魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第六十二話

 

 秀人を殴り倒したレジアスは、ふん、と鼻を鳴らした。

「目が覚めたか」

「……! ああ、嫌でも覚めるっつーの!!」

 ぐいっと口元の血を拭う。

「…………で、何の用だよオッサン」

 若干ふて腐れた様子で、そう聞く。

「アースラに戻れ」

「……………………」

 途端、黙り込む。

「……出張ってもらって悪いけど、戻るつもりは無い」

「……そうか」

 一息ついて……

 

「フェイト・テスタロッサの身柄は、オレが預かっている」

 

 …………と、言った。

「は!?」

 これには、面食らった。

「な、なんだよそれ!?」

 抗議する秀人に、レジアスは、冷たい視線をくれる。

「当然だろう? 現地保護官の貴様が、その任務を放棄すると言ったのだ。ならば、後任の者に権利が移譲されるのは、当然だろう」

「後任って……俺の上は、リンディさんだろ。何でそれをすっ飛ばして、アンタが……!」

「あの青二才からの依頼だ」

 秀人は、リンディの本気を知った。

もし、これで秀人がこれ以上、逃避を続けるのなら……なのはが望んでいた生活は、家族は、散り散りになってしまう。

「それが嫌なら、今すぐアースラに戻れ」

「それは…………」

 視線を下に落とし、口ごもる秀人。

レジアスは、ますます表情の険を強め…………秀人の胸倉を掴み上げた。

 

「身勝手な事情で、己の責務を放り出す…………それを、ガキと言うのだッ!」

 

 再三のガキ呼ばわりに、秀人は反抗した。

「……アンタに、何が分かる!」

 追い詰められた末の、抗議。だが、レジアスはそれを一蹴する。

「貴様に何があったのかなんぞ、オレは知らん。だがな」

 

――バキッ!!!

 

 怒声と共に、秀人が殴り倒された。

 

「どんな理屈をこねようと、周囲を巻き添えにする理由にはならんッ!!」

 

今度は、いくらか手加減したのだろう。歯の一本も折れることは無かった。

「……」

 ふらふらと立ち上がる秀人。言葉も出せず……弱弱しく、レジアスを睨む。

「貴様には失望した」

「……勝手な、ことを」

 勝手に期待を持ち、勝手に失望されてはたまらない、と秀人が言う。

「初対面で、オレに食って掛かってきた時の方が……よほど良い目をしていたぞ」

 話は終わったと、完全に秀人に背を向け、去っていこうとする。

 

「…………三日後だ」

 

 立ち止まり、独り言のように呟く。

「三日後までに、答えを出せ。オレと来るか……それとも、この汚泥のような環境に沈むか」

 そして、レジアスは去り……彼がいた足元には、一枚の紙が残されていた。

「……」

 拾い上げると、それは、わざわざ日本語に翻訳された書類だった。

 そこには、略式的ではあるが、十分に証明となる…………異動願いの要綱が、記載されていた。

 

「…………ヒデくん、」

 カレンが、途方に暮れる秀人の背に、声を掛けた。いつもの不敵さは何処かへ、気まずそうな……負い目を感じている声色だった。

「悪い、一人にしてくれ」

 秀人は、カレンを振り向かず、自室へ向かった。

カレンの足音は……着いて来なかった。

 

 そして、丸一日が経過した。

「…………」

 自室のベッドに寝転がり、寝るでもなく、ボーッと時間を過ごす。

 戻るか、留まるか……悩んでいた。

 

「入るぞ」

 ノックも無しに、ドアが開いた。

「……オウル」

 恐らくは、全てを知っていた…………部隊長の、オウル。

「…………」

 無言で、ベッドに腰を下ろした。

 秀人は寝返りを打ち、顔をそらす。

「…………知ってたんだろ? あの煙草の効能」

「ああ」

 

――忘却剤。

 

 レジアスは、そう言っていた。詳しい中身は不明だが、明らかに害のあるものだということは明白だ。

「何で、俺にあれを渡した?」

「辛そうだったからな。忘れさせてやろうと思ったんだ」

 開き直っているわけでは無い。ただ、本当に……その行動が、秀人のためになると思ってのことだった。

「……」

 自分のことは、それで納得した。いつもの……というより、思考の基本方針なのだが、どうせ治るから、別によかった。

 だが秀人には、もう一つ、疑問があった。

「……カレンも吸ってた」

 それが、気になっていた。

 カレンは、自身の過去のことを『覚えていない』と言った。

少し前までは、それがウソか……もしくは、強烈な体験が、記憶を閉ざしてしまったのか……と、思っていた。

だが……あるいは。

 

「ああ。私が吸わせた」

 

――バチッ!!

 

 跳ね起きた秀人の拳が、オウルの掌に受け止められた。

「危ないじゃないか」

 ぎりぎりと拮抗する中……軽い調子で言った。

「どうして、そんなことをした……!」

「…………どうして?」

 怒りに燃える秀人とは対照的に……オウルは、ひどく冷めた表情をしていた。

「カレンのためさ」

「どんな記憶であろうとも……他人がそれをいじくる筋合いは無いはずだろ……!」

 ……決定的な、認識の違いだった。

 オウルは、ふぅ……と、小さくため息をつき……

 

 

「……のぼせ上がるなよ」

 

 

 拮抗が、崩れ始めた。

 冷たい……冷気のような怒気を発するオウルが、徐々に秀人を押し始めたのだ。

「……く!」

「ほんの、一、二週間を過ごしただけのお前が、カレンの何を知っているつもりでいる……」

 腕力にはそれなりのものがある、と自負している秀人を、同じく、純粋な腕力で圧倒する。

「記憶を消すな? …………カレンの過去を知ったお前が、同じ台詞を言えるものかよ」

「……カレンの、過去……?」

 意地で押し止める。

「お前は、カレンと生涯、添い遂げる覚悟があるのか」

「……!!」

 安易な深入りは許されない。もし、カレンの過去を知るとすれば、それは…………カレンと同じ境遇に立ったとき。

「カレンを生涯、その身をもって守り抜く…………その覚悟があるのか」

「それ、は……」

 秀人は何も、ここに永住するつもりでいるわけではない。

「少なくとも、この凶鳥部隊の面々は……お前が子供扱いしているラーファも、クライアも…………その覚悟を、身体に刻んでいる」

「……!!」

「秀人。…………お前は、どうだ?」

 改めて、そして、今度こそ本当に、凶鳥部隊の一員となるか。それとも……

 ……その拮抗は、揺れ動く秀人の心を表すかのようで……

「俺は……」

 

――守りたいもの。

 

 そのキーワードで、秀人の脳裏に真っ先に浮かんでくるのは……

「……そうか」

 それを察したのだろうか。

ふっ……と、オウルが力を抜き、拮抗は無くなった。

 

「お前は……我らの同胞には、ならないのだな」

 

「…………」

 心が痛まないと言えば、嘘になる。一月に満たない期間だったにせよ……記憶を消されかけたにせよ。

「邪魔をした」

 すっくと立ち上がり…………寂しそうに、部屋を出て行こうとする。

「先ほど、出撃命令が出た。明後日の明朝、出るぞ」

「………………ああ」

 奇しくもそれは、レジアスに答えを示す日。

 恐らく……それが、この凶鳥部隊での、最後の任務になる。

 そして、オウルは扉を閉めた。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「失礼します」

 

 グレアムの執務室に、またあの女性が入室した。

「うむ……首尾の方は、どうだね?」

「は。吾妻秀人は、順調に凶鳥部隊に情を移しつつあるかと……」

グレアムは、女性が僅かに思案していることを感じた。

「……何か、あったのかね?」

「あ……いえ、お耳に入れる程のことではありませんので」

 グレアムは、優しく微笑む。

「なに、遠慮なく言うと良い。私たちは、同志ではないか」

「……勿体無い、お言葉です」

 そして……

 

「…………ほう。私を信用していない、と」

「はい。……ただ、それによって何か行動を起こそうとしている気配は、ありませんでした」

「…………ふむ。報告、ご苦労」

 沈黙するグレアム。女性は、直立不動で、次の言葉を待つ。

 

――ピッ。

 

 沈黙を裂いたのは、電子音だった。

『お父様、アリアです』

 使い魔からの、緊急通信だった。

「どうかしたかね?」

 

『凶鳥部隊が、吾妻秀人の洗脳に失敗しました』

 

「…………」

 僅かに、グレアムの目じりが動く。

「……詳細を報告したまえ」

 

 ……そして、詳細を聞いたグレアムは、静かに立ち上がった。

「提督……!」

 聞いていた女性が、語気を強めた。

「洗脳とは、どういうことですか!」

 どうやらこの女性、凶鳥部隊へ送られた秀人が、どのような状態にあったのか、知らされていなかったらしい。

「話が違います! 吾妻秀人は、一時的に凶鳥部隊に軟禁し……闇の書を破壊した後、家族のなのはさん、……高町なのはの下に帰すと、そう仰ったではありませんか!」

「吾妻秀人は、個人的に闇の書の主と交流がある。たんなる軟禁では、邪魔に入られる可能性がある」

「ですが……それでは、あまりにあの少年が不憫ではないですか! 彼の人格を操作してまで、隔離する必要がどこに……!」

 僅かな時間の後、執務室に、リーゼロッテがやってきた。念話で呼び出したのだろう。

「連れて行け」

「はい、お父様」

 ロッテは、暴れる女性を拘束する。

「提督!!」

 女性は……引きずられるように、退室していった。

 グレアムは、一人……闇の書のレプリカを手に、ぼやいた。

「やれやれ…………結局、わたしが動かなければならんとは、な」

 

――ギィイ……!!

 

 ガラスを引っかくような……粗悪なハードディスクを読み込むような、不快な音を立て……ベルカ式魔方陣が展開する。そして……

 

「守護騎士『ヴォルケンリッター』、システム……起動」

 

――ギィイイイイイイイイイイイイイイイイインッ!!!

 

「…………吾妻秀人。君は、最高評議会への手土産とさせてもらおうか」

 

 魔力光が……酷薄な笑みを、照らし出した。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 出撃を前にして、転送装置の前に集合した秀人たち。だったのだが……

「……」

「……」

「……」

 秀人、カレン、オウル……三者三様の理由から、沈黙していた。

「うぅー……」「あぅー……」

 ここ最近、ぎくしゃくしている三人を見てきた双子が、落ち着き無く動き回っていた。

「こぉら、少しは落ち着きなさい……」

 アーデが諌める。

「……じゃ、行くか」

 思考を切り替え……現場へと転送された。

 

 

 これまでの任務であれば、転送されては即戦闘……というパターンだったのだが。

「反応、一つだけ……?」

 索敵したアーデが、不可解そうに呟いた。

「一つ?」

「なぁんだ……つまんないの」

 カレンが、やる気を無くしたように気を抜き……

 

――――とんっ。

 

 最初、オウル以外の誰も、それを感じなかった。行軍中の凶鳥部隊、その陣形のど真ん中に…………

「な……!?」「いつの間に……!!」

 

――漆黒のプレートメイルに身を包んだ騎士が、出現した。

 

『…………』

「――散開ッ!!」

 全員が、即座に飛びのき……

 

――パンパンパンッ!!

 

 双子の発砲した拳銃の弾丸が、鎧の継ぎ目を狙う。

「はぁあッ!!」「だぁあっ!!」

 カレンの刀。秀人の拳が、集中して降り注ぐ。

 明らかなオーバーキル……秀人たち自身も、そう考えた。だが……

防ぐのでも……避けるのでもない。

 

――チュインッ!!

 

 鎧の表面で弾丸の弾道を逸らし……秀人とカレンの眉間へと誘導したのだ。

「「!!」」

回避に成功したのは、幸運だった。だが、それにより体勢を崩され……

 

――ゴギャッッッ!!

 

「がぁっ……!!」

 あまりにも重い拳が、秀人をガードの上から、殴り倒した。

 そして、空いていた方の手で、腰に提げられた大剣を抜き放ち……

 

――ガキイィンッ!!

 

 カレンを刀ごと、吹っ飛ばす。

「うわっ! お兄ちゃん、ごめんッ!!」「ご、ごめんなさいお姉ちゃん……!」

 まさか、自身の攻撃が……味方へ跳ね返されるとは考えもしなかっただろう。

 射撃を中断し、距離を保つ。

 

「い、いてて……」

 明らかに折れた腕を庇いながら、素早く立ち上がる。

「ひゃー……刃こぼれしちゃった……」

 が、何とか曲がりはしなかったらしい。

 

 騎士は、凶鳥部隊に取り囲まれながらも……余裕を感じさせていた。

 まだ、仕掛けてくる気配は無いが……

「おい、オウル……どーすんだ」

 明らかに、今までの敵とは違う。力だけではなく……研ぎ澄まされた『技』をも、備えている。

 そう、これはまるで……

 

「こいつ……守護騎士だぞ」

 

 そう。闇の書の支配の下……秀人を瀕死に追い込んだ、ヴィータと同格。

「気をつけろ。今までとは違う」

「ほう……こいつが」

 オウルは、秀人の言葉に……笑った。

 

「――ウチと双子、秀人とカレンとアーデルハイドの2チームに分かれろ。前後左右、互い違いに波状攻撃」

 

 指示は迅速だった。

「はいはーい」

 カレンは刀を納め、ブックホルダーから分厚い大判の本を携える。

『…………』

――ジャキンッ!!

 

 守護騎士が大剣を振るうのと同時……オウルが、鉄塊を振りかぶって突撃した!

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

『守護騎士の反応、感知しました』

「……………………チッ。やっぱりか」

 リーゼの報告に、はやては舌打ちで返した。

『どうやら、我々と管理局の他にも……闇の書を狙う勢力があるようですね』

 これで、二度目だ。

「すぐに向かうよ」

『了解です、では、早速…………送、の、…………準、を…………』

 ……が、念話にノイズが混じり……途切れてしまった。

「あ……? おいコラ、バグってんぞ!? おーい!?」

 そして……はやては気づいた。

 海鳴市の通り……平日昼間だというのに、妙に人通りが少ない……というか、ゼロであるということに。

 

「…………」

 即座に武装……焔の魔剣を握り、ブラッディダガー、ナイトメアを発動準備する。

 

――ブゥウン……

 

 ……古いブラウン管のテレビが点くような音を立てて、転送魔方陣が展開した。

 そして、現れた敵は…………

「…………おいおいおい、何の冗談だよこりゃあ……」

 思わず、攻撃魔法を発射するのを停止し……観察する。

 

 小柄な体躯に、ロングスカートのような外装。顔はヘルムで隠されているため、見ることは出来ず……いや、もしくは、アレが素顔なのかもしれない。そして何より、手甲で武装された手で握っているのは……杖。

 三日月のような丸いシルエットを持ち、中心に漆黒の宝玉を据えた、その杖は。

 

――高町なのはの愛機、レイジングハートに瓜二つだったのだ。

 

「……なかなか、面白いことするじゃないの」

 なのはは一度、『湖』にリンカーコアを蒐集された経験があった。ならば目の前の敵は、そのデータを守護騎士プログラムに入力した……

「……アイツのコピーってことか」

 

――ジャキッ。

 

 その先端……銃口に相当する部位が、はやてに照準を合わせる。そして。

 

――キュゴオオオオオオオオオオオオオンッ!!!

 

 超威力の砲撃が、はやてに発射された。

「っくうううううううううっ!! ハンパねェ……!!」

 実は、直にその砲撃を目にするのは初めてだったはやて。

 

――ズガガガガガガガガガガガッ!!!

 

 体勢を立て直し……誘導弾を一挙にぶっ放す!

『…………』

 

――ガギギギギンッ!!

 

 偽者が展開したシールドに、全て阻まれる。

 大威力の砲撃と、堅牢な防御。まさに、高町なのはという砲撃魔導師そのもの、といった特徴。

「だああああああああああっ!!」

 カートリッジを消費し、威力を底上げされた魔剣の刃が、偽者のシールドに突き刺さり……

 

――パキィンッ!!

 

 砕いた。

 そして、馬鹿の一つ覚えのように砕けたシールドを再展開しようと……

「今の……高町だったら、再構成するより先に、まずは砲撃をブチ込んでくるッ!!」

『…………』

 ……宿敵だけあって、戦法もよく理解している。

 

――ガキィン!!

 

 偽者を蹴り飛ばし……

 

「この失敗作が……スクラップにしてやるよっ!!」

 

 再び、焔の魔剣を振り上げる!

 

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