魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第六十六話

 

 ……参った。

 

 開始早々、私はちょっとだけ焦っていた。

 

目の前にいる高町そっくりの守護騎士……『殲滅者』。

 兜や、甲冑の一部を捨て身軽になったと思ったら、マジで俊敏になってやんの。

「……らぁっ!!」『はァっ!』

 私の黒炎の拳と、『殲滅者』の紅蓮の拳が交錯する。

 

――バンッ!!

 

 クロスカウンター……の寸前で、死に手だった左手で、互いの拳を受け止める。

「く……! 魔法、パクりやがったな……!?」

『殲滅者』の紅蓮の拳。それは、私が放ったのと同じ……フランメ・シュラークだった。

 が、『殲滅者』はすっとぼけた口調で返してきた。

『心外です。私の焼滅の力を、そんな副次作用の炎と同じに扱われるのは』

「大人しく、高町の魔法でも真似てりゃいいだろ!」

『わたしなりに、オリジナルとの差別化を図ってみました』

「図るな鬱陶しい!」

 ギリギリと拮抗し合う。膂力が同格と察すると同時に、魔力スフィアを展開する。だが、『殲滅者』も同時に、スフィアを展開していた。

「ブラッディ……!」『パイロ……!』

 さすが、高町をベースにしているだけある。二刀こそ使わないが、近接戦闘のセンスも、私に届く程だ。

 こうなったら、とことん張り合ってやらぁ!

 

「ダガーーッ!!」『シューター!!』

 

――ガガガガガガガガッッッ!!

 

 威力も、最大展開数も、ほぼ同じ。

 あー、くっそ。今更だけど、さっさと封印解けないかなぁ。今のタイミングじゃ、威力の低いダガーしか使えない。ナイトメア(砲撃)があの速度で出せれば、競り勝っていたんだけど……

「って、いかんいかん!」

 まぁた甘えが出てしまった。サポートを当てにするより先に、自分の力でなんとかしなきゃ。じゃないと、また道具に振り回されて、隙を作ってしまう。

 基本スペックがほぼ互角なら……あとは、創意工夫で補えば良い。そう言った意味じゃ、こいつもまた、超えるべきハードルってとこか!

「だぁっ!!」

 

――バォンッ!!

 

 焔の魔剣で、土煙ごとなぎ払う。

 

――ガキイインッ!!

 

 槍の長い柄で受け流し、勢いを殺さず後退。

 ……マズい。離れられたら、槍の間合いだ。

 さっきみたいにもう一度、縮地で!

 魔力を収めて……!

 

『思い出しました』

 

いきなり、目の前に『殲滅者』のどアップが迫った。

『あなたの歩法……それは、この国の古武術のものですね』

「っ!!」

 悟られた!

『確かに、初動を見破られないのは大変有利……ですが、その歩法を行う間際、魔力の気配が消える』

 

――ゴフッ!!

 

 肋骨が纏めて砕けるような痛みを伴って、騎士服に炸裂する炎。

『魔力の気配が消えた瞬間を狙って、大体の位置を掴めば……』

『殲滅者』は、シュッ、と手を振って、魔力スフィアを生成して……

 

――この通りです。

 

 一気に、発射した。

「……!!」

 魔力を納めていたせいで、相殺は無理だ。焔の魔剣で打ち払い、切り払い、騎士服に注げるだけの魔力を注いで、体で受け止める。

「くぅ……っ! 痛いだろ、この野郎!!」

 負けじと魔力弾で応戦する。だけどそれは、『殲滅者』に残らず回避され、防御され、相殺されてしまう。

 槍を構え……先端に、大きめの魔力スフィアが展開される。

『ブラストファイアー』

 

――……ゴオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!

 

 炎を纏った、炎熱の砲撃!

「スレイプニルッ!!」

 跳ね返せッ!!

 ドンッ! と、翼越しに衝撃と熱が伝わる。けど、問題ない。ギリギリだけど、跳ね返すか、逸らすかして……

 

『ディザスター・ヒート』

 

「……え?」

 砲撃の衝撃が、二度、三度と重なり……気付いたら、吹っ飛ばされていた。

「……が、ああああッ……!!」

 地面を何度もバウンドし、摩り下ろされてしまうような錯覚を感じた。

「…………!!」

 ぐわんぐわんと揺れる頭で、思考を維持する。

 背中に少し違和感を感じると思ったら、翼が片方、もげていた。

「砲撃……三連射しやがったのか……!」

 これでは、いくらスレイプニルでも耐え切れない。

「……くそっ!」

 スレイプニルを放棄して、両手で焔の魔剣を構える。

 高町だって、こんな大威力の魔法を連射なんてしなかった。オリジナルのデータに加え、守護騎士や、蒐集してきた魔導師の技術まで加算されている。

「……正攻法が、通じないなら……」

 

――……ずるっ。

 

 ……私の影が、魔力を帯びて蠢く。闇の書の力の一端……影。

あらゆる影を操作できた全盛期とは違い、『自分の影』に規模は限定されるけど……変幻自在の影の刃は、そう簡単には防げない。

『……』

『殲滅者』が槍を構え、突撃姿勢に入る。

(……そのまま突っ込んで来い)

 フラフラになる……演技をして、誘い込む。焔の魔剣には、弱弱しい焔を灯して、疑似餌のように揺らす。

『参ります』

『殲滅者』は、ぐっと力を込めて……

 

――――ドンッッ!!

 

 アホ金髪のトップスピードにも匹敵する速度で、猛烈な突撃をかけてきた!

(かかりやがった!!)

 速度から、到達時間を計算して……360°に、影の剣山を形成する!

『!!』

『殲滅者』は、慌てて両手をクロスし、衝撃に備えた。けど、そんな程度で……私の魔法が、防げるものか!

「ブッ刺されええええええええええええっ!!」

 剣山を更に伸長させ、その体を、急所を外して刺し貫く!

 

――ザクザクザクザクザクザクザクザクッ!!

 

両腕、両足、脇腹…………臓器がある箇所を避けて、串刺しになる。

「…………勝負ありだ」

 串刺しにされ……剣山に、覆いかぶさってグッタリしている『殲滅者』。死んではいないだろうが、動けない。

 ふう……まったく、手間かけさせやがって。

 魔剣を、鞘に収め…………

 

 

 

『――――――ええ、勝負ありです』

 

 

 

――……バキィンッ!!

 

………………手足を、拘束されていた。

「……え?」

 私は、目の前にぶらさがる『殲滅者』を見て…………その姿が、滲むように掻き消える。

「し、まった……!」

 ぐるっ、と、さっきまでの場所へ、唯一自由になる目を向ける。今度は逆に、にじみ出るように、その姿が顕になる。

そこには、突撃する前から、一歩も動いていない、『殲滅者』の姿があった。

……当然、無傷で。

 悔しさに、己の迂闊さ、浅はかさに歯噛みする。

「幻術……!!」

『ご明察』

 ゆっくりと……余裕の足取りで、近づいてくる。

 そして思い出したように、魔力スフィアを一つ、出現させる。

『その刃は、厄介です。幻術で無ければ、獲られていました。ですが……』

 

――――バッ!!

 

 閃光弾が、炸裂した。

『影が無ければ、発動できない』

 コレで……もう、影は操れない。それどころか、バインドを掛けられ、手足さえ動かせない。

 

――ごりっ。

 

 胸元に突きつけられた槍が、硬い感触を騎士服越しに伝えた。

『終わりです。…………武装を解いて、降伏しなさい』

 撃たれれば……多分、軽く死ねる。降伏すれば………………。そこまで考えて、薄ら笑いが浮かんできた。

 答えは、決まっている。

 

「――クソ喰らえ」

 

 

――――ズバァアアアアアアアアアンッ!!

 

 

 超・至近距離……いや、ゼロ距離で、遠慮なしの一撃が決まった。

「……」

 痛みは、感じない。ただ、篭もるような熱が、体中を嘗め尽くした。

 ぼうっと空を仰ぎ、焔の魔剣を目の前に掲げる。

「……は」

 刀身は半ばから融解し、カートリッジ機構は全損している。再構築は…………多分、無理。ばらばらと、保持されなくなった弾丸が、掌に落ちる。

「……」

 負けた。

魔法でも、剣技でも、戦術でも……完膚なきまでに、負けた。

『安心してください。命までは、取りません。……書の使用者の下へ、連行させては頂きますが』

 勝者の『殲滅者』が、歩いてくる。

『ですが、あなたは誇るべきです。このわたしを相手に、ここまで粘るとは思いもよりませんでした』

 腕が筋力を失い、地面に落ちる。焔の魔剣は、手を離れた。

『あなたの守護者…………リーゼ。彼女もじきに、捕獲されるでしょう』

(リーゼ……)

 私の師匠。その身を犠牲にしてまで、私を鍛え上げようとしてくれた、大事な眷族。

 秀人を倒すことは、適わなかった。私は、負けてしまった。

 私を見下ろす『殲滅者』の、青い瞳を見返す。

 青い瞳。自然と、あいつを連想した。

(『鉄槌』……)

 小さな守護騎士。あいつの敵を取るための力は、及ばなかった。

 

 ここで回収されて…………きっと、ロクなことにはならない。

 けど……もう、仕方ないんだ。

 だって、もう立てない。もう、拳を握ることも出来ないんだから。

(もう、いいや……)

 諦めが、思考を緩やかに支配する。

『殲滅者』の手が、私の瞼を閉じようとしている。

 

 

――――…………ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!

 

 …………上空を、桜色の光条が貫いた。

「たか、まち……?」

 あいつ……戦っているのか。誰とだろう。『盾』か、『剣』か……それとも、他の誰かか。

「ハッ……」

 よくやるわ。あいつだって、最初は『湖』にリンカーコアを抉り出されて、ボロボロだったくせに…………

 

「…………あ」

 

 ぱきっ……と、諦め一色の思考に、亀裂が入った。

 そうだ……そうだよ。あいつだって……高町だって、守護騎士に、私に負けたんだ。

 リンカーコアを、力を奪われて……ただの無力なガキにされて。

 

――それでもあいつは、這い上がってきた。

 

 古臭い、時代遅れの剣術を身に付けて。

 少ない魔力を、一片の無駄も無く運用する技術を武器にして。

 ベルカの騎士に、白兵戦を挑むようなリスクを背負ってまで。

 

――戦場に、舞い戻ってきた。

 

「く……!」

 ウザいくらいに、つっかかってきて。しつこいくらいに、私に関わろうとしてきた。

「うう…………!」

 起きろ、起きろ、起きろ……!

 笑ってんじゃねぇよ、膝! 

 曲がってんじゃねぇよ、足腰!

 こんな姿、あいつに見せたら笑われる!

『なんと……まだ、』

「う、う……あああ……!!」

 あいつなら……! 高町なのはなら!

 

 

――――こんな程度じゃ、絶対に諦めない!

 

 

「っああああああああああああああああああああああああああっっ!!!」

 砲声を上げて、立ち上がる!

『……!!』

「っしゃあああああああああああっ!」

 射程内にいた『殲滅者』を殴り飛ばす。

『立ち上がったことは、素直に賞賛しましょう……………………ですが、無駄な足掻きです』

 じゃきっ、と、槍を私に向ける『殲滅者』。

『もう、魔力も体力も、限界でしょう』

 確かに……魔法はもうロクに出せない。剣だってヘシ折れて、体力だって限界をとっくに突破している。

……それが、どうした。

無駄だろうと、みっともなかろうと…………足掻ける限り、足掻いてやる!

 

「…………無礼を、許せ」

『……何の話ですか』

あぁ、そうだ……こいつは、乗り越えるハードルなんかじゃない。今現在、目の前に立ちはだかる壁だ。

 

……ブチ破るべき、障害だ!

 

 考えろ。この先なんて無い。次なんて無い。段階なんて無い。今、私がすべきことは…………たとえここで果てようと、目の前の敵を倒すことだ。

 剣も、魔法も…………どちらも尽きた無手。

 拳を握り…………

 

――ちゃりっ

 

 ……いや、無手じゃない。まだ、手はある!

「………はぁあああああ」

 深く息を吐き、意識を集中する。

 半身の姿勢で……左手を掲げ……右手を、腰溜めに。

 

『……いいでしょう。今度こそ、完膚なきまでに、叩き潰して差し上げます……!』

『殲滅者』は再び、槍を構える。あの突撃だ。

 今度こそ、本当に来る。

 

――……ドンッ!!

 

(来た!)

『一か八かのカウンターなど、わたしには通用しません』

 一か八か、なんかじゃない。

 これは……この技は。

常識はずれの大馬鹿が、無い頭を振り絞った末に編み出した、一撃必殺………………最強の、必殺技なんだ!!

 

「秀人…………借りるよ!!」

 

――瞬間。全ての動きが、止まった。

灰色の世界。時間が止まった中、私だけが時間の流れに乗っているような……神速の、世界!

 

「おおおおおおおおおっ!!」

 槍の穂先。そして、発射されたばかりの砲撃魔法に………………握りこんだ、魔力満タンのカートリッジを、叩きつける!!

 

――…………!

 

 音さえも置き去りに、炸裂する魔力。

 第一波が、槍の穂先を減衰させる。

 第二波は、『殲滅者』の砲撃魔法をも巻き添えに、『殲滅者』へと押し寄せる。

驚愕に目を見開いた『殲滅者』は、それでも防御を試みる。

 ……ここだ。

 技のタイミングは……あいつから、嫌というほど学んでいる!

「はああああああああああああああああっ!!!」

 残された最後の魔力を、拳に込める!

 

「――ハンマーシュラァアアアアアアアアアアアアアクッッ!!!」

 

 

――世界に、色彩が戻る。

 

 私の拳は……『殲滅者』の身体の中心線へと吸い込まれるようにヒットした。

 殴り飛ばされ、即座に立ち上がる『殲滅者』。

 けれども、すぐにその膝が、かくん、と抜け………………

 

 

『――――……………………見事、です』

 

 

 どうっ…………と、倒れ伏した。

「…………」

 ぜい、ぜい、と。自覚無く、必死な呼吸音が耳に届く。

「立って、る…………私、」

 頭が理解するまで、その状況を観察し…………

 

「勝っ、た……………………」

 

 認識した瞬間、私の意識もまた、ぷっつりと限界を迎えた。

 

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