魔法少女リリカルなのはties 作:ハルハルharuharu
はやての元へ急ぐリーゼ。
だが、その進路を、幾分見慣れた人物が塞いでいた。
「貴様か」
「…………」
秀人たちに『追跡者』と名乗った、仮面の男である。
「貴様は一体、何を目的としているのだ……?」
不可解だった。
徹頭徹尾、阻んでくるならいざ知らず……以前、泥騎士を処断した後に支援を行った。何か目的があるのだろうが、迷走しているかのような印象さえある。
「…………」
――バゥッ!!
返答は、拳だった。
「!」
捌き、下がる。
「……貴様こそ、どういうつもりなのだ」
低く、感情を抑えた声で、逆に聞いてきた。
「なぜ、貴様が『表』に出てきている。貴様はあくまで、サブの筈――」
「……」
黙秘。
――バババババババババババババババッ!!!
魔力刃を掃射する。それら全てを、ホイールプロテクションで防ぎきり……高速バインドをリーゼに仕掛ける。
「メインプログラム…………『テンタトレス』を、なぜ実行しない」
「……!」
その名称を耳にした瞬間……ポーカーフェイスが、はっきりと強張った。
「あれこそ、闇の書の真髄。闇の権化…………」
「……黙れッ!!」
――ガォンッ……!!
魔力の大玉が炸裂する。
「む……」
追跡者は、その勢いを殺さず……自らの腕の上を滑らせるように、大玉を弾いた。
――ギャリイイインッ!!
リーゼの魔力刃と、追跡者の防御が衝突しあい、魔力光を散らす。
「あれは……あのプログラムだけは、二度と動かさん!」
「二度と……か。なるほど」
蹴りを相殺し、拳を応酬し、攻撃と防御がめまぐるしく入れ替わる。
「吾妻秀人によってメインプログラムが停止させられ…………その隙に、己をメインに挿
げ替えたというわけか」
攻防を繰り広げながら、追跡者は、リーゼの僅かな反応から、己の推論の正否を明らか
にしていく。
「だが、不可解だ。いくら己をメインにしようとも、闇の書の機能であれば、再び『テ
ンタトレス』がメインに差し戻される設定になっているはず」
――バチンッ!!
虎バサミのような設置バインドが、追跡者の足を挟み潰す。
――バゴンッッ!!
砲撃がその隙を捉え……するっ、と、蜃気楼のように通り抜けた。
「幻術……」
特に慌てる様子も無く、索敵する。
――ガシッ!!
頭に触れる感触を覚え、回し蹴りを放つ。
「!」
回し蹴りは、追跡者の腕を確かに捉えた。
腕を庇い後退する追跡者。
だが、追跡者は、ダメージと引き換えに、リーゼから情報を引き出していた。
「……そうか。闇の書の主は、設定そのものに介入したのか」
「……」
忌々しげに唇を噛む。
「『水門』……よく考え付いたものだ。源流……闇の書の設定からの干渉を断ち、独自のプ
ログラムとして動くようにするなど」
――バシュッ!!
地面が隆起し、刺し貫く。
「力は大きく削がれたようだが……策謀を巡らす小賢しさを獲得したようだな」
が、またも幻術で逃げられる。
「とんだ狸だな。わが姿を模して、従属していると思わせて……その実、主を誘導していたとは」
虚空より、紛れもない侮蔑がぶつけられる。
「いや……違うな」
そこで、言われっぱなしだったリーゼが、初めて反論した。
「秀人に勝ちたいというのは、紛れも無い主のご意思……そして」
――バキィンッ!!
「……!」
輪投げのように連続射出されたフープバインドの一つが、姿を消していた追跡者の実体
を掴み取った。追跡者は煙幕を張り、照準から逃れる。
リーゼは、構わずに勘で砲撃を発射した。
――ドゴオオオオオンッ!!
「八神はやてに従属しているのは、私の意志だ」
煙幕の向こうから、追跡者が歩み出る。
気配は…………二つ。
「なに……!?」
幻術の可能性も考慮し、念入りにサーチを行う。
「力の大部分を封じられて尚、これほどとは……」「曲がりなりにも、古代ベルカの遺産、といったところか」
だが、結果は変わらず…………目の前にいる二体の追跡者は、どちらも紛れも無い実体だった。
「一つの身体に……融合していたというのか……」
驚愕ともつかない言葉を搾り出す。
「……さて、我ら二人を相手に、どう戦う?」
二対一の戦いが、始ま……
「――だァらっしゃあああああああああああああああ!!」
……る前に、追跡者の片方を、突如飛来した鉄球が弾き飛ばした。魔法での防御は間に合っていたものの、強制的に後退させられる。もう片方は、余裕で回避している。たったそれだけのことで、リーゼは、ある程度の予想をつけていた。
「一体は魔法、残る一体は肉弾戦に特化しているようなの……でも、見分けがつかないのが、ちょっとめんどいの」
「ハッ……どっちがどっちでもかまわねーよ」
ヴィータとアイが、リーゼに並び立った。
「お前たち……なぜ……」
ぽん、とリーゼの背をアイが叩き、ヴィータがグラーフアイゼンをガシャッ、と担ぐ。
「助太刀だ。決まってんだろ」「ま、アイは戦闘はからっきしだけど……目はいいの。幻覚くらいなら、ぱぱっと見破ってやるの」
「さて……」
ヴィータは、目の前の追跡者たちを、じろりと睥睨し……
「アタシら三人を相手に、どう戦う?」
ニヤリと、好戦的な笑みを浮かべた。
◆ ◆ ◆ ◆
「はぁっ、はぁっ……! このっ……!!」
もう、何度目になるかもわからない。
接近してきた騎士にインパクトを浴びせ、動きを押しとどめる。
――ギチ、ギチ……!!
が、騎士は既に、インパクト程度ではたじろがなくなっていて……構わず、四本の腕を振り上げ、四つの凶器……大剣、鉄槌、槍、拳を繰り出してきた。
大剣を弾き、鉄槌を受け止め、槍を脇で挟み潰す……ところまでは、よく凌いだと賞賛してもいいだろう。だが、いくら秀人とはいえ、四肢はあくまで四肢でしかない。
最後の一つ……常人の二倍近くに伸長した腕。強靭なバネから繰り出されるその拳を、腹部にモロにくらってしまった。
「ぐ、があッッ……!!」
どろっ……と、血液と胃液が混じったモノを吐き出す。当然、即座に治癒するのだが……鈍痛のようなダメージと疲労は、確実に蓄積していた。
ただ、この敵を打倒すればいいというのであれば、連続カウンターで攻撃を逸らし受け流し、ゼロ距離で拡散砲撃を全身に叩き込んでやれば何とかなるだろう。隔離世界での荒行や、日々の鍛錬は伊達や酔狂ではない。単体の守護騎士であれば、身一つで退けられる程度の実力は身に付いていた。
だが……
「げふッ……か、レン……! 下、がれ……!」
――ガシッ!!
刃を手で受け、騎士と距離を取らせる。
「なんで……なんで、なんで邪魔するのヒデくん……? そいつは殺す……オウル姉さんを傷つけた、そいつは私が細切れにして殺すんだからあぁ…………! 邪魔するなあああああああああああああっ!!」
「! バカ、よせ!!」
反撃の可能性も考えずに騎士にまとわり付き、それどころか、秀人にさえ襲い掛かってくるカレンの存在が、ネックになっていた。
受け流せば、間違いなくカレンに当たる。激昂し無防備な体を晒しているカレンには、それだけで致命傷となるだろう。
ラーファとクライアは、ダウンしたまま動けず、アーデルハイドが必死に治療を続けていた。だが、その力の大半は、腹部をブチ抜かれたオウルに注がれており……双子の回復は、どうしても遅れている。
――チリッ……
……頭の片隅に、何かがある。それは間違いなく、この状況を打開するための物の筈。
だがそれは、モヤが掛かったように、正体を掴めない。
(まだ、あのタバコが残ってやがるのか!)
……レジアスの鉄拳と蒼炎により、忘却剤の効果の大半は除去されたが……まだこうして、効果の一端は、こびりついていた。
(何だ! 何を忘れてるってんだ俺は!?)
そうこうしているうちに、騎士の大剣が、カレンめがけて振り下ろされる。
――ガキンッ、ギャリリッ……!!
カレンも、よく回避した。
だが、槍と拳は、確実にカレンを直撃するコースであり……攻撃や防御は、間に合いそうも無かった。
「くっそ……!」
秀人は、また『いつものように』その身を騎士とカレンの間に滑り込ませた。
――オオオオオオッ…………!
刃を体で受け止めれば……最低でも、カレンだけは無傷で済む。
そう考え、攻撃をその身に……
――…………ウォオオオオオオオオオンッ!!!
甲高い唸り声を上げ、重量級の鉄馬が、騎士を跳ね飛ばした!
『……! …………、!』
二度、三度と跳ね飛ばされ……ようやく、停まる。
「ンなッ……!?」
呆然と突っ立っていた秀人の前で、その鉄馬は動きを止めた。
――ガロロロロロロ……
粗いアイドリング音を奏で、停車する鉄馬。
「あ…………バイク?」
僅かに正気を取り戻したカレンが、きょとんとした調子で言った。
そう。見覚えがあるどころの騒ぎではない。それは間違いなく……秀人が苦楽を共にしてきた、ZZR600改だった。
そして、そのシートに腰を下ろすのは……
「やれやれ…………死ぬかと思ったぞ。キミはよく、こんなもので戦場を走り回ってこられたものだ」
「ふー……。ま、僕はそこそこ慣れてきたけどね」
法衣のようなバリアジャケットに身を包む、最年少執務官。
民族衣装のようなバリアジャケットを羽織る、中性的な少年。
「クロノ……それに、ユーノ!?」
クロノ・ハラオウンと、ユーノ・スクライアだった。
「おまえら、どうして……」
おろおろと狼狽する秀人に、バイクから降りた二人は、つかつかと詰め寄ってきて……
「 「 一発殴らせろ、この馬鹿ッ!! 」 」
……力いっぱい、殴りつけたのだった。