うたわれるもの外伝 ~天と地を繋ぐ絆~   作:もりベス

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第五話 「いくさ場」

 

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「なぁ白夜、現在地下にいる人間が一斉に外に出たら……何人生き残れると思う?」

 

「は……? そんなの全滅するに決まってるじゃないっすか先輩」

 

 一度眠りに就いてから数十年後。

 自分達は目覚めたばかりの体で現在の地球のデータを確認していた。

 

「確かに現在、汚染源は修繕されてこれ以上酷い状況になるのは抑えられましたけど、酸素濃度に気温の急変とか……まだ人の体が耐えられるような環境には程遠いじゃないですか」

 

「だが、もしかしたら少しでも生き残れる人間が現れるかもしれないだろ」

 

「は、はぁ……」

 

「たとえ1万人の人間が地上に乗り出し9990人が死に絶えたとしても、10人も生き残り環境に適応できれば、それは人類の勝利と言えないだろうか? そこに男女両名が揃っていればそれこそ大勝利だ。可能性に賭けて試すのもアリだと私は思うのだが……」

 

 先輩の突拍子もないアイデアにはいつも頭を抱えたくなる発言ばかりだ。

 しかしこれでも本国の科学者の中では1、2を争う頭脳の持ち主というのがまた……。

 

「てかそんなのやりたい奴がいるわけないじゃないですか。アマテラスを利用した再生活動は順調なんだから、キチンと人間が生活できる環境になるまで待ってればいいんですよ」

 

 資料を確認すれば、すでに数年前からその活動は行われており、このまま行けば人類が夢見た緑あふれる大地を取り戻すことができるだろう。

 この調子なら自分達の実験など必要なく、もう再生されるまで眠ってる方がいいのではないかと思える。

 ……が、先輩は納得していないようで。

 

「確かに、この調子なら地球は再生される。が、それは早く見積もっても400年はかかる。その間に人間は何代も世代交代するだろう」

 

 ここまで聞いて、なんとなく先輩の言いたいことが理解できはじめた。

 

「つまり先輩は、その間に人類の免疫力が再生された地上に適応出来なくなる……ってことですか?」

 

「その通りだ白夜。皆環境再生のデータばかりに注目しているが、人間の健康管理データを以前と見比べるとどれも僅かづつ低下しているんだ」

 

 そう言って先輩がデータを広げると、確かに以前より若干低い。

 

「けどこの程度の変化なら数百年先でももう少し下がるくらいだと思うんですが」

 

「地中のお偉い上司にもそう言われたが……考えが甘い。今の世代はまだ祖父祖母に地上に残っていた世代がギリギリ残っていた者ばかり、まだ免疫力が活発に防衛能力を発揮しようとするだろう。しかし私の計算ではこれから先、免疫力を必要としないほぼ無菌の空間、生産性とエネルギー効率を重視した食生活を続ければ、後の世代から急激に免疫力は低下していくだろう」

 

 うーむ、そう言われればなんだか凄い納得感がある。

 先輩とは学生時代からの付き合いだが、この人の言うこと成すことどれも妙な納得感あるんだよな。

 まぁこの人にとってはそんな発言も全部……

 

「それでは人類が衰退していくばかりだ! 人類という可能性の存在がこの世から消えていくことなど私は絶対に認めはしない!」

 

 そう、なんというかこの人は……人類という"種"が好きなのだ。

 

「でもまぁ、そうなったらなったでまた人類が地上に適応できるようになる研究がはじまるだけでしょ。地上が再生されればいつでも外には出られるんだし」

 

「それこそ人類というものをわかっていないさ。いいか白夜、人間というのは自らの外側に強く干渉できても内側には強く干渉できないんだ」

 

「どういう意味です?」

 

「人類は使い捨てられない(・・・・・・・・)ということだよ。お前が先程の私の案を却下した理由と同じだ。誰も殺したくないし、殺されたくないのさ」

 

 あー、言われてみればそうだ。

 人は環境を直すために地上に様々な実験を行おうが心が痛むこともないし咎められることもほとんどない。

 しかし人を……それも生きている人間を実験に使おうとなると話は全然変わってくる。

 道徳的にもキツいし親や子に咎められるかもしれない、自ら実験台になりたいだとという稀有な奴がいるかどうかさえ怪しい。

 

「下手すりゃ人類が再び地上を歩き回れるかも怪しくなるか……」

 

「その通りだ。さ、私の言いたいことがわかったところで早速研究を再会するぞ。もしかしたらこの実験が衰退していく人類を救うキッカケになるかもしれないからな」

 

「え、いや、まだ起きて間もないですしもうちょっとゆっくりしてからでも……」

 

「そんな時間はない。さぁ、地中の最新データを漁って使えるものを探してくぞ」

 

 完全に研究モードに突入してしまった先輩を止める手段はどこにもない。

 そんな先輩の後ろ姿を追いかける場面、そこで自分の記憶は一旦途切れる。

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「……さん! ……ヤさん! ……ビャクヤさん!」

 

ピピッ……ジー……ガー……『再起動シマス』

 

「ビャクヤさん?」

 

 いきなり意識が覚醒する感覚。

 以前コールドスリープからゆっくりと目覚めた時とは違い、無理矢理叩き起こされるような感覚で気持ち悪い。

 

『サク……ヤ?』

 

 まだ意識がハッキリとしない。

 どうやら身体と脳波が上手くリンクできていないようだ。

 ぼやける視界の先には、こちらを心配そうに見つめるクーヤとサクヤ、そして広がる大地と天高く光り輝く太陽。

 

『太陽!? 一体どうなって……ぐ』

 

「あ、お体に障るようでしたらまだ寝ててください」

 

 別にこの身体は怪我や病気とは無縁なのでそういった心配はないが、せっかくなので脳波が安定するまで落ち着かせてもらおう。

 

『確か……オンカミヤムカイの地下でタタリに襲われて……それから光に包まれて……どうしてこんなところに?』

 

 周囲を確認する限りここはあの地下施設ではなさそうだし、あの時は確か夜だったはず。

 

「もうお昼だよー」

 

「おそらくあたし達は大規模な転移術法に巻き込まれてしまったんだと思われます。あたしとクーヤ様も数刻前まで意識を失っていて。ここがどこかはわからないですが、留まっているのは危険だと判断したので今はこうして物陰で息を潜めて」

 

 危険? そういえば確かにここは物陰だ。

 とにかく自分で確認して見ないかぎりなんとも言えないな、リンクも安定してきたのでまずは立ち上がろう。

 

『よっこらせ……』

 

「あ! いけません、屈んで!」

 

『え?』

 

ヒュン……カイィン……

 

 ……頭に何か当たった。

 落ちたそれをよく見てみると、棒の先に尖った鉄が装着された……弓矢の矢だ。

 

『ってマジかよ!?』

 

 慌ててその場に座り込む。

 

「鎧姿でよかったですね」

 

 本当にこの身体でよかった。

 てか一体どうして矢が飛んでくるんだ?

 

「どうやらここはいくさ場のようです。となるとオンカミヤムカイからは遥か西、又は東の地方のどちらか……あるいはどこか別の大陸か。どちらにせよ争いのないトゥスクル領内から随分と離れてしまった可能性が高く、状況は絶望的です……」

 

 なるほど、つまりトゥスクルという地域にさえ入ることができれば安全が確保されるということだ。

 そしてオンカミヤムカイはトゥスクル領内にある……なら。

 

『地図起動、この身体からアマテラスへ通信して現在地を割り出してくれ』

 

「ビャクヤなに一人でブツブツ言ってるの? ヘンだよ?」

 

 ぐ、今の科学が衰退した世の中では技術の行使もただの中二病にしか見えないか。

 だがそれで二人を助けられるなら安いものだ。

 飛ばされたのが自分だけなら、ワーベさんの言う"真実"に後悔が残るだけでこの身体を破棄し、すべてを忘れてもう一度眠りにつくことも考えただろう。

 しかし、今自分の隣にはクーヤとサクヤがいる。

 自分達から飛び込んできたとはいえ、二人には自分の事情に巻き込んでしまったようなものだ。

 

(なにより見ず知らずの自分を受け入れてくれた恩がある。だから二人を見捨ててしまったら後悔してもしきれない)

 

 数秒して自分の視界に見慣れた大陸の地図が映しだされる。

 自分がいる地点がマーキンされており、以前見たオンカミヤムカイの位置から自分達がどれだけ離れてしまったかがわかる。

 

『サクヤ、どうやらここはオンカミヤムカイからかなり西の方だ。けど海は越えてない、どれだけかかるかわからないが……戻れない距離じゃない』

 

「ええ!? どうしてそんなことがわかるんですか?」

 

 う、そう返されるとどう説明したもんか……。

 

「えっと……自分の能力……かな」

 

「ビャクヤ凄ーい」

 

 どうやら純粋なクーヤは納得してしまっているが。

 

「あたしはビャクヤさんを信じますよ」

 

 笑顔がたまらなく眩しい。

 

(ええ子や、この子ほんまええ子や)

 

「そうなると、問題はこの状況ですね」

 

 以前にも増して戦場の状況は悪化していくばかりのようだ。

 人間と人間……いや、マルタ同士の戦争か?

 

(いくら人間を元にした存在だからといっても、そんなとこまで似なくてもいいだろうに……)

 

「おい、本当にこっちか?」

 

 ん? なんだ……岩陰の向こう側から男の話すような声が近づいてくる。

 センサーにもハッキリとこちらへ近づいてくる反応が二つ……。

 

「ああ、さっき流矢がこっちに飛んでいった時金属とぶつかる音が聞こえたんだ」

 

 やはり、先程の矢でこちらを気にする者が現れたか!

 

「ッ! クーヤ様、ビャクヤさん、逃げましょう!」

 

『わかった!』

 

 自分はどうなっても構わないが、二人を戦場に巻き込むわけにはいかない。

 

「む! 何者だ貴様ら!」

 

 どこへ逃げればいいかわからないが、今はとにかく走るしか無い。

 とにかく戦場から離れ……

 

「あうっ!」

 

「クーヤ様!」

 

 走りだしたクーヤがつまづいて転んでしまう。

 

『クソッ!』

 

 すぐにクーヤを立ち上がらせるために側に近寄るが、すでに男の一人は目の前まで迫っていた。

 

「おいおい、こんな戦地に女子供かよ。しかも結構いい格好してるじゃねぇか」

 

「大方逃げ遅れた近くの國のいい御身分なんだろうぜ。つまり討ち取れば俺らの株は大上がりってとこだな。戦いもこちらが優勢だし、こりゃ昇進確定だ!」

 

 どうやら向こうは何か勘違いしているらしい。

 

「悪く思うな、こちらも國のため家族のため、我々の幸せな未来のために死んでもらう!」

 

 勢い良く剣を振りかぶり突撃してくる男。

 

(起きてから少しだけ充電したから数秒は使えるはず……!)

 

 自分は迎撃するためにヒートナイフを取り出し、そのまま……!

 

(そのまま……なんだ?)

 

 自分は今、何をしようとしている?

 この身体は戦闘支援機能も搭載しているためこの程度なら軽く避けて反撃することはできる。

 だがそれは……この人を殺すのと同義で……。

 

「ビャクヤーーー!」

 

 動けなかった、自分にはできなかった。

 仮に自分は死ぬことはなくとも、自分を跳ね除けた男はクーヤとサクヤを殺すだろう。

 それなのに、自分の身体は動かなかった。

 

 

『誰も殺したくないし、殺されたくないのさ』

 

 

 そうだ、たとえそれがマルタであってもそれは変わらない。

 目の前に刃が迫る、これによってもたらされるのは自分の死ではない。

 後ろの二人を殺させたくはない、だが……そのためには自分が人に刃を向けなければ……。

 

(自分は……)

 

 

 

 

 

 

 目の前に……鮮血が飛び散る。

 赤々と太陽に煌めくそれは自分達人類となんら変わりなく……。

 自分の目の前にいた男は、絶命していた……その体と首は別れ頭が中を舞う。

 

「誰?」

 

 だが、自分は未だ動けていなかった。

 やがて血しぶきが収まり、襲ってきた男が倒れると、その奥に刀を構えた一人の男が立っていた。

 少し老けているがかなり引き締まった体つきと顔立ちに少々乱れた黒髪と尖った耳の先に獣の体毛。

 

『お前は……一体』

 

「ん、俺か? 俺の名はラクシャイン。ま、ただの雇兵(アンクァム)だ」

 

 

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