IS(インフィニット・ストラトス) 2人目の男性IS操縦者 作:スーパープルコギ
─“俺”が“俺”を殺すわけだ─
『優太様。モーガン・ブリッジが死に際に言った“上”の組織の事ですが、どうやらあの時の破壊工作等の証拠隠滅行為はその上からの指示の可能性が高そうです。やはり小物でしたか』
「どっからそんな情報仕入れたん?」
『エリノーラ様が、時々モーガン・ブリッジがそれを示唆するような事を呟いていたそうです』
「ふぅん……」
『えっと、車椅子で階段を下るのは可能でしたか?』
「いや、無理じゃないけど危ないからスロープがががががが!?」
応答を待たずして空港の長い下り階段をまさかの車椅子で下る。周囲の残念な物を見るような視線が突き刺さる!ひさびさの表現だ!
「がががががが!」
『まだ深夜だと言うのに、荒ぶってますね優太様』
いやお前だろ!
『おっと』
「おっとぉ!?」
漸く階段を下り終えたと思ったらエイシャが急ブレーキ。つんのめって顔面から床にスライディング。
摩擦がががががが!?あっちぃ!
『申し訳御座いません優太様!ああ、鼻血が……すぐに治療を!』
と言いながら治療と言うよりも狩猟しそうな眼で舌舐めずりをしながらでジリジリと間合いを詰めてくる。
こんのぉ……!
「お巡りさぁぁぁん!ここに変態が居まぁぁぁす!」
大きな声で国家権力に助けを求める。ふははは!
『やれやれ……』
「どうしましたか?」
「お、お巡りさん!実はそこのメイドが……!」
「はぁ。夜中に面倒事は止してくれ……君、変態だって?」
ふははは!そうだ!国家権力の前ではたかが変態など無力に等しいのだ!さぁ、慌てふためきながら変態ではないと無様な様を晒すんだ!
『そうですが、何か問題でも?』
……え?
『私はただ優太様の鼻から滴る赤い血を舐めとりたいだけです。変態変態と申しますが、本当なら既に優太様に飛び付いて全身余す所無くペロペロしてハァハァしてクンカクンカしているところを、この公共の場だからと抑えているのですよ?それに私がペロペロしようとしたことで他のお客様にご迷惑をかけましたか?それを知らずに……たかだか貴方達程度が私の前に立ち塞がるなど、私のペロペロのレベルを越えられるとでも?』
「……くっ」
ええええ!?論破されたぞ!?良いのかそれで!?
「……君、どうやら勘違いだったようだね。彼女は変態ではない……ド変態だったよ」
駆け付けたお巡り達は俺に同情するような眼差しで肩を叩き、そそくさと立ち去ってしまう。
あ、え?ちょっと!?
『さぁ、優太様。安心して身を委ねて下さい』
「や……やめっ……ああああああ!?」
◇
「……」
場所と時間は変わりIS学園。
今日も1年1組の一夏の後ろの席は1人欠けていた。
「えっと……今日も曽我美君はお休み、です」
優太がロシアに赴いてから早3週間。学園には優太が土砂崩れに巻き込まれて入院中と連絡が来ていたが、ルイディナから話を聞いた一夏をはじめとしたいつもの面々は仕事で何かあったのだと分かっていた。
「優太さん……」
セシリアが開いたノートに意味不明な線を書きながら呟く。
優太が帰ってこれないと聞いて真っ先に行動を起こしたのはセシリアだった。ISを起動し、『コア・ネットワーク』を用いて連絡、もしくは現在位置を特定しようとしたが、シンモラのコアはコア・ネットワークから切断状態になっておりなす術がなかった。ルイディナの携帯からのアプローチも失敗に終わり、皆無事に帰ってくることを願うしかない。そういう状態だ。
「織斑。今日の放課後、2組のクラス代表との対抗戦だ。しっかりと準備をしておけ」
「分かりました」
授業が始まり、今日もセシリアは人知れず優太の為に授業内容を分かりやすく(あくまでセシリア基準で)ノートにペンを走らせる。
◇
丁度その頃。
「でーきたっと」
薄暗い部屋で金属質なウサミミがピコピコと動く。
「さぁー『ゴーレム』ちん、頑張ってきてよー!」
ハイテンションな女性が部屋の奥に佇むそれを起動させた。
◇
更に場所と時間は変わったIS学園の正面ゲートに車椅子でぐったりとした優太とやけに上機嫌なエイシャの姿があった。
『既に授業は終わっているようですね。早めに寮に行ってケーキを頂きましょう』
「あぁ……」
ぐったりと俯いたまま弱々しい返事。既にここに来る前に色々あったのだ。そう、色々と。
「エイシャ……早めに寮に……」
『優太様。あれは何ですか?』
「あ?」
エイシャが指差した方向は学園のアリーナ。
顔を上げた優太だが、如何せん遠くて見ることは出来ない。
「何かない?」
『これでしたら』
エイシャがメイド服のスカートから海賊が使うような古いモノキュラーを優太に手渡す。
本体を伸長させ、アリーナに向けて覗く。
「見えねぇ!」
『あら』
モノキュラーをエイシャに投げ返し、シンモラのヘッドギアを部分展開。
呼び出されたそれはブレードタイプの頬ガードで、バイオレットのクリアパーツとなっている。
「……あれはISだ!所属不明……侵入者だ!」
優太が声を上げ、エイシャのキャリーバッグを探り出す。
『私の下着でしたら右の方に』
「あ、これだな。って違う!俺の義肢は!?」
『あぁ、それでしたらここに』
思い出したようにキャリーバッグの中を探る。
下着をどかし、何故かスカートの丈がかなり短いメイド服をどかし……。
『おや。どうやら忘れて来てしまったようです』
「あぁ!?」
◇
同時刻。ロシアは元気な里老人ホーム。
「ミハイルおじさん。これってユーの義腕じゃないの?」
エリノーラがエイシャの部屋を掃除中にシーツに包まれたそれを見付けた。
「あ、阿修羅の奴忘れて行ったな」
◇
おいいいいい!!
『ですがご安心を。私が全て面倒を見て差し上げます。ハァハァ』
「こんのぉ……変態メイドがぁぁぁぁ!」
もう右半身不能でも構わん!《レーギャルン》の武装展開用の補助腕で何とかする!
「行くぞシンモラ!」
『あ、危険です優太様!』
「エイシャ離れてろ!《ティルフィング》!」
レーギャルンから長大な狙撃銃が2パーツ補助腕に持ち上げられながら頭上でドッキング。
左手でティルフィングを握る。
すると、シンモラの『操縦者支援プログラム』が起動し、両腰の《スキーズブラズニル》からパイルが射出。地面への固定が完了し、狙撃への完全集中が可能になる。
「弾は3発……外しはしない!」
トリガーを引くと肩へ走る衝撃。
打ち出されるのはISの幾つかの機能を無効化させる55mm対IS特殊弾。無論、シンモラに対しても例外ではなく反動相殺機能が無効化された。だからこそこのティルフィング自体に衝撃吸収機構を多く取り入れているのだ。
『直撃です!』
「いや駄目だ!」
ハイパーセンサーで直撃の瞬間を確認する。
真っ直ぐ飛来した対IS特殊弾は敵ISが振り向くより僅かに速く着弾した。だが、シールドバリアを貫通することは出来ても、振り向かれた事で射線から逸れて擦ったのか、弾かれたように見えた。が、意外にも敵ISには衝撃が伝わったらしく、よろめいたような動作も見受けられた。
「いけるか……《レーヴァテイン》!」
反撃を喰らう前にアリーナ上空に居る敵ISに向かって加速。
「もし……モーガン・ブリッジの言う“上”だとしたら……皆!」
─警告。敵IS砲口展開。
敵がこっちを向いた。
全身が真っ黒な装甲に不規則に配置された赤いカメラアイ。異様なまでに大きな腕は下ろすと足よりも長く、掌は人1人を握り潰すには申し分無い大きさ。
装甲の至る箇所にビーム兵器の砲口……とても物々しい姿だ。
アリーナを見下ろすように空中で静止していたそいつはよろめいてからの復帰が早く、肉薄する俺への対処に即座に移った。
その大きい腕を持ち上げ、手甲部分から覗く砲口を俺に向ける。刹那、ややピンクがかった極太のビームが放たれた。
「おおおおお!」
2本のビームの間をすり抜けるように回避。片手足無い分バランスを取るのに苦労する。
─接近警報。
少し意識がズレた間に敵ISが黒煙を噴き上げながら巨体に見合わぬ速さで殴りかかって来た。
「動ける奴だ!」
迫り来る質量と速度を持った物体をいなすのはそう簡単な事ではない。俺はマーシャルアーツが得意だが、如何せん片手で何とか出来るほどISは簡単ではないのだ。
結果、レーヴァテインを盾にして受けきる選択をとる。
─損害報告……バリア貫通。当機損傷率6.42%上昇。戦闘続行に支障無し。
そうは報告されるものの、こっちはシールドバリアを貫通してきた分衝撃が全身に走る。先刻も述べたように片手足が無い分立ち直りに時間が掛かるし攻撃の動きが単調になりかねない。
「っぐあ!」
耐え凌いだが逆噴射が間に合わず道に墜落。舗装が吹き飛び、砂利が粉塵となって視界を遮る。
しかし、ハイパーセンサーの前では砂塵などあっても無いもの。どういう理屈か分からないが、砂塵が舞ってる中でも敵ISが迫ってくるのがハッキリと視えていて、すぐにシンモラが接近警報を出してくる。
『優太様!』
「大丈夫だ!」
下半身を勢いよく持ち上げ、片手を頭の横に置く。
刹那、下半身があった場所を巨拳が砕き、新たに粉塵瓦礫を巻き上げる。
まだ視えてるぞ……だから跳ね起きの要領で全身を持ち上げる。無論、ただ跳ね起きるだけではなく、敵ISを空中に蹴り上げ、ダメージを与えつつ後方4m程先に着地。
─警告。敵ISより当機ロックオンを確認。
ロックオンアラートが耳をつんざき、蹴り上げられた敵ISが仰向けになっている状態から顔がこちらに向く。
それはおおよそ人間では不可能な首の動きで、180度回り、更には腰もとんでもない仰け反り方をしている。
何だこいつ!まさか……俺と同じ遺伝子強化試験体か!?いや、でもいくら遺伝子強化試験体だって人間の関節可動域は……。
「ちぃ!」
先刻とは違う幾つもの細めのビームが一斉に発射される。
砂塵に穴を空けるように伸びてくるそれは上に飛ばない限り当たってしまう微妙な間隔。出来れば飛びたいが後ろにはエイシャが居る……避けられない!
「っ!」
2、3本のビームは外れたが大体はガードが間に合わず被弾。何本かバリアを貫通してきて装甲が飛ぶ。
─バリア貫通。当機損傷率15.04%上昇。《レーギャルン》被弾。加速能率22.32%低下。
と、俺のシンモラは言語設定がデフォのままだからロシア語で表示される。
別に変えない理由は無いし、変える理由も無い。
─接近警報。
「分かってる!」
レーヴァテインで横凪ぎし、カウンターを試みる。
鈍い金属音が響くと、敵ISの胴に確かに入った手応えを感じた。しかし、ダメージはあまり入ってない。
「何者だお前!」
「……」
応答は無い。だがその代わりに敵ISの両肩の砲口からビームの連射が瞬いた。
「ぐぁぁぁぁ!」
ただでさえ高威力のビームがこれでもかと零距離で放たれた。
シールドバリアが頑張ってくれているが貫通したのが俺へとダメージを与えてくる。だがこれくらいで絶対防御は発動するわけがない。
ISは操縦者が死亡する攻撃に対して、絶対防御を発動する。言い換えれば、操縦者が命を落とさない攻撃であれば通ってしまうのだ。
これが非常に困るんだが、俺は遺伝子強化試験体でもかなり頑丈な作りの方で、他の操縦者であれば発動するシチュエーションでも俺は発動しないのが殆どだ。結果的に絶対防御のせいでエネルギー切れが起こる心配を大きく減らせている訳だが……同時に常人よりも“そういう状況”に追い込まれた後の復帰が遅くなるのがネックになる。
─パイロットへのダメージを確認。体温低下及び出血による神経安定値の乱れを確認。回避を推奨。
「……スキーズブラズニル!」
どんなISであっても延々と連続射撃は出来ない。必ずとこかでインターバルが必要となる。
敵ISの場合は5秒撃つとチャージによるインターバルが1.7秒あることが分かった。そこを突いて両腰のスキーズブラズニルを前面に転回。フレームがスライドして姿を表した砲口から赤い拡散エネルギー弾が『面』の攻撃として撒き散らされた。
射程は期待できないが威力は申し分無い。
「……」
流石にこの反撃は堪えたようで、自慢の黒い装甲がひしゃげ、ボディの各所から渡るコードやら何やらを破壊。
小規模な爆発を起こした敵ISは操縦者が居るであろう装甲部分からその下を露にする。
『あれは……優太様!敵ISの操縦者は人ではありません!』
「……あぁ。どうりで妙な動きをすると思えば……」
前の戦闘の傷が開いた体に鞭打ち、レーヴァテインを杖に立ち上がる。
敵ISは破損部位から紫電を散らしながらこちらを再びロックオンしたと、その不規則に配置されたカメラアイを不気味に煌めかせた。
「こいつ、無人機だ」
◇
「はぁ?何言ってるの一夏。“ISは人が乗らないと絶対動かない”事位知ってるでしょ?」
「いや、そうなんだけど……それにしても変じゃないかあれ?」
アリーナで優太とは別の無人機を鈴音と相手していた一夏もやはり不自然な感じを覚えていた。
「そうだけど、あり得ないわ。そんな話聞いたことも無いし、どこかでやったISのモーショントレースも成功しなかった筈……」
鈴音が首を傾げ、2人を見上げる無人機を見やる。
それはアリーナの地面に出来たクレーターから一夏と鈴音が話しているのを興味深そうに見ている。攻撃を仕掛けるような動作は今のところ見られず、先刻まで交戦していたとは思えない大人しさだ。
「……兎に角、仮にあれが人が乗ってなかったらどうだ?」
「無人機って事?まぁ、そうだったとしたら勝てるって?」
「ああ。無人機なら俺の《雪片弐型》……『零落白夜』でなら容赦なく全力で叩き込める」
「全力でって、さっきからそれで当たらないのに何言ってんのよ」
「次は当てるさ」
そう言った一夏が首を鳴らし、雪片弐型構える。すると、『白式』の『単一仕様能力(ワンオフアビリティ)』である零落白夜が発動。雪片弐型の刀身が外側に展開し、エネルギーブレードを形成する。
零落白夜……それは単一仕様能力と言われるISの特殊能力から始まる。それはISと操縦者の相性が最高状態になった時発動するとされるものだ。本来は第二形態から発現するものだが、実際は殆ど発現することはない。
それを白式は例外にも第一形態から発現。しかも白式に乗って数十分でだ。
そんな白式の単一仕様能力こそが、零落白夜。自身のシールドエネルギーを糧とし、エネルギー兵器の類いを無効化するというマトモでは無い非常に『実戦向き』な代物だ。
無論、エネルギー兵器であるシールドバリアも同様。
「言うじゃない。じゃあもし失敗したら学食デザート1年奢って貰うわよ」
「ぅ……や、やってやるさ!」
気合いを入れ直し、加速態勢に移る。
「よし!行く─」
「待って一夏!」
鈴がそれを止めた。どうしたと聞き返す一夏のハイパーセンサーに敵機の反応が走り、その反応の先に視線を移す。
「あれは……!?」
─新規敵機確認。パターン一致。以降『Unknown‐α』『Unknown‐β』と呼称。
先に一夏達と交戦していた無人機をαとし、そのαがアリーナのバリアを破って入ってきた穴からもう1機、βと呼称された無人機が何かを掴みながら高速で飛来。
地面に着く寸前にその掴んでいた何かを叩き付け、βはアクロバットな動きで着地。
砂塵がもうもうと立ち上がり、機械故か悠然としたような動きで歩み出てくる。
─IFF確認。味方機『シンモラ』確認。パイロットのバイタルサイン レベル3。危険。
「鈴!優太だ!優太が無人機と戦ってる!」
「バイタルサインがレベル3ってヤバいわよ!」
すぐにでも飛び出したいが、無人機が2機となってしまっては迂闊に動く事が出来ない。
そんな状況を嘲笑うかのようにβが倒れた優太に掌の砲口を向け、ビームを放った。
「止せぇぇぇぇ!」
◇
「ぐっぅぅぅぅ!」
顔を巨拳に鷲掴みにされながらアリーナの遥か上空より地面へ叩き付けられた。
─新規敵機確認。パター─
「っごぼ……」
完治していない内臓に響いたか、腹の底から競り上がってくる嘔吐感に負け、シンモラのフレームにぶちまける。
物を食べていないからか、胃液と血だけでべっとりとしていて気持ち悪い。
「く……そっ!」
頭を振り、次に来るであろう攻撃に備える。
《スヴェル》を射出、全部で6基のシールド・ビットが砂塵の中花弁のようにドッキングし、ゆっくり回りながら待機。
─警告。Unkn─
「分かってる!」
無人機からのビームがトドメと迫る。それをスヴェルが偏向させ、極太のビームを細い物に分散。その様はまるで彼岸花を思わせる。
─《スヴェル》リコリス・モード終了。通常支援モードに移行。
スヴェルが散り、その中をすり抜けるように無人機目掛けて飛ぶ。
このチャンスは逃すまい。
と、レーヴァテインの刀身がスライド・オープン。セシルとの1戦以来見なかった超熱プラズマブレードが成形され、例によってハイパーセンサーに警告が慌ただしく表示される。
「機械ごときがぁ……ナメるなぁ!」
零距離まで肉薄し、レーヴァテインを振り下ろす。
無人機はそれを巨掌で受け止めんとしたが、流石の分厚い装甲でもそれは叶わなかった。全く止めることが出来ず右腕が熔け、ボディの右肩から左脇腹にかけて真っ直ぐに赤熱の線が走る。
上半身が自重で滑り落ちる寸前、俺の右腰にマウントしておいたティルフィングに持ち替え、トリガーを引く。
生憎ボルトアクション式で連続射撃は叶わないが、放った1発は確実に無人機の胴を貫いた。左腕がもげそうな衝撃に耐えながら地面を転がり、アリーナの壁にぶつかって漸く止まる事が出来た。
─Unknown‐βの反応消失。破壊確認。
ハイパーセンサーに表示されると同時に無人機が紫電を走らせ、爆発した。
ティルフィングは2発当たりさえすれば大概のISはダウンする威力だ。流石にこれでコアも破壊しただろう。
「は……はっ……っ」
もう駄目だ。傷が開いて痛いし内臓も……意識が……。
─接近警報。
『優太!逃げろ!』
オープンチャンネルで一夏の叱咤が耳をつんざいた。そのお陰で意識がやや戻ってきて、漸く俺にもう1機の無人機が迫っていると認識する。
距離はまだある。ティルフィングは……。
「そこか……」
先刻の一撃で俺と一緒に転がったらしく、3m程先に落ちている。補助腕も届かないか……!
『鈴!早く撃て!』
『あぁもう……!どうなっても知らないわよ!』
上で砲撃のような音が響く。すると、何かしたのか一夏が今まで見たことがない速度で無人機へ肉薄。
「おおおおお!」
一夏の雪片弐型が眩い光を放ち、一目で分かる高エネルギーのブレードが接近に気付いた無人機の右腕を斬り落とした。無論、零落白夜によるエネルギー無効化で無人機のシールドバリアを消滅させた。
だがこれくらいでは無人機は倒れず、残った左腕で一夏を殴り飛ばした。
「ぐぁ!」
「……」
「まずい……!スヴェル!」
俺の回りで待機していたスヴェルを一夏の所に走らせる。俺と同じようにリコリス・モードになったスヴェルが無人機のビームを拡散。すると、無人機が俺に目標を変えたのか、身を翻して黒煙を吐きながら迫る。
「させませんわ!」
俺にもう少しで届こうとした時、進行方向を遮るように上から青いレーザーが降り注いだ。無人機は直前に上の存在を感知し、左手を地面に突き刺す事で無理矢理ブレーキをかけた。
「セシル……!」
「大丈夫ですか優太さん!」
上から青い雫が落ちてきて、地面スレスレで完全停止。
ビットで牽制しながら無人機との距離を離す。
『良くやったわセシリア!』
その隙にリンリンが大型の青竜刀で無人機に斬りかかる。流石は代表候補生、こんな状況だろうと冷静に敵の攻撃を見切っている。
「優太さん!しっかりしてください!」
「セシル、頼みがある……あのティルフィングで、あの無人機を撃ってくれ」
「ティル……フィング?あのライフルですの?」
今まで特訓でも出す機会が無かった為、名前だけ聞いてもすぐには分からない。だが転がっているライフルを見てそれだと理解したセシルは急いでそれを拾い、ISの武装としては大変異質な衝撃吸収機構に驚いた。
「何でこんなに機構が……?」
「そいつはあと1発しか無い!っぉえ……はぁ、はぁ……セシルなら、当てられる筈だ……!」
吐血して再び全身を倦怠感が襲う。
セシルは俺の様子を見てすぐに医務室に運ぼうか戦闘に戻るか、やや迷ったようだが後者を選択。《スターライトmkⅢ》を量子化させて仕舞い、ティルフィングを構えた。既にティルフィングは『ブルー・ティアーズ』のハイパーセンサーとリンクし、狙撃モードに移行させている。
─外部武装干渉。《ティルフィング》使用権限確認。狙撃モードに移行。
羅列するティルフィングの情報。それの中でセシルが最も驚いたのが『55mm対IS特殊弾』のウィンドウだ。
「そんな物があるんですの!?」と声を上げつつも本体右のコッキングレバーを引いて排莢。次弾を送り、スコープを覗く。
あくまでハイパーセンサーの狙撃モードは補助。実際狙い撃つならスコープを覗いてハイパーセンサーで周囲環境を確認しながらになる。つまりはスポッターのような物だ。
(重いですわ!何ですのこれ!)
ブルー・ティアーズも機能無効化の例外ではない。
操縦者に武装の重さを軽減して伝える筈の機能も無効化されている。そこでセシルはISとしては異例の腹這い狙撃体勢に変えた。
一応そういう体勢が出来るようなISではあるが、実際にやるとなればなかなか突起が邪魔である。
『馬鹿じゃないのセシリア!そんなのただの的に─』
「こうでしか安定出来ませんわ!」
俺のシンモラであればスキーズブラズニルや操縦者支援プログラムがあるから空中であろうが地上や海中であろうが安定した狙撃が可能だが、そうでないISではこの体勢に行き着く。確かに的だが……。
「スヴェル!」
セシルに飛んでくる流れ弾(ビーム?)は俺の操作権限に変えたスヴェルを使って防ぐ。リコリス・モードは使えないが、流れ弾程度ならどうとでもなる。
「助かりますわ!」
「無人機と言えど頭は急所の筈だ!そこを……!」
激しく地上戦を繰り広げる無人機に意識を集中する。
(これでも狙撃の練度は高いんですのよ……それに)
ハイパーセンサーで視線を変えずに俺を見る。
(優太さんの手前……必ず命中させてみますわ)
意識を再度無人機へ。
ゼロインはIS側がレティクルの中心に捉えた目標物にコンマ01秒で行っている。
本当なら200mにも満たない距離で55mmの弾を撃つなどISを纏った状態であれば造作もない。だが一撃で敵を無力化するとなれば話は変わる。しかもセシルが狙っているのは激しく動き回る無人機の頭部。
「ふぅ……」
必ず来る……その時が。
「……っ!」
銃とは思えない音が響いた。ブルー・ティアーズを軋ませたその威力は大気を震わせ、周りの砂埃を巻き上げ、撃った本人を宙に浮かせた。
─命中。
◇
「あっ……たりましたわ!」
一瞬で無人機の首から上を鉄屑へと還した特殊弾は止まることなくアリーナのバリアを破って避難がとっくにし終わって無人の観客席を粉砕。
更に衝撃波を受けた無人機は空中で1回転して血のような液体を散らしながら一切の機能を停止した。
「何て威力……」
唖然としているとティルフィングが量子化して消えていく。ハッとしたセシリアが振り返ると気を失って横たわる優太の姿があった。既にシンモラは待機状態に戻ったらしく、左足首にアンクレットがある。
「優太さん!」
急いでセシリアもブルー・ティアーズを待機状態に戻し、優太の元へ駆け付ける。
息はしているが浅い。体温も低く内出血が多い。一目で危険な状態だと分かるレベルだ。
『セシリアはそのアホをお願い!あたしは一夏を連れてくわ!』
「分かりましたわ!」
◇
「あっちゃぁーやっぱり敵わなかったかぁ……まぁ良いや、白式も調子良さそうだし。後はシンモラかなぁー。この“システム”が出来れば相当面白くなりそう。『紅椿』もあと少しだし、楽しくなりそうだー!」
◇
─お……て……─
「んぁ……?」
「起きて。起きてったら」
「……ニ……ナ?」
目が覚めると辺り1面は深い緑で生い茂っていた。
自分はその背景に溶け込めるように、顔にペイント、体は腹這いでギリースーツを着ていた。そして右手でライフルのグリップを握る感触。
「あれ……俺は……」
「ミッション中に寝るなんて珍しいわね」
やや心配するような声音の少女も、俺と同じような姿をしていて顔は見えない。
「何か変な夢でも見た?」
「夢?あぁ……何か見た気がするが……」
「ミッションのお復習しておく?」
そうだな。と首肯する。するとニーナはポーチから取り出した袋に入ってるマップと誰かの顔写真を指差して説明を始める。
「今居るのがここね。で、ターゲットはこの男」
「誰だ?」
「ほんっと寝ボケてるわね。曽我美優太でしょ」
「曽我美優太……?あぁ、あの男か。わざわざこんな所までご足労だな」
「あいつは私達の敵……確実に殺して」
「了解。……“俺”が“俺”を殺すわけだ、俺の右手でな……難儀だな曽我美優太」
そう呟いて生身の右手、5指でグリップを握り直し、スコープの先に居るターゲットに意識を向ける。
距離は約1800m、風、気温、湿度etc.それらはスポッターであるニーナに任せ、自分は森の木々を気にするだけだ。
「……じゃあな」
静寂な森に銃声がこだました。
◇
「あばら!」
目が覚めた。今度は白いベッドの上だ。
ん?今度は……?あれ、俺は何の夢を……。
「起きたか。随分勢いのある寝起きだな」
「……織……斑先生?俺は……」
「内臓損傷に内出血による肺の圧迫に骨折に筋肉断裂……よくもまぁ生きていられるものだ」
そうか……思い出した。俺は無人機との戦いで負けて……皆はどうしたんだ?
「先生、皆は?」
「織斑とオルコットが軽い打撲程度で済んだ。重傷はお前だけだ」
「そうですか……先生、俺お話ししないといけない事があるんです」
「大体は分かっている。こっちにも優秀な人間が居てな。……流石は遺伝子強化試験体と言ったところか」
「話が短く済みそうです」
織斑先生と事実の確認をしながら話していく。自分の目的、『マリオネッタ』の事、ロシアで起きた事、そして束さんとの関係。どれを話しても織斑先生は驚きもせず、想像通りと言った風だ。
「織斑達には話したのか?」
「いえ……」
「それが良い」
『失礼致します』
するとキャリーバッグを持って部屋に入ってくる。あぁ、そう言えば忘れてたよ。
「こいつからも話は粗方聞いたぞ。学園の許可は出したから体が良くなるまで世話してもらえ」
『優太様。織斑様はとてもお話しの分かる方です。因みに私の部屋はお楽しみです』
「いや、最後の聞いてないし興味ないし」
「さて……私は戻るぞ。あぁ、お前の治癒力ならあと2日もすれば大丈夫だ。その間、寝てた分学べよ」
織斑先生が大量のプリントをベッドに置く。え、これ?高さがとんでもないんですけど……。
『大丈夫です。私がお手伝い致します』
「それはありがたいが、義肢はどうした?」
『暫くカルヴィエラ様が遊び……んんっ。研究した「おい」
参った……あっちにある以上手も足も出ない。片っ方無いけどな。
『ご安心を。私が全てお世話致します。あぁ、そうそう。車椅子ですが、先の戦闘で駄目になってしまいました』
そう言って軽々と持ち上げた車椅子、だった物。
んん!?待て待て……その歪み方は戦闘のものじゃねぇぞ!あ!?指の形付いてるぞ!お前だな!?お前が自分で壊したな!
何だ!何が目的だエイシャ!
『……優太様……ご無事で良かったです』
「え?どうした突然」
『もし……優太様がもう目を覚まさないと思うと……』
俯いたエイシャから涙(俯いてて見えないからよく分からないけど、多分涙)が数滴落ちる。
エイシャ……何だかんだ心配してくれて……。
『もうペロペロ出来ないと思うと……』
「……」
心配、してくれて……?
『もう駄目です!我慢出来ません!ペロペロペロペロペロペロ!』
「こぉんのぉ……変態メイドがぁぁぁぁ!」
飛び付いてきたエイシャを片手でいなす。
その後、織斑先生にぶっ叩かれて窓ガラスの修理届けを書かされたのは言うまでもない。