魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第六十一話

 

 はやてに事情を説明し終えて間も無く……アースラ艦内を、怒気を撒き散らしながら突き進むなのはの姿があった。

 その怒りっぷりは、本来なら一番に激怒しているはずのアルフが恐れ戦くほどで、当然、局員たちも一瞥すらせず、関わってはいけないと、そそくさと歩き去っていった。

 

――ちなみに、なのはは謹慎中の身である。

 

 艦長室に向かって、一直線。腰に提げた二刀が、異様な迫力を醸し出していた。

「あ、あああの、あの、なのはさん……」

 そんななのはに、果敢にも接触を図る局員がいた。フィアットだ。

「今回の件ですけど、フェイトちゃんの現在の境遇を考えたら……」

 つい忘れがちになってしまうが、現在のフェイトの待遇は、『保護観察』。名義上の後見人はリンディであり、決定権も彼女にあるのだが……現地での実質的な保護者は、吾妻秀人となっている。秀人が定期的にリンディに報告を上げ、リンディは今後の方針を伝える構図だ。だが、秀人が不在となってしまうと……

「吾妻さんの職務放棄と見なされ、フェイトさんの身の上は、リンディさんの預かりに…………ひっ!」

 ぎろっ、と、鋭い眼光に射すくめられる。

「……確かに、そういう話は聞いてるよ」

「じゃ、じゃあ……」

「でもね」

 ぴしゃりと遮る。

「私が怒ってるのは……何で、リンディさんと、アースラじゃなくて…………わけのわからない陸士部隊なんてところが、フェイトを連れて行ったのか、ってことよ!」

 

――ガンッ!!

 

 艦長室前のパネルを刀の石突で殴打し、入室許可を求める。

『どうぞ』

 エアロックが解除されるや否や、なのはは大股で入室した。

「失礼します」「なのはさぁん……! カタナ、カタナを仕舞ってくださいよぅ……!!」

 涙目のフィアットも、それに続いた。

「どういうことですかっ!!」

 がんっ! と卓を叩くが、リンディは表情を崩さない。

「……座りなさい」

 椅子をすすめられ、渋々座る。

「それじゃ、わたしは失礼しますね……?」「いえ、あなたもいて構わないわ」

 いそいそと退室しようとしたフィアットだったが、何故かリンディに止められ……なのはの隣に、腰を下ろした。

 

「ジュエルシード事件における重要参考人、フェイト・テスタロッサ。彼女の現地保護官・吾妻秀人は、自己判断により消息を絶ち……この職務を放棄したものと見なす」

 

 無味乾燥な原稿を読み上げるように、リンディは通告した。

「フェイト・テスタロッサの保護権は、法的後見人・リンディ・ハラオウンへ返納とし…………それを、レジアス・ゲイズ少将へ一時委譲するものとする」

「レジアス……?」

 少し前、秀人から聞いていた人物名だ。リンディの元上官で……

「何で、その人にフェイトを預けるんですかっ!!」

 前みたいに、アースラに置くことだって出来るだろうに。

「…………フェイトを取り巻く環境は、非常に危ういわ。私もそれなりの地位にいるとはいえ……管理局全体から見れば、あくまで、現場指揮官レベル。本局の最終決定には、逆らえない」

「…………つまり、管理局の中でも発言力が大きく、一番信用できる人物に身柄を預けたってことですか」

 頭に血が上っていても、回転は早い。

「そうです」

「あ、あの……よろしいでしょうか?」

 フィアットが、おずおずと挙手した。目で促され、発言する。

「その……聞いた話ですが、フェイトさんの件について決定を承認するのは、レジアス・ゲイズ少将と、ギル・グレアム提督だと聞き及んでおります。職務上で接点の多いグレアム提督ではなく、なぜ、わざわざ『陸』のレジアス少将を……?」

 もっともな質問だった。

 リンディは、少し悩み……理由を、言った。

 

「私は、グレアム提督を信用していません」

 

 ……オフレコであるということを考えても、問題のありそうな発言だった。

「…………」

 どう反応したものかどうか、フィアットは黙り込んでしまった。

「……あくまで、『一時』なんですよね」

「ええ。……秀人くんが戻ってくるまでの、『一時』です」

 逆に言えば、秀人が戻ってくる見込みが無ければ、『一時』はいつまでも終わらないということだ。

「……手がかりを掴みました。八神が、秀人さんがいるかもしれない場所の座標を特定して……だから、謹慎を解いて下さい」

 フェイトのためにも……そしてなにより、秀人のためにも。アースラのバックアップは、絶対に必要になる。

「その座標を、私にも伝えてもらいます。それが、謹慎を解く条件です」

「……はい」

 

 なのはは、リンディさんに礼を言い……フィアットを伴って、退室した。

 

 そして再び、海鳴市。

「遅いぞ」「ごめん」

 自室で、八神とリーゼと落ち合った。

「チッ……で、アホ金髪の行方は?」

 なのはは、とりあえず無事、とだけ言い、座標の件を言った。

 はやては最初、管理局が絡んでくることを警戒して渋っていたが……最後には、教えていた。

 

「リンディさん、なのはです。座標は……」

 はやての目の前で、リンディに報告するなのは。

 これであとは、アースラのバックアップの下、秀人の捜索に戻れる。そう思っていたのだが………………

『…………座標を確認しました。場所は、第66管理世界、です』

『……………………なんてこと』

 フィアットの報告に、リンディさんは頭を押さえた。

「あの……管理世界、なんですよね? 何がまずいんですか?」

『その場所は……グレアム提督が直轄する区域なの』

 ……グレアム提督。さっき、リンディさんが『信用していない』と言い放った人物だ。

『そこへ入るには、まず、グレアム提督の許可が無ければ……』

 許可を得るためには、事情を話さなければならない。

 だが、もしも……グレアムが、意図的に秀人をそこに隠しているとしたら?

……許可など、下りるはずが無い。それどころか、妙な勘ぐりを受けて、警戒心を強められ……最悪、また別の場所に連れて行かれてしまうかもしれない。

 そうなってしまえば、はやてとリーゼ……その仲間たちの努力は、水の泡だ。

「チッ……これだから組織ってのは……」

 はやては舌打ちをする。

「…………」

 無許可での転送を考えるなのはだったが、リンディ以上の知将であるというグレアムが、それを想定していないはずが無い。

 

 三人で悩むが、やはり、グレアムの許可を取るか……電撃戦で、一気に突入するしか無い。それに最悪、そこにそもそも秀人がいなかったとしたら?

「捕まるね……」

 度を過ぎた越権行為として、懲罰を受けるだろう。フェイトにも、アルフにも……悪い結果にしかならない。

 

――prrr,,,prrr,,,

 

 ……と、はやての携帯電話が鳴った。

「誰よ、こんな時に……」

 そして、ディスプレイに表示される発信者を見て……煩わしそうに、舌打ちをした。

 そこには……はやての財産管理をする、父の知人を示す、『オジサン』という名が表示されていた。

「……はい」

 別室へ移動し、渋々、通話ボタンを押す。

『遅いぞ』

「チッ……第一声がソレかよ。で、何の用?」

『様子見だ』

 定期連絡……といったところか。

『私生活に、不便は無いか?』

 幾分優しい声で、聞いてくる。

「強いて言うなら、変なオッサンが電話をかけてくるくらいよ」

『フ……元気そうで何よりだ』

 悪態に、苦笑で返してきた。

『倒壊した家屋の始末は終わった。土地はどうする?』

「テキトーに維持しておいて」

 その後も、一言二言、言葉を交わしていく。

『今月も生活費だけか。……小遣いは足りているのか? お前の財産だ。常識の範囲であれば、引き落としても構わんぞ』

「今のところは、別に。金があっても、使い道が無いし」

……浅ましい『親戚』たちから、両親の財産を守り抜いてくれたこの電話口の男性には、少なくとも感謝はしているのだろう。

「あ、そうだ……あなた、法律とかルールとか政治とか、その辺詳しい?」

 財産管理というキーワードから、思いついた。

『何だ……何かあったのなら、言ってみるといい』

「あのさ、実は………………」

 折角だから……という、軽いノリで、先ほどの話を振ってみる。

……管理局に属さない、ある意味もっとも身軽なはやてだからこそ可能な行動だった。

『………………手立ては、ある』

「え、マジ? 教えなさいよ」

『その権力者と同等の権力を持つ者が、不意打ちで既成事実を作り……理由を後付けすればいい』

「……だめじゃん! 権力とか欠片もねぇよ!」

『それはそうだ。その者とお前では、大きな差がある。年齢であったり、経験であったり……な』

「うー……これでまた、八方ふさがりか……」

 いっそ、自分とリーゼだけでカチコミかけてやろうか……と、若干危険な案を練っていると、電話口の向こうで、男性が言った。

『……今は時を待て』

「待てっつったって…………正直、先が見えないと気持ち悪いんだけど」

 宙ぶらりんのままというのは、正直安心できない。

 

『幸いにも、お前は……人脈というものに限って言えば、恵まれているようだ』

 

 そう言い残し、電話は切れた。

「チッ……」

 はやては、携帯電話をベッドに放り出した。

 結局、この日は結論が出ず……電話口の男性の言うように、時間が過ぎるのを待つだけだった。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「ふうぅ……」

 秀人は、眼下に広がるサーキットを眺めながら、煙草をふかす。

「……速くなったなー、あいつら」

 外周路をNSR80で駆け抜ける双子。そして、慣熟走行のために作ったクランクやパイロン、スラロームを、器用に小回りするカレンのブラックバード。不整地をオンロードタイヤで駆け回る、オウルのニンジャ。

 

――キッ……

 

 カレンが隊舎の前に停まり、スタンドを立てる。そして、一足で跳躍し、テラスに……秀人の隣に、着地した。

「やっほ。ヒデくん」

「よ。カレン」

 秀人と気安い挨拶をして、同じく懐から煙草を取り出すし、火を点ける。

「…………止めないんだ?」

 カレンの意味深な問いに、秀人は、きょとんとした態度で返した。

「何でだ?」

「ヒデくん、ちょっと前までは『身体に悪いぞ』って、小言言ってたのに」

「そうだったっけ……?」

「未成年が、煙草吸ってもいいの?」

「……まぁ、別にいいんじゃないか? 止める理由も特に無いし」

 ……以前までなら、秀人は律儀にカントクの教訓を大事にしていて、喫煙をあまり良い習慣だとは感じていない風だったが……

「ヒデくん。……ずぅっと、ここにいようね?」

 するすると、腕を絡ませる。

「……ああ、分かってるよ」

 秀人は……煙草を燻らせながら、曇った笑みを…………カレンと同質のソレを、浮かべた。カレンは、秀人の顔に唇を寄せ……

 

 

――ビーーーーーーーッ!!!! ビーーーーーーーッ!!!!

 

 

 …………無機質なブザーが、隊舎を通じて、響き渡った。

「……はじめて聞くんだけど、何だコレ」

「…………来客」

 カレンは、無表情に…………いや、感情を振り切った、醒めた表情で、ぽつりと呟いた。

「へぇ……ここ、客とか来るんだ」

「…………」

 ガチャッ……と、刀を装着し、すたすたと隊舎の中へ歩いていく。

 

 秀人は、カレンと共に転送ポートの前で待つ。

 

――ヴウン……!

 

 そして、転送されてやってきたのは……やたら恰幅の良い、将官服に身を包んだ男性だった。

「久しいな、小僧」

「……?」

 彼は、秀人を知っているようで……そして秀人は、彼の姿に、ふと既視感を感じる。

だが、思い出せない。頭に掛かったモヤが、それを邪魔する。

「いて……っ!!」

強引に思い出そうとすると……今度は、強烈な頭痛が襲ってくる。

 男性が、怪訝な表情でそちらに気を取られた隙に……

 

「死んで」

 

 カレンが抜刀し、喉元へ切っ先を突き出す。結構な……というか、一般人だったらまず反応できずに刺し貫かれてしまうであろう、その凶刃を……

「ふん」

 ひょいっ、と首を僅かにずらすだけで、回避してしまった。

「!?」

 これほど最小限の動作で避けられてしまったことは無かったのだろう。カレンは、驚愕に目を見開いた。

「退いていろ」

 勢いは殺せず、男性はその間合いを詰める。そして……

 

「貴様に……用は無いッ!!」

 

――ドボォッ!!

 

 タックルでもするかのような勢いで背中をブチ当て……吹き飛ばした。

「うあっ……!!」

 あまりの衝撃に、後退を余儀なくされるカレン。

 再び飛び掛ってきそうなカレンを、眼力で制止する。

 

「……」

 頭痛でふらつく秀人の懐にあった、煙草のケースを奪い取る。そのパッケージを見るや否や、目を見開く。

「これは…………忘却剤!?  こんなものが、何故……!!」

 驚きから一変。憤怒の表情で、それを握りつぶした。

「小僧…………歯を食いしばれえええええええええッ!!」

「!!!」

 朦朧としている秀人には、身構える間も無く……

 

――ガゴォッッッ!!!

 

…………顎が割れる程の、鉄拳をその身に受けた。比喩でもなんでもない。冗談抜きに、秀人の顎が砕け、歯が何本か飛び散った。

「ガはぁっ……!!」

 床に叩きつけられる。

「……私のヒデくんに、なにすんのよおォッ!!」

 再び、襲い掛かるカレン。

 だが、それが成されるよりも早く…………例の現象が起きた。

 

――ジュウッ……!!

 

 ……秀人の砕けた顎が、瞬時に再生する。

「………………ぐ、う!」

 壁に手をついて、顎を押さえながら起き上がり…………カッ、と、目を剥く。そして、再生したばかりの口で……叫んだ。

 

「い…………ってェだろ! 何しやがるこの野郎!!」

 

「!?」

 秀人の、平常どおりの声を聞き……今度は、カレンが驚愕する番だった。

「うそ…………どうして!? 忘却剤を、あんなに一杯摂取したのに……!」

 男性は、それを嘲笑する。

「ふん…………その小僧の性根のしぶとさは、よく知っておるわ」

 悔しそうに剣の柄を握るカレンに、男性は言い捨てる。

 

「――忘却剤ごときで、篭絡できる小僧であったなら…………オレは苦労していない」

 

 忘却剤。それが、秀人が、そして、凶鳥部隊の面々が常用していた、煙草の正体。

 

「……あ、あれ? 俺、何してんだ……?」

 

 きょとん、とする秀人は、カレンと知り合う前の、秀人と同じ。

「くっ……! まさか、そんな馬鹿な方法が……!」

「まぁ……そこの小僧にしか、通用しない方法だったがな」

 

秀人の肉体をある程度、損壊させることによって、体質…………秀人に宿る、リンカーコアの再生・復元能力を強引に起動させ、肉体の損傷を修復するのと同時に、体内に沈殿した忘却剤の毒素を、除去したのだ。

 

「おー。いてェ……って、うお! 何で、アンタがここにいるんだ!?」

 秀人は、その男性を指差し……叫んだ。

 

 

「レジアスのオッサン!?」

 

 

 ………………グシュッ、と、煙草のケースが、蒼く燃え尽きた。

 

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