魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第六十七話

 

「………………ん」

 

 体力の限界を突破し意識を失っていたはやてが、体に伝わる妙な慣性に違和感を覚え、目を覚ました。

 寝起きにぼやける視界に映るのは、薄茶色の毛髪。白いうなじ。

「…………あれ?」

 意識が覚醒するに従って、記憶が思い出されてきた。

「……あれ!?」

『殲滅者』と勝負して、必死に足掻いて打倒して……

そして、今。

 

 

――なぜか、『殲滅者』に背負われていた。

 

 

「な、な、なんじゃこりゃあああああああああああああ!!?」

 当然、慌てた。暴れた。だが、戦闘で消耗した体は、思うように動作しなかった。

『ああ、お目覚めですか』

 飄々とした態度で、えっさほいさとはやてを運ぶ『殲滅者』。

「ああ、お目覚めだとも! だから下ろせ! 離せ! こんちくしょー!」

 耳元でぎゃーぎゃー喚くはやてに若干、辟易したような気配を無表情に漂わせる。

『傷に障ります。あまり、暴れませぬように……我が王』

「傷がなんだこの野郎! いいから下ろせ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………おい、今なんつった?」

 危うく聞き逃してしまうところだったその単語を、確認する。

『……さぁ、何のことやら』

「ざけんなコラ今なんか言ったろ吐け! 吐け!」

 すっとぼける『殲滅者』の首を、はやてが揺さぶる。

『…………はぁ』

『殲滅者』は、諦めて……

 

『我が王、と申し上げました』

 

「…………私、勝ったの?」

 意識が朦朧としていたせいか、実感が乏しいようだ。

『ええ。………………あなたの勝利です』

「………………あ、うん、ええっと……」

 …………実戦での戦闘後に、こうしたやりとりをするのは、実はあまり経験が無かったりする。

「…………とりあえず、下ろせ!」

 同じような体格の…………しかも、宿敵・高町なのはと同じ顔をした相手に背負われているのは、結構気恥ずかしい。

『ダメです。足腰が立たないのでしょう?』

「…………い、いや、そんなことは」

『そうですか。では』

「へ? …………わぁっ!?」

 いきなり『殲滅者』が手を抜き……はやては、『殲滅者』の背中を滑り落ちた。

「なにすんのよー!!」

 踏ん張って、立ち上がろうとするが……立てない。やはり、気力は回復しても、体力や疲労ばかりは、そう易々と回復は出来なかったようだ。

「うがー!!」

『…………世話が焼けますね』

 怒り狂うはやてを、呆れた様子で再び担ぎ上げる。

「ちくしょー……何でお前は平気なんだよー……」

 ようやく大人しく運ばれる気になった。

『…………』

 何も答えない『殲滅者』に首を傾げる。

「つーか、なんでわざわざあっちに……」

『殲滅者』は、フェイトやなのはが戦闘している区域に向かっていた。

 わざわざ、戦闘中の区域に移動する意味とは。

『あの場所に留まり続けるのは、危険と判断しました』

「危険……? ああ、雑魚騎士どもが増援に来るかもしれないって?」

 が、『殲滅者』は頭を振った。

『それもありますが……私を遣わした、闇の書の読み手…………彼奴が、あなたを狙っています』

「……!」

 闇の書の、読み手……つまり、はやての所有物であるはずの闇の書を、無断で悪用する不届き者。

『戦闘中であれ……管理局の目のある場所であれば、そうそう手出しは出来ないはずですからね』

「…………そいつ、誰」

 今までは、その正体がつかめずにいたが……今、敵方から味方に引き込んだ『殲滅者』から、情報を聞き出せる。

(管理局の手前、おおっぴらに動けないとなると…………)

 はやては、粗暴で短気ではあるが、馬鹿ではない。むしろ、そういった策謀には長けている性格だ。

(次元犯罪者? いや、それだとおかしい)

 もし、今回の事件に関与していそうな犯罪者であれば、そういった情報が多少なりとも入ってくる筈だ。それが、容疑者すら上がっていない、となると……犯罪者ではない人間かつ、闇の書の情報を知り、活用方法まで辿り付ける知識の持ち主。

 

(………………管理局内部の人間、か)

 

「……確認なんだけどさ、」

 そう、言いかけた。

『……!』

ぎゅっ、と、『殲滅者』は、はやてを背負う手を、僅かに強張らせた。

 はやては、その理由を即座に思い知る。

 

『ア、アアア……』『ウウウ……』

 

 ふらふらと、しかし、統制の取れた動きで、雑魚騎士の集団が、『殲滅者』の行く手を阻むように現れた。

「……チッ。マジかよこんな時に」

『王、しっかり掴まっていてください』

『殲滅者』は、はやてを背負い……駆け出した。

 

『アアアアアアア……!』

 緩慢な動作で、手にした西洋剣を振り下ろす、または、突き出す雑魚騎士。

 が、はやてを背負った『殲滅者』は、構わずにそのど真ん中を突破する。

 

――ビシュッ!!

 

 防護服の肩が、剣に削り取られる。

 応戦どころか、鎧袖一触、その名の通りに殲滅することさえも可能な『殲滅者』が、手傷を負ってまで敵陣を突破する理由は……

「おい、まさかお前…………お前も、魔力空っぽ!?」

『…………ええ、隠し立てするつもりは、無かったのですが』

 飛ぶこともなく、自らの足で駆けていることが、その証拠。

 腐っても守護騎士。そこいらのアスリート程度の身体能力は、素で備わっているのだろうが……人を背負った状態では、満足に体を動かすことも適わない。

「馬鹿! 私を下ろせ! 下ろして、どっかから応援呼んだ方が確実だろ!」

『従えません』

「何で………… 、おい、なんだよそれ!!」

 聞き返そうとしたはやては、見てしまった。

 

――――『殲滅者』の体が、パズルのピースのように、崩れていくのを。

 

『殲滅者』は、ちらっとそれを目に入れ……構わず、走り続けた。

『私に与えられたのは、『八神はやてを捕獲せよ』という命令。それを実行するための、仮初の肉体情報。それに背く行動をすれば…………使用者に、肉体を没収される』

「……!」

 思い出す。自分が、『鉄槌』に名を聞こうとした時…………不自然な挙動で、その身が掻き消えたことを。

(…………使用者に?)

 では、あれは何故だったのか。

『鉄槌』に名を聞こうとしたのは、主であるはやての意思だ。肉体を奪うことなど、望んでいない。『殲滅者』を使役していた人物が、まだ闇の書に手を伸ばすよりも前の時期に、望んでいないことが実行された。それは……

 

(闇の書には、主の命令よりも優先される意思が介在している)

 

 ……そう、思い至った。

 

「止めろ! 私を置いて行け!」

 自分を捨て身軽になり、管理局に駆け込むことができれば……肉体の崩壊を、阻止できるかもしれない。だが……

『お断りします』

 きっぱりと拒否した。

「ふざけてる場合じゃねェんだぞ! このままじゃ、お前……!!」

 魔力を注いで修復を試みるが、足りない。

『…………応援を呼びに行くまでに、果ててしまうでしょうね』

 冷静に、判断した。

『王、もっと体を小さく畳んでください』

 

――バシッ!!

 

 はやての身を庇った『殲滅者』を、剣が掠め、その箇所が分解される。

「さっきから……何で、私を庇ってるんだよ! 私の体なんて、どうでもいい!!」

 ぴく……と、『殲滅者』の気配が変わった。

『どうでも、いい……?』

 明らかな……怒りの気配。

「ああ、そうだ! 腕の一本や二本、くれてやっても死ぬわけじゃ、」

 

 

『…………怒りますよ』

 

 

 それは、思わず言葉に詰まるほどの迫力だった。

『あなたは、私、守護騎士『殲滅者』が仕えると定めた王。あなたをお守りすることが、わたしの本望なのです。王を守れぬ騎士に、どれほどの存在意義がありますか』

 

――バキンッ!!

 

 槍を振るい、剣を砕く。

『王。あなたを守ることを、許されないというのであれば………………』

 

――バゴッ!

 

 正拳突きで、胴体を打ち据える。

『殲滅者』は、消えかけた肉体で、懸命に駆ける。

 

『死んだほうがマシです』

 

「!!」

はやては、ショックを受けて黙り込んだ。

『…………王』

気遣いなのか、若干優しい口調で。

『あなたの命は、決してあなただけのものではありません』

 諭すように、言う。

『あなたが命を落とすようなことがあれば、悲しみ、涙を流す者がいるはずです』

「……わかったよ」

 落ち着きを取り戻したはやてが、命令する。

 

「私を、管理局の元へ送り届けろ」

 

『……了解です、我が王』

『殲滅者』は、恭しく……そして、若干嬉しそうに、礼をした。

「それと……」

 

――ガスッ!!

 

 目の前に現れた雑魚騎士の一体に、奪い取った西洋剣を突き立てる。

「下僕の後ろに隠れっ放しってのも、王の沽券に関わるからね。こっちはこっちで、好きにやらせてもらうよ」

『……背中、お預けします』

「おう、任せとけ」

 

――走る。

 

 ぱらぱらと散っていく、『殲滅者』の体。刻一刻と迫る、タイムリミット。

 ほんの2キロの距離が、こんなにも遠い。

 

――走る。

 

『殲滅者』も、はやても、傷だらけだ。

 ゼロにも等しい魔力で。底を尽きそうな体力で。

 

――走る。

 

 雑魚騎士の合間をすり抜け、潜り抜け。

「あーあ、こんなにたくさん、殺すんじゃなかった……」

 …………今更、罪悪感など湧かないが……その所為で、こうして下僕が死に掛けている現状を見ると……やはり、自業自得だろうか。

『……全くです』

 雑魚騎士の足元をスライディングして、潜り抜ける。

 

 ……ようやく、雑魚騎士の包囲網を抜けた時、ビルの合間から、見知った顔が戦闘しているのが見えてきた。

「よし、もうちょっと………………うげっ!」

がくん、と。『殲滅者』の膝が抜け、地面に放り出された。

 

「あいててて、何やって、……!?」

 はやては、言葉を失った。

 はやてを背負い、懸命に駆けてきた『殲滅者』。その彼女が………………

 

――膝から下を、失っていた。

 

 いや、膝だけではない。

利き腕の左腕は、肘から。右手に至っては、肩から先が、完全に消失していた。

『……包囲は、抜けられたようですね。じきに、管理局の面々と合流できるでしょう』

 倒れたまま、淡々と述べる『殲滅者』。

『命令は遂行しました。ここからは、あなた一人で…………』

 

――パンッ!!

 

 その頬を、はやてが張った。

 

「ふざっけんな、このバカ野郎!」

『…………王?』

 呆然とする『殲滅者』に、言葉を浴びせかける。

「死ぬなだの、命を粗末にするなだの、勝手なことばかり言ったくせに! その言葉、そっくりそのまま返してやる!!」

 

――ぐいっ。

 

 はやては、ガクガクと震える膝を叱咤し、何とか立ち上がる。そして…………今度ははやてが、『殲滅者』を背負った。

『お、王……? 何を……』

「死なせない……こんな、ところで……!」

『……所詮は、かりそめの命です。死ぬのではなく、単に、データと魔力の塊に還元されるだけ』

 一歩一歩、亀のような歩みで、進む。

「かりそめでも、偽者でも……! お前は、お前だ。私の…………大事な、手駒だろうが!」

 背中に感じる重量が、徐々に減ってきている。

『…………大事と、言ってくれますか』

 

「私は、もう嫌だぞ…………! 失うのは……!」

 その言葉を聞いた『殲滅者』は、はやての背に、もたれかかった。

 まるで、体温を受け渡すように。

 

『我が王。 …………願わくば、』

 

 いよいよ、言葉が聞き取れなくなってきた。

その表情は、相変わらずの無表情だろうか。それとも。

 

『…………一つ瞬く間でも、長く………………あなたに、仕えていたかった』

 

――幸福そうに、笑っているのだろうか。

 

「ああ………………私も、同じだ」

 

『よ かっ   た     ――――

 

 

 はやては、膝を突いた。

 重さが増したからではない。背負っていたものは、消えてしまったのだから。

「潰してやる…………」

 呪詛を、吐く。

「潰してやる……!」

 顔も名も知らない、闇の書の読み手。

 

 

「私が、この手で、叩き潰してやる――――!!」

 

 その殲滅を、誓った。

 

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