IS(インフィニット・ストラトス) 2人目の男性IS操縦者 作:スーパープルコギ
─良いんだなセシル!良いんだな!?─
「海だぁぁぁ!」
「快晴!青空!風速4ノット!」
「来たぁぁぁ!」
青い空に青い海、そして女子達の歓声。遂に皆が待ちに待っていた臨海学校(正確には課外授業)が始まった。
学園からバスでひたすら走って約3時間。酔い止め片手に騒ぎながら着いたのは海辺の旅館『花月荘』。
「はぁ……ゲロる……」
「大丈夫か?」
「あぁ……うっ」
バスから降りると少しは楽になったが……車酔いは中途半端な辛さがあるから嫌だ。
「うぶっ!」
腹の底から生温かい物がせり上がってきて思わず走り出す。向かうは取り敢えず出しても大丈夫な場所!
「おろろろろ……」
「優太って車に弱かったんだね」
「俺も初めて知った。酔い止めの箱ずっと握りしめてたぜ」
吐きながらも手にする箱は既に潰れてしまっている。だが今更気にしてもしょうがない。だってもう吐いちゃってるし。
「ろろろ……っはぁ……ペッ……はぁ、はぁ」
「大丈夫か?」
「……何とかな……」
「さっさと立て。その程度IS乗りなら何とかしてみせろ」
「はい……」
内容物をほぼ全て吐き出して辛いと言うのに我らがGTOは手加減無しのようだ。
たまたま持っていたポケットティシュで口周りを拭いて立ち上がる。
「シャルル、そのブレス眩しいな」
近くにいたシャルルの左手首には小洒落た銀色のブレスが眩しく光を反射している。
あれはこの前、一夏とシャルルで買い物に行ってきた際に買ってあげた物らしい。
「そう言えば訊いてなかったけど一夏達は何を買いに行ったん?」
「水着だよ。一夏が『付き合って』って言うから買い物に付き合ったんだ」
「そうそう。そしたら千冬姉とか鈴達に会ってさ。結局皆で買い物になったんだ」
何だかシャルルの話し方が少し怒気を孕んでいた気がしたが……気のせいだろう。シャルルはいつもと変わらぬ笑顔だし、ブレスを見たり触ったりしては余程嬉しいのかニヤニヤしてるしな。
「私語は慎め。後で幾らでも海で遊ぶときにしろ」
言われて整列する。今回お世話になる花月荘だが、毎年学園が来ているようで、花月荘従業員の方と学園職員で会話に華を咲かせている。あ、俺は吐いたばかりだから自重して列からは離れている。
「今日から3日間お世話になる花月荘だ。従業員の仕事を増やさないようにしろ」
「「「はい」」」
「今年の1年生もお元気ですね。皆様、本日はご来館いただき、誠にありがとうございます。女将の清洲景子でごさいます。何か分からない事などは従業員や私に遠慮無くお申し付け下さいまし」
女将さんは30代だろうか、それと言うにはかなり若く感じる。それなのに纏う雰囲気は長年勤めているようなそれだ。
「ではお前達は荷物を各自の部屋に運んだ後に自由行動とする。海は別館から着替えて出ろ」
「「「よろしくお願いします!」」」
待ってましたと言わんばかりに1学年女子が荷物を持って旅館へと歩みを進める。
俺もトイレを借りてうがいをせねば。
「すみません、トイレは……」
「あら?貴方は確か……曽我美さん?テレビで観たときとは随分……」
女将さんが俺の体を見て疑問符を浮かべる。それもそうだ。俺が世界に男性IS操縦者No.2としてテレビに晒された時はまだ義肢に生体パーツが被っていた。学園に入学して以降は取材が来てないからこうして外部の人間に知られることは無かったのだ。尤も、この前のタッグマッチで来賓に見られてしまったのだが。
「あはは……少々ありまして……気にしないで下さい」
「安心してください詮索は致しませんよ。と、言うことはあちらが織斑さんの?」
「不出来な弟です。この度はご迷惑をお掛けします」
もう既に一夏が問題を起こすのを前提で話している織斑先生が一夏の頭を無理矢理下げさせる。遠目から見たらもう問題起こして謝りに来た状態にしか見えないな。
「そんな事御座いませんよ。いい男の子ではありませんか。しっかりしてそうな感じを受けますよ」
「感じだけですよ。挨拶しろ一夏」
「ど、どうも」
「あらあら。随分弟さんには厳しいんですね」
「そこの馬鹿も同じですよ。世話が焼けます」
「実際に馬鹿なので……すみませんトイレは……」
「あぁ、ごめんなさい。そこの廊下を─」
◇
「なぁ、こんな事して意味あるのか?」
「……命令だ。嫌なら帰ってても構わない」
「命令なら幾らでもやってやるさ。けど、本当に─」
「来た」
とある場所で黒髪とやや赤みがかった金髪の女性2人、背丈が僅と無い草むらの中で腹這いになっていた。隠れているとはいえないものだが、それを充分に補う装備が彼女らにはあった。
メタマテリアルを利用した、光を曲げて自身の周囲の光を透過させる光学迷彩。だが完全に曲げられるのはあくまでISだけ。人間サイズではまだまだ人の形が浮き出てしまう。
IS開発で科学技術が異常に発展したこの世界に於いてもまだまだ課題が尽きない代物だ。
「こちら『A』、『ハイエナ』がターゲットのホームに来なすった。どうする?」
『予定通りね。そのままハイエナがファミリーにアクションしたらそちらもお願い。“あれ”を得るのに確実なカードになるわ』
「了解」
成人した方の女性がやや乱暴な口調。対する黒髪の少女は必用以上の事は喋らず寡黙で、ただ自分の仕事だけをまっとうするようにハイエナと呼ばれたそれを見ている。
「おい。聴いてたか?」
「当たり前だ。任務に支障をきたすような事はしない」
「……その割りには熱心に何かを食べてるみたいだけどよぉ」
「……んぐっ。何の事だ?任務に集中しろオータム」
「てめぇ……」
オータムと呼ばれた女性が少女を睨む。どうやら仲は良くないらしい。
「けっ。てめぇと居るとぶっ殺したくてフラストレーションが溜まるわ」
「殺るならいつでも相手をしてやる。だが今はハイエナだ」
「わぁってるよクソガキ。帰ったら覚悟しとけ」
(IS/VSでギッタギタにしてやらぁ)
『IS/VS』とは、モンドグロッソ等のISのデータを使用して作られた家庭用ゲームの事だ。元々はゲームセンターでの進出を考えていた物だったのだが、社長が急遽家庭用に変更。色んな国から「我が国のISはこんなに弱くない!」等と、文句を言われたりと紆余曲折しながらも去年の暮れに世界で大ヒットを記録した人気ゲーム。
「ふん。私が使う『テンペスタ』で返り討ちだ」
「甘ぇな。『メイルシュトローム』でそっくりそのままお返ししてやるよ」
『2人共……任務に集中してちょうだい……』
◇
「お母さーん。誰か来たよー」
「はいはい。今出ますよ」
柔らかな光が射し込む礼拝堂で掃除をしていた女性が子供に呼ばれて玄関に向かう。
「はい。どなたですか?」
『IS学園の者です。曽我美優太さんの件でお話が』
ドア越しで聴こえる声は若い男性のものだ。だからと言って特別警戒することもなく、彼女はドアを開けた。
刹那、鳥も囀ずる静かな孤児院に乾いた音が響き渡った。
◇
「ふぅ。綺麗になったぞ」
「お、優太。早く海行こうぜ」
「ごめんごめん。待たせた」
トイレの前では今しがたのほほんさん達と話していたのだろう一夏と彼女らを散らした織斑先生が立っていた。
「さて、織斑、曽我美。お前達の部屋はこっちだ」
「はい。一夏、後で皆部屋呼んでトランプでもしようぜ」
「あぁ……その事何だけど……」
「?」
「お前達の部屋は私達学園職員のエリアだ。騒ぎたければ騒ぐと良いぞ」
「……遠慮しときます」
どうやら騒がれるのを見越して職員の部屋の間に押し込まれたようだ。まぁ、突然っちゃ突然だよな。いくら学園でも俺達と女子の部屋を隣にするとかはないだろ。
絶対騒がしくなるからな。
「ここだ。私と山田先生は隣だ」
部屋の右隣は1組の担任・副担任の部屋らしい。左隣は2組の担任・副担任だが……この前2組担任の大島エミリア先生(24)が「生徒だけど別に良いよね!」ってメールアドレス交換したらしょうもない内容のメールがバンバン来る。
一夏も同様でちょっと苦手だから隣が大島先生なのはある意味辛い。
「騒ぐなよ。いや、騒いでもいいが─」
「静かにします」
要するに騒いでもいいけどその時はどうなるか分かってるだろうな?ってことだ。
俺達は恭しく織斑先生に一礼し、部屋に入る。
「怖かった……」
「まぁ、千冬姉は昔に比べたら丸くなったほうだぜ?」
「そうか……じゃあ早速海行こうぜ」
「おう。ところでISって置いてく?」
「んにゃ。俺はつけてくぞ」
確か待機状態のISでも完全防水って説明があったと思ったが……まぁ心配だし置いていくか。
余程ヤバイことが無い限り持ってかれる事も無いだろ。学園でないにしてもここはセキュリティレベルが高い。なんたって明日からここでISの各種装備のテストを行うからな。当然だ。
「俺は置いていくわ」
『シンモラ』であるアンクレットを外してバッグに入れる。ついでに水着とタオルを取り出してチャックをしめる。
「行こうぜ」
「ん」
海へは別館で着替えて出るルートになっている。その為には先ず本館の端の部屋である俺達は反対まで歩かなければならない。
やはり学園関係の旅館とだけあって広い。兎に角広い。1学年総勢何人か忘れたけど……余裕で収まるもんな。
「広いねぇ」
「だな。お、あれは箒か?」
別館への渡り廊下、広い庭になっている所で篠ノ之箒が地面を見てしゃがみこんでいた。
「よぉ箒。何見てんだ?」
「……」
視線の先には小さな看板が立っていた。否、それではない。もっと異質なのがそこにはあった。
地面から飛び出たウサミミ。生物の方ではない、バニースーツのそれだ。因みに看板には『抜いてください』とだけ書いてある。
危険だ。危険以外の何物でもない!
「……なぁ、これって……」
「知らん。私は行くぞ」
「あ、箒」
2人とも分かっているらしく、篠ノ之箒はそそくさと別館へ。一夏は暫く行く背中を見た後にウサミミに近付く。
「なんだこれ?『UMH』?」
「……『ウサギは万年発情期』の略だよ。俺はそれを見たことがある。あの人の所で……」
「ってことはやっぱり?」
「ああ。間違いないぞ一夏……束さんだ!」
「ど、どうする?抜くか?」
「いや、待て一夏」
早速抜こうとした一夏を制止し、看板を引き抜く。
あの人の事だ。どうせ地面に潜ってるか、これは囮か。どちらにしてもこちらを驚かせる気満々で出てくるだろう。ならばこちらも驚くような事をしてみよう。
「良いか?先ずこうして看板を刺し直します。ふんぬぁ!」
ザクッとウサミミの間、丁度土に潜っていたら脳天であろう位置をおもいっきり看板で突き刺す。
「うわっ!何やってんだよ優太!」
「ちっ。手応え無しか……」
手応えはただの土。ウサミミを引き抜いてみると、2cm程埋まっただけのものだった。起爆装置か何かだと思っていたが……。
「いきなり何─」
「待て一夏!……聞こえるぞ……高速で飛来する物体あり!」
空からだ。空から甲高い風切り音が聞こえる。音からして推進力は重力任せ……つまり落ちてきているんだ。それもこちらに向かって。
取り敢えず確認した所で問題が解決するわけではない。
「逃げろ!」
来た道を戻るように飛び退く。すると数秒と経たずに地面が爆ぜた。巻き上がる土が視界を遮り、辺りを汚すが、不思議なことに地面に衝突した筈の音がない。これっぽっちもだ。完全に物理法則をどこかへ置き忘れた登場の仕方となればやはりあの人しか居ない。
「束さんだ……!問題起こしに来たぞ!」
『ハーッハッハ!引っ掛かったねゆー君!』
音もなく地面に突き刺さったニンジン。無機質で金属の光沢がよく目立つそれが真っ二つに割れた。仰角45度程左右に割れたそれは大量のスモークを吐き出して更に視界を悪くする。
そんな中から聞こえる女声。やけにハイテンションかつ無邪気な声の主は間違うことなく、篠ノ之束本人だ。
「とぅ!」
スカートか何かを翻し、舞うスモークや誇りを裂く。そして青空の下に遂に姿を現した。
「じゃーんっ!おっ久ー!いっくん、ゆー君!」
「た、束さん……」
「正解だお( *・ω・)ノ」
機械なウサミミに眠たそうな瞳と隈。妹である篠ノ之箒と同等かそれ以上に膨らんだ胸。そしてそれを主張するようなデザインの不思議の国のアリス的な服。そして意味の分からない言動……束さん本人で間違いない。
「いやぁ、本当は箒ちゃんに抜いてほしかったんだけどぉ、失敗したねー。いやー参った参った。あはははお( *・ω・)ノ」
何故にその「お( *・ω・)ノ」を使いたがるか。反応に困る。
「束さん。ここは部外者立ち入りは禁止ですよ」
「チッチッチ。ゆー君、私は“それら”を創った人なんだから部外者ってことは無いでショウ。ところで箒ちゃんはどこ?」
「箒ならさっきあっちに行きましたけど……」
「ふーん。まぁ、この箒ちゃん探知機にかかればすぐにわかるもんねー。ブイブイ!V(*≧∀≦*)V」
「……」
相変わらずハイテンションで奇行に走る人だ。
早いとこ織斑先生に連絡しておかないと俺の身が危うい。そんな予感がしてならない!
「じゃあ私は箒ちゃん探しにいくからバイバイ!」
「その流れで帰ってください」
「無理だよん。だって私が帰ったらシンモラも一緒だからね」
「まさか!」
「お部屋にあったシンモラを拝借ナウ。これから改造するよんレディ?あ、因みにこれシンモラね。じゃーん」
「ふん……確かに本物」
完全にお手上げだ。束さんがシンモラを持っていると言うことは明日の装備テストを出来ない。そしてISを失ったと言うことはロシアからの孤児院支援額が減ってしまう。それは困る……だからこそ、俺は今全力で束さんに立ち向かわなければならない。
「……束さん……」
「何かな?」
「……どうかお許しを!」
膝をつき、手をつき、そして深く頭を下げる。額で床を擦るかの如くひたすら下げ続ける。
「優太……」
「おー。久々に見たねゆー君の土下座。……いいよ、返してあげる」
「ありがt」
「改造が終わったらねー」
ビュンッと凡そ人間が生身では出せると思わない音を纏って別館の奥へと走り去る束さん。僅か1秒で姿が消えた……追い付けない……。
「あ……あぁ……!」
「その……ドンマイ優太」
◇
束さんはどうやら本当に優太のシンモラを持っていったらしい。急いで部屋に戻るとやっぱり無いって肩を落としてた。
しかし本当に優太と束さんが知り合いだったなんてなぁ……。
「なぁ優太。やっぱり束さんって普段もあのテンションなのか?」
「ああ。事あるごとにちょっかい出してきてこちらを困らせる事だけに全力を注いでるような感じ。や、俺達を困らせると言うよりは自分が楽しみたいが為の結果か」
「あの人はねぇ……」
「まぁ、束さんがどうであれシンモラは暫く帰ってこないだろ。明日までに帰ってこなかったら織斑先生に相談する」
「そう言えば千冬姉はその事知ってるのか?」
「どうだろうな。感付いてはいると思うぜ」
その事とは優太が束さんと知り合い……と言うよりは命の恩人であっても関わりたくない人の関係であると言うことだ。
優太は一切伏せて来たらしいが、俺達の誰よりも長い付き合いの千冬姉ならもしかしたら束さん自ら言ってるんじゃないかな……。あの人ならやりそうだし。
「そっか。その時はその時だな。取り敢えず今は海を満喫しようぜ。勿体無いだろ」
「だな。俺も楽しみにしてたんだ。いざとなれば織斑先生に頼る」
そもそも俺達の目的は海で今日1日、許されるところまで遊ぶことだ。
束さんには驚いたしこれから面倒な事になるかもしれないけど、今は折角の海を満喫したいのだ。水着だって買ったしな。
因みに俺達も別館の更衣室を使っても良いんだが、一番奥のと言われている。だから必ず女子達が使う更衣室の前を通らなければならない。
『わお。ミカってば胸おっきー。また育ったんじゃないの?』
『それなんだけど……実は体重も増えちゃって……』
『ご、ごめん……』
『ティナって水着大胆だねー』
『そう?これくらい普通じゃない?』
「……前半のは何ともいたたまれないな。後半のはスゲェ気になる」
「止めろよ………」
そう。通る時には中は見えないが中から聞こえる女子ならではのトークに参る。何でか知らないが、少し恥ずかしくなってしまう。
優太は意外にも耳を立てていて、俺のように急ごうとする様子は見られない。たまにそういうのあるよな優太は。
なんて事もありながら更衣室について水着に着替える。
男子の着替えなんて早いものだ。脱いで穿いてお仕舞いだ。ちゃちゃっと終わる。
「待たせたな」
「誰の真似だよ」
どこかで聞いたことがあるような声で優太が腰に手を当てていた。
初めて見た優太の水着は俺と似たようなシンプルなトランクスタイプで膝が丁度隠れる位の物だ。俺の色は紺でほぼ1色なのだが、優太は少し……いやかなり特殊だった。
裾からアツく燃えるような炎のプリント。それを際立たせる黒とウエストの辺りで何故か雨雲がモコモコとデフォルメされた灰色。極めつけは尻に『熱血』の2文字。
熱い!熱いぞ優太!だけどその雨雲が半端じゃないくらい気になって仕方がない!
「格好いいだろ。この前買いにいったら一目惚れしてさ」
「そ、そうか。いいと思うぞ」
「一夏のはシンプル過ぎやしないか?」
そりゃあそんな派手なのに一目惚れした優太の感覚じゃシンプル過ぎだろうよ。
正直言ってさっきの女子達の会話を聞くよりこっちの方が恥ずかしい……すまない優太。
「かなぁ?まぁ、取り敢えず行こうぜ」
「ん」
ドアを開けるとそこは海だった。いや、当たり前何だけど、てっきりちょっと歩いて行くものかと思っていたのが本当に目の前で、出て1歩目が既に砂。
「あちちっ」
「へぇ海の家みたいだな。こりゃ近くて良いや」
「わっ、織斑君だ。私変じゃないかな?」
「曽我美君って鍛えてるんだぁ」
「織斑君も結構筋肉ついてるね」
外に出ると真っ先に女子達の視線を集める。
その女子達の視線に晒されるのも恥ずかしいが、何よりどこを見てもいつもよりも確実に肌色が多く、かなり目のやり場に困ってしまった。
可愛らしい水着から少々背伸びしたような露出がやや高めの水着……多色多種多様だ。
「優太。それで海入っても大丈夫なのか?」
「ああ。遮蔽はちゃんとしてあるからな。脚はルディが3Dプリンタで作ったフィンを持ってきてくれるらしいから泳げるよ」
そう言うと優太は準備運動を始める。
そうだ。俺も泳ぐのなんて久し振りだからちゃんとやっておかないと。ついはしゃいで溺れちまったら大問題だからな。
「いっちかぁ~~~~!」
「ぬぁっ。鈴か!?急にびっくりさせんなよ」
丁度伸びをしたところで鈴がどこからともなくやって来た。
そう言えば小学生の時も中学生の時も水着になったら飛び付いてきたな。因みに着ているのはスポーティーなタンキニ。オレンジと白のストライプでへそが出てるやつ。
「随分はしゃいでいるじゃんかリンリン。そんなに一夏に抱きつぎぶっ!?」
呆れたようにしていた優太を俺の体に登ってきた鈴が蹴り飛ばす。
何かを言いかけていた優太の顔面を襲った鋭い蹴りは砂浜で更にバランスが悪くなった優太を容易く倒し、額の汗で砂まみれにさせた。
「ぷっ!ぺっ!……毎度毎度ぉ……」
「アンタが余計な事を言うからよ。それと、いい加減その呼び方変えなさいよ」
「分かったよファン・リー」
「イキがるなよ。お前なら目隠ししても勝てるぜ。さぁ、どこからでもかか─ってぇ!誰が翼竜スカ○ラーのパイロットよ!」
また滅茶苦茶古いやつを出したなぁ。知ってる優太もそうだけど、咄嗟にノリツッコミで返した鈴もスゲェな。
「ほいほい。てな訳で俺はルディ探しに行くわ」
「おーう」
◇
「曽我美君ー。後で遊ぼうよー」
「うーい」
長い砂浜には知った顔から他クラスの知らない女子まで、1学年全員がきゃいきゃいと騒いでいた。
うーむ。しかし本当に目のやり場に困るな。走り回っている女子、準備運動をしている女子……彼女達が跳ね、動く度にたわわに実った果実がまた跳ねるのだ。
やはり俺も1男子。その動く果実に思わず目がいってしまう。
「あー、そがみん発見~」
「ん?のほほんさん……海でもその格好なのね……」
「えへへ。これが落ち着く~」
のほほんさんはいつもと変わらずダボッとした服装。某黄色いモンスターのデザインのそれが着ぐるみのように全身を覆っていて見ているこちらが熱い。
「曽我美君。実はこれで水着なんだよね」
「マジで?ナギナギ」
どうやらのほほんさんの格好はこれでれっきとした水着らしい。世の中には変わった物もあるんだな。本人も熱くないって言ってるし、どういう仕組みなのか……。
「そがみん。後でビーチバレーしようよ」
「ぉぅ良いよ。片手しか使えないけど」
「だいじょぶ~」
「あ、そうそう。さっきセシリアが探してたよ」
「あい。Thank You」
のほほんさん達と別れて暫く歩くとすぐにセシルを見つけることができた。何せ、パラソルとシートを持ってるからな。砂浜も良く似合うな彼女は。
「おーい」
「あら優太さん。丁度良かったですわ。先程からお探ししてましたのよ」
「ナギナギから聞いた。どうしたんだ?」
「えぇ。ちょっと手伝って頂きたくて……」
おもむろにパラソルを突き立てるセシル。彼女の水着はこの前『フェイトナック』で俺が選んだ青いパレオ付きの水着だ。柄等はあるとセシル特有のエレガントさが少々損なわれると思い、シンプルで単色の青に。だってさ、柄があったら子供っぽいっていうか、何となくセシルには合わないと感じたんだ。
おおっと。ところで手伝って貰いたいって何をだろうか?
「セシル。手伝うって何を?設置か?」
「それは大丈夫ですわ。実はわたくし、背中に手が届きませんの」
「人体の構造上難しいよな。あ、もしかしてホックか?」
「そうじゃありませんわ。……んっしょ」
パラソル・シートを設置し終えたセシルがパレオを取り、俯せになる。
「……」
……いかん。目がいってしまう。
今セシルは俯せ状態。それはつまりその胸が砂浜とボディに挟まれた状態にあるのと同義。であるならば理由は1つしかない。
セシルの胸は押され、苦しそうに形を歪めて腕を枕にした事で脇からはみ出ている。しかもたった今セシルはブラのホックを外し、大胆に肌を見せている。
「優太さんにはサンオイルを塗ってほしくて探してましたの」
「サンオイル!?何で俺に……」
セシルならばナギナギともルームメイトだし仲も良いんだからやってもらえば良いのに。でも今から他の人に頼むとしても既に殆ど裸のような女性を放っておくのは感心できないし、恐らくセシルも何か考えがあっての事なのだろう。
男である俺にここまで肌を晒すなんて、かなり恥ずかしいだろうし……そんな思いさせて断るのはどうだろうか。
「……分かった。サンオイル借りるぞ」
「ありがとうございます優太さんっ」
サンオイルなんて人生で1回も塗ったことが無いぞ。だが男に二言は無い。
という訳で先ずはサンオイルを背中に垂らして─
「いひゃん!冷たいですわ!」
「ぅぇごめん!」
そうか!確かにサンオイルは冷たい……そんなのをいきなり背中に垂らしたらびっくりしないわけがない。
それもそうなのだが、びっくりしたセシルが体を仰け反らして横乳がはみ出て……!え、エロい!
「ごめんセシル。このまま塗るぞ」
「は、はい。お願いしぅんっ」
片手しか使えない以上、背中に垂らしてから塗るやり方しか無い。
なるべく横乳を見ないように意識して背中にサンオイルをのばしていく。
「はぁっ……んぅ……あぁ!」
くっ……!まだまだ冷たいものだからサンオイルの付いた手が肌に触れる度にセシルが声を漏らす。
落ち着け。落ち着くんだ優太……決してセシルがイケナイ事をされて喘いでいるとは思うんじゃないぞ。違うことを考えろ……!
「セ、セシルの肌はスベスベだなっ。綺麗だよ!」
「あ……ありがとうっございます優太さ……ぁん!」
「何々?セシリア喘いでる?」
「わっ。ナニしてるのあれ!」
「キャー。曽我美君とセシリア大胆だね」
不味いぞ。外野がそろそろセシルの声に反応し始めてヒソヒソと話始めたな。このままだと要らぬ誤解をされて俺どころかセシルにまで迷惑が及びかねない。
「ナニもしてないぞ!」
「~っ!はぁ……はぁ……優太さぁん……次、次は……お……お尻もっ」
「なんやて!?」
頬をかなり赤らめたセシルが荒い息遣いで言葉を紡いだ。
パレオをぎゅっと握り、口元を隠すようにしたその仕草は端から見れば“あれ”をしてしまう直前のようで……。
「「「きゃぁぁぁぁ!セシリア大胆!」」」
「わ、分かった!良いんだなセシル!良いんだな!?」
「は……はい」
外野の黄色い悲鳴が響く中、再びサンオイルを取り、セシルの尻にかける。えぇい!どうにでもなれぇぇぇ!
「んっふぅ……ふぅ……んんっん~~!」
声を漏らさないようにしているセシル。その様子を見た外野が更にテンションを上げて、それを気になった他の女子が見に来て加わって密度を加速度的に上げていく。
駄目だ!気にしては駄目だ!無心だ!無心で尻を揉むんだ……!
「な……なんて柔らかい……!」
思わず声に出してしまうが、外野の声で掻き消されてしまう。
俺の掌が、5指が形の良いセシルの尻を揉み、撫でる度にセシルの全身が先刻よりも大きく跳ねる。
「終わったぞ!大丈夫かセシル!」
「はいぃ……次は……」
「まだあるの!?」
「ま……前をっ!前をお願い致しますわっ!」
「ちょ─」
「はーい。ちょっと退いてね」
今度こそ断ろうとした時、人混みの中から聞き慣れた声に一際強く俺の耳が反応した。
「アンタ達真っ昼間から凄いことしてるわねぇ」
「リンリン!」「鈴さん?」
振り返ると海に入ってきたのか、既に自慢(と俺は思っている)のツインテールが濡れていたリンリンがそこに居た。奥には同様に濡れた一夏も居る。
「セシリアって大胆なんだな……」
「あーあ……すっかり蕩けた顔しちゃって……ナニしたのよ優太」
「いや、サンオイルをだな……」
一通り説明するとリンリンも納得した様子でセシルのサンオイルを拾い上げた。
「成る程ねぇ……。じゃあ優太、あたしが代わりにやるから退いてなさいよ」
「ん?お、おう」
従って立ち上がり、リンリンと入れ替わりになると手のサンオイルを全て使いきるかの如くセシルの背中にぶっかける。
突然びっくりしたセシルだが、リンリンはそんなのを一切お構い無しに両手を使って全身に塗りたぐる。
「あっ!ちょ、鈴さん!?冷たっ─くすぐったいですわ!」
「うりうりー。塗ってほしいんでしょ?あたしが全身くまなく塗ってあげるわよー」
どうやら擽りながら塗っているようだ。何かと仲良いよなリンリンとセシルって。
「もう鈴さん!いい加減に─」
流石に怒ったセシルが背中にマウントしていたリンリンを退かさんと起き上がった。ただ、色んな事があって忘れていたのか、水着の上は外したままだからそのまま……。
「─あ」
「……ブパッ!」
「うおわぁぁぁ!?」
「あちゃー……」
セシルが数瞬遅れて気づき、俺は鼻血を噴き出してしまい、一夏は急いで振り返って見ないようにし、リンリンは呆れた風で額を押さえた。
「い……いやぁぁぁぁ!」
片手で胸が見えないように押さえ、残った片腕には光の粒子が集まって何かを形作っている。
「!まま待てセシル!見えてな─」
「いやぁぁぁぁ!」
部分展開したブルー・ティアーズの腕が俺の顔面を歪ませる。
部分展開と言えどパンチで人をぶっ飛ばす事は非常に容易だ。
「ま、待てセシリア!俺は見てないからな!?」
「屈辱ですわ!」
「オボァ!」
俺と一夏共々、海へと殴り飛ばされた。
◇
「どう?“あの子”の調子は」
「特に異常は無いよ。装甲もご覧の通りピカピカさ」
「ありがとうボブキンさん」
ハワイ沖のアメリカ海軍航空母艦。その甲板にはハゲ頭中年の技術者と照明の光を何倍にもして跳ね返しているかの如くボディが煌めく銀のIS。そしてそれの操縦者である女性が立っていた。
「まぁ、俺達は技術者だから当然の仕事だよな。ただナターシャ。もうちょっと装甲にワックス塗るのを練習する必要があるな」
「もしかして下手だった?」
「ああ。お世辞にも上手いとは言えねぇな」
「そう……じゃあイーリの『ファング・クエイク』で練習しようかしら」
「やったれやったれ」
ナターシャと呼ばれた操縦者と技術者ボブキンが笑いながら話をしていると他の場所で作業をしていた別の技術者が焦りながら走ってきた。
「ボブキンさん!大変です!」
「どうした?」
「イスラエルの馬鹿共がトイレにデカいブツを流したからパイプがぶっ壊れてブツが流れないんです!助けてください!」
「馬鹿か……待ってろ今行く」
この航空母艦にはこの銀のISの開発に協力したイスラエルの技術者達も多く居る。彼らもそうだが、大体イスラエル4アメリカ6で毎日のようにどうしようもなく下らない問題ばかり起こしていて、それを何とかするボブキンも最近は体重が3kgも落ちたらしい。
「大変ね」
「下品ですまねぇ。後でそいつにシート被せといてくれ」
「分かったわ」
ボブキンが居なくなり、甲板には端で作業をする数人とナターシャだけになる。
「……大丈夫。必ず成功するわ。だってアナタは優秀だもの」
銀のISに語りかけるようにボディを軽く撫でたナターシャは、どこか我が子を撫でる母親のような表情だった。
◇
「ってて……大丈夫か一夏?」
「お前こそ……ルイディナさんが助けてくれなかったら溺れてただろ」
「2人とも何で海に投げられたの?」
セシルにブッ飛ばされてから早5分。上手く泳げずに溺れかけていた所を一夏とルディに救われ、打ち上げられた魚のように砂浜で横になっていた。
「いやな?セシルがうっかりやらかして、それの影響だ。あ、そのフィン貸して?」
「はい。で、何をやらかしたの?」
「後でセシリアに訊いてくれ……」
「ところでルディ。お前の水着って」
「ふふん。やっと気づいた?」
良く気付いたとルディが胸を張る。
ルディも中々良い形した胸だな。だけど何だろう?その乳揺れを見ても他の女子のを見た時のようには俺の男が刺激されないのだ。
別に見慣れている訳でも無いんだけど……まいいや。
「結局俺が選んだやつにしたんだな。似合ってるよ」
「ふふっ。ありがと」
ルディはフェイトナックで俺が選んだフリル付きのビキニだ。『至って普通のフリル付きビキニ』とルディが一蹴したやつ。薄い紫でフリルは先にいくにつれて色が薄くなっていくコントラストが良い。
「よーし。泳ぐぞー」
「じゃあ俺は鈴の所に行ってるわ。あいつとビーチフラッグやるし」
「おう」
「じゃあユウ。あそこのブイまで競争ね」
「はんっ。俺に……勝てるとでも?」
義腕が無くてもルディに遅れをとるほど俺達遺伝子強化試験体は貧弱ではない。しかも片足はフィンだぞ?これで負けたら頭で逆立ちしてやるよ。
「負けたら頭で逆立ちだからね?ユウ」
「おいおい。先に罰ゲームを提示するやつはフラグを立てたも同然だぞ」
「はいはい。よーい……ドン!」
……。
「……で、優太は逆立ちして頭が砂に埋まってるんだ……」
「そ。いやぁ、正直圧勝出来ると思ったんだけど……フィンに細工してなきゃ普通に負けてたね」
そう。俺は宣言通りフィン付きでルディに遅れをとるほど貧弱ではなかった。しかし、フィンが途中でスッぱ抜けるなんて事態が起きればそうはいかない。
義脚棒では水をかけないのだ。
「くそぉ……ルディめ」
呻いても砂の中では誰にも届かない。
お情けでシュノーケルをつけているが、苦しい……。
「優太。ちょっと見てほしいんだけど良いかな?」
「シャルルか?ちょっと待ってな」
珍妙なオブジェの真似を止め、砂から頭を引っこ抜く。すると機体と同じオレンジと黒いストライプの入ったビキニのシャルル。パーソナルカラーはオレンジだな。で、その奥にはバスタオルか何かを全身に巻き付けて全く訳のわからない存在がそこに居た。
「な、何だ?」
「ほら、大丈夫だって」
「だ、大丈夫かどうかは私が決める……」
ん?その声、ラウラか?
「ラウラか?何してるんだよ……」
「あのね、ラウラが折角水着に着替えたのに恥ずかしがって……」
「成る程。ところで……それは自分で選んだのかラウラ?」
「……いい加減私も別の呼び方は無いのか?」
「は?あぁ、あだ名か?」
確かにラウラのようだが……確かに今までラウラはあだ名で呼ばなかったな。唐突な要求だけど、まぁ良いか。
「考えておくよ。それよりもそれは自分で?」
「……いや、副官がドイツから送ってくれたのだが……肌の露出が多くてな……」
「副官!」
ラウラの副官。名前は訊いてないがその人はラウラに間違えた知識を吹き込みまくっている張本人!そんな人が選んだ水着だと!?肌の露出が多いだと!?裸で俺のところにやって来たこいつが恥ずかしがる水着だとぉ!?
な、何を……何をラウラに送ったんだ名も知らぬ副官よ!まさか……スリングショットか!?それともマイクロ……!?
「いかんぞ!そんな水着をここで皆の目に晒すなど、ラウラが死んでしまう!」
「……何かと勘違いしてない?」
「何?」
「ほら、ラウラ。可愛いから大丈夫だって」
しかしあれだな。シャルルは部屋替えになってから誰と一緒になったか訊いてなかったが、この様子だとラウラと一緒みたいだな。仲良くしてて何よりだ。うん。
「……それにさ、優太の水着の方が恥ずかしいから見てみなって……」
「何?嫁がか?」
シャルルが何か耳打ちするとモソっと顔の辺りのタオルが動き、ラウラの右眼が見える。
「優太。その水着良く見せてよ」
「お、気付いた?格好いいだろこれ」
燃え上がる炎を見せ、燃えるように熱い『熱血』の2文字も忘れずに見せる。もっと熱くなれよお前ら!
「……うむ。嫁があんな屈辱を味わっているのに私が恥ずかしがっていては駄目だな……シャルロット。タオルを取るぞ」
「良いよ」
何か可哀想な物を見る眼は気のせいだろう。何にせよ、俺の水着をみてラウラも熱くなったようだな。
ババッと素早くタオルを取り、漸くラウラの姿が見えた。
「それ……」
「うぅ……やはり変か……?」
いつもの長く延びただけのような髪ではなく可愛らしくアップテールになっていて、黒の水着。それはレースをふんだんにあしらったもので、一見すると大人の下着に見えなくもない。
指を絡めながらモジモジしているその姿はお世辞ではなく可愛い。
「可愛いじゃないかラウラ!俺ぁてっきり変なやつかとばかり……」
「ほら。言ったでしょ?」
「か、可愛いだと!?ううっ……それを言われると私は……」
どうやらまだ恥ずかしいのか、ラウラは頬を赤らめて走り去ってしまう。あんなラウラも珍しくて面白いな。なんて思っているとそれを見た他の女子が「可愛い!」「ギャップ燃えぇぇぇぇ!」とワラワラとラウラに集まってあっという間に囲ってしまった。
その「萌えぇぇぇぇ!」じゃない辺り、お前にも熱いソウルを感じたぜ。
「ギャップ燃えだな」
「燃えてるんだね……」
「おう。そうそう、ルディが選んでくれた水着だが、格好良すぎてもう最高。今度は私服頼むわ」
「(いやぁ……恥さらして欲しくて選んだのに本人の感性がなぁ。まぁまたダサいのコーディネートさせてくれるなら)良いけど……」
「おーい優太。鈴がセシリアと喧嘩中だからビーチバレーしようぜ!」
「おー!良いよ良いよ!シャルルとルディはどうする?」
「僕もやろうかな」
「私が球技駄目なの知ってるでしょ?」
おおそうだった。ルディは数年も前にサッカーしてたら車に轢かれかけた事があって、それ以来ボールを使うスポーツが一切出来なくなっちゃったんだ。でも何故か知らないけどセパタクローは滅茶苦茶出来て強い。何なんだお前は。
「元男と男2人の3人だな」
「僕の事!?」
「おっしゃ。このチームなら勝てるぜ」
走ってきた一夏も加えていよいよビーチバレーが始まった。
やっぱり海は楽しいな。夏休みは孤児院の皆や母さんを日本に連れてきて海に旅行だな。よし、決定。
◇
長い自由時間も終わり、夜19時。風呂にも入って夕飯も食べ終わって消灯となる21時までの僅かな時間を皆各々楽しんでいた。
あるものはトランプを。またあるものは全力での枕投げを。そんな中、セシリアもある目的の為に廊下を歩いていた。
「身嗜みも完璧ですわ。後は優太さんを連れ出してチェルシーの言ってた通─あら?」
一夏と優太の部屋へと向かっていると、先客が既に居た。昼間は姿を見せなかった箒、鈴、シャルロット、ラウラにルイディナ。そして何故か2組の担任・副担任が皆一様に引戸に耳を付けていた。
「な、何をしてますの?」
「しっ」
ラウラが引戸を指差し、それに従ってセシリアも耳を付けてみる。すると、中で一夏と優太が会話しているような声が聞こえてくる。ただし、良く聞くとセシリアは仰天せざるをえなかった。
『あぁ……気持ちいいぜ一夏』
『だろ?俺もテクニックはある方だと思ってるからな。っと、随分ガチガチだなココ』
『いやぁ、最近めっきりシなくなっちまって。やっぱり定期的にヤッておかないとすぐ硬くなっちまう』
『お?じゃあこんなのはどうだ?』
『おふぅっ。ぎ、ギモヂィィィ!』
「こ、これは……!?」
仰天して耳を離す。良く見ると2組の担任・副担任以外は死んだような眼をしている。対称にその2人は鼻血をダバダバと垂らしながら録音して非常に興奮しているようだった。
無論、セシリアに意味が分からない訳でもなかった。優太を将来確実に婿として迎え入れるにはチェルシーから既成事実を作るのが早いと教えられたセシリアは、その日から様々な本を読み漁り、既成事実を作るべく知識を手に入れた。
その時偶然にも目にしたガチムチパンツレスリング……思い出したくもない奇怪な動画の声と、部屋から聞こえる声が一致(しているような気が)したと、セシリアは愕然としてしまう。
「ま……まさか優太さんが兄貴だったなんて……」
「むしろ兄貴を知ってるアンタに驚きだわ……」
「しっ」
ラウラに黙らされ、再び引戸に耳を付ける。
『おっおぉ!そこっ、イイ。もうちょい激しく』
『しょうがねぇなぁ……これでどうだ!』
『あああいいっ』
「ふぅ……良いのが聴けたわ」
「じゃあ私達はここで……」
教師2人が立ち去るがそんな事にも気付かず、聴いてしまう。
「……シャルロットさん。一夏さんと同室の時に何か兄貴を思わせる言動はありまして?」
「……特には……」
「……鈴さんは幼馴染みですから、何か……」
「……あるわけないわ。はっ!?けど一夏ってとことん唐変木だけどもしかして男にしか興味が無いから……!」
「……やめんか!一夏にそんな趣味があるわけがないだろう!」
意外にも皆兄貴の意味が分かるっている様子で、自分の好きな相手が女に興味が無いとは認めたくないと言い争う。
その中でも比較的冷静なラウラが意味が分からぬといった風で腕を組んでおり、何かを考えている。
「……お兄ちゃんは兄貴なんかじゃないわ!」
「おい。お前達……」
◇
「「「わぁぁぁっ」」」
「「おぉぉぉ!?」」
引戸が本来動くY軸ではなく、俺達に向かうX軸で開いた。と言うより外れた。ついでにその引戸にくっついたようにしてルディやラウラといったいつもつるむ連中が折り重なって倒れてきた。
「な、何だよお前ら」
「いてて……」
「あ、ちふ……織斑先生」
倒れたルディ達の後ろには腕を組んで、皆と同じ浴衣姿の織斑先生が立っていた。
状況から察するに、俺達の部屋の前で何かしていたところを織斑先生が注意でもしたんだろう。それか突然現れて驚いたから倒してしまったのか。
「どうしたんですか?」
「こいつらがお前達の部屋の前でこそこそしてたのでな。何をしていたのか問いただそうとしたら驚いてこれだ」
「何してたんだよルディ」
「……」
何故か答える様子のないルディ。いや、ルディだけではなく皆が答えたくなさそう……もっと近いのは答え辛そうだ。
「え……?何?マジで何してたんだよ」
「ちょっとね……」
「?」
「お、お2人が喋りながらナニかをしていたようでしたので気になって……」
「俺達か?俺は一夏のマッサージを受けてただけだけど?」
なんでも、一夏のマッサージがとても良いと聞いてな。最近は義肢があったり無かったりでトレーニングが出来なかったから体も凝ってたし、風呂上がりでやってもらった訳だ。今日も久々に結構な量の運動もしたし、丁度良かった。
と、説明すると皆何やら安心したような様子で立ち上がった。
「ったく。変な声出して……」
「誤解しましたわ」
「まったくだ」
「少しは自重してよね」
「私は良く分からなかったのだが……」
「分からない方が良いと思う」
リンリン、セシル、篠ノ之箒、シャルル、ラウラ、ルディと皆が口々に文句を言ってくる。俺達が文句を言われるような事をしたか?納得いかん。
「……織斑、曽我美。この部屋を空けろ。少々こいつらと話すことがあるからな」
「空けろって、どこかに行けって事ですか?」
「それ以外の意味があるか?そうだな……お前達はマッサージで汗をかいたろう。風呂にでも入ってその汗を流してこい。汗臭くなってはたまらないからな」
「あ……はい……」
「そうだな。俺も汗かいたし、行こうぜ」
でも良く考えると隣の部屋でも良いのにここを使いたがるって事は何か特別会話でもするのだろうか?
それこそ、ここの女子だけにしたい話とか……まぁ、どのみち俺達には関係無さそうだし、織斑先生も面倒だからここ使うだけだろ。
大人しく風呂に入ってきます。
◇
一夏と優太が風呂に入りに行くことで空いた部屋。そこには1列に正座させられた誤解衆とそれと面向かって缶ビールを煽る千冬が居た。
正座が苦手なセシリアとラウラはまだ2分も経っていないのに既に足を震えさせていた。対して流石はブシドー箒は様になっており、以前は日本に居た鈴も痺れた様子も無い。後の2人も同様だ。
「……で、お前達はマッサージしていた声を誤解して聴いていたと?」
「「「……はい」」」
「あいつの姉として言わせてもらうが……それはあり得んな。女の気持ちがとことん分からない馬鹿だが、ソッチに堕ちたなら私が分からない訳がないからな」
「ですが……」
「第一、惚れた相手のそれくらい分からなくてどうする」
「「「……」」」
一同が黙ってしまったのを見ながら再びビールを煽る。
「……あの」
「ああ、そうか。少し待ってろ」
シャルロットが何かを言いかけた時、千冬はそれを遮るように立ち上がり、備え付けの冷蔵庫からジュースを幾つか取り出して一同に放る。
炭酸から果実ジュース、雪印のコーヒーに至るまで、様々な種類が冷蔵庫に入っていた。
「ほぉ。あいつら中々揃えてるな。曽我美もたまには役に立つな」
「えっと、これは?」
「一夏達のだが、構わん。飲め。後はそっちで交換しておけ」
「は、はぁ……」
結局交換はすることなく、その時に受け取ったものを飲み始める。それを見た千冬は珍しく笑うと2本目のビールを開け始めた。
「デュノア。さっき言いかけたのはなんだ?」
「あ、えっと、仕事中なのに飲んでしまって良いのかなと……」
「固いこと言うな。私も酒くらい飲みたい」
いつもの規律、規則に正しく、全面警戒態勢の『織斑先生』と目の前の『織斑先生』が一致しない為、ラウラは何度もまばたきを繰り返していた。
「そんなに驚くことでも無いだろう。全てが全て学校のような生き方はごめんだ」
「……これは口止め料ですか?」
「鋭いなニコラエフ。それでお互い様だ」
ルイディナ以外ははっとして手元のジュースを見る。これで目の前で起きた千冬の事は言えない。と言うより、一同にはそもそもそんな事を他の誰かに言う勇気や考えなどハナから無かった。
「でだ。お前達はあいつのどこが良いんだ?」
あいつと言えれても一夏か優太か分からない。だが、千冬の視線が箒に向いていたことで、前者を指しているのだと理解した鈴が恥ずかしいのを隠して発言した。
「あたしは……腐れ縁なだけだし……」
「わ、私は別に……以前よりも腕が落ちているのが腹立たしいだけですので」
鈴に続いて箒が言う。
「僕─私は、優しい……ところ、です……」
「あいつは誰にでもそうだろ」
「そ、そうですね……そこがちょっと悔しいかなぁ」
照れながらも言いきったシャルロットに、正直に言えなかった前の2名は悔しいのか羨ましいのか、押し黙ってシャルロットを見つめていた。
「そうか。で、お前達はどうなんだ?あの馬鹿のどこが良いんだ?」
(あぁ……ユウってすっかり馬鹿で呼ばれてるんだね……)
「私は兄として慕ってます」
「兄の私物を盗んで興奮しているのを慕っていると?」
「わっ、わぁぁぁ!」
「いくら法律で良くても、全て良い訳じゃ無いからな。そこら辺は気を付けて慕え」
「……はい……」
秘密にしていた事をサラッとバラされ、恥ずかしさや色んな感情が混ざって頭が真っ白になってしまうルイディナ。
続いてセシリアが発言した。
「わたくしは……自分を打ち負かした者として、もっと強くなって貰いたいのですわ」
「あぁ、自信満々で戦ったら負けたあの試合か」
「うっ……」
あの時は自分に慢心しきっていたセシリアの黒歴史だ。
今となっては過ちを理解できた良い機会だろうと千冬は付け加えてラウラへと視線を移した。
「お前はどうなんだ?」
「わ、私は……強いところです」
「いや弱いだろ」
即答。
「つ、強いです。少なくとも私よりは……」
珍しくラウラが千冬に食って掛かった。
そうか?と首を傾げながらも2本目のビールを飲み干した。
「まぁ、優しいとか強いかは別にしてだ。一夏は家事は勿論、マッサージも出来る。貰えた女は勝ち組だな」
「「「くれるんですか!?」」」
「やるか馬鹿」
ニヤリとしてみせた千冬は持ってきた3本目のビールを開けた。
「曽我美は……問題しか起こさんな。あいつは早く誰か貰って静かにさせてくれ」
「「「是非!」」」
「ふっ。精々頑張れよ小娘共」
千冬は満足したようにビールを飲み、部屋から見える月を見上げた。