うたわれるもの外伝 ~天と地を繋ぐ絆~   作:もりベス

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第十五話 「決意」

 

 意識が離れていたのはたった数日だというのに、やけにこの場所を懐かしく思うのは、それだけ地上での出来事が印象深かったからだろう。

 コールドスリープから目覚めた自分は、ぼやける思考を無理やり覚醒させる。

 ここでのんびりしているわけにはいかない、自分にはやらなければならないことがあるのだから……。

 

「アマテラスの全ステータスを表示しろ」

 

 現在この宇宙ステーションはアマテラスと物理的に繋がっている。

 そのため、遠隔操作よりもより深い場所へアクセスが可能……だが。

 

『現在アマテラスヘノ接続は全面的ニ制限サレテマス』

 

「やっぱり、そう簡単にはアクセスさせてくれないか」

 

 用意周到な先輩のことだから、アクセスロックくらいはやっているとは思ったが。

 

『発射マデ……アト、5分、デス』

 

 マズイな、もう時間がない。

 このロックシステム……確か先輩のお手製プログラムだったはず。

 

「だったら、同じプログラムをコピー……主要個所を改変……よし、これを同じ場所へ」

 

 先輩のプログラムに真っ向から対決するのではなく、わずかな隙間を広げるプログラムを重ねることで余計な処理を行わせず潜り抜けることに成功する。

 

「よし、後はこれを強制終了……やった!」

 

『発射マデ……アト、1ッ……』

 

 強制的にカウントが停止される。

 外部モニターを確認すると、アマテラスの先端へと集束していた光が霧散し散らばっていくのが見える。

 なんとか、発射を阻止することができた。

 

「っと、まだ気を抜くわけにはいかないな。とりあえず、もう悪用出来ないよう厳重にセーフティをかけておこう」

 

 昔先輩が作り出したセキュリティパスワード生成システムを自分が改変して100桁のランダム設定システムにしたものだ。

 ランダムだから自分にも解除することはできないし、解除しようとコンピュータを取りだしても、同時にセットした偽装システムがさらに解読を遅らせる(これも誰かが作ったものの改変だが)。

 

『ふっ、流石だな白夜。やはりお前は私の知る中でも最高の科学者だよ』

 

「!? この声は!」

 

 それは先程まで対話していた声。

 先輩も勿論このステーションにいるのだから、接触してくるとは思ったが……。

 

「ど、どこだ!」

 

 周囲を見渡すが人の気配はない。

 どこかに隠れて様子を見ているのか?

 

『いやいや、こっちだよ。正面見てみろ』

 

「え? どぉぅあ!?」

 

 正面……先程までアマテラスのステータスを表示していたホログラムモニターにでかでかと先輩の身体が映っていた。

 

『待っていたよ、白夜』

 

「……悪いけど先輩、自分がここに来たのはあんたに協力するためじゃない。自分は今地球で生きる新しい未来のために……」

 

『待て待て落ち着け。まずは深呼吸しよう』

 

 ……ん? なんか違和感バリバリだ。

 先輩から先程までの狂気を感じない。

 喋り方も以前はいつも聞いていた先輩の区長を思い出させる。

 それにこのモニターに映ってる先輩、映像じゃない画像だ、昔まだ地上にいた頃撮ったやつだな、若干若々しさがある。

 

「先輩、なんかさっきとキャラ違くないですか?」

 

『当然だろう、あれは私であって私ではないからな』

 

 ……んん? なんだ、ますます分からなくなってきたぞ。

 

『まず理解してほしいのは、今現在お前と話している私はマルタを滅ぼすつもりなどない』

 

「いや、でもさっきはもう狂ったように殲滅宣言してたし」

 

『言っただろう、あれは私であって私じゃないと。そうだな、順序立てて説明しよう。お前が眠りに就いたあの後、私の身に何が起きたのか……』

 

 自分は、黙って話を聞くことにした。

 

『あれはお前をゆりかごへ入れてからすぐのことだった……』

 

 

 

……

………

 

「先輩! せんぱ……!」

 

 ゆりかごが閉じるのを見届け、私は安堵した。

 白夜はいつかきっと人類を救う希望になりうる、そう信じて。

 

「さて、あとは私の問題か……」

 

 すでに脚の大部分はゲル化している。

 それなのにそのスライムには自身の感覚があり、自分の身体だと実感できることに恐怖を覚えながらも好奇心を掻き立てられる。

 

「こんな状況だというのに……まったく、研究者の性というものか」

 

 しかし、研究者だからこそわかる、今の人類の技術ではこの現象を止めることはできないと。

 

「だからこそ、未知の現象には未知の研究で対抗するしかない」

 

 白夜と共に研究していた人類進化の秘密に迫るためのサンプル。

 白夜は気付かなかったようだが、モニターに映っていた人間にはだれしもがその兆候を見せていた。

 そうなれば、おそらくもう逃げることはできない。

 

 しかし白夜にだけはその兆候が見られなかった。

 そして、研究施設で逃げ回っていたマルタにも……だ。

 マルタにはアイスマンの細胞が使われている。

 そして子のサンプルを投与したマウスにはアイスマンと似通った遺伝子情報が見受けられた。

 

「私の推測が正しければ……あるいはこれで」

 

 もう時間はない。

 私は手に持った注射器を腕に刺し、中の液体を投与する。

 

「う……ぐう!?」

 

 突然襲い来る身体の中を何かがうごめくような感覚。

 そして、脳に直接響くような謎の声。

 

(オ……望ミヲ……エ)

 

「があああ……! 頭が割れる……」

 

(白夜もこの声に苦しまされていたのか……私に耐えることができるのか)

 

 その内なる声にうなされ、のたうちまわっている時に気づいた……身体の変化が止まっていると。

 だが、止まるだけでそれ以上の効果はない。

 脚と胴体の半分はすでにスライムと化し、感覚も完全に同化している。

 

(頭に強大な意思のようなものが流れ込んでくる。そして逆に、私の意志、夢、欲望、さまざまな感情が逆流していくようだ……!)

 

 やがて私は途切れそうな意識を何とか保ちながら体を動かす。

 どうかこの悪意あふれる衝動を地上にもたらさないために……。

 

 

 

 

「それから……先輩は」

 

『この正常な私が意識を取り戻したのは数年前、このコンピュータ上でのことだ』

 

「つまり、自分が地上で出会った先輩は……」

 

『私の意志と分離した、狂気と異常性を持つもう一人の私……と言っていいだろう』

 

 これであの先輩の異常な言動と行動の数々は理解できた。

 だがそれはどうして? 目の前で人がどんどんタタリになり、自分までその悲劇に見舞われたのだからおかしくなっても無理はないと思うが、先輩は冷静だった。

 ではやはりあのサンプルが原因? でもなぜだ、自分はそれに関する記憶が未だ曖昧だ。

 

「そういえば、先輩の体は今どこにあるんですか?」

 

 自力で移動したと言っていたが。

 

『私は、最後の力でこのステーションの最奥……冷凍格納庫へその身を投じた』

 

 そういえばそんな場所あったな。

 まさかあんなところに人がいるなんて思いもしなかったから完全に見落としてた。

 

『だがもう一人の私は賢くも全身が氷漬けになる前に脳を格納庫にあるコンピュータへ繋いだ。この時に私の意志はこの電子の海に放り出され、体の所有権は完全に奪われてしまった』

 

 そしてそのまま地上のデバイスを起動して、地上の様子を確認したり、仮面《アクルカ》の研究をしていたのか。

 

『白夜……頼む、私を止めてくれ』

 

 おそらく、今話している先輩は肉体がコンピュータに繋がれているおかげで自分の意志を電脳内に避難させている。

 つまり、先輩本来の体を電脳から引き離したら……

 

「わかりました、先輩」

 

 先輩も、きっとその覚悟はしているのだろう。

 ならば、自分はその思いに応えなければ。

 

「教えてください先輩、自分は……何をすればいいんですか」

 

『よし、ではまず……む、まて、地上で動きがあった』

 

「え、先輩地上のことわかるんですか?」

 

『なに、お前が使っていたあのロボに私の意識を潜り込ませただけだ』

 

 この人意識だけになってもやっぱりすげぇ……いや、電子と一体化してる分今の方が自由度が高いか?

 

「で、地上では何が起きてるんですか」

 

 残してきたクーヤとサクヤが脳裏に浮かぶ。

 まさかラクシャインが二人を殺した……なんて考えたくないが。

 

『ふむ、どうやらあの男……ラクシャインが小さいほうの女の子を攫っていったようだ』

 

(クーヤ!)

 

 しかしわからない。

 どうしてラクシャインがクーヤを攫う必要がある。

 

『おそらく……お前を地上に呼び戻すためだろうな。もう一人の私はおそらく私の存在に気付いている。だからわざと見せつけるように行動させたのだろう』

 

 全部もう一人の先輩のたくらみか。

 

『どうする白夜?』

 

 答えは決まっている。

 

「行きます。今度こそ、絶対に自分の手で助け出してみせる」

 

 今まであまりにも無力だった自分。

 だけどもう恐れない、たとえそれが自分の内に潜む得体のしれない力だとしても。

 

『それがお前の決断か……わかった、ゆりかごに着け。損傷は激しいが私のサポートがあればまともに動けるはずだ』

 

「ありがとうございます!」

 

 こうして自分は再びゆりかごへ戻り、地上へと降り立つのだった。

 

 

 

 

 

ピピ……ヴーン

 

『クーヤ!』

 

「きゃあ!?」

 

 起動してすぐにクーヤを探そうとすると、この身体を揺さぶっていたサクヤが驚いて尻もちをついてしまった。

 

『す、すまんサクヤ』

 

「い、いえ、いいんです。それよりクーヤ様がラクさんに……!」

 

『大丈夫、大体のことは把握している。それで、ラクシャインはどこに……』

 

 辺りを見回してもそれらしい影はない。

 

「ラクさんはクーヤ様を抱えてあの城……クンネカムン城へ向かいました。そして、クーヤ様を助けたければそこまで来るようにと、ビャクヤさんへ伝言を預かりました」

 

 ラクシャイン……いやもう一人の先輩からの伝言ということか。

 あそこで……すべての決着をつける気か。

 しかし……

 

(サクヤをこのままここに放置していくわけにもいかないよな)

 

 一緒に行くなどはもってのほかだ。

 この先の最終決戦、いざとなったら自分は守りきれないかもしれない。

 どうしたものか。

 

「ビャクヤさん、あたしも一緒に……」

 

『駄目だ、サクヤはどこか安全なところへ連れていく』

 

「そんなことしていたらクーヤ様がどうなるか……」

 

 ……確かに、あの狂気に満ちた先輩は何をするかわからない。

 そう思えばサクヤを連れてでも一刻も早く向かいたいが……

 

『やっぱり駄目だ、ここはやはり一度戻って……』

 

 

 

「おや、どうやら少々遅かったようですね」

「だから言ったんですぜ大将、もうチョイ速度上げた方がいいんじゃねぇですかって」

 

 

 

『! 誰だ!』

 

 声のした方へ向くと、クレーターの淵からウマ(ウォプタル)に跨った騎兵隊のような者達がこちらへ向かってきていた。

 

「誰……とはこちらの台詞ですね」

 

「そっちの嬢ちゃんは俺らの國の大切なお客なんでね。痛い目見ないうちに返してもらおうかい」

 

 強い……戦闘をするようになってから少しづつ相手の力量というものを測れるようになってきたつもいだが、この部隊はかなりの訓練を積んでいるとわかる。

 それにこの前にいる二人はそれ以上に強い。

 特にこの白いウマ(ウォプタル)に乗った男は頭一つ抜けていると言ってもいい。

 以前出会ったあの二人の女性、トウカさんとカルラさんを思い出させる。

 

『お前達は一体……』

 

「ベナウィさん! クロウさん! この人は敵じゃありません!」

 

 サクヤがずいっと前に出て二人を制止させる。

 あれ、似たような展開が確か前にも……

 

『サクヤ、まさか知り合いか?』

 

「はい、こちらはトゥスクルの侍大将のベナウィさんと騎兵隊長のクロウさんです」

 

 ふむ、とにかく敵でないことがわかって一安心……というかこれはかなりいい状況かもしれない。

 

「けれどどうしてお二人がここに? 聞いた話では全土統一のため北の大地で戦を治めていると聞きましたけど」

 

「あちらの戦況は大分安定してきたので大丈夫です。そんな中、ウルトリィ殿からあなた方を探すよう言われまして」

 

「え、どうしてウルトリィ様が?」

 

「どうやら前賢大僧正(オルヤンクル)から姉さんの方へ連絡があったみたいなんでさ。お前さん達が謎の転移に巻き込まれたってな」

 

 ワーベのじいさん……忘れてたな。

 どうやらあれからいろいろと手を尽くしてくれていたようだ。

 

「その後、カルラとトウカより本國へあなた方の所在に関する伝書送られてきたので、今日ここへはせ参じたのです」

 

 そうか、あの時の出会いが今につながるなんて、なんだか運命めいたものを感じるな。

 

「ところで、クーヤの嬢さんはどうしたんだい。お前さんが一緒にいないなんてよっぽどだぜ……」

 

「実は……」

 

 サクヤは二人に今までのこと……クンネカムン残党の襲撃からラクシャインがクーヤを攫うところまでを事細かに説明した。

 

 

 

 

 

 

「なるほど、大体の事情は呑み込めました。すぐに救出に向かいましょう」

 

 白いウマ(ウォプタル)に乗った侍大将……ベナウィさんはとても状況理解が早くて助かる。

 だが……

 

『待ってほしい。あんた達はサクヤを安全な場所へ連れて行ってくれ。……この問題は、自分が決着をつけなくてはいけないんだ』

 

「ビャクヤさん。でもそんな身体じゃ……」

 

 サクヤの言うとおり、先輩のサポートで幾ばくかましになったとはいえ、アベル・カムルから受けたダメージは大きい。

 だけど自分は……

 

「……その覚悟は、おありなのですね」

 

 ベナウィさんがまっすぐこちらを見つめて言う。

 

「いいでしょう。表情からは分かりませんが……あなたからは強い意志を感じます」

 

「いいんですかい大将?」

 

「ええ、我々はサクヤさんを安全な場所まで送り届けます」

 

 これで、心おきなく最後の決戦の場へ向かうことができる。

 

「ビャクヤさん……クーヤ様をお願いします」

 

『サクヤ……』

 

 この状況で何もできないことが辛いのだろう。

 自分の中に流れ込んできた記憶の中でも、サクヤはただただ待っていた。

 けど今は、それが大事なんだとわかる。

 思ってくれる人がいるだけで……大切な人を思い続けることが大切なんだ。

 

(だからこそ、この気持ちを伝えるためにも……)

 

「ビャクヤさん、必ず戻ってきてくださいね」

 

『ああ、その時はクーヤも一緒だ』

 

 こうして自分は歩き出した。

 すべての決着をつけるために、クンネカムン城へ。

 

 

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