うたわれるもの外伝 ~天と地を繋ぐ絆~   作:もりベス

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第十四話 「真実」

 

 そこから先は、ただただ一方的な虐殺だった。

 

「ぎゃあああああ!」

 

 化物がその鋭い刀のような腕を振るうと、あのアベル・カムルの腕が、脚が、腰が、首が、踊るように切り刻まれていく。

 クンネカムンの残党には最早先程までの威勢は消え、恐怖というどうしようもない感情がその身を支配し始める。

 

「うわあああああ!」

 

 中には恐怖のあまり錯乱し、無我夢中に剣を振り回しながら突撃する者もいた。

 

「……」

 

 しかし、そんなものでは化物の体に傷一つつけることは叶わない。

 それは、化物の体がただ堅いからだけではない。

 攻撃が当たる瞬間、その個所に風のようなものが纏わり攻撃を跳ね返しているのだ。

 

「オォォ……オオオオオ!」

 

 目の前に繰り広げられる一方的な蹂躙。

 自分はその光景を……ただ眺めていることしかできなかった。

 

 

 

「どう……なってるんですか、これ。ラクさんが……化物に」

 

 なんとか身体を持ち直して二人の下にたどり着くと、放心状態で目の前の虐殺を見つめるサクヤと……

 

「それに……クーヤ様が、ここまで怯えるなんて」

 

「あ……ああ……」

 

 その腕の中で絶望の表情を浮かべながら目を見開きガクガクと震えるクーヤ。

 確かにこの怯え方は普通じゃない。

 残党の奴らが昔を思い出させるキーワードを話した時も、クーヤは記憶を混乱させていたが、あの化物……ラクシャインが変化したあの姿を見た瞬間は比べ物にならない取り乱し様だった。

 

 つまり、あれはクーヤがそれほどまでに思い出したくない記憶に関係するものということ……。

 ラクシャイン……お前は一体……。

 あの化物は一体……

 

『なんなんだ……』

 

 

『あれは仮面の者(アクルトゥルカ)……研究データではそう呼ばれていた力だよ』

 

 

『!?』

 

 突然の機械交じりの音声に振り向くと、そこには先程ラクシャインの側で浮いていたあの小型端末がふよふよとこちらへ近づいていた。

 先端に見えるカメラ・アイはハッキリとこちらを捉えている。

 

『あんたは……一体』

 

『やれやれ、睡眠期間が長すぎて私の声も忘れたか?』

 

 いや、答えはすでに知っていたはずなのだ……ただ確信、それが欲しかった。

 

『私だよ、皇白夜。キミの先輩であり、科学者仲間であり、共に宇宙(そら)で長い時を過ごした仲だろう』

 

 やはりそうだ、この声の主は……。

 

『水島……先輩?』

 

『久しぶりだな白夜。まぁ、もっともお前にとってはそれもたった数年程度の感覚だろうが』

 

 なんというか……心の整理が追いつかない。

 気にかかることが多すぎてどれから手をつけて考えればいいのか……。

 

 ちらりとクーヤ達の方を見る。

 依然頭を抱え込むクーヤだが、命を狙われる状態は回避されたと言ってもいい。

 しばらくサクヤに任たほうがいいかもしれない。

 

 戦闘も、未だにあの化物……いやラクシャインが圧倒的な力で蹂躙している。

 

『ふむ、あれが気になるか?』

 

 今自分に出来ることは、先輩との対話だけ。

 この状況を一番理解しているのは、多分この人だろうから。

 

『あれ……というよりは全部気になりますね。自分が起きるまで先輩がどこで何をしていたのか』

 

『そう答えを急くな。一つ一つ順序立てて説明しよう』

 

 そして自分はこれから、多くの真実を知ることとなる。

 

 

 

『まず、現時点で活動している人類は我々しか確認できていない。これはいいか?』

 

『ああ、これまで出会った人は皆マルタだった。今地球は彼らの時代だ』

 

『……まぁいい。次に私がいつから起きているかということだが』

 

 なんだ、今の自分の言葉に対する先輩の返答の間のようなものは……。

 

『私はずっと起きている。お前が最後に眠りについたその日からな。それ以来、ずっとこの"眼"で世界を監視し続けてきた』

 

『はい?』

 

 先程感じた違和感もぶっ飛ぶ衝撃発言に思わず間抜けな声が出てしまう。

 

『いやおかしいでしょう。先輩人間でしょう』

 

 遺伝子操作されているマルタなら人間よりは多少長生きするだろうが、少なくとも自分の記憶では先輩はれっきとした人間のはずだ。

 ……いや待て、この眼で監視してきたってことは。

 

『そうか、先輩も自分と同じようにコールドスリープしながら脳波操作でそのデバイスを操っていた……』

 

 と、ここまで言っておきながらまた自分の中に疑問が現れる。

 

(自分が起きた時、先輩は自分のゆりかごにはいなかったはず。予備もないはずだし……なら先輩はいったいどこに?)

 

『ふむ、半分ほど正解とだけ言っておこうか。この話はまた後でしよう』

 

 先輩はまだ真実を語らない。

 

「おうセンセイ、アンちゃん。終わったぜ」

 

 自分を呼ぶ声の方へ振り向くと、そこには以前と変わらぬ姿のラクシャインがそこに建っていた。

 

『残党達は……』

 

「あ? 皆殺しに決まってんだろ。すぐ絶望しちまう奴は斬ってもつまらなかったが、最後までお國再興の夢を抱いてる奴は斬りがいがあったぜ」

 

 奥を見れば、四肢や首が跳ねられたアベル・カムルや、斬り裂かれて無残な姿で横たわる兵士。

 もう誰も助からないことは目に見えて明らかだ。

 

『ふむ、丁度いい。仮面(アクルカ)について説明しよう』

 

 こんな惨状だというのに、先輩はまるで気にも留めてないほど冷静だ。

 

『アイスマンに関するデータは覚えているか? 彼の身に着けていた仮面は人間には作り出せないほど細い繊維で完全に脳と一体化していた』

 

 そういえば……確か地中のお偉いさんはその脳に与える刺激が人間の能力を限界以上に引き出すとか研究してたな。

 

『彼らは愚かだった……本当に重要なのは刺激を与えられた脳よりも、その脳から送られる信号に反応する仮面だったというのに』

 

 つまり、重要なのは仮面そのものだった?

 

『仮面本来の用途は、その脳の信号に応え送られてくる人智を超えた力、この世界の根源とも言える未知なる領域に足を踏み入れるための扉……だと、北の研究施設からハッキングしたデータに記されていた』

 

『って、先輩の研究じゃないんですか』

 

『焦るな、確かにラクシャインの持つ仮面(アクルカ)はそのデータを元に私が作り出した試作品だ。本題はここからだ。……しかし、その扉を開けるのはそのアクセス権を持つ者だけなのだ』

 

『アクセス権?』

 

『"力の根源"……』

 

 それは、どこかで聞き覚えのある単語。

 そう、確か自分と先輩が研究していた……

 

『仮面はただのキッカケに過ぎない。その身にその大いなる力を宿していれば、仮面が無くとも力の根源にアクセスできる。それを、私はディーと呼ばれる存在を観察することで確信した』

 

「……!」

 

 その瞬間、先輩の言葉に反応してクーヤがまたガタガタと震えだす。

 

『ど、どうしたクーヤ!?』

 

『ふむ、そういえばこの話題はそこのマルタにもあながち関係のない話ではなかったな』

 

 どうして先輩がクーヤのことを知って……いや、世界を見てきたと言ったんだ、それが重要な場面だったら隠れて見ていたとしてもおかしくない。

 

『愚かな一族だ。虚栄を崇め、すべてを得ようとするも、最後には民も、國も、家臣も、そして最も大切な存在もすべてを失った』

 

「いやっ! やめて!」

 

 ッ! クーヤの様子がさっきよりも苦しそうだ。

 なんだ、先輩は何のことを言っているんだ……。

 

『いや、その一族だけ限った話でないな……そもそもマルタという作りものが統べる世界そのものがおかしいというのに……』

 

 先輩の様子がおかしい。

 そのカメラ・アイの奥から感じられるのは狂気のようなものが混じった怒りの感情……これはなんだ。

 

『先輩、いったいどうし……』

 

『まだ分からないか! 今や地上は愚か地中にさえ活動できる人類は存在しない。それなのに人類に作られたこの下等生物ごときが増え、この世を統べているなど……。この地球は、人類が統べるべきなのだ。作られた存在などではなく!』

 

 いったい先輩に何があったんだ。

 この人は人類という種が大好きなのは知っているが、いくらなんでも狂気じみてる。

 

『落ち着いてください先輩! それにまだ諦めるのは早いですよ。もしかしたら自分達のようにコールドスリープしてる人間がまだいるかも……』

 

『お前はあの惨劇を見ていないからそのようなことが言えるんだ! いや、忘れてしまったからというのが正しいかな』

 

 忘れた? 自分が何を忘れたというんだ。

 自分が正確に覚えていないのは、最後の眠りにつく前……

 

『やはりまだ思い出さないか……ならば、思い出させてやろう!』

 

『ッ!? ぐぅあああ!』

 

 これは……この身体のシステムを通して先輩のデバイスから何かが流れ込んでくる!

 

 

 

 

 

「どうだ白夜、体の調子は」

 

「うーん……少し違和感ある気がしますけど、その程度ですね」

 

 これは……確か研究に行き詰って、とうとう自分の体に研究したサンプルを注入した後か……。

 でも違う、ここじゃない、もう少し後……。

 

 そうだ、もう少し後に……あの悲劇の日が起きたんだ。

 その日、地中からのアラートで目覚めた自分達は、世界各所から送られてくる異常な映像にただ戦慄し、震えていた。

 

「なんだ……これ。どうして人がどろどろに溶けて……うええ。」

 

 そこに映し出されていたのは、人が溶けゲル状の赤いスライムへと変態し、今度はそれが人を呑み込んでいく。

 

「う……気をしっかり持て白夜。とにかくこうなった原因をさが……す……」

 

「どうしたんですかせんぱ……うわぁ!?」

 

 よく見れば、先輩も足元から少しづつその兆候が見え始めている。

 そんな、こんな宇宙(そら)の上にいても逃れられないというのか。

 

「そんな……もう。駄目なのか」

 

 すべてを諦めかけた瞬間、その一瞬の気の緩みから自分の中に入ってくるあふれんばかりの怒り、苦しみ、そして悲しみの感情。

 

(!? なんだこれは!? 頭が割れる……!)

 

 少し前から何か別の感情が自分に流れてくるような感覚はあった。

 しかしそれはどれも穏やかな感覚だったため気にも留めていなかったのだが。

 

「自分も……ここまでかもしれないな」

 

「……いや、諦めるな白夜」

 

 そう言って先輩は自分の肩を掴みゆりかごの下まで連れてくる。

 そしてそのまま強引に自分を寝かせると

 

「先輩! いったい何を!?」

 

「白夜、おそらくお前はこの現象の影響を受けていない。これは予測だが……あのサンプルの恩恵によるものだ」

 

 そんなことを言われても、自分の頭はパニックでそんなことを考える余裕はない。

 

「私はこれから最後の賭けにでる。だがもし失敗したらその時は……白夜、お前が最後の希望だ」

 

 その言葉を最後にゆりかごの扉が閉まる。

 最後に見た先輩の姿は、すでに脚の大部分がゲル状と化しており、その手には注射器を持っていた。

 そして、自分は長い長い時を経て、現代へ生き延びた。

 そのおぞましい記憶を封印して。

 

 

 

 

 

 

『あああぁぁ……』

 

 すべて……思い出した。

 

(自分は……人間がタタリになる瞬間をこの目で見てきたんだ)

 

 しかし、最後に見た先輩の姿。

 あれは確かにタタリになりかけていた。

 それなのにこうして話せているということは……

 

『最後の賭けは上手くいったんですね、先輩』

 

『……』

 

『先輩?』

 

 先輩は何故か何も答えない。

 

『実はコールドスリープしている人間はまだ何人か存在していることは確認している』

 

『だったらその人達も早く起こして……』

 

『それはできない。あの悲劇は終わっていないんだ。たとえコールドスリープで眠っている人間を起こしたとしても、そいつはきっとタタリに変貌するだろう』

 

 そんな、ならどうすれば……いや待て、ならなぜ自分はタタリになっていない?

 もしかしたら、自分の体が人類のタタリ化を防ぐ手段に……

 

(だからあの時先輩は自分が"最後の希望"だと言ったのか)

 

『せんぱ……』

 

『……白夜、私はな、この世に再び人類の時代を取り戻したいと思っている』

 

 それは……自分も考えたことはある。

 けれど、今現在こうしてマルタ達が文明を築いてる中で人類が復活する意味はあるのだろうか……。

 

『だからこそ、今この地球上を我が物顔で支配してるマルタを一掃しなければならない』

 

『……え?』

 

 今、なんて言った? マルタを……一掃?

 

『今のままで人類が復活したとしても、人類とマルタの覇権争いが起きることは明白だ。ならばそうなる前に地球を人類のものに取り戻せばいい』

 

 駄目だ、今までナチュラルに会話出来ていたから大丈夫だと思っていたが、この人はもう狂っている。

 

(先輩、どうしてしまったんだ。やはり人間がタタリになる光景を見て精神が病んでしまったのか)

 

『今日は記念すべき日となる……。白夜、お前をここまで誘導してきたかいがあったというものだ』

 

『ッ!? どういうことだ』

 

 誘導? 自分達は偶然このクーヤ達の故郷にやってきたはず。

 誰の指図も受けずに……なのにどうやって誘導されたと……

 

「おいおいアンちゃん、考えてもみろ。転移術式で飛ばされた先にセンセイの協力者である俺がいて、何の迷いもなくついていくなんて偶然あると思うか?」

 

『つまり……あの転移の術式は』

 

『私が前もって仕掛けておいたものだよ。お前ならばいつかあの場所は調べると思ったからね。術法というのは未だ不可解なものだが……役に立つなら使わせてもらったよ』

 

 つまり、ラクシャインは自分の監視役だったのか。

 今までのやり取りも全部……この前の財布の件も、どこかで見ていたから対処できたと考えれば自然だ。

 

『だったら、先輩は自分をここまで連れてきて何をしたいっていうんですか』

 

『言っただろう、記念すべき日となると。今日ここで、マルタ共の集まる場所が一つ……消える』

 

 その言葉に背筋が凍る。

 この近くでマルタの集まる場所と言えば、昨日泊まったあの町しかない。

 

『これは始まりだ! 人間の技術の力でマルタは地上から消え、また新しく再生された地上で新たな人類の時代が始まる! 見ろ!』

 

 その言葉に、ここにいる全員が先輩のカメラ・アイの先、あの町の丁度真上の空を見上げる。

 そこには、今にも落ちてきそうな赤い輝きがその空を覆い尽くしていた。

 

「やめて……。もう……やめて。やめてよおおおおお!」

 

 その光景に、クーヤはこの世の終わりでも見るかのような絶望の表情を浮かべている。

 

「クーヤ様! そんな……あれは、"浄化の炎"」

 

 浄化の炎……つまり、アマテラス。

 あんなものが使われたら、あの町もこの場所と同じで跡方も残らない。

それに……

 

(クーヤ……)

 

 すべてを思い出したと同時に流れ込んできた自分のものではない誰かの記憶。

 今までもぼんやりと見えていた、クーヤの悲しい過去。

 もしかしたら、誰かがクーヤを助けてほしいと、自分に見せているのかもしれない。

 

 ならば……

 

『もう二度と、あんな光景は起こさせない』

 

 ボロボロの身体をなんとか動かしでクーヤを優しく抱きしめる。

 

「ビャク……ヤ?」

 

 覚悟はできた。

『先輩、自分はあなたとは行けません。自分は今この世界に生きる人達を……クーヤを守りたいから』

 

『……』

 

 クーヤからそっと身体を離し、まだ動く方の手でそっと頭を撫でる。

 

『クーヤ、ちょっと行ってくる。だから、待っててくれ』

 

 まったく、ずっと一緒にいると約束したのに……

 

「待って……ビャクヤ……」

 

 とんだ嘘つきだな……自分は。

 

「行かないで!」

 

離脱(ログアウト)

 

 

 

 

 

こうして

 

自分は戻ってきた

 

人類が作り出した忌まわしい破滅の光を止めるために

 

この宇宙(そら)

 

 

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