプリントされている。管理局の官給品だろうか。

 受け取るが……どうしたものか。煙草なんて、一度も吸ったこと無いんだが……

「……あーもう、じれったいやつだなキミは」

「むぐっ……」

 取り上げられ、口に突っ込まれる。

 

――じゅっ。

 

 俺の咥えた煙草の先端に、オウルが自分の煙草をくっつけ、火を移す。

「…………げふっ!」

 人生初めての煙草。まぁ予想通りというかなんと言うか。盛大にムセた。

 カレンは、いつのまにか文庫本から顔を上げ、じっとこちらを見ていた。

 

「はみ出し者同士……傷を舐め合おう。それがここの、唯一絶対の規則だ」

 

「……」

 スウッ……と、今度はむせずに煙草を吸う。

「……ああ、よろしく」

 

――ここにいよう。

 

 自然と、そういう思いが浮かんできていた。

 戻っても……また、誰かに拒絶されるくらいなら。ここにいながら、闇の書事件の解決に当たればいい。

「カレン、秀人を案内してやれ」

「ん、わかったよオウル姉さん」

 カレンは、読んでいた本をブックホルダーに仕舞い、立ち上がった。

 

「あはははは! おーい、アーデ! おっきろー!!」

「うえええん! 起きてよアーデ! あそぼうよー!」

「ややややめなさい、やめなさいあなた達ぃ……! 中身が出ちゃうううううう……!!」

 

 …………アーデが、双子にのしかかられていた。キャメルクラッチと逆エビ固めをツープラトンで仕掛けられ、顔色が紫色だった。

「……」「……」

 うわ……目が合った。

「秀人! こ、この子達を、私の上からどかしてちょうだいいいいいいい……!!」

「……………………」

 どうしよう。

「ひぃいいいいいいん……!! 痛い、痛いのよぉ……!!」

 ……どうにも本気で痛そうだし、数々の変態的所業には目を瞑って、助けてやるか……

 

「あはははは! お兄ちゃんもやる? ヒトデごっこ! いぶくろを吐き出すまで搾り上げるの!」

 

「うえええん! プラナリアごっこの方がいいのー! からだをばらばらにして、くっつけるの!」

 

 ……ごめん無理。

「ひぃい! 本気だわこの子たち! オウル! 助けて頂戴!! 海産物にはなりたくないぃ!!」

「子供の遊びだ。付き合ってやれ」

 オウルは、取り付く島も無い。

 

「じゃ、行こうかー」「そうだな、案内頼むわ」

 ……俺たちは、その場を後にした。

 

「んー、んふふふふー」

 前を歩くカレンは、上機嫌だ。

「何か、嬉しそうだな」

「そりゃ、嬉しいに決まってるさー。久しぶりに家族が増えたんだもーん。基本、ここって女所帯でしょー? 弟でもいれば、もっと楽しくなるのになぁ、って、いつも思ってたんだー」

 弟……って、見た目殆ど同い年だけど。

「カレン、おまえ何歳?」

 雑談のつもりで切り出した。

「……」

 カレンは、ぴたりと足を止めた。

 

「覚えてない」

 

 語尾も伸ばさず、淡々と言った。

「気づいたら人を殺してて、殺すのが当たり前の生活をしてて……それからはずっとここにいたから、覚えてない」

「そうか……」

 つい忘れそうになるけど……この部隊にいる連中は、普通の生活なんて……誕生日を祝うなんて習慣、無かったのかもしれない。

 

また歩き出す。

(俺が17だから……)

「……カレン、お前は18歳ってことにしとけ」

「? ……なんでー?」

「俺の『姉』なんだろ? なら、いっこくらい年上じゃないとさ」

「あは……そっか、私、18歳かー…………」

 カレンは、びっくりした顔をして……

 

「ありがと、ヒデくん」

 

少し頬を赤らめて、照れくさそうに笑った。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 小学校。三年二組の教室。

「…………」

 

 表向きには、ガス漏れか何かによる集団幻覚として処理された、襲撃事件から一週間。学校は、ようやく再開された。

「……」

 教室内の空気は、まだ、どこかぎこちない。

 うやむやのうちに終わってしまった、不可解な事件。そして……

「…………チッ!」

 ……あからさまに不機嫌な、はやてのせいだ。

 

(クソが……あのバカ、どこに行きやがった)

 

 ……秀人が行方をくらませて、一週間。

 大家が目撃した、秀人の行方。アースラの総力を以ってして、未だに手がかりさえ掴めていなかった。

「…………」

「あ、ああの、あの……八神さん……」

 クラスメイトの一人が、おずおずと意を決して話しかけてきた。

「何だ、戌井」

 半眼を向ける。

「た、高町さんとフェイトちゃん……まだ、来ないの……?」

 

 更に加えるなら、なのはとフェイトが学校を休んで、一週間である。

 

「お、同じところに住んでるんだよね……なら、何か、」

「知るか」

「……!」

 クラスメイトとの会話を、邪険に突っぱねる。

 ……きっと、何かがあった。それを、クラスメイトは薄々感じていて……

「……チッ」

はやてはそのまま立ち上がり、教室を出て行ってしまった。

 

 

 ……学校をエスケープしたはやては、自宅跡地の近くにあったコンビニに入った。

「らっしゃーせー……」

 例の、金髪のバイトがいる店だ。

 はやては、籠に大量のスナック菓子と、アイスクリームと、ジュースを詰め込む。

「……これ」

 どかっ、とレジに置いた。

「そこの肉まんとピザまんと角煮まん、フランクフルトとアメリカンドッグとから揚げ串、全部」

 ……飽き足らず、レジ横のホットスナックまで買い込むようだ。

「……食いすぎじゃね?」

 バイトが、もっともなことを言う。

「チッ……黙って売れ」

「栄養偏るんじゃねーか、これ……」

 ぴっぴっ、とバーコードが読み込まれ、表示される金額はあっという間に四桁に届いた。

「オレの妹さぁ……」

「あ?」

 レジ打ちの傍ら、世間話を始めた。

「入院してんだけど、ずーっと病院食だろ? たまには、こういう身体に悪いくらいのジャンクフードも食いたいだろうに………………さすがに、こんなアホみたいな量じゃ無いにせよ」

「うるせぇよ!」

 レジに万札を叩きつけ、両手に抱えるほどのビニール袋を持って、店を飛び出した。

「おい、釣り銭! おーい!!」

 後ろから呼び止める声を無視して、目的地を目指す。

 

 目的地…………町はずれの高台に登る。

 そこは、はやてのお気に入りの場所だった。車椅子だった時は、坂がキツくて来られなかったのだが……こうして登れるようになってみると、景色は良く、ほどよく静かで、中々に快適だ。

 そこのベンチに座って、本でも読めば最高なのだが……

「………………」

 今日に限って、先客がいた。

 しかも、はやてがよく知る人物だった。

 

「………………石田先生」

 

 ……私服であることから、仕事には行っていないと分かった。

「…………」

 はやてを見て、眼を見開く。が、何も言わず、俯いてしまう。

 

――秀人の失踪の原因は、石田だ。

 

 美香の話から、はやてはそれを知っていた。

「……チッ」

 その横に、ドカッと乱暴に座り、ビニール袋を放る。

 その量に、あっけに取られる石田。

 むしゃむしゃがつがつ……と、手当たり次第に食い散らかしていく。

「……身体に悪いわよ」

 ようやく、口を開いた。しゃがれていて、よく見れば、目元も赤い。

「ふん……もう、患者じゃないから関係無いだろ」

「そんなこと………………うん、そうよね」

 ただ、町を見下ろす。

 

「もう、患者じゃないんだもんね……あなたも、秀人くんも」

 

「…………」

「なのに…………また、間違えちゃった」

 ざくざく、とポテトチップスを噛み砕く。

「…………助けてくれたのに、傷つけて……」

 さながら、懺悔のように、つらつらと話し続ける。

「石田先生はどうしたいの」

 ジュースで一服して、はやてはそれを遮った。

「秀人を傷つけて……それで、先生は今、何をしたいの。どうしたいの」

「…………」

「本当はもう、決まってるんだろ?」

 

――会って、謝りたい。

 

 それが、石田の心情だった。

「…………」

 沈黙は、肯定だ。

「なら、アンタは今……こんなところで、何をしているんだ」

「…………だって、」

 小さな子供のように、スカートをぎゅっと握り締める。

「だって……もう絶対、許してくれない……!」

 ぼろぼろと涙を零して、弱音を吐いた。

 はやては、はぁ……とため息をつく。

「順序が逆だろ」

「……え?」

 きょとん、とする石田に、はやてが言う。

 

「許すも、許さないも…………まずは会って、謝ってから考えることだろ」

 

「……あ」

 今更ながら、それに気づいた。

「……馬鹿ね、私。そんな簡単なことに気付きもしないで、こんな場所で……」

 きっ、と、目つきを鋭くする。

 

「秀人くんを探すわ」

 

 ……決然と、言った。

「街を虱潰しにしてでも探し出して…………まずは、謝らないと!」

「まァ、ちょっと待ちなよ」

立ち上がろうとした石田の手を、はやてが掴む。

「ん」

 ……ビニール袋を一つ、ぶっきらぼうに突き出す。

 中には、ジャンクフードの山。

「これは……?」

 不思議がる石田に、はやては、悪戯っぽい笑みを見せた。

 

 

「…………食べなよ。驚くほど身体に悪いらしいけどな」

 

 

「……!」

 石田は、意を決したように、猛然とジャンクフードにかぶりつく。

 アイスも、菓子も、ホットスナックも、次々に。

 

――がつがつがつ。

 

――むしゃむしゃむしゃ。

 

 ……女医と小学生が、黙ってジャンクフードにがっつくという、奇妙極まりない光景がしばらく続く。

 

「「んぐんぐんぐ…………ぷはァっ!!」」

 

 最後に、二人してジュースを一気飲み。

「…………はやてさん、ありがとう」

「ふん……別に、私は何もしてないよ」

「それでも、ありがとう」

「…………」

 それだけ言い残して……石田は、坂を駆け下りていった。

 

「…………ふん」

 ごみを片付け終えて……はやては、不敵な笑みを作った。

(そうだとも…………答えなんて、とっくに出ている)

 今、自分がすべきことは……!

 

「秀人! 首根っこ捕まえてでも、叩きのめしてでも…………連れ戻してやる!!」

 

――バシュッ!!

 

 飛行魔法を発動し、飛び立つ。

 

「お前は、私のモノだ! 私から、逃げられると思うなよ!!!!」

 

 …………秀人の捜索が、始まった。

 

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