面紗を外し現れたのは、クーヤ達と同じシャクコポル族。
そして宣言された「新クンネカムン軍」とは……。
自分はサクヤなら何か知っているのではないかと思い顔を合わせるが、顔に疑問を浮かべながらふるふると首を横に振る。
どうやら、相手方はサクヤの顔なじみらしいが、この状況に関してはまったく心当たりがないようだ。
「新……クンネカムン軍? 一体どういうことなんですか」
サクヤはまだ困惑する頭を整理できないまま、先程官僚と呼んだリーダー格の男に問いかける。
だが男はその問いに答えない、むしろサクヤの方へ一瞥もくれず、ただただクーヤを見ている。
「新クンネカムン軍ねぇ……。はっ、要するに敗残兵の寄せ集めってことだろ」
ラクシャインの挑発的な物言いが気に障ったのか、リーダーだけでなく周囲のシャクコポルの者も威圧的な眼差しでこちらを睨みつけてくる。
『おいラクシャイン、あまり刺激するようなこと言うな』
「わりぃわりぃ、こいつらどいつもこいつもお國復興のためにと希望に満ち溢れた瞳をしてるもんでつい」
またいつもの悪い癖か、こういう状況だというのにぶれない奴だ。
「ふん、貴様のような下賤な輩に何が分かる。本来ならば我々シャクコポル族が全土を統一していたはずなのだ。……だというのに、"浄化の炎"などというわけのわからない災害によってすべてが消えてしまった。唯一残ったクンネカムン城に戻ってみればそこももぬけの殻」
段々と声に熱がこもってくる。
もはや自分達が聞いていようがいまいが関係なく、声を張り上げ叫んでいた。
「何がウィツァルネミテアの裁きだ! 何が天下を目指した穴人への罰だ! そんな邪神の暴挙になど我々は屈しない! 我らは
「「「おおおおお!」」」
リーダーの演説が終わると同時に、後ろに控えていた兵達が一斉に歓声を上げる。
「やだ……あの人達の目、怖いよ」
ラクシャインとは逆にクーヤは彼らの眼差しに畏怖の念を抱いている。
無理もない、奴らのギラギラした視線は自分達には目もくれず、一心にクーヤへ注がれているのだから。
「さぁ! 我らと共に参りましょう、クーヤ様! 共にあの日のクンネカムンの栄光を取り戻すのです!」
「い……いや……!」
そう語りながら立ち上がり、じりじりとこちら……いや、クーヤへと近づいてくる。
「やめてください!」
そして、それを制止させるようにサクヤがクーヤを守るようにその間へ入る。
「貴様……」
瞬間、男の顔が引きつり、目の色が変わる。
(なんだ、奴のサクヤを見る瞳に強い怒りを感じる気がする……)
それはまるで親の敵を見るような、憎悪の籠った蔑みの眼差しだ。
しかし、サクヤはそれに臆することなく立ち向かう。
「今のクーヤ様はそんなこと望んでません。……いえ、
サクヤの強い想い、その気迫に周囲の兵達も若干たじろぐ。
しかし、リーダー格の男は……
「やはり、祖父が祖父なら孫も孫だな。揃いもそろって同じような台詞を吐くとは」
「え、おじい……ちゃん?」
「そうだ……我らがどれだけ進言しようとも奴の一声ですべてが無に帰した。何が『
「……!」
その名が出た瞬間、クーヤの体がピクリと跳ねる。
そしてカタカタと震えだし……
「ゲンジ……まる?」
「ハッ……いけない!」
なんだ、クーヤの目はどこか虚ろで、まるで誰かを探すようにその手を動かしている。
「クーヤ様、大丈夫……大丈夫ですから。思い出さないでください……」
「ゲンジまる……どこ?」
どうやら、あの男が発した言葉がクーヤの心の奥にある"何か"を刺激したのか。
「や……だ、行かないで……。一人にしないで……」
「大丈夫です。クーヤ様は一人じゃありません。あたしもビャクヤさんもラクさんもここにいます。トゥスクルの方々だって、クーヤ様を一人になんてしませんから」
サクヤが抱きしめて落ち着かせようとするが効果は薄い。
そして、そんな様子をにやりと見下ろす男がいた。
「そうだ、あの男はもういない……そう、死んだのだ!」
「……!!」
クーヤは頭を抱えながら目を見開き、そこからは涙が流れ始める。
『貴様! これ以上クーヤを追い詰めるようなマネはやめろ!』
これ以上この男に喋らせてはいけない、そう思うと自然と奴らと対峙していた。
「なんですかなあなたは? これは我々シャクコポルの……クンネカムンの問題、よそ者はすっ込んでもらいたい」
こいつ、さっきまでサクヤにさえ目を向けていなかったというのに自分達の問題だと言い張るか。
『大体なぜそこまでクーヤに拘る。戦争がしたいってんならクーヤの関係ないところで貴様らで勝手にやってろ!』
自分は引かない、守ると決めたのだから。
「まぁ、実のところ……クーヤ様の記憶がなかろうが國の再興を望んでなかろうが我々には関係ないのですよ……」
『なん……だと? ならどうして……』
「象徴……ですよ」
『象徴?』
「そう、いくら兵を集め、軍備を整え、大義を持とうとも……それは所詮有象無象の寄せ集めだと誰もが思うだろう」
確かに、ただの敗残兵の雑兵が集まったところで、そんなものはただの愚か者の集いにしか見えないだろう。
だが、もしそれが自國を取り戻すために再び立ち上がった皇だとしたら? ……その意味合いは大分変わるだろう。
「そうだ! 我らは再び立ち上がるのだ、アムルリネウルカ・クーヤの名の下に!」
「「「おおおおお!」」」
「クーヤ様!」「クーヤ様!」「クーヤ様!」……
……異常だ。
もはやこいつらの頭にはクーヤのことや他の國のことなどどうでもいいのだ。
ただかつての栄光を取り戻したい、それ以外のことはただの手段にしかすぎない……。
『……ラクシャイン、逃げるぞ』
これ以上クーヤを奴の近くにいさせるわけにはいかない。
相手は十人近くいるが、自分とラクシャインなら何とかなるはずだ。
「逃げる? はっ! 穴人の十人や二十人、俺なら簡単に皆殺しにできるぜ。というか俺はこいつらを斬りたくてたまらねぇンだよ」
こいつ……今は一刻も早くあいつらから遠ざかりたいだけだというのに。
「ククク……はっはっは! これはこれは、まだ我らクンネカムンの"力"を理解していない者がいるとは……」
「なに?」
「見るがいい……我らの"力"を!」
男が手を上げると、それに呼応するように後ろの林が揺れる。
そして、そこから現れた
ガシャン……ガシャン……
「そんな!? あれはアヴ・カムゥ!?」
「おいおい、あれは前の戦争で全部消滅したって聞いたんだがな……」
「確かに"浄化の炎"によってほとんどが塵と化した……だがまだ数体のこっていたのだよ、我々の下にな!」
悠然と歩いてくる、鉄の鎧を身にまとった全長五メートルはあるであろう巨人が自分達の前に立ちはだかった。
『これ……は』
自分はこれを知っていた。
直接見たことはないが、
(確か……名前はアベル・カムル。自然環境に適応できなかった人間が少しでも地上で研究できるようにという名目で作られたシロモノだが……実際は人間が再び地上の支配者となった時、他国を制圧して自分達の天下にするための決戦兵器だろうって先輩は言ってたな)
しかし解せないのは、なぜそんなものを彼らシャクコポル族が持っているのかということだ。
「ふははははは! これこそが我らシャクコポル族が偉大なる
『ぐうっ!』
なんだ、また頭の中に何か……
…
……
………
「本当に良いのですか、クンネカムン皇よ」
「くどいぞゲンジマル。脆弱たる我らシャクコポル族が生き残るにはこの道しかない……」
どこか暗い洞窟の中、男が二人。
そして、その目の前に、言葉では言い表せない強大な何かを……こちらを見上げている。
「契約ハ成立シタ……」
「おお……これが
「ワカッテイルナ……契約ハ……」
「理解しております。我らシャクコポルはいつの日かこのアヴ・カムゥで世界を掴む!」
その言葉に強大な何かは満足そうに消えていく。
それと同時に、自分の視界も薄れていき……。
「ゲンジマル、私はそう長くない。此度の戦まではもつだろうが、世界を取るまでは無理だ。だから我が一族を見守ってくれ……シャクコポル族が世界を手に入れるその日まで……」
「御意に……」
そこで、自分の意識は弾かれたように元の場所へと飛ばされる。
『……ッハア!?』
なんだ今の映像は……。
シャクコポルとエヴェンクルガの男がアベル・カムルを手にした瞬間だとでもいうのだろうか?
「おいアンちゃん、大丈夫か!」
『あ、ああ……それよりも。この状況だ』
「ああ、こりゃアンちゃんの言うとおり逃げた方がよさそうだな」
現れたアベル・カムルは五体。
いくらなんでも勝ち目はない。
「アンちゃんは嬢ちゃん達を守りながら進め。俺がこいつらをけん制する」
『無茶だ! 自分の方が耐久力はある。自分が奴らをどうにかして止める』
戦闘用に作られたアベル・カムルと違い、環境調査用の自分の機体とではその性能差は歴然。
だがここであれに対抗できるとしたら設計を見たことのある自分しか……
「おいおい、うぬぼれんなよアンちゃん。お前さんじゃあいつらを数分も止めてられねぇよ、これは俺の仕事だ。それに、クーヤの嬢ちゃんにはお前が必要だ」
『ラクシャイン……』
最初はなんて狂人と旅をする羽目になったもんだと思っていたが。
今になってみれば、これほど頼もしい存在はいないと思うとはな。
『わかった、だが無理はするな』
「了解。さぁ、奴らの希望をぶった切ってやるか」
殿をラクシャインに任せ、自分はクーヤとサクヤの下へ。
「ふん……無駄なあがきを……。我々シャクコポルこそが神に……
……こいつらは、自分達に力があるから……
『ふざけるなよ……何が
「なっ……! 貴様……我々ばかりではなく
言いたいことは言ってやった、これ以上あの男と語り合う必要はない。
早く二人を安全な場所まで届けるんだ。
「あ、ビャクヤさん……」
うずくまるサクヤの腕の中で、カタカタと震えるクーヤ。
これほどまでに……クーヤは苦しんでいるのか。
『サクヤ、逃げるぞ。クーヤを頼めるか』
「はい、行きましょう」
クーヤを抱え立ち上がるサクヤ。
そして急ぎこの場を離れようとするが。
「ふん、無駄ですよ」
『ッ!? サクヤ、危ない!』
ラクシャインを抜けてきた一体のアベル・カムルから振るわれた巨大な鉈のような剣を二人を抱えるように飛びのいて、間一髪よけることに成功した。
「すまねぇアンちゃん、一匹そっち行っちまった!」
細かい動きで敵を翻弄するラクシャインだったが、流石にこの数を抑えることはできずに自分達と対峙する。
(大丈夫だ……思い出せ、以前見た資料の内容を)
ブンッ……とその巨体から振り下ろされる一閃。
アベル・カムルはその巨体故に格闘戦で密着されるまで近づくとその真価を発揮できない。
だからその懐に潜り込み、その足へ……
『ヒートナイフ出力最大!』
ジュウ、という音を立て火花を散らしながらその足を覆っている鎧を焼き切っていく。
バチッ……!
鎧を斬り裂いたところでヒートナイフが音を立てて煙を吹く。
メンテなしでここまで出力を上げて使用したからだろう。
『だが、ここで止まってる場合じゃない!』
背中のクトネシリカを抜き、むき出しになった足の腱を一閃し、切り抜ける。
「ぎゃあああああ!」
アベル・カムルは人間自身を生体ユニットとしてその神経を0.1ミクロンの繊維がつなぐことで起動する兵器。
つまりこれだけの巨体ながらも精密な動作を行える代わりに傷つけた個所によって本体もその場所にダメージを受けるということだ、鎧が装着されているのはそのためである。
(こいつらが近距離武器しか持っていなくて助かった)
本来なら、火炎放射や大砲並みのグレネードランチャーで場を制圧するのがあれの一般的な形だが、そこまではないようだ。
『ラクシャイン、関節部分の肉を狙え!』
「そうは言われてもよ……。そらっ!」
ズバッ!
「お、当たっ……ぐぅぁ!!?」
『ら、ラクシャイン!?』
何とか一機の膝の裏への攻撃に成功するラクシャインだったが、その代わりに横っ腹への打撃を避けられずそのまま吹き飛ばされる。
『今助け……ガッ!!?』
油断した! 足の腱を斬って動けなくなったと思っていたアベル・カムル逆の足の蹴りを左半身にモロに受けてしまった。
『ガ……ぐぅ』
そのままボールのように地面をバウンドし、鋼で覆われた身体はあちこちがぼろぼろになり果てていた。
『機体損傷率50%……左腕、左脚、トモニ稼働限界デス。タダチニ離脱シテクダサイ』
冷たい機械音声が無情な現実を突きつける。
だがまだ……まだこんなところで
夢にまで見た地上で出会えた、大切な人を守ることもできないままだなんて……。
「まったく、手間をかけさせてくたものだ」
数体のアベル・カムルを連れた男がクーヤへ近づく。
「さぁ、一緒に来てもらいますよ……クーヤ様」
「させません! クーヤ様はやっと……やっと一人の女性として幸せな未来を掴もうとしているんです。それを邪魔することは、決してさせません!」
両手を広げ、クーヤを守るように立つサクヤ。
「ふぅ……邪魔な小娘だ。今ここで
男が手を翳すと、隣のアベル・カムルが大きくその手の剣を振りかざす。
(駄目だ……! やらせるな! くそ……動けよこのポンコツ!)
必死に身体を動かそうとするが、危険を判断した機体の警告信号が脳へのリミッターをかけ、思うように動かせないでいた。
壊れた状態の機体を動かそうとすれば脳へどんな影響があるかわからない……だけど……
「やだ……やだぁ……。頭がいたいよぉ……」
「クーヤ様……必ず、守ってみせますから」
自分の脳がどうなったって構わない。
だから、この身体のリミッターをすべて解放してでも……!
「やれ」
自分が……
「……ったく、しょうがねぇなぁ」
『!!』
瞬間、剣が振り下ろされるその瞬間に、静寂の訪れたこの広い空間に響いた声にすべての者が動きを止める。
「貴様、まだ動けたか」
奴らの後ろ、そこから悠然と歩いてくるのは先程アベル・カムルにやられたラクシャインだった。
『ラクシャイン!? どうして』
先程の攻撃で骨の何本かはバラバラになって、動くだけでも辛いはずなのに……。
「いやさ、こうでもしねぇとアンちゃん絶対ムリするぜ?」
『自分のことはいい! お前だって瀕死で……』
「あー……時期が早いのは仕方ねぇだろ。ここでやらなきゃ何もかもがおじゃんだ」
……なんだ? 話が噛み合っていない。
むしろラクシャインは自分とは話していないように感じる。
それに……なんなんだ……お前の横に浮いている……その
「てなわけでよ、やってもいいか……
『ああ、解放を許可する』
『!!』
その瞬間、自分の頭は真っ白になった。
今あのデバイスから聞こえたのは、若干雑音混じりだが、
「それじゃあやりますか」
そう言ってラクシャインが懐から取り出したのは……白い仮面だった。
「え……? そんな……あれは。でも……少し形が違うような……」
何故かサクヤも驚いている。
おでこと口の間をすっぽり覆い隠すようなその仮面には大きな角が二つ……いや、片方は折れている。
まるで鬼を思わせるような造形……。
そして、それを着けたラクシャインはニヤリと笑みを浮かべて……
「さあ
その瞬間
大気が
いや
空間が……揺れた
ラクシャインが光の中へ消え、一瞬にして自分達の目の前に現れた禍々しくもどこか神々しい"それ"の姿は
「な、なんだこの化物は……」
あるものに恐れを与え
「うそ……」
またあるものには驚愕を与え
「いや……」
またあるものには……
「オォォ……オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「いやああああああああああああああああ!」
押さえ込んでいたはずの忌まわしい記憶を……目覚めさせるキッカケとなるのだった