うたわれるもの外伝 ~天と地を繋ぐ絆~   作:もりベス

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第九話 「クンネカムン跡地」

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「水島先輩、何をそんなに真剣に見てるんすか?」

 

 前回の目覚めからもう何年……何百年経ったかわからない。

 いくらやっても結果を出せない自分達は、後の世代の経過を観測するために再び眠りについた。

 そして数百年の時を経て、自分達は目覚めたわけだ。

 

「いやな……自分の子孫の研究結果を閲覧することがこんなにも奇妙なものだとは思わなくてな……」

 

 そういえば先輩は結婚していて子供も生まれていたんだっけか。

 でも、以前から奥さん達の話をしなくなったのは、すでにこの世に存在しないからだろう……。

 あの人達は未来へ生きることを選ばず、自然に寿命を全うして生きることを決めたのか。

 しかしまぁ、先輩がそれを口にしないということはこちらもこれ以上気にしない方が良いだろう。

 

「それで? 一体何のデータなんですか?」

 

 画面を除くとそこには、『真人計画?』→『アイスマン計画』『マルタ(デコイ)製造方』『仮面による脳への影響』などなど、ここ数百年で追加された新しい情報ばかりが映し出されていた。

 

「……どうやら、人類は私達が危惧した通り衰退の一歩を歩んでいるようだ。もう免疫力は再生されつつある地球に完全に耐えられなくなっているじゃないか」

 

 本当に先輩の言った通りになったな。

 まったく……あれだけこちらが人類の生態変化についてのレポートを送ったというのに、それがまるで反映されていないなんてな。

 

「だが、連中も何もしてこなかったわけではなさそうだな」

 

「そっすね。まぁ、この研究結果を見る限りなんだかロクでもないことにはなってそうですけど」

 

 先輩が拾ってきた幾つものデータ。

 いずれもJP-022周辺の施設の極秘資料らしいが、これはその研究結果を北方の研究者がハッキングしたものの残留データをサルベージし復元したものらしい。

 まったく……こんなことができるなんて、本当にこの人は天才だな。

 

「アイスマン計画……この人物の遺伝子配列はもしや……?」

 

 と、物思いにふけっている内に先輩が何か気になるデータを発見したようだ。

 それは先程閲覧したデータの一つで『アイスマン計画』と呼ばれる現在進行形の計画の一つらしい。

 なんでも施設拡張のため、地下を掘り進めていたら古い遺跡のような場所にたどり着き、そこに氷漬けで眠っていた男こそがこの研究の最重要人物"アイスマン"というわけだ。

 

「自分達も結構長く眠りましたけど、それよりも前にずっと地下深くで眠っていた人間がいたなんて驚きですよね。……先輩?」

 

 先輩はこちらの話が聞こえていないようで一心不乱に次々と過去の研究データを漁っている。

 こういう時は無理に話しかけないで先輩が納得するか諦めるまで待つしかない。

 でも大体数分もすれば……

 

「あったぞ、これだ!」

 

 ほれこの通り。

 

「一体何があったんすか?」

 

 こちらから疑問を投げかけると、先輩は先程とは打って変わって意気揚々と要望に答えてデータを展開し始める。

 

「白夜、これが何かわかるか」

 

「これは……以前自分達が実験に使用したマウスの遺伝的情報ですよね? あのサンプルを使用した……」

 

 確か、遺伝子配列に変化は見られたが、マウスそのものに変化は見られず落ち込んだ記憶がある。

 

「その失敗結果がどうしたんすか?」

 

「……確かにあの時点では失敗だった。だがこれを見ろ」

 

 次に映し出されたデータは先程閲覧した"アイスマン"の情報だ。

 そして、その中の一つである遺伝子配列の欄を見ると……先程のマウスとわずかだが共通する部分があることに気づいた。

 

「これって……」

 

「お前なら気づくと思っていたよ。さらにマウスの結果を見てみると、この部分は実験前には存在しない系統の遺伝的だということもわかる。つまりだ……」

 

「この"アイスマン"は……自分達の実験している"進化の根源"と何か関わりがある?」

 

 なんだろう、ちょっとワクワクしてきた。

 先輩もなんだか嬉しそうな表情をしているし、これが研究者の血が騒ぐってことなのかね。

 

「さらにこの研究結果を見ると……"アイスマン"はまだ完全に再生していない地上で生き抜く事ができ、過去数百年に存在したどの人類よりも強靭な肉体を持つ。先輩……ってことは」

 

 自分達の研究している"進化の根源"を解明し、人間の体を"アイスマン"と同じ状態にできれば……!

 

「ああ、どうやら我々の研究はようやくスタートラインに立ったと言ってもいい」

 

 自分達の心は希望に満ち溢れていた。

 この研究で人類を救える、自分達の……いや全人類の夢を実現させることができる!

 

「さぁ、人類のために早速研究開始だ白夜!」

 

「はい!」

 

 そう……思っていたんだこの時は……。

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『ここが、クンネカムンか』

 

 戦場から幾数日、ようやく戦地を抜けた先の町の入口に到着することができた。

 

「ビャクヤさん、ここは正確には()クンネカムンです。この國はいろいろありましたから……」

 

 話では、この國は数年前に人が住めないほどの壊滅状態に陥ったと聞いた。

 

『けどなかなかに賑わってるじゃないか。人の雰囲気もいい感じだし』

 

 辺りを見れば、各所にはお店が立ち並び人の往来もかなりのものだ。

 幾ばくか歓楽地のようなものも見えるし、子供達が元気に走り回っている姿も見える。

 

「ええ、でも二年近く前までは本当に何も無くて……。ここまで復興できたのもトゥスクルの支援とこの國のあるべき姿を取り戻したいと願う多くの人の思いのおかげです……」

 

 確かに、この町にいる人達は誰もがこの場所を盛り上げたいという気持ちに満ち溢れているような気がする。

 特にサクヤと同じシャクコポル族は他の者に比べて張り切り度合いが違う。

 

「あの人達も以前は別の土地へ離れて暮らしていたのに、故郷の復興のためにこうして多くの人達が帰ってきてくれたんです」

 

『いい話じゃないか。仲間や家族が帰ってきて喜んだ人もいるだろうな』

 

「……」

 

 自分の楽観的な考えとは裏腹にサクヤの表情は依然として暗いままだ。

 

『ああっ~と、もしかして……また、よくないこと言っちゃったか……自分は?』

 

 またやっちまった。

 そういえば昔先輩に、どうして自分はモテないのか相談したところ、「お前は無意識にデリカシーのない発言をする癖がある」と言われたことがあったなぁ……。

 

「い、いえ、ビャクヤさんは何も悪いことは言ってませんから。……それに間違ってもいません。この地に眠っている多くの人達も、家族が帰ってきてきっと嬉しいはずです」

 

 この地に眠る……か。

 自分はこの地で何が起きたのか見たわけでもないし、詳しくも知らない。

 一大國を壊滅させるほどの大災害が起きた、という話は聞いているのだが。

 

(ここに至るまでの地質は常に調べたが大きな地震が起こった形跡はないし、近くに活火山があるわけでもない。そこまで大きく海に面しているわけでもないから津波で國は滅びないだろうし……超広範囲のハリケーンとか?)

 

 知識の中にあるあらゆる災害を想定しても、どうなれば國が滅びるかが思い浮かばない。

 

(やはり自分の知らない新しい何かかもな)

 

 術法なんていう魔法じみた力や、ファンタジーゲームに出てくるような巨大な虫が今の時代にはあるのだから、自分の知らない新しい災害が生まれていてもおかしくはない。

 この地に降り立って間もない日は、混乱する頭を整理することでいっぱいいっぱいだったが、慣れてくれば話は別。

 術法の仕組みや巨大虫の遺伝子情報など、研究者としては解明したいことだらけだ。

 

「ビャクヤさん、どうしたんですか?」

 

『ん? ああ、なんでもない。そろそろ行こう』

 

 これも悪い癖……研究に集中するのはいいが没頭しすぎるなとも怒られたな。

 

「ではまず旅籠へ向かいましょ……あれ、ラクさん、どこへ行かれるんですか?」

 

 宿へと向かう自分達とは裏腹に、ラクシャインは道を逸れて歩き出す。

 

「嬢ちゃん達はそのまま町の旅籠に向かいな。俺と一緒にいるといろいろと面倒掛けちまうだろうから、出発まで別行動だ」

 

「そんなこと……」

 

「あるから言ってんだよ。安心しろ、護衛は最後まできっちりやるからよ。出発の日時と集合場所だけ決めてくれや」

 

 まぁ確かに、これだけ人がいる町でこいつが殺人衝動を抑えられるかどうかなんてわからない。

 いきなり人前で人を斬りだしたりでもしたら同行している自分達も言い逃れできない。

 

「ま、ここは平和な町だし、護衛の俺は必要ねぇよ。そんじゃ、また後日なアンちゃん、嬢ちゃん」

 

 そう言ってラクシャインは裏道へと消えていく。

 これからあいつが何をするかは……想像はしたくないな。

 

「それでは、あたし達も行きましょうか」

 

 

 

 

 

ボフッ

 

「わーい、ふかふか~」

 

 程なくして旅籠に到着。

 ふかふかの布団にクーヤは随分嬉しそうだ。

 

「もう……クーヤ様、あんまりはしゃぎすぎると怪我しちゃいますよ」

 

『まぁいいじゃないか、今までずっと野宿だったんだし、これくらいは大目に見ても』

 

 とにかく戦場はもう抜けたんだ、常に周囲を気にしながらビクビクする夜とはもうおさらばだ。

 

『さて、早速だがサクヤ、今日はもう休むのか? それともすぐにでも用事を済ましてしまうのか?』

 

 まだ日は高いが、ここまで長い旅をしてきたのだから休むのもアリだとは思うが。

 この地でのサクヤの予定は……確かお墓参りだったか。

 

「実は、あたしはこれからお墓参りの場所へ向かう許可を取りに行かないといけないんです。あそこはまだ危険区域として管理されている場所ですから……」

 

 危険区域……だが無理をしてでも会いたい人物がそこには眠っているんだろう。

 

「だから、ビャクヤさんはクーヤ様とここで待っててください」

 

『自分は一緒に行かなくていいのか?』

 

 老婆心ながら、彼女達を一人にしてしまうことを不安に感じてしまっている。

 いや、逆か……今までずっと一緒だったせいか、サクヤとクーヤのどちらかが一緒にいないことが少し怖くなっている自分がいる。

 

「安心してくださいビャクヤさん。ここはとても安全ですし、少しの間だけ離れるだけですから」

 

 なんだか最近はサクヤに自分の心の内が読まれている気がする。

 ま、それはそれで信頼されている気がして結構嬉しくもあるんだけどな。

 だからこそ自分もサクヤを信頼するべきだ。

 

『わかった、じゃあ自分はここでクーヤと待って……』

 

「ねぇねぇ、クーヤお外行きたい!」

 

 いやね、人の話を聞いていたのでしょうかあなたは?

 せっかくの町だからはしゃぎたい気持ちはわからないくもないが……。

 

「クーヤ様、そんなにお外へ行きたいんですか?」

 

 なんだ? サクヤの声色が少し変わった?

 いつものサクヤなら、クーヤのわがままならなんでも聞いてあげるくらいの心意気だったのに……なんだか今日は反抗的な感じがする。

 

「うん、お外行きたい! 色んな物食べたいし~、お店も見てみたいし~……あとね、町の人達の様子も見たいの、自分の目で!」

 

「そうですか……そうですよね。今はもう自由なんですから、何にも縛られずにこの國を見ることができますもんね……」

 

 そう話すサクヤの瞳に、薄っすらとだが涙が浮かんでいるように見えたのは気のせいだろうか……。

 

「ビャクヤさん!」

 

『おおう!? なんだ』

 

 いきなり意気込んだ顔でこちらに向かれたので少々驚いてしまった。

 

「すみませんが、クーヤ様と町へ出てもらえませんか!」

 

『い、いや……そんな意気込まんでも行くって。別に断る理由もないし』

 

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 

 さっきまで真剣な雰囲気だったのにいきなり跳びはねるくらいの笑顔になって……。

 ホント、サクヤって表情がコロコロ変わるから見てて飽きないよなぁ。

 

「ではクーヤ様……これを着てください」

 

「はーい」

 

 あれは……フード付の外套(アベリュ)だな。

 確かこの旅籠に向かう途中も着させていたよな、なんでだろ?

 

「ではあたしはこれで。ビャクヤさん、後はよろしくお願いしますね」

 

『ん? あ、ああ』

 

 そう言ってサクヤは出て行ってしまった。

 この場に残されたのは自分とクーヤの二人だけだ。

 

(思えばクーヤと二人っきりになるのって初めてじゃないか?)

 

「いこ、ビャクヤ!」

 

 もしかしてこれは……デートということになってしまうのでは!?

 

 

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