IS(インフィニット・ストラトス) 2人目の男性IS操縦者   作:スーパープルコギ

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第10話 落ち着く場所

 

 

 

 

 

 

─俺はまだ……死にたくない!─

 

 

 

 

 

 

 

「ぁぁ……ぅぁ……」

 

『そろそろ限界ですか?』

 

首肯。

 

『では1度小休止に致しましょう』

 

エイシャの手伝いを受けながら休んでた分の課題をこなして早6時間。眠気と情報で頭がパンパンになって死にそう……。

 

『お飲み物は?』

 

「……メロンソーダ……」

 

『では私の胸から直接─』

 

「メロンソーダ!もう一度言うぞ!メ・ロ・ン・ソォォォォダ!!」

 

『……では私のメロンから吸っ「三ツ矢サイダー持ってこい!今すぐに!Давай быстро!」

 

たわわに実った果実を揉みしだきだしたエイシャ。

何て奴だよ!もう頼むから、何でもいいから炭酸持ってきて!

 

『ちっ……畏まりました。すぐにお持ち致します』

 

こいつ舌打ちしたぞ!ほんっと何なんこのメイド!?

もう嫌だ、逃げてやる!

 

『少々お待ち下さいませ』

 

一応メイドらしく一礼して三ツ矢サイダー運搬の任務を遂行すべく保健室を出る。今だ!

 

「待ってろ!俺のケーキ!」

 

壊した窓から松葉杖を持って外へ。保健室は1階だから何ら怖れる事はない。ただ問題は1つ……ケーキが残っているかどうかだけだ。

 

「くぅ!歩きにくい……義肢があれば!」

 

と言っても義肢は接合部付近の骨折やら何やらが酷いから駄目だと言われた。車椅子は意図的に破壊されたし、移動手段は今のところ己足だ。

 

「そうだ。一夏に電話……」

 

フューチャーフォンをポケットから取り出してふと気付く。時刻が午前の1時なのだ。

 

「あら……夜中……一夏寝ちゃってる?」

 

そう言えばそんな時間になってたかも知れないが全然気付かなかったし分からないし……何か短期間(自分の中で)に色々ありすぎて分っからね!

 

「参ったな……仕方無い。カードキーはあるし、自分で開けて取るか」

 

夜風が涼しい中、暗い道をゆっくりと進む。

松葉杖のイメージなら正常な脚とは反身の腕で使うんだが、如何せん俺は右腕が無い。よって体を左側に傾け、左腕で松葉杖を使う形になる。これがまた歩きにくい。

 

「ソッコで行かないと……エイシャに見付かる!」

 

「優太さん……?」

 

「んぉ?」

 

唐突に声を掛けられ、間が抜けた顔で振り返る。

こんな時間に人が出歩いてるとは思わなんだが、まさかお前と会うとはな。

 

「セシル?こんな時間に何してるんだ?」

 

「優太さんこそ、お体はよろしいんですの?」

 

「いや、良くない」

 

部屋着、と思われる丈の長いスカートのドレスみたいなのを着ている。あれだな、制服と変わらない気がするがそう言うのが好きなんだろうか。

 

「良くないのでしたら休んでた方が……」

 

「保健室に居ると色々大変過ぎてなぁ。ケーキ食べたくで逃げ出してきた」

 

「ケーキ?」

 

セシルに俺が苦労して手に入れたケーキの話をする。

あのケーキは……良いものだ!って熱が籠っていくと、どうやらセシルはそのケーキの事を聞いたことがあるらしく、段々と前のめりになって話を聞いてくる。

 

「でさ、開店4時間前に並んで漸く手にした『ミスティック・スウィーツ』の一番人気、『キングチョコケーキ』!これを今食べんとしていつ食べるか!」

 

「まさか、優太さんがそんな有名店のケーキを知っていたとは驚きですわ。よく4時間も並べましたわね」

 

「はは。見た目こそ違えど心(ハート)は日本人、並ぶのは好きだ。本当は日本国籍取りたかったんだけど、今の俺の状況が厳しくてなぁ……それに、俺がロシア国籍を持ってれば孤児院に維持費が入り続けるんだ。たとえその国籍がお偉いさん方の適当に作った物ゴミ同然だとしてもな……」

 

本来、俺には国籍など存在するわけもない。何たって道具として作られ、名前と言う記号を与えられ、そしていつの間にか幾人も殺されて……そんな者に国籍があるわけがない。人間として存在していても、国民としての存在は無い。ロシアのお偉いさん方は虚像でしかない国民を俺として作り上げたのだ。何ともはた迷惑な野郎共だ。

 

「ロシアが嫌いなんですの?」

 

「別に。ただ利用されてるってのが気に食わないだけだよ。まぁ、先に日本国籍取ってても同じだったと思うけど自分の意思で獲得したなら良いかなって」

 

「そうでしたの」

 

「そそ。あまり気……ぃてて……」

 

「優太さん?大丈夫ですの!?」

 

腹が痛んでへたりこんでしまう。多分内臓関係なんだろう。

セシルがやたら心配しているがそんな大事でもない。

 

「やっぱり戻った方が……」

 

「駄目だ!戻ると大変な事になる……!取り敢えず寮の部屋に行きたいんだ、手伝ってくれセシル」

 

「わ、分かりましたわ」

 

 

『優太様。無糖のコーヒーをお持ち致─』

 

嫌がらせとして持ってきた優太が飲めないコーヒー。それを手にしたエイシャが部屋に戻ると既に優太は逃げ出した後だった。

 

『……やはり逃走しますか。まぁ良いでしょう。この私から逃げるのが無理だと言うのをその体にじっくりねっとり……教えてあげます』

 

コーヒーを飲み干し、紙コップを握り潰すとエイシャ5指の間から小さな炎と紫電が光を放った。

 

 

「─!」

 

「どうかしましたか優太さん?」

 

「いや……ちょっと額に電気みたいのが走った気がして……」

 

そう。確かに今感じたんだ。こう、キュピィィィン!って言うかハッと気付く感じが。

 

「はぁ……。あ、着きましたよ優太さん」

 

「お。Thank Youセシル。んじゃま、カードキーを入れて……」

 

ドアノブ(バンドル)のすぐ上に設けられたカードスキャナーの溝にカードキーの読み込み部分を差し込んで横にスライド。認証されるとロックが外れて入室可能となる。

 

「待っててねー。すぐ取ってくるから」

 

「大丈夫ですの?」

 

「おう」

 

松葉杖をついて入室。流石にこの時間では一夏も寝ているようだ。しかし……こいつこんなに寝相が悪かったのか……腹を出して寝てるとは……。

 

「さぁて、迎えに来たよケーキちゃん」

 

寝相が悪いのは無視して冷蔵庫へ一直線。開けると確かにそこに居た。念願のキングチョコケーキ(箱)が!

 

「おぉ……何と素晴らしい。よっと」

 

ケーキが入った箱を持って冷蔵庫を閉める。

んー……お皿とか欲しいけど難しいな……。

 

「……優太さん。大丈夫ですの?」

 

小声でセシルが覗き込んでいる。折角だからちゃんと体裁揃えて味わいたいよなぁ。

 

「……大丈夫。そっち行くから待ってて」

 

「……ケーキを持ちますわ」

 

「……Thank You」

 

さて、後は食器関係だが……やっぱり難しいかな。俺の部屋に食器なんて湯飲み位しかないし。

 

「……優太さん。ここでは何ですから、その……わたくしのお部屋に……い、いらっしゃいませんか?」

 

「……お?もしかして食器あるん?」

 

「……勿論ですわ」

 

「……ありがたいけど、ルームメイトに迷惑じゃないか?」

 

セシルの部屋にもルームメイトはちゃんと居る。

えーっと、名前は……ごめん忘れた。

 

「……あ、それでしたら……」

 

 

「成る程ね」

 

「おー?曽我美君ーおひさ」

 

「久しぶり」

 

「あ、待ってね今退くから」

 

セシルの部屋に行くとルームメイトである少女がトッポをくわえながらテレビゲームをしていた。

しかしその姿は何とも目のやり場に困るものだ。

 

「ナギさん!またその格好で……!」

 

その格好……思い出したが彼女の名前は鏡ナギ。ロングヘアーの赤いヘアピンを付けた陸上部女子だ。とても話しやすくて実家が寿司屋らしく、魚のさばきもかなり上手い。で、それを思わせないその格好とは上に白いTシャツ(斬!と筆で荒く書かれたようなプリント)に下着のみの状態なのだ。わざわざ言う必要も無いが、下はピンクのパンツだけ。

 

「えー……だって楽だし。別に大丈夫でしょ」

 

「俺が困る……」

 

恥じらいのない娘である。

 

「……しかし、随分この部屋はセシルに侵食されてるな。座るのを躊躇うぜ」

 

明らかに高そうな家具へと置き換えられたセシルとナギナギの部屋は触るどころか立ち入るのでさえ正直躊躇う。椅子はどこぞの貴族が使うような主張の激しいやつで、カーペットも足が沈むような柔らかい物。これも模様の主張が激しく、特に目を引くセシルのベッド。天蓋 付きでこれが一番主張が激しい。

ナギナギは果たしてこれで落ち着くのだろうか。

 

「だよね?セシリアったら容赦ないから困るわぁ」

 

「家具の主張の激しさね」

 

「分かるわー!」

 

「主張は激しくないですわっ」

 

セシル曰くこれが普通らしい。流石だな英国貴族……!

 

「ところで、何で手足無いの?」

 

「義肢はロシアに忘れてきちゃってさ。知り合いにおもちゃにされてるから暫く帰ってこないんだよね……」

 

「そう言えばロシアで事故に巻き込まれたんだっけ?お大事に」

 

「あんがと」

 

興味が無いのか、触れるのを避けているのか分からないけど、あまり気にしないその感じが有り難い。

 

「はい優太さん。こんな食器でもよろしいですの?」

 

こんな食器と手渡されたのは明らかに高級感滲み出る、否、高級感バンバン溢れるティーカップとソーサー。

え、これ?

 

「セシル……皿は分かるけどコップは要らないよ?」

 

「皿ではありませんわ。ソーサーですのよ?あとティーカップですわ」

 

「はぁ……ソーサーって言うのか……」

 

「いや、それよりも曽我美君に必要なのは普通の皿とフォークでしょ?」

 

ナギナギが俺の持つ箱を指差す。あ、失念してたわ。

 

「あら、そうでしたわ」

 

「普通ので良いからね?」

 

そう言うとセシルにとっての普通が登場。

先刻のソーサーと似たような柄の高そうな陶器。縁とかに光って見えるのは金だろうか?いや、まさかだろ。

 

「あ、セシリアそれ本物の金のやつでしょ?」

 

「マジで!?」

 

「別に珍しくもありませんわよ?実家に行けばもっと良いものを揃えられるんですけど……」

 

「マジか……1度見てみたいわ金で溢れた所」

 

「宜しければ今度実家に招待致しますわ」

 

(はっ!?わたくしったらいきなり実家に誘ってしまいましたわ……でも強引に行くのも手だと……で、でももう少し─)

 

「良いの?やったね!夢のような物を見られるとかラッキーだわ」

 

「え、ええ。是非ともお越しになって」

 

テレビでしか見たことがないような豪邸に招待されるなんてそうそう無いぜ。ミハイルさんも金持ちなのに家が普通過ぎたもんなぁ。

 

「曽我美君さ、そのケーキどこの?」

 

「ミスティック・スウィーツのだよ。勿論、ナギナギも食べて良いからね」

 

「本当!?私甘い物大好きなんだよね!セシリアも食べるの?」

 

「え?いや、わたくしはこの時間には……」

 

確かにもう2時近い。そんな時間に物を、しかも甘い物を食べるとなると女子にとどまらず誰もが忌避する行為……最早禁忌だ。だが、そんな時に食べるからこそ良いんだ!その禁忌を破るような感覚が!

 

「何言ってるのセシリア?こんな時間に食べるからこそ良いんでしょ?ね?」

 

「ああ!分かってくれるかこの感じ!」

 

「当然でしょ。逆に今食べないでいつ食べるのよ?」

 

「「……同志!」」

 

2人で拳を握り締め、掲げる。如何せん一夏も嫌がるから居ないものかと思っていたが……まさかこんな身近に居たとは!

 

「え、え?」

 

「セシリア早く3人分食器!」

 

「は・や・く!は・や・く!Ураааааааа(キリル文字使用)!」

 

「あぁん、もう!分かりましたわ!」

 

セシルが遂に折れ、棚から3人分皿とフォーク、切り分ける用のナイフを出す。どれも高級感極まりない。

 

「ふふふ……待たせたな。遂に食べれる!」

 

セシルからナイフを奪い取り、『スーパーじゃんけんフィーバー』を発動。跳ね上がった身体能力と演算力で一瞬にして直径20cmのワンホールを3等分。能力の無駄遣いとか言わないで。

 

「おお!」

 

「え……今……」

 

「しー」

 

ナギナギは興奮して気付かなかったようだが、セシルは人間としての動きではない事に気が付いたらしい。それもそうだ。いくら織斑先生みたいに人外レベルを見ていたとしても今のは異常だ。

取り敢えず眼が赤いまま、セシルに静かにサインをし、すぐに眼の色を平常運転に戻す。

 

「!」

 

流石に色を変える瞬間は初めて見たセシルが目を見開く。変わっていくイメージは大体分かるとは思うが、ジワジワ広がっていくような感じだ。

 

「ほら、乗せるよー」

 

「はーい」

 

チャチャっと乗せて3人で丸いテーブルに座る。ご丁寧にもセシルがケーキに合いそうな紅茶を淹れてくれたみたいだ。

……ごめんセシル。俺紅茶とかコーヒーは飲めないんだ。でも雪印のは大好きだぜ!ロシアでもジャパニーズショップが合ったからよく買って飲んでたんだ。

 

「いただきます!必ずこのお礼するね!」

 

「気にすんなや。俺が食べたかっただけだし。んじゃま、俺もいただき『おや?食べれるとお思いですか?』

 

全身の毛穴が開いた。

全身から汗が噴き出した。

全身の筋肉が緊張した。

全身の神経が、俺の本能が逃げろと警告を出した。そして同時に叫んでいる。逃げられないと。

 

「え!?」

 

「誰!?」

 

2人が突然俺の背後に現れたそれに驚く。

 

「俺はまだ……死にたくない!」

 

持っていたナイフを口にくわえ、左腕で背後に殴りかかる。当然、そのパンチは受け止められ、捻られる。

 

「いつから、いつからそこにいたエイシャ!」

 

『くわえた状態でよく喋れますね。居たのは「しー」の所からです』

 

「ゆ、優太さん……そのお方は……?」

 

「メイド……だよ、しかも戦えるな!」

 

『正確には優太様専用の愛玩女慰奴(メイド)です』

 

「あ、愛玩!?」

 

「適当な事を……!」

 

腕を引いてエイシャを引き寄せ、顔目掛けてナイフを突き出す。一瞬驚いた様子を見せたエイシャだが、目を細めると素早く首を捻る。敢えなくナイフは空を突き、エイシャと顔が並ぶ。

 

『ん』

 

「!!」

 

再び全身に危険信号が発せられた。

エイシャと目が合った瞬間、エイシャが舌舐めずりをして唇を湿らせたのだ。この仕草はエイシャがこれから俺に何か嫌な事をする直前にするもの……ヤバイ!怖い!

 

「っらぁぁ!」

 

不安定極まりない状態で膝蹴りをかます。流石に予想外だったか、全力の膝が脇腹にめり込む。

 

『くっ……』

 

当たった。だがエイシャの体はそんな柔じゃない。

めり込んだ瞬間にエイシャの内臓保護液(皮下脂肪の代わりに満たされている)が硬化。つまりダイラタンシーに似た効果を起こして俺の膝から内臓を守った。そして俺の膝は硬化した保護液をバキバキと砕きつつ確実にダメージを受けた。

 

「ちっ!」

 

『流石です。が、それでは体のバランスを保てないのでは?』

 

「なっ……!うわ!」

 

軽々と体を持ち上げられ、ジャイアントスローよろしく放られて壁に激突。肺の中の空気を全て吐き出してしまったような感覚を得た直後、こめかみがエイシャの中指と親指でミシミシと悲鳴を上げる。

 

「おっ!?がぁぁ!いいいでで!!」

 

『安静にしろとの指示を無視したと思えば……呑気にお茶会ですか。私から逃げるのが無理だと言うのをその体にじっくりねっとりと─』

 

「『ブルー・ティアーズ』!」

 

『!』

 

エイシャが飛び退くと青いフィン・ビットが2基眼前を過る。セシルか!

 

「やめっろ……セシル!」

 

「優太さん!このメイドは危険ですわ!」

 

『ほぉ……私に武器を向けますか』

 

エイシャがスカートを翻し、太股のホルスターから一本のナイフを取り出した。

それは!

 

「《Вノーシ》!?」

 

《Вибрация Нож》文字通り振動ナイフだ。

ウラジーミルさんが考案、試作開発していた通常ナイフサイズの高振動ブレード。だがあれは出力が大きくなるため小型化が難しく、結局太刀サイズに外部ジェネレーターを付けないと持ち運び出来ないと結論が出た筈だったが……。

 

『このВノーシは私自身を外部ジェネレーターとする事で大幅な小型化を可能とさせた試作品です。優太様の義肢を研究した際に発見した技術を応用させて頂きました』

 

説明しながらも飛び交うブルー・ティアーズを紙一重で避け、Вノーシで応戦している。成る程……時々エイシャの腕がバチバチしてるかと思えばそれだったか。だったら尚更セシルに勝ち目が無いじゃないか!セシル、部分展開だと駄目だ!

 

「くっ!何ですの貴女!わたくしのティアーズをこうも簡単に……!」

 

『残念ですが、いくらISでも絶対な物ではないのです』

 

ブルー・ティアーズの1基がエイシャの背後に回り込む。もう容赦しないとブルー・ティアーズの砲口に開いた。

 

『何故現代兵器が及ばないか。それは『シールド・バリア』が鬼門です。バリアのエネルギーを削りきるまで攻撃を与えれば勝ち目は見えるかも知れませんが、それに投げる物資や人員は馬鹿になりません。が、あくまでそれは本体を狙う場合。本体から離れてバリアの効果範囲外のビット系兵器であれば……例えばそう、このように』

 

エイシャがエプロンを外し、セシルに向かって投げる。

唐突に投げられたエプロンに思わずびっくりしたセシルはブルー・ティアーズへの集中を阻害され、背後にいたブルー・ティアーズは射撃を中断する。Вノーシに紫電が走り、エイシャが動いた。

身を翻して今度はエイシャがブルー・ティアーズの背後に回り込み、スラスター部分にВノーシを突き立てる。不快な金切り音が部屋に響く。

 

『どんなに装甲が優れていようが、スラスターやバーニヤ等の推進器系はどうしても弱くなりがち。しかも機動性を重視するビットであれば私の無手でも』

 

Вノーシを引き抜き、アッパーの要領でブルー・ティアーズのボディに貫手を刺す。流石は10tトラックを蹴り飛ばせるだけのパワーはあり、見事ブルー・ティアーズをエイシャの貫手が貫通した。

 

「え!?」

 

『流石に硬い……左指全軟骨ユニット損傷。第1指骨から第11指骨に挫屈を確認。折角ネイルをしてみたと言うのに……』

 

「わ、わわわ!ケーキ食べてる場合じゃないよね!?」

 

「ナギナギずっと食べてたの!?」

 

何てやつだ……!このカオスな状況で食べていられるとは!

 

「な、ななにもの!何者ですの貴女は!」

 

『……私は未来の世界の、雌奴隷型ご奉仕ロボット。優太様の子孫を残すた「適当な事を言うな!」

 

「め、雌奴隷……!?」

 

「こら!真に受けない!良いか、エイシャは俺の知り合いが(軍の)大金を(勝手に)注ぎ込んで作った拠点攻略用兵器装着可能型恋愛シミュレーションアンドロイドだ。俺が動けない間の世話係り、って扱いだ」

 

「……アンドロイド?え、冗談でしょ?こんな完璧なのは出来るわけ……」

 

『残念ですが、本当です。因みに子供も出来ま─』

 

「この騒ぎは何事だ?」

 

「織斑先生!」

 

こんな時に織斑先生か……!どう出るべきだ!巻き込まれた風を装うか俺が原因を素直に言って制裁を喰らうか……後者怖い!

 

『織斑教諭……』

 

「今何時だと思っている?ん?」

 

「ご、午前……2時過ぎです……」

 

「馬鹿か」

 

「ふぎゃ!」

 

高速の出席簿飛来。眉間にクリーンヒットしたそれは最近変わった角が金属のタイプ。

 

「オルコット説明してみろ」

 

「はぃっ!?あえ、さ、えっと……優太さんが保健室を抜け出した所に偶然会いまして、えっとケーキを、食べる話になりましたので、わたくしな……わたくしの部屋にお誘いして、それから……そこのアンドロイドが攻撃を……」

 

「ふむ。で、鏡はどうだ?」

 

「私はゲームしてたらこうなりました!」

 

「お前は?」

 

『仰る通りです』

 

一通り話を聞くと、眉間をさする俺に振り向く。え、ちよっと何ですか!?怖いです先生!

 

「曽我美、私は安静にしろと言った筈だが?」

 

「……ケーキが……食べたがだあらぁ!?」

 

今度は脳天に出席簿。

 

「馬鹿共が。時間と場所を考えろ。各々反省文を書いてもらうからな」

 

「「「はい……」」」

 

『では戻りましょう優太様』

 

「ふっざけんな!まだケーキ食べてないだろうが!それとも何か?食べさせないつもりか?」

 

『まぁ、そう怒らないで下さい。ケーキは戻って頂きましょう』

 

「……何か企んでるな?」

 

『いいえ』

 

「……わあったよ。帰るぞ」

 

エイシャが何か企んでいるのは分かったがどのみち帰らないと織斑先生が怖い。

とっとと俺の分のケーキを箱に詰め、警戒するセシルに食器を返す。すぐ出るのかと思えばエイシャがセシルに近付き……。

 

『ISだからと過信はいけません。性能が高かろうがビット付きだろうが所詮操り、駆るのは人間です』

 

「……」

 

『まぁ、私も貴女が部分展開でしたから応戦出来た訳ですが』

 

損傷した左手を見ながら踵を返し、壁に寄り掛かって座っていた俺を抱き上げる。

ま、まてエイシャ!お前の胸で息が……!

 

『ふふ……』

 

「んー!んん!」

 

こいつ……楽しんでやがる!くそ!何でアンドロイドの癖にこんなに胸が柔らかいんだよ!

 

「じ、じゃあね曽我美君……」

 

 

5日後。

 

大体回復した俺は漸くマトモに授業を受けられるようになった。だが未だに義肢は届かず、移動には前にも使った松葉杖と思っていたのだが……。

 

「なぁ優太。今日の昼はどうする?」

 

「んー、久々にカツ丼食べたいな」

 

「お待ち下さい優太さん。今日はわたくしがお持ちしたお弁当を一緒に頂きませんか?」

 

「お、セシルの弁当か?ここで食べるん?」

 

「屋上はいかがですの?」

 

「……そうか……」

 

『優太様。屋上までお運び致します』

 

俺が肩を落とすとエイシャがどこからともなく現れる。

そう、エイシャが今回も松葉杖を破壊したのだ。ご丁寧にも学園内の全てをな。よって、移動の際はエイシャにまるでぬいぐるみか何かのように抱かれて移動する始末。

 

「いや、エイシャ。屋上くらい1人で行ける」

 

『何を馬鹿な事を。いい加減自分の体を心配して下さい』

 

馬鹿なのはお前だ!人の移動方法をことごとく駄目にしやがって……何が悲しくてぬいぐるみみたいな扱いをされにゃぁならんのだ!ええ!?

 

「何が悲しくて……あ、こら!止せ!降ろせ!」

 

『あんっ……暴れないで下さい優太様。もしかしてそう言うプレイがお好みですか?』

 

プレイって何だよプレイって。

 

「知らん。降ろせ」

 

『セシリア様、早く屋上に行きましょう。他の皆様もご一緒で?』

 

「そうだな。適当にパンでも買って行くか」

 

「そ、その必要は無いぞ一夏。私が、その……弁当を作って来たのだ……だから……」

 

『はぁ……一夏様、箒様が既にお弁当をご用意なさっていたようですので買う必要は無いそうです』

 

「え?そうなのか箒?」

 

「……そ、そうだ!だから……ふ、2人で……」

 

「一夏ぁ。弁当作って来たから一緒に食べましょ」

 

篠ノ乃箒がとても言い辛そうにしていると教室の後ろから元気な声が入ってきた。お?久しいなリンリン。お前も弁当持ちか。

 

「よおリンリン」

 

「久し振りね。しかしまぁ……そのメイドとか状況が面倒そうだから無視かますわね」

 

「あざっす!」

 

「おっす鈴。丁度良かったな、今皆で屋上に行くところだったんだけどお前も行くだろ?」

 

「皆で?」

 

「おう」

 

するとリンリンが指差し数え始める。

セシル、篠ノ乃箒、一夏、リンリン、ルディ……あれ?いつからお前居たよ!?

 

「今来たとこ」

 

「んー、じゃあそこの阿呆を除いたメンツね」

 

「誰が阿呆じゃ」

 

『ささ、取り敢えず行きましょう。おやセシリア様、そんなに警戒しないで下さい』

 

「はぁ、しかし何度見ても人間と変わらないよなぁ」

 

「だな。私は正直怖いと思うぞ」

 

まぁ、それも無理ないよな。何たってここまで人に近いアンドロイドの開発は難しいし、一応出来るけどIS開発に皆力入れてるしな。

ウラジーミルさんは沢山の友人と情報交換しながら作ったらしいけど……まぁ、あの人も中々ブッ飛んでるよな。

 

『優太様。大人しくなりましたね』

 

「……抗うのが無駄と分かっただけだよ。ほら、早く屋上に行こうぜ」

 

『畏まりました』

 

騒がしいし面倒臭い事が多いけど……何だかんだ、学園の生活の方が楽しいな。

 

 

「ふぅん……やっぱり面白いわね」

 

屋上へと向かう優太一行をどこからか見ている女子。

リボンの色から彼女は2年生だと思われ、纏う雰囲気は何か特殊な物を思わせる。

そんな彼女はどこからか扇子を取り出し、広げて口の辺りに持っていく。その広げられた扇子には「観察」と書かれていた。

 

「さぁて……君はどっちかな?敵か味方か、それとも……」

 

「……ん?」

 

「どうした優太」

 

「……いや、何でもない」

 

優太が視線を感じたのか、抱かれた状態で女子生徒が居る辺りをキョロキョロと見回す。やがて気のせいだと思ったのか、仲間との会話に戻っていく。

 

「流石。私もあまり気を抜けないかな?」

 

女子生徒はどこか嬉しそうに踵を返すと扇子に付いた菱形のストラップを指で弾きながら階段を上がっていった。

 

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