魔法少女リリカルなのはties 作:ハルハルharuharu
凶鳥部隊の連中とつるみ始めて、二週間が過ぎた。
目新しさが無くなってきた所為なのか、アーデや双子の襲撃はだいぶ減って、まぁ平穏な生活を送っていた。
「……ふぅ~」
テラスに出て、煙草を吸う。いがらっぽい匂いも、気管に篭もる熱気も、頭が一瞬ぼやけるような感覚も、未だに好きにはなれないが……何故か、気づいたら手が伸びてしまう。立派な中毒だよなぁ、と一人ぼやき、根元まで吸った吸殻を、灰皿代わりの小瓶に捨てる。
――ばたばたばたばた……
……背後の隊舎では、いつものことながら、誰かが暴れている。この足音は……双子か。
「んじゃ、戻るかなー……」
「おっけー」
………………もう、呼んでもいないのに返事があるのも慣れてきた。
「カレン……そこで何してた」
「ん? 読書だよ」
ひらひら、とハードカバーの本をちらつかせる。
「ほら、さっきとは違う本で、ちゃんとページも進んでるでしょ? だから、読書してたことは間違いないよね?」
「誰もそこまで聞いてねぇっつーの」
…………やっぱりこいつ、俺のこと監視してるんじゃね?
そんな疑念もあるが、そこはまぁ……こいつも変人なんだ、という程度の認識にとどめておく。
「ヒデくん、煙草にはもう慣れた?」
は? 煙草?
「慣れてはいないけど…………なんか、頭ぼやーっとするし」
「そっかー…………慣れたら、いろいろ吹っ切れると思うよ」
「あんま慣れたくないなぁ……おれの国じゃ、未成年の喫煙は違法だったし」
俺のいた…………ええと、会社? は、確か…………あれ?
「ええっと…………先輩……いや、上司、が、厳しくて」
何だっけ……?
「うんうん、それで?」
ずいっと顔を近づけて、カレンが聞いてくる。
「悪い、ちょっと待って…………」
ごんっ、と頭を殴る。ったく、煙草の吸いすぎか?
「……ああ、そうだ、思い出した。俺の上司って厳しくてさ、酒も煙草も許してくれなかったんだ」
当時19だった先輩が吸ってたら、グーでぶん殴られてたもんなぁ……
「……………………そう」
カレンは、興味無さそうな真顔で、すたすた先へ行ってしまった。
「あはははは! ラーファが先! クライアは我慢してなさーい!」「うえええええええん!! ラーファのいじわる! しんじゃえバカアアアアアアアッ!!」
――パンパンパンッッ!! チュインッ!!
……クライアの発射した弾丸が、壁に跳弾して、俺の頬を掠めた。
「あっはははは! やーい、へったくそ………………うげっ、お兄ちゃん!?」「うええええええん、避けられた………………ひっ、お兄ちゃん!?」
固まり、今更拳銃を背に隠す。
「こンの、アホ共が…………!!」
実戦以外では、せめてゴム弾を使えって言ってるだろ!
――ごいんッ!!
「 「 いったあああああああ~い!! 」 」
「ラーファは妹に意地悪するな! クライアは人に死ねとか言うな!」
「 「だって、 ラーファ/クライア が…… 」 」
「あァん……?」
拳を振り上げる動作を見せる。
「 「 ひゃっ! 」 」
慌てて頭を押さえた拍子に、ラーファの手から、ばさっ……と、紙束のようなものが落ちる。ったく、何取り合ってたんだ?。
拾い上げてみると、それは…………
「これ、俺のじゃん」
暇つぶし用にずっとカバンに突っ込んでいた、バイク雑誌の付録だった。歴代国産車の、写真解説付き名鑑。
「んー? 何それ?」
肩越しに、カレンも覗き込んでくる。
「おー、バイクだ。かっこいいねー」「うん、かっこいい!」「かっこいいの!」
それから三人は、名鑑を熱心に読みはじめた。女の子なのに、意外な物に興味示すんだな……
「どれが気に入った?」
いの一番に手を上げたのは、ラーファだった。
「ラーファはこれ!」「クライアはこっち!」
二人がそれぞれ指差したのは……
「二人そろって、CBR600RRか」
「同じじゃないよ!」「色違いだよ!」
訂正された。
コニカミノルタと、モビスター。
異世界人にも通用するデザインだったんだ、これ……
「白くてかっこいい!」「青くてきれい!」「「むっ!!」」
ばちっ……と、双子の視線が火花を散らした。
「喧嘩したらメシ抜きだからな」
「「……はぁい」」
この部隊のあまりに悲惨な食糧事情を改善するべく、俺は連日、台所に立っている。中身はどうあれ、ほぼ全員が十代だというのに、主食はカロリーメイトもどき。しかも、時間さえまちまちだというのだから、放っておけない。
胃袋を掴む……ではないが、だんだんと、この部隊での発言権を得てきたようだ。
「おー、集まって何見てるんだい?」
オウルが風呂から上がっ…………「あがっ、ががががが…………!」
「あー? どうした秀人。ウチの身体に何か付いてるか?」
お、オウル……!! お前も、大概アホだ!
「何でマッパなんだよ!?」
付いてないから驚いてるんだろうが!
下着どころか、バスタオルさえ身に着けていなかった!
「んー? お前は何を言ってるんだ。ちゃんと、髪留めをしているだろう」
お前こそ何言ってるんだ!
「まず下を履け、下を!」
「なーんだよもー…………風呂上りは暑いってのに……」
あーもう、これだから女所帯は……!
「あー、そうだ秀人」
「何だ……って、うォいっ! 履けよ! 履いてから呼べよ! 危うくいろいろと見えちまうトコだったじゃねえかよ!!」
視界の隅に肌色が映った瞬間、回れ右!
「減るもんじゃないし……」
「減 る ん だ よ !!」
俺の貞操観念が、ガリガリ削られてるんだよ! ぜーはー……
「……もういいか」
「もういいぞ」
「着たか」
「着た」
ようやく、最低限の衣類を身につけたようだ。振り返る。
オウルは、いつもの作務衣ではなく、浴衣のような服を、腰の帯で適当に縛っていた。
「ふう、やっと本題だよ……」
「こっちの台詞だこの野郎!!」
「ヒデくん、落ち着いて落ち着いて……血管がピンチだよ」
カレンに羽交い絞めにされる。
あーまったく…………変人の相手は疲れるぜ。
「「「「……………………」」」」
オウル達の四人が、なんとも言えない表情で俺を見ていた。
「何を見ているんだ?」
双子の覗き込んでいた名鑑を、ひょいっと取り上げる。
双子も、オウルの行動にはケチをつけず、おとなしくしていた。
「お、二輪か。……そういえば前、備品扱いで一台、倉庫に突っ込んであったな……」
「へぇ……乗ったのか?」
「乗ったけど…………遅いし、すぐに飽きた」
確か、管理世界で一般的に普及しているのは、水素エンジンか、モーター動力。燃料を燃やす……文字通りの内燃機関は、ほぼ駆逐されてしまっているらしい。
「だが、こちらのは速そうだ」
ぱらぱらとページをめくり、ある一箇所で手が止まる。
「どれがピンときた?」
「これ……うん、これだ。これがいい」
むふー、と、得意げにそのページを開いて見せてきた。
「……いい趣味だな」
GPz900r。もう既に旧車の部類に片足を突っ込んでいるようなロートルだが、そのエッジの利いたデザインや、劇中での活躍のおかげで、未だ衰えない人気を誇る車種だ。
「ふわぁああ~…………あふ……うるさいわよ双子。秀人の目を抉る素敵な夢から醒めちゃったじゃないの」
「ラーファ、クライア。やれ」
「「アーデ、おっはよーう!!」」
「あああああ……やめて頂戴……寝起きに、ボディプレスと裸絞めとサバ折りはやめて頂戴ぃい~…………!」
永眠してろ。
相変わらずきもちわるいなコイツ。
「ん~……? 何、内燃機関? オウルあなた、こんな趣味があったかしら?」
かちゃ、とメガネの位置を直す。
「たった今から趣味になった。おい秀人、この文章が読めん。音読しろ」
「へいへい…………」
突っ返された名鑑を手に、腰を下ろす。
「GPz900rは、カワサキ水冷・第一世代として……」
音読を始める。オウルは、ぴったりと俺の腕にくっついて、興味深そうに写真に見入っている。
忘れようも無いが、オウルは引き締まった、それでいてスレンダーでは済まされないスタイルをしており…………俺はまぁ、健康な男児であるからして。
「…………世界的に知名度を上げた出来事としては、ハリウッド映画の影響が大きく、」
かーーーー……と、顔に血が集まっていくのを感じる。
――がんっ。
……俺とオウルを隔てるように、紙刀が突き立った。
「オウル姉さん、その場所、代わって?」
「……カレン? おい、どうした」
オウルは、怒るというよりも、戸惑っていた。
「…………」
やや緊迫した空気になり……
「……ふぅ、わかったよ」
オウルが折れた。妹に甘い奴だ。
「わーい、ありがとうオウル姉さん!!」
一転して、笑顔で俺の隣に腰を下ろす。紙刀は、ただのページの切れ端に戻っていた。
「私にも見せて。むしろ一緒に見ようヒデくん」
「お、おう…………」
一応、オウルにも確認を取って……二人で名鑑をめくる。
「ねぇアーデ! 倉庫にあるバイク直してよ!」「直してよー!」
オウルの話を聞いて、アーデに無茶振りをしていた。
「うぅ~ん……無理、かも。ごめんなさい……………アーデは、無機物には明るくないもの……」
双子の期待に応えられないのが辛いのか、しょぼーん、と萎れるアーデが新鮮だ。
「乗りたいよー!」「乗りたいのー!」
あーあー……すっかりその気になってら。
俺も、いくらなんでも電動だの水素だの、ハイテクなものは弄れないからなぁ……
カレンは、ページをめくるのをやめて、見入っていた。
「ねぇヒデくん! これ、これ!! なんて名前!?」
カレンが指差すのは…………
「……ブラックバード」
CBR1100XX。
地球で初めて、ノーマル状態での時速300キロ走行を可能にしたメガスポーツ。
凶鳥ときて、ブラックバードか……
「かぁっこいい…………!」
これは…………覚えがあるぞ。俺が、バイク雑誌でZZRの記事を見た時と同じ…………
「コレ、欲しい!! 絶対欲しい!!」
ほらきた!
「ヒデくん!」「 「 お兄ちゃん! 」 」「秀人!」
カレン、双子、オウルが、詰め寄ってきて…………うわぁ、嫌な予感しかしない!
「 「 「 「 どうにかしろ!! 」 」 」 」
いや、どうにかしろと言われても……
「欲しいなら、買えばいいじゃん」
給料、それなりに貰ってるんだし。
「…………………………」
オウル達は、頭を捻り、うんうん唸り……
「あ、そうだった。ウチら、毎月お金貰ってるんだった」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおいッ!! 隊長!?
「お金? なにそれ?」「へー、貰ってたんだー」
双子はボケボケで。
「………………足りる?」
カレンは、ここしばらく電源を入れていなさそうな携帯端末をぎこちなく操り、何かの数字……恐らく、全員の貯金残高を見せてきた。
桁が一つ、二つ、三つ…………七つ、九つ。九桁の数字が、燦然と輝いていた。
ミッドチルダと日本の通貨は、単位が違うだけで、為替相場はほぼ同じ。ということは……全員が全員、億単位の貯蓄をしていることに……
「…………どんだけ使ってないんだ、お前ら……」
こんだけあれば、クラシックなグランプリレーサーだって買えるぞ……
「足りるよ、余裕で」
二台買っても三台買っても、それぞれフルカスタムしてガレージまで買えちまう。
「こういう場合って、どうするんだ? 自分で買いに行くのか?」
「隊に必要な備品なら、タダで支給されるんだけど…………私物になると、実費負担での取り寄せかなぁ」
「取り寄せ……」
となると、グレアムさんに頼んで、地球から調達してきてもらう感じかぁ…………俺、最近あの人が信用できないんだけどなぁ…………ま、しゃーないか。
「きっちり練習するからな」
「「「「はーーーーーーい!!」」」」
四人は、気前良く返事をした。
その日、俺はグレアムさんにそのことをメール越しに依頼した。
◆ ◆ ◆ ◆
…………海鳴市、とあるバイク屋。
最近、新車はおろか中古車さえ売れない現状を憂う店主は、今日も日常業務をこなしていた。
(あーあ全く……近頃の若いヤツは……)
某オークションで、ポンコツ不動車を買った。動くと思っていた。直してくれ……などと、浅はかな客が来たのが一昨日。
(少しは、あいつを見習って欲しいもんだ)
車体は買わないものの、一定のペースで消耗部品の注文をしてくる、あの青年。聞けば、マニュアル片手に自身で整備してるそうだ。
店主の立場からすれば、中古車でもいいから車体を買って欲しいところなのだが……それでも彼は、バイク乗りの性というものを、しっかり持ち合わせていた。
「……そういえば、最近来ないなぁ…………フォークシールが危ないらしいけど」
――ジリリリリリン!!
と、電話が鳴る。
「はい…………はい? はいっ! 毎度ありがとうございます!」
驚きから一転。喜色満面の笑みを浮かべた。
……中古車を、纏め買いしたいという注文だった。今の時期、これが助かる。
「…………待てよ」
そういえば……と、店主は思い出した。
前回、地元商工会の集まりで、月村グループからよく分からない頼みごとをされていた。
確か……
(不可思議な注文があったら、簡単にでもいいからメールを入れる……だったか)
中古車の纏め買い。確かに、これも不可思議といえば不可思議だ。
店主は、その件についてを、月村家の窓口に寄せた。