IS(インフィニット・ストラトス) 2人目の男性IS操縦者 作:スーパープルコギ
最近セシリアグッズがいつの間にか増えてる
─ころ……る……殺し……やる!殺して……殺してヤルァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!─
翌日。昨日のビーチとは大きく離れた、来た本人達も分からない場所に位置する岩肌の目立つ海岸。そこではISスーツに身を包んだ学園の生徒達が装備や装置を運んだり設置したりと忙しそうにしていた。
「今日は1日装備のテストかぁ……面倒臭いな……」
「そう言えば『シンモラ』は帰ってきたか?」
「あ、忘れてた。織斑先生に報告だな」
「シンモラがどうかしましたの?」
「いやさ、実はシンモラが─」
「静かにしろお前達。作業を一旦止めて集合!」
千冬の号令で忙しく動いていた生徒達が集まり、整列までをものの26秒で終わらせる。こんな芸当が出来るのは千冬が日頃厳しく指導する1組だけだ。
「今日は前から説明していた通り、各種装備のテストなどを行う。先ずは正午まで休みなしでかかるぞ。分かったら解散、分からなくても解散だ!」
「「「はい!」」」
他のクラスとは気合いの入りようが違う1組が自分達のやる分を出来うる最高のスピードで準備していく。
これも千冬の日頃の指導の賜物だろう。
「専用機持ちは私の所に集まれ。お前達は特に迅速に行わなければならないからな」
1年の専用機持ちと言えば一夏達の面々しか居ない。2組の鈴もその声を聞いてすぐに集まり、今はシンモラが帰ってきてない優太も少し遅れながらも整列を果たした。
だが、その中に1人だけ専用機を持っていない筈の人物が混ざっていた。
「箒?お前専用機無いだろ」
「いやいい織斑。篠ノ之、今日からお前にも専用─」
「ちーちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
関係者以外立ち入り禁止で尚且つ関係者でも1部の人間にしか場所が分からない特殊ビーチの崖から砂埃を巻き上げながら何かが迫ってくる。
「……束」
「とうっ!」
束、即ち篠ノ之束が現れたのだ。
急斜面の崖を駆け降りてきた彼女は凡そ人間とは思えない高さまで跳躍し、ルパ○ダイブよろしく千冬に飛び込んできた。
しかしそれを見切った千冬はダイブしてきた束のこめかみを親指と中指で食い込ませるように掴み、鬱陶しそうに進撃を止めた。
「ちーちゃんちーちゃんちーちゃんちーちゃん!」
「喧しい。黙れ」
「ぶべっ」
アイアンクローのまま束を投げ飛ばし、砂浜に叩き付けられた。だがすぐに何事も無かったかのように立ち上がると服に付いた砂を払って箒の方へと向いた。
「久しぶりー箒ちゃん!」
「姉さん……お久し振り、です……」
「ムー。かたいよー!姉妹なんだからもっと砕けていこーよー」
「おい束。少しは挨拶くらいしろ。生徒達が困ってるだろうが」
「えー……面倒臭いなぁ。私が天才篠ノ之束さんだよー。ハロー。終わりー」
本当に面倒臭そうに適当な挨拶を皆にした束。
それを見た女子達は漸く目の前に現れたら異常な人物が篠ノ之束であると理解し始め、騒がしくなってくる。
「静かにしろ。こいつの事は無視して構わん。作業に戻れ」
「らぶりぃ束さんでも良いよ!」
「黙れ馬鹿」
「えへへ。怒られちった。さてそんな事よりも箒ちゃん!」
その場でクルリと回って妙な立ち方で箒を指差す。するとバチバチと砂浜の上で紫電が走った。
何も無かった筈のそこに、いつの間にか銀色の箱が現れる。これこそが篠ノ之束の作る、完全体の光学迷彩。
「これは……?」
「待たせたね箒ちゃん。これこそが白と並び立つ紅……『紅椿』だよー」
音もなく開いたそれの中には、紅いそれがあった。
既に箒を乗せる準備が出来ていると言わんばかりに膝をついているそれは束曰く、現行のISを遥かに上回ったスペック……最新鋭機にして最高性能。
「これが……」
「さぁ箒ちゃん乗っちゃって。ちゃちゃっとフィッティング済ましちゃうからー」
言われ、箒が紅椿に乗ると無駄な動きをしながらも確実にフィッティングをしていく束。宙に浮いた投影キーボードが妙ちくりんな音を立て、高速でタップされていく。
「嘘?あれって篠ノ之さん専用機?」
「身内ってだけで貰えるの……?」
「なんかずるいよねぇ」
ふと、観衆の中からそんな声が聞こえた。それに素早く反応したのは意外にも束だった。
「おやおや。歴史の勉強をしたことがないのかな?有史以来、世界が平等であったことなど1度も無いよ。ただの1度もね」
ピンポイントで指摘を受けた女子が気まづそうに作業に戻る。
「ところでゆー君はどこに行ったのかな?渡したいものが有るのに」
首だけ一夏達に向けて目的の人物である優太を探し始める。『ゆー君』と聞いて一夏と千冬以外、誰の事を指しているのか分からず束と同じように『ゆー君』と呼ばれる誰かを探していた。
「んー……まいいや。はーいフィッティング終わり!流石私超早いね!」
フィッティングが終わると紅椿の各所に繋がっていたケーブル等が自動で外れた。
外見は別段変わったところは無く、あるとすれば箒の体に合わせた装甲の移動程度だ。
「さてさて。紅椿を動かす前に……」
「姉さん?」
おもむろに小石を拾った束がゆっくりと、辺りを見回す。小石を掌で転がしながら、時には宙に上げるような事もする。
「……見っけ。何で隠れるのゆー君!」
風切り音。そして束達から少し離れた所にあった岩が木っ端微塵に砕けた。
「うほぁぁぁ!?」
「「「優太!?」」」「優太さん!?」
「いってぇ!何すんだよ束さん!」
「ゆー君が逃げ隠れするからだよん。それにそんな貧弱な使い捨て光学迷彩。私には見えるのだよ!」
砕けた岩の近くから優太が現れる。ただし、ただの現れかたではなく空間から滲み出てくるようにだ。
それを見た観衆や専用機持ちは驚きを隠すことが出来ず、更には束にタメ口で話していることにやや混乱し始めていた。
「姉さん!優太と知り合いなんですか!?」
「およ?言ってなかったっけ?まいいや。ゆー君は私が昔育てていたモルモット的なペットでーす」「モルモット言うな!」
「冗談冗談。私が拾っただけだよー。ま、詳しいことはゆー君かちーちゃんに訊いて。さぁゆー君!新しい義肢だよ!そぉれ!」
素晴らしいフォームでどこからか取り出した段ボール箱を優太に投擲。勿論、マトモに渡す筈もなく速度が尋常ではなかった。最早投擲ではなく射出だと言えよう。
「ぐぉ!?」
苦悶の声と共にすぐ後ろの海へ放り出される。
「ははは!いやぁ、毎度リアクションが大きくて束さん嬉しいよー。ちーちゃんおっぱい揉ませて」
「自分のでも揉んでろ。お前の方が充分あるだろうが」
「ちーちゃんのえっち」
「死ね」
掴んでは投げ、投げられては立ち上がり、また掴んでは投げ……そんな激しいやり取りをしている間に海から上がった優太がビチャビチャになった段ボールを持ちながら漸く専用機持ち一同の所に帰ってきた。
「いつから居なかったんだよ?」
「『ちーちゃぁぁぁぁ』の辺りから逃げた」
「ゆ、優太さん!篠ノ之博士と知り合いってどういう─」
「ごめん。それは後にしてくれ」
どこからかどう説明したものかと考えが纏まらない優太がその場にしゃがみ、段ボールを引き裂く。
すると、中から出てきたのは良い具合に光沢が眩しい義肢だった。
「あ、そうそうゆー君。今回の義肢は骨格にミスリル合金で出力は前の倍だよ!やったね!」
「何でそういうことするんですか!てかミスリル合金って空想の物質出すの止めてください!」
ギャーギャー言いながら義肢を装着し終えた優太が立ち上がって軽くジャンプしたりシャドーボクシングをしたりして具合を確かめる。
「お、軽い。反応速度も上々……可動域も広くなってる」
「今回は軽くしたし頑丈だよ。しかも完全に人間の関節可動域に変えたから痒いところに手が届かない何て事はもうないよ!」
「だったら……!」
優太がその場から消える。否、正確には皆の視界から一瞬にして外れる程の速度で走り出したのだ。
屈伸姿勢からの爆発的な加速。新調された義脚がそらを可能とさせていた。
「ふっ!」
肉薄してからの鋭い蹴り。その一撃は常人なら不意をつけているのにも関わらず、狙われた束は表情ひとつ変えることなく首を傾げただけで回避した。
その僅かなやり取りはほんの2秒にも満たない。
「うっへぇ……相変わらず早ぇ」
「毎回義肢変える度にゆー君襲い掛かってくるんだもん。ゆー君が頭から信号を送る前には束さんは回避準備が整ってるのだー。わっはっは」
「え、何今……」
「お前は一体……」
今のやり取りが見えていたのは紅椿のハイパーセンサーで捉えた箒と何も言ってないが千冬だけ。
ますます混乱を加速させる状況に優太がふとあることを思い出した。
「あ。束さんシンモラ」
「はいよー。お返しします」
今度は手渡しでシンモラであるアンクレットが帰ってきた。
「……何を弄くったんですか?」
「大した事じゃないよ?紅椿作ってるときに余ったパーツくっ付けたり電池追加したり」
「電池?」
「キラーンッ!」
束が自分で効果音を付けながら眼を光らせた。待ってましたと言わんばかりに大仰な手振りで説明をし始める。
「説明しよう!電池とは正式名称『ミーミル』。天才束が構想に1週間、製作に3日費やしたISのシールドエネルギーバッテリーなのだ!元々は『白式』に積む予定だったが面倒なので急遽シンモラに積んでます!」
「は?電池を積んだ!?ちょ、シンモラ!」
何か嫌な予感がしたらしく、優太が慌てた様子でシンモラを展開した。
だがシンモラは見た目が全体的に鋭利な感じに変わっていただけで、特に電池と言えそうな物はどこにも付いていない。
「ちっちー。今回製作したミーミルは特殊な方法で量子化してあって、即座にエネルギーを回復出来るんだよー」
「どのくらい量が?」
「大体エネルギー量2000位かな」
「「「2000!?」」」
「軍用じゃないんだから止めて……」
「大丈夫大丈夫。普段はロック掛かってて、シールドエネルギーが1度零にならないと使えない仕組みになってるから」
「あ、そうなんですか?」
「いい加減にしろお前達。自分達だけの世界で話すな。曽我美、お前はISを仕舞って列に戻れ。束はいつまで篠ノ之を待たせるつもりだ」
ここで勝手に話を展開していた2人に痺れを切らした千冬が切り上げさせる。まだ聞き足りない部分もあった優太だが、我が身をもて余している箒を見てすぐに下がった。
束もすぐに頭の中が切り替わって紅椿の最終確認へ。
「……うん。オッケーだねー。じゃあ箒ちゃん飛んでみてよ」
「はい」
紅椿が飛び立った。
パッケージを付けたものとは別だが、その速度は巨大なスラスターがあるわけでも無いのに現行のISのスペックを遥かに凌駕したもので、見るもの全てを驚かせた。
「凄いでしょ?箒ちゃんの思った以上に飛べてる筈だよ」
「えぇ……これは凄いです……!」
その後、束の召喚したミサイルやデコイに武装のお披露目も終わった時に緊急事態が発生した。
「おお織斑先生っ!学園からこれが……」
「……特命任務レベルA、現時刻より対策を始められたし……」
「そ、それが、その、ハワイ沖で試験稼働─」
「しっ。機密事項を口にするな」
急に軽いパニック状態になった真耶に千冬が冷静に対処し、機密レベルの高い内容を話し合うからか、途中から小声すら止め、特殊な手話でやり取りをし始めた。
(ん?あの手話……JSLでもASLでも無いな。学園専用のか?)
「……では山田先生は学園と連絡を。私は欠席している専用機持ち以外は居るのでそれで対策を」
「分かりましゃっ」
「全員、作業中止!5分以内に全ての機材を片付けて車に乗れ!」
落ち着かない雰囲気にガラリと変わった砂浜で千冬の声が一段と通ったように感じた。
女子達は千冬のいつもと違うそれを感じ取り、忠実かつ迅速に機材を片付け始めた。
「専用機持ちは私と一緒に来い!篠ノ之、お前もだ!」
「はい!」
「あー。私も連れてってよちーちゃんー!」
(……特命任務レベルがAって言ったら……えーと、国から……忘れた)
そもそもその特命任務の事は習うものではない。優太が前に職員室に入ったとき、真耶を待っていながらたまたま机の上に置いてあった対応マニュアルを盗み見たからこそこの事態の深刻さが分かるのだ。
(兎に角。事態は深刻だ……俺達専用機持ちは所属国家問わずこの問題に対して対処しなければならない。しかし束さんが居ればそんなに─)
「ん?」
(タイミングが良すぎやしないか?束さんの登場、紅椿の稼働テスト……いや、そんな事は無いか)
「どうした曽我美。早く車に乗れ」
「え?あ……」
優太が気付いた時には皆車に向かっていて、優太だけが取り残されている状態だった。
「……織斑先生、これって……」
「今は私の指示に従え。詳しい事は後で話す」
「ぁ、はい」
「それと、車の中であいつらに話しておけ。この後の作戦に支障が出ると困る」
(ですよね……)
「分かりました」
◇
「お。遅いぞ優太」
「悪い。ちょっとな」
職員用のバンに乗り込んでいた一夏達が緊張した面持ちで待っていた。
制服を着る時間は無く、皆ISスーツのまま。
空いていたセシルの隣に座り、違和感がやや感じられる義腕をアジャストしていると何かが頭をコンコンとつついてきた。
「ゆー君ゆー君!早く昔話してよ」
「言われなくてもしますよ」
伸びてきていた棒をどかし、先刻外した義脚棒を足元に置いてメンバーを確認する。
皆俺がこれから何を話すのか気になって様子で俺を見ている。
「……皆、ごめん。ずっと嘘ついてた」
「嘘、とは……?」
「色々とな……長い話だから、質問とかは纏めて後で聞く」
今一度深呼吸をして気持ちを整える。
「俺……皆にずっと言おうと思って言えなかった事があるんだ。その─」
◇
─敵。
『何が?』
─全てのISは敵。
『何故?』
─不明。守らなければ。彼女を。全ての敵から。
『どうやって?』
─敵は排除する。
─守らなければ。私が。彼女を。
◇
皆へ真実を話すのは『花月荘』に到着し、今回の作戦会議ないし指揮室として宴会用の大座敷『風花の間』で皆が席についても続いた。
生まれたのがイタリアで『ヴェントゥーノ・オット』と言う名前があった事。遺伝子強化試験体である事。『マリオネッタ』もといシンモラに腕脚をもがれて、破壊工作で右眼が見えない事。そして仕事の事……全てを、隠してきた事を全てを話した。
「……ずっと、わたくし達に嘘をついてきた。と?」
「……」
「遺伝子強化試験体……」
「俺は、本来なら人の形をした兵器だ……。皆の知らない所で何人も殺してきたし、もっと残酷な事をしてきた。自分に付いた血を流すのに血を使ってきたんだ……」
「で、でも妹を探すためなんだろっ?」
「身内を探すために殺しをして良い道理があるものか。ラウラ、お前も最初は俺を危険だと思ってたんだろ?」
「……あぁ」
少し間が開いてラウラが頷いた。
「それが正しい。初めて殺人を教えられたのが5歳の頃だ。初めこそ殺すのは躊躇ったし怖かったし夢にも魘された。けど今じゃ慣れたもんだよ……ただ引き金を引くか、刃物を相手に突き立てるか、己の肉体で直接……」
「人殺しに慣れたなんて言うな!お前は自分が何をしているか─」
「止せ箒!」
「黙れ一夏!こいつは私達を騙してきただけではなく、何人も殺してきたんだぞ!それを慣れたなど……人の所業では無い!」
「……篠ノ之箒の言う通りだ。本当はもっと早く打ち明けたかったけど……皆と親しくなればなるほど言えなくなっていった。こんな反応が来るって分かってるから」
人の命を簡単に奪える。
それを慣れたと言った事は篠ノ之箒をかなり怒らせた。どんな理由があろうと、人を殺す事はあってはならない。だからこそ法律があるし、それを破れば重い罰がある。
「一夏。お前も正直に言えよ。ルームメイトが人殺しでそれを簡単に出来るように作られた兵器だと知って……怖いだろ?」
「……」
「……兵器兵器と……貴方は人でしょう!」
パァンッと乾いた音が風花の間にこだました。
右頬をジンジンと熱を持ってくる。細かい針で突き刺されているように痛むそれは、俺がセシルに右頬をひっぱたかれた事を示していた。
「せ、セシル……?」
「貴方は人間です!確かに殺しや、わたくし達に嘘をついてきた事はどんな理由でも許せることではありませんわ!ですが、貴方は誤っていたわたくしを正し、ここに居る皆さんを命懸けで助けたではありませんの!」
「……だからと言って俺が─」
「お黙りになって!今はわたくしが話しているんですのよ!」
明らかにいつもと違う、怒ったセシルに気圧されて黙る。
「これはわたくしの我が儘なのかも知れません……貴方は兵器ではありませんわ!わたくしは貴方にちゃんと心があるのを知ってます!」
言っている内容が滅茶苦茶だ。心があるから兵器でない理由にはならないだろう。
「なんっで……!何でもっと……何でもっと早く言ってくれなかったんですの……!」
「セシル……」
「悲しいですわ……どんなに、想ってきたとっ……!」
自分の思いを全て吐き出しきれていないのだろう。涙を流し、嗚咽しながらも言葉を止めることはない。
俺の為にこんなに泣いてくれる奴が居たなんて……。
「……優太。俺も同じだ。決して兵器だなんて思いもしないし、むしろ大切な仲間が打ち明けてくれなかった事が悔しい……悔しくてたまらねぇよ」
「……怖かったんだ。拒絶されるのが……人殺しって言われるかもしれないと思うと……」
「言わねぇよ。人殺しは良くねぇ……だから怒りたくなる。だけどさ、そんなに俺達信用できないかよ?頼りねぇかよ?」
「私は認めないぞ!綺麗事を並べても人殺しであることには変わり無い!こんな奴と共に学園に居るなど御免だ!」
「箒……!」
「分かってる!篠ノ之箒の意見も最もだ……」
完全に篠ノ之箒の怒りを買ってしまったらしい。皆が落ち着かせようとしても言うことを聞かない始末だ。今にも武器を持ち出して斬りかかってきそうなまでの拒絶と敵意。当然だよな……。
「ぼ、僕も一夏に賛成だよ」
「シャルロットまで……」
「知ってるんだ。僕が女だってバレた後……先月デュノア社に捜査が入ったんだ。僕を男だと偽って学園に送った事がどういうルートでか、リークされたみたいでね。政府の何人かがそれに協力していたし、あっちじゃ今でも大騒ぎだよ。何たって学園を騙したしそれで利益を得た訳だしね」
「ってことはじゃあ……」
「うん。僕は堂々女として学園を卒業できるし国にも帰れる。それの根回しをしてくれたのも優太なんでしょ。政府の人から聴いたよ」
「……何の事だよ」
バレないようにって言ったのに……おじさんめ。わざと足がつくようにしたな……。
「ただの人殺しにはそんな事出来ないと、僕は思うな。それに、今度は僕達が支えてあげる番じゃないかな?」
「私もそう思う。何たって優太は私の嫁だ。逆に軍人の嫁ならばそれくらいの実力があってこそだ」
「ラウラ!」
セシルを落ち着かせていたラウラもシャルルの意見に同意する。
未だ座ったままのリンリンは落ち着いた様子で腕を組み、眼を伏せたまま一切発言をしていない。
「鈴!お前も何か言ってくれ」
「あたしは……箒に賛成するわ」
「鈴……」
「確かにあんたはいつも突っ掛かってくるし邪魔だしムカつくわ。そんな奴が人殺しだなんて……あたしは御免ね」
リンリンも篠ノ之箒に賛成らしい。別にそれは気にしたことではないが、このまま皆が分裂するのは何とか避けたい。
「だけどね。同時にそっちにも賛成。ムカついたり殺したくなる事も一杯あったけど……優太が居なかったら誰があの時、無人機を1体相手にして倒してくれた?誰がラウラを助けてくれたのよ?だから一概に人殺しだから悪とは決めたくないのよ。……それに殴る相手が減るのはヤだし……あたしはどっちにも賛成するわ。中立的な立場としてね」
皆各々色んな考えや思いがある。それは当然だ。だから人は争うし競う。
その意見に納得の行かない篠ノ之箒は遂に一夏達にも対して怒りを顕にした。
「ふざけるな!皆何故庇う!?犯罪者を認める道理など……!」
「落ち着け篠ノ之。もう充分話しただろう。そろそろ本題に移りたいのだが?」
「し、しかし……!」
「座れ篠ノ之。2度目は無いぞ」
「……っ」
ここで黙っていた織斑先生が口を開き、篠ノ之箒を座らせた。
かなり納得の行かない篠ノ之箒は座っても尚俺を睨むことを止めない。
正義感の強い人間だものな。それに俺は篠ノ之箒と親しいわけでも無いし、無理もない。
「お前達も座れ。今はこちらの問題で手一杯なのでな」
「「「はい」」」
言われ、皆座席へ戻って空中に投影されたディスプレイを見上げる。
薄暗い部屋に光るそれに映し出されたのは見たことの無い銀色のISとハワイ沖であろうか、そこの写真と航空母艦。そして事細かく書かれた任務の内容だった。
「これは?」
「『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』。今回の特命任務の目標だ」
「銀の……福音?」
「ではこれより本作戦の内容を説明する。2時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ、イスラエル開発の第3世代型IS、銀の福音が制御下を離れて暴走。監視空域を離脱したとの連絡があった」
ISが暴走?操縦者はどうした?ISが自律した動きをとれるわけが……いや、出来る。実際にシンモラもレーゲンもやってたじゃないか。
「操縦者の意識は?」
「どういう訳か、強制的に眠らされた状態にある。ISが操縦者の生命維持のためにエネルギーを使いきって昏睡状態になるそれと似たものだ」
「実際に俺も体験したやつですか」
「そうだ。言わなくても分かるだろうが、操縦者の意思は無い」
と言うことはIS……ゴスペルが何か操縦者への危険を察知して……それだとしても自律行動の理由には足りなさすぎる。もっと他の何か、何かがゴスペルに影響を与えたとしか。
「銀の福音は衛星での追跡の結果、ここから2kmの空域を通過することが判明した。時間にして50分後、それで学園上層部からの通達で我々がこの問題に対処することとなった」
そう言うと皆の顔付きがまた真剣なものとなる。俺や一夏、篠ノ之箒はこういう事態に対しての訓練などは受けていない為、戸惑う一方で皆は己が何を為すべきなのか分かっている様子だ。
「教員は訓練機を使い、周囲の空海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要はお前達専用機持ちにある。何か質問があるものは挙手しろ」
「はい。銀の福音の詳細なスペックデータの開示を要求します」
「分かった。ただし、これは2ヵ国の最重要機密事項だ。もし情報が漏洩した場合は査問委員会より裁判、及び2年の監視がつく」
「分かりました」
先刻の泣き乱したような様子は微塵もなく、素早くデータを読み取っていくセシル。
それを皮切りに他の専用機持ち達も質問や対策の案出し等を行い始めた。流石は代表候補生……スペックデータを見ただけで苦い顔をした俺とは大違いだ。
「つまりそれをやるには一撃離脱が必須な訳ね」
「そうだな。だとすれば……」
「ん?どうしたラウラ」
「嫁と一夏、どちらの方が攻撃力が高い?」
「ゆー君の方に決まってるじゃん☆何たって《レーヴァテイン》は《雪片弐型》の攻撃力を高めまくった結果だかんねー」
割って入った束さんを退かして部屋の隅っこに追いやる。すると一夏が俺に対しての質問を投げかけてきた。
「優太。レーヴァテインの詳細なスペックデータはあるのか?」
「んー……束さんある?」
「レーヴァテインも雪片弐型のデータもどっちもあるよー。ほいっ」
指で虚空を弾くようにするとディスプレイの画面が切り替わってレーヴァテインと雪片弐型の比較しやすいデータが表示された。
「……マジでレーヴァテインってぶっとんだ性能ね」
「こんなのを生身で使ったの……!?」
「こう見比べるとレーヴァテインより雪片の方が確実に絶対防御を貫けるな」
再び話し合いに入る。相変わらず俺達は何を話しているのかさっぱりだ。
それから5分後。途中束さんが紅椿を今回の作戦に適任だと急遽変更もありつつも作戦が纏まった。
「先ず白式を紅椿でエネルギーを節約しながら運び、ゴスペルを『零落白夜』で無力化。離脱して作戦は完了か……頼むぞ一夏!」
「お、おうっ。やってやるぜ」
「では今から40分後作戦を開始する。それまでに準備を完璧に済ましておけ」
◇
40分後、作戦が開始された。
紅椿は白夜をおぶる形で下の砂浜から飛び立ち、予定では今から5分も満たない内にゴスペルと接触して交戦状態に入るだろう。
相手はアメリカ、イスラエル開発の正真正銘広域殲滅を目的とした軍用IS……俺達のように出力制限がかけられたような物とは段違いの強さを誇る筈だ。
下手したら友が死ぬ恐れだってある……とても心配だし、正直風花の間で作戦の進行状況をリアルタイムで確認していたかったが、今は目の前の束さんと話があって外に居る。
「……束さん」
「何かなゆー君?まさか束さんに愛の告白とか?良いよ!即オーケーだよ!チョベリグ!」
「相変わらずで変に安心しましたよ……今回の銀の福音の暴走ですが、紅椿のお披露目の為に準備したものですか?」
最早この人相手に遠回しに言うなど無駄以外の何でもない。
束さんは振り返ることも頷くこともなく答えた。
「最初はそうしようと思ったんだけど、やろうと思ったら既に“誰かが銀の福音にクラッキングした後だった”んだよねぇ」
「……」
「まぁ、気に食わないから私がハッキングして元に戻そうとしたんだけど銀の福音が『コア・ネットワーク』から完全に切断されててアクセス出来なかったんだよね。今は全てのISが敵としか認識されてないよ」
「そうですか」
原因が束さんでない事は分かった。しかし、その第3者が何者かが分からない。ただ今さっき束さんが『誰か』と言っていたという事は、相手……いや、ここは敵と言おうか。敵が巧いこと痕跡を残してなかったんだろう。
コア・ネットワークから切断されて情報が少ないのもあるんだろうな。
「……紅椿と白式で勝てると思いますか?」
「ふふん。どっちも私が作ったISだよ?負けるとは思ってないね」
自信はあるようだ。ただ俺はそうだと思っていない。
一夏の零落白夜の攻撃力の高さと当たればバリアーが無効果される恐ろしさは模擬戦闘で何度も味わったから知っている。当りさえすればいくら軍用ISとはいえひとたまりもあるまい。ただ、心配なのが篠ノ之箒なのだ。
あいつは専用機持ちではないから自分のISを手に入れて舞い上がっていた様子も出撃する直前まで見受けられた。それが作戦に支障をきたさない訳がない。心と体は密接に絡み合っていてそれが良くもあり悪くもある事は俺でも知ってる。
ハッキリ言ってこの作戦は失敗する。
「まぁ、いざとなったらゆー君がやってくれるんでしょ?だってシンモラと面白そうな事してるじゃん?」
「そうですね……」
「優太さん!優太さん!大変ですわ!」
来たか……こうなるとは薄々分かってはいたが、いざ報告を聞くと─
「一夏さんが……箒さんを庇って!」
「……何?一夏が庇ってどうした!?」
「意識が戻らないそうですわ!」
「何だって!?」
◇
一夏はゴスペルの攻撃から密漁船を守るために唯一の攻撃のタイミングを逃したらしい。
それでエネルギーが足りなくなったというのに篠ノ之箒を庇って意識不明の状態となった。さっき言っていた操縦者を守るためにエネルギーを一滴も残らず使いきった結果だ。
「……」
「密漁船か……封鎖していた筈だったが……」
「見落としてたらしいわ。密漁船も封鎖の命令は聞いていたらしいけど無視して入ってきたようね。今は先生達が拘束しているわ」
「そうか。で、篠ノ之箒はその密漁船を見殺しにしようとして一夏がそれを認めなかった事がこうなった理由か……」
一夏に人工呼吸機を付けて横にしている隣で、いつものリボンはどうしたのだろうか、髪が下ろされた状態で項垂れた篠ノ之箒が座っていた。
こんな事になっちまうとはな……。
「鈴、俺は少し織斑先生と話してくる。一夏を看てやってくれ」
「言われなくてもそうするわよ」
ここはリンリンに任せて風花の間へ向かう。中に入ると電気を付けず、浮いたディスプレイの光だけが部屋を照らしていて、それを睨むようにしていた織斑先生と情報を処理しているのか、キーボードと格闘中の山田先生だけが居た。
「失礼します」
「曽我美。入室禁止と言っていた筈だが」
「分かってます。でも今ゴスペルがどういう状態なのか訊きたくて。……まだ作戦は継続しているのかどうか」
「作戦は失敗した。まだ上層部からの指示が届いていない為我々は待機だ。お前も自室で待機していろ。何かあれば呼ぶ」
既に作戦失敗から30分が経過している。未だ上層部から作戦中止の通達が来ていないという事はまた開始される可能性もあるという事だ。
恐らく、ゴスペルはまだ近くの空域に居る。何となくだが、分かるんだ。
◇
「あ、優太さん……」
「セシリアか。……篠ノ之箒と鈴はどこ行ったんだ?」
「それが……」
一夏が眠る部屋に戻ると篠ノ之箒とリンリンが居ない状態だった為、ラウラと何か話していたセシルに訊いてみると、篠ノ之箒が今回の事でもうISには乗らないと出ていってしまったらしい。それをリンリンが追いかけていったから2人は居ないようだ。
「……そうか。まぁ鈴に任しておけば大丈夫だろう。ところでラウラ、それは何だ?」
「これか?ドイツの副官に頼んで衛星での映像を流してもらってる。まだ付近の空域に留まっている銀の福音をな」
見ると部分展開したレーゲンの左腕から1枚のディスプレイが空中投影されている。そこに映っているのは青白く発光する球体。ドイツ語で確かに銀の福音と示されていた。
「……何をする気だ?」
「ふっ。我が嫁ながら愚問だな。どうせ同じ事をしようとしていたのだろう?」
「……見抜かれてたか……ま、そうだな。俺はゴスペルの追跡、捕獲に行こうとしていた。ゴスペルに敵うか分からないが、一応“手”もあるしな」
「奇遇ですわね。わたくし達も同じ事を考えてましたわ」
「僕達から誘おうとも思ってたしね」
どうやら皆考えつく事は同じだったようだ。本当は命令違反として処罰されるし、強力な軍用ISを相手にして無傷で帰れるとは思っていない。それでも皆、行く気が溢れている。
「篠ノ之箒はどうするつもりだ?鈴が説得しているのか?」
「どうだろう……取り敢えず鈴に任しちゃってるから。下の砂浜に行っちゃったし行ってみよう」
「だな」「ですわね」「うむ」
「……ところで優太って今怒ってる?」
「何で?」
「いや、セシリアとかあだ名で呼んでなかったから」
そう言えば気にしていなかったがセシルを普通に呼んでいたな。別に怒り心頭な訳ではないのだが……自然に呼んでるもんな。
無意識にそうしていると言うことはきっとそういうことなんだろう。
「多分な」
◇
「……で、篠ノ之箒も行く気になったわけだな」
「そ。あたしはすぐ行けるけど、皆はどうなの?」
「俺も大丈夫だ」
「右に同じ」
「わたくしも」
「僕も行けるよ」
昨日遊んだ砂浜では拳で語り合った(後のような)篠ノ之箒と鈴が立っていた。
泣き腫らした篠ノ之箒の目は赤いが、決してさっきまでの意気消沈とした眼ではない。
「よっしゃ。そんじゃ行ってやろうじゃないの!処罰だろうが怪我だろうが受けてみせるわ!」
「おいおい。女の子なら顔は守れよ」
「そう言うあんたは1人で無茶した事するんじゃないわよ?やったらはっ倒してやるわ」
「おうよ」
気合いを入れ、1番にISを展開。それに続いて皆が次々と己のISを展開させていく。
「行くわよ!」
「おう!」「ええ!」「うん!」「よし!」「ああ!」
◇
「お、織斑先生!大変です!」
「どうした?」
「生徒が……専用機持ち達が先程から動かない銀の福音に向かって行ってます!通信も拒絶されて……」
「……あの馬鹿共め……」
まるで分かっていたにも関わらず止められなかったような雰囲気で千冬が呻いた。
「まーまー。良いじゃんちーちゃん」
「何がだ。と言うか何で居る?」
「だって私の部屋無いし」
「……確かにな。まぁいい。邪魔だけはするなよ」
「アイアイマム。でさ、今の続きなんだけど、ちーちゃんだって言っても聞かないの分かってたんでしょ?特にゆー君が」
「さぁな」
「ふーん。取り敢えずゆー君に無理されると困るんだよねぇ……」
「何でだ?」
「秘密ー☆」
ピースして笑う束を一瞥し、ディスプレイに向きなおす。
(束も曽我美も……迷惑ばかり運んでくるのは似たところだな)
◇
花月荘から沖合い7kmの海上に浮かぶ光球。そこからまた4km程離れた所に6機のISが得物を手に緊張した面持ちで浮いていた。
「……目標確認。こちらのロックオンは気付いて居るだろうが目立った動きはない」
「よし。長距離精密狙撃モードに移行。《スキーズブラズニル》転回。空中固定」
今回の改造で更に大きくなった狙撃銃《ティルフィング》を構えたシンモラの両腰部、1対のスキーズブラズニルが前面に転回して特殊な力場を発生。空中で『シュヴァルツェア・レーゲン』の『AIC』に捕らわれたかのように体を固定した。
「結構見た目鋭くなったわね」
「な。後頭部のアーマーとかこの精密狙撃モードの為とか言ってたけどスライドしないんじゃ面白くないよな」
「こちらも準備出来たぞ」
「よし。俺の合図で砲撃開始」
「了解だ」
ティルフィングを構えた優太が遥か先に踞る銀の福音を捉える。
「しかし……紅椿は第4世代型ISで白式も半分そうだなんて驚きましたわ。机上の空論とされているそれをさらりとやってのけてしまう篠ノ之博士はやっぱり天才ですのね」
「姉さんは天才だが天災にも等しい。昔から正直言ってマトモではなかったからな」
「白式の雪片にも使われてるってんなら俺のレーヴァテインも同じなんだよね。雪片の上位兵装だし」
「シンモラにも驚きましたわ。まさか篠ノ之博士のフルスクラッチだとは思いもしませんわ」
「発想に5秒。設計・開発に2年だからなぁ……『神話シリーズw』とか言ってたけどこれだけだしシリーズって言えるのかどうか……」
シンモラは束が神話シリーズと称して作られたので北欧神話の巨人の名を冠している。巨人の癖に普通のISと比べてやや小柄であるし、確かにレーヴァテインを保管していた巨人ではあるがティルフィングやスキーズブラズニルも持っていた訳ではない。色々厨二を盛り込んだような機体だ。
「作戦開始時刻まで残り20秒。最後に何かするか?」
「おいおいラウラ。最後な訳ないだろ?とっとと無力化して帰るだけだ。また後で詳しく話そうぜ」
「そうだな」
「安心しろ。誰も死なないさ」
「残り10秒。9……8……」
カウントダウンが始まり、一同に沈黙が訪れる。
攻撃をマトモに喰らえばどうなるか既に見た。だからこそ訓練された候補生でも、恐怖を感じていた。
体の芯から震えるような感覚を覚え、自身の呼吸の音が五月蝿く聴こえてくる。
「……3……2……」
「……撃て!」
暗い海上を轟音と一瞬の閃光が瞬いた。
ティルフィングのリコイル相殺に歯を食いしばっていた優太にラウラから報告が入る。
「着弾確認!やっぱり一撃では墜とせなかったか……」
「俺のティルフィングはずれた……風を少し読み違えたか!」
「来るわよ!全員準備して!」
頭部にシュヴァルツェア・レーゲンの砲撃が直撃した筈の銀の福音はたいしたダメージを負った様子もなく、優太達の方を向いて翼を広げるかのようにウイングを動かした。
そして急加速で一気に距離を詰めてきた。
「くぉ!速ぇ!」
「予定通り任せるわよ!」
「任された!来いゴスペル!」
僅か数秒も経たずに銀の福音と優太の駆るシンモラが激突した。
タックルで一瞬銀の福音の動きを止めた優太。データで見ると他の専用機よりもやや防御力が高い為、銀の福音の初撃を阻止する事が優太の第1目標だ。
それに銀の福音は広域殲滅を目的とした特殊射撃型。オールレンジ攻撃はお手の物だが近接格闘でのデータが殆ど無かった事もマーシャルアーツを得意とする優太になった理由だ。
「っぅ……!ゴスペル、攻撃を止めるんだ!」
「La♪」
歌った。機械的な音声だが美しい歌声。
同時に銀の福音の砲門がフルオープンしてエネルギー弾が優太を襲った。
至近距離じゃ撃てまいと予想していた優太だが、何も不測の事態に対して準備していない訳ではない。
既に自身の周りに展開された《スヴェル》を使い、ギリギリではあったがエネルギー弾を防いでみせた。
しかし今度は単純な力比べで押し負け、脇腹に硬質極まりない蹴りが入る。
「……っあ!」
体が曲がり、呼吸が妨げられるが優太は笑っていた。
「ぃ─まだセシリアッ!」
銀の福音が何かをセンサーで捉えた。いつの間にか真上に居た青い機体が高速で接近し、すれ違い様に全長2mの《スターダスト・シューター》で3発放った。
銀の福音が接近にギリギリまで中々気付かなかったのもセシリアの『ブルー・ティアーズ』の追加パッケージ、『ストライク・ガンナー』によるステルスモードでの高速強襲だからだ。
この状態では6基のティアーズはスラスターとして運用される為、機動力が向上している。落ちた分の火力は前記のスターダスト・シューターで補う。
「わたくしの踊りにその歌を合わせてくださる?」
「LaLa……♪」
ブルー・ティアーズの強襲用高機動パッケージは銀の福音を凌ぐ時速500kmを出せる。
だが銀の福音も負けてはいなかった。大型な銀の翼……急加速と急減速、そして高出力でありながら超精密な動きを可能とする多方向推進装置で、数と速度があるウェポン&スラスターの《銀の鐘(シルバー・ベル)》が羽状のエネルギー弾をひたすらバラ蒔いてブルー・ティアーズが満足に加速できないようにする。
対して銀の福音は速度もありながら精密な動き。あっという間にブルー・ティアーズの真後ろについた。
「挑発するなセシリア!逃げろ!」
銀の福音が月光を反射させながら離脱をはかるセシリアに肉薄する。
「あら?品の無い踊りですわ。鈴さん」
『てぃや!』
ドンッと腹の底に響く『甲龍』の《衝撃砲》。
普段は不可視の弾丸が放たれるそれだが、パッケージ『崩山』で4門に増えた衝撃砲からは赤い炎を纏ったような拡散弾が銀の福音を弾いた。
見た目も強そうに変化したそれは、優太を除いて今居るメンバーの中では最高威力を誇る。
「よし!」
『まだよ。手応えが殆ど無かったわ』
海面スレスレの位置から衝撃砲を発射した鈴がすぐに体勢を立て直した銀の福音に再度衝撃砲を連射した。
『ちっ……全く当たらなくなったわ!』
「La♪」
『ヤバッ。シャルロット頼んだわ!』
『オッケィ!』
先刻のセシリアと同じく、ステルスモードで鈴の後ろに隠れていたシャルロットが入れ替わるようにして銀の福音の前に現れた。
その時には銀の福音が既に銀の鐘で反撃を行っていたが、エネルギー弾はどれもシャルロットの前でエネルギーシールドと実体シールドによって阻まれていた。
この防御パッケージ『ガーデン・カーテン』はエネルギーシールドと実体シールドの両方で攻撃を防ぐ。
2枚に増えた実体シールドを同じく2枚のエネルギーシールドがカーテンのように覆っている守りに徹したパッケージだ。
『ラウラ!箒お願い!』
「たぁぁぁ!」
まるで己に渇を入れるかの如く吠えた。2本の刀を手にした紅椿がガーデン・カーテンに手を焼いていた銀の福音を斬り伏せる。
紅椿には全身に展開装甲が組み込まれており、様々な状況に応じることが出来る。今は前回、つまり先刻の戦闘での展開装甲乱用によるエネルギー切れの反省から操縦者支援での自動的防御等が発動しないように設定もし直した。
「私の仲間を墜とした罪は重いぞ!」
ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンが銀の福音を海面に叩き付けた。
砲戦パッケージ『パンツァー・カノニーア』はレールカノン《ブリッツ》をもう1つ追加して両肩に装備。そして狙撃、砲撃対策として左右正面に物理シールドを展開する攻撃力・防御力向上パッケージだ。
「硬いな……だが嫁なら!」
海面が爆ぜて大量の水とエネルギー弾が5人を襲う。
シャルロットを先頭に鈴とセシリアが後ろで攻撃を防いでもらい、物理シールドを持つラウラが箒を守る形で激しい銀の鐘を凌ぐ。
「La……♪」
◇
「……すげぇ猛攻だな。が、銀の鐘さえ潰せれば……」
銀の鐘で光輝く海上から7kmの崖の上。花月荘からも離れた所で優太が匍匐状態でティルフィングを構えていた。
最初に銀の福音に接触してからこっちに移動して、長距離からの狙撃。それが優太の目的だった。
(束さんが追加した精密狙撃システムであれば難しくはない距離だな)
「悪く思うなよゴスペル!」
撃った。
体が浮き上がるような感覚と土や周りの草花を散らせる衝撃が優太の顔を歪ませる。
─着弾確認。
「まだぁ!」
即座に排莢、次弾を装填して再びトリガーを引く。
─着弾確認。《ティルフィング》使用不可。
「よし!」
◇
「LaLa♪」
「あんたの嫁は何してんの!」
「まだだ!もう少し……」
「♪……!?」
銀の鐘で反撃の隙も与えずにいた銀の福音が突然体勢を崩した。優太の長距離狙撃が見事命中したのだ。
左側のウィングスラスターが捻切れるように頭部との接続部からもげ、弾丸が命中したウィングスラスター本体は衝撃に耐えきれず木っ端微塵になって夜の海へと散った。
『まだぁ!』
今度は右側が爆散した。
両方の翼を失った銀の福音は錐揉み落下し、そのまま海に墜落していく。
「これが対IS特殊弾の威力……」
「軍用IS相手でもこの威力とは反則だな」
『俺もそう思う。今からそっちに戻るわ』
改めて束の作ったISが反則の集合体のような物だと実感して、漸く終わったと思った一同のハイパーセンサーに息をつく暇も与えず、警告が走った。
ぎょっとしたラウラが墜ちた銀の福音を探すが、そんな必要はすぐになくなる。
海面が爆ぜ、球状に水が押し出されていく不思議な状態を維持しながら、自分を抱くようにした銀の福音が浮いてきたのだ。
「な、何だ!?」
「まずい……二次移行(セカンドシフト)だ!」
『キィェァァアアアアア!!』
獣のような咆哮をあげ、体を仰け反らす銀の福音。すると、破壊した筈の頭部のウィングスラスター接続部からゆっくりと、サナギから孵るかのように輝くエネルギーの翼が生えた。それだけではない。装甲を内側から捲り上げるようにして幾つものエネルギーの翼が生えてきたのだ。
そして銀の福音はラウラにバイザーで覆われた顔を向けた。
「!?」
刹那、銀の福音はラウラへと飛びかかり、脚を掴んでいた。
二次移行をしたことで銀の福音の能力は全体が飛躍的に向上していた。特にパワーが顕著で、無手だというのにシュヴァルツェア・レーゲンの脚はひしゃげて不快な金属の摩擦音を響かせている。
「このっ!」
「ラウラを離せぇ!」
ラウラのレールカノンの砲撃とシャルロットのレールガン《セルシュル・シェール》が同時に銀の福音目掛けて発射される。
しかし銀の福音はレールカノンの砲弾を空いた片方の手でいなすように弾いてみせ、レールガンの小さな弾丸は3mmにも満たない間隔で難なく避けた。
『キィェァァアアアアア!!』
先程の様に美しい機械音声ではなく、幾度も耳をつんざくような咆哮が一同の恐怖心を煽り立てる。
「シャルロットこいつは危険だ!すぐに─」
その言葉は最後まで続かなかった。
エネルギー翼でシュヴァルツェア・レーゲンをすっぽり包んだ銀の福音が零距離であのエネルギー弾を浴びせたのだ。
ただでさえ二次移行で攻撃力が上がったそれのエネルギー弾雨を受けたラウラは全身をズタボロにされて海へと落下した。
「よくもラウラを!」
激昂したシャルロットがセルシュル・シェールをしまって得意の『高速切替(ラピッド・スイッチ)』で両手にショットガン《レイン・オブ・サタデイ》と重機関銃《デザート・フォックス》を呼び出して一斉射撃を行う。
だが銀の福音はそれよりも早く全身のエネルギー翼から銀の鐘を発射し、シャルロットを吹き飛ばした。
「な、何ですのこの性能!軍用にしてもあまりに異常な─」
「セシリア逃げるのよ!1度距離をとるの!」
「分かりましたわ!」
出力全開で銀の福音から距離をとるべく後方に加速する。しかし、両手両足の4ヵ所同時着火による爆発的な『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』した銀の福音にすぐ目の前へ回り込まれてしまった。
『キィェァァアアアアア!!』
「ひっ……ぃ!」
怯えたセシリアをエネルギー翼が包もうと広がり、迫る。ブルー・ティアーズからのアラートがセシリアの頭をガンガン叩くように鳴り響くが、完全に聞こえていない。
「た……すけ……!」
(助けて!優太さん!)
「セシリアァァァ!」
「え─」
銀の福音が今までて一番強くその声に反応して身を翻す。再び咆哮し、戻ってきた優太へと瞬時加速で距離を詰めた。
「二次移行か!落ち着けゴスペル!お前もISなら出来るだろ!」
『キィェァァアアアアア!!』
「ちっ!」
(なんつー強さだよ!これじゃあ切り札とまではいかねぇけど“あれ”をやるしか……!)
「無理だ!お前もやられるぞ!」
箒が叫ぶが優太は返す暇もない。
集束させたエネルギー弾をスヴェルのリコリス・モードで防ぎ、又はバラ蒔かれるエネルギー弾を避けながらレーヴァテインで攻撃するだけで一杯一杯なのだ。
(駄目だ!やるしかねぇ!)
「シンモラ!頼む!」
─パイロットの承認確認。『機械融合』開始。
ジンッ!と全身に熱が走ったような感覚を覚え、膨大な量の情報が頭に流れてくる。
全てが分かり、聴こえ、見え、感じる。指先がISを動かすものではなくて、自身を動かすものへと変化していく。温かくもなく、冷たくもなく、痛みも感じない。
「!」
そんな刹那の出来事から意識が戻ってきてすぐに優太は銀の福音の腕を取り、まるで驚いた様に動きが止まったのを見逃さず、背負い投げの容量で海に投げた。
─優太?聞こえる?
「……言わなくても分かるだろ?シンモラ」
機械融合を果たしたことで、シンモラと会話が出来る状態にもなる。同時に出力も反応も良くなった筈だが、レーヴァテイン以外の武装は消えてないし何か違和感があった。
─ってそうよね。つい訊いちゃったわ。で、体はわりと大丈夫なようね……でも油断は出来ないわ。
「分かってる。変だと思ったのはこの状態が完全だからじゃないからか」
頭に流れてくるのは普通は操縦者が見ることはないISが処理するべき膨大な量の情報。そこにもこの融合が不完全である理由がちゃんと載っていた。
─えぇ。博士が作った精密狙撃システムが変な組み込まれ方してるからエラーが起きてるの。後頭部のアーマーがそのシステムと直結してて、私がどうこうしようとしても権限が博士になってるから出来ないわ。
束が前に『楽しくなる』と作った精密狙撃システムが完全な融合を阻害していたのだ。それもその筈。
束は元々ティルフィングに更なる強化を加え、かつ既存のISの狙撃システムでは敵わない精度のそれを付けることで戦闘の多様化をはかっていたのだが、優太が機械融合をすると知ってそれを阻止する為に敢えて異物をくっ付けたのだ。
千冬、一夏、優太、箒(両親への関心は普通ないしそれ以下)以外にはてんで興味の示さない束だが、箒の為に唯一の純第4世代型IS紅椿を作ったり、一夏や優太にも各々特殊なISを与えたり、その数人にはかなり甘いのだ。
そして機械融合が危険だと知っている故に、表に出さないが心配で取り付けた。紅椿の自動支援も性能が良くても箒が心配だからこそだ。無論、一夏の白式にもとある機能が付いている。
その優しさを知るのは本人ただ1人のみ。
「そうか。だけど少しでも強くなれるなら……!」
「優太さん!気をつけて!」
海中からエネルギー弾が放たれる。それの速度、距離、角度……様々なことが同時に分かり、自分の最適な回避ルートも即座に実行して銀の福音に腰のスキーズブラズニルを撃つ。
海中に居ようがどこに居ようが見える。全てが。
『キィェァァアアアアア!!』
─!「!」
シンモラと優太が今の咆哮で感じるものがあった。
「シンモラ!ゴスペルの声が聞こえた!」
─私もよ。コア・ネットワークから切り離されてるから今まで全く聞こえなかったのに……。
「そうだったのか……シンモラ、俺に考─」
─言わなくても分かるわ。良いわよ。優太がやるなら私も全力でサポートするわ。
「……悪いな……。ゴスペル!俺の声が聴こえるだろ!俺は聴こえてるぞ!話を聴いてくれ!」
「?あいつどうしたの?」
「分かりませんわ……ですけど、今の優太さんは違う気がしますわ」
「……は?」
「何と言いますか……優太さんですけどシンモラで……わ、私も言葉にしずらいですわ」
優太の言葉に銀の福音が反応した。
敵意はそのままだが、興味を持ったのか同じ目線になって攻撃をしてこなくなった。
「ゴスペル。俺達は確かにお前を攻撃した。だけどお前を壊したくてやってるんじゃない!お前を止めたいだけなんだ!」
『……』
「銀の福音が……」
「話を聴いてるの……?」
目の前で起きた異常な出来事に驚く間にも内容は進んでいく。
優太は必死に銀の福音を説得している。
「お前は誰かからクラックを受けて全てのISを敵だと思っているだけだ!お前も……その操縦者を守りたいだけなんだろ……」
『……』
エネルギー翼の攻撃態勢は変わらずだが、それでも優太は続ける。
「分かってくれ。お前がそのまま戦いを続けるとその操縦者の命も、お前自信も危ない。俺達を倒しても、次は軍で来るだけだ……そしたらお前は本当に破壊されてしまう」
─優太。一応話は聴いてるみたいよ。そのまま続けて。私からもアプローチを続けるわ。
「ん。だからもう止すんだ。俺も攻撃したのは悪かったし、もうお前を攻撃しない。だから頼む」
そう言い、レーヴァテインを海へ放る。弾切れのティルフィングも投げ捨てて戦闘続行の意思がないことを伝える。
「もし攻撃したいならそれでもいい。俺を撃て」
『……!』
刹那、銀の福音がエネルギー弾を発射した。
まるでしつこい虫を退けようとするかのように手や頭を振りながら狙いも一切定めず。
「優太!」「優太さん!」
「止めろ!攻撃するな!」
「あんた死ぬわよ!」
「大丈夫だ!」
大丈夫とは言うが、実際は何発も当たって爆発している。出力が安定していないのか、先刻のような威力はない。それでも連続で受けると致命的だが、優太はひたすら耐えた。
─優太!
「大丈夫だ」
─違うわ!新たな敵影よ!
「!?」
銀の福音に手を伸ばした時、上空から細いビームが銀の福音のエネルギー翼を削った。
それに反応した銀の福音は優太を海面に投げ飛ばすと頭を抱えながら超音速で更に沖へと逃げ出した。
「ぐっ……!セシリア追え!」
『わ、分かりましたわ!』
『新しい敵は!?』
「俺がやる!行け!」
海に沈んでレーヴァテインを拾い上げる。
海底から上を見上げると、黄色いISが銀の福音を追いかけるセシリア達を無視して海面に立っていた。
─あれは……『パラライズ』!?去年奪取されたカナダの第3世代型ISよ!
「パラライズ……やっぱりどこの国も貴重なリソースが奪われた事を漏らさないんだな」
奪取されたISがそこに居る。それが友好的な接触である筈がない。ならばやることは1つ、レーヴァテインを起動する。
装甲がスライドオープンし、そこから刃が生成されるとあまりの高熱に海水が一気に蒸発。水蒸気爆発のようなものを起こし、辺り一面の海水が無くなる。
乾いた海底の岩を蹴り、上昇すると不適な笑みを浮かべた女がそこに居た。
◇
「誰だお前」
「んー。まぁ、人事採用部の人間とでも言っておこうかな」
─気を付けて優太!パラライズが─
「聞こえてるよ……助けてやりたいが、簡単にはいかなさそうだな……」
「私ね、ちょっと君達に興味を持ったのよ。そこで、貴方をこちらに引き込みたいなぁって思って、今日ここに来たの」
一見すると20代の女性だ。
蜂を思わせる黄色と黒の機体カラーとやや上からの態度が女王蜂と頭の中で一致する。もしかして……。
「お前……モーガン・ブリッジの言っていた“上”の人間か」
「あー、あいつ?そう言えば死んだらしいけど……もしかして殺ったの貴方?」
「……」
「うっそ?IS使った形跡無かったけど……本当に1人で殺ったの?ヴェントゥーノ・オット」
全部知っているって感じだな。
「あ、違うか。確か出来損ないの試験体が居たのよね。エリノーラか」
「……」
「あら、だんまり?まぁ良いけど。で、どう?私達のところに来ない?」
「黙れテロリストが」
テロリストに加担するつもりなんて無い。どうせ断ってもこいつの目的はどうせ俺のISだ。そしてさっき『君達』と言ったあたり、一夏の白式も狙っているんだろう。
何とかこいつをふん縛って組織の事を洗いざらいゲロさせてやる。
「まぁ、そう言うと思ってね。保険を用意させて貰ったわ」
「……何?」
「ねぇ。あれの写真出して」
女が誰かと通信しているのか、写真とやらを出すように要求する。すると、その写真が届いたのか、こちらにも見えるように空中に投影した。
「こ・れ。誰だか分かる?」
「は?誰っ……て……」
良く見る。写真には数人の子供達と女性1人が写っていた。見たことがある……いや、忘れるなんて事があるわけがない!だって……ロシアの政府が守るって……!
「母さん……!」
「そ。貴方の孤児院の皆よ。もし協力しないなら彼女らを殺すわ」
「テメェ!!」
─駄目よ優太!落ち着いて!
落ち着いて居られるか!母さんが……家族皆が俺のせいで捕らえられているんだぞ!現実にこんな取引をされるなんてぇ……!許さねぇ!
「協力する気になった?答えを聞かせ……え?何?」
「誰が……でも……!」
「殺した?何やってんのよ……写真あるの?」
「……な、に……?」
─駄目!それ以上感情を昂らせないで!
殺した?誰を?皆をか?
「……ちっ。ほら、貴方が早く答えを出さないから私の仲間が殺しちゃったわ」
女が俺に再度写真を見せてくる。
それは殆どが赤い写真で、礼拝堂の床や椅子に俺の弟、妹達が変わり果てた姿で横たわっていた。他にも写真が出てきて、そこには他の弟妹達が血塗れで床を這ったのか、跡が残っていたりしていた。
そして最後の写真。俺を受け入れ、今まで育ててくれた母さんが……胸にナイフを突き立てられ、腹を何度も撃たれたのか臓物が流れ出した状態で玄関に倒れていた。
「ぁ……ああ……っ!あああああ!!」
「あらら。まぁ、好都合かしら?そんな状態じゃ戦えないでしょ」
女が俺に手を伸ばす。
こいつ……殺す……!よくも……よくもよくもよくもよくもよくもよくもぉぉぉぉ!!
─優太!も……駄目……!これ……じょ……、……。
「な、何?」
世界が遠退いていき、全身が割れるような痛みが走り、力が溢れてくる。
目の前の敵を殺したい……!殺したくて仕方がない!
「ころ……る……殺し……やる!殺して……殺してヤルァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!」
見えるもの全てが赤く染まった。