うたわれるもの外伝 ~天と地を繋ぐ絆~   作:もりベス

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第十二話 「爆心地」

 翌朝、自分達はまだ日が昇って間もない時間に出発の準備を始めていた。

 

『結構早く出るんだな』

 

「はい、ここから多少距離が離れていますから」

 

 お墓参りに行くのだから目的地は墓地……というわけでもないらしい。

 なんでも、"神の裁きの跡"や"地獄(ディネボクシリ)に行けなかった魂の集う地"など様々な謂われが飛び交っており、今でも誰も近づこうとしないかつての戦地だそうだ。

 

(神の裁き……か。確か町でもそんな話を聞いた気がするな)

 

 聞いたといっても、所詮は噂話の類でしかない。

 それにあの後は別のことを考えて完全に後回しにしていたし……。

 

「ふぁ~……おはよー……」

 

 と、思っていたらその元凶も目を覚ましたようだ。

 

「ほらクーヤ様、顔を洗ってお着替えしましょう」

 

「ごはんわ~……?」

 

「ちゃんと用意してありますから、洗面所へ行きましょう」

 

 微笑ましい光景だな。

 まるで本当の姉妹のような二人だ。

 

『さて、では自分は荷物をまとめて外へ出ていることにしよう』

 

 流石に女性が着替えている横で聞き耳を立てるようなデリカシーのない男ではないのでな……まぁへたれとも言えるが。

 

「え~、ビャクヤ行っちゃうの~」

 

 そう言いながらまだ寝ぼけた頭で自分の元まですり寄ってくる。

 だが、クーヤがこちらへとたどり着く前にサクヤに首根っこを掴まれ。

 

「こら、駄目ですよクーヤ様。ビャクヤさんも、あまり甘やかさないでくださいね」

 

『あ、ああ』

 

 昨日からクーヤは何かと自分に甘えてくるようになった。

 隙があればしがみつこうとしてくるし。

 

(まぁ、悪い気はしないからいいんだけどな)

 

 

 

 

 

 それから少しして、自分達は墓参りへ向かうため、町の門で集合すると、そこで待っていたのは……

 

「あ、ラクさん」

 

「よう、一日ぶりだなお前ら」

 

 門に寄りかかるラクシャインがそこにいた。

 先日町の裏道へと消えていったラクシャインだが、一体昨日は何をしていたのやら。

 いや、聞かなくてもわかるか……こいつの上機嫌な顔を見れば。

 

『お前……まさかまた……』

 

「その前にだ……ほれっ、これアンちゃん達のだろ」

 

 そう言って投げ渡されたのは、なんと昨日スリに盗られたクーヤの財布だった。

 

『おま……これをどこで』

 

「なに、小金を手に入れてウキウキしてる奴を裏で見かけてな。つい斬っちまったらどこかで見たことある財布を落としたもんだからよ」

 

 ……これ以上は、言及するまい。

 結局、ラクシャインがどこで何をしようと自分達にとってはどうこう言える立場ではないのだから。

 

「あー、クーヤのお財布だー! ラクありがとー」

 

 結果的にクーヤも喜んでいるしな。

 なんというか、自分も現代の生活に大分慣れてきた気がする。

 

 以前なら、人の死がどこかで起きていることが日常だなんて考えもしなかった。

 そりゃあ昔の人間社会でも人の死はあった。

 けれどそれは遠いどこかで起こった出来事で、ニュースを確認しても「ふーん」という感じで興味も湧かなかっただろう。

 

 でも今は、それが身近なところで起きているのかもしれないと実感できる。

 だがそれは同時に、二人を強く守らねばという気持ちも高まっていくのも同様だ。

 

「? どうしました、ビャクヤさん」

 

『いや、なんでもない。それじゃあ行こうか』

 

 雑談もここまでにして、早速歩き出す……。

 が……

 

『? ラクシャイン、どうした立ち止まって』

 

 何故かラクシャインは後ろを振り向いたまま立ち止まっていた。

 

「いや、誰かに見られていた気がするんだがな……気のせいだったみてぇだ」

 

『見られていた……?』

 

 自分もすかさずセンサーを起動させるが、周囲には自分達以外に人間大の生体反応はない。

 

『周囲に人影なし……。まぁ気のせいかもしれないけど、注意するにこしたことはない』

 

 こいうして以前と同じように、ラクシャインを先頭、自分を殿に置いて周囲を警戒しながら進んで行った。

 

 

 

 

 

「もう少しで、到着ですよ」

 

 林の中を道なりに歩き進めて数時間。

 自分達の雰囲気はどこか重苦しい。

 まぁお墓参りに楽しい雰囲気で行くものでもないとは思うが。

 

(それにしても……何だ? 胸がざわつくような)

 

 この時、自分は何かを予感していた、この先には何かある……と。

 

「着きました、ここです……」

 

 林を抜け、開けた場所に出ると、そこには予想だにしなかった光景が目の前に突き刺さった。

 

「噂には聞いていたが……これほどとはな」

 

「クーヤ……あんまりここ居たくない」

 

「あたしも本当はあまり来たくありませんでした。でも、ここには沢山の方が眠っていらっしゃいますから」

 

 皆思い思い言葉を口にする中、自分だけは何も言葉を発せないでいた。

 

「では供養の準備をしましょうか。ビャクヤさん、荷物を……ビャクヤさん?」

 

 自分がなぜこんなにも驚いてしまっているのか。

 それは目の前の光景の衝撃だけでなく、それがどんなものであるか理解してしまったから。

 目の前に広がる超巨大な"穴"……いや、これはクレーターと呼ぶべきだろうか。

 まるで巨大な隕石でも落ちたのではないかと思える程の穴だが、自分は……これを知っていた。

 いや、見たことがあるというべきか……しかし実際にではない、資料でだけだ。

 これほどまでの大地を一瞬にして無にしてしまう程の威力の衝撃は、一つしか考えられない。

 

(……アマテラス、だ。こんなことができるのはアレしかない)

 

 そして、さらに自分の中で何かが繋がる。

 

("浄化の炎"の正体は……アマテラスによる全力射撃だ……)

 

 あの目覚めた日、自分がデータベース内で閲覧したアマテラス最後の射撃が……数年前。

 つまり、自分の肉体が眠っているあの場所こそが、目の前に広がる光景を……クーヤ達の故郷を消滅させたのだ。

 

『うっ……』

 

「ビャクヤ、だいじょうぶ?」

 

 急に気分が悪くなる、どうしてここまで?

 照射したのは自分ではないどこかの大馬鹿だというのに、まるでその時の情景がぼんやりと浮かんでくるような奇妙な感覚だ。

 

(沈静プログラムの使用……はやめておくか)

 

 こういう類の仮想薬物(バーチャルドラッグ)は後になって変な気分になるからな。

 

『自分は大丈夫だ。それより早く済まそう、皆あまりここには長居したくないようだからな』

 

 

 

 

 

 落ち着くと、周囲の情報をハッキリと観察できるようになった。

 周囲の林はかろうじて直撃を避けれた場所だろう、こうして再び緑が育つ程の栄養が大地に通っている証拠だ。

 ……それとは裏腹に、目の前にある巨大な穴は端から端が見えない程だ。

 が、その光景にも不自然な点が一つ。

 

(穴の先に大きな城が建っているな。あそこも偶然被害を免れたのか?)

 

 気になることはまだまだあるが、そろそろ供養が始まるので静かにしておこう。

 

 巨大クレーターの手前に立てられた大きな慰霊碑。

 幾人もの名前が刻まれたその場所で皆で手を合わせ目を閉じるる……ラクシャイン以外。

 

『お前もやれよ』

 

「人斬りの俺がか? 柄じゃねぇよ。それよりアンちゃん、こっち来な」

 

 ちょいちょいとクーヤ達から少し離れた場所から手招きをするラクシャイン。

 するとひそひそと二人に聞こえない程度の声で話しだす。

 

「んで? 結局昨日は何があったんだ?」

 

『な、何がって……』

 

「隠さないでもいいだろ。クーヤかサクヤの嬢ちゃん……それかどっちもか、何かあったんだろ。今までよりも距離が近く感じるぜ」

 

 まったく、何かと思えば……。

 ラクシャインも意外とそういう話に興味があるのか。

 

『まぁ、昨日クーヤといろいろあってな……側にいると約束した』

 

「ふーん、なるほどねぇ」

 

『なんだ……その含みのある笑いは』

 

「いやなに、アンちゃんはクーヤの嬢ちゃんにホの字なわけだな」

 

 ホの字て……なんだろう、別に隠してるわけではないが、こいつに素直に話すのは妙に気に食わない。

 

『好きというかなんというか……そう、大切な存在ってとこだ』

 

 これも結構恥ずかしい気もするが……自分の今の気持ちを表現するとしたらこれだろう。

 とても大切な、失いたくない存在、いつの間にかクーヤがその位置にいることが、どこか心地よいとも感じている。

 

「そうか、じゃあその大切な存在を守るためにも……周囲を警戒しな、囲まれてるぞ」

 

『なっ……!?』

 

 慌ててセンサーを確認すると、自分達の周囲の林の中に多数の生体反応が見て取れた。

 

『どうして……』

 

「つけられたわけじゃねーな。何故か待ち伏せされていたようだ」

 

 まさか、出発時にラクシャインが感じた気配は自分達を監視していた?

 迂闊だった、早くサクヤに知らせ……

 

「おっと、大声もナシだ。このままゆっくりと嬢ちゃん達に近づいて、逃げる準備をしな」

 

『だが、どの方向から逃げるんだ。わかるだけでも二十人は潜んでいるぞ』

 

 通ってきた道は……当然塞がれている。

 林の中も両脇を固められて、残るは……

 

『あの"穴"だけか』

 

「ああ、俺が合図したらアンちゃんはクーヤの嬢ちゃんを、俺がサクヤの嬢ちゃんを抱えて走り出すぞ」

 

 背中に緊張感が走る。

 今この瞬間も狙われている……しかし不思議と恐怖は少ない。

 昨日の決意が、自分を強くしていた。

 

ガサッ……

 

 不意に、真後ろの草陰が不自然に揺れる。

 

「どうやら痺れが切れてきたみてぇだな! いくぜアンちゃん!」

 

『ああ! クーヤ!』

 

 自分とラクシャインは弾かれたように飛び出し二人を抱えて穴を降りていく。

 

「ふわっ!?」

「きゃあ!?」

 

 突然の事態に何が起きたのか理解できない二人だったが、草むらから飛び出しぞろぞろと自分達を追いかけてくる黒装束の人を見て状況を理解したようだ。

 

「アンちゃん、ここらで止まって剣を抜け! 囲まれる前に相手の出方を見る!」

 

 穴を数百メートル走った地点で自分達は剣を構える。

 その様子にどうやら向こうも察したらしく、距離を取って足を止める。

 

「ふむ、仕方ありませんね。正面から話すしかないようだ」

 

 黒装束の集団から、一人だけ歩を進めてこちらに寄ってくる。

 そして、その顔を覆っていた面紗を剥ぎ取ると、そこにはシャクコポル族特有の長い耳がピンと立った初老の男の顔が現れた。

 

「あ、あなたは……クンネカムン城にいた官僚の……!」

 

 驚くサクヤを気にも留めず、男はクーヤをじっと見つめている。

 そして、いきなり膝をついて頭を垂れると……

 

「ずっと、あなたをお待ちしておりました、アムルリネウルカ・クーヤ様。さぁ、参りましょう……我ら『新・クンネカムン軍』とともに」

 

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