魔法少女リリカルなのはties 作:ハルハルharuharu
……参った。
開始早々、私はちょっとだけ焦っていた。
目の前にいる高町そっくりの守護騎士……『殲滅者』。
兜や、甲冑の一部を捨て身軽になったと思ったら、マジで俊敏になってやんの。
「……らぁっ!!」『はァっ!』
私の黒炎の拳と、『殲滅者』の紅蓮の拳が交錯する。
――バンッ!!
クロスカウンター……の寸前で、死に手だった左手で、互いの拳を受け止める。
「く……! 魔法、パクりやがったな……!?」
『殲滅者』の紅蓮の拳。それは、私が放ったのと同じ……フランメ・シュラークだった。
が、『殲滅者』はすっとぼけた口調で返してきた。
『心外です。私の焼滅の力を、そんな副次作用の炎と同じに扱われるのは』
「大人しく、高町の魔法でも真似てりゃいいだろ!」
『わたしなりに、オリジナルとの差別化を図ってみました』
「図るな鬱陶しい!」
ギリギリと拮抗し合う。膂力が同格と察すると同時に、魔力スフィアを展開する。だが、『殲滅者』も同時に、スフィアを展開していた。
「ブラッディ……!」『パイロ……!』
さすが、高町をベースにしているだけある。二刀こそ使わないが、近接戦闘のセンスも、私に届く程だ。
こうなったら、とことん張り合ってやらぁ!
「ダガーーッ!!」『シューター!!』
――ガガガガガガガガッッッ!!
威力も、最大展開数も、ほぼ同じ。
あー、くっそ。今更だけど、さっさと封印解けないかなぁ。今のタイミングじゃ、威力の低いダガーしか使えない。
「って、いかんいかん!」
まぁた甘えが出てしまった。サポートを当てにするより先に、自分の力でなんとかしなきゃ。じゃないと、また道具に振り回されて、隙を作ってしまう。
基本スペックがほぼ互角なら……あとは、創意工夫で補えば良い。そう言った意味じゃ、こいつもまた、超えるべきハードルってとこか!
「だぁっ!!」
――バォンッ!!
焔の魔剣で、土煙ごとなぎ払う。
――ガキイインッ!!
槍の長い柄で受け流し、勢いを殺さず後退。
……マズい。離れられたら、槍の間合いだ。
さっきみたいにもう一度、縮地で!
魔力を収めて……!
『思い出しました』
いきなり、目の前に『殲滅者』のどアップが迫った。
『あなたの歩法……それは、この国の古武術のものですね』
「っ!!」
悟られた!
『確かに、初動を見破られないのは大変有利……ですが、その歩法を行う間際、魔力の気配が消える』
――ゴフッ!!
肋骨が纏めて砕けるような痛みを伴って、騎士服に炸裂する炎。
『魔力の気配が消えた瞬間を狙って、大体の位置を掴めば……』
『殲滅者』は、シュッ、と手を振って、魔力スフィアを生成して……
――この通りです。
一気に、発射した。
「……!!」
魔力を納めていたせいで、相殺は無理だ。焔の魔剣で打ち払い、切り払い、騎士服に注げるだけの魔力を注いで、体で受け止める。
「くぅ……っ! 痛いだろ、この野郎!!」
負けじと魔力弾で応戦する。だけどそれは、『殲滅者』に残らず回避され、防御され、相殺されてしまう。
槍を構え……先端に、大きめの魔力スフィアが展開される。
『ブラストファイアー』
――……ゴオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!
炎を纏った、炎熱の砲撃!
「スレイプニルッ!!」
跳ね返せッ!!
ドンッ! と、翼越しに衝撃と熱が伝わる。けど、問題ない。ギリギリだけど、跳ね返すか、逸らすかして……
『ディザスター・ヒート』
「……え?」
砲撃の衝撃が、二度、三度と重なり……気付いたら、吹っ飛ばされていた。
「……が、ああああッ……!!」
地面を何度もバウンドし、摩り下ろされてしまうような錯覚を感じた。
「…………!!」
ぐわんぐわんと揺れる頭で、思考を維持する。
背中に少し違和感を感じると思ったら、翼が片方、もげていた。
「砲撃……三連射しやがったのか……!」
これでは、いくらスレイプニルでも耐え切れない。
「……くそっ!」
スレイプニルを放棄して、両手で焔の魔剣を構える。
高町だって、こんな大威力の魔法を連射なんてしなかった。オリジナルのデータに加え、守護騎士や、蒐集してきた魔導師の技術まで加算されている。
「……正攻法が、通じないなら……」
――……ずるっ。
……私の影が、魔力を帯びて蠢く。闇の書の力の一端……影。
あらゆる影を操作できた全盛期とは違い、『自分の影』に規模は限定されるけど……変幻自在の影の刃は、そう簡単には防げない。
『……』
『殲滅者』が槍を構え、突撃姿勢に入る。
(……そのまま突っ込んで来い)
フラフラになる……演技をして、誘い込む。焔の魔剣には、弱弱しい焔を灯して、疑似餌のように揺らす。
『参ります』
『殲滅者』は、ぐっと力を込めて……
――――ドンッッ!!
アホ金髪のトップスピードにも匹敵する速度で、猛烈な突撃をかけてきた!
(かかりやがった!!)
速度から、到達時間を計算して……360°に、影の剣山を形成する!
『!!』
『殲滅者』は、慌てて両手をクロスし、衝撃に備えた。けど、そんな程度で……私の魔法が、防げるものか!
「ブッ刺されええええええええええええっ!!」
剣山を更に伸長させ、その体を、急所を外して刺し貫く!
――ザクザクザクザクザクザクザクザクッ!!
両腕、両足、脇腹…………臓器がある箇所を避けて、串刺しになる。
「…………勝負ありだ」
串刺しにされ……剣山に、覆いかぶさってグッタリしている『殲滅者』。死んではいないだろうが、動けない。
ふう……まったく、手間かけさせやがって。
魔剣を、鞘に収め…………
『――――――ええ、勝負ありです』
――……バキィンッ!!
………………手足を、拘束されていた。
「……え?」
私は、目の前にぶらさがる『殲滅者』を見て…………その姿が、滲むように掻き消える。
「し、まった……!」
ぐるっ、と、さっきまでの場所へ、唯一自由になる目を向ける。今度は逆に、にじみ出るように、その姿が顕になる。
そこには、突撃する前から、一歩も動いていない、『殲滅者』の姿があった。
……当然、無傷で。
悔しさに、己の迂闊さ、浅はかさに歯噛みする。
「幻術……!!」
『ご明察』
ゆっくりと……余裕の足取りで、近づいてくる。
そして思い出したように、魔力スフィアを一つ、出現させる。
『その刃は、厄介です。幻術で無ければ、獲られていました。ですが……』
――――バッ!!
閃光弾が、炸裂した。
『影が無ければ、発動できない』
コレで……もう、影は操れない。それどころか、バインドを掛けられ、手足さえ動かせない。
――ごりっ。
胸元に突きつけられた槍が、硬い感触を騎士服越しに伝えた。
『終わりです。…………武装を解いて、降伏しなさい』
撃たれれば……多分、軽く死ねる。降伏すれば………………。そこまで考えて、薄ら笑いが浮かんできた。
答えは、決まっている。
「――クソ喰らえ」
――――ズバァアアアアアアアアアンッ!!
超・至近距離……いや、ゼロ距離で、遠慮なしの一撃が決まった。
「……」
痛みは、感じない。ただ、篭もるような熱が、体中を嘗め尽くした。
ぼうっと空を仰ぎ、焔の魔剣を目の前に掲げる。
「……は」
刀身は半ばから融解し、カートリッジ機構は全損している。再構築は…………多分、無理。ばらばらと、保持されなくなった弾丸が、掌に落ちる。
「……」
負けた。
魔法でも、剣技でも、戦術でも……完膚なきまでに、負けた。
『安心してください。命までは、取りません。……書の使用者の下へ、連行させては頂きますが』
勝者の『殲滅者』が、歩いてくる。
『ですが、あなたは誇るべきです。このわたしを相手に、ここまで粘るとは思いもよりませんでした』
腕が筋力を失い、地面に落ちる。焔の魔剣は、手を離れた。
『あなたの守護者…………リーゼ。彼女もじきに、捕獲されるでしょう』
(リーゼ……)
私の師匠。その身を犠牲にしてまで、私を鍛え上げようとしてくれた、大事な眷族。
秀人を倒すことは、適わなかった。私は、負けてしまった。
私を見下ろす『殲滅者』の、青い瞳を見返す。
青い瞳。自然と、あいつを連想した。
(『鉄槌』……)
小さな守護騎士。あいつの敵を取るための力は、及ばなかった。
ここで回収されて…………きっと、ロクなことにはならない。
けど……もう、仕方ないんだ。
だって、もう立てない。もう、拳を握ることも出来ないんだから。
(もう、いいや……)
諦めが、思考を緩やかに支配する。
『殲滅者』の手が、私の瞼を閉じようとしている。
――――…………ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!
…………上空を、桜色の光条が貫いた。
「たか、まち……?」
あいつ……戦っているのか。誰とだろう。『盾』か、『剣』か……それとも、他の誰かか。
「ハッ……」
よくやるわ。あいつだって、最初は『湖』にリンカーコアを抉り出されて、ボロボロだったくせに…………
「…………あ」
ぱきっ……と、諦め一色の思考に、亀裂が入った。
そうだ……そうだよ。あいつだって……高町だって、守護騎士に、私に負けたんだ。
リンカーコアを、力を奪われて……ただの無力なガキにされて。
――それでもあいつは、這い上がってきた。
古臭い、時代遅れの剣術を身に付けて。
少ない魔力を、一片の無駄も無く運用する技術を武器にして。
ベルカの騎士に、白兵戦を挑むようなリスクを背負ってまで。
――戦場に、舞い戻ってきた。
「く……!」
ウザいくらいに、つっかかってきて。しつこいくらいに、私に関わろうとしてきた。
「うう…………!」
起きろ、起きろ、起きろ……!
笑ってんじゃねぇよ、膝!
曲がってんじゃねぇよ、足腰!
こんな姿、あいつに見せたら笑われる!
『なんと……まだ、』
「う、う……あああ……!!」
あいつなら……! 高町なのはなら!
――――こんな程度じゃ、絶対に諦めない!
「っああああああああああああああああああああああああああっっ!!!」
砲声を上げて、立ち上がる!
『……!!』
「っしゃあああああああああああっ!」
射程内にいた『殲滅者』を殴り飛ばす。
『立ち上がったことは、素直に賞賛しましょう……………………ですが、無駄な足掻きです』
じゃきっ、と、槍を私に向ける『殲滅者』。
『もう、魔力も体力も、限界でしょう』
確かに……魔法はもうロクに出せない。剣だってヘシ折れて、体力だって限界をとっくに突破している。
……それが、どうした。
無駄だろうと、みっともなかろうと…………足掻ける限り、足掻いてやる!
「…………無礼を、許せ」
『……何の話ですか』
あぁ、そうだ……こいつは、乗り越えるハードルなんかじゃない。今現在、目の前に立ちはだかる壁だ。
……ブチ破るべき、障害だ!
考えろ。この先なんて無い。次なんて無い。段階なんて無い。今、私がすべきことは…………たとえここで果てようと、目の前の敵を倒すことだ。
剣も、魔法も…………どちらも尽きた無手。
拳を握り…………
――ちゃりっ
……いや、無手じゃない。まだ、手はある!
「………はぁあああああ」
深く息を吐き、意識を集中する。
半身の姿勢で……左手を掲げ……右手を、腰溜めに。
『……いいでしょう。今度こそ、完膚なきまでに、叩き潰して差し上げます……!』
『殲滅者』は再び、槍を構える。あの突撃だ。
今度こそ、本当に来る。
――……ドンッ!!
(来た!)
『一か八かのカウンターなど、わたしには通用しません』
一か八か、なんかじゃない。
これは……この技は。
常識はずれの大馬鹿が、無い頭を振り絞った末に編み出した、一撃必殺………………最強の、必殺技なんだ!!
「秀人…………借りるよ!!」
――瞬間。全ての動きが、止まった。
灰色の世界。時間が止まった中、私だけが時間の流れに乗っているような……神速の、世界!
「おおおおおおおおおっ!!」
槍の穂先。そして、発射されたばかりの砲撃魔法に………………握りこんだ、魔力満タンのカートリッジを、叩きつける!!
――…………!
音さえも置き去りに、炸裂する魔力。
第一波が、槍の穂先を減衰させる。
第二波は、『殲滅者』の砲撃魔法をも巻き添えに、『殲滅者』へと押し寄せる。
驚愕に目を見開いた『殲滅者』は、それでも防御を試みる。
……ここだ。
技のタイミングは……あいつから、嫌というほど学んでいる!
「はああああああああああああああああっ!!!」
残された最後の魔力を、拳に込める!
「――ハンマーシュラァアアアアアアアアアアアアアクッッ!!!」
――世界に、色彩が戻る。
私の拳は……『殲滅者』の身体の中心線へと吸い込まれるようにヒットした。
殴り飛ばされ、即座に立ち上がる『殲滅者』。
けれども、すぐにその膝が、かくん、と抜け………………
『――――……………………見事、です』
どうっ…………と、倒れ伏した。
「…………」
ぜい、ぜい、と。自覚無く、必死な呼吸音が耳に届く。
「立って、る…………私、」
頭が理解するまで、その状況を観察し…………
「勝っ、た……………………」
認識した瞬間、私の意識もまた、ぷっつりと限界を迎えた。