魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第七十二話

 

「ほら、秀人……」「いい加減、観念しろ」

「おい、押すなって……!」

 秀人は、自宅のアパートの敷地の手前で、二の足を踏んでいた。

 クロノ、ユーノに背を押され、じりじりと門扉へと近づいていく。

「や、やっぱ、まずはメールで無事を知らせてから……!」

 携帯電話を取り出す。が……

「もーらい」

 ユーノがそれを横合いから取り上げ、クロノに放る。

「うむ」

 それを受け取り、S2U内部に格納してしまう。こうなってしまっては、力ずくで取り返すことも出来ない。忌々しげに、それを睨む。

「くっ……いらんコンビネーション磨きやがって……!! ……はぁ」

 そして、ようやく諦めた。

(平手一発くらいで済めばいいけど…………)

 それはない、と断定する。

(……レイジングハートと、アイもいるからなぁ…………)

 秀人の身勝手な行動には、無慈悲な制裁を下す、あの二名。

 射撃か、砲撃か…………スターライトか。

「…………………………ま、しゃーないか」

 諦めて、自分でドアの前に立った。

 かちゃっ、という金具の擦れる音が、妙に大きく響いたように思えてドキッとする。

 鍵は開いている。人の気配もする。しかし、不気味な静寂が漂っていた。

「た、ただいま~…………………………」

 そろそろと足を踏み入れた秀人を出迎えたのは…………

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………おかえり」

 

 …………どんよりと暗い、なのはだった。

 卓袱台は端に寄せられており、八畳の部屋には、関係者が車座になっている。

 なのは。フェイト。アルフ。アイ。ヴィータ。エイミィ。……何故か、大家。

「…………な、」「座って」

 ヴィータとアイの間…………なのはの真正面にスペースを作り、そこに座るよう促す。

「……ユーノくんとクロノも、お帰りなさい」

 ユーノはアルフの、クロノはエイミィの隣に座る。

 八畳間は、瞬く間に鮨詰めになった。

「………………」

 重苦しい雰囲気が漂う。

「あの、」

『黙れ』

「あ、はいスンマセン…………えっ?」

 謝り、なのはの膝元に置かれたレイジングハートを凝視する。

『……マスターから、じきに話があります』

「ああ、わかった…………」

 なんだ、聞き間違えか。そう安堵する秀人だった。

 

『だからそれまで己の愚行を悔いていろボケナス』

 

「聞き間違えじゃなかった……!?」

 驚愕する秀人だった。

 そして、何かが足りないと思い、その理由に思い至る。

「あれ、リーゼと…………はやては?」

 こういう集まりには、なんだかんだ言って、最後はリーゼに手を引かれ渋々やってくるのが常だというのに。

 

――ピキィッ……!!

 

 …………緊張で、空気が凍る音がした。

「え……あの……」

 オロオロと戸惑う。

「…………あのね、秀人さん」

 そして、なのはが口を開いた。

「正直、帰ってきたら文句の一つでも言って、小指でも詰めてやろうかと思ってたけど…………」

「………………………………………………………………」

 凍りつく秀人。

(ま、生えてくると思うけど……)

「ま、生えてくると思うけど……とか考えてたら、怒るからね」

 ……読み切られていた。

「……話が逸れちゃったね。それで、本題」

 ずいっ、と、秀人の唇に、自分の人差し指を当てる。

「最後まで、聞いて。…………正直、私もまだ、混乱してるから」

 その真剣な様子に、秀人は身を引き締める。

「あのね――――」

 

 

――――話を聞き終えた秀人は、唖然と…………は、していなかった。

 

「そっか」

 むしろ、どこか納得している節さえあった。

「……驚かないんだ」

「いや、驚いてる。めっちゃ驚いてるって」

 さすがに、この面々の中で一番付き合いが濃いだけに、驚いてはいるようだった。

「間違いじゃ無いんだよな……ヴィータ」

 秀人は、元守護騎士…………闇の書の主と面識のあるヴィータに、確認を取った。

 ヴィータは腕を組み、ああ、と肯定する。

「あの子は…………闇の書の主だ。アタシが保障する」

 面識のあるヴィータならともかく……なぜ秀人は、納得してしまったのか。

 その問いに、答えた。

「何となくだけど、偉そうな口調とか、尊大な態度とか………………あと、目が似てたから」

「目?」

 聞き返すなのはに、ああ、と頷く。

「なんつーか………………もう完璧に、軌道修正が効かなくなってるのに、どこかで横道を探してるっつーか…………悪い、うまく言えん」

 

「私も、気付くべきだったんだ…………」

 なのはが、項垂れながら呟いた。

「始業式の日の屋上で、ちょっと喧嘩した時…………あいつ、自分の影を操作する魔法を使ったの」

『記録していた術式と、昨日のデータは、完全に一致しました』

 レイジングハートが補足する。

「そういえば、守護騎士に関する考察をやたらスラスラ述べていたこともあったな……」

 クロノはクロノで、心当たりがあるらしい。

 

「あ、あのね…………?」

 聞き役になっていたフェイトが、意を決したように挙手する。

「ヤガミは、闇の書のあるじなんだよね?」

「ああ。最早、余地は無いだろう」

 それには、断定を返すクロノ。

「でも、『ヤガミ』は、そんなにわるいヤツなのかな……?」

「…………」

 それには…………単純に、はやて本人のパーソナリティについては、誰も決定はしなかった。

「ボク、むずかしいはなし、よくわかんないけど………………でも、うんどーかいとか、クラスでいちばん、たのしみにしてて…………じゃまされたときは、だれよりもおこってて………………みんなのために、がんばってたし……あの……」

 言葉尻は、もそもそと消え入ってしまう。

 

――ばんっ!

 

「私だって!!」

 なのはが、畳に拳を打ち付ける。

「はぅっ……!」

 ビクッ……と縮こまるフェイト。

「ご、ごめんフェイト…………」

 驚かせてしまったことを謝る。

「……私だって、あいつがそんなに悪い奴だとは、思ってない」

 信じたい。その気持ちは、はやてと関わってきた者たちには、共通のものだった。

「確かに、乱暴だし、口は悪いし、行儀も悪いし、モラルも無いし、ちゃっかりしてるし、自分勝手なところも多々ある……………………けど、あいつを『嫌い』って言う人は、クラスにいない」

 

 クロノは……管理局員、第三者の視点から、事実を告げる。

「……………………だが事実として、闇の書の主は大量殺戮を行っている。それはかなりの確立で、彼女の仕業だろう」

 雑魚騎士として利用されていた、民間人たち。呪縛から解放された彼らへの事情聴取から、闇の書の主の容姿が浮かび上がってきていた。

 残忍な闇の書の主。

 頼れるリーダー。

 その境界線は、どこにあったのか。

「俺が、闇の書を一時封印して…………」

 それから、何があったか。

「…………予定外の無人世界に飛ばされて、そこで、はやてと会ったんだ」

 思えばそれが、ターニングポイントだったのだろう。

 嫌々ながら、渋々ながらも、秀人と触れ合い…………僅かではあるが、人の心を取り戻した。

 

「予定外の……?」

 その言葉に、クロノが何かを感じた。が、進む話に付いていく為、一時保留とした。

 

「…………無限書庫で、『八神はやて』をキーワードに検索してみたんだ」

 ユーノの番だ。

 明確な人名さえあれば、無限書庫は答えてくれる。

「八神はやて。第97管理外世界『地球』極東方面『日本』、関西圏出身」

関西人だったのかあいつ……と、秀人が変なところに感想を述べていた。

 べしっ、とアイに頭を引っ叩かれ、話に戻された。

「両親の名前は、八神伊吹、八神火乃香。二年前、自身の魔力が不意に制御不能になり、乗船していた航空機の電子系統が故障。機体はコントロール不能となり、墜落。……両親は、その事故が原因で………………」

 

 なのはは、かつての自分の発言を呪った。

『親の顔が見てみたい』などと…………

 キレて当然。

 なにせ、その顔を見たい両親は既に、この世にいないのだから。

 彼女の過去を抉るような発言をした自分を、殴ってやりたい気分だった。

 

「「それって……!!」」

 秀人となのはの声が重なる。

 航空機の墜落事故。それは、無限書庫にて、二人が見つけ出した記事のものだった。

「ユーノ、今ここに、無限書庫の本、出せるか!?」

「え!? あ、ああ……うん、一応」

 手元から、ストレージデバイスのようなものを取り出す。

 本を隠した座標を入力すると、浮かび上がるようにして、本が現れた。どうやら、実物ではなく、写本のようだ。

「……ここ、見てくれ」

 そこには、ユーノが言ったことと相違ない内容と……千切られた跡があった。

「んで、この千切られたページに、これを…………」

 そして秀人は、本棚に仕舞ったファイルの中から、数枚の本のページを取り出す。それは少し前、通りすがりの変な女性に押し付けられたものだった。

 ページの末端と、本。それらは、ぴたりと一致した。

 繋げて読む。

「……魔力の暴走、墜落のショックで、体内に潜んでいた闇の書が一部起動。はやての生命を維持する」

 闇の書は、完成まで主を守る魔導書だ。それだけの要因があれば、未成熟なはやてのリンカーコアであったとしても、起動するだろう。

 

 

「……こっちは、はやての本の続きなんだけど」

 ユーノは、僅かに躊躇した。だが、ここにいる面子にだけ、という理由で、話す事になった。

「墜落した直後、航空機の残骸に脊髄を圧迫され、下肢の運動能力を失った」

「下肢……? でもあいつ、普通に歩いてるし、走ってるし、蹴ってくるぞ」

 秀人の言うことも、事実だった。

「………………………………ごめん、口では、もう…………」

 そこで、参ってしまったらしい。

「多分コレは…………秀人だけは、知っているべきことだと思う」

 今まで、出そうとしなかった原本を、秀人に差し出した。

「…………」

 秀人だけが、その本を読み始めた。

(…………日付は……一年後か)

 ぱら……とページを捲り……

 

――『強姦目的の襲撃を受けた際、自衛のため、闇の書が起動する』

 

「……!」

 ギリッ……と、唇を噛むことで、表情に出てしまうことを押さえた。

 

――起動に際し、下肢に魔力回路による擬似神経を形成。下肢の運動能力を復元する。

 

 それは、いい。はやてが歩けるようになったのは、その恩恵だろう。だが……

 

――闇の書による魔力蒐集の衝動、一種の『食欲』は、彼女の人格を『捕食に適した』ものに最適化させ、『良心』の抑制、『殺人衝動』の増幅など――

 

 …………秀人は、本を閉じた。

「………………」

 そして…………ポケットから、凶鳥部隊で使用していたライターを取り出す。

 重要な手がかりになるはずのそれに、躊躇無く着火した。

 あっというまに灰へと変わっていく、本。

 だが、クロノ、エイミィなど……事件解決の責任者たちも、何も口を挟まなかった。

 秀人の態度から、内容をある程度察したのだろう。

「…………………………闇の書は、不意の事故で完全起動した。はやて自身が幼かったから、制御が難しかったらしい」

 淡々と、事実を述べる。

 

「不意…………」

 また、クロノが何か違和感を感じる。

 

「……確かに、はやては殺人者だ」

 以前、大家に襲い掛かった時……大家は察していた。『既に、一線を越えている』、と。

 いくら闇の書に自我を歪曲されていたとしても…………『殺戮』へと感情を向けてしまったのは、はやて自身だ。

守護騎士の召喚。魔導師襲撃。

 それらを全て、闇の書の責任にすることはできない。

 

「……なぁ、『闇の書の目的』っていうのは、何だ?」

「あ」

 全員が、すっかり失念していた。

 闇の書の主の目的は、闇の書の完成。そして、それによって得られる莫大な力だろう。

 だが、闇の書は…………自意識を持つ魔導書、その目的とは、何なのだろうか。

「……闇の書には、二つの管制人格がある」

 口を開いたのは、ヴィータだった。資料をあたっていたユーノも、それに続く。

「一つは、主を蒐集へと駆り立てる、攻撃用プログラム……『テンタトレス』。主が攻撃的になるのは、こちらの影響が強いからだ」

 そして、もう一つは…………

「…………」

 ヴィータは、かつての情景を思い浮かべる。

 

――崩れ落ちた都。

 

――散乱する死体の山。

 

――守るべき主を、その山の中に見つけ………………立ちすくむ彼女。

 

 そう。闇の書は欠陥品。

 彼女が出現する時は既に……闇の書が、|主の生命をも滅ぼした後のこと。致命的な、手順の間違い。

 

 手遅れの、無駄足の……救いの手。

「主の生命を守護する、防御用プログラム………………」

 ……彼女の、名は。

 

 

 

「――――――――――――『リインフォース』」

 

 

 

 全員の視線が、そちらへ集まる。保護されてきたリーゼが、満身創痍の身体で、そこに立っていた。

 

 

「それが、闇の書の、もう一つの管制人格………………私の、真名だ」

 

 

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