うたわれるもの外伝 ~天と地を繋ぐ絆~   作:もりベス

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第八話 「わかれ道」

 

「転移の術法に巻き込まれてこの地に……なるほど、大体の事情はわかった」

 

 自分達に襲いかかってきたこのお侍さん達はどうやらトゥスクルの者らしく、それもクーヤとサクヤにとって深い関わりのある人物でもあるという。

 なので、サクヤの説得によりトウカさんはなんとか剣を収めてくれた。

 

「だが、よりにもよってあの男を護衛として選ぶのはいかがなものか……」

 

 しかし、やはりラクシャインを目の敵にしていることは変わらないようだ。

 当のラクシャインはどうしているかというと、このお二人を見ていると例の衝動がうずくとのことなので、とりあえずあいつには少し離れてもらい木を背にしてジッとさせている。

 

『ええと……トウカさんはあいつと知り合いなんですか?』

 

「いや、このように実際顔を見たのは(それがし)も始めてだ。だが奴のことは知っている……(それがし)は以前奴の義兄(あに)であるオリカカン殿の下で剣を振るっていた。それもすべては己の妻と子を斬り当時の國を混乱へと貶めた逆賊……そこにいる悪漢ラクシャインを打ち取るためにな」

 

 そりゃまあ……自分も最初はあんな危険人物をそばに置いておくなんてあり得ないとは思ってはいたが……。

 

「でもラクさんそこまで悪い方にはあたしには思えなくて……。キッチリ雇兵(アンクァム)としての仕事はこなしてくれますし、たまに危ないことするのはちょっと不安ですけど」

 

 サクヤの言う通り、例の殺人衝動さえなければラクシャインはただの気のいいおっさんにしか思えない。

 自分もまだ完全に信用しているとは言えないが、ここ数日であいつをどこか仲間として受け入れ始めているような気はする。

 

「だ、だが奴は紛れもない罪人で……」

 

「むう……とーか、だめ。ラク仲間だもん」

 

「う……クーヤ殿……」

 

 離れたラクシャインに殺気を送るトウカさんの前にかばうようにクーヤが躍り出る。

そのクーヤの真剣な眼差しに、流石のトウカさんもその気を納めた。

 

「大丈夫ですよクーヤ様」

 

 そんなクーヤをサクヤが優しく包み込むように抱きしめる。

 

「トウカさん……この世に罪人でない人なんているのでしょうか……。人は、誰しもが少なからず罪を背負って生きています。確かにラクさんのしたことは許されないかもしれません……けれど、それがラクさんのすべてではないと思うんです。誰にも言えない思いが心の奥底にあるんじゃないかって……そう思えるんです」

 

 そう語るサクヤの瞳は、クーヤを悲しい眼差しで見つめていた。

 

 サクヤがどんな思い出語ったのかは、深い関わりのない自分にはわからないが……その瞳からは後悔の念のようなものが感じられるようだった。

 

「し……しかし」

 

「まったく……そこまでにしておきなさいな。いつまでもそんな堅物ですと、これから先がもっと大変ですわよ」

 

 未だ納得のいかないトウカさんにカルラさんが横から入ってきた。

 

「数年前に終わったことをそうやっていつまでも蒸し返してますと、いつまで経っても 終わりませんわ。彼は二人を守ってくれた一般の雇兵(アンクァム)、今はもうそれでいいじゃありませんこと?」

 

「確かにそうだが……というかお前、その手に持っているものはなんだ」

 

 そんなトウカさんの言葉を無視して手に持っているひょうたんをクイッと口の中へ傾けるカルラさん。

 あれは元々ラクシャインがどこからかくすねてきた酒で、話し合いの場を設ける際にこちらから献上させてもらった一品だ。

 ラクシャインは渋っていたが、あいつのせいで起こった問題でもあるので文句は言わせない。

 なので現在彼女はこちらの味方である。

 

「ビャクヤさん……でしたっけ? 話のわかる方で助かりましたわ」

 

『いえいえこちらこそ、あなたのような美しい方にお酌できるなんて光栄です。ささ、もう一本どうぞ』

 

「あらあらお上手。それじゃあ頂こうかしら」

 

「お前……」

 

「ビャクヤさんまで……」

 

 サクヤにも呆れられてるが、この問題を穏便に済ませるためだ。

 

「やはり、ビャクヤさんもカルラさんのような方が好みなのでしょか……」

 

 ん? サクヤが何か呟いたような気がするがよく聞こえなかったな。

 

ポコッ!

 

 と、思ったら何故かクーヤに殴られる。

 

「ビャクヤのスケべ!」

 

『ええ!? ど、どうしてそうなる?』

 

「ふふ、面白いですわねあなた達」

 

「はぁ……こんな空気では、一人だけ真剣な(それがし)が馬鹿みたいではないか」

 

 お気楽そうに笑う自分達の空気にトウカさんも気を緩めてくれた。

 

「貴殿らに免じて、あ奴への恨みは一旦置いておこう。だが、罪はいつか必ず償わせるがな」

 

 よかった、どうやらこれでこの問題は一段落つきそうだ。

 ラクシャインには悪いが、この護衛の旅が終わったらこってり絞られるだろうな、ご愁傷様。

 

「それはそうと、お二人はどうしてこの地に? あの後お二人は旅に出られて……風のうわさでは流れの雇兵(アンクァム)として活動していたと聞いていましたけど?」

 

 サクヤが二人に質問を投げかける。

 あの後というのがどの後なのか付き合いの浅い自分には分かりかねるが、二人は理解しているようだ。

 

「ええ、特に目的もありませんでしたから。西から東へ……気ままな旅でしたわ」

 

(それがし)は無理矢理同行させられただけだがな」

 

 出会って間もない自分だが、なんとなくこの二人の関係はよく分かるな……。

 カルラさんはとてもフリーダムな自由人で、トウカさんはそれに巻き込まれる苦労人……それでも二人は友人であり、互いに信頼している。

 

「大体、カルラが毎回毎回(それがし)を勝手に雇兵(アンクァム)として売り、酒代にするから変なうわさが立つのではないか!」

 

「あら、私はただ困っている人達へあなたを紹介しているだけですのよ、そうすると皆さんが気前よくお酒をくださるだけですわ」

 

「嘘をつけー!」

 

 信頼……してる?

 まぁ、自分も昔から先輩に振り回されては各所への対応に追われることも度々あったからな……気持ちは分からないでもないですよトウカさん……。

 

「コホン……話を戻そうか。何故(それがし)達がここにいるかだったな」

 

 トウカさんは冷静さを取り戻し、どうにか本題に戻ることができたようだ。

 

「トゥスクルは今、全土統一のため各地の争いを諌めると共に領土を広げている。その情報を得た(それがし)達は一度本土へ戻り、協力を始めた」

 

「何故……全土統一を」

 

 全土統一、何故かその言葉が出る度にサクヤの顔が曇るような気がするのは自分だけか?

 いや、トウカさん達もそれには気づいてるようだ……気づいてる上でこの話を続けている。

 彼女達は何を知っているのだろうか? また……自分だけが蚊帳の外だ……。

 

「サクヤ殿の気持ちは理解している。だが我々が全土を統一するのはただの気まぐれでも何でもない。ある日、オボロが本城へと帰ってきたんだ、あの子を連れて」

 

「彼は広い世界をあの子に見せてあげたかった。けれど、今の世の中は戦乱のまっただ中、安全に歩けるのはトゥスクル領内だけですわ」

 

 確かに、以前歩いたオンカミヤムカイ周辺の道と転移してからここまでの道のりでは、その安全さは天と地ほどの差があると言ってもいいのは自分も身を持って体感した。

 

「だからオボロは決心したのだ。あの子が笑って自由に歩ける世界を作ると。そのために我らは再び集結した」

 

「あれほど嫌がっていましたのに、「あくまで代理だから」と言って(オゥルォ)にまでなったのだから、その気持に私達も協力することにしましたの」

 

「そうだったんですか……なら、仕方ないですね」

 

 マジか……サクヤもそれで納得してしまうのか。

 あの子とやらが自分には誰かわからないが、その子のために全土統一するとか凄すぎるだろ。

 

「では、他の方々もこちらに?」

 

「いや、ベナウィ殿とクロウは北方の地へ向かった。ウルトリィ殿は賢大僧正(オルヤンクル)として戦いで傷ついた國への支援を、カミュとアルルゥも手伝っている」

 

 これでどうやらトゥスクルが争いに参戦している理由がわかり、サクヤも一安心したらしい。

 

 

 

 

 

 さて、問題も解決し、これからまたトゥスクルへ向けて再出発となるが……。

 

『サクヤ、こう言ってはなんだが……彼女らがいれば自分とラクシャインはもう必要ないんじゃないのか?』

 

 彼女達は強い、それはもう自分らなんて用済みレベルで。

 頼めばトゥスクルから別に護衛の兵も用意してくれそうだし。

「でも、記憶のないビャクヤさんを放っておくわけにもいきませんし、ラクさんには本城まで送り届けてもらう契約をしました」

 

 やっぱりサクヤは優しい子だな。

 あくまでも自分達を優先してくれている。

 

「トウカさんもカルラさんもお忙しそうですし、迷惑をかけるわけにもいきません。それにトゥスクル領はもう目前ですから」

 

『なんだ、そうなの……あれ? どうしたんですかお二人共?』

 

 サクヤの言葉にトウカさんとカルラさんは少々驚いた様子を見せる。

 

「確かにこの先はトゥスクルの統治領域だが……」

 

「あなた達、あそこを迂回しないで直接通るつもり?」

 

 サクヤの悲しげな表情、この先は一体どんな場所なのだろうか?

 

「そろそろあたしも……それにクーヤ様も、記憶は戻ったわけではありませんけど、気持ちの整理はつけにいかないとって……思うんです」

 

「そう……そこまで言うなら止めはしませんわ」

 

「では(それがし)達はそろそろ発つ、本城でまたお会いしましょう」

 

 

 

 そう言って二人はまた新たないくさ場へと向かっていった。

 次に会えるとすれば、それはこの全土から争いが消えた時になるだろう。

 

「おーう、やっと話が終わったかい」

 

 二人がいなくなったため、茂みに隠れていたラクシャインが顔をだす。

 これでこちらも旅の再開……といってもトゥスクル領は目前らしいのだが。

 

「で、俺らは次はどの道へ行くんだい嬢ちゃん?」

 

「トゥスクル本城へ向かう前に一つ、寄りたい場所があります」

 

「ん? なんか用事でもあるのか?」

 

「はい、簡単に言えば……お墓参りです」

 

「……なるほどね、了承した」

 

 なんだ? ラクシャインも何か納得している? つまり多くの人が認知していることなのか?

 

『サクヤ、これから向かう場所はなんてところなんだ?』

 

「……この先にあるのは、あたし達シャクコポル族の故郷(ふるさと)、クンネカムン……。その、跡地です……」

 

 この時、自分はまだ何も知らなかった……その場所がサクヤに、そしてクーヤにとってどれだけ重要な意味を持っているのかを……。

 

 

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