『でも、改めて見てもここが一度崩壊したなんて信じられないな』
クーヤを連れて町へ繰り出した自分だが、いかんせん何処へ向かえばいいかわからない。
自分が
今の時代はさながら日本の歴史で戦国~江戸時代辺りの文化。
そんな中、異質な自分は目の前を往来する人々からすれば最新のテクノロジーと知識を持つ超・未来人といっても過言ではない。
多少なりとも順応してきたとは感じる今日この頃だが、思い返せば大体が過酷な状況だらけ、こんな平和な日常風景に果たしてこんな未来的スーパーロボットの身体を持つ自分がうろついていいものなのだろうか。
(とまぁつらつらと不安だという理由を並べたわけだが)
やはり一番の問題は……
「どしたのビャクヤ? 止まってないではやくいこー」
これだ。
あえて言わせてもらうが、自分の人生は常に世界のための調査、研究、実験の繰り返しだった。
若くして地球再生プロジェクトという重要な研究チームに所属した自分はまさに科学技術の申し子といっても過言ではない。
まぁ……つまり何が言いたいのかというと……
(同年代の人間と、それも女性とふれあう機会なんざまったくなかったわけだ!)
そんな自分が精神は幼いとはいえ年頃の女の子と町を二人きりで歩くだなんて……。
『やっぱ断ればよかったか……。しかしあの状況で嫌だとは言えんし……』
「む~、どーん!」
『どぉうわ!?』
突然後ろからド突かれ体制を崩してしまう。
そのままバランスを保てず倒れてしまい、自分の身体から金属特有のカシャカシャとした音で余計に周りから目立ってしまう。
「もー! 早くしよーよ!」
『わかった! わかったからここを離れよう!』
さっきから周囲の視線が痛くてたまらん。
もう自分の異性との経験の少なさなんて考えるな、とにかく思ったままに行動すればなんとかなるさ!
さて、無我夢中にあの場から逃げ出したのはいいが、ここはどこだろう?
宿の場所は内臓マップにマーキングしているので帰れないことはないが……。
まずは何をするべきか……
く~……
自分が必死に考えている横で、緊張感のないかわいい音が鳴る。
「ビャクヤ~、おなかすいた~」
どうやらクーヤの腹の虫の音のようだ。
そういえば到着してから食事はまだだったな。
『そうだな、それじゃあどこか食事処にでも……』
と、言うものの、何処がどのような店なのか見ただけではわからない。
それに、今の自分達の格好で店に入店してよいのだろうか……。
自分もクーヤも頭から足まで姿をすっぽりと隠した出で立ちで怪しさ満点。
さらに自分は歩けば金属音、外套の隙間からチラチラ見えるは全身鋼の不審者以外の何物でもない。
「ねぇねぇビャクヤ、クーヤあれがいい」
『あれって……?』
クーヤが指差す先にあるあれは……串焼きの屋台か。
炭火で焼かれた肉から立ち上る煙がなんとも食欲をそそりそうだ。
(こういう時、自分のこの身体を恨むよなぁ)
一応匂いを感知する機能もついてないことはない……が、こういうものはやはり生の肉体で感じてこそだろう。
「まいどあり。……あんたら、ここらじゃ見ない顔だな」
そりゃこんな全身鎧の人間をよく見る方が珍しいだろう。
『ええまぁ……ちょっとした旅の途中でして』
「そうかい。俺ぁてっきり敗戦國から主君の子と逃げてきた落ち武者かと思ったぜ」
いやまぁ、自分は鎧姿だし二人して姿を隠すような格好しているが……落ち武者って。
「はぐはぐ……おいしー!」
「そうだろ、なんたってウチはここで爺さんの代から百年以上続く老舗だからな」
屋台で老舗ねぇ……ってちょっと待て。
『いやいや嘘だろ。ここは数年前に復興した町なのに百年続いてるのはおかしい』
特に移動する構造もなさそうだしなこの屋台。
「嘘じゃあねぇよ……。一度、バラバラにはなっちまったけどな」
そう遠くを見つめながら呟く屋台のオヤジの顔は、どこか寂しげだ。
「吹っ飛んじまう前はよ、ここももっと綺麗で華やかな町だったんだ。そんな場所で爺さんや親父はちんまりとした屋台でせっせと肉を焼いててよ」
……聞いてもないのに語りだしたぞこのオヤジ。
まぁクーヤが食べ終わるまでの暇つぶしにはちょうどいいが。
「今でこそ俺もこうしてせっせと焼いてるけどよ、昔はそんな地味な仕事をしてる親父の背中が嫌でな。もっと國のためになる仕事がしてぇって思ってよ、お國の兵士になったんだ」
『國というともともとの?』
「ああ、クンネカムンのな。ま、"アヴ・カムゥ"にも乗せてもらえない雑兵だったけどな……」
(アヴ・カムゥ?)
どこかで似たようなニュアンスを聞いたことがあるような気がするが……思い出せないな。
「だから俺ぁよ、あの裁きの日に名前もついてねぇような辺境の砦にいたんだ……。そのおかげで助かったんだけどよ」
おっと、考え事をしているうちにいつの間にかオヤジの話も佳境に入ったようだ、ちゃんと聞いてやろう。
「戦争が終わって、俺はすぐに親父の安否を確かめにこの町へ戻った。けどよ、いくら"浄化の炎"の直撃を免れたからってその被害は一目瞭然……俺の目の前にはコナゴナになった屋台しか残されていなかったよ」
『浄化の炎……』
また新しい単語が出てきた……。
けれどなんだ? どこか胸がざわつくようなこの気持ちは……自分は何か知っていて思い出せないだけなのか?
(いやいや、胸がざわつくって……心の臓まで鋼で出来てるこの身体で何を言ってるんだ)
「俺はその時思ったよ、なにも高みを目指すことだけが人生じゃない。こうして俺の焼い肉を旨そうに食べてくれる奴がいることの喜びを感じている方が、兵士をやってた頃より充実してらぁ」
人にはそれぞれその人に合った人生を歩むことで生きる意味を実感できる。
自分も研究者となって、地球再生のために尽力している頃が一番充実していた。
……と、感傷に浸るのは後にして、先程の会話にいろいろと初めて聞く用語があったぞ。
(いくつかあるが、一番聞きたいものとしてはやはり……)
『先程の話に出てきた"浄化の炎"とは一体何だ?』
やはりこれだろう、どこか胸に引っかかるものも感じたしな。
「浄化の炎を知らねぇって……あんたどこの田舎から出てきたよ」
ちょっと空の向こうの方から……なんて、そんなことはどうでもいい。
「まぁいいか、浄化の炎ってのはな……神様の裁きだよ」
『はい?』
「俺も詳しくは知らねぇんだけどよ、誰もが言ってるよ。所詮穴人ごときシャクコポルが全土統一なんていう高望みをしたから裁きが下ったんだ……ってな」
神か……以前ワーベの爺さんからこの世界の信仰宗教的な話は聞いたことがあるが、それと何か関連性もあるのだろうか。
「あの
『なんだ? そんないい加減な奴が國を納めていたのか?』
「いや、そういうわけじゃねぇんだが……何せほとんど人前には出なかったうえに常に顔を隠していたからなぁ」
今更だが自分は何にも知らないよな。
クーヤとサクヤの故郷だというのに知っていることは壊滅から先のことだけだ。
『その國の元
「ビャクヤー、食べ終わったよー」
早速いろいろと話を聞こうと思ったのだが……まぁ今はいいか。
「つぎいこー」
『そんなに焦ると転ぶぞ』
それから自分達が訪れたここは……菓子屋か?
金平糖や饅頭、棒についた飴細工などが置いてある。
「ふわぁ~」
クーヤの奴、目をあんなに輝かせて。
「うふふ、どれでも好きなものを選んでね」
そう言ってくれるのはこの店の店主。
ちなみに最初店に入った時に自分を見た店主が取り乱して警備の者を呼ぼうとしたのには焦った。
なんとか時間をかけて自分が無害であると信じてくれたが……。
『客が全員逃げてしまったのは大変申し訳ないと思っている』
その騒動のせいで店から客が誰一人いなくなってしまった。
「い、いえいえ、別におにーさん達は何も悪くないですよ」
それなのにこうして許してくれて、しかもこの年齢不詳の鎧人をおにーさんと呼んでくれる人の良さ。
このままではあまりに申し訳ないので少しでも売り上げに貢献しよう、サクヤへのお土産も兼ねてな。
「ビャクヤ、これ! この飴かわいー!」
『お、どれどれ……ウサギか』
ウサギ耳のマルタであるシャクコポル族がウサギの形をした飴を舐めるのか……。
『しかしいろんな形があるもんだな、花や動物に……この蟲は』
オンカミヤムカイ付近で目覚めた自分が最初に出会った奴じゃないか。
「うふふ、凄いでしょう。これ私の夫が作ってるんです。あの人若い頃に北の大陸に渡った経験があって、そこで習ったんですって」
北の大陸には飴職人がいるのか、どうでもいい情報を手に入れたな。
『おっと、せっかくだし他にも一緒に買っておこう。クーヤ、お財布はちゃんと持ってるか』
「うん、ちゃんとあるよ。クーヤ偉いでしょ」
サクヤから貰ったお小遣いがパンパンに入った財布を嬉しそうに掲げるクーヤ。
出発前に「無駄遣いはだめですよ」と言ってるくせに使いきれない程渡されたからな。
若干に甘やかしすぎな気もするが……。
『それじゃあ店主、これらも一緒に包んでくれ』
「……」
『あれ、店主さん?』
どうした? なぜかクーヤを見つめながら固まってしまったぞ。
『あの!』
「きゃ!? あ、す、すみません、お勘定ですね」
やっと我に返ったようで、慌てて感情を始める店主。
『どうかしたんですか?』
「いえ、お嬢さんの名前がこの國の
『え!?』
クンネカムンの元
「あら、おにーさん知らなかったの? なら良かった、実は生きていたアムルリネウルカ・クーヤ様本人なんじゃないかって思っちゃたから。でも、知らないならそれもないわよね」
そうだ、確かに自分はそんな人物は知らない。
だがそれは、自分がただ単にこの国の過去を知らないだけ……。
勘定を済ませ店を出た自分は考えていた。
この國で起きた悲しい出来事とその中心人物である元
その
有名な
「ビャクヤー、どうしたの?」
そして今自分の目の前で笑う無垢な少女。
自分はまだ彼女の過去を知らない……。
(確かめる方法は……ないこともない)
サクヤだ。
常にクーヤの傍にいた彼女なら何かを……いやすべてを知っているのではないか。
(だがそれを知ったところでどうなる)
しかしこのままスッキリしないのも……。
「コラ!」
『どぉうわ!?』
いきなり下腹部衝撃が……と、クーヤが蹴ったのか。
「ビャクヤ、お金はもっとあるから早くいろんなとこいこーよ」
……そうだな、クーヤが何者なのかなんて関係ない。
今はこんな自分を受け入れてくれた彼女と楽しい時間を過ごすことだけ考えよう。
『そうだな、早くしないと日が暮れるからな。それとクーヤ、あんまりお金をそう見せびらかさない方が……』
ドン!
「あうっ!」
『クーヤ!』
どうやら通行人にぶつかったらしく、バランスを崩してこちらに倒れてきた。
『ほら、ちゃんと周りを見ないと……あれ?』
「お財布がないよ?」
(ッ! さっきの奴、スリか!)
慌てて振り向くと、先程の男はこちらの様子を気にしながら走りだしていた。
(あれは今日をめいっぱい楽しむための重要な資金、盗られてたまるか!)
自分はスリを追うためにクーヤを一人その場に留め走りだそうとする。
「あ……」
それが……
『待ってろクーヤ、ひとっ走り取り返してくる』
どんなに愚かな選択か……
「いや……」
知りもしないで……
「いかないで!」