うたわれるもの外伝 ~天と地を繋ぐ絆~   作:もりベス

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第二話 「マルタ」

 しかし、まさに間一髪。

 ギリギリのところでこのお嬢さん方を助けることができた。

 やっと出会えた人であり、今の自分における唯一の希望。

 あのバケモノを前にしてよく身を投げ出せたと自分を褒めてやりたいくらいだ。

 

 しかし、常識外の怪物と対峙したというのに不思議と恐怖はなかった……むしろ勇気が湧いてきたほどだ。

 まだぼんやりとした記憶だが、以前の自分は結構臆病な性格だと思っていたんだが……鋼の体を纏っているからだろうか?

 だがこの体とて重要なコアが破損すれば宇宙にいる自分の脳へダメージが伝わり、最悪脳死する場合もあるのに……。

 

「あの、この度は危ないところを助けていただき本当に感謝してます」

 

 おっと、今は自分の性格がどうだと考えている場合じゃない。

 

『いえ、人として当然のことをしたまでですよ、お嬢さん』

 

 ……本当に自分はこんなキャラだっただろうか?

 でも自然と口に出てしまうんだから仕方ないだろう、うん。

 

「あたし、サクヤっていいます。とある事情でオンカミヤムカイへ旅をしていたのですが、この森へ入った途端あの蟲に襲われて……護衛の方も、馬車も、それを引いていたウマ(ウォプタル)もやられてしまって……」

 

 よくわからない単語がちらほらあり若干わかりづらいが、とにかく彼女らは旅の途中であのバケモノに襲われてしまったと。

 しかし"護衛の方"や"旅"という言葉からは、彼女達の他にも人が存在し旅行が行えるほどの生活水準が整っている環境が今の世に存在するということだ。

 

(これは……! やっぱりいい考えの方が当たっていたってことか!)

 

 人が……人類が地上での生活を取り戻している。

 

『な、なぁ! 地上の人口はどのくらいなんだ!? 食生活も気になる! 森だけじゃなく大きな街も存在するのか!? あとそれから……!』

 

 興奮を抑えられず、サクヤと名乗った少女の肩を掴んで早口に質問を投げかける。

 

「わわわ! ちょ、ちょっと待ってください~!」

 

『それから……! ん?』

 

 興奮していた自分の手が止まる。

 なぜなら……

 

ピコピコピコピコ

 

 ……勢い良くパタパタと動いていたからだ……何がって? 彼女の耳に付いている長い飾り……だと思う。

 

(なんか、やけによく出来た動きをするが……あれって作り物だよな?)

 

 それに、先程から自分の周りを動き回っているクーヤと名乗った少女も似たような垂れ耳の飾りをつけている。

 もしかしたらこれが最近の流行りなのだろうか?

 

「ちょ、ちょっと……待って……ください。そんないきなり来られても心の準備が……」

 

(なんだ、あれは?)

 

 サクヤが後ろを向くと丁度おしりの……尾てい骨辺りだろうか?

 服の隙間……というよりぽっかりと穴が開いているその部分からフワフワとした丸いワタのようなものがフリフリと揺れている。

 

(……気になる)

 

 好奇心を抑えられない自分は、手のひらの感覚を直接脳へ送る機能をオンにして、恐る恐るそれをギュッと握ってみる。

 すると……

 

「ふぇ……!? ひゃ、ヒャい~~~!?!?」

 

 な、なんだこれは! 柔らかくて気持よくて……それでいて本物のような滑らかな動きがなんともクセになる!

 

「あ、あ、あ……あのあの! これは……ひゃうぅ……」

 

『おお……凄い。今の技術はここまで精巧なものを……』

 

 やめられない止まらない。

 しかしまるで本物のような精巧な作りだな、それにサクヤだってこんなに感じて……え?

 

「あの……もうヤメ……」

 

 さらに、サクヤの艶めかしい声にと共に力が抜けるのに反応するかのようにあの長い耳もタラんと垂れたはじめる。

 

(え、ほ、へ? ちょっと待ってくれ、この耳も尻尾もただの作り物なんじゃ……)

 

「コラーーーーー! ビャクヤーーー!」

 

『へ? ゴブルァ!?』

 

 困惑していた自分の下にクーヤの容赦ない突然の跳び蹴りが炸裂する。

 なんなんだ? 一体全体何がなんだかわからない。

 

「女の子の尻尾をいきなり触るのはメッ! なんだよ!」

 

 いやメッ! って言われてもな。

 しかしクーヤのこの、まるで自分達に生えている尻尾は本物だというような言い方……。

 

『えっと、サクヤ……さん? その耳や尻尾ってもしかして本物?』

 

「当たり前じゃないですか~。びっくりしましたよ~……」

 

 ヨヨヨと泣き崩れるサクヤ。

 その仕草からは嘘をついてるような素振りはまるで感じられない。

 

『いや、だが人間はそんな耳の形をしていないし、尻尾だって生えてな……』

 

 そんなことはありえない。

 そう言葉にしようとしたその時、頭の中にある記憶が蘇ってきた。

 

 "真人計画"……確かそんな名前だったはず。

 

 ある日サンプルの研究に行き詰った自分と先輩は、地中の技術の発展を信じ一度眠りについた。

 2~300年近く後に目を覚ますと、そんな計画が始まっていたはずだ。

 そしてその中には、"ある被験体"を元に地上を人間のものに取り戻そうという話があり、その副産物で生まれた実験体……それは"マルタ"と名付けられた。

 この研究は賛否両論が多く、生命を作り出すという所業に「天罰が怖くないのか」などという意見もあった。

 

(主にこの地域の研究者が行っていて、確か別名アイ……アイス……何だったか? ええい、記憶にモヤがかかって上手く思い出せん!)

 

 確かこれをキッカケにこちらでも新しい実験に取り組んだはずだったのだが……。

 

「あの、どうかなさいましたかビャクヤさん?」

 

『あ』

 

 自分を呼ぶ声で我に返り顔を上げると、キョトンとした顔でサクヤがこちらを見つめていた。

 ……今は余計なことを考えてる場合じゃない、少しでも多く地球の情報を得る、それが第一だ。

 

『あー……すまない、いろいろと。あと、いくつか訪ねたいことがあるんだが……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、自分達はいつまでもここにとどまっているわけにもいかず、森を抜けるために歩き出す。

 

 あの後サクヤにいくつか質問させてもらい、わかったことが多くある。

 まず、今の世の住人は人種は違えどすべてマルタで形成されてるということ、文化のレベルについてはおそらく戦国時代並だということ。

その他にも衣食住の情報を聞き、なんとなくだが現状を理解することができた。

 

 この状況はまるで、暇つぶしで呼んだタイムスリップものの小説とファンタジーものの小説をミックスしたような感じだ。

 

(本当に人類は一人もいないのか……。いやまだ希望はあるはず……。でもなぁ……)

 

「あの……元気だしてください。いつかきっと記憶は戻りますよ。それに、記憶がなくたって強く生きていけます、あたしそういう人知ってますから」

 

 気休めにもなっていない励まし。

 ちなみにクーヤとサクヤには記憶喪失だと偽っている(若干本当にその通りな節もあるが)。

 科学力が衰退した世の中で、自分が彼女らの祖先を作った人種の生き残りだといったところで、突然「私は神だ」……なんて言うようなものだからな。

 

「あははー、きおくない~オロといっしょ~」

 

 どうやらクーヤはこの鋼の身体が気に入ったらしく、自分に纏わりついてはコンコンと叩いてくる。

 

(感覚はないから別にくすぐったくもなんともないが……歩きづらい。てかオロって誰だよ……)

 

「すみません、ビャクヤさんも大変なのに護衛までお願いしてしまって」

 

 隣を見るとサクヤが申し訳なさそうに俯いていた。

 

『いえいえ、自分もあのままだとアテもなくフラフラしてただけだったので、むしろ助かります』

 

 彼女達とともに行けば人の息吹がある場所までいけるのだ、ありがたいと思えど迷惑など考えもしない。

 ……いかにこの世界の住人全てがマルタとなっていようが、彼女達には感情があり意思を持って生きているのだ。

 それに好意を覚えこそ邪険になど思いもしない。

 

 ……それに、今向かっている場所は少々気になることもある。

 マップ上で今自分達が進んでいる方向には、この鎧を起動した研究所の丁度隣の研究所の座標を示している。

 

『今向かっている場所……オンカミヤムカイだったか? どんな場所なんだ?』

 

「はい、そこはオンカミヤリュー族が統べるとても神聖な……」

 

ピピッ……9時ノ方向、センサーニ感知アリ

 

『……ッ! 待て、誰かいる!』

 

 サクヤの言葉を区切り、起動させていた生体センサーが感知した方向へ向く。

 するとそこには、法衣のようなものを身に纏い背中に翼を生やした数人の集団がこちらへ向かってきていた。

 

(別の種族のマルタか、こいつらは一体……)

 

 いつでも戦闘に入れるよう体勢を立てる。

 集団は自分達の前で止まり、その中から一人威厳のありそうな老人がスッと前に出てきた。

 

「あ、ワーベ様!」

 

『へ?』

 

「お久しぶりですな、サクヤ殿、クーヤ殿。こちらへ向かわれる途中に馬車が消息を絶ったとの知らせを受けたので急いで捜索を開始したのだが」

 

「お、賢大僧正(オルヤンクル)自らですか……!?」

 

「ワーベおじいちゃん久しぶりー!」

 

 え? え? ナニコレ? お知り合い?

 自分はわけもわからないまま、この和やかな空気で一人場違いな戦闘態勢で立ち尽くしていた。

 

 

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