お久しぶりです。
前回の投稿から一ヵ月以上の期間が空いてしまいました。申し訳ありません。
理由は、活動報告の方にも書いてあるのですが、とても親身にしてくださった親戚が亡くなってしまったことと、私自身の身の回りが少々慌しくなったためです。
一応次話の大まかな流れは既に箇条書きしてあるので、次回更新は今月以内に出来る様に頑張ります。
それと、前回の予告でタイトルは2-7.5と書いておりましたが、少々期間が空いてしまい私自身が書きたかった事がちょっとアヤフヤになってしまったこと。それと、分けて投稿した方が区切りが良いと判断したため、2-8としました。その為、今回は恐らくこの物語の中で最も短い文章となっていることかと思います。
長々と書きましたが、お楽しみいただければと思います。
◇
その日、IS学園での勤務をいつもより少しだけ早く終えることの出来た織斑千冬は、少しばかり急ぐように家を目指していた。その理由は、自身の唯一にして最愛の弟である一夏にあった。
それは、ほんの一月くらい前からだっただろうか。今日も今日とて教師の激務に疲れ果てた千冬は、それでも久方ぶりに帰る事の出来る我が家を目指して帰路についていた。
とりあえず、帰ったらまずは楽な服に着替えよう。風呂は別に後でもいい。冷蔵庫にストックしてあるキンと冷えたビールを、弟の手料理と彼との会話を肴に飲む。決して口には出さないが、千冬にとってはそれが何よりの癒しであり、明日への活力であった。
気持ち足取りが軽くなった千冬は、数分後に我が家へと辿り着いた。が、そこはいつもと少しだけ様子が違っていた。
まず、玄関先のライトが点いていない。何時も帰宅時間が遅くなりがちな(帰れること自体が少なくなりつつある)千冬を出迎える為に、深夜の12時まで点灯しているのが常であったはずのそれが、今日は点いていない。偶々点け忘れたのであろうか?と考えるが、すぐにそれも違うと判断した。
窓を見ると、カーテンの隙間から零れるはずの明かりすら窺えない。何より、今は夜の8時を過ぎたところ。小学生の頃の誘拐事件を境に、これまで以上に熱心に竹刀を振るっていた一夏が食事をとる時間は、今頃だった筈なのだ。
(まさか……体調を悪くしたのか?)
本人は否定するが、若干のブラコン気質が入っている千冬の行動は早かった。
素早くスーツの内ポケットから自宅の鍵を取り出し、鍵穴へと差し込み捻る。が、そこでまたしても不可解な事がおこった。
「鍵が、開いている……?」
普段少し抜けたところもある一夏ではあったが、家のこととなると違っていた。家の事全般を任せきりにしてしまった為についた習慣を、一夏がそうそう忘れるとは千冬には思えなかった。
「一夏、今帰った」
扉を開け、玄関に入り声をかけるも、返事は返ってこない。
いよいよ言い知れぬ不安を感じ始めた千冬は、切れ長の目を鋭くし、感覚を研ぎ澄ましながら家の中を進む。
何かが起こってもいいように警戒をしつつリビングへと進むと、中から人の気配を感じた。だがおかしなことに、一向に動く気配はない。不審に思いつつ、足音を殺しリビング入口へと近づいた千冬は、そっと扉を開け、壁際にあるスイッチに素早く手を伸ばす。
ほんの僅かな間をおいて電気が点る。一瞬、その明るさに目が眩みそうになるのを耐え、部屋に居座る人物を見定めようとした千冬は、次の瞬間絶句する。リビングの中央に備え付けられたテーブルと四つの椅子。その内の一つに、一夏が呆然とした様子で何をするでもなくただ座っていたのだ。
「い、一夏?」
「――千冬姉? あぁ、おかえり……」
声をかけ。漸く気が付いたといった様子の一夏は、顔だけを千冬に向ける。依然として表情は乏しく、活力や生気といったものが薄れていた。これはただ事ではないと感じた千冬は、慌てて一夏にかけより、事情を聴いた。暫くの間何も話そうとしなかった一夏だったが、やがて重い口を開いた。
澪との一件から数日経ち、しかし関係を修復出来なかった一夏は、その事ですっかり意気消沈してしまったのだ。学校で会えばそこそこ会話こそすれども、これまでと違ってぎこちなく、どこか余所余所しい。加えて、登下校もここ最近は別々だというのだ。
たった数日の出来事。更には、中学に入学してからの約一年はほぼ毎日といっていいように昼ごはんの弁当を用意してもらっていた一夏は、その生活リズムに大きなズレが生じていた。どうにか感覚を取り戻せたものの、そうすると今度は、何故澪はあんな事を言い出したのかという疑問ばかりが頭を支配するようになる。けれど、それを尋ねるのが怖くなってしまった一夏は、迷いを振り払うように竹刀を我武者羅に振り続けた。そんな生活を続けていた一夏は、その反動か突如として無気力状態に襲われ、今に至ったのだ。
「お前、そんな事で悩んでいたのか……」
ぽつぽつと力なく語られた理由を聞き終えた千冬は、思わず呆れてしまった。
しかし、一夏本人にとっては一大事であったらしく、その後延々と愚痴を聞かされることとなった。結局その日の夕飯は、カップラーメンという何とも味気ないものになり、千冬のテンションが更に下がったのは言うまでもない。
◇
そんな出来事から約一月。その間千冬が自宅へと帰ったのは僅かに二回だった。忙しいというのは勿論だったが、それ以上に踏ん切りのつかない弟の愚痴を延々と聞かされるのが嫌だったという、ブラコン気質の彼女らしからぬ思いも、少なからずあった。
(しかし、このまま放置しておく訳にもいかんしな……)
学園寮に戻ってからもその事で悩みを抱えていた千冬は、多少の愚痴を聞かされるのを覚悟で、久しぶりに帰宅することを決めたのだ。もしまだ以前のようにウジウジと悩んでいるのであれば、ここは一つ人生の先輩としてガツンと言ってやる必要がある。そう考えたのだ。何よりたった一人の家族である弟が悩みを抱えているのだ。ここで力になれずして姉と呼べるだろうか。そんな、使命感にも似た思いが千冬を突き動かしていた。この時、千冬は自身の恋愛遍歴は一夏以下であることをスッカリ失念していたのだが、その事に気づけという事自体が酷といえよう。
そんなこんなで自宅へと辿り着いた千冬は、おやと首を傾げた。
まず、ちゃんと部屋に明かりが点っているのが確認できる。これはいい。次に、家の中からおいしそうな匂いがしてくる。これもいい。だが、何故だろう。ドアノブを握ろうとした瞬間、我が家から漂ってくる謎の威圧感は。
千冬は、生来勘に優れていた。それは、日常生活にも度々役にたっていた。何より、ISの世界大会で各国の強豪達との激戦の際には、自身の勘の良さに幾度となく助けられてきた。そんな彼女の鋭敏な勘が囁いていた。家に入るのはヤバいと。一体何が彼女の危機感をそうまで駆り立てるのか。それは千冬本人ですら分からない。ただ一つはっきりとしているのは
(このままでは、何か途轍もなく面倒な事に巻き込まれそうな気がする……!)
自身の勘に素直に従う道を選んだ千冬の行動は素早かった。
瞬時にこの場からの撤退を選択した彼女は、殆ど思考するよりも早く体が動いていた。心臓が強く拍動し、全身の筋肉に血液を送り出す。万全の状態へと至った彼女は、腰を僅かに落としつつ右足を軸足に反転。弾丸の如き速さで駆け出――
「あれ? お帰り。……何やってんだよ、千冬姉」
そうとしたが、僅かに遅かった。何かしら気配を感じたのだろうか、一夏が玄関を開けたのだ。
「あ、あぁいや。何だか視線を感じた様な気がしてな。どうやら気のせいだったようだ」
「ふ~ん。まぁいいや。兎に角早く入りなよ。飯の準備も丁度終わったところだしさ。久しぶりに一緒に食べようぜ」
「……あぁ、そうだな。そうしよう」
どことなく上機嫌な弟の様子に、千冬は自分の勘がやはり当たっていたことを察した。同時に、最早逃げ場はないのだと。腹を括った千冬は、チクチクと痛み出した胃の痛みを気にしないようにしながら、我が家へと足を踏み入れた。
◇
「――って事で、とりあえず何とかなったんだ」
「そうか、良かったな……」
久しぶりの、家族水入らずの食事。本来ならば諸手を挙げて歓迎すべきその時間は、今日に限ってはそうとも言えない状況だった。
というのも、一夏が話題にあげたのは、ここ最近の不調の原因であった出来事に関係するもので、その内容は友人である澪との関係だった。話を聞いた限りでは……まぁ思春期であるならば仕方のないことだろう、といえる様な、些細な出来事だ。
けれど、それは、他者から見ればの話であって、当事者である二人――特に一夏にとってはそうもいかない一大事だったのだろう。当然、一夏とはまた違った理由で、あの子も悩んでいた事は想像に難くない。
結局、解決というまでには至らなかったものの、ある程度の落としどころを見つけたようで、一夏と澪の関係は今までと変わらないものへと戻ったようだ。
(いや、正確に言えば、同じではないのだろうな)
ただ仲直りするだけならば、一夏がここまで上機嫌になることもない。恐らく、何らかの進展があったのだろう。それは、これまでと同じ友人の関係でありながら、けれども少しだけ距離が近づいた、所謂友達以上何とやら、といったところか。尤も、これは私の勝手な推測でしかないので、そうだと断定できるわけではない。
しかし、現に今日の晩御飯は、今までのものが何だったのかと思えるほどの、気合の入りようだ。これを見ても、何の進展もなかったなどと、思えるはずもない。それにしても……幾らなんでも浮かれすぎだ、馬鹿者め。
(しかし……)
なんともまぁ、だらしない顔をしているものだ。それはもう、これまで私が見たことがないほど、幸せそうな表情を浮かべている。
恋をすると人間は変わるものだというが、それは男も女も変わらないらしい。
弟の成長をこうして見ることができるのは、姉冥利に尽きるというものだ。しかし同時に、少しずつではあるが、着実に成長している姿を目の当たりにすると、どこか寂しくもある。
……まぁ、本人が自分の気持ちを自覚しているかは微妙なところではあるのだが。
「なぁ、千冬姉。ちゃんと聞いてる?」
「あぁ、聞いている、聞いているさ。それは兎も角、そろそろ走り込みと素振りの時間じゃないのか?」
「え? ――あれ、本当だ。もうこんな時間になってたんだな」
「浮かれるのもいいが、日々の鍛練を疎かにするなよ。一日サボるだけで腕は錆びつくのだから」
「分かってるって。それじゃあ、準備したら行ってくるよ」
食器は浸けといたままでいいから。そう言って自室へと向かい、程なくしてジャージに着替えた一夏は、慌ただしく出て行った。
◇
一夏が出て行ったのを確認した千冬は、箸と受け皿を残し必要のなくなった食器を台所へと持っていく。久しぶりの、しかも今までよりも豪勢な弟の料理であったが、延々と話を聞かされていたために、中途半端にしか食べられなかったこともあり、漸く落ち着いて食べることができるようになった。
「しかし、このまま食べるだけというのも勿体無いな」
スーツのポケットからスマートフォンを取り出し、予定を確認する。
「緊急の会議の予定も無いし、明日の午前中は山田くんがいるから問題はないな……久しぶりに飲むか」
そうと決まれば話は早い。幸い料理はまだ残っているので、酒の肴としては申し分ない。キッチンの戸棚には、いつかゆっくり飲もうと考えて買い置きしておいた日本酒があった筈だ。記憶を頼りに戸棚を開けてみると、そこにはお目当ての日本酒が数本並んでいた。
学園寮ではビールくらいしか飲めなかったから、偶には辛口のを一杯やるのも悪くないだろう。そう考えた千冬は、その中から辛口の一升瓶を一つ手に取った。次いで、食器棚からお猪口を取ろうと手を伸ばし、手を止めた。一瞬だけ迷ったような表情を浮かべた千冬は、”二つ”のお猪口を取り出し、器用に片手で持つと、そのままリビングへと向かう。
「まったく……偶に顔を見せるのなら、一言あってもいいだろうに」
「いやぁ、ごめんごめん。でも、いっくんのいる前だと、色々とあるでしょ?」
「まぁな。 ――兎も角だ、一杯付き合え」
「私はお酒はあんまり強くないんだけどなぁ……一杯だけだよ?」
先ほどまで千冬しか居なかった筈のその場所から帰ってくる声。
いつの間に来たのだろうか。そこに居たのは、少し困ったような表情を浮かべた、世界中から指名手配をされているISの生みの親である、篠ノ之束その人だった。
後書き
今回は、一夏、千冬、そして束さんメイン。
また、澪と一夏の会話に関しては、下手に書くとただ長々とした文章を垂れ流すだけになるので、あえてカットしました。
え?いつも文章を垂れ流しているだろうって?ですよね~
一応、澪が一夏に謝って、一夏も謝る。とりあえず今回の事は水に流そう的な流れを経てから、澪が「今後も弁当を作ってもいいだろうか?」的な事を、若干恥ずかしそうに話すのを、一夏が内心狂喜乱舞しながら了承する。的なものを書くつもりでした。
まぁ本当の事言うと、そんなもん書いてたら私の心が物理的に死にそうだったから却下しただけなんですけどね(白目
この辺りは上記の事を頼りに、読んでくださっている各々方の脳内で再生していただければと思います(笑
因みに書いていた場合、脳内予測で軽く8000字オーバーはしていたと思われますw
さて。とりあえず、私の脳内の大まかな流れとしては、次回の2-9をもって二章を完結。
原作におけるメインの登場人物たちのオリジナル展開を掘り下げる『間章』へとページを進めていこうと考えております。その為、若干時間軸がぶっとぶかもしれませんが、ご容赦のほどをm(_ _)m
そして、次回の2-9はこの章において私が最も書きたかった話でもあり、千冬、束メイン回となる、予定です。また、この物語における束の立ち位置、ISの真実などにほんの少し触れる、ある意味重要な回となります。予定ですが。
あくまで予定ですので、保証は出来ません。また。当方は一切の責任を負いかねますので、ご理解のほど、よろしくお願いします。
とまあ、長々と書きましたが、今後ともよろしくお願いしますm(_ _)m
※感想・指摘等お待ちしております。
※2013.11/15 誤字修正
※2013.12/31 誤字修正