魔法少女リリカルなのはties 作:ハルハルharuharu
突如として現れた少年は、私達の勝負を邪魔し、冷たい声で告げる。
「武装を解除しろ」
「……何、あなた」
怒りを抑え、聞く。
「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ」
……はい?
ジクウ……何だって?
「管理局……!?」
フェイトは知っているらしい。斧を引っ込め、明らかに逃げようとしている。
「あ、待って!」
まだ勝負の途中なのに!
『Snipe』
少年のデバイスが、女性の声で発声する。狙撃、と。
――バシュッ!
発射された魔力弾は、逃げようとしたフェイトの足元に正確に着弾した。
「きゃっ!」
バランスを崩し、地面を滑るフェイト。そして、更に……
『Snipe』
デバイスの先端に、青白い魔力スフィアが発生する。向ける先は、地面に倒れ、まだ体勢を立て直せないフェイト。
まさか……!
「やめろおぉぉ!」
――ドパァン!
衝撃波が、少年の魔力スフィアを掻き消した。
「くっ……もう一人いたな」
秀人さんナイス!
「離せ!」
『Impact !』
――ドゴンッ!
衝撃波を放つ寸前、少年はあっさりとレイジングハートから手を離し、回避した。
『Bind』
縛り上げようとしたけど、あっさり回避される。
『Stinger Snipe』
射撃魔法、今度は複数!
『Protection』
――ギギギギギン!
私達と、フェイトを襲う攻撃を防ぐ。
「逃げて!」
誘導弾で少年を牽制しつつ、目を覚ましたアルフに声を張り上げる。
「すまない……!」
フラフラしながらも、しっかりとフェイトを抱え、結界から出ていくのを確認した。
「ユーノくん! 結界解除して!」
「何ッ!?」
私の言葉にぎょっとする。
勘だけど……コイツも、魔法をおおっぴらに使うことは出来ない筈だ。
「わかった!」
――ブゥンッ……
私も飛行魔法を解除。バリアジャケットも解除し、地面に降り立つ。
「なのは、誰だこいつ」
同じように着地した秀人さんが、隣に立つ。
強化魔法は、まだ解除していない。
「ジクウカンリキョクだって」
「何だそりゃ」
「さぁ……?」
少年は、デバイスを待機状態に戻したとはいえ、未だにバリアジャケットを展開している。
「悪いが、君達の身柄を拘束する」
発色を抑え、普通の縄のように偽装したバインドが、私達を縛った。
「ざっけんな!」
――ブチンッ!
秀人さんが、力ずくでバインドを引き千切る。
「あまり、舐めないでよね」
私は、バインドの魔力を分解し、消滅させる。
僅かに驚いたように目を開き、再びバインドを……
『やめなさい、クロノ』
それを、彼のデバイスと同じ声が押し止めた。
これは……念話か。
『そちらの三人を、丁重にお迎えなさい』
「艦長、ですが!」
『これは命令です。クロノ執務官』
その念話の主は、私達に向けて言う。
『我々は、時空管理局の者です。どうか、事情を説明させて貰えないでしょうか?』
くいくいっ、と服の端を引く。
「……秀人さん、どうしよう?」
なんだか、胡散臭い。
「……」
秀人さんは、警戒を解かない。なら、私も同意見だ。
「二人とも、行こう」
「ユーノ?」
「管理局には話を通しておいた方がいい」
まさかとは思うけど。
「お前、こいつらのこと知ってるのか?」
秀人さんの問いに、ユーノくんは首を縦に振った。
◆ ◆ ◆ ◆
かつん、かつん、と、俺達の足音が響く。
と、クロノが立ち止まり、俺達を……正確には、なのはの肩に乗るユーノを振り返った。
「ここでなら、『変身魔法』を解除して大丈夫な筈だ」
ユーノは、今気付いたように答える。
「あぁ、確かに。これだけ魔力素があれば」
……何の話をしてるんだ?
「?」
なのはも、首を傾げている。
「よししょっと」
ユーノの身体が光に包まれ、その光は大きくなり……
「ふぅ、やっと戻れた」
薄黄色のショートカットの、なのはと同い年くらいの子供になった。
「え、ええぇぇ~!?」
なのはも大いに驚いている。
「お、お前……!?」
何となく、予想はしてた。アルフだってそうだったんだ。
「黙っててごめん。実は……」
でも、まさか、まさか!
「お前、女だったのか!」
まさか女だったなんて!
「……え?」
「えっと、ユーノ……ちゃん?」
なのはも、頭が追いついていないようだ。
「女の子なのに、『くん』付けで呼ばれて嫌だったよね。ごめんね。これからは、ちゃんと『ユーノちゃん』って呼ぶからね?」
そうか。俺も、態度を改めないとな。相手は女の子なんだから。
「ん?どうしたユーノ? ぷるぷる震えて。寒いのか?」
「駄目だよ、ユーノちゃん。女の子はお腹を冷やしちゃいけないって、先生も言ってたよ」
ユーノは、がばっと顔を上げ、叫んだ。
「ボクは、男だあああ!」
怒り狂うユーノをなんとか宥めすかし、クロノに呆れられながら、ある一室の前に来た。
文字は読めないが、多分、責任者が待っているに違いない。
「艦長、クロノです」
『入って』
ばしゅっ、とエアロックが外れ、扉がスライドする。
そして室内は……エセ和風インテリアで、飾り立てられていた。峠の茶屋にあるような、大きな和傘。ゴザを敷いて正座し、湯呑みで緑茶を飲んでいる。SFチックな白い内壁に、これっぽっちもマッチしていない。
「いらっしゃい」
俺達に、にっこりと笑顔を向けてくる、『艦長』と呼ばれる女性。
二十代後半程度に見える、えらい美人だった。
――どすっ
うおっ、びっくりした。
俺の脇腹に、なのはが軽く肘打ちを入れてきた。
「ど、どうした?」
なんだか、妙に機嫌が悪い。
「……何でもない」
「……そうか」
突っ込まないでおこう。
「……ふん」
痛いくらいに俺の手を握り締め、そっぽを向いてしまう。
ゴザに座り、艦長……リンディさんと、クロノと向かい合う。
……ところで、あのシュガーポッドにしか見えない物体は何だろう。まさか、な。ははは。
「さ、お茶が入りましたよ」
差し出される湯呑み。
「……どうも」
匂いを嗅ぎ、一口。
……ごく普通のお茶だった。
「お砂糖は?」
………………は?
と、例の物体を開ける。中身は、白い顆粒。まごうことなき、砂糖だった。
リンディさんは、匙で砂糖を取ると……ばさっ。
入れた。緑茶に。砂糖を。
「…………」
なのはが、怯えるように手を握る力を強めた。
――ばさっ。
もう一杯。
――ばさっ。
更に一杯。
そして、砂糖入り緑茶という、日本人としてはおおよそ認め難いシロモノを、美味しそうに飲みはじめた。
(……オェッ)
見ているだけで、口の中が甘ったるくなる。
「それで、話って何ですか?」
切り出す。
「まず、そちらの……ユーノさんが、発掘したジュエルシード」
ぴくん、とユーノが身じろぎする。
「輸送船のエンジントラブルによって、この地球、日本に散逸してしまいました」
エンジントラブル? じゃあ、ユーノの過失じゃなかったのか。
「三週間前、時空管理局にジュエルシードの探索許可願いが提出され、受理されています」
三週間前……丁度、なのはと一緒にユーノを拾った日に近い。
「その責任感は、立派です。ですが……民間人を巻き込むのは、感心できません」
段々……雲行きが怪しくなってきた。
そして、予想通り、リンディさんの視線は、ユーノから、俺達へと移された。
「これは、我々の領分です。民間人の貴方がたは、今後関わることを禁じます」
「やなこった」
即答。当たり前だ。ここまで関わっておいて、今更放り出せるかっての。
「……忠告を聞く気は無い。そういうことか」
クロノが重々しく口を開く。
「あのな、それは『忠告』じゃなくて『命令』って言うんだよ」
何となく、分かった。
『時空管理局』。こいつらは、上から目線で物を言っている。
「僕達管理局の手を借りずとも、ジュエルシードを全て封印することができると?」
「俺達が倒した暴走体は八体。『同業者』も、それなりに収集している」
俺達の手元に六個。同業者……フェイトの手元には、最低でも二個。
「残りは多くても十三個。今までどおり、俺達だけで十分だ」
ぽっと出の胡散臭い連中なんぞに任せられるか。
「キミは、随分と自分の力に自信があるようだな」
「少なくとも、お前よりは強い」
にらみ合う。
「あの、一つ、よろしいでしょうか?」
なのはが、不自然なくらい平静な口調で挙手した
「何でしょうか?」
リンディさんが、促す。そして、
「あなたがたに、今更、何が出来るというのですか?」
「……そもそも、三週間も遅れてやってきて、大事な勝負に横槍を入れて、犯罪者扱いした挙げ句、『手を引け』? 本当に……何様のつもりですか?」
なのはの怒りも最もだ。ようやくフェイトとある程度の話し合いが出来て、伯仲した実力での勝負が出来ると思った矢先、どうでもいい邪魔が入ってしまった。
だが、クロノはそれが堪えた様子は無い。
「キミ達は、何か勘違いしてないか? キミ達がやったことは、立派な公務執行妨害だ。犯罪者『扱い』じゃなく、本当に犯罪者として拘束されても……」
……いい加減、俺もキレた。
――ダンッ!
正座の姿勢から一気に立ち上がり、クロノの喉元に手刀を添える。魔力を鋭く固定し、刃にしてある。フェイトの真似事を即興でやってみたが、上手くいった。
「……あんまり調子に乗るなよ」
「……キミもな」
ごりっ、と脇腹に硬い感触。クロノのデバイスが、押し付けられていた。
だが俺は、内心でほくそ笑む。クロノは、俺の体質のことを知らない。『相打ち』に持ち込めるなら、俺が圧倒的に有利だ。
「二人とも、そこまでにしないさい」
リンディさんがぴしゃりと言う。
「……了解」
クロノが渋々とデバイスを待機状態に戻す。俺も、魔力を霧散させた。なのはの隣に座り、すっかり温くなったお茶を一気飲みする。
「ジュエルシードの所有権は、我々にあります。ですが、我々だけでは全てのジュエルシードに対応し切れません。ですから……我々に、力を貸していただけませんか?」
一拍置いて、リンディさんは頭を下げた。
「この事件……仮に、『ジュエルシード事件』とでもしましょうか。この件が解決するまでは、あなた方が所持していて下さって構いません」
なるほど。所有権は自分達にあるのだから、それを預けている間の……いわば、レンタル料ってことか。
「条件は、二つ」
だからといって、何でもかんでも言うことを聞くわけにはいかない。
「一つ目」
人差し指を立てる。
「ジュエルシードの封印は、全て俺達が行い、俺達が所持すること」
戦力の増員も、サポートも必要ない。全て、俺達で間に合っている。
「二つ目」
中指を立てる。むしろ、こちらがメインだ。
「なのはと、『彼女』との戦闘には、一切手を出さないこと」
クロノを睨むが、相変わらずしかめっ面。
「この二つ……特に、二つ目を徹底してくれるなら、協力してやってもいい」
「約束しましょう」
「んなっ……!」
リンディさんは、あっさりと承諾した。クロノの奴は、ちょっと愕然としている。
まぁ、もしも約束を破って邪魔をしてきたら……ぶちのめしてやればいい。
俺はそんなクロノを尻目に、その場所……アースラとかいう宇宙戦艦を後にした。
◆ ◆ ◆ ◆
「艦長、何故あんな条件を呑んだのですか!」
クロノは、噛み付かんばかりにリンディに詰め寄る。
「あんな条件、こちらには何の得もありません」
ことん、と湯呑みを置き、リンディが言う。
「ここは、管理外世界よ」
その言葉に、クロノの言葉は勢いを失う。
「……ですが」
魔法という技術が知られていないこの世界で、自分達はおおっぴらに動けない。
ならば、現地の常識を知る者に協力を頼むのが最善のやり方。
しかも今回、その協力者は、飛び抜けて強力な魔法の力を持っている。
AAAクラスの砲撃を連発し、堅牢な防御を誇る砲戦魔導師。
単独の白兵戦で暴走体を圧倒する、近接戦魔導師。
そして、魔力量こそ平凡なものの、卓越した技量を持つ結界魔導師。
多少、不利な条件を呑んででも、味方に抱き込んでおいて損は無い。
そして、何より。
「彼女達は、既に八体もの暴走体を撃破しています。対ジュエルシード戦において、彼女達以上の経験を持つ者はいません」
ロストロギアを相手にする事件は稀だ。そのため、アースラ所属の武装局員は、明らかに経験値不足。その点、彼女達は短期間に複数のロストロギアを相手にし、確実に封印してきている。
「私達アースラは、全力で彼女達のサポートに回ります」
「……了解」
クロノは、苦虫を噛み潰したような顔で頷いた。