魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第五十八話

 

 その頃、海鳴市の別の場所では。

「なぁ、別にいいだろぉ?」「お金持ちのオジョウサマなんだからさぁ……」

 金髪に茶髪の、明らかに柄の悪い若者が、たちの悪い小遣い稼ぎに勤しんでいた。

「このっ……近寄るんじゃないわよ!」

 絡まれているのは、私立聖祥大学付属小学校の制服を着た、金髪と、黒髪の少女…………アリサと、すずかだった。

 珍しく、執事やメイドの送迎を付けずに町へ繰り出していたようだが……運悪く、捕まってしまったらしい。

 近隣でも有名な、私立学園。その制服もまた、有名デザイナーに依頼した品ということで評判が高く……目立つ。

「おー、怖ぇ怖ぇ……」

 へらへらと、圧倒的強者の余裕でにやける金髪。

 いくらアリサが気の強い少女とはいえ…………腕力の差だけは、如何ともし難い。

 その背に、必死にすずかを庇い、腕を広げる。

「なーんもしねぇって。慰謝料だよ慰謝料……ヒヒッ」

 つまり、金を払えばいい、と言いたいらしい。

「ちょっとぶつかったくらいで、お金なんて払う道理はない!」

 毅然と言い返すアリサだったが、言って通じるような輩ではない。

「コータ、ドウリってなんだっけー?」

「おれ、バカだからわっかんねー」

 げらげら……と、小ばかにする。

 周囲の通行人たちは、目をそらしてそそくさと去っていく。当然といえば当然だ。彼らも、面倒ごとに関わることは、避けたいことなのだ。

「オラ、いいからカネ出せっつってんだよ」

 痺れを切らした金髪が、アリサの肩を掴もうとする。

「あ、アリサちゃんに……さわらないでっ!!」

 その手を、庇われていたすずかが、ぱしんと払いのけた。

「てめ……!」

 最初はきょとんとしていた金髪だったが、即座に怒りに染まる。

「あーあ、ケンジくんキレさせちゃった……しーらね。ぎゃはははは」

 茶髪……コータは、愉快そうにそれを見ていた。

 

――ビイイイイイイイン…………

 

 遠くから、間延びしたバネがたわむような音が聞こえているのだが……誰も気づかない。

「ガキがチョーシくれてんじゃねえよッ!!」

「……う!!」

 金髪……ケンジが手を振り上げ、アリサが反射的に目を瞑る。

 

――パウウウウウウウウウッ……!!

 

 先ほどの音が、やや甲高く変化し…………接近。

「アリサちゃんっ!!」

 すずかが、アリサを強く引き寄せたのと同時。

 

――めきょっ。

 

 …………ケンジが、横合いから突っ込んできたスクーターに撥ねられた。

 地面をバウンドし……ゴミ捨て場に頭から突っ込んで、動かなくなった。

「……ハッ!? ケンジくうううううううううんっ!!!」

 ……多少の友情はあったのか、慌ててゴミ捨て場に走るコータ。

「こ、コータ……なんか、身体の右側が痛ぇんだけど……?」

「ぎゃー! ケンジくんの右半身が!!」

 アリサとすずかは、唐突な状況の変化に戸惑い、動けずにいた。

 

「ふぅ……なかなか、バイクってのも楽しいわね」

 

 トトトトト……と、牧歌的なアイドリング音を鳴らすスクーターから降りてきた人物。小ぶりであるはずのスクーターが、サイズ比で大きく見えるほど小柄な身体……というか、どう見ても小学校低学年。アリサや、すずかと大差ない身長。適当に伸ばされたセミロングヘア。ヘルメットの類は、被っていない。

 

「…………はやてちゃん?」

 

 すずかが、その名を呼んだ。

「ん? …………おお、誰かと思ったらお前らか」

 別に、アリサだから助けた……というわけでは、なかったらしい。

「あの……助けてくれて、ありがとう……なんだけど……」

 ちらちらとスクーターに目を配りながら、礼を言う。

「……何それ」

 アリサが、言葉を継ぐ。

「え? 原チャリだけど」

「いやそれはわかるけど! あたしが聞きたいのは、『どこで』『どうやって』手に入れたのか、よ!」

 回答は、シンプルだった。

 

「奪い取った」

 

「「…………はやて (ちゃん)」」

「…………」

 そっぽを向いて口笛を吹く。

「ちょ……てめぇ、ケンジくんに何してんだよコラ!」

「ああ、ちょっとばかし聞きたいことがあってね」

「はァ!? っつーか、ガキが原チャ転がしてんじゃ……………………おい、これどこからギッた?」

 ……と、はやてが乗り回していたスクーターを指差し、愕然とした。

「あ? ……セコい小遣い稼ぎしてやがった、サル顔のバカからよ」

「サル顔って……まさか、トシさん!? じゃあこれ、トシさんのゼッペケ!?」

 サル顔で通じるらしい。

「ぶへぇっ!!」

 コータの顔面に、痛烈な掌打を叩き込み……ケンジが待つゴミ捨て場にシュート。

「ケ、ケンジくん……なんか、鼻が痺れるんだけど……?」

「ひィっ! コータ! コータの鼻が曲がってる!?」

「やべーよこいつ、マジでいかれてやがる!」

「トシさんが負けるなんて……あの、自称『海鳴の山大将』、トシさん(サル顔)が……!」

「サツだって手を焼いた、自称『如意棒無双』、トシさん(サル顔)が……!」

 

――バコッ!!

 

 何の溜めも無く振り下ろされた拳が……二人の背後、ゴミ捨て場のブロック塀を突き崩した。

「「…………!!」」

 悲鳴すら上げず、抱き合う二人。

 

「……おう、お前ら」

 

「「はいっ!」」

 パブロフの犬よろしく、正座で返事をする。プライドがどうとか、そういった次元の問題ではなく……いかにはやての機嫌を損ねず、自身らの安全を保障するか……という、負け犬の思考に陥っていた。

はやてが一枚の写真を見せる。

「こいつ、このへんで見なかった?」

写真とは、もちろん秀人のことである。はやては、異世界を渡り歩くなのは達とは別行動を取り……海鳴市を虱潰しに探していた。

 秀人は恐らく、すでにこの第97管理外世界にはいない。それでも、もしかしたら……何かの拍子に、海鳴市の土を踏むかもしれない。

 網を張って、待ち構えて……その痕跡の一部でも見つけることができれば、持ち前の蛇のごとき執念深さで、尻尾を捕まえられる……と、考えていた。

「いや、しらねぇ…………あっ、知らないッス!! マジ知らないッス!!」

 ついタメ口を利きそうになったケンジが、はやての眼光に射すくめられて、敬語モドキに切り替えた。

「チッ、またハズレか…………おい、」

 コータに、手を差し出す。

「出せ」

「か、カネっすか……? いま、手持ち200円なんスけど……」「1000円しか……」

 ぴきっ……と、血管が浮き出る。

「ちげぇよこのアホンダラ!! ンなはした金いらねぇ! ケータイ出せっつってんだよ!!」

 いや、言われてないッス……と、ケンジとコータは内心で思ったが、当然口には出さない。

 完全に立場が逆転した構図で、携帯電話をはやてに差し出す。

「私の番号登録して、オーナー情報と、電話帳を、私に赤外線で送信、っと…………」

 個人情報を引き出し、用済みになった携帯電話を放り返す。

「よし……お前ら、この写真くれてやる」

 ぴっ、と放られた写真を、地面に落とさないようキャッチする二人。

「その写真の男みかけたら、ソッコーで私のケータイ鳴らせ。ダチ連中にも写メで送れ」

 ……恐らく、はやてはこうして、兵隊を揃えているのだろう。

「それとお前ら……」

「はい」「うっす」

 一体、どんな無茶振りされるやら……戦々恐々と待つ二人に言い渡された命令とは。

 

「バイトしろ」

 

 あまりに真面目な表情で、そんなことを言われてしまったものだから……思いっきり、呆けてしまった。

「「…………はい?」」

「町でプラプラしてたんじゃ、人の顔なんざじっくり見ねぇだろ。…………ケンジ、お前はコンビニ。コータはスーパーだ」

「「はいぃ!?」」

「何も、一日中バイトやってろとも、バイト代よこせなんて言わねぇよ…………そうだな、昼間は学校で、噂話でもなんでもいい。その写真を見せて回って、情報を集めろ。下校時刻まで、ミッチリな。あってもなくても、毎日私にメールで知らせろ。学校が終わったら、バイトだ。 一日でもサボりやがったら…………!」

 

――ぺきぺきぺきっ……

 

 コンクリートブロックの、こぶし大の欠片を、握力で握り潰して粉にする。当然、強化魔法を使ってのことだが、二人は知る由もない。

「ガッコ…………二週間は行ってねぇんだけど……」「オレも……バイトなんて、ロクに続いた試しが……」

 尚もグズグズ言っている二人を、はやては。

「とっとと髪染め直して履歴書書いて出して来いッ!!」

 げしっ……と、文字通り蹴り出した。

 

「あーもう、手下増やすのもラクじゃないわね……」

「待って、はやてちゃん」

 愚痴りながら、またスクーターに跨ろうとしたはやてを、すずかが引き止める。

「助けてくれて、ありがとう」「……ありがと」

 まずは、アリサと共に感謝を伝える。

 

「今の話、どういうこと? 最近、なのはちゃんと連絡が取れないのと、何か関係あるの?」

「……チッ。私は、高町の伝言板じゃねえっつーの」

 しかしながら、町の不良とは、また別の情報源になる……そう思い、事情を話すことにした。当然、魔法関連の話は抜きにして。

「なのはのやつ……! どーしてあたしに相談しないのよ!!」

 なのはの親友を自認するアリサは、いたく立腹した様子だ。

「ふん……多分、頼ることに引け目でも感じてるんでしょ」

 友人として……そして何より、魔法と関わりの無い、民間人として。

「なのは……! 今度会ったら、アタシんちに拉致ってメイド服着せてやる!」「燕尾服は?」「そっちも! …………じゃなくて!」

 ノリツッコミをして……

「と・に・か・く! 家出した秀人を探せばいいわけね?」

「……まぁ、見つかれば、だけど」

「ウチの執事、なめんじゃないわよ! ケータイ貸しなさい!」

「……ほれ」

 素っ気無い黒塗りの携帯電話を渡す。アリサは、データフォルダの中から、秀人の写真を自身の携帯に、番号ごと送る。

「確か、秀人さんのバイクはカワサキだよね」「……確か、そこの400に、600のエンジン」

「ウチと繋がりのあるバイク屋さんには、話を通しておくよ。不自然な発注とかあったら、すぐわかるから」

「…………ま、頼むわ」

「それと」

 素早くスクーターのイグニッションを切り、鍵を抜く。

「あっ! てめ、何しやがる!」

 ずいっ、と顔を近づけ……

 

「無免許運転は、だめ」

 

 と、説いた。

「ノーヘルはもっとだめ。……そして何より」

 ずずいっ、と、更に近付き……

 

「どんな人からでも、モノを盗ったらいけません」

 

 …………と、同時。

 すうっ、と、殆ど音も無く、高級車が路肩に停車した。

「お嬢様、ご無事ですかっ!?」

 いつもは冷静なノエルが、血相を変えて飛び出してきた。

「うん、アリサちゃんと、はやてちゃんが助けてくれたから………………ファリンは、いる?」

「はいっ! ここにおりますですっ!!」

 後部座席から、ファリンがぴょんっと飛び降りる。

「このスクーター、持ち主に返してきて」

「はいですっ!」

 ファリンは、スクーターのメットインを開け、中から半キャップ型のヘルメットを取り出し、被る。

「お、おい待て! 私のバイクだぞ!」

「はやてちゃん。あんまりわがまま言うようだったら…………リーゼさんに言いつけるからね」

「……! ひ、卑怯だぞてめぇ!!」

 ただでさえリーゼは、はやての軽犯罪には滅法厳しいのだ。

そのため、通学路にスクーターを隠しているというのに……バレたら、きっとクドいお説教が待っているに違いない。

 

「とぉうっ!」

 ファリンが、気合と共にキックペダルを踏み下ろす。

 

――カヒュンッ…………トッ、トトトトト…………!

 

「それじゃ、おっさきでーっす!!」

 そのまま、びいいいいいん、と走っていった。

「それじゃ、行こうか?」

 ……用は済んだはずなのだが、すずかははやてを離さない。

「……どこに?」

「お礼を兼ねて…………私の、おうち♪」

「………………帰る」

 げんなりして、方向転換するが……

 

「まあまあ」

すずかが足払いをかけ、ノエルの方に押し。

「まあまあ」

ノエルがキャッチし、車内に押し込み。

「まあまあ」

車内で待機していたアリサが、がっちりとホールドした。

 その、あまりにも見事な連携プレーに、はやてはあっさり拉致された。。

 

 

「何でこうなるんだよォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

 ……はやての叫びを乗せて、車は発進した。

 

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