IS(インフィニット・ストラトス) 2人目の男性IS操縦者 作:スーパープルコギ
─私も、あの人のように……!─
「えっへえ、マジで?」
「マジよマジ!そしたら『ブルー・ティアーズ』ったら絶対防御を発動させて一瞬でエネルギー切れ起こしちゃって!」
「だははは!ISでも太刀打ちできない料理って何だよ」
血祭りの数分前、バカ笑いしながら話していたシンモラと優太はセシリアがサンドウィッチを食べた瞬間に絶対防御のエネルギーを使い果たしたブルー・ティアーズの事でふとあることには気付いた。
「あ、思ったんだけどさ。俺今寝てるわけでしょ?起きたらもう話せないのか……?」
「それに関しては何とも言えないわ。今優太の意識はどういう理屈か分からないけど、限り無く私(シンモラ)と同化してるの。これが凄いのか恐ろしい事なのか……」
「どっちでも大丈夫だろ」
「……いや、どっちでも駄目よ。これは機械融合と言える事……分かるでしょ?」
「……あぁ。しょうがない、そろそろ起きるか」
優太はシンモラが言わずとしている事は既に分かってる。これ以上、意識を“こちら側”に留めておくことが良くないと言うことも。
機械融合……それはISのみならず機械開発・設計研究に携わる者なら有名な言葉、かつて人が起こした大きな過ちだ。
「じゃあね。またいつかこうしてお話ししましょう」
「おう。またなシンモラ」
少しずつ白くなっていく世界に呑まれ、段々と足が地面から離れて浮いているような感覚が襲ってくる。
「あ、シンモラ!お前、今度の学年別トーナメントはどう思ってるんだ?」
「どうって……ふっ……勿論負けたくないわ。全力でサポートする。因みにブルー・ティアーズも『甲龍』もやる気満々みたいよ」
「おっけ」
自分の声も遠退いていく。そして世界が真っ白になった時、優太の意識が途絶えた。
◇
「で、起きたら血祭りになっていたわけだが……」
「仕方がないじゃない……」
「そうか。この写真は何だセシリア」
俯くセシルにエイシャから渡された写真を見せる。その写真には俺が写っていた。ただし、血祭りにあげられて頭だけが天井に突き刺さってトランクス一丁でぶら下がっている姿だが。
「それは……優太さんが襲ってきましたので……」
「ほぉ……そうか。リン、仕方がないとは何だ?俺が直接襲ったのはセシリアだけだと聞いたが?」
「そうだけど……」
「お前は執拗に俺を撃ったようだな。ん?」
正直、今回は堪忍袋の緒が切れた。
トランクス一丁で仁王立ち、セシルとリンリンに正座させている俺は義肢を2人に良く見せる。
「見ろよ。折角ピカピカで帰って来た義肢が少し壊れたぞ。お前はそんなに俺を撃ちたかったか?」
「そうじゃないけど……」
『優太様。鈴様は『今ぁ!』と叫びながら撃ってました』
「分かった。もう良い」
エイシャを下げ、動きが悪くなった義肢を動かしてみる。
これは酷いな……。あの束さんが作ったこれをひしゃげて、あろうことか動きも悪くなるまでダメージを与えるとは……少し悪ふざけが過ぎるんじゃないかリンリン。
「今……ねぇ。セシリアはカウンターだけか?」
「え……ええ。その……部分展開で……」
「そうか」
暫し目を閉じて考えてみる。
セシルは暴走していた俺が襲ってしまったからカウンターアッパーは仕方がない。これは許せる。だが、リンリンは何だ?人を盾にして、あまつさえ必要以上の攻撃。
こいつぁ許せないな。人にはやって良い事と悪い事ぐらい分かって貰いたいものだ。
「セシル。こんなにも所で座らせて悪かったな。もう良いよ」
「い、良いんですの……?」
「セシルは仕方がない。正当防衛だしな。あと、今度はちゃんと味見して作ってくれ」
「はいっ」
セシルは慣れない正座をさせてしまったが為、脚が痺れてしまったようだ。
フラフラともたつきながらも立ち上がると振り返る事無く、トボトボと自室へ帰っていく。
ごめんなセシル……キツい事を言ったがそれは皆の為なんだ。第2第3の俺が出現することは避けなければならない。
「……」
「で、リン。この破壊やら無断の武器使用やらの反省をしに行くか」
「……悪かったわよ……」
「ああん!?情状酌量の余地など無いわ!先ず謝るなら織斑先生にしてくれ!」
義手でリンリンの頭を鷲掴み、立ち上がらせる事もしないでズルズルと引き摺っていく。
必死に義手から離れようともがくリンリンだが、生憎生身でどうにか出来るものでは無い。無論、離すつもりもない。今の俺は非常にオコなのだ。
「いったぁ!イッテテ!痛いわよ!」
「……曽我美君がセシリアと鈴をあだ名で呼ばなかった……あれって怒ってるのかな……」
「流石に怒るでしょ」
「『ああん!?情状酌量の余地など無いわ!』って怒鳴ってたもんね……珍しい」
「噂によると、曽我美君熊を素手で倒したとか」
「嘘でしょ?あ、でも義肢で何とか……」
「仮に出来たとしたら織斑先生レベルじゃない?」
残念だが野次馬諸君。生憎俺の全力でも織斑先生レベルには届かないのだ。
◇
缶ビールをあおっていた織斑先生の元へリンリンを届けた俺は何故かは知らないがリンリンと一緒に鉄拳制裁を喰らう羽目となった。
「貴様らは静かに出来ないのか」と頭蓋に響く1発は鑪を踏まざるを得なかった。ちょっと前の日本だったら生徒に手をあげる教師はかなり問題になってた筈だよな。まぁ、この学園では『どの国家にも属さない』訳なのでどの国の法律も関係無いのだが……「ここでは私がルールだ」って織斑先生言ってたもんな。
「はぁ……いい加減制服返してもらわないと」
「きゃあっ。そ、曽我美君……は、裸で何をしてるんですか!」
「山田先生。安心してください、穿いてますよ」
「あ、本当ですねー。じゃありません!しかもボロボロでどうしたんですか……」
帰り道中偶然会った山田先生はまだ仕事が残っているのだろうか、資料やらファイルを抱えていた。
そう言えば、山田先生は元代表候補生だったよな。
「山田先生。今お時間大丈夫ですか?」
「え、ええっ!?い、いい今ですか?」
「?何を慌ててるんですか?時間が無いんでしたら大丈夫ですけど……」
「えだっ、大丈夫ですよっ。時間大丈夫ですっ」
何故か顔を赤らめているが、分かっている。またいつもの歪んだ妄想をしてしまったのだろう。
何を考えているか分からないが、どうしてそう……はぁ、良いや。
「少し聞きたい事があって。良いですか?」
「聞きたい事?私に答えられる内容でしたら……」
「すぐ終わります。ISと操縦者が会話するのは可能な事なんですか?」
「ISと会話?そうですねぇ……確かに意識のようなものがあるのは確か何ですが、今まで会話したことがあるって人は聞いたことありませんね。ただ、ヴァルキリーの中には『ISが語りかけてきたような気がする』って言ってた人も居ましたねー」
「成る程……結局喋れないって事ですね」
「えぇ。実際誰もが研究しましたが、結果は得られず終い」
そうかぁ……じゃああれは何だったんだろうか。正直、今でもあれは夢だったのではないかと思ってる。何せ、セシルの手作り兵器食ったしな。
「そうですか。ありがとうございます」
「あ、はい。どういたしまして……服着てくださいね」
「はいー」
◇
翌日日曜の朝は最悪だった。
起きると全身が痛み、義肢は動かすとたまに摩擦音がする。吐き気もするし目眩と気怠さが半端じゃあない。
エイシャは最近セシルの所で色々教えているらしく、俺の部屋に突撃してくる事が殆ど無くなった。いやぁ、それは助かるんだがマジで必要な時に居ないのは辛い。これでも頼りにしてるんだからな……。
「うっく……つぅ」
しかし、結構撃たれたらしいがこの程度で済むとは思わなんだ。もしかしてシンモラのバリアか?
「流石に歩けない訳でも無いな……」
歩けば意外と痛くないものだ。
「今日はセシルに頼んでブルー・ティアーズにでも乗らして貰おうかな……もしあれが本当なら、今後のビット制御に良い結果が出そうだし」
ISスーツに着替え、真っ白な制服を上から着る。靴下は義足で履く意味が無いから片っ方だけ。
「一夏も特訓するのか聞くか」
前に聞いたら日曜日はのんびりしてたいって言ってたから多分行かないんだろうけど、聞くだけ聞いてみよう。
一夏とシャルルの部屋とはそんなに離れていない。5つ部屋を越えればすぐだ。ほら、一夏の部屋の前は昨日の修理で大変だ。
「どうもー」
「ちーっす。まぁた派手にやるねお前ら」
一見黒ギャルを思わせる作業員の女性。直須木麗(なおすき れい)。歳は20何とかで、正直就職活動をちゃんとやったのか気になる。
一夏と俺の周りで破壊活動がおこなわれるからよく会う。まぁ、見た目はチャラいが話すととても良い人なんだこれが。最初の頃は悩み相談したなぁ……。
最近は俺がシャルルに感じた違和感からある想定も話したりもしたな。口が堅いから大丈夫。
「しっかし、よく死なねぇな。何のギャグキャラだよ」
「俺にもよく分かんないわ。生きてることに何より感謝だな」
「ははっ。命1つ儲けたな。今日も特訓か?」
「ん。一夏もやるのか聞きに来たん」
「熱心だねぇ……頑張れよ若者」
「麗さんも若いじゃん」
「止せよー」
とまぁ、こんな感じでとても話すと楽しいんだ。しかも補修作業員でありながら昔っから山田先生と知り合いでISの知識も豊富。ちょくちょく教えてくれるから有り難い。
「一夏さんやーい。ご在宅かねぇ?」
『優太か?ち、ちょっと待ってくれ』
「……シャルルも居るんかいな?」
『う、うんっ。ちょっと待って』
なんだか焦っているような声音だな。俺は別に心理学とかを学んだ訳ではないけど、今の感じは確実に2人とも焦っているようだった。
これはあれか?遂にシャルルが隠していた事が一夏にバレたか、それともただ単に着替えてなかったのか。まぁ、どのみちこのドアを許可なしに開けるのはいけない事だから何もしないけど。
「……まだぁ?」
『おっけ。今開ける』
ドアが開くと一夏とシャルルが苦笑いで顔を覗かせていた。
「よ、よぉ優太。どうかしたのか?」
「ん?いやな、これから特訓行くんだけど一夏は行かないかなと思ってな」
「あー。今日は休みたいな。シャル……ルはどうする?」
「えわ、ろ……ぼ、僕も休もうかなぁ」
「……はぁ。おい優太。私は離れるからさ」
「アイアイマム。一夏、ちょっと中で話すか」
「え?ちょ、何でだ?」
麗さんも流石に一夏とシャルルが何か隠そうとしていることに気付いたようで、作業場から離れて行く。部屋は防音がしっかりしてるから離れなくても充分なんだけど、気遣いって言うのかな?有り難い。
「ほらほら。ちょっとシャルルの事に関してお話をな」
そう言うと抵抗していた2人が顔を見合わせ、観念したように部屋へと入れてくれる。
あー、確実に前者だな。一夏がシャルルの顔見たら頬を赤らめてるし、シャルルも同様だ。多分どっちかが着替えかシャワーに突ったんだろ。
「よいしょ。んじゃま、早速なんだけどシャルル。これからしつれいな事を言うかも知れないが許してくれ」
「……何かな」
「……女だろ」
「いやぁ、はは。な何の事なかなと」
「シャルル噛んでるよっ」
「おいぃ。いつもの貴公子振りはどこ行ったんだよ……」
図星過ぎた。
「まぁ、それでだ。一夏はシャルルの生着替えを見てしまったと」
「き、着替えじゃねぇよ!」
「いや、『じゃねぇよ』って要するに別のって意味……」
「一夏ぁ……」
お互い様って感じだな。
テーブルに残った食堂のトレーや食器も、多分部屋で食べたからだろうな。動揺はそんなにすぐ隠せる物じゃない。
「……はぁ……いつから分かってたの?」
「別に。最初から違和感を感じてた。確信を持てたのはついさっきだ」
「……完璧だと思ってたのになぁ……」
「いやいや。そうそう分かるものじゃないぜ。俺は違和感を感じてただけで普通に男だと思ってたぞ。世の中にな男の娘って亜種も居るしな」
「それってこの前女装した優太が当てはま……」
「止めい!」
そう言えばあの女装した姿は大多数にバレなかったのにも関わらず、偶々偶然すれ違った黛薫子先輩にはバレて激写されてしまったのだ。
暴走状態とセシルの人外料理の記事の次に校内に貼り出されていたんだが、これがまた酷くてな。似合ってるだの薄い本のネタにピッタリだの……食堂に行くのすら苦しいのだ。
「兎に角!どうしてこうなってしまったのか、聞かせて欲しい」
「実はね……」
シャルルは淡々とした口調で話始めた。
自分は愛人の子供で、母が亡くなった時に引き取られ、IS適正が良かったから非公式でデュノア社のテストパイロットになり、第2世代型から開発が進まなくて経営不振に陥ったデュノア社の苦渋の策として、シャルルを男だと偽り学園に入学させ、本物の男である俺達に接触し、機体のデータ等を取ってくるように言われたらしい。
国のお偉いさんはシャルルが男ではないと分かっているのだろう。だからこそ、シャルルの存在が未だ世間に知られていないのだ。いや、もしかしたらお偉いさんの一部かも知れない。まぁ、そこはおじさん達と連絡を取ってみよう。
「成る程な。バレた事がバレたらどうなる?」
「さぁね……良くて牢屋行きかな。でもね、一夏が学園に居る間は絶対大丈夫だって」
「ヒュー。やるじゃん一夏。カックイイ」
「や、止めろよ……」
何で学園に居る間は大丈夫かと言うと、この学園はどの国の力も及ばない場所だからだ。
因みに俺はそこら辺覚えてないから大まかにしか分からない。取り敢えず学園内ならどこの国でもないってのは分かるけどね。
「騙したくてやってた訳じゃ無いんだ……ごめん」
「気にすんなよ。シャルルが女だろうが男だろうがその他だろうが友達を見捨てるような事はしないさ」
「その他って……あ、優太にも言っておくね。僕はシャルルじゃないんだ」
「と言うと?」
「本当の名前はね、シャルロットって言うんだ」
「シャルロット……そうか。んじゃあシャルルでおっけな」
シャルって呼ぼうかと思ったが、何となくシャルルの方が呼びやすいしそっちで決定。
「と、言う事で。一夏もシャルルも今日はノー特訓で?」
「そうだなぁ。ゴロゴロしたい」
「僕も日曜日はゆっくりしてたいな」
「ん。あぁ、そうそう一夏。今度の学年別トーナメント、パートナー早く決めないとランダムで合わされるぞ」
「それに関してはシャルと組むつもりなんだ」
「え?そ、そうなの一夏?」
「おう。だってさ、他の人に女だってバレるかも知れないからな」
「あー確かにな。くくっ、よぉーし一夏。たまには本気で戦り合おうぜ。負けた方は女装で1日授業な」
「は?女装は優太が有利だろ」
「じゃかぁしい!内容変更で鼻でスパゲッティだ!」
そんなの出来る訳ないだろと一夏が異議を申し立てるがそんなのは知ったこっちゃない。
人間、やれば大体の事は出来るものなのだ。
「じゃあ一夏も罰ゲームの意見出して良いよ」
「駅前のデザートを奢り」
「また地味に懐冷ますの来たな……じゃあそっちにするか」
良く良く考えれば一夏も最近メキメキと実力上げてるし、シャルルとの相性が良い。正直この2人との勝負となると例え一夏を倒せたとしてもシャルルが強いから勝てる自信が無い。
「優太は誰と組むの?セシリアが組みたそうにしてたけど」
「俺もセシルと組もうか迷ったけど、今回はランダムに任せてみようと思ってな。俺がセシルと組んで勝ち進んだとしても俺の実力はセシルより下だし、周りからは便乗に思われちゃうかもしれないし」
「そう?僕は優太の実力ならそんな事は無いと思うけど」
「俺も優太は充分強いと思うぜ」
「有り難いねぇ。あ、やべっ、結構良い時間だな……セシル待ってるかも知れないから行くな。バレないように気を付けろよ」
30分は話していたのか、腕時計を見ると中々集合時間に迫っていた。折角の日曜日なのに、特訓の相手を快く引き受けてくれたセシルを待たせるわけにはいかない。
俺はやや駆け足で第2アリーナに急いだ。
◇
第2アリーナの出入り口には既にセシルと何故かエイシャが待っていた。
「ごめん!遅れたか……」
『いえ、集合時間10分前です優太様』
「わたくし達も今さっき来たところですわ」
それを言われる立場となると中々申し訳なく思ってくるな……。
と、ここで俺が異常に気付く。エイシャがいつもより遥かにスカート丈が短いメイド服。ミニスカートってやつだ。だがエイシャだ。どうせ下らない理由でやってるからどうでもいい。
問題なのは隣のセシルの制服がいつもと遥かに違っていた事だ。
ドレス風だった制服はどこへやら。エイシャと同じくらい短くなったスカートと膝上までの黒いソックス、上は俺達男子の制服のそれ……
「……おい、エイシャ。セシルに何吹き込んだ……」
『何も。ただセシリア様に足りない物を補完しただけです』
「やってんじゃん!」
「あの……優太さん……やっぱりこれは変ですわよね」
「変と言うよりヤバいですはい」
セシルの格好は良く良く見てみればスカートなんかでは無かった。
やや大きめの男子制服の上着1枚で、ベルトから下の余った裾が申し訳程度のスカートの代わりを果たしていたのだ。肩幅が当然違う為、かなりブカッとした印象。
「ん?もしかして俺のか?」
「はいっ。たまたま優太さんのをエイシャさんが持っていらしたので」
「そうか……ここまでその格好で来たのか?」
「えぇ」
何だか疲れたなぁ……もう良いや。取り敢えず特訓しよ。特訓。
正直セシルなら別に制服盗られようがちゃんと返してくれそうだし気にしない。もー良いです。
「……取り敢えず特訓しようか」
『何故セシリア様とだけなんですか?』
「今回はビットにちょっと注目しようと思ってな。セシル、悪いけどブルー・ティアーズを貸してくれないか?」
「はぁ……別に構いませんけど……」
意図が掴めない、とセシルがブルー・ティアーズの待機状態であるイヤーカフスを取る。
ISは大体名前を体現するんだよな。ブルー・ティアーズも名の通り、鮮やかな青。綺麗だな。
ブルー・ティアーズを受け取った俺は着替える為1度別れる。
適当に更衣室に入って一番出入り口に近いロッカーに着替えを詰め込む。
「……カフスって痛いのかな……」
気になって自分の左耳に付けてみる。
思ったほど痛くはない。ただ初めてのカフスは違和感が気になって仕方がなかった。
「あれが夢じゃなかったら、ブルー・ティアーズに乗れる筈だけど……」
ふと思い出す、未だに信じられないISシンモラとの会話。
他のISも喋れると言うならブルー・ティアーズともその内顔合わせ出来るのだろうか。俺のイメージだと甲冑着てそうなんだよね。
「なぁ、シンモラ。どうなの?」
問うが返事が帰ってくる訳でもない。
ただ無機質にアンクレットのエッジが細く光を反射しているだけだ。
「だよな。よし、行くか」
気を取り直し、更衣室からアリーナグラウンドに走る。
義脚がキシキシと軋み、壊れるわけではないにしろ左脚でやや庇いがちな走り方になってしまう。
「優太さん。やっぱり脚が……」
『重心が左に24.557%寄っています』
「別に痛いとかそういうんじゃないけど、何となくこうなっちゃうんだよね。まぁ、それは置いといて……セシル、シンモラ持ってて」
「あ、はい。分かりましたわ」
シンモラをセシルに手渡し、軽く準備体操をする。
ISとはいえ、操るのが人間である以上パフォーマンスはストレッチをするだけで変わるのだ。体力もちゃんと無いとバテてしまって戦闘に集中出来ないなんて事もある。
「……っしと。さぁて、行きまっせ」
最後に首を回しながら軽くジャンプ。やや怪我の痛みが気になるが、無視して深呼吸。
「……行くぞ、ブルー・ティアーズ!」
腰に手を当て、名を叫ぶ。
専用機とは確かにその操縦者専用のISの事だが、だからと言って他の誰もが使えない訳でもない。
あくまで『その操縦者に合わせた設定になっており』、『一次移行(ファーストシフト)を終えた機体』が専用機と呼ばれるのだ。
因みにISが嫌がると展開出来ないし乗れない。
もし乗れたなら俺達が機体に合わせないといけない訳だ。
と、そうこうしている内にブルー・ティアーズの展開が終わる。
「おお!」
鮮やかな青。背のフィン・アーマーが特長なそれは、見事に完全展開していた。
ただ、胸の装甲。セシルなら下乳を支える形になっているそれが、ややキツい。やっぱり体格の差がここで出てくるか……練習機ならその都度合わせてくれるんだけどなぁ。
「手長いな。どうセシル?」
「素晴らしいですわ。まさか優太さんがブルー・ティアーズに乗るなんて思いも……あ、何か分からない所はありませんの?」
「大体ブルー・ティアーズが教えてくれる。ビットのブルー・ティアーズ……は長いから、《ビッティアーズ》行くぞ!」
略してもブルー・ティアーズが反応してくれた。
と、フィン・アーマーから飛び立ったビットのティアーズ……ビッティアーズが4基、変な軌道でそこら辺を漂うと主の元へとフラフラしながら帰ってくる。
「成る程な……結構難しいな」
「当然ですわ。ビット兵器にはIS適性の他にセンスが要りますのよ」
「確かにこれで動かしながら撃つ逃げるはキツいかもな……よし!タァァァゲットォォォ!」
腹から声を出す。すると、アリーナの各所にランダムで円い的が次々と現れる。
「んんっ。さぁ、踊りますわよブルー・ティアーズ!」
「わたくし!?」
『優太様の特技です。大変声真似が上手いんですよ』
仰天するセシルを尻目に一気に高度を上げる。
流石は機動性にも力を入れた機体だ。最高速度まで到達するのが早いな。
─ターゲット確認。数25。
ブルー・ティアーズがターゲット数を表示したところで主兵装の《スターライトmkⅡ》を展開。ハイパーセンサーを切り換えて追走するビッティアーズを四方に向ける。
「行くぞ!」
地面に向かって急降下。その時にはスターライトで48m先の的を撃ち抜いている。1個目。
そのまま急降下していき、30mの的が4個捉えられたら停止。ビッティアーズに意識を集中し、1基1的で射撃。意外にも全て的のど真ん中を抜いていた。5個。
「ん?制御出来てる」
ブルー・ティアーズは特に何も俺に合わせていない。何にでも適応力が高いのが遺伝子強化試験体の強みだ。
それはさておき、PICを解除して何の推力を無しに自由落下。
的6個確認。各々距離がバラバラ……ビッティアーズを精密操作しながらスターライトでの射撃は難しそうだ。
「ふぅ」
頭が下になった垂直落下で的の位置を見て落下速度と角度、距離からビッティアーズのベストな角度をハイパーセンサーで算出。
俺の周りに4基従え、スターライトを構える。……撃つ。
スターライトとビッティアーズから同時に発射されたレーザーが狙った的に全て命中。その内、スターライトは丁度的が重なっていたから2枚抜き。11個。
─地上まで残り177.309m。
目まぐるしく動くメートル数値。一瞬それを目で見た俺は再び的の位置を確認する。もう地上まで殆ど無い。セシルとエイシャが肉眼でよく見える。
─残り149.954m。
150mを切った所でビッティアーズを先行させる。
残る的は14個。全て地上に着く前に抜く!
「Урааааа!!」
裂帛の気合。既に全ての的の位置は把握した。先行させたビッティアーズで素早く空を裂くように操り、確実に撃ち抜いていく。
同時に行うのは縦横無地に駆け回るビッティアーズの届かない位置の的撃ち。
アリーナに青いレーザーが幾つも瞬き、線を引き、踊る。
「ラスト!」
残り1つとなった的は地面ギリギリの位置。自由落下のまま的を己の目で捉え、スターライトを量子化格納。地面とも僅か27mとなった所でショートブレード《インターセプター》を展開。スラスターで上体を起こし、逆手持ちのままでその1つを斬り割いた。
着地は失敗して地面を少し抉ったが、的は全て破壊した。完璧だろう。
─ターゲット確認。残り4。
「ありゃ。どれだよ……」
見上げると、確かに数個まだ宙に浮いていた。最後の先行させた時に抜いたと思ったのはどうやら勘違いだったようだ。
「凄いですわ!どうしてそこまで出来ますの!?」
「割りと制御出来たぞ。感覚的には……自転車漕ぎながら右手でメール打って、尚且つ左手で物理の計算解きながら幾つもカーブを曲がってる感じかな。いや、ちょっと簡単か?」
「……そんなの無理ですわ」
「まぁ、そうだろうな。普通じゃこんなマルチタスクは無理だ。説明が何とも難しいから録画したハイパーセンサーの映像でも観ておいて」
「何だかわたくしよりもブルー・ティアーズが輝いて見えましたわ……」
「はは、落ち込むなよセシル。たまたまだよ」
『優太様。眼の色が出てますが』
「セシルは知ってるから大丈夫だ。よし!セシル、シンモラをくれ」
ブルー・ティアーズを待機状態に戻し、セシルに渡す。
「あ、シンモラ乗ってみる?」
「大丈夫ですわ……所で、どうして急にブルー・ティアーズに乗ろうと?」
「今度の学年別トーナメント、そこで一夏とシャルルを相手にするにはビットで上手く牽制しようと思ってな。オートよりマニュアルが良いと思ったんだ」
「それでブルー・ティアーズに?成る程……これが優太さんの力になれるとわたくしも幸いですわ。タッグを組めないのは悔しいですけれど、いつでも応援してますわ」
「あぁ。やってやるぜ」
◇
6月。遂に来た学年別トーナメント。
先月は俺の暴走やラウラの襲撃、シャルルの真実とシンモラとの会話。更には何故かやたらと優勝を目指す皆にパートナーを申し込まれ断り続けるのが大変だった。
「いよいよだな一夏。シャルルとのコンビネーションはどうよ?」
「バッチリだ。負けねーからな優太」
「2人とも対戦カードが出たよ」
「お、来たか。さぁて、俺は誰─」
更衣室のモニターで対戦カードを確認。それを見た瞬間、思わず声を失った。
「これは……」
「ラウラ・ボーデヴィッヒさんが、優太とタッグ……」
Aブロック第1回戦は一夏&シャルル対俺&ラウラ・ボーデヴィッヒ。
一夏が気に食わないラウラ・ボーデヴィッヒとラウラ・ボーデヴィッヒが気に食わない一夏。俺の秘密を知っていて恐らく俺を排除したいであろうし俺はラウラ・ボーデヴィッヒにあまり興味は無い。だけど……
(滅茶苦茶面倒な事になるぞ……!間違いない!)
(´・ω・`)
◇
「よぉ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。宜しくな」
対戦開始の前に各々ピットに向かい、準備と作戦会議の為に話し合おうとする時間が設けられた。
一夏とシャルルは最終チェックに。俺はラウラ・ボーデヴィッヒと顔合わせと、出来たら作戦会議をしたいと思っていたんだが。
「馴れ馴れしくするな。私は貴様を数に加えるつもりはない。精々私の足を引っ張るなよ。その時は試合なんか関係なく貴様と織斑一夏を殺す」
「……うひぃ。いきなりドぎつ……な、仲良くしようよ?」
「……」
「はぁ……一夏ぁ、俺もう折れそう」
完全に無視をかまされてしまって、流石の俺も気まずい。兎に角、こんな調子では一夏に勝つどころかマトモに戦う事すら怪しい。後ろからズドンされてもおかしくない雰囲気なのだ。
『只今より、学年別トーナメントAブロック第1回戦を開始致します。選手の方はISに搭乗し、速やかにアリーナグラウンド中央に集まって下さい。繰り返します。只今より─』
「ほらっ、呼ばれたし行こうぜ」
「黙れ」
「そんなに怒るなよ……同じ遺伝子強化試験体じゃねぇか……」
「貴様と同じにするな。去ね」
「何でそんな言い方知ってるかな……」
だが少し安心した。てっきり話し掛けたらドスでも突き出されるんじゃないかと内心ヒヤヒヤしていたが……かなり強めに弾かれてるだけっぽいし、何とか会話が出来なくも無さそうだ。
「曽我美優太。織斑一夏の次は貴様だ」
「……勘弁してくれ……」
何だかんだ並んで歩くのは指摘してこない。ただ、突き刺さる雰囲気が辛い……かと言って1人で先に行きたくないし遅れたくもない。
そんな状況に堪え、漸くアリーナグラウンドに出た。天気は快晴。アリーナの客席には見知った顔から知らない生徒。更には色んな国から来たのか、企業や政府のお偉いさん方が多く見受けられた。
そう言えばそんな事誰か言ってたな。
『両タッグ、ISに搭乗し規定位置へ』
アナウンスがかかり、各々がISを展開していく。
前のシャルルのISは『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』。練習機にもある『ラファール・リヴァイヴ』のシャルル専用カスタム機だ。見た目はオレンジ色で普通のリヴァイヴよりもシールドの数が1つ少ないく、ややスマートに。
なんでも、武器が大量に使えるらしく、どんな距離でも戦えるらしい。
隣のラウラ・ボーデヴィッヒも無言で『シュヴァルツェア・レーゲン』を展開し、さっさと歩いていく。いざ近くで見ると黒いボディで重厚な感じが、《ブリッツ》の迫力がより一層強まる。
「が、頑張ろうぜラウラ・ボー……」
完全無視だ。まるで空気にでもなった気分だ。
「1回戦から当たるとは。待つ手間が省けた」
「それは俺も同じだ。さっさと始めようぜ」
ラウラ・ボーデヴィッヒと一夏。両者の間に火花が散って見える。
『試合開始!』
「「叩きのめす!」」
2人が同時に声をあげ、駆け出した。
アリーナグラウンド中央でぶつかる白と黒。こうなると俺が相手をしなきゃいけないのはただ1人な訳だ。
「そっちは大変そうだね……」
「まぁね……うし。始めるぞシャルル!」
「いつでもどうぞ」
流石はシャルル。緊張した俺とは違い、非常に落ち着いた様子で武器を構える。
俺は《レーヴァテイン》を取り、地面すれすれを一気に加速して肉薄。一瞬で間合いを詰め、地面を抉り飛ばしながら下から斬り上げる。
「っと」
だがその一撃は完全に見切られ、紙一重で回避される。
シャルルは展開していたアサルトカノン《ガルム》を即座に量子化格納し、一瞬で近接ブレード《ブレッド・スライサー》を展開。大振りで脇が隙だらけの俺を逆に斬り上げた。
「ぐぉ!」
─ダメージ軽微。バリア異常無し。
「っらぁ!」
体勢が直らないまま上空に飛ぶ。同時にシャルルを踏み台にしようとしたが、シールドに上手く受け流されて失敗した。
「かぁ……やりに─」
ハイパーセンサーに警告が走ると同時に弾丸の雨が地上から降り注ぐ。
いつの間にかシャルルの両手に展開されていた、《ガルム》と連装ショットガン《レイン・オブ・サタディ》が息をつく暇すら与えない。
シャルルの特技である高速切替(ラピッド・スイッチ)だ。普通の武器展開にかかる時間が殆ど無い高速の武器切り替え。
多くの武器を持ちながら、それらを状況に応じて一瞬で切り替える……これがとてつもなく厄介だ。
「ちぃ……!《スヴェル》!」
たまらずスヴェルを前面に展開。自動で銃弾を防いでくれるスヴェルだが、この雨に対しては些か心許ない。
それでも受けるダメージが大幅に減った俺は続けて《ティルフィング》をコンテナから受け取り、多少の被弾を無視してリヴァイヴ・カスタムⅡの左肩に狙いを定める。
「あれは……!」
トリガーを引くと俺の右肩から全身に波打つような強い衝撃が伝わる。反動も相変わらず凄まじく、思わず銃口を上に向けてしまう。
「ぐ!?」
着弾。しかし、狙った肩ではなくシールドにだ。
不快な金切りのような擦れる音と共にシャルルが衝撃でよろめき、弾道がそれた対IS特殊弾が盛大に土埃を巻き上げる。
「それが特殊弾だね!肝を冷やしたよ!」
「その割りには落ち着いてるな!」
コンテナの補助腕にティルフィングを持たせ、レーヴァテインを受け取る。ティルフィングの残弾数が少ない以上、近接戦に持ち込むしか出来ない。
「はぁぁっ!」
スヴェルに防御を任せ、上から勢いを付けて斬りかかる。
ギリギリまで撃っていたシャルルは僅かなスペースに身を滑り込ませるような動きでまたも剣撃を回避。だがそんなのは分かりきった事。
「!?」
ここで俺がブルー・ティアーズとのダンスで覚えたビットのマニュアル操作でシャルルの顔目の前にスヴェルを滑り込ませる。
シャルルも人間だ。と言うことは急に出てくる物に驚いたりもする。それを狙ったものだ。
計画通りシャルルは驚き、思わず身を仰け反らせた所に両腰の《スキーズブラズニル》を転回。装甲がスライドして覗かせた砲口から拡散ビーム弾が面の攻撃として撒き散らされる。
「うわっ!」
当たった。距離こそ伸びないが威力と命中率は期待できる代物だからな。
「シャル!うっ……くそ!」
見えない力場に捕らえられた一夏が呻く。
シュヴァルツェア・レーゲンの特殊機能だ。『AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)』またを『慣性停止結界』と言う。
それはPICから発展した試験段階の域を出ない空間作圧兵器だ。対象を任意に停止させる事が可能で、エネルギー兵器に効果は薄いが、1体1なら反則ともいえる力を発揮する。
一夏はそれを知ってるのか分からないが、単一仕様能力の『零落白夜』のエネルギー刃で戦っている。だが、いくら強力なエネルギー刃だろうが、手や腕を停止されてしまっては意味がない。今の一夏はまさしくその状態だった。
「わざわざ自分から突っ込んで来るとはな。愚かにも程がある」
「はっ、確かにな。だけど、お前が戦ってるのは何も俺1人じゃ無いんだぜ」
「馬鹿な事を」
シュヴァルツェア・レーゲンのレールカノンが動けない一夏を捉える。1度受けた俺なら分かる。あの距離で撃ち込まれれば高確率で絶対防御が発動する。
「死ね」
「させないよ」
今まさに撃とうとした瞬間、レールカノンが何かに弾かれたように砲身を上にずらし、砲撃音を響かせる。
「シャルルか!」
「駄目だよ優太。途中で気を逸らすなんて」
うっかりしていた……。
シャルルをアリーナグラウンドの端まで吹き飛ばしたと思っていた俺だったが、シャルルはとっくの昔に体勢を立て直しており、アサルトライフル《ヴェント》でレールカノンを逸らしつつ、俺に肉薄していた。
「はや─」
「ちょっと休んでて貰おうかな」
ほぼ零距離でのガルム、レイン・オブ・サタディの2挺撃ち。ごっそりとシールドエネルギーが削られ、バリアを貫通した何発かが装甲で跳ねる。
「一夏!」
「おう!」
AICから逃れる事に成功した一夏がラウラ・ボーデヴィッヒから俺にターゲットを変える。零落白夜の一撃が迫る。万事休すか!
「邪魔だ!」
倒れていた俺の脚を何かが引っ張り、宙に上げる。
シュヴァルツェア・レーゲンのワイヤーブレードか!
「うあ!?」
どうやら助けた訳でもないようだ。
宙に浮かべられた俺はそのまま地面に叩き付けられた。それをした本人はまた一夏と交戦状態に。だが今は動けない俺を置いてシャルルもラウラ・ボーデヴィッヒに攻撃している。
悔しいが……今の2人は強い。シャルルは言わずもがな、一夏はあのラウラ・ボーデヴィッヒに負けず劣らずと言った所だ。俺1人では勝ち目がない。
「ラウラァ!今のは許してやるから勝つぞ!」
協力と言うには程遠いにせよ、ラウラが居なければ負ける。俺は負けたくない!
「ティルフィング!」
ティルフィングを取り、スヴェルをシャルルの射線上に飛ばす。流石に全てを捌くことは出来ないが、精々邪魔程度は出来る。俺はそれをしながらレティクルを再びシャルルに合わせる。衝撃。
「うっ……残念!」
今度は掠りもせず、アリーナの壁に蜘蛛の巣のような亀裂を走らせ、爆ぜた。55mmでも強固なアリーナの壁を破砕した威力は見ている者達を興奮させるには充分。
「こんなのぶつけたがるなんて、容赦無いね!」
「当たんねぇ!」
シャルルもやや余裕じみていた動きではなくなってきた。だからと言って攻撃が当たるわけでもなく、俺は体力とシールドエネルギーが減っていく一方。
「やるね優太!だけど!」
一夏を援護しながら俺を牽制するシャルルが新たな武器を展開。今までどれも小回りが効く武器ばかりだったのが、今回はリヴァイヴ・カスタムⅡの身の丈程のサイズの浮遊型兵器を腰の辺りに構えた。
「な!?」
直角な部分が多く、長い砲身が上下で少し離れた特徴的なデザイン。それは今まさしくパートナー(と俺は思いたい)の主力兵装、レールカノンに近しい武器だ。
それが甲高い音を響かせ、砲身に少しずつ紫電を走らせていく。
「スヴ─」
「遅いよ」
ハイパーセンサーに警告がけたたましく鳴り響くも体が動かない。いや、動いたとしても間に合わないと思った次の瞬間には俺はアリーナの壁に叩き付けられていた。間違いない……これはレールガンだ。ラウラのレールカノンよりも射出される弾丸が小さい、貫通力を高めた電磁誘導砲。
「はぁ!はぁ!シャルルがレールガン持ってるなんて聞いてねぇ……」
「そりゃあ言ってないからね。僕の勝ちだよ優太」
「どうだか……」
「うわっ!」
トドメを刺そうとしたシャルルが一夏の声に反応。どうやらラウラもあと少しで一夏を倒せるところまで追い込んだようだ。
「一夏!」
「行けよシャルル。どのみち俺は今動けない……」
今ここでトドメを刺してシールドエネルギーを削り落とせばシャルルの勝ちだ。たったの数秒。だが、その数秒ですら今の一夏には危険だった。
一瞬逡巡したような様子を見せたシャルルだが身を翻して加勢に向かう。
「……はふぅ。やられるかと思った……」
俺のシールドエネルギーは既に20%を切った。あのまま攻撃を喰らっていたら確実に負けていただろう……しかしシャルルは手強かった。多彩な武器に高速切替、そしてそれらを際立たせるテクニック。たかが2ヶ月と少ししかISに乗っていない俺がマトモにやり合って勝てる相手ではない。
勿論ラウラも強い。だが弱点は一夏しか頭に無いことだ。何も1体1じゃない……どうしてそこまで孤独で戦おうとする。いくら馴れ合うつもりが無いにしても、俺には異常に己の身1つでの戦いに執着しているように見える。
「……そんなんじゃ勝てねぇよ、ラウラ。そんな戦い方じゃ」
暫く壁に寄り掛かって戦闘の流れを見ていると、一夏とシャルルがワイヤーガンとレールカノンで弾かれた。またとないようなこの好機をラウラが見逃す筈もない。
「貴様の負けだ!織斑一夏ぁ!」
レールカノンが倒れる一夏を狙い、火を噴いた。実際には電磁誘導兵器が火を噴く事は無いのだが。
「負けたのはお前だよラウラ」
レールカノンが火を噴いたのは形容的にではなかった。しかも砲口ではなく砲身の横からだ。
「何!?」
恐らくシャルルがヴェントで撃った弾が変な所に入ったのだろう。電磁誘導兵器はISが出来た今でも問題が多い兵器だ。
1対の伝導体レールの間に伝導体を挟み、磁場を発生させ、ローレンツ力によって伝導体を加速して撃ち出す。戦艦に積むようなサイズには出来ない為、小型化してマッハ4程度に落ち着いたが、とんでもない電流が通るんだ。そこに異物が入ってしまっては正確に撃てないし危険だ。現にシュヴァルツェア・レーゲンのレールカノンがプラズマ化した弾丸で内部から捲れ上がった。
こうなってしまえばレールカノンを撃つことはまず叶わない。
「よっと……。ちゃんと見ていれば分かっていたものを……」
「おーい、曽我美君。行かなくて良いの?」
上の客席からクラスメイトに声を掛けられる。
見上げるといつも一緒の布仏本音、鷹月静寐、相川
清香の3名が覗き込んでいた。因みに一夏と同じくのほほんさんと呼ばせて頂いてます。
「いやぁ、無理だよ静さん。今行っても勝てないよ」
「そがみん意外と諦め早いねー」
「まぁ、ね」
肩を竦めるとハイパーセンサーで認識できる“視界”の端でAICに捕らわれた一夏の零落白夜が、《雪片弐型》のエネルギー刃が徐々に光を失っていくのが見える。あの様子じゃあシールドエネルギーは殆ど残ってないだろう。だが、慌てた様子もなく不敵な笑みを浮かべた。
「シャルル!」
一夏の背後からシャルルが飛び出してくる。AICは複数の対象を止めるには普通よりも集中力が必要になるし効果も薄い。それを狙ったのか俺には分からないが、ラウラの虚をつくには充分すぎた。
シャルルまで止めるのは無理だと判断したラウラがプラズマ手刀を展開し、迎え撃つ体勢に移る。
「終わりだよ、ドイツのルーキー(第3世代機)」
「フランスのクラシック(第2世代機)如きが嘗め─」
そこでラウラが何かを思い出したのか、言葉を止めた。
この時、ラウラは確かに思い出したのだ。目前のリヴァイヴ・カスタムⅡにはその“クラシック”最強とも言われる威力の兵器がある事を。
リヴァイヴ・カスタムⅡの左腕のシールドが後ろにスライドして、その代わりに何かがシールドの裏から姿を現す。
「『盾殺し(シールド・ピアース)』……!」
正式な名前は《灰色の鱗殻(グレー・スケール)》。
シールドの裏に装備された69口径パイルバンカーだ。パイルバンカーの威力は言わずもがな、灰色の鱗殻に導入されたリボルバー機構により高威力を連続で繰り出せるのが盾殺しの異名を作った。
それがラウラの懐で炸裂した。
「ぅぐあ!!」
シールドバリアが簡単に破られ、即座に絶対防御を発動させた。衝撃までは殺すことが出来なかったらしく、壁にめり込む。
それで終わりではない。シャルルが再度肉薄し、灰色の鱗殻のリボルバーが回転。次炸薬に交換し、パイルが後退。
炸裂。
壁と灰色の鱗殻に挟まれ、ラウラが苦悶の声を上げる。
亀裂が走り、3度炸裂音と壁を砕く音が大気を震わせた。
◇
(私は……負けるのか……?)
ラウラは炸裂音、破砕音とアラートの中、段々と世界から浮いていくような、周りがボケていく感覚を覚えていた。
(こんな、奴らに……)
ラウラはボケていく世界の中で少し前の事を思い出していた。
嘗て、ラウラは遺伝子強化試験体の名に恥じぬ最強の地位を獲得していた。
物心ついた頃からありとあらゆる戦闘の術を教え込まれた。
武術、棒術、銃剣術等と行った近接格闘術。諜報、破壊工作、潜入、ナイフ1本でも生き残れるサバイバル術。戦車、ガンシップを始めとしたヘリ、4輪・2輪車の扱い。生物学、人体学、地理、経済……数えきれない程の事を学んだ。
全ては戦うため。
全ては勝つため。
全ては最強であるため。
……戦うために人工合成遺伝子から作られ、鉄の子宮から生まれた。ラウラは優秀だった。
この世にISが登場する前までは。
ISが世界最強の兵器として名を馳せた時、当然ラウラにもそれに適合すべく処置がなされた。
それこそが『ヴォーダン・オージェ』。ISとの適合性を上げる疑似ハイパーセンサーとも言える肉体強化を目的にしたナノマシン移植処理の事だ。尤も、今ではその処理を施した瞳の事を『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』、ナノマシンその物をヴォーダン・オージェと言ったりもする。
理論上不適合等は無く、危険性も無い筈のそれで、ラウラは適合出来なかった。否、適合出来なかった訳ではない。原因不明で左眼は金色へと変色し、常に稼働状態で制御不能に陥ったのだ。
これにより、ラウラはIS訓練に置いて常に遅れを取るようになった。
いつしか、最強の座から転落したラウラを待っていたのは今まで見下していた隊員の嘲笑と侮蔑。そして『出来損ない』の烙印だった。
だがそんな時、ある人物と出逢った。それが織斑千冬だった。
「ここ最近の成績は振るわないようだが、なに心配するな。1ヶ月で最強の地位へ戻してやる。なにせ、私が教えるのだからな」
そう言われ、ラウラはひたすら千冬の訓練を忠実にこなした。特別な訓練を個人的に受けた訳でもなく、ただ忠実にこなすだけで、ラウラは再び最強の地位を手に入れる事が出来た。
いつの間にか彼女は強烈に、深く、千冬憧れていた。
その強さに。その凛々しさに。その堂々とした様に。自らを信じる姿に、憧れた。
この人(千冬)のように、なりたい。と。
(……織斑一夏……貴様は、教官の経歴に泥を塗った。あの人は常に最強でなくてはならない)
正直、それは千冬が時折見せる優しい笑み。どこか気恥ずかしそうな表情をさせる相手に嫉妬をしていたのかも知れない。
同時に、そんな顔をする千冬は違うと、もっと堂々と、凛々しくしているのが千冬であるのだと固着していたのかも知れない。だが今となっては、それの原因である織斑一夏が憎くて仕方がなかった。
『何故危険だと言える?』
憎い相手と言えばこいつもそうだった。
曽我美優太。己と同じ遺伝子強化試験体であり、世界で2番目に現れたIS扱える男。
……そしてあの千冬が認める男。
ラウラには分かる。優太が自分とは明らかに別格の存在であると。それこそ、優太がその気になればクラス1つや2つの人がすぐに殺せることも。ラウラにとっては周りの誰かが死のうが知ったことでは無い。だが、自分より優れた存在が、千冬に認められた遺伝子強化試験体が存在しているなど黙って見過ごせる訳もなかった。
一夏を排除したいのは山々だが、優太が何より邪魔で仕方がない。
『あいつは優秀だ。まぁ、頭は悪いが……腕がある。お前と相性が良いんじゃないか?』
ある日そう告げた千冬はどこか可笑しそうで、ふざけているようでもあった。
違う。そうではない。もっと貴女は─
「そんなのは貴女ではない……織斑一夏……曽我美優太……貴様らのせいだ」
千冬を変えてしまった存在。少なくともそうではないのだが、ラウラにとってはそれ以外の何者でもない。
『負けたのはお前だよラウラ』
ふと頭に響いた男の声。
知っている。何かとムカつく男だ。
「曽我美……優太!」
そうだ……一番危険なのはこいつだ。己が知らない遺伝子強化試験体であり、己より優れ、強い存在。
あの人が認めた存在……ならば、そいつを倒せば……壊せば、私が認められる!
「力が……欲しい!奴らを圧倒出来る力が!誰にも負けず……唯一無二絶対─比類なき最強の力が!」
全身に脈動を強く感じた。
力が、欲すれば欲するほど漲り溢れてくる。
「私も、あの人のように……!」
その瞬間、世界が暗転した。