終わった……自分の手にはラクシャインから渡された
『これは……ラクシャインがやったのか?』
『状況から見て間違いないだろう。理由はわからないが』
もしかしたら、あいつもここですべてを終わりにしようとしたのかもしれない……。
進もう……託された者は、託した者が見れなかった未来へ進む義務があるのだから。
「ビャクヤーーー!」
聞こえるのは大切な人の声。
どうやら戦いの轟音が止んだことで居ても立ってもいられなくなったのだろう。
その声に答えるように自分も急いでクーヤの下へと走りだす。
自分もすぐにでもクーヤに会いたかったから……それに、あいつの亡骸は見せたくなかったから。
「ビャクヤ、大丈夫! どこも怪我してない!」
『はは、心配するな、自分は怪我とは無縁だ。それよりクーヤこそ大丈夫だったか?』
「うん、ビャクヤが守ってくれたから」
戦いの最中、これから起こるであろうお互いの極大威力の攻撃に巻き込まれないようエネルギーシールドを一つクーヤの下へ置いておいて正解だったな。
どうやらクーヤの体は怪我一つ無く、以前と変わらない。
むしろ変わったのは……
「ねぇ、ビャクヤ……やっぱりラクは……」
『あいつは……自分達の敵だった。他に道は……なかった』
「そう……なんだ。ラクもこちら側で笑い合える未来があったんじゃないかって、今は祖思うの……」
クーヤは変わった。
すべてを思い出し、それを乗り越えることができたから。
國のために一人で無理をしていた頃とも、記憶を無くし無邪気にはしゃいでいた頃とも違う新しい自分へと。
「でも、ラクも……一緒に旅をしたラクは、今確かにこの胸の中にいるって。今の余……じゃなくて、わたしならわかる気がするの」
『別に無理して喋り方を変えなくてもいいんだぞ』
突然記憶が戻ったせいか、喋り方があやふやだ。
「も、もうあの堅苦しい喋り方はなし! だってビャクヤだって女らしい方がいいだろうなって思って……。それで、これからはより女らしく生きると決めたのだから……決めたの!」
『くくく……』
「わ、笑うなー!」
いやだって……必死に言葉遣いを変えようとしてる姿が可愛いから。
しかもそれが自分のためというのだから余計に可愛く思えてくる。
でも、今のクーヤは本当にいい顔をしている。
怒ったり落ち込んだり笑ったり、その表情一つ一つに精気が溢れてるような感じだ。
「まったく……でも、本当に終わったんだね」
『ああ、そうだな』
クーヤを取り巻く物語。
すべてを捨て去ったはずのクーヤが、何の因果か
そして辛い記憶を呼び覚ますクンネカムン軍残党との戦いと巨大な怪物との接触によって、捨てたはずの記憶が呼び戻された。
だが今クーヤはそのすべてを乗り越えここにいる……笑顔で自分の隣にいてくれる。
(しかし、自分にはまだ……)
そっと、クーヤと繋いだ手を離す。
「ビャクヤ? どうしたの?」
『すまないクーヤ。自分にはまだやらなくてはならないことがある。だから、もう少しだけ、ここで待っててくれるか?』
そう言うと、クーヤは呆れたような顔をして。
「だったら、早くその用事を済ませて帰ってきてね。戻ってこなかったら、わたし今度こそ死んじゃうかもしれないから」
まったく、クーヤが言うと冗談に聞こえないから困るな。
『わかった、絶対帰ってくる。その時は……二人でクーヤが本当に帰るべき場所へ帰ろう』
「うん、サクヤや……皆のことろに……ね」
必ず戻る……そう心に決めて自分は身体をクーヤに預け、再び戻る。
あの
こうして再び
「なんか……体ダルい。やっぱコールドスリープを繰り返すのって体に悪いのかね……」
『悪いどころか普通なら致命傷のはずだよ。度重なる瞬間冷却と解凍によって大多数の細胞が死滅していてもおかしくない』
スクリーンから先輩の突然のマジレスに今まで楽観的だった自分の背筋が凍りつく。
「え、ちょ……じゃあ自分もう体ボロボロなんじゃ……」
やばい、さっきクーヤに「必ず帰る」なんて大見えきったのに、このまま再度眠ることはできずにバッドエンド展開もありえるのかこれ!?
「すまないクーヤ……こんな馬鹿な自分を許してくれぇぇ……」
『まったく……先程までの自身はどうした。安心しろ、メディカルチェックで確認したが君の体に異常はない』
「……ほんとですか?」
『おそらくあの力のおかげだろう。細胞が死ぬどころか今まで以上に活発に活動しているよ。これならあと100年は軽く生きられるだろうね』
ほんと、トンデモ人間になってしまったものだ。
だがこれでいいんだ……この力こそ、自分が新しい世界で生きていくために必要なものだから。
過去の自分は、捨て去る。
「だから、すべて終わらせないとな」
『ああ……白夜、位置は割り出せた。ステーションの端に数百年前には存在しなかった未知の部屋が存在する』
新しい部屋……そうか、先輩には無限とも言える時間があった。
そんな部屋を作り出していても不思議じゃない。
「わかりました、館内アナウンスで誘導お願いします」
先輩の声に従い、進む。
その一歩一歩を踏みしめる度、この物語が終わりに近づくのを感じる。
そして、最奥……明らかに後付されたであろう周囲の風景に合わない異質の扉の前に立つ。
『白夜、用意はいいな。……解錠!』
その先輩の一言により、扉はゴゴゴと歪な音を立て開く。
そして、その部屋に足を踏み入れた自分が見たものは……
「先……輩」
そこには、無残な姿に成り果てた先輩の本体があった。
おおよそ人間とは言えない、全長三メートルはあるであろう体。
左腕と下半身はすでに完全にタタリと化しており、その侵食はギリギリ心臓まで伸びていた。
見覚えのある頭からは何本も電子コードが伸びており、コンピューターへと繋がれている。
こうして先輩は地上の様子を確認していたんだろう……その全身を溶けぬ氷塊の中に閉じ込めながら……。
『そうだ……思い出したよ。私は最後に保っていた正常な意識をなんとか駆使して、自らをこの氷の檻に閉じ込めたんだ。だが内なる私は抵抗して脳へコードを繋ぐことに成功した。その時に私の意識はこのステーションの電脳内に漂う事となったんだ』
おそらく、その後にもう一人の先輩はどうにか自由になろうともがいたのだろう。
周囲には鈍器や工具が手当たり次第と、壊れたロボットアームが転がり落ちている。
先輩の周りには取り囲むように強化ガラスが何十にも張り巡らされているから、これを割ろうとしたんだろう。
『アアア……びゃクやああア……』
「……ッ!?」
これは、先輩の声。
だけど先程のものとは違う苦しむようなその唸り声は。
『ああ、あの体に残っている、狂った私の意識だ……』
先輩の憐れむような声。
そうだよな、あれが自分自身の成れの果てだなんて思うと……やっぱり辛いだろう。
『わたぁシはぁァァ……人類ノ栄光を再びチジョうへぇぇぇ……』
人類に、地上の栄光を取り戻す……。
それはこの宇宙に飛び立つ前から口癖のように語っていた先輩の夢。
だけど……
『白夜……もう、終わらせてくれ。この私の、歪んだ夢を……』
「はい……《
手をかざし、周囲の物体を粒子へ変換していく。
やはり、生身ならこの力を扱うことができる、生み出せる範囲は格段に落ちるが。
「《
作り出したのは、隔壁。
先輩の体のある部屋と、入口付近を二分するガラスの窓付きの隔壁だ。
そしてもう一つ……手元には一つの端末。
これを起動させれば、すべてが終わる……。
(だがこれを使えば、先輩は……)
『いいんだ白夜、私はもう充分に生きた。お前がそれを使えば、私の意識はすべて宇宙の果てに消える』
そう、これを起動すれば、先輩のいる部屋のすべての電子接続を切断し、部屋を分離、先輩は宇宙の彼方へ消えていくだろう。
だがそれは、今自分と話している先輩の意識も例外ではない。
こうして正常な状態で話せてはいるが、それもあの本体がこのステーションに繋がっているおかげなのだから。
「先輩……自分は……」
『お前はもう自分の生きる道を決めたのだろう? なら迷うな、研究者なら決めた道を突き進め。それがお前にとって、確かな答えになるはずだ……』
やっぱり……この人には敵わないな。
「先輩……今まで、ありがとうございました!」
『じゃあな白夜。あの子、クーヤを幸せにしてやれよ』
その言葉を最後に、自分は端末を起動させる。
次の瞬間、ガラスの向こう側のエネルギーがすべて遮断され、ゆっくりとステーションから離れていく様子が見える。
「さようなら先輩……自分は、未来へ進みます」
こうして、つけるべき因縁をすべてに決着をつけ終わった。
そして自分は、再びゆりかごのあるメインルームへと戻ってきた。
「それじゃあ、これにももう要はないしな……ステーション、"アマテラス"と分離し通常運行へ戻れ」
『了解……アマテラス、分離シークエンスヲ開始シマス』
これでよし、少なくともこれでこの衛生からアマテラスがハッキングされることはない。
やることはすべてやった……これで
「それじゃあ、帰るとしますか!」
自分のいるべき場所へ、再びゆりかごへ再DIVEする。
さぁ帰ろう……クーヤや、皆のいる……地上へと……。
次回、ついに最終回!