IS(インフィニット・ストラトス) 2人目の男性IS操縦者 作:スーパープルコギ
─死が……すぐ、目の前に……迫って!─
「何だよ箒。こんな所で」
「う、うむ……」
夕暮れ時。アリーナでの特訓を終えた一夏は箒に呼ばれ、優太より一足早く寮に居た。そしてその屋上には先に待っていた箒の姿。
「その、だな一夏……今度、学年別トーナメントがあるな」
「そうだっけ?」
学年別トーナメント。今回起きた“乱入”を考慮してツーマンセルで行う事になった行事だ。
因みに今回の乱入の事については避難した生徒には箝口令が敷かれ、交戦した一夏や優太等については誓約書まで書かされた。
「そうだ。それでだな……その、もし私が優勝したら」
「したら?」
(言える……今の私なら!)
「私と……付き合ってもらう!」
箒が一夏を指差し、声を張って宣言した。
◇
6月中旬。
「……!……ろ……き!」
「ん……ぁ?」
夢現の中、誰かの叫びのようなものが聞こえた俺は少しずつ意識を覚醒させていく。
重く硬い瞼を開くと、ピンぼけた視界に見慣れたシルエットが見える。
「……るせぇよぉ……」
朝っぱらから騒いでまぁ……。もう先月から毎日毎日……ん?毎日……あ、ヤベェ!
「問答無用!」
「うわぁぁぁ!」
毎日これだぁ!
「ヤベェ!巻き込まれる!」
ボケた意識の中、漸く自分が危険だと判断して跳ねる。片腕脚が無くてもベッドの反発力を利用して腹筋全力V字回避。すると僅かな風切り音がしてつい先刻まで俺の下半身があった場所を長い刃物が斬り裂いた。
はぁ!?
「は!?は!?はぁぁぁ!?」
「優太大丈夫か!」
「大丈夫も糞もあるか!朝っぱらから人の命を脅かすな!」
「チェストォォォ!」
「「ぎゃぁぁぁ!」」
篠ノ乃箒か!?また何で日本刀振り回してるんだお前!
一夏だな!?お前が原因だな!?
「そうだろ!?」
「何が!?」
怒鳴っても埒があかない。
義肢が無い分踏ん張りが効くか分からないが、こうなったらエイシャの『Вノーシ』で受け止める。
避けながら枕の下に手を突っ込み、隠していたВノーシを掴んで篠ノ乃箒の前に割り込む。
Вノーシは起動こそしないが普通のナイフとしても充分使える。どうやら真剣らしいそれを逆手持ちのВノーシで受け止める。
接触したそれらは甲高い金属音を朝の寮に響かせた。
「落ち着け篠ノ乃箒!これ以上俺の安眠妨害をするなら本気を出すぞ!それとも何か?俺を永眠させるつもりか?」
「っ……」
流石に毎日のように騒がれたら怒りたくもなる。
「おわ、落ち着け2人共。な?優太も物騒なこと言うなよ……」
「いや、物騒なのは篠ノ乃箒の方だろ」
「まぁまぁ。箒も落ち着けよ」
「……そ、そうだな。私も冷静ではなかった……」
いや、そんな事は100人見ても分かりますわ。
しかし何で一夏に篠ノ乃箒がご立腹だったか分からないが、今の2人の様子は何となく……俺に怯えた様な雰囲気を感じ取れた。気のせいかも知れないが、生憎そう言う事には敏感でな。十中八九そうだろう。
俺何かしたかな……?
『何事ですか?こんな朝っぱらから……と言うより毎日のように』
「エイシャ、ほらこれ」
ホルスターに納刃したВノーシを入ってきたエイシャに放る。忘れていたが、Вノーシの読み方は「ヴェー・ノーシ」英語のBじゃないよ?キリル文字。
『今日は使う事になったのですね』
「ん。今日は特に酷かった……」
『そうですか。では着替えましょう優太様』
「ん。分かったから出てくれ」
こいつも毎日毎日……人をバァビィ人形か何かの着せ替え人形の様に扱おうとしやがって……。
『ええ!?嫌だよおにーちゃん!おにーちゃんと離れたくないよぉ……ひっぐ……え……エイシャ泣いちゃう、んだからね……!うわぁぁぁぁん!』
「「「キャラ変わったぁぁぁ!」」」
いつもやや鋭めにしている目を幼く真ん丸に開き、声も何段階も高くなって泣きじゃくる。
泣く仕草も床にへたりこんで大口開け、ご丁寧にも両手を各々目元に添えている。
「……」
『うわぁぁぁぁん。……うわぁぁぁぁん』
その『……』の時にいつもの顔でこちらを伺ってはまた泣きに戻る。マジで何がしたいの。
「……大変だな優太」
「同情する」
「いやいや。そっちに比べたらまだまだ。ほら起きろエイシャ」
いい加減騒がれると鉄拳ないし教器アタックを喰らいかねない……はぁ。仕方がないがベッドに座って着替えをエイシャに投げる。
するとそれをノールックキャッチしたエイシャが直ぐ様いつもに戻って目元の涙を拭う。
『只今お手伝いさせて頂きます』
「早ぇなおい。ま、優しく頼むぞ」
『……プッツーン』
あ?何か切れた音したぞ。
お?エイシャ、何で「ユラァ……」って効果音付きそうなオーラ出してる?
『優太様ぁぁぁ!あっはぁぁぁん!まうう、もう、堪えられません!』
「きゃぁぁぁ!死ねぇぇぇ変態メイドがぁ!」
何に堪えられなかったのか、俺の着替え片手にダイブ。俺覆い被さる瞬間にエイシャの右顎にカウンターをお見舞いし、状況の打開を文字通り行おうとしたが……。
『良い!』
と、次なる扉を開けてしまったかも知れない。
かなり強めにカウンターを入れた筈だがビクともしてない……あろうことか眼がギラギラと煌めいてすらいる。
「死が……すぐ、目の前に……迫って!」
見える。
エイシャが舌舐めずりをし、唇を湿らせたのを。着替えを持っていない片手の五指をワシワシと蠢かしているのを。
『い・た・だ・き・ま・す!』
「うわぁぁぁぁん!」
◇
「……もうお婿に行けない……」
「何言ってるんだよ……」
「何か……すまない優太」
「朝っぱらから阿呆丸出しねアンタ」
「ナニされたのユー!」
「ゆ、優太さんが宜しければ……わ、わた……私が、お婿……に……!」
(お婿にしてあげますわ!)
「何の慰めにもならないよセシル!俺はお嫁にならないからな!」
「い、いえ、そう言う意味では……」
今日も教室に行くまでにいつもの一行で集い、俺が受けた辱しめに対して様々な有り難い(?)言葉を頂戴された。
『優太様。もう少し力を抜いて下さい』
「るせぇ。ほら、着いたから降ろしてくれ」
「んじゃ、また後でねユー」
「Да」
「昼空けときなさいよ一夏」
「はいよ」
ここでルディとリンリンは自分の教室に別れていく。
ん?何だ?何だか凄い視線を感じるが……。
「……ねぇ、あの噂は本当かな?」
「……私も凄い気になる」
「……本人に聞いてみちゃえば?」
「……えー、恥ずかしいよ」
「……でもどうして織斑君だけ?曽我美君はないの?」
何やら今日の1年1組はひそひそ話が多いな。やたら俺と一夏を交互に見ては話に戻り、一夏に聞きたそうな視線を送っている。
「一夏何かしたのか?」
「は?何で?」
「……いや、何でもない」
まぁ、聞いても無駄だって事は大体分かってたからな。
いつもそうだ。自分が何かやらかした事に気付いていない。今朝もまたしかり。因みに俺も一夏が何をやらかして制裁を喰らっているかは分からない。
「はーい。皆さんHRを始めますよ」
『では私は自室待機に。何かあればお呼びください主に下のお世話とか下のお世話とか』
「呼ばんわ!はよ帰れ!」
とっとと帰らせて俺は安寧を得たいのだ。
最初の時こそ辛かった授業がこいつが居る今では数少ない安息の時間……。
「諸君、おはよう」
「お、おはようございます!」
山田先生から少し遅れて我等が担任、GTO織斑先生。
その凄さと言えば、今みたいにただの挨拶で姦しかった教室に一瞬で静寂が訪れる程。そして何より特筆すべきは攻撃力と有無を言わさぬ威圧感!正直同胞か疑いたくなる。
「ほぉ?曽我美、挨拶をしないとは良い度胸だな」
「……はぇ?え、あ……」
なんて考えていたらすっかり挨拶を返すのを忘れていたようで、間抜けな返事をしてしまう。気付けばすぐ目の前に腕を組んだ織斑先生が仁王立ちしている。
あ……終わったな。
「……すみません……」
ゴッ!と珍しく拳で俺の脳を揺らす。眼球が飛び出るのではないかという衝撃は、痛さで思わず声を出すことですら許さない。
「~!」
「懲りたら次から気を付けろ」
「……はい」
「よし。では山田先生、続きを」
「あ、はい!」
GTOからお許しを得て脈動の度に痛む脳天をさすりながら椅子からずれた尻を直す。しかし教室の椅子は硬い……俺尻が弱いから長時間座っていられないんだよな。あ、柔らかかったら大丈夫。
「えっえとですね。今日はとても凄い事があるんですよー」
「えー、なになに山ちゃん」
「教えて山ピー」
「早くー、まややん」
「山田君。座布団1枚持ってって」
どうやら山田先生はこのクラスの女子の人数分あだ名があるみたいだな……。
って言うか最後、それはあだ名とかじゃなくて山○隆夫さんだよ!
「……曽我美君、今のツッコミしたかった?」
「……まぁな」
「……じゃあ、やっちゃ……んんっ。YOUやっちゃいなよ」
い、良いのか?果たしてこの誘いを受けて地雷を踏まないか?
あ、因みに俺の後ろは眼鏡っ娘、岸原さん。ちょくちょく悪魔の誘惑のような事を囁いてくる。いやさ、ボケるには有り難いんだが難度高いんだわ……。
「……YOUがCANと思うならDOすれば良いじゃない」
……やっぱDOしちゃおっかなぁ!
「最後!それは山○隆夫さんだよ!」
「「「え……?」」」
「……」
「落ち着こうぜ優太……な?」
一夏に励ませれて急激に頭が冷える。何でだろうなぁ……何でこんな馬鹿な事したんだろうなぁ……あは、涙が……。
「山田先生。馬鹿がやらかしたのは無視して続きを」
「はい。えっと、その凄い事と言うのは、実は転校生がこのクラスに来ました!しかも2名!」
「また転校生?」
「しかも2人でしょ?何でこんな短期間に……?」
「また軍関係じゃない?軍関係なら半年に5、6人はザラって先輩は言ってたよ」
「「「へぇ」」」
俺もセシルから聞いたんだが、どうやらそうらしい。元々、学園は募集している人数より10人以上分の余裕があるらしく、企業からのテストパイロットや軍関係のパイロット、技術者が入れる様にはなっているらしい。ただ、転入編入各々に試験が設けられており、難しいよう。
因みにISを学べる学校は日本だけではなく、世界にいくつもある。アメリカ、ブラジル、中国、ロシア、オーストラリア、ドイツ、フランス、エジプトに他とは比べ物にならないレベルと密度で学べる日本のIS学園を合わせた計9ヵ国にあり、そこから転入5割。軍、企業からの編入が残り5割と大体来るらしい。
更に因みにだが、他8ヵ国は普通科高校で本校は専門学校って感じの学習密度。だから転入編入生は皆優秀。
「何で2人も集中するんだ?」
「何か特別なんじゃないの?例えば2人とも男だったりとか」
「まぁ、それなら正直嬉しいけどな」
「では入ってきて下さい」
空気が抜けたような音が一瞬聞こえ、教室の前ドアがスライド。
すると確かに2人の生徒が歩いてきて、教卓横に並んで黒板に各々の名前と出身国の国旗が表示された。
だが、誰1人としてそこを見ていない。入ってきた瞬間に騒がしかった教室は静まり返り、入ってきた1人目、金髪が特徴的な“美男子”に視線が注がれていた。
その金髪はアッシュブロンドの俺とは違って濃いめで、丁寧に後ろで束ねており、華奢な体で女子にも見える中性的な顔立ち。
んー……何だろ。すっげぇ違和感があるんだが、何の違和感なのか……。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。日本はまだ不慣れで、ご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします」
「お、男……?」
誰かが静寂の中、声を発する。
「はい。ここに僕と境遇の方が居ると聞いて本国より転入を─」
「……き……」
「はい?」
未だに違和感を何なのか考えて居ると、急に女子達の息を吸い込む音と、誰かが発したフライングが聞こえる。
「一夏!耳を塞……」
駄目だ!一夏は目の前の男子に驚いて聞こえてない!
すまない……俺は自分を守る。人間誰しも自分が大─
「きゃあああああああ!」
「ぅえ!?」
「3人目の男子!しかも超美形!」
「織斑君の黒髪も良いけど金髪も最高!」
「地球に生まれて良かったぁぁぁ!」
「守ってあげたくなるタイプ!」
興奮が最高潮に達した女子達が立ち上がり、歓喜を上げ、喜びに打ち震えて涙を流す。
「あー、お前ら静かにしろ」
織斑先生が面倒臭そうに手を叩く。
「み、皆さん静かにして下さい!まだ自己紹介は終わってないんですよー!」
そうなのだ。まだ隣で目を瞑り、微動だにしない小柄な転入生が居るのだ。
しかし、その転入生がまた特徴が多過ぎてヤバイ。
まず長く下ろされた銀髪だ。実は銀髪は金髪の分類で、プラチナブロンドとも言ったりする。まぁ、パッと見銀髪でもプラチナブロンドでもどっちでも良いのだが。で、その銀髪は手入れがなされていると言うより伸ばしっぱなしのイメージが強い。
制服は珍しくスカートではなく、まるで第二次世界大戦のドイツ空軍の軍服ズボンとクリソツ……すまない、そっくりの改造ズボン。そして丈の長い黒ブーツ。
そして何より目を引くのが左目の眼帯だ。黒く、医療用のそれとは違うガチな眼帯……格好良い!めっちゃ欲しいぞそれ!っとと……んんっ。どこからどう見ても軍関係だな。
怖ぇ……ハジキかドス持ってるだろ。
「……」
「ボーデヴィッヒ、自己紹介をしろ」
「はっ、教官。ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「……終わり?」
自己紹介は何とも短すぎた様で、女子達の満足度は低いようだ。それにラウラ・ボーデヴィッヒから発せられる近寄らせないようなオーラが、ここの女子達のテンションを一気に下げている。
「……一夏、何か織斑先生を教官とか呼んでるけど……」
「……あぁ。千冬姉は一時期ドイツに居たことがあるんだけど、確実にドイツ軍だ」
「……へぇ」
それは知らなかった。
「!貴様が─」
と、俺と一夏でひそひそ話していると何を思ったのか、ラウラ・ボーデヴィッヒがツカツカと歩いてきた。
え?何?
「うぉあ!」
「あひぃ!?」
俺の左頬にインパクト。思わず変な声を出してしまった。
「む?」
「何だよ急に!危ないだろ!」
目の前で引っぱたく相手を間違えたらしいラウラ・ボーデヴィッヒ。
こいつは突然怒ったような形相で迫って来ると、問答無用と右手で平手打ちをかましてきた。
本当は一夏が狙われていたのだが、寸前で勘よく避けちゃって……で、空振りしたのが俺にヒットしたのだ。
「……まぁ良い。貴様が織斑一夏だな。私は認めんぞ……貴様があの人の弟であるなど!」
「はぁ?」
「……何なん?」
まだジンジンと痛む左頬を押さえながら険悪な雰囲気の2人に帰ってこない疑問を呟くことしか出来ない。
……何か無性に悲しくなってきたんだが?
「あー……んんっ。ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。2組と合同で模擬戦闘を行う。解散!」
おおっとそうだった。今日は模擬戦闘をやるんだったな。一夏もそうだが、俺達男子は教室では着替えられない。だから毎度どこか空いている更衣室を探して使わなければならない。
と、いうのが一夏で、俺は既にISスーツを着ている。裸や半裸にならない限りはこの教室で脱ぐだけで良いのだ。
因みに一夏に言わないのは女子に口止めされているから。何でも、一夏の生着替えを見たいらしい。見たいってさ、要するに盗撮だろ……。
「織斑。デュノアも連れていけ。同じ男子だろう」
「あ、分かりました。優太、お前歩けるのか?」
「んにゃ。セシルが車椅子持ってきてくれたみたいだからそれを使うわ。先に行っててくれ」
「おっけ。じゃ行くぞ」
「え?─あ、ああ。分かったよ」
一夏がシャルル・デュノアの手を引いて教室を出ていく。
すると突然廊下が騒がしくなった。おぉ……もう転入生の事を嗅ぎ付けたのか。頑張ってくれ一夏。
「さてと。さっさと脱ぎますかぁね」
「優太さん。お手伝い致しましょうか?」
「あ、大丈夫か?」
「ええ。スーツは中に着てまして?」
「ん」
何だか介護されているみたいで恥ずかしいが、エイシャに舐め回されながらされるより遥かにマシだ。なにせセシルはそんな事する娘じゃないもんな。
「……優太さん。先程のはもう大丈夫ですの?」
「ん?あぁ、大丈夫大丈夫」
脱ぎ終わるとナギナギが車椅子を押してくる。
まぁ、何と言うか……随分装飾の凝った、金ぴかなゴールデンな金銀一杯な……ごめん!
「何なのこれ……」
「相変わらずえげつないねセシリア」
「わたくしの地元から取り寄せた特注の車椅子ですわ」
「剛性無さそう……」
あぁ、因みに皆間違えているんだけど、先ず「強度」って言うのは簡単には「壊れやすさ」であって実際に壊してみないと分からないもの。で、今言った「剛性」って言うのが皆が勘違いしている「変形のしやすさ」なのだ。
俺達が気にするべきなのは壊さないと分からない強度ではなく、使うとどれだけの変形を起こすのかって言う剛性って訳だ。物理学を習えば嫌でも分かる。
強度を知りたければ壊してください。はい。
あ、あと他にも「速度(ヴェロシティ)」と「速さ(スピード)」とかね。速度はベクトル(方向)が含有するもので、速さは速度の大きさ。かなりはしょったが、車のスピードメーターを速度計と言うには、ヴェロシティメーターとかに変える必要がある。詳しくは検索で。
「そこは大丈夫ですわ。あくまで装飾は見た目で楽しませる物……この車椅子は100年続く歴史の賜物ですから、そう簡単には壊れませんわ」
「「ほぇ」」
100年の賜物なんて聞いたら値段が気になってしまう。
しかし、何かと良くしてくれるのは有り難いんだが……度が過ぎてると言うか、やりすぎなんだよなぁ。や、別にセシルが悪いわけではないんだけど、金銭感覚どうなってるんだろ……。
「何か悪いな」
「いえ、お気になさらず。わたくしがそうしたくてやってる事ですもの。勿論、ちゃんと使って頂かないと困りますわ」
「だって。曽我美君上げるよー。3、2、1」
ナギナギに抱き抱えられ、絢爛豪華な車椅子に乗せられる。
あのさ、普通にやってるけど滅茶苦茶恥ずかしいん……ん?あれ、ナギナギの腕力……いや、止めておこう。
「おっけ。ありがと。んじゃま、先にグラウンドに行かせてもらうわ」
「分かりましたわ」
「ほーい」
何故か分からないが、とても体にフィットしたこの車椅子は大変扱いやすい。小回りも効くし、軽い。
「うぉぉぉ。すっげ」
驚きながらも速度を上げ、廊下に出る。
何だ?何か一杯集まってるけど……あ、さっきの一夏とシャルル・デュノアの野次馬か。他学年も居るし、ご苦労なこった。
「あ!何か凄いの来たわよ!」
「者共、再度であえであえー!」
「あ?何だ?」
「エレクトリカルパレードもビックリだわ!誰かライト当てて!」
「わちょ!何!?」
フューチャーフォンのライトをONにして誰もが俺、ではなく車椅子に向ける。
「ひゃぁぁぁ!」
「何これ!ディスコよディスコ!」
「ぬぐぁ!眩しいぃ!」
「足りないわよ!もっとライト持ってきて!」
「ぁぁ……眼がぁ……眼がぁぁぁ!!」
◇
「……で、貴様はノコノコ遅れてやって来た訳か」
「……はい」
「馬鹿者が。これで反省しろ」
グラウンドで1人、遅れて怒られた俺は車椅子に再度乗せられ、金ぴかの付属プレート(多分飲み物とか乗せるためのやつ)を顔に日光が反射するように向けられる。
こんな時に限って眩しい晴天とは……!
「ぐぁぁぁ!金光がぁ!」
手足胴体は縛られて、顔を左右に振りながらもがくことしか出来ない。何という拷問だ……!辛すぎる!
「……セシリア、あれ何なの?」
「……わたくしも分かりませんわ」
「さて、そこの馬鹿者はほっておいて続けるぞ。2組と合同で模擬戦闘がメインだが……凰、それとオルコット。前に出ろ」
「……えぇー、わたくしですの?」
「……面倒だわ」
何かぼやきながらも整列したクラスメイトの間を抜け、織斑先生の前に2人並ぶ。
「そうぼやくな。お前らあいつらに各々良いところを見せる機会だぞ?」
「やはり、わたくしセシリア・オルコットが選ばれてこそですわね!」
「へんっ。伊達に代表候補生やってないわよ!」
「「「おお……」」」
織斑先生に何か耳打ちされて突然やる気になる2人。リンリンは分からないが、セシルはドリルの巻きで遠目でも良く分かるのだ。
あ、因みに俺は今眩しくて何も見えない。
「さぁて、セシリア。手加減無しだからね」
「鈴さんこそ、すぐにやられては困りますわよ?」
「張り切ってる所悪いが、“お前達”の相手はそう簡単には倒せんぞ?」
「わぁぁぁ!退いて下さぁぁぁい!」
「え?うわぁぁぁ!」
グラウンドに俺の尻が浮くほどの衝撃が走る。
どうやら墜落したらしいそれのパイロットは山田先生のようだ。最後に一夏の悲鳴が聞こえたが……まぁ、大丈夫だろ。
「……うぉあ!プリン!?」
「この不埒者が!」
「一夏ぁ!」
「ぎゃぁぁぁ!」
……分かる人ならどんな事されてるか思い浮かぶと思うだろうし、あまり言わない事にする。
「騒ぐな馬鹿共。あそこの馬鹿みたいになりたいのか?」
あそこの馬鹿とは俺の事だろう。
「……よし。では凰、オルコット、ISを展開して2人で山田先生の相手になれ」
「え?わたくし達2人でですか?」
「その為に呼んだんだ。早くしろ」
何やら納得のいかない様子で2人が各々のISを展開していく。一方の山田先生はどんなISか分からないけど、一夏の入学試験の時に壁に突って負けたって話だ。俺は別の人だったけど、そんな人が代表候補生2人相手に勝てるのだろうか……?
「では、はじめ!」
「行きますわよ!」
「邪魔するんじゃないわよセシリア!」
「鈴さんこそ!」
「い、行きます!」
運良く太陽に雲がかかった。俺の顔面を集中攻撃していた日光が弱くなり、空で繰り広げられる戦闘を目にすることが出来る。
「……よく見えないな」
如何せん高く飛べられては見えにくい。皆上を見ているし、ここはナノマシンを使って視力を上げてみよう。
左眼を閉じて、右眼に意識を集中する。意識を集中といっても感覚的なものだ。実際は勝手にやってくれてるような感じ。
「……はぇ。あの2人で手こずるか」
上ではビットの多用でエネルギー切れを狙われたセシルと両肩部の衝撃砲の撃ち過ぎで味方を巻き込みかねないリンリン。
ハッキリ言って勝てないな。山田先生の動きもとても突って自滅した人とは思えない。セシルやリンリンよりも上……副担任って皆こうなのか?
「……!」
「……!……!?」
途中から互いの攻撃に何かを言い合う始末。コンビネーションなんてあったものじゃないな。
と、そこでリンリンが脚を掴まれ、セシルにスイングされる。避ける事も出来ず空中激突した2人はトドメにと山田先生のアサルトライフルの集中砲火を浴びて、わたわたとした所にグレネードが爆発。青と赤黒い2機はグラウンドに墜落した。
「山田先生強っ」
「曽我美、こっちに来い」
「あ、はい!」
って、手足が縛られてちゃ行こうにも行けない。仕方無いから本気で千切るぞ。
「ふんっ!」
ブチッと縛っていた物が千切れた音がする。ふん、こんなやわいヒモなど俺には洋服のタグ紐を切るのと同じくらい簡単だぞ。
「え……曽我美君ってパワータイプなの……?」
「何だよパワータイプって……。ま、良いや。行くぞ『シンモラ』」
シンモラを展開してPICを作動。軽く宙に浮いた状態で織斑先生のもとに向かう。
「何ですか?」
「曽我美、山田先生のISを説明してみろ」
「山田先生の?」
見上げると既に空には山田先生の姿は無く、いつもの雰囲気に戻った様子で斜め後ろに浮いていた。
濃い緑色の機体だな。
「え、そ、曽我美君……そんなにジロジロ見られると恥ずかしいですよ……」
んー……一夏がさっき「プリンが!?」って叫んでた理由は分かったかも知れない。ってそんな事はどうでも良いのだ。早く説明しないと織斑先生の鉄拳がロケットしてきちまう。が……このIS何度か見たことあるんだけど名前が分からないんだよなぁ。
あ。ハイパーセンサーで分かるじゃん。
「あぁ。もしハイパーセンサーで確認しようものなら後でレポートがあると思え」
「……。んんっ。えー、山田先生のISは……」
分からん!って言えば鉄拳かレポート。ハイパーセンサーで見たら鉄拳かレポート。ならば……!
「これは……『打鉄』です。日本の第2世代型ISで、俺のシンモラも同じ様に手足の巨大化、延長化よりも人の体格に合わせて作られたので大変扱いやすいです。また、OSも柔軟なので色んなパッケージに対応出来ます。標準装備は《葵》と《焔備》です」
「えーと……どうですか織斑先生?」
「山田先生。後でこいつにレポートを書かせて下さい」
「へぁ!?」
「織斑、説明してみろ」
「……打鉄だと思ってました……」
「山田先生。追加でもう1人お願いします」
一夏、お前もか……。
「デュノア。馬鹿共の後に続かないように説明してみろ」
「はい。山田先生の使用されているISはデュノア社製第2世代型『ラファール・リヴァイヴ』です。世代最後期の機体ですが、安定した性能と高い汎用性、豊富な後付け装備が特徴の機体です。スペックそのものも第3世代型に劣らず、世界3位のシャアを獲得しています」
「「へぇ」」
「そこまでで十分だ」
「流石ですねデュノア君」
「……あ、戻ってきたかセシル。お疲れ」
「まったく……酷い目にあいましたわ」
酷い目と言うのは先刻の一方的な戦闘だろう。リンリンとのコンビネーションの悪さも然る事乍ら、山田先生の圧倒的な実力は中々驚いた。
「山田先生ー。一夏の試合の時は突って自滅したのにどうしてそんなに強いんですか?」
「えへへ。そんなに強くはないですよ」
「山田先生はこう見えて元代表候補生でな。お前達が簡単に勝てるような相手では無いぞ?」
あの織斑先生が山田先生をべた褒めしてる……。そこまで言わせるほどの操縦技術があるというのか。
「……だが、かなりのあがり症でな。練習では調子は良いのだが本番では全く駄目だ」
「そうなんです……2回目のモンドグロッソでも初戦敗退で……代表候補生から外されちゃいました」
「「「あぁ……」」」
「山ピー後でスウィーツ奢るね!」
「後で座布団持ってくね!」
誰だよまた言ってるの。
「さて、では各グループに別れて1人10分ごとに操縦練習後模擬戦闘を行う。グループリーダーは織斑、曽我美、デュノア、オルコット、ボーデヴィッヒ、凰だ。2分以内に出席番号順で別れろ。出来なければパワーアシスト無しでグラウンド5周だ」
パワーアシスト無しでグラウンド5周だなんて、俺には死ねと言っているようにしか思えない……。
だが、出席番号順と指定したのは幸いだった。お陰であまり迷うこともなく2分以内に整列完了。一夏とデュノアは盛り上がってるなぁ。
「曽我美君は手足が無いとやっぱりISも無いんだね」
「本当は専用のシステムさえ積めれば展開時に義肢をISが作ってくれるんだけどね。それをやってくれるような人も場所も中々無くてねぇ。それにもうすぐ還ってくるから」
「へぇ」
因みに眼の色は上手いことハイパーセンサーを弄くる事に成功(束さんに電話して教えてもらった)し、右眼だけハイパーセンサーとの接続をカット。色を変えて違和感が無いようにした。
「よし。じゃあ早速乗ってみようか」
◇
午前の授業は終わり、皆が楽しみ昼飯の時間となる。
一夏はデュノアと更衣室に行き、俺は車椅子で教室に戻らなければならない。早く届かないかねぇ……。
「優太さん。教室まで押しますわ」
「ん。悪いな」
セシルに押され、1組2組の女子と今日の模擬戦闘で学んだ事をお復習していきながら教室まで向かう。
「……アンタさぁ、普段腕とか付いてない時はどうしてんの?」
「接合部の事か?それなら簡単な事だよ。先ず、この接合部は千切れて無くなった皮膚の代わりに蓋になってくれているんだ。だからこれを外すと大量出血を起こして死んじゃう」
「へぇ。じゃあどうやって動いてんの?」
「主動力源は筋肉の微弱な電気で動いてる。出力を上げるときは内蔵バッテリーだね。何て名前か忘れたけど、水素電池じゃない?寿命は毎日フルパワー稼働でも半年保つ」
「出力どんくらいなの?」
「ハッキリ言って兵器。本気のパンチで大概壊せる」
「……」
何だよリンリン。仕方が無いだろ……これを作ったのは現代兵器が効かないISを作った人その本人だぞ。何を目指してISとやり合える程の手足を作ったってんだ。
「ねぇ。気になってた事なんだけど、あのエイシャさんもバッテリーなの?」
エイシャの事は既に皆知っている。
始めこそ警戒していたものの、何をしたのかすぐに皆に気に入られてしまった。今ではお姉様とか呼ばれてる時もある。
「ああ。でも俺の義肢とは作った人が完全に他人だからな。バッテリーに何を使ってるかは知らないけど、油圧式で10tトラックを蹴飛ばせる。この前もセシルのティアーズを1基壊したもんな」
「へ、へぇ……凄いんだね……」
「あいつ、あれでも作られて8年位なんだわ。何かと世話になったけど『恩なら体で返して下さい』って言うから返すつもりは毛頭無い」
「「「幼女だったぁぁぁ!」」」
「中身の年齢はな。表面とか精神的な年齢は成人以上だよ」
そうこう話しているとあっという間に教室に到着する。
良いよな女子は更衣室が教室で。まぁ、俺も教室で着替えてるんだが。
「んじゃ、待ってるわ」
「分かりましたわ」
「覗くんじゃないわよ阿呆」
「はいはいって、お前は教室違うだろ」
見ても何の得にならねぇよ……。逆にさ、そっちが一夏達の着替え盗撮してる事に関して何も思わないのかね。
「はぁ……。ん?メールだ」
大きな溜め息を吐いてフューチャーフォンを手にする。すると珍しくメールが来ていたらしく、通知が出てる。
「……お?おじさんからだ……『暇なときに電話してちょ』……何だろ」
メールボックスを閉じ、電話帳からおじさんを探して通話ボタンを押す。
『もしもしユウタか。早速だが話し相手を変わらせてもらうぞ』
「?」
良く分からず生返事をすると話し相手が変わり、マイクの部分を触ったのか、ガリガリと耳をつんざく音がする。
『……もしもし?ユー?』
「お。エリーか。久しぶりだな、どうしたよ?」
『あのね……ユーに言ってなかった事があってね』
「おう」
『私ね……ユーと同い年なの』
「……え?」
えーと……エリーは明らかに俺より年下に見えたんだけど、同い年?嘘つけぇ。どう見ても中学生以下だったぞ。
『ユウタ。エリノーラは取り敢えずそれを言いたかったらしい。また何かあれば連絡する』
「あ、はい……」
納得いかないまま通話が終わり、脳裏にエリーの姿を描く。
えー……嘘だあ。そんな訳ねぇって。
『優太さん!大変ですわ!』
「あー?何?」
『優太さんの着替えが……何者かに!』
俺の着替えが?……まさかエイシャ!?
「何だ!?どうなってるんだ!」
『女子の物にすり替えられてますわ!』
「エイシャァァァァァァァ!!」
◇
『おや?もうバレましたか』
◇
女子の着替えが落ち着き、教室へ踏み込むと俺の机の周りに女子が集っており、一目ではどうなっているか確認できない。
「ごめん退いてくれ!」
俺に気付いた皆はすぐに道を開けてくれるから有り難い。
「優太さん……これですわ」
「……こ、これは……」
どうした事だろうか。俺が無造作に畳んで置いておいた筈の制服は消え、綺麗に畳まれた制服と置き手紙が代わりに置かれていた。ただし、綺麗な制服とは言っても女子の物だが。
「くそぉ……!もう駄目だ。お仕舞いだぁ……」
「だ、大丈夫ですわ優太さん!制服は一夏さんに借りれば─」
「いや、無理だ。手紙の内容は粗方見なくても分かるから言えるが、恐らくそう言う回避方法も無理だと書いてあるだろう」
それを聞いたセシルが置き手紙を手に取り、俺の許可を得て中身を確認する。
「な、何て事を……」
「だろ?エイシャめぇ……今回ばかりはマジで怒ったぞ」
「曽我美君。居ますか?」
と、そこへ山田先生が大きめの段ボールを持って登場。
まさか……届いたのか!?
「山田先生!それは!?」
「曽我美君宛の荷物が届いてたので持ってきました。部屋に置いてこうかと思いましたが、ここに『すぐ渡すように』と書いてあったので一応持ってきました」
「おお!ありがとう山田先生!ところで、俺の制服が奪われて女子の制服が置かれてたんですが、どうすれば良いと思いますか?」
「えっと……午後は午前で使った機体の整備を学ぶんですが、学園としてはISスーツで出歩くのはちょっと止めて欲しいですかね……」
「……分かりました。取り敢えずその荷物貰います」
「はい、どうぞ」
大きさのわりにはそこまで重たくない段ボールを片手で受け取り、己の膝の上に置く。
発送元はロシアとしか書いてないが、届けてくれたのがおじさんだと言うのは宛名の字の癖で充分分かる。
中身は玩具に丸がしてあるが、あまり気にすると面倒だ。
「何ですの?」
「へっへ。来たぞぉ……俺の愛しい2肢よ!」
ガムテープを勢い良く剥がし、乱暴に衝撃吸収材を投げ捨てていよいよ中身とご対面だ。
「おぉ……」
「おー。曽我美君の腕だ」
「これは脚ですわね。あら?皮が付いてませんわよ」
「皮?あぁ、生体パーツは生身と同じだから血液を送らないといけないんだけど、事故の時に損傷が激しくてもう剥がしちゃった」
まぁ、本当はあの作戦で俺の体全体の血液が足りなくなったから、義脚に回していた分をカットしてたんだけど、そしたら壊死したから破棄したんだけどな。
「よし。脚持ってて」
「持たせてー。お、軽いね」
「シャシー(骨格)は作った本人が『日緋色金』って名前付けてた。何の金属か分かんないけど、むっちゃ硬い癖にしなるし軽いし磁気に影響されないチート金属っぽい。俺としてはチタン合金だと思ってたけど……」
「……日緋色金って……」
「まぁ、本当は格好いいからってこの名前にしたらしいけどな」
「だ、だよね。そんな金属有るわけ無いもんね!」
「もう常時、所謂中二病の患者でさ。いや、もっと凄いか……」
そう言えばISに使ってる合金って何なんだろ?『ブルー・ティアーズ』のはBTなんたらサード……グリッド装甲Ⅱとか言ってたけど良く分かんね。
あ、そう言えばシンモラはナノなんとかバイタルなんとかアンサーモ装甲とか言ってたな。取り敢えず熱に強いらしい。
そんな事を思いながら自然と義腕を装着していた事に気付く。
どうしても義腕を思い通りに動かすには神経との接続が必要な為、一瞬電気の流れたような痛みを感じ、思わず声が出てしまう。
「つっ……あー痛痛……」
「大丈夫ですの?」
「神経繋ぐかんねぇ……。あー、落ち着く」
装着した腕を試しに動かしてみる。反応速度は上々。
次は脚を着けないとな。
「はぁ。曽我美君の義肢って装甲が付いてるんですね」
「そうなんですよ山田先生。上から生体パーツを着けても違和感が無いようになってるんです」
「ん?それは高分子人工筋肉ですね。電気式ですか……応答までのラグはどれくらいですか?」
「生身とのラグはコンマ0002秒で殆ど変わりません。先生こういうの詳しいんですか?」
「代表候補生をやってた時に色々詰め込まれましたねー」
「「「へぇ」」」
代表候補生も大変だな。それなら国家代表なんてどれだけの知識と経験を兼ね備えた実力者なのやら……。
「あ、悪いなセシル。脚頂戴」
「はい」
2本腕があればもう怖くない。
すぐに接続を終わらせアジャスト。靴を片っ方履いてないせいでやや違和感があるが、履けば完璧だ。
「あー、立てるって最高だな。これでエイシャの役目は終わりだ。ふふ、ふははは!最高だ!」
ISスーツのせいで義肢は剥き出しだが、制服を着るよりマシ。手首を回し、5指を動かし、幾度かの屈伸運動を軽く済ませ、感覚を呼び戻す。
「よぉし。待たせたなセシル。リンリンとルディと篠ノ之さんを集めて一夏待つか」
と、伸びをして車椅子をどうするかとセシルに聞いているとどこからか視線を感じる。
遺伝子強化試験体故の感覚か、視線と言うのは良く感じ取れる。元々視線を感じるって言うのは脳が太古の昔からの遺伝か、獲物として狙われる感覚を覚えているからとか誤作動とか言われている。
どのみち、解明は完全になされていない。
「……ラウラ・ボーデヴィッヒ……」
視線の元は既に制服に着替えたラウラ・ボーデヴィッヒだった。まぁ、あんなに尖ったやつでもちゃんとルールには従うのね。ってかいつまで見てるんだよ。目ぇ合ったままだぞ。
「……何だ?ラウラ・ボーデヴィッヒ」
「……貴様、何者だ?」
何者ときたか……。こいつ、どこまで知っているんだ?全てか?それともハッタリか?
そもそもラウラ・ボーデヴィッヒ、こいつは何者だ?現役ロシア軍人だとしてもこんな体格で、ISに乗れるからと言う理由だけで軍に居るわけでもあるまい……。
何だ?何がこいつを軍に居させるだけの理由になっている?
「ジャパニーズハートのロシア孤児だよ。事故で腕脚が無い、な。 Wie alt sind Sie? 」
「ふん……Ich bin 15」
15歳で現役軍人。そう言えばISを持ってるドイツの軍はどこだ?空軍に1機、陸軍に2機、海軍に2機で連邦軍に2機だったな。後の3機はどこだ?
「Ist der Name Ihres IS?」
「……『Schwarzer Regen』」
「Schwarzer……」
シュヴァルツェア・レーゲン?
んー、どっかで聞いたような名前だな。んー……んー……?
「あの、優太さん?先程からドイツ語で会話してますの?」
「あぁ。ちょっと聞きたいことがあってな。もう充分だ」
「ふん。私ももう聞くことはない」
「さいですか」
ラウラ・ボーデヴィッヒが聞きたかったことは全く分からないが、どうやら俺との会話で何かを得たのか教室から出ていく。До свидания.
「……セシル。シュヴァルツェア・レーゲンってISはどこの所属だ?」
◇
「あの男……」
廊下を歩くラウラは人気の無い所へと向かいながら先程の会話を思い出していた。
(会話の最中に私の出方を伺っていたな)
伺っていた。それは確かにそうであるが、流石に優太でもあの教室でラウラも物理的な事は仕掛けてこないだろうとは分かっていた。
(私がナイフを握った事も感知していた……やはりあの男は─)
会話の最中、ラウラも探りとして何度か優太からの死角で隠したナイフを握り直したりする動作を不自然なくやっていた。
普通に見ればまず分からない動きだったが、その全てに優太は眉をひそめたり、瞬きを止めたりと何らかのアクションを起こしていた。
握り直す事など、屈指筋等の筋肉が僅かに動くだけ。しかも制服に隠れているし死角で見えない筈なそれを感知していたという事実はラウラを驚かせると共に1つの確信に導いた。
(実際に見て確信した。やはりあの男は私と同じ……遺伝子強化試験体……!)
◇
「成る程……そこがあいつの所属か。『シュヴァルツェ・ハーゼ』ドイツ最強の部隊……」
それをセシリアから聞いて優太は確信した。
シュヴァルツェ・ハーゼはドイツ最強の部隊でありながら、平均年齢が最も低い部隊。その部隊の隊員は皆女性で擬似ハイパーセンサーとも言えるナノマシン『ヴォーダン・オージェ』を移植し、反射、脳への情報伝達を高速化させている。
(黒ウサギ隊自体はおじさんから聞いた事があった。ヴォーダン・オージェの不適合でオッド・アイになったって奴の話も……)
ヴォーダン・オージェの事自体はレベルの高い機密事項だ。そしてそれを知ることの出来るミハイルはただ1人の不適合者の事を内通者から聞いて、内緒にすると言いながらも、酔った勢いで優太に話してしまっていたのだ。
その不適合者が、優太と“同じであって違う”遺伝子強化試験体であると言うことも。
(間違いない。ラウラ・ボーデヴィッヒ……あいつは同胞、遺伝子強化試験体だ。)
それを確信したのは偶然にもラウラと同時だった。