ここからドンドン駆け抜けていきますよ!
今、自分の目の前に建つ巨大な城……クンネカムン城。
(今なら分かる。この場所で多くの悲しみと痛みが生まれたんだな……)
ここはクーヤにとって悲しく辛い場所。
けれど、きっとそれだけじゃない……。
『それを……伝えにいかなきゃな』
中へ入り、誰もいない広い城内を進んでいく。
なんだか……とても寂しい光景だ。
初めて訪れる場所のはずなのにこうして迷いなく進めるのは、自分の内に存在する別の何かの記憶のおかげだ。
おそらくクーヤがいるのは最奥……クーヤにとってすべてが失われたあの場所。
『よし、いくぞ』
『と、意気込むのはいいが。白夜、勝算はあるのか?』
突然どこからともなく頭の中に響いてくる先輩の声。
これは……この身体の中に直接意識を潜り込ませてそのまま喋ってるのか。
なんか凄い違和感を感じる……。
『突然話しかけられるとビビるんでやめてください』
『その割には冷静じゃないか。その様子だと何か策があるようだが。ラクシャイン……いや、
"力"そのものとも言うべき理不尽な存在……"神"の模倣。
すべてを思い出したからだろうか……自分は自分の中に眠る力を段々と理解し始めている……そんな気がしてくるのだ。
『勝算と言うほどのものじゃないですよ。ただ、想いをぶつける……それだけでいいんです』
『そうか、ならいい。私はお前を信じるだけだ』
それから自分達は終始無言でこの広い城内を進んでいく。
そしてたどり着いたのは……巨大な広間。
巨人でも住んでいたのかと思える程の高い天井だが、これはおそらくアベル・カムルの戦闘に用いるためだろう。
その証拠に、この部屋には何体ものアベル・カムルの残骸が散らばっていた。
以前ここで戦いがあったことは明白。
そしてそれを指揮していたのは……
『クーヤ……』
広間の最奥、崩れ落ちた純白のアベル・カムルに寄りかかるように座り込むクーヤ。
その姿を見つけた自分はすぐさま駆け寄ろうとする……が
「来るな!」
それは今までクーヤの口から聞いたことのないような拒絶の言葉。
ゆっくりと顔を上げたクーヤの瞳に光はなく、その表情からは生きる気力すら感じられないようにも見える。
「ここに連れてこられて……全部、思い出した。自分がこの元クンネカムンの
それはつまり、ここで起きたことも……。
「ビャクヤ……もういい。こんな生きる価値もない女を助けようなんて考えないで……こんな人を不幸にする女のことなんて忘れて事由に生きてほしい」
今までの幼さのある言動とは違うハッキリとした物言い。
今のクーヤはただの女の子ではなく、國を、家臣を、そして大切な者を失い、その責任は自らの愚かさにあると苦しむ元クンネカムン皇なのかもしれない。
「サクヤにも、凄く……迷惑をかけた。トゥスクルの皆も、元々國を攻め落とそうとした女など側に置いておきたくなかったはずなのに」
その苦しみや悲しみから自らを蔑み、生きる価値のない愚かな人としてすべての繋がりを断ち、死のうとしている。
だけど……
「だから……だからクーヤは……!」
『無理するなよ。本当は死にたくないくせに』
「……ッ!」
やっぱりな、記憶を取り戻したからといって、無くしてから今まで過ごした時間がなくなるわけじゃない。
サクヤやトゥスクルの人々と過ごした時間、楽しかった時間、そこから生まれる新しい……無くしたくない思い出。
『クーヤ、お前は確かに一度絶望を味わった。けど、その後に感じた喜びの感情がお前に辛いだけじゃない……本当に楽しかった時間も思い出させたんだ!』
「やめてよ! もうあそこには戻れない! クーヤは! ……所詮、飾り物の皇として祀られ……自分の力なんて何一つ持たない傀儡で……大切な人の気持ちに最後まで気付こうとしなかった……救いようのない哀れな人形に過ぎないの!」
知ってる。
自分は……全部見てきた。
物心ついた頃にはすでに両親はおらず、それでも皇としての器を求められた。
だから、か弱い女デあることをひた隠し、押し殺し、強い皇であることを演じた。
それが民の……亡き父の願いだと信じて。
けれどその誰もがそんな彼女の中身を見ようとせず、ただ"
だけど……
『んなこと……そんなこと知るか! 自分にとってクーヤはただの一人の女の子だ! 誰がなんと言おうと自分は本当のクーヤを見ていてやる! クーヤの楽しいことも悲しいことも辛いことも……全部見ていてやる! だから今までのことをすべて無かったことになんてしようとするな!』
「う……ううう……」
自分の想いを全力でぶつけるんだ。
涙を流しながらもその目は必死に誰かを求めている……自分の手を握り、安心させてくれる存在を。
けどクーヤはまだ自分の殻に閉じこもっている、今も昔もそれは変わらない。
誰かが……大切な誰かがそばに居て、言葉もなく信頼できる人が自分の殻の中に入っている状態がクーヤにとっての世界のすべてだった。
だけどそれじゃいけない。
『……クーヤ、自分はきっと、ずっとクーヤのそばにいることはできない』
「……え?」
『もしかしたらサクヤだってトゥスクルの人達だって……唐突に別れは来るかもしれない』
「どうしてそんなこと……言うの」
きっとクーヤは、自分を安心させてくれる……自分の殻の中に入って来てくれると信じきっていただろう。
だけどそれじゃ駄目なんだクーヤ。
それではまた悲しみに耐えられなくなってしまう。
『だけど、想いは残る』
「おも……い?」
『ああ、クーヤはそれを貰ったことがあるし、今だって誰かに想われ続けている。語りかけて見るんだ、自分の心の中に……きっと今も昔も、大切なものがあるはずだ』
自分が胸に手を当てる動作をすると、クーヤも同じように両手を当てて目を閉じる。
するとクーヤはその瞳から涙をボロボロとこぼしながら
「……みんな……みん、な……笑ってる、よ。サクヤも……トゥスクルの皆も……ハクオロも……お父様もお母様も……ゲンジマルも」
そしてクーヤは立ち上がり、少しづつだがこちらに近づいてくる。
自分は、それにそっと手を差し伸べる。
「それに……ビャクヤも」
『そうだ、大切なのはどれだけ大事な人と共にに過ごしたかじゃない。大事な人のことを、どれだけ大切に想えたか……だ』
サクヤだって、ここに来れない事を悔やみ、それでも今もなおクーヤの帰りを信じている。
ワーベの爺さんやトゥスクルの人だって、クーヤのために大陸中探しまわってくれたんだ。
クーヤの両親だって、きっと子の幸せを願っていたはずだ。
(そして、ゲンジマル……自分はあんたに会ったことはないけど、今のクーヤ顔を見ればどれだけ大切に想っていたかはわかる)
『一緒に帰ろう、クーヤ』
「……うん」
こうして、自分とクーヤは手を取り合い……
「そうは問屋がおろさないってのは……流石にわかってるよなぁ、アンちゃん」
ズガァ!
『……ッ! クーヤ!』
一瞬の出来事だった。
自分の手を掴もうとしたクーヤとの間に風のように割り込んできたラクシャイン。
割って入ると同時に炸裂された蹴りを避けられず、自分の身体は吹き飛ばされニ、三回バウンドした。
『白夜、気をつけろ! 奴はすでに
先輩……注意するのがちょいと遅いですよ。
さて、クーヤの心は開いたが……問題はここからだな。
『やっぱり出てきたなラクシャイン……前から聞きたかったがどうしてそこまで先輩に肩入れするんだ。お前自身が自分らにつきまとって何かいいことでもあるのか』
少しでも話しを伸ばして体勢を立て直すだけのつもりだが、予想外にラクシャインはその場に立ち止まって自分と会話する意思を見せた。
「いいこと? ククッ……ああ、あるぜ」
そう言ってゆらりと振り向いて、その瞳でクーヤの瞳を見据える。
「この瞬間を待ってたんだよぉ俺ぁ! 絶望を乗り越えた瞳の輝きってのは何よりも強く輝くもんなんだ! 今クーヤの嬢ちゃんには今までにない最高の輝きが生まれてんだからよぉ! 疼いて疼いてたまらねぇんだよ!」
そういえば、いつか言っていたな……“目の輝きは変化する。特に闇に沈んでいたものが光を放つとすげぇんだよ”と。
そしてそれが、自分の妻と子を殺した時のことだとも……。
「アンちゃん……やっぱおめぇに付いてきて正解だったよ」
『どういうことだ』
「お前さんはどういうわけか人の心を大きく動かす。それもいい方向にだ。だからこそ思ったんだよ。このままクーヤの嬢ちゃんの瞳の闇をアンちゃんが光に変えることができるのなら……俺はそれを斬り裂いて最高の快楽を得られることができるってなぁ!」
ラクシャイン……そうか、やはりお前は狂人なんだな。
もう一人の先輩がどうしてラクシャインを選んだのかわかる気がする。
狂った者を理解できるのは、やはり狂った者だけだから……。
(でもラクシャイン……自分は心の何処かでお前を……)
「もうよ……話はおしまいにしようぜ。アンちゃん……いやビャクヤ、俺はセンセイからお前が従わないなら消せと言われている。時間はねぇからすぐに答えを……」
『従わない。狂った先輩についていくことなど自分にはできない』
これはだいぶ前から固めていた意思、今更曲げる気など微塵もない。
「そうかい……なら俺はお前を殺し、クーヤの嬢ちゃんも殺す。出し惜しみをするつもりはねぇから覚悟しとけよ」
そう言って
そうだ……すべてを終わらせるための……いや、ここからはじめるための戦いが始まる!
「さあ
その言葉とともに、ラクシャインの身体は光りに包まれ、消える。
そして次の瞬間に目の前に現れたのは……
「オォォ……オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
猛々しい咆哮を唸らせ身体にその闘気を纏うラクシャイン。
「いや……駄目……逃げて、ビャクヤ! クーヤはどうなってもいいから!」
この光景は……そうか、クーヤにとっては嫌なデジャヴュだな。
でも自分はもう決めたんだ。
『まだそんなこと言ってるのかクーヤ。言っただろ、一緒に帰ろうって』
口ではそう軽口を言いつつも、目の前の化物となったラクシャインに自分は怯えていた。
……だが、本当に恐ろしいと思っているのは……自分が今これからやろうとしていることだ。
もしかしたら、今まで以上にクーヤに恐怖を与えてしまうかもしれない。
だけど……
『クーヤ、どうか目を背けずに自分を見ていて欲しい』
何もできずに失敗するかもしれない。
自分が自分でなくなるかもしれない……。
だが恐れていては何も成し得ない、わからないことは試してこそ……それが科学者って ものだろう?
(さぁ行こう、自分の心の深淵……そのさらに向こう側へ!)
瞬間、自分の意識以外のすべてが止まる。
クーヤの叫ぶ声も、ラクシャインの迫る音も、今は聞こえない。
(汝、ナニヲ望ム……)
心の奥底から、声が聞こえてくる。
今まで自分に様々な記憶の欠片を見せ、苦しめてきた正体。
(前にも言ったと思うが、自分は何も望まない)
(嘘ヲ吐クナ……汝ハ力ヲ欲シテイルハズ。サァ望メ、サスレバ汝ガ望ム未来ヲスグニデモ掴メヨウ……)
確かにこの存在……自分の本来の体に染みこんだ意思はいつしかその核とも言える存在に再び繋がり、それをなし得るだけの力を与えてくれるはずだ。
けれど……
(それって、つまらないと思うんだ)
(ナニ?)
(そりゃあ自分には知的欲求はあるし、今は力が欲しいとも思ってる。けどさ、そんなの誰かからポンと渡されても虚しいだけじゃないか?)
自分の成し得なかった事を誰かにひけらかすなんて、そんなの科学者としておかしいだろ?
(だから、欲しいものは自分で掴む。そのために自分はここに来た)
(……フ、ハハ、フハハハハハ! ソレガ汝ノ答エカ、オコガマシイナ小サキ者ヨ! ダガ面白イ……見届ケテヤロウ。汝ノ行ク末ヲ!)
自分は笑う
こんな精神だけの状態で手を伸ばすという感覚もおかしいと思うが、とにかく手を伸ばす。
そして
「オオオオオオオオオオ!!」
今、自分は
「ビャクヤーーー!」
『我が内に眠る根源の力よ……その戒めを解き放ち、この仮初の身体へと姿を現せ!』
――――!
そして、今……顕現する
『ハアァ……』
その名は
『ァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
“
イメージはギル○ィギアのジャス○ィスとウィツァルネミテアを足して2で割ってメカメカしくしたような姿