魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第六十話

 

――がりっ、ごりっ……

 

 朝の吾妻家に、とても軽快とは言いがたい包丁がまな板を叩く音が響いていた。

「ふーんふふふーん……」

 寝癖が付いた金髪を適当にゴムで縛り、パジャマ姿で台所に立つフェイト。

 

――がつっ、ごつっ……

 

 ……何をしているのかと思えば、朝食の支度らしい。

「んふふふーん、と」

 そして、一つ一つ、指差して確認を取る。

「ごはん、よーし。おみそしる、よーし。さかな、よーし。さらだ、よーし」

 八合も炊いた白米、鍋いっぱいの味噌汁、五枚の焼き魚…………人数が人数だけに、壮観な分量だ。

「ぜんぶおっけー! いえー!」

 ひとしきり騒いだ後……人数分、ちゃぶ台に運んだ。

「ひっさびっさにー、みーんなーでごっはーん♪」

 なぜこうもはしゃいで、朝から料理の支度をしたのかというと…………秀人の捜索に出ていた一家の面子が、久々に朝食を共にするからだ。

 ヴィータ、ユーノ、アルフは、今まさに管理局から各々帰宅しているところであり、なのはは、毎朝の日課であるランニングに出ている。

 とはいえ、それもあと少しの辛抱だ。

 なのはが、帰ってきたら支度すると言っていた朝食。それを、先回りして作っておく。

「くふふふふ…………! こんなこともあろうかと、みゆきをじっけんだいにれんしゅうしておいたのだ!」

 最初は、焦げたり溶けたり崩れたり、まともな結果が出なかったが……ここしばらくの特訓の末、ようやく人並みの料理を作れるようになったのだ。

 その影に、焦げカスを口に突っ込まれ悶絶した美由希の犠牲があった。

「おどろくかなー? ほめてくれるかなー?」

 …………流しに突っ込まれた、使用済みの調理器具さえ無ければ、褒めてもらえるだろう。作ることに比重を置きすぎて、片付けのほうはサッパリだった。

 

――がちゃっ。

 

 ドアノブが鳴り……フェイトは、玄関へと駆けた。

「おっかえりー、……」

 出迎えの笑顔のまま、固まった。

 ドアを開けたのは、なのはでも、アルフでも、ユーノでも、ヴィータでもなく…………

 

「邪魔をする」

 

 ……………………将官服に身を包んだ、レジアス・ゲイズ少将だったのだ。

 

「………………」

 突然の登場に、フェイトはパニックを通り越し、思考を停止していた。

「フェイト・テスタロッサ」

「…………………………はっ!? はいっ!!」

 ようやく再起動したフェイトが、大きな声で返事をする。

 

「貴様を連行する」

 

――がちゃんっ。

 

 ……そして嵌められる、無骨な手枷。

「へ?」

 きょとん、とそれを見下ろすフェイト。

「失礼します」「お邪魔します」「ちょっと失礼」

 がやがやと、部屋の中に踏み込んでくる管理局員たち。

「へ? へ!?」

 がっしりと両脇を掴まれ、ずるずると引きずられていく。

「……連れて行け」

「了解」

 レジアスの命令に敬礼する管理局員。

 ここにきて、ようやくフェイトは、自身に起きようとしている事柄に、考えが至った。

 

「…………ひとさらいーーーーーー! なのはー!! なのはーーーーーーーーー!! たぁすけてぇえええええええええええええええええぇぇ…………!!?」

 

 が、時既に遅し。

 フェイトは、あっけなくレジアスに連れ出されてしまった。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

――――ビイイイイイイン……!!

 

 隊舎の前を改装したコースに、2ストローク車独特の甲高い排気音が鳴り響く。

 ロクな手入れも受けず枯れ果てた樹木を伐採し、風化しつつあるオブジェを撤去し、雑草に浸食されきっていた芝を掘り起こし、倉庫に放置されていたコンクリートを使い果たし、ようやく完成したコースだ。

 ……ちなみに、作業は全部、俺がやった。なんでやねん。

 

――ズザザザザッ!!

 

 愚痴っていたら、コースを走っていた二台のバイクが、俺の前でフルバンク停車……ようは、コケて止まった。

 モビスターと、コニカミノルタ…………風の外装を着けた、NSR80。若葉マークにリッターなんぞ扱えるかっつーの。

「お兄ちゃんお兄ちゃん! ラーファのほうが速かったよね!?」「クライアだよ!? クライアのほうがコンマ何秒か速かったよ!?」

 幸いにも、倉庫には使えそうなヘルメットや肘当て、膝当てとかの防具…………多分、SAT的な用途に使うであろう、無駄なほどに頑丈なモノが、倉庫に揃えられていたからな。

 安心してコケられる。

「さ、転ぶ練習はこのへんでやめておくかー」

 

「「ぅええええええええええええええっ!?」」

 

 がびーん、と同じ顔で愕然とする双子。

「お兄ちゃんなんだよそれー!? 膝擦ってバリバリするんじゃなかったのー!?」「……………………バリバリ」

「阿呆。膝なんて擦らなくても曲がれるっつーの」

 レーサーが膝擦ってるのは、あくまで限界まで車体をバンクさせた結果だ。わざと膝を擦るような走りは、むしろ遅くなる。

「今までのは、『上手に転ぶ』練習で…………………………………………」

 

――ふと、頭に引っかかった。

 

(…………『上手に転ぶ』練習……?)

 デジャビュのような……何だっけ……? ええっと……

 

「ヒデくん」

 

 ぽんっ、と肩を叩かれた拍子に、引っ掛かりが消えた。

「あぁ……何だ、カレン」

「ふふ……んーん、なんでもない」

 ……わけわからん。ま、いいか。

「んじゃ、カレン。お前も乗ってみるか?」

 さっきから俺の隣に鎮座している、重量級の黒光りする車体を指す。

「うん!」

 簡単な操作方法……クラッチとかの説明はしたが、実際に動かすのはこれが初めてだ。

「えっと……ニュートラルを確認して、チョークを引いて……セルスイッチ!」

 

――ギュルルッ…………ヴォンッ!!

 

「かかった! ……でも、一分くらいは暖気するんだっけ?」

 そこまできっかり時間は決めなくていいんだけど……ま、目安だ。

 水温計が多少変化するのを待って……

「んじゃ、やってみろ」

 カキッ……とローギアに入り、アクセルを開けつつクラッチをゆっくりと繋いでいく。

「お、おおお……! 動いた! 動いたよヒデくん! やったー!!」

 

――ヴォオオオオオオオオオオオッ!!

 

「バカ! アクセル開けすぎ……!」

「…………あああああああああああああぁ!?」

 

――ズシャアアアアアアアッ!!!

 

 クラッチを繋いだ瞬間…………タイヤが路面を捉えるタイミングを見誤り、綺麗にスリップダウンした。160psオーバーの大パワーは、扱いを間違えればこうなる。

「ほれ、立てるか?」

「あいたたた……失敗しちゃった……」

 手を掴んで立ち上がらせる。転びはしたが、そこまで酷い怪我にはなっていない。

「じゃ、引き起こしてみろ」

 最低限、男でも女でも、これだけは出来ないと。

 

「よーし、もういっちょ!」

 案外、あっさり引き起こせた。

 

――ガオオッ……!!

 

「お帰り、オウル」

 ……早々と乗り方をマスターし、近場を走りに行っていたオウルが戻ってきた。

 自前のボサボサ茶髪が、ヘルメットの隙間からはみ出している。

「調子は?」

 アイドリング状態のバイクに跨るオウルに聞いた。

「うん……いい。実にいい」

 満足げな様子で、アクセルを軽く開ける。

 

――ヴォッ、ヴォンッ!!

 

 社外品の集合マフラーから、小気味のいい低音が鳴る。

「倉庫のヤツとは大違いだ」

「ああ、アレなぁ……」

 一応、見てみたが……こっちで言うところの、125ccのスクーターだった。そこそこ乗りやすくはあるんだが、刺激が皆無だった。

「正直、旧世代のものと侮っていた。これなら……」

 ん?

 

「これなら、戦場に持ち込んでも問題は無さそうだな!」

 

 とんでもないことを言い出した!

「は、はぁ!? お前、コレで戦場を走る気か!?」

 舗装路ならともかく、砂利やら瓦礫やら、転倒する要因だらけだぞ!

「サスとかホイールだってダメになるし、フォークシールは破けてオイル滲むし、ガスケットだって……」

 バイクで戦場走り回るなんて、仮面ライダーじゃあるまいし、できるわけが――!!

 

――ズキンッ!!

 

「うっ……!!」

 いって……!! 

何だ……今の頭痛。 ここ最近、こういうことが多い気がする。

「ヒデくん、大丈夫?」

 カレンが心配したのか、バイクを降りて声を掛けてきてくれた。

「煙草、いる?」

 何故か、ポケットから自分の煙草を取り出して、言う。

「いや……いい」

 何故か、今は吸う気にならなかった。

「悪い。ちょっと休んでくる……」

 眩暈がしてきた。

「……」

 隊舎に歩いていく俺の背後に、カレンの足音が続く。すっかり、コンビが板についてきた。

「コンビ……?」

 ぼんやりと、脳裏にイメージが浮かんでくる。

 

――黒い法衣と、青白い閃光。

 

『秀人! ボサッとするな!』

『全く……君はいつも、無茶ばかりだ!』

『少しは、自分のことも鑑みて行動しろ!』

 何故だろう。そのイメージに付随してくるのは、憎まれ口ばかりなのに……それが、妙に暖かく、染みる。

最近の俺は、大事なことを忘れている……いや、忘れ続けている(・・・・・・・)ような、そんな気がしてならない。

 

 自室に戻り、ベッドに横たわる。ぐわんぐわんと、眩暈はより酷くなってきた。

「……ヒデくん」

 すっ……と、額に手が置かれる。ひんやりとしていて……って、違う。俺の額が、熱もってるのか。……自覚した途端、意識が朦朧としてきた。

 

「――忘れちゃおうよ」

 

 カ、レン……?

「忘れてしまえば、傷つかなくて済む。辛いことも、嫌なことも……全部、無かったことにできる」

 さらっ……と、少し硬い俺の髪を、撫でる感触。

「いらない『昔』なんて、忘れて、捨てて……私と、『今』を……」

 ……声が、遠のいていく。

 

 俺は、泥のような、沈み込んでいくような眠りに、ずぶずぶと落ちていった。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「よぉォっし!!」

 

 はやては、携帯電話を片手に、飛び跳ねた。

「よくやったジュンペー!!」

『え、え? ……へへ、いやぁ、たいしたこと無いッスよ!』

 電話口で、子分の一人が照れ笑いしている。

『車種は、ブラックバードと、ニンジャと、エヌッパチ二台ッス!』

 

――ピピッ!!

 

 と、更に、通話中にキャッチが入る。

「私だ」

『はやてちゃん、すずかです』

「月村か。こっちにも今、情報が上がってきた。……芳村オートに、中古車の纏め買いの注文」

 手下のジュンペーを送り込んだバイク屋に、不自然といえば不自然な注文があったのだ。

『うん、こっちもその系列の情報。詳細は……』

 二人で情報を付き合わせ、整合性を確認していく。

「車種と、修理部品の型番、完全に一致したぞ」

『うん、間違いないと思う』

 

 それぞれの店にやってきたその客は、青と紺の制服を着た女性だったという。

「管理局……やっぱり、噛んでやがったのか」

 アースラが八方手を尽くしても見つからないなど、よく考えればおかしな話だった。だが、上層部が意図的に情報を隠蔽していたというのなら、話は別だ。

「チッ……大方、秀人の能力絡みだろうけどな」

 秀人の能力。戦闘力もそうだが……あの、不死身の肉体と、蒼炎。放置されるわけがない。

「どっかで腑抜けにされてんだろ」

 すずかとの通話を切り、別の番号をコールする。

 

――ブロロオオオオオオッッ……

 

 五分もしないうちに、一台のバイクがはやての前に止まった。カスタムされたチョッパーに跨っているのは、がっしりとした体格の若者。

「押忍、姉御! お呼びでしょうか!」

 はやては、チョッパーのタンデムシートに飛び乗り、耳元で怒鳴る。

「テツヤ! 芳村オートまで飛ばせ! 大至急!」

 急がねば、魔力の痕跡が消えてしまう。

「押忍ッ!!」

 

――ヴォロロロロロロッ!!

 

 荒々しいVツインが唸りを上げ、はやてを目的地まで運搬する。

「だぁああっ! 相変わらずやかましいなオイ! もっとマシなサイレンサー付けろ!」

 ……ちなみに、このテツヤという若者は、『バイクのアイドリングがうるさい』という、そこはかとなく理不尽な理由でボッコボコにされ、手下に加わった。現在は、バイク便に潜入し、情報を収集している。

「スンマセン! しっかり捕まっててください!」

「チッ!」

 バックレストに背を押し付ける。ぐんっ、と更に力強く加速する。

 

――ギキイイッ……!!!

 

 チョッパーから駆け下りる。

「姉御っ!」

 裏口で待機していた少年が、紙束を持って駆け寄ってくる。

「こないだ売れた中古車の契約書のコピーと、監視カメラの映像ッス!」

 受け取り、契約者の氏名を確認。

――山田花子。

「……バレバレの偽名じゃねぇか!」

 

芳村オートの前で、探査魔法を発動する。嗅覚を拡大し、魔力の『匂い』を辿れるように強化する……守護騎士の一体、『盾』の保有術式の一つだ。

「……ここだ!」

 しばらく辿り……それが、不自然に途切れている箇所で止まる。

 そこには、まだありありと、転移魔法の痕跡が残されていた。術式としては、アースラのポータルに近い、人工的なものだ。

「こっから先は……」

「主、お待たせいたしました!」

 リーゼが、到着する。

「……」

 リーゼが、消えかけていた術式を再編し、座標を割り出す。

「……座標を、特定しました」

「……!!」

 喜び勇み、転送しようとして……

 

「一応、高町にも声掛けておくか」

 

 ……その些細な変化に、気づいたか否か。

「賛成です、主」

 はやては、運動会の際に手に入れていたなのはの番号をコールする。

 

――prrrrrr,,,,,prrrrrr,,,,,,,

 

「チッ、中々出ないな~……」

 愚痴ったその時、タイミングよく電話が繋がる。

「おう、高町。お前いま時間あるよな? 無ければ作れ」

 ……理不尽だった。

 が、電話口の向こうになのはは、それを気にしている余裕は、無いようだった。

 

『八神……! どうしよう、フェイトが、フェイトが……!』

 

「あァ……? あのアホ金髪がどうしたって?」

「主、様子が変です。……事情を聞いてみましょう。座標は特定しましたので、後でも問題ありません」

「チッ。……で、どうした?」

 

『フェイトが、誘拐されちゃったの!!』

 

「………………………………………………………………………………は?」

 

 はやては、電話を手に立ち尽くした。

 

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