魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第七十話

 

「うりゃあああああああっ!!」

 

――ゴンッ!!

 

 鉄槌が、仮面の男の身体を殴打する。だが、そのシルエットが宙に溶け……

 

――ボッ!!

 

 その残像の奥から、前蹴りが飛んできた。

「げっ……!」

「ヴィータッ!!」

 リーゼが蹴りの軌道を逸らす。

「っくぅ!」

 腕を掠めただけ、だというのに、腕が持っていかれそうになる。

 

――キィイイイン……!!

 

 空中に放られた魔力スフィアが、リーゼに照準を合わせた。

「後ろ! 避けるの!」

 

――ドンッ!!

 

「うわ! アイ、サンキューー!」

 アイの指示に従い、飛び退る。

「だらぁっ!!」

 巨大な一個の鉄球を生成し、発射!

 

――ゴンッッ!!!

 

 標的は、仮面の男……の、近接型。

 だが、こんな単純な軌道、迎撃されることは見えている。

 

――ガキイインッ!!

 

 硬い防御に阻まれ、軌道が逸れる。

 

「分散っ!」

 

――バッ!

 

 その弾かれた魔力刃が、無数の細かい鉄球に分散。仮面の男の周囲を、旋回し始める。

「数で押すか。だが、このような豆鉄砲、いくら当てたところで……」

 にやっ……と、やや下品に笑う。

 

「…………集、合!」

 

――バキィンッ!!

 

 ……分裂していた鉄球は、仮面の男の防御の網目をすり抜け、至近距離で再び一つになる。仮面の男からしてみれば、突然目の前に巨大な鉄球が現れたようなものだ。

 

――ズガンッ!!

 

 直撃……とまではいかなかったが、なかなかのダメージを与えることができた。

「おのれ……!」

 

――キンッ!

 

 超高速バインドが、リーゼの手首を戒める。

 発動するのは、拡散砲撃。たとえここで防御を展開しようとも、その上からのダメージを与えることができる攻撃。

 だが、リーゼは動じず……

 

――ぽんっ。

 

 ……猫の姿に変身し、バインドを抜いた。

「なっ……!」

再び、人型に変身し、拳を一閃!

「ハンマー・シュラークッ!!」

 ……こちらの仮面の男は、魔法特化。近接特化型の方とは同じとはいかず、胴体に直撃を食らう。

 

――ガコッ!!

 

「がっ!」

 横合いから殴られ、後ずさる。

「うらああああああっ!!」

 ヴィータが再び、鉄球で牽制。

 

――ヂヂッ!!

 

 身体を逸らし、回避に成功……だが。

「撃ち貫けッ!!」

 リーゼが発射した砲撃が、仮面の男を捉える。

「……嘗めるな!」

 そんな無茶な体勢のまま、防御魔法で砲撃を弾く。

「ああ、嘗めてなどいないさ」

 

――ヴゥン……!

 

 ……背後に、リーゼが設置していた魔力スフィアが唸る。

(殴り飛ばされながら、仕掛けていたのか!)

 気付いたときには、遅かった。

 

――ゴ、ゴゥンッ!!

 

 二条の砲撃が、全くの別方向から、仮面の男を打ち据えた!

「やるな」

「ああ……予想以上に、よく粘る」

 仮面の男が、並ぶ。

「…………あれだけ直撃していながら、倒れんとは」

「アタシ、手加減なんてしてねーぞ……」

 リーゼとヴィータが、若干呆れて言う。

「ふん。どうせ、身体をいじくりまくっているに決まっているの。でなきゃ、あんな合体・分離なんてゲッターロボみたいなこと、できるわけないの」

 アイがそれを説明し、侮蔑するような言葉を吐いた。

 

 

 仮面の男は、それを特に気にするでもなく、空を見上げた。

「…………頃合いだ」

 その手に魔方陣が展開する。

 リーゼとヴィータは、瞬時に防御の姿勢になった。だが……

「……! 違うのっ!」

 警告するが……遅かった。

 

「貴様の回収は、次の機会としよう」

 

――ブワアアアアアアアアアアアアアアアアッ………………………………!!

 

 …………一寸先も見えぬほどの煙が、突如として発生し、リーゼたちの視界を覆った。

「くっそ!」

『 Wirbelwind !』

 旋風を発生させ、煙幕を吹き散らす。設置型の魔法だったからなのか、完全に消えるまで、少々の時間を要した。

 アイはその傍ら、警戒と、結界内部の探査を行う。

 そんな中、アイは術式の残滓を発見した。

「これは……転送反応……? 転送先は……」

 アイが、その行方を辿る。

 

「向こうの戦闘区域!」

 

 リーゼたちは、瞬時に理解した。

 向こうには、フェイトと、アルフ、それにはやてが…………まだ、闇の書に蒐集されていない魔導師が、三名もいる。

「ヴィータ! この結界、叩き壊すの!」

「応よっ!!」

 転送魔法を利用することも考えたが、あの仮面の男の転送スピードは並ではない。転送魔法を発動し、向こうに転送を終える時間があれば、走った方が速いのだ。

 

「主っ!!」

 結界を破壊するや否や、いの一番に駆け出すリーゼ。

 ヴィータとアイも、その後に続いた。

 

 

 

「どぉけどけどけどけぇええええええっ!!」

 ……白いバリアジャケットを翻し、なのはが駆ける。

 

――ザンッ!!

 

 魔力刃を延長し、雑魚騎士達の足を断ち、武装を砕き……一騎当千とまではいかないものの多数の雑魚騎士たちによる肉の壁を、突き崩していく。

「あなた達に構ってる暇は無い!」

 ポケットに突っ込んでいた金具を、指の間に挟み……投擲。

「でぇいっ!」

 

――ガッ!!

 

 一本は外れてしまったが、残る二本はそれぞれ、雑魚騎士の腕と、足を射止めた。

「ディバイン……!!」

剣先に、魔力スフィアが出現する。

 全盛期の数割程度だが、雑魚騎士を蹴散らすには十二分。

『Divine Buster』

「バスターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

――――ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!

 

 砲撃は雑魚騎士達をなぎ払い、打ち落とし……天に、一筋の軌跡を描いた。

 

「あ、なのは! ……うわ!」

 バルディッシュと、守護騎士『剣』の魔剣が激突する。

「く……ぬぬぬ!」

 バルディッシュは、驚くほどのしなりを見せ、守護騎士の一撃を受け止めている。

 だが、やはり膂力の差は如何ともし難く……

(こ、こうなったらカートリッジを……!)

 ……まだまだ調整中だということを思い出し、なんとか踏みとどまる。

 

――ヒュンッ!!

 

 なのはが金具を投擲し、『剣』はそれを回避するため、フェイトから距離を取った。

「フェイト、なのは! そっち行った!」

 

――ボゴォッ!!

 

 アルフの声が聞こえると同時、地面を突き破るように、魔力の槍が隆起する。

『ア、 ギャアッ!!』『アアアアッ……!!』

 雑魚騎士達を巻き込んで、迫る。

 

「ごめん、遅れた!」

 フェイトの隣に並んだなのはが、詫びる。

「……何で、あんなに遠くに行っちゃったの?」

 フェイトの疑問も、最もだ。

 わざわざ、あんな端に放り出す必要は無かった。

 それには、オペレーターのフィアットが答えた。

『も、申し訳ありません! 転送の直前、何者かの割り込みがありまして……!』

ザザッ……と、ノイズが混じる。どうやら、あまり通信状況は良くないようだ。

 エイミィだったなら、そのような割り込みもカットできたのだろうが…………そこはやはり、通信主任と、ヒラのスキルの差だろう。

「しっかりそれに対応して、転送先を結界内に再設定できたから大丈夫。気にしないで」

『はいっ! …………敵は現在、守護騎士2、雑兵24。守護騎士2体は推定AAAですが、雑兵は全てAランク程度です』

 いつものヘナヘナ具合は影も無く、的確に状況を伝える。

『守護騎士のカートリッジシステムには注意してください』

「あの群青の騎士、アイツは武装の類を持ってなかった。多分、あたしと同じタイプだ」

 アルフと同じ……つまり、支援タイプ。

「……でも、近接戦闘も舐められないから注意だ」

 アルフの身体のあちこちには、青痣などの打撲痕が刻まれていた。

 

 そうして、再び戦闘が始まろうとしていたその時のことだった。

 ぞわっ……と、なのはの背筋が悪寒に震えた。

 この中で、なのはだけが唯一、経験したことのあるもの。

……蒐集の、予兆だった。

 

「フェイトッ!!」

「え? ええっ!?」

 フェイトをタックルで突き飛ばす。

 それに抗議するようり早く……先ほどまでフェイトが立っていた位置を……

 

――ズボォッ!!

 

 …………空中に現れた奇怪な円から、右腕が突き出された。

「あああああっ!!」

 

――ザシュッッ!!

 

 その腕の主が、腕を引っ込めるより早く、なのはが斬撃を見舞う。

「……ぐっ!!」

 パリン……と、奇怪な円が砕け散り、その奥から仮面の男が姿を現した。

「……まさか、探知するとは思わなかったぞ。魔力の気配は、消したつもりだったのだが」

 流血する腕をだらりと下げた仮面の男が、腑に落ちない、という風に呟く。それに対する、なのはの答えは…………

 

「勘!」

 

 …………だった。

「守護騎士の助太刀?」

 フェイト、アルフと並び立つ。

「そして、闇の書の頁の蒐集だ」

 ゴキゴキ、と腕を鳴らす。どうやらこの短時間の間に、応急処置を施したらしい。

「……簡単には、獲らせないよ」

 回天桜花を構え、対峙する。

 じりじりと、空気が緊迫していき…………

 

――――カンッ。

 

「「……!」」

 落下音をゴングに、地を蹴った。

 

 

――――――――……ドスッッ!!

 

 

 ……と、両勢の間を割るように、血に濡れた西洋の大剣が突き刺さった。

 

――バキッ……

 

 耐久の限界だったのか、中途から砕ける大剣。

 その大剣を投擲したのは…………

 

 

「……………………お前か」

 

 

 …………ずるずると、幽鬼のような足取りで現れた、はやてだった。

「八神……!」

 なのはは、その満身創痍な風貌に、息を呑んだ。

 

――ザッ、ザッ……

 

 だが、それを無視し、はやては歩く。

「…………お前か」

 

――ザッザッザッ……

 

 焼け爛れた頬と、煤けた前髪の簾の奥で………………ギラギラと、昏く輝く目が、仮面の男を……その手にある、闇の書のレプリカを、視界に捉えていた。

 

――――ザザザザザッ!!

 

 歩みは、疾走へと変化。はやては、丸腰のまま仮面の男へと近づき……

 

 

「私の守護騎士を使い捨てたのは、お前かああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!」

 

 

――――ドロォオッ…………!!

 

 ……その影が立体的に隆起する。

 

――ガキンッ、ガキィンッ!!

 

 仮面の男の足元の影が、虎バサミのように、仮面の男の足を噛み潰す。

「……! 己以外の影を、支配下に……!!」

 ……そう。この影の魔法は、はやて自身の落とす影以外には、影響を及ぼすことが出来なかった。

 ……極限近くにまで高ぶった感情がリンカーコアを活性化させ、術式の効果範囲を広げたのだろう。

 

――ビュオオオオオオオッ……!

 

波頭だった影は、瞬時に紙よりも薄く鋭い刃へと変わった。

「む、う……!!」

 なんとか脱出を試みる。が、足を挟んでいる影には、更に何らかの術式が仕込まれているのか、ビクともしない。

「くっ!」

 仮面の男は、腕に魔力刃を発動する。

そして、刃と化した影が、仮面の男に襲い掛かった。

 

――ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクッッ!!

 

 …………躊躇いも、憂いも無い。圧倒的な殺意のみに染まった刃は、仮面の男を細切れにした。

 

――ブゥウン……

 

 その姿が溶け消える。得意の幻術……だが。

「…………」

 うずくまる仮面の男。その右足は………………ふくらはぎの半分から下が、切断面を晒し、消えていた。脱出するため、自ら切り落としたのだろう。

 威嚇ではなかった。もし、足を捨てていなければ…………本当に、細切れにされていた。

「…………」

 その殺意に、なのはは、フェイトは、アルフは…………いや、『剣』や『盾』、雑魚騎士までも、行動を阻まれていた。

完全に、呑まれていた。

「アイツは」

 ガリ、ガリ……と、何かを咀嚼する影を使役し、はやてがぼそぼそと言葉を吐き出す。

「…………そうやって、身体を端から失っていって…………消えたんだ」

 ……その『アイツ』というのは、『殲滅者』のことだろう。

「…………憎い……!」

 

――ゾ、ゾゾゾゾゾッ……!

 

 更に広大な範囲の影が、はやての殺意に呼応し、ざわつく。

「…………憎いッ!!」

 

――ズシャアアアアアアアアッ!!!!

 

「う、ぐおああああ……!!」

 大きく機動力を削がれた足で、懸命に逃げ回る仮面の男。

 

「憎い……憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い 、憎い、憎い、憎い、憎いッッッ……!!! 

 

――――殺してやるッ!!」

 

だが、はやては一切の加減をせず、仮面の男を追いたて…………打ち据え、切り裂き、抉り抜いた。

『……!』

 指示を受けた『剣』や『盾』が、はやてに攻撃を加える。

 

――ゾンッ!!

 

 ……腕を切り落とされ、足を潰され、武装を破壊され…………雑魚騎士24体を含む騎士団は、瞬時に壊滅させられる。

『……グ』『ウウ……』

 呻く二体の守護騎士の前に、はやてがしゃがみこむ。

 

――――殺セ。

 

 ……その声は、なのは達はおろか、状況をモニターしているアースラの面々にも、はっきりと聞こえた。

「…………うん、わかってる」

 はやては、守護騎士達の首に、手を添えて………………

「守護騎士よ………………騎士の誇りを、穢されるくらいなら……我が血肉へ、還るがいい」

 

――――――――ごきんっ。

 

 ……首を、へし折った。

『…………』

 バラバラと魔力に還元され……はやての影に、吸収される。

「守護騎士を、吸収した…………」

 

 静まり返る戦場の中、フィアットの声だけが、耳に届く。

『……守護騎士、とは……主のリンカーコアの一部と、魔力を血肉とする者……………………それを吸収できるのは、同じリンカーコアを持つ者…………つまり、』

 ここにきて、ようやくなのは達は理解する。

 自分たちの隣に居たものの、正体を。

「八神、あなたは…………」

 吹き荒ぶ、闇の旋風。

 その轟音の中……

 

――――ハハ…… ハハハハハ…………『てんたとれす』、再起動』

 

 ……いよいよ、その意思は肉声を得る。

「……………………起動」

 はやてのバリアジャケットが、再構築される。体表の肌には、真紅の帯のような装飾が、這うように出現。

 

――バサッ……!!

 

 魔力の高まりに呼応するかのように、スレイプニルが展開し……………………髪が、白銀に染まる。

その姿は………………肉体の外観の違いはあるが、紛れも無く。

 

 

『――――――復活ノ時ダアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

 

「闇の書の、主…………」

 

 

 …………最悪の魔導書は今……ここに復活を果たした。

 

 

 

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