魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第五十五話

 

――カタカタカタカタ……

 

 多数のオペレーターが勤務する、アースラのブリッジ。

 そこに、ひっきりなしにタイピングの音が鳴り響いていた。

「はひー……!」「き、きっつ……」「……眠い」

 三々五々に、愚痴りながらも手を休めない。

 

 全員が全員、失踪した嘱託魔導師……というか、秀人を捜索していた。

 前回も、こんなことがあったが……あちらは、完全に転送ミス。こちらは、100%秀人の意思。

 正直言えば、この捜索は、リンディの……ひいては、彼女に助力を依頼した、吾妻家の面々のわがままに過ぎない。

 特に……秀人の暮らすアパートの大家は、とにかく切羽詰った様子で、海鳴市を駆けずり回っていた。

 なのは、フェイトなどは、学校を無断欠席し続けてまで、秀人の行方を追っている。

 ユーノとアルフは無限書庫。ヴィータはマリエルと共に。

 

 ……彼ら、彼女らの能力は、各々の分野において、既にエキスパートと言って過言ではない。闇の書事件の解決のためにも、ぜひともその能力が欲しい管理局(リンディより、更に上層部)の都合があるのだが……彼らは、秀人の捜索を最優先に行動してしまっている。そのため、早いところ秀人を発見しないことには、彼らの能力をフルに投入できないのだ。なので、管理局上層部は仕方なく、アースラのクルーによる、秀人の捜索を半ば黙認する形となっている。異例といえば、異例の事態だ。

 

「第24管理世界、第35管理外世界、……えっとえっと、第63管理世界……!! ひいぃ、終わらないです……」

 

 その中でも特に…………クロノのお付きとして駆けずり回っているエイミィに代わって、オペレーターを統括する羽目になってしまったフィアット陸曹。彼女は、忙しかった。

 あちこちに派遣された捜索隊からの報告をまとめ、整理し、更新し……それを、いくつも同時にこなさなければならないのだ。

 寝落ちも許されず、ただひたすら膨大なデータを整理し続ける。その頭が、こっくり、こっくりと船を漕ぎ始め……

 

『フィアット!』

 

「はあああああい!!?」

 通信が入ると同時、ばね仕掛けの人形のように跳ね上がった。

「ねねね、寝てません、寝てませんよ!? フィアット、起きてまーす!!」

 誰も聞いてない。

『こっち、第43管理世界! データ送るね!』

 

――ばごーん。

 

「はいっ! どうぞ!」

 あたふたとしながらも……タイプミス一つしないのは、凄いのか凄くないのか。

「……どうやら、そこもハズレのようですね」

『くっ……! まったくもう、どこ行ったの秀人さんってば……』

 

――ぼごーん。

 

 ぶつぶつ愚痴るなのはの後ろで、どうにも不吉な音が気になる。

「あ、あの……なのはさん……? さっきから、何の音ですか……?」

『え? ああ、さっきから、現地の歩くカエルみたいな謎生物に襲われてて……! ああもう、うっとうしい!!』

 

――ちゅどーん。

 

 フィアットは、青ざめながら言う。

「だだ、駄目ですよ! 現地の生態系に、みだりに踏み込んだら! ただちに、退却してください!!」

『わかったわかった……とりあえず、襲ってくるのだけ、殲めつ……じゃなくて、撃退したらね!』

「いま、言い換えましたよね!? とても物騒な単語を、言い換えましたよね!?」

『気のせい気のせい! じゃーね!』

 

「なのはさああああああああああん!!」

 

 ぶつんっ、と一方的に断ち切られる通信。

 頭を抱えるフィアットの手元に、新たに何通ものメールが届く。

 恐る恐る開封すると……

 

『時空管理局・環境管理部』

 

 いわゆる一つの抗議文。警告通知。

「………………あぁっ……!」

 ……フィアットは、コンソールに突っ伏した。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 俺が、この凶鳥部隊に来てから、そろそろ一週間が経とうとしていた。

 アーデに寝起きを襲われたり、双子から銃器で追い掛け回されたりすることにも、結構慣れてきた。

 …………どんな環境であろうとも、人間は慣れることができるらしい。

「……よし、だいぶ綺麗になってきたな」

 掃除機のスイッチを切り、倉庫の中に置く。

 ここ最近、ずっと掃除ばっかりだった。何せ、隅から隅まで汚れているんだ。

 壊れた家具やらドアの破片を纏めて焼却し、謎の赤い汚れを洗剤でゴシゴシこすり落とし、生ゴミを堆肥ボックスに捨て、水周りのカビやぬめりを洗い流し、あちこちに落ちた吸殻やホコリを掃き…………

「……長かった」

 ……ようやく、人が過不足無く生活できる程度の清潔さを取り戻すにいたった。

 さて、戻るか……と、踵を返した時。

「……どうした?」

部屋の入り口に背を預け、じーっと俺を見ているカレンと、目が合った。

「んー? 読書してただけだよー?」

 ぱたぱた、と、ハードカバーの表紙を扇ぐ。

「わざわざ、立ったまま、こんな場所で?」

「うん!」

 

「……二日前に読み終わった本を?」

「うん!」

 

 ……初日以来、何故かカレンは、俺と一定の距離を保ちながら、何をするでもなく、視界の隅っこや背後で、俺のことを観察していた。

「…………」

とりあえず昼飯にして……その後、各々の部屋でも掃除してやるかな。

「…………」とことこ。

 また、俺の背後を足音がつけてくる。

 

 厨房には、何故か手付かずの食材と……カレールウが放置されていた。

 米、生肉、調味料など……要は、調理しなければ食べられない類のものばかり。オウル達がいかにテキトー極まりない食生活を送ってきたのか、よくわかる。

「あ、ヒデくんヒデくん。お鍋がぼこぼこいってるー」

 お、沸騰したか。

「んじゃ、さっき渡したやつを入れて、火を弱めてくれ」

「おっけー!」

 

――どぼんっ、どぼんっ。

 

 カレンは、手渡したカレールウを、沸騰した鍋に投入する。

 少しして、カレールウが溶けてくると、あたりにカレーのいい匂いが充満した。

「ヒデくんヒデくん、なんかいい匂いだよー」

 換気扇は……いいや。匂いを漂わせておけば……

 

「あらあらあら…………食べ物の匂いがするわぁ……」

「あはははは! おなかすいたね、クライア!」「うえええん! おなかすいたよ、ラーファ!」

 アーデと双子が、匂いに釣られてやってきた。

「オウル姉さん、まだ訓練場かな……」

 カレンは、壁に据え付けられていたパネルを操作し……

 

『オウル姉さーん、集合だよー!!』

 

 館内放送で、オウルを呼び出した。

 本来ならば、決して許されない設備の無断使用だが…………この隊舎には、俺を含めて僅か6人しかいないため、誰も見咎める者はいない。

 

 また少しして、オウルがやってきた。いつもの野武士のような姿で、僅かに汗をかいているようだ。

「おう、急に呼び出して何かと思えば、メシじゃないか」

「わたしとヒデくんが作ったんだよ」

 ……カレン。お前がやったのは、ルウを投げ込むことだけだったろう。

「オウル、ちょっといいか」

 皿に盛ったカレーライスを手渡す。

「何だ、秀人?」

「廊下で匂い嗅がなかったのか? 結構、強烈だと思うんだけど……」

「…………」

 オウルは、少し黙り込むような気配を見せた。

 カレーライスに目を落とし……

 

「ウチ、嗅覚と味覚が無いから」

 

 ……と、言った。

「……え?」

 聞き返して……ミスに気がついた。まずった。ここに、過去を聞かれて困らないやつなんていないのに……

「ああ、気に病む必要は無いぞ。ウチにとっては、それが普通なんだから」

 そして、むしゃむしゃとカレーを食べ始めてしまった。

 味覚も嗅覚も無い……それじゃあ、食生活にこだわりなんて、生まれるはずが無い。

 

 微妙な気分のまま、カレーを食べる。

「あはははは! お兄ちゃんおかわりー!」

「うええええん! 先を越されたあぁ!!」

 口の周りを茶色く汚した双子が、空っぽになった皿を突き出してきた。

 この双子は、12歳と少し……らしい。こうして見てる分には、まんま子供だな……

 

「うふふふふ…………」

 アーデは、不気味な笑顔のままで、手をつけようともしない。

「どうした、気に入らなかったか?」

「うふふふふ…………違うわぁ……」

 じゃあ、何で……

「あのね……さっき、ラーファとクライアと、遊んでいたの」

 ……微妙に面倒見がいいんだよなぁ。

「そうしたら、いきなり……『射的ごっこ』とか言い出して……ゴム弾で、至近距離から私の両肘を撃ちぬいたの……うふふ、まだ手が上がらないわぁ……しくしくしく」

 はらはらと涙を流した。

「うおおおおおい! 先に言えよ!」

 両肘を掴み、治癒魔法を行使する。

「ラーファ! クライア! お前らはお代わりナシだ!」

「「ええええええええええっ!!?」」

 がーん、とショックを受けていた。

「「何で何で何でえええええええええええ!!?」」

 ぐいぐいと詰め寄ってくる。

「人に銃ぶっ放すなって言っただろ!! 約束破ったおまえらが悪い!」

「「やだああああああああああああ!! おかわり! おーかーわーりー!!」」

 びーびー泣いて、皿をスプーンでカンカン叩いて抗議する、12歳前後の少女たち。ちょっと異常にも思える光景だった。

 駄々をこねる双子をあしらっている、その時だった。

 

――……ビイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!

 

 突然、聞いたことの無い警報が鳴り響いた。

「!!」

 その瞬間……オウルが、カレンが、アーデが、ラーファが、クライアが…………変わった。

 跳ね起き……壁に据え付けられていたコンソールをざっと眺め、散り散りに走っていってしまう。

「あ……え……?」

 この間、1分も経過していない。

 あまりにも唐突な場面転換に、俺は、間抜け面をさらして突っ立っていることしかできなかった。

 ……とにかく、再び足音が集合しつつある一角へ走っていった。

 

「……」

 遅れてきた俺を、オウルはちらっと一瞥し……転送装置の操作盤を、なれた手つきで打鍵し始めた。

「ヒデくん、ヒデくん」

 くいくい袖を引かれる。

「カレン、何だよ一体……」

「何って……『お仕事』だよ?」

 カレンは、いつもの軽装ではなかった。

 上から下まで暗色の戦闘服。軍靴。ミリタリーグローブ。皮ベルト。

 機能性を最優先とし、一切の無駄が省かれたその装束は、ある種の格好良さを感じさせてくれた。

小脇に、百科事典ほどもある本……多分、魔導書。それに、紙刀ではない、ずしりとした重量感を感じさせる実体剣をベルトに佩いている。

 これが……カレンの戦闘モードか。

「お仕事……」

 ……そうだ、忘れるところだった。

 俺は元々、この部隊と共に、闇の書の追跡をするという依頼を受けて、ここに来たんだった。

 こんな大事なこと、何で忘れていたんだか…………

「……」

 ポケットからは、軽い感触。支給された煙草の紙箱だ。……もしかして、この物忘れは煙草のせいか……? だとしたら、吸うものじゃないなぁ……

 

「うふふ……あまり、小難しいことは考えなくてもいいのよ」

 アーデが、するりと近づいてきた。こいつも、大まかなデザインはほぼ同じの、暗色の戦闘服に身を包んでいた。

 アーデの場合は、ベルトに通すような形で、長方形のケースを携行している。中身など、想像するだけで恐ろしい。

 

「あはははは! そうそう、そうだよお兄ちゃん! ラーファたちは、難しいことなんて考えないで…………殺れって言われた相手を、ヤっちまえばいいんだから!」

「うえええん! お兄ちゃん、クライアの獲物は、横取りしちゃ嫌ぁ、だからね?」

 くるくると俺を周る双子が言う。

 彼女たちは、腰だけではなく……両肩にたすき掛けにしたベルトにまで、多数のホルスターとをくくりつけ…………大量の火器を手に、武装していた。

 

「よーし、準備はいいな」

 

 ただ一人だけ……オウルのみが、いつもどおりの野武士のような姿だった。

 彼女は、本当にいつもどおりだ。カレンのような剣も、アーデのような拷問器具も、双子のような火器も無い。

「……」

 だが、なんというか……すごく、『自然』な立ち姿だった。

 これからの戦闘に気負うでも、興奮するでもなく…………まるで、散歩にでも行こうとしているかのような、自然さ。

 

――ブウウウン……!

 

 転送ポートが開き……ついに、戦闘が始まろうとしていた。

 オウルを先頭として……アーデ、ラーファ、クライアが、次々に飛び込んでいき……残るは、俺とカレンのみ。

 

――きゅっ

 

 ……武者震いする俺の手を、意外なほどに柔らかい手が包み込む。

「それじゃ、いこっか!」

「………おう、行くぞ!」

 俺たちは、手を繋いだまま、転送ポートに飛び込んだ!

 

 

…………凶鳥部隊での闘いが、ついに始まった。

 

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