人口増加に終止符を打つ為に、とお偉い様は綺麗事を宣っているが要するにただの思考放棄。
そうとしか思えないような、とんでもない新たなルールが世界のどこかで出来た。
中学生の時によくしたような、とてつもなくくだらないもしもの話。しかし、そういうもしもは現実に起こってしまえば、どうしようもなく血生臭い話になってしまう。
もしも――たった一発だけ撃っても問題のない拳銃があったならばどうする?
特にそのもしもは、どうしようもなく血が飛び交うものだった。
人々は多くの死を、目の前で目の当たりにするようになった。そして犯罪件数は増え、奇しくも綺麗事である人口増加は終止符を打っていた。
「……あーあ」
少年は小さく溜息を吐く。全くもってつまらない結末だったなぁ、と血塗れの教室を眺める。血の臭いはとてつもなく臭いが、しかし、この臭いはもう慣れてしまった臭いだ。
少年の両親は、お互いを憎み合い、眉間に拳銃を当てて引き金を引き合い、殺し合った。その時に飛び散った血は少年に掛かり、同時に少年の何かを壊した。
「少しくらい気付けよ、馬鹿だなぁ。たった一発しかないんだからさ、もっと大事に使おうよ」
何丁かの、使われていない拳銃を手にとって、引き金の部分を指にかけて、くるくると拳銃を回す。
一体いつからだったろうか、自分に人を思いのままに操る話術があると気付いたのは。そして、その力があれば自分の思い通りに物事が進むと気付いたのは。
こんなトチ狂った世界だ。気に食わない人間は、未使用の拳銃で殺させてしまえばいい。そういう発想に行き着いてからは、少年の毎日は楽しいものだった。
まず最初に殺させたのは、自分をイジメた人間。両親の死を理由に死に損ない、と自分に拳銃を突き付けた。
だから少年は、その取り巻きにそいつを殺させた。
「僕は明日死のうかなと思っているんだ。だけど、その前に一つだけ、君にだけは言おうと思ってね。『僕が死んだら、次は一体誰がイジメの標的になるのかな』。分かっているよね、多分、『あいつがイジメるのは君か、君の親友だ』。そのどちらかがイジメられて、次はそうじゃなかった方だ。分かるかい? 『君はいつかあいつに殺される』んだ。でも、君には『一つだけ解決方法がある』よね。君が持つ拳銃だ。それで『あいつを殺してしまえばいい』。うん、分かるよ。あんな奴に貴重な『拳銃を使うのはもったいない』よね。でも、『大丈夫』だ。君はその後で『そいつの拳銃を使えばいい』。普通は回収されちゃうけど、行方不明になって悪用される事件なんて沢山あるだろう? だからその時はこう言えばいい、あいつの遺言だったってね。そういえば、『君は罪から免れる』。……ふふっ、簡単だ。『息を整えて、数を数えるんだ』。そうだねぇ、状況が状況だから、こう数えよう。『アジン、ドゥヴァ、トゥリー』。そう呟きながら『引き金を引くんだ』。大丈夫、『君はあいつよりも強い人間だ』。だから、『君はあいつを殺せる』よね?」
確か、そんなことを言ったのだ。ゲームからの引用だったが、それで取り巻きは少年をイジメた人間を殺したのだ。
ああ、人って操るのが簡単だなぁ。少年は心底そう思った。
確かその取り巻きは、人を殺してしまったことに耐え切れずに後に自殺したのだ。面白いことに、「これがあいつの遺言だった」という遺言を残していたらしい。そこまで操るつもりはなかった。殺す為の常套句。そもそも、そんな言葉で罪が免れる訳がない。少年は人間の愚かさに気付いていた。目の前のことに捕らわれてしまうと簡単に騙される。自分の知識ではなく他人の知識を信用する。信用してそれを触れ回る。
少年は次に、もっと大勢を殺そうと思った。
気に食わない女子軍団。俗にいうイケてる系の男子に媚を売って、それ以外の男子など初めからいないかのように扱う女子達。少年はどうにも、それが気に食わなかった。精神的にイケていない男子を殺している女子を見て違和感を覚えたのだ。
どうせなら、本当に殺してしまえばいいのに、と。いつものように徒党を組んで、笑いながら、殺してしまえばいいのに、と思ったのだ。
「ねぇ、知っている? 君がいつも仲良くしているあの子。ほら、君達のグループを引っ張ってるあの子。そうそう、その子、その子。その子がね、『君のこと嫌いだって言っていた』よ。あとなんだったかなぁ、『殺したいとも言っていた』かな。『君を殺す為なら拳銃を使ってもいい、なんて言っていた』かも。……どうしたの? どうして僕がそんなことを知っているのかって? あはは、だって君達は僕みたいな人間のことを気にしていなかったじゃないか。だから、偶然聞いちゃったんだよ。え、あぁ、どうしてそのことを教えるのかって。そりゃねぇ、『僕はクラスメイトだから』。君は僕なんてどうでもいいけど、『僕はこのクラスから人殺しや、死人が出るのはもう嫌』なんだ。ほら、『知っている』でしょ? 僕をイジメていた『クラスメイトが二人死んじゃった』の。僕は二人のこと大嫌いだったけど、それでも死んじゃうととても悲しくてね。え、あははっ、『彼女が殺すわけがない』、って? ――本当に? 『本当にそう言い切れるの?』 だって、さっき言ったようにここでは『人殺しが出てきた』んだよ。それまで、『普通の人間だったクラスメイト』が、『人殺し』になったんだ。じゃあ、その子も『人殺しになるかもしれない』じゃない。うん、そう。だから『気をつけてね』。特に彼女が君と『二人っきりになった時』。多分その時が、『殺す時』だ」
「ねぇ、知ってる? 君がいつも仲良くしているあの子。うん、そうそう、その子とその子。その子がね、何か変な話をしていたんだ。今度、『二人で話し合って、君を殺そう』、なんてこと。あははっ、うん、僕も冗談だと思って話を聞いていたんだけど、何か凄くマジっぽかったんだよねぇ。だから一応『忠告』。君はとっても強そうだし、そうなったら『逆に殺してしまいそう』な勢いがあるね。もし、仮にそうするなら、『二人で話し合う時に殺してしまえばいい』んだよ、『その拳銃で』。そう、それで、『殺す時はリーダー格じゃない方』だよ。『君が一番知っている』と思うけど、リーダー格なんてびっくりさせちゃえばもう二度と逆らわないんだから。うん、そうそう。そうしたら、『君がグループのリーダー』だ」
「ねぇ、知ってる? うん、そうそう。君が率いている女子達。その女子達の一人……うん、そうそう。その子。その子がね、『君のことすっごく嫌っている』んだって。うん、そうそう、え? やだなぁ、本当だよ。何か気に食わないから、ちょっと教えてあげようと思ってさ。うん、分かる分かる。あの子、ちょっと自己主張がないよねぇ。うん、だから、『二人っきりになって話し合った』方がいいと思うな。え、うん、そうそう」
なんて言ったのだ。あと四人程、似たようなことを言って、殺させ合った。まず最初に二人っきりになったところで、リーダー格が殺され、次にリーダー格を殺した子が殺された。その後は半信半疑になって大喧嘩。感情的にそのまま引き金を引いて、みんな死んだ。
そうして少年は思うのだ。
今、このクラスは全員が全員、自分以外を疑っているのではないだろうかと。何せ、殺し合いが起きたのだ。それも男子ではなく女子が。男であろうとも女であろうとも、人殺しになるかもしれない。そこに人間性は関係ないのかもしれない、と。全員が疑い合っていた。
だから少年は、少しだけその疑いを疑いではないようにする手伝いをした。容疑を事実にしてみせた。
「ねぇ、委員長。このクラスの雰囲気、すっごく悪いよね。うん、そう思う。九人くらい『死んじゃった』もんね。そりゃ、悪くなるに決まってる。うん。だからさ、委員長。ここは『委員長の力が必要』なんだ。『次の人殺しが出ないように』ね、うん、『抑止力として一人を殺さないといけない』。……あはは、落ち着いて聞いてよ。何も『本当に殺さなくてもいい』んだ。そう、『拳銃は弾が無ければ人を殺せない』。そう、だからね、弾を抜いた状態で、委員長が人を殺すんだ。『殺す振り』をするんだ。そうすれば、人殺しは生まれない。どう? 『委員長として』、この『クラスをまとめ上げることが出来る』んだ。『いい提案』だと思わない?」
そう言って少年は、弾を抜いたと嘘を言い、適当に、気に食わない人間を指名して人を殺させた。
さて、その結果がコレだ。
「……あはは。誰かが人を殺すかもしれないなんて疑っている状況で、人殺しが出てきたら、みんなが密かに溜めていた懐疑心やらストレスやら鬱憤やらが爆発するに決まっているじゃない。自分が殺されるかもしれないなんて状況に、人を殺せる銃があったら、そのまま感情のまま、誰かを殺すに決まっているじゃない。馬鹿だなぁ、委員長は」
そう言って、少年は委員長だった屍を足蹴にする。
ここには三十一の人の体がある。生きているのは少年のみ。
「さて、流石に四十人中三十九人が殺し合った、なんてことになったら、疑われるかなぁ。だったら、こうしちゃおうっか」
大笑い。教室中に響く笑い声。少年は笑顔だった。
銃声が鳴り響く。
少年は笑顔だった。
あけましておめでとうございます。
新年早々こんな話、すいません。
2016年1月3日に『』を足しました。